満足度★★★★
科学的記述から立ち上がる叙情性
ある日の朝の描写から始まり、音や光を巧みに用いて空間的・時間的に様々なスケールの科学的事象を語り、一人芝居らしからぬ壮大さを感じさせる作品でした。
一般的な物語性でドラマが展開するのではなく、水を中心とした科学的なトピックと音楽と物語を巧みに絡め、様々な数字や科学用語の羅列から叙情性が立ち上がっていて、新鮮な感覚がありました。人の一生や宇宙規模の話に展開して行くのがいかにも柴さんらしかったです。
バラバラな系列が最終的にカチッと嵌ってカタルシスを感じるまでには至らないままにさらっと終わってしまった印象がありました。
モチーフとなった太宰治の『女生徒』が直接的に引用または言及されることはわずかでしたが、共通した若々しさやユーモラスな雰囲気が感じられました。太宰の他の作品をほのめかすシーンもあって楽しかったです。
中盤で現れた言葉と音高を関連させる音楽的アイデアが興味深かったのですが、一度観ただけでは終盤でどこまで反映されているのかが分かりませんでした。開演前・終演後のアナウンスも作品に取り込んだ構成が面白かったです。
作品全体としても、今までの作品の精密な作り込みに比べて良くも悪くもラフな感じがあったと思います。映像やセットの使い方が柴さんの旧作と異なる印象があり、新しい作風に移行しつつあるように感じました。
名詞と助詞を切り分けて発声し、次第に音楽的な流れに変化する独特な台詞回しとダンスをこなしながら70分間を一人で演じ切った大石将弘さんは素朴な雰囲気が素敵でしたが、歌唱力がちょっと残念なレベルで勿体なかったです。