きゃるの観てきた!クチコミ一覧

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第三帝国の恐怖と貧困

第三帝国の恐怖と貧困

東京演劇アンサンブル

ブレヒトの芝居小屋(東京都)

2015/03/12 (木) ~ 2015/03/22 (日)公演終了

満足度★★★★

戦争を止めるには・・・
劇団チョコレートケーキの『熱狂』ではナチスの内部から独裁政治から戦争へ向かう話が描かれたが、

ブレヒトによる本作は市民の生活からの戦争を描いている。

訳者は左翼演劇の重鎮であった俳優座の故・千田是也。

ナチスドイツの話ではあるが、いまの日本を思わせる台詞がたくさんあって身につまされた。

心の中では疑問をもっても、監視され言論統制されているなか、息が詰まるような毎日を送っている民衆。

その根底には貧困の問題がある。戦争と貧困はいつも表裏一体。いまの日本も政府のお題目とは裏腹に庶民の暮らしは一向に楽にならない

東京演劇アンサンブルの特徴は、俳優たちが台詞を覚えて稽古するだけでなく、毎回、自身の問題としてテーマにじっくり向き合い思考を重ねていること。

今回も福島の原発に関する裁判や沖縄の辺野古やヘイト・スピーチなど市民の視点で取材してパンフレットにリポートを載せている。

日本とドイツが戦争に向かった経緯や戦後処理などについても、大学の研究者による詳しい解説が年表と共に書かれていて充実した内容になっている。

独裁的な権力者によって国家が戦争へと突き進もうとするとき、市民の立場で戦争を止めるにはどうしたらいいのか焦燥感にとらわれた。

ネタバレBOX

「新聞には本当のことが書かれていない」という台詞が日々、痛感していることだけに一番印象に残った。

街中では親衛隊の目が光っていて、何気ない会話からどうやって反体制的な市民を罠にはめ、あぶりだすかが描かれる。

市民同士も監視し合う。
(日本でも戦時中隣組制度があったが、最近、「隣組制度を復活すべき」と言う政治家が出てきたのは驚く)。

家の中だけでも本音で語り合いたいが、ナチスの教育をうけているので幼い我が子さえ、密告されるのではと疑わねばならない両親。

田舎へ行けば、おなか一杯食べられるのではと夢見る娘を突き放すようにみつめる現実を知る母親。

愛し合っていても、ユダヤ人である妻は夫の身を案じて国を去らねばならない。

「国のために命を捧げよ」と教育される少年たち。

まったく戦時中の日本と変わらぬ抑圧された生活がそこにはある。

オムニバス形式で14場で構成され、俳優は複数の役を演じているが、各場面のつながりを感じさせるところとそうでないところがあるので、

ややスッキリしない思いが残る。

台詞では役名があるがパンフには職名しか書いていないので、できれば役名も併記してほしかった。

終幕、群衆の間に流れる長い白い布はさまざまに連想できるが、私には死者の魂のように書案じられた。

白い布は小さく丸められ、みどりごのように女性の胸に抱かれるが、その布が繭のように女性の体を覆って劇は終わる。

このラストをどう解釈すべきか私にはよくわからなかった。




バリモア

バリモア

無名塾

シアタートラム(東京都)

2014/11/03 (月) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

俳優としての生きざま
残念ながら映画版のほうは観ていません。

暗い内容を想像し、眠ってしまったらどうしようと心配しましたが、始まったらもう演技に釘付けで、すごく満足できました。

「仲代達矢を観る芝居」新聞の劇評にはそう書いてありましたが、まさにそのとおり。俳優としての生きざまをぶつけてくるようなお芝居でした。

私は仲代さんの旧作映画を映画館で観ない月はありません。毎月、何本かはちゃんと映画館で観ています。
映画では、演技の現場は観ることができませんが、私にとっては仲代さんと同じ空間の空気を吸えるだけで幸せというか・・・
次々、好きな俳優さんが亡くなられて、仲代さんには生きて演技していただけるだけでありがたいと思っています。

この作品は、今年の7月に再演されますので、見逃したり興味のある方はぜひご覧いただきたいと思います。

ネタバレBOX

仲代さんが「私が舞台に立って動いてしゃべってるところを見るだけでもいいというお客さんも来るかもしれないんだから」とバリモアの台詞を言うと場内割れんばかりの拍手で仲代さんが照れくさそうにクスッと笑う。それはアドリブなのかどうかわかりませんが。
シェイクスピア役者で映画俳優でもあった点、ジョン・バリモアは仲代さんと重なるようです。違うのはバリモアは名うてのプレイボーイで酒とドラッグにおぼれ、仲代さんは健康を厳しく保ち、愛妻家だったこと。
無声映画からトーキーに変わってからもスターの座を占めた点では田中絹代さんのエピソードを連想します。

劇中、何度も台詞として「それからみなさんもうお気づきかもしれませんが・・・・」と観客に語りかける場面があるのですが、これがまるで仲代達矢さん自身が語りかける自然な感じで、話にスーッと入っていけます。

落ちぶれてもスターの栄光が忘れられず、わがままなジョンですがどこかあ憎めない愛嬌もあり、仲代さんが最近演じる老人役とも重なります

演出もよかったと思います。

バリモアといってすぐ思い浮かぶのは私の場合、映画女優のドリュー・バリモアなのですが、ジョンの孫にあたるそうです。彼女も酒やドラッグに溺れ、そこからみごとに女優復帰して話題になりました。
バリモア家は俳優一家ですがドラッグ一家と言えるほど、ドラッグに溺れてきたんですね。根の深さを感じました。
でも、彼は才能ある家族をとても誇りに思っていたようです。
きっと、自分の人生が映画や芝居になって苦笑しながら観てるんじゃないかなと思います。
死の舞踏

死の舞踏

ジェイ.クリップ

博品館劇場(東京都)

2015/02/17 (火) ~ 2015/02/22 (日)公演終了

満足度★★★★

凄まじい夫婦
前日まで寝たきり生活だったので、観に行けたのは奇蹟というか・・・・(苦笑)。
仲代さんと白石さんのコンビで夫婦役とはぜがひでも観ておこうと珍しく去年のうちに予約しました。
実はリーディング公演と知らずにチケットを予約したのですが、そこは名優だけに普通の芝居に勝るとも劣らない楽しさでした。
演出が映画『日本の悲劇』で仲代さんの信頼も厚い小林政広監督なんですね。舞台の演出家ならまた違う雰囲気になってたかもしれませんが、白石さんの『百物語』もTV演出家の鴨下信一さんだったから、それはまぁ、いいのかな。私が観たのは2日目で、後半を観た記者によれば、仲代さんは後半からエンジンかかってきたとのこと。
台詞の多さに慣れているかただけに、仲代さんにリーディング初めてと言う不自然さは感じませんでしたが82歳でこのチャレンジ精神、頭が下がります。リーディング劇ですが、ラストにフィナーレというか、美しいコスチュームでのダンス場面がありました。

ネタバレBOX

暴君と悪妻、お互いに苦しめあうのが生きがいみたいな凄まじい老夫婦で、最初は夫が女優の妻の美しさに一目ぼれで結婚したようだが、ストレスを栄養にして生きてる様な異常さ。
妻は料理を拒否して、食材はゼロ、よく空腹に堪え、餓死しないなと感心する(笑)。
夫妻は自尊心が異常に強く意地悪で島の嫌われ者らしく、常に他人を見下し、夫妻はコミュニティの中で孤立している。
毒舌を吐き意地悪をしあいながらも、話し相手はほかにいない。

二人の住む島に益岡徹演じる妻のイトコが赴任してきて、空気が微妙に変わってくる。
イトコは二人の間を右往左往してきりきり舞いさせられる。イトコは妻と離婚し娘も手放し独身だが、イトコの妻に離婚をそそのかし、イトコに娘を手放すように仕向けたのもこの夫で、しかもイトコの妻と男女関係があったと知った、人の好いイトコは絶望し、激怒する。
老妻は時にはイトコに気のあるそぶりをみせ、自分の味方に引き入れようとするがそれさえも気分転換に過ぎないと思えてしまう。

益岡徹は無名塾で仲代の弟子にあたり、自然に出る夫婦との距離感のようなものがこの役にはふさわしいともいえるのだが、やはり若さが出て、白石が演じる妻と幼なじみで、仲代演じる夫とも同等に話せる男には見えない。

エンディングのダンス場面でも示唆されるように、険悪な老夫妻は憎みあいながら離婚はぜず、水も漏らさぬ奇妙な連帯感や愛情で結ばれている。この夫にはこの妻、この妻にはこの夫しかいないのであろう。愛憎相半ばと言うにはあまりにも激しい夫婦だが。
二人ともワルだけど、この勝負、最終的にはやはり妻のほうが上手(うわて)だったということになるのだろうか。

十一月新派特別公演

十一月新派特別公演

松竹

新橋演舞場(東京都)

2014/11/01 (土) ~ 2014/11/25 (火)公演終了

満足度★★★★

貴重な二本立て
昨年秋から体調を崩して最近まで病人生活だったのと、コリッチがアクセスできなかったりで、すっかりごぶさたしてしまいましたが、観劇数は少ないながらぼちぼち備忘録がてら挙げたいと思います。
『鶴八鶴次郎』は昔に観た先代八重子と17代目勘三郎の舞台が印象に残っていますが、成瀬巳喜男監督の映画版も好きで特に山田五十鈴には惚れ惚れします。『婦系図』でも共演した長谷川一夫との息がピッタリなのです。芝居でも観たいと思っていた矢先に、中村屋兄弟が初演するというので行くことにしました。
従来の新派公演ならこの二つの演目は昼夜に分けて上演するでしょうが、二つの芸道ものを堪能できる貴重な機会でした。
最近の客席は世代交代したせいか、新派の演目自体知らずに観に来ている年配客もいるようで、名場面にもキョトンとして拍手も来なかったりするので時代の流れを感じさせられました。

ネタバレBOX

冒頭の楽屋での喧嘩で、七之助は腹の虫が収まらず口の中でブツブツ言うところ、このイキが山田五十鈴を思わせ、まだ若いのに感心しました。
実の兄弟だけに呼吸は合うと思う役どころで楽しませてもらいました。ある新聞の劇評では勘九郎は奔放に演じた父に比べ、芝居が理に傾くが彼なりの良さが出たと書かれていました。まだ余裕のなさはいなめませんがこの役は融通のきかなさもある男で、勘九郎は父とはまた違う表現が今後できていくのではと期待しています。
七之助は玉三郎と共通する新派の女形としての可能性を感じさせてくれました。
芸人の悲哀を語る終幕は若い勘九郎にはまだ実感が出せないであろう、というか歌舞伎俳優は盛りを過ぎても名優は人間国宝などになり、哀しい末路は迎えないですむ境遇なので、難しい台詞だとは思います。
ただ、この芝居で感動させられるのは「名人の芸もお客様あってこそ」という川口松太郎の名台詞。最近、この生原稿の写真を見ましたが川口松太郎氏が大切にしていた思いだという。近頃は腕の未熟さを棚にあげ、観客に毒づく若い演劇人にも接するだけに、若い演劇人にも観てほしい芝居です。

 『京舞』は昔、観に行こうと思っていたときに17代目勘三郎が休演したため行かず、生の舞台は今回初めて。前半は八重子の役者子供のようなわがままなおばあちゃまぶりが可愛らしく笑わせてくれるが、舞の場面では八重子と久里子それぞれさすがにきっちりと舞って見ごたえがありました。
『鶴八鶴次郎』では若さが出た感のある勘九郎が、不思議に久里子との夫婦役は違和感がなく、妻の芸を尊敬する夫の包容力が伝わってきました。二人のやりとりを聞いていると、同じく井上流家元と観世流能楽師である当代の八千代さんと暁夫さん(現観世銕之丞)ご夫婦の若いころをみているようでもあり。ほほえましい気持ちになりました。
晩年の毅然とした印象の先代八千代さんにもあんな時代があったんだなぁと。
ナイゲン

ナイゲン

劇団あかぺら倶楽部

TACCS1179(東京都)

2014/07/17 (木) ~ 2014/07/21 (月)公演終了

満足度★★★★

まちがいなく「名作」の域
あかぺら倶楽部もアガリスク・エンターテイメントも両方好きで観続けてきました。客層の違う劇団だけにあかぺら倶楽部のファンは今回「ナイゲン」は初めてと言うかたが多いようだ。私は「ナイゲン」についてはアウェイ気分で配役の違いや客席の反応を楽しみながらの観劇でした。
「ナイゲン」はまちがいなく秀逸なコメディで脚本が抜群に面白い。高校の文化祭のための会議が舞台なので、若い俳優でないと演じられないという制約はあるが、今後、いろんな劇団、俳優に演じてもらいたいなと思える戯曲だ。
ベルばらや忠臣蔵同様、キャラクターがきっちり描かれ、ある意味様式美が確立されているといってもよい。笑いの中にも「学生自治」の問題提起も含んでいて、ほろ苦いラストが私は好きだ。
現役の高校生、大学生にはうってつけの題材であろう。しかし、あかぺら倶楽部のNEXTという若手中心の企画として本作が取り上げられたのはうれしい限り。アガリスクの公演を観て上演を決定してくれた演出の中村伸一さんには感謝したい。
レイ・クーニーなどふだんは海外の作品上演が多いあかぺら倶楽部はやはり勝手が違うのか珍しく台詞を噛む俳優さんもいた。高校生が自然な自分の言葉をつっかえるというのが実際にはありえないので、芝居としては減点だが、かえって新鮮な感じがした(笑)。
私が観たのは2日目だが、これからさらに舞台も客席も弾んでくると思う。

今回、三方+αの変則的客席で、あかぺら倶楽部としては初のリピーター割引も実施、声優さんが多い劇団だけにファン層が厚く複数回リピート前提というお客さんの声がロビーで多数聞かれた。

名作「ナイゲン」を今後ももっともっと多くの人に観てもらいたい。心からそう思う。


ネタバレBOX

わたしが観た回は、アガリスク版のようにドッカンドッカンどよめくような爆笑は起きなかった。
はじめのほうはお客さんも慣れないのかシーンとしていて、一番初めのハワイアンさんの「とんち?」は気づかれなかったほど。中盤から徐々に客席もリラックスしてきて笑いが起きるようになったのが興味深かった。

今回の配役で一番注目したのは吉田智則さんがどの役を演じるのかだったが、アガリスクでは淺越さんの持ち役の「アイスクリースマス」なので大変驚いた。
イケメンさわやか青年の吉田さんがメガネをかけ、理屈っぽく意地悪で淺越さんより怖い感じ、一見吉田さんとはわからない(笑)。
アガリスクにおける淺越さんはいわば黙阿弥の芝居を演じる若き日の五代目菊五郎みたいな存在で、ごく自然に「アイスクリースマス」を演じているが、吉田さんの場合はかなり作りこんでる印象だった。

終盤のアイスクリースマスの著作権クリアの説明場面、たしか、アガリスク版ではアイスクリースマス独りの台詞だったと思うが、私の記憶違いか。今回は「三匹の侍」と「101回目のプロポーズ」のくだりを「おばか屋敷」に当てていた。

ここは一気にアイスクリースマスにたたみかけさせたほうが面白いが、この座組みではこのように割ったほうがよかったのかもしれないと思った。

女性陣は自然に伸び伸び演じていて違和感がなくよかった。監査の北飯智子さんはいつもの印象とまったく違い、アガリスクの沈ゆう子さんが乗り移ったようだった(笑)。

「道祖神」の岡田佐知恵さんの演技には小劇場の若手にはないゆとりが感じられた。

「海のYeah!!」は会議では何となくいい加減そうな態度で、高校生なのに末恐ろしい女ったらしのチャラ男でありながら、中盤のキーパーソンとなる役で、運びが難しく、今回東龍一さんも好演しているが、いかにも自然に演じたアガリスク版の斉藤コータさんの力量を改めて思い知らされた。

「どさまわり」を山口さんが演じるのは座組みから予想がついたが、ふだん老け役も多いかたなので、役柄としては珍しい(笑)。

ゆえに、学生の自主独立性を主張するくだりはさすがの貫禄と声量、説得力があったが、反面、その場の雰囲気が企業の会議でもおかしくないように主張が立派に聞こえてしまうきらいはあった。

アガリスク版の塩原さんの高校生らしい一途な青臭さは得難い。

この芝居、前半は誠実だが付和雷同的で頼りない議長が、終盤で面目躍如、それだけに最後に教室を去る場面が感動的だ。

議長は流れに乗りながら聞き役に徹したがために、実は一番最良な締め方をみつけられたのかもしれないと今回思った。
時をかける稽古場

時をかける稽古場

Aga-risk Entertainment

サンモールスタジオ(東京都)

2014/06/07 (土) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★

「劇団員であること」がネックに
タイムマシンがどんな感じで表現されるのかなと思っていたので、舞台を観て、なるほど!と納得しました。

小劇場系劇団のバックステージものコメディで、私が観た回はマチネということもあり、劇団の俳優さんが多数客席を埋め、うなずきながら「あるあるネタ」としていて笑っている感じが伝わってきました。

そのことが個人的にはもうひとつ乗り切れなかった原因でもあります。

「劇団員」が物語の主役で、「劇団員であること」が物語の「枷」になっている点も否めないのが気になりました。

ネタバレBOX

冒頭のウオーミングアップのゲーム場面が長くて、客席は楽しそうに笑っていましたが、それはたぶん、劇団でよくやっていることだからなのでしょう。

私にはさほど面白くは感じませんでした。


時空移動する劇団員はあくまで同じ時空の劇団員同士で団結してツルむので、話が単純すぎて意外性がありません。

違う時空の劇団員と意気投合したりすれば、混乱も起こり、化学反応的な面白さが生まれるのですが。

「いま一緒に芝居を創っている仲間が最高」というセオリーがあるせいか、それが最後のオチまで一貫してこの芝居を成立させていて、それが感動や共感にもつながるのでしょうけれど、そのことがコメディとしての面白さを薄めてもいる気がしました。

あるかたが、ネットに「インフルエンザにかかった女性劇団員は他のメンバーに先んじて独り過去の時空へワープしたはず」と書いておられましたが、だとしたら、そのとき、過去のメンバーは彼女の異変に誰も気づかなかったのでしょうか?

私は矛盾を感じました。

省略された別の側の場面が気になります。


電夏がやっているように別バージョンを創ってパズル式にスケールを拡げるのも一興ですね。


バミリテープがタイムマシンなので、残量が気になり、観ていてハラハラしました(笑)。
オシラス

オシラス

電動夏子安置システム

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2014/07/08 (火) ~ 2014/07/15 (火)公演終了

満足度★★★★

陪審員制度の限界が見えて興味深い
電夏が得意とするロジックで展開するコメディ。

人は、所詮、自分の経験や主観で物事を見て考えるしかない、だからこそ陪審員たちが話し合うのだが、「十二人の怒れる男」とは逆に、ラストで陪審員制度の限界のようなものを感じてしまった。それは現在の裁判員制度への疑問にもつながる。

コメディとして楽しめるが、ブラックユーモアには偏らず、「ただただ笑っておしまい」にもならないところが電夏のコメディの優れた点である。

今回はあらすじを読んで期待が大きすぎたせいか、私の中では意外に平凡な印象に終わった。

話の構成上やむえないのかもしれないが、冒頭の沈黙時間が長く、そのあと一気に惹きこまれなかったのが残念。

上演時間も1時間45分くらいにして、テンポよくしたほうがよかったのでは。




※私自身かつて日本橋中州に住んでいたことがあるのだが、小伝馬町は神田には近いが日本橋である。

江戸時代の古地図でも小伝馬町は日本橋界隈である。

格別架空の町に設定したとは思えず、なまじ江戸時代の事件の疑似体験を織り込んだ劇だけに「神田小伝馬町」という呼称は気になった。

ネタバレBOX

なしおさんの演じた役が、火事の被害者だと思い込む場面、早くに彼女が「樽」であろうことが推測できるので、見ていてイライラしてしまった。

道井さんがいつも通り、きっちりと運び、キーパーソンで笑わせてくれる。

横島さんが冷静な司会進行役だが、彼の持ち味は明朗なコメディアンぶりにあるので、物足りなさが残った。

岩田さんのちょっと根暗で神経質な変人めいた役どころは定番になりつつあるが、役どころとしてはそうなのだろうが、予定調和に感じてしまい、面白みが半減してしまう。

特に冒頭のペットボトルの差異にこだわるところなど、役の描き方があまり効果的には思えず、わざとらしく感じた。

岩田さんが、子供との面会時間を気にする女性陪審員に同情する箇所があるが、役としてのかかわりかたが脚本上中途半端に感じた。

客演の根津さん、堀さん、杉岡さんが意外に地味な役どころで、もったいない気がした。

「江戸時代の映像体験」が実は全員見えていないのがこの制度自体の狙いなのでは?と思ったが、ラストでくつがえった印象だった。

そこは竹田さんらしい。
「40 Minutes」

「40 Minutes」

TABACCHI

スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)

2014/03/21 (金) ~ 2014/03/24 (月)公演終了

満足度★★★★

テーマ設定と運営には不満も残った
過去に受賞歴がある3実力派劇団がそろい、期待を持って観劇に臨んだ。

観客数に比して会場が広いので、自由席にしてもよかったのではと思いました。

作品と作品の間が暗転のままという感じで終わりと始まりの境目がはっきりしない。

幕も下りるホールなのだから、幕を下ろして装置替えするなり、照明を明るくするなり工夫がほしかった。

3作品で120分だからノンストップでなく、5分くらいの休憩を入れてもよかった。

出場団体は参加が決まった時点では会場は未定なのだろうか。

いつもの小劇場の間合いで作ってる劇団はハコの大きさと演出が合致せず、バラツキが出た。

「サムライ」という共通テーマをどういう考えで主催側が出したのかわからないが、はたして妥当だったのか疑問だ、

現代劇では「絵」にしにくい課題のためか、生かせずにコジツケに感じた劇団もあった。

個別の感想はネタバレで。

ネタバレBOX

チョコレートケーキ


人間魚雷を扱った作品。作品としてのメッセージがはっきりしているし、戦時下の話だけに「サムライ」というテーマもうまくはまっている。

ただ、つくりが小劇場向きで、会話の緊迫感が広いホールでは出ず、台詞も聞き取りにくかった。

戯曲としては秀作なのだが惜しかった。


JACROW


モチーフとなる東電OL殺害事件は有名だが、観客の中には「全然知らなかった」という声もあったので今回のように状況説明はあってよかったのかもしれない。

事件自体、冤罪が発生し、真犯人不明のままで、被害者の奇異な行動にも疑問が多く、短編にあえてこれを選ぶ真意が観ていてわからなかった。

また、実名を使い、公表事実以上のことは出さないので、事実に寄りかかりすぎ、未解決事件を演劇仕立てで説明しましたという印象を超えない。

実名にする必要があったのか。仮名にしても演劇は成り立つし、亡くなった被害者への配慮がほしかった。

むしろ仮名にして大胆な解釈をするなり、工夫がほしい。

せっかく蒻崎今日子と谷仲恵輔を起用してるのだから父親と娘の関係により話を絞ったほうがわかりやすかったのではないだろうか。

当日パンフレットには岡田以蔵のことは出てないし、舞台上にも固有名詞は出てこない。

あえて幕末の「人斬り以蔵」になぞらえて結びつけるなら、もっと説得力ある丁寧な描写が必要だ。

正直、東電のこの女性から私は岡田以蔵との共通点は連想できなかった。

父親に殉じることがなぜ売春になるのか。

第一岡田以蔵のことを知らない観客には何も伝わらないのではないのか。



電動夏子安置システム


テンポよくコンパクトなシチュエーションコメディを見せてくれた。

役者の持ち味も生かせてるし、得意のロジックの面白さや起承転結がきちんとできていて、作品の完成度からいえば、3団体の中でダントツ優れている。

だから1位に選ばれたのは納得できた。「自分のことばで語れない政治家」への痛烈な皮肉だが、この芝居も「サムライ」は後付けに感じた。





星ガール

星ガール

多少婦人

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2014/02/13 (木) ~ 2014/02/17 (月)公演終了

満足度★★★★

SFものとしては良い出来、成長を感じた
多少婦人は等身大の日常生活の人間観察をもとにした作品が特徴であるが、作・演出の酒井さんは学生時代は近未来の

不条理劇風作品をやっていたので、彼はこのジャンルは好きなのかもしれない。今回、ひさしぶりに昔の酒井さんに再会できたような懐かしい気持ちで観た。

テーマがはっきりしていて、会話も多少婦人らしい面白さが出ていて、私が観た多少婦人発足以来の酒井さんの作品の中では一番よくできていたと思う。

というのも、オムニバスが多い多少婦人のスタイルは酒井さんが学生時代に作っていたものとは少し違うので、普通のコメディ作品を多少婦人のテイストで書こうとしたときにうまく収まりがつかないところがある。そこをどう克服するかという点を今回興味深く注視したのだが、なんとかクリアできたと思う。

人間社会は個性や欲望がぶつかりあい、軋轢を生む。それが長期間の密室空間ではなおさら助長されるのでスムーズに航行がなされるよう、欲望抑制の薬を使ってみたらどうなるか。

欲望はエゴという悪も生むが、互助や調和も生む。「極限まで抑制すると呼吸さえできなくなる」ということを見せ、「欲望の効果」にも思いをはせられる作品だ。

なまじ困難が現れてみんなで一致団結する方向にまとめなかったのは良いと思った。
難が残ったのは前半。多少婦人風のだらだら会話が続くので、途中で疲れてしまう。

体感時間が長く感じられ、あと10分程縮めてメリハリをつけたほうがよかったと思う。

今回は舞台美術も凝っていたし、キャストも以前とは替わり、なかなか面白い個性の持ち主が揃っていた。


ネタバレBOX

酒井さんは人間観察が好きなんだなぁと思う。

女性特有の見栄や皮肉の応酬など、男性の冷静な目でリアルに描いている。

ジャーナリスト役の山本しずかが「真実を追求する」と言いながら「面白く見せればいいのよ!」という本音を叫ぶ場面、以前「朝まで生テレビ」放送中に

「もっとまじめに討論したほうがいい」と言う大学生のスタジオ見学者に向かって田原総一朗がぶつけた仰天発言とそっくりで妙に感心した。

山本の演じる谷は劇中で目立つ服装を指摘されるが、ジャーナリストと言いながらバブル期のTVリポーターのようでもあり、リアルだ。

(当時の女性TVリポーターは本番直前まで自分がどう映るか服装とメークばかり気にしていた)。

谷は真実など真面目に考えていない人なのだろう(苦笑)。

油井役の大浦孝明、鬼塚役の田坂智史、男性陣のキャラクターが生きていて面白かった。

それに比べて村上俊哉の金井役はしどころが少なかったように思う。

みかんの副館長も彼女のすっとんきょうでトボケた個性が今回は生かされない役どころで少し物足りなかった。

酒井の演じる事務官の食べ物に対する執着ぶりが可笑しい。

この人の真面目にやって可笑しい演技が私は好きで、他劇団の客演でもいつも観客からの評価が高いようだ。



母をたずねて膝栗毛

母をたずねて膝栗毛

松竹

新橋演舞場(東京都)

2014/02/01 (土) ~ 2014/02/25 (火)公演終了

満足度★★★

小劇場コメディ風松竹新喜劇?
多彩な顔ぶれなので、たまには商業演劇もよいかと思い、気鬱気味でもあり気分転換を兼ねて観に行った。

中村獅童の喜劇的素質を確かめる意図もあったので。

獅童の父の小川三喜雄さんは、東映のプロデューサー時代、中村錦之助、賀津雄兄弟のために沢島忠監督と組んで「殿様弥次喜多」というコメディシリーズをヒットさせた実績がある。

藤山直美といえば、この季節は、かつて中村勘三郎とともに「浅草パラダイス」などのコメディを演舞場で上演してきた。

今回のこの芝居の私の印象は小劇場コメディ風松竹新喜劇だった。

松竹新喜劇は笑いの中にも一本筋が通った作品が多かったが、本作はそのレベルまで達していない。

系統的には「雲の上団五郎一座」に近い。

初日ではないが、道具転換で舞台装置が不具合が起き、幕が下りて芝居が中断したのは残念。

抱腹絶倒というほど笑えなかったし、パッチワークというか有名な役者さんたちのかくし芸大会といった趣だ。

軽い話の中で水谷八重子と市村萬次郎がさすがの貫禄をみせ、それだけは一見の価値があった。

ネタバレBOX

幕開きの歌とダンスが昨今の小劇場コメディのオープニングみたいで、既視感があった。

「瞼の母」と「傾城阿波の鳴門」の登場人物と同じ役名が出てきたり、歌舞伎によくあるお家騒動を混ぜ、名場面を借用した弥次喜多風のつくり。

何となく即席時代劇コメディみたいで安っぽい。

奥田瑛二の謎の浪人は昔の東映の沢島忠作品で東千代之介が演じた設定に酷似しているが、彼よりも高利貸しの手代の巳之助のほうが隠密的役割をはたしているのが腑に落ちない。

派手な衣裳とメークをしているときの巳之助は母親の寿ひずるの宝塚時代にそっくりで、おちゃらける演技など「イーちゃん(寿の愛称)の宝塚愛読者大会の寸劇」を観ているようで個人的には楽しませてもらった。

「瞼の母」の忠太郎は最近は本興行で何度か獅童が演じているだけにパロディのようだが、八重子のおはまとともに本興行で観たくなる。

獅童の忠太郎が魚屋というのも彼の父と叔父錦之助、沢島トリオの「一心太助」を思わせる。

獅童がクネクネして甲高い声をあげるばかりで、喜劇の演技としてはいただけない。

寛美時代の松竹新喜劇の看板女優だった大津詩子(旧名:十詩子)が阿波のお弓役で新喜劇の味を出す。

藤山直美は堂に入った座長ぶりだが、彼女には引き出しだけで演じられる役で物足りないのではないか。

「親はなくても子は育つ」というキャッチフレーズの繰り返しがありきたりで、人情ものの感動が薄い。
直美も獅童も親の力を借りずに頑張っているアテ書きか。

市村萬次郎のお縫の方は時代に張って言うところ、世話にくだけるところ、さすが菊五郎劇団という感じだが、フィナーレで楽しげにダンスを踊り、歌舞伎では見られない姿。

初春歌舞伎公演「三千両初春駒曳(さんぜんりょうはるのこまひき)」

初春歌舞伎公演「三千両初春駒曳(さんぜんりょうはるのこまひき)」

国立劇場

国立劇場 大劇場(東京都)

2014/01/03 (金) ~ 2014/01/27 (月)公演終了

満足度★★★★

復活通し狂言の意義を感じさせた力作
国立も正月らしい繭玉が飾られ、華やいだ初春公演。

国立劇場の文芸研究会による復活通し狂言はいつも楽しみだが本年は午年にちなみ、面白い作品がかかった。

辰岡万作という狂言作者も私は「馬切」以外知らなかった。

現代の新作歌舞伎ではなく、こういう作品を掘り起こし脚本を研究するのは、一から新作を作るのと同じ労力がいるが国立劇場だからこそできる大事な仕事。
橋下大阪市長などは、そういう点を理解していないのが歯がゆい。

尾上菊五郎を座頭に、中村時蔵が立女形、若女形と二枚目を兼ねる菊之助、二役の尾上松緑、坂東彦三郎はじめ山崎屋や橘屋など羽左衛門のところの三兄弟と息子たちがそろう。

伸び盛りの尾上松也の若衆ぶりもみずみずしい。

今回は五幕物にまとめてあるが、原作は8幕もあり、お家騒動も今回は二派対立だが、原作は三派対立だという。

江戸時代の芝居の筋は本当に複雑だったのだなぁと感心する。

現代では江戸時代の通し狂言を原作に近い形で堪能するのはまず不可能である。

そう思うと、少しさびしい。

本作は文楽でも上演できる作品ではないかと思う。

せっかくの暗転からの幕開きに隣の中高年男性がぎりぎりに着座してメールチェックをやめず、明かりが気になっていらいらした。

おまけに幕切れの手ぬぐい撒きでは、私の靴の上に落ちた手ぬぐいを体当たりでぶんどる。

こういう無粋で行儀の悪い自分勝手な客が近頃増えてきてうんざりする。



ネタバレBOX

幕開きがまるで天竺徳兵衛や国姓爺合戦みたいに異国高麗の浜辺。

菊之助は、高麗の照菊皇女と立ち役の大工与四郎を替わるが、照菊が、やつしのやとな、使者の菊の前や傾城に化けるので女形だけでも4変化。菊五郎一座のこの正月公演が毎年いろいろ冒険できるのも、菊之助の存在が大きい。

菊五郎の信孝は松平長七郎の見立てだが、鷹揚な若殿ぶりがこの人らしい。

馬切の立ち回りは菊五郎劇団らしく楽しませる。

松緑は実悪の勝重と双子の弟で実直な田郎助と正反対の二役を替わる。

時代物の台詞がこの人の課題だが、時蔵を女房役にしてもつり合いがとれる役者になってきた。

新作(かきもの)にせよ、古典にせよ、世話物のほうが似合う気がする。

時蔵は武家の女房の性根を見せる浅葱の石持の衣装になってからがいい。

亀三郎が敵役を手堅く演じられるようになり成長した。

釣り天井の仕掛けや、二階を使った二人腹切りなど趣向を凝らした舞台装置で楽しませる。

しばらく見なかった市村竹松は学業に専念したそうで昨年大学卒業して舞台復帰したとか。この年頃だったころの父親の萬次郎そっくりで驚いた。

萬次郎は町内の女房おしげで昔の菊次郎のような役どころをやるようになった。

権十郎が今年還暦で、私と誕生日が近く、お互い20になったばかりのときに話したあれからもう40年がたったのかと感慨深い。

本当は萬次郎が大学に行きたかったが、羽左衛門の意をくんで断念したと権十郎から聞いたが、竹松君はお父さんの果たせなかった大学生活を送れたのだなぁと思ったりして、役者と一緒に年を取るのも歌舞伎の楽しさかもしれない。




平成25年12月歌舞伎公演「主税と右衛門七」「弥作の鎌腹」「忠臣蔵形容画合」

平成25年12月歌舞伎公演「主税と右衛門七」「弥作の鎌腹」「忠臣蔵形容画合」

国立劇場

国立劇場 大劇場(東京都)

2013/12/03 (火) ~ 2013/12/26 (木)公演終了

満足度★★★★★

バラエティ豊かで楽しめた外伝
歌舞伎座の本家「仮名手本忠臣蔵」に対し、国立は忠臣蔵外伝ともいえる三作を並べたが、どれも外れなしの年の暮れらしい好企画で楽しめた。

吉右衛門を座頭に、その親戚である芝雀や歌六・又五郎兄弟、錦之助と一門の若手゚がそれぞれ活躍の場を与えられた。

そのルーツは三代目中村歌六で、その子息の初代吉右衛門や子福者の三世時蔵、17代目中村勘三郎の3兄弟が今日歌舞伎界全体の中でも層の厚い人材の基礎を築いたわけだから感慨深い。

今回、吉右衛門は初役で「弥作の鎌腹」に主演したが、これは初代吉右衛門から17代勘三郎へと受け継がれてきた演目。

先年亡くなった18代勘三郎は、初代吉右衛門譲りの父17代目勘三郎の当たり役を受け継いでいたので、この役も吉右衛門から勘九郎にいずれ伝えてほしいところだ。

意外なようだが、映画俳優だった初代錦之助は初代吉右衛門の芸風を大切にし、17代目勘三郎や先代又五郎が生前から高く評価していたという。

初代錦之助が収集した膨大な歌舞伎関係の蔵書は播磨屋と萬屋の若手たちに譲られ、研鑽に活用されている。

「主税と右衛門七」は、その初代錦之助と親交が深かった脚本家の成澤昌茂の作。初演は松竹の大谷竹次郎会長が東映の錦之助映画を観て若き脚本家も成澤を気に入り、新作歌舞伎を依頼し、当時まだ10代の現幸四郎と吉右衛門兄弟が演じた。ここにも初代錦之助と梨園の子供たちの絆がつながっているのだ。

ネタバレBOX

「主税と右衛門七」 家老、大石内蔵助の嫡子である主税(隼人)と、軽輩の家に生まれた右衛門七(歌昇)。右衛門七は主税の口添えで前髪の若輩ながら義士に加わったが、父も母も自害した犠牲の上に右衛門七の願いはかなったのだ。

討ち入りを目前に、主税は死への恐怖と生への未練が胸をよぎり、自分が口添えしたために右衛門七を討ち入りに追い込んだのではと問う。

右衛門七を一途に恋い慕う商家の娘お美津の米吉が可憐でいじらしく、新歌舞伎の女形の声色とも違い、女子高校生のように自然な発声が新鮮。思いを受け止められずに本心も告げられぬ若者の苦悩と哀れさを歌昇も的確に表現。

隼人の主税はお坊ちゃん育ちらしい無神経な残酷さものぞかせる。歌六の内蔵助が若者の心の揺れに理解を示しながらも武家の厳しさを諭す包容力をみせた。

「弥作の鎌腹」  初代のような愛嬌がないと言いつつ、どうして吉右衛門は愛嬌と哀れさを兼ね備えた初役とも思えぬ堂に入った演技。

弥作の弟、弥五郎の又五郎が義理と忠義の板挟みをじっくりと演じ、百姓ながら兄を敬う心根を丁寧に表現。

「忠臣蔵形容画合」 忠臣蔵七段返しということで、仮名手本の大序から七段目まで名場面を舞踊仕立てで見せる。

大序の若狭之助、判官、師直から三上戸の三人奴に変わり、又五郎、歌昇、種之助親子三人で楽しく踊る。

歌六の与市兵衛と定九郎の早変わり、米吉、隼人の美しいおかる勘平、歌右衛門の面影を残す魁春も顔世、冨十郎の口跡のよさをしのばせる鷹之資の力弥。

六段目と違い飄逸なおかやの東蔵と盆踊りに興じる純朴な百姓の歌昇、種之助。仮名手本の七段目でも同じ配役を経験している錦之助の平右衛門、おかるの芝雀が人形振りで演じ、吉右衛門の由良之助が最後に登場して引き締め、幕が下りる。






犯行予告

犯行予告

劇団肋骨蜜柑同好会

サブテレニアン(東京都)

2013/12/20 (金) ~ 2013/12/23 (月)公演終了

満足度★★

観念的で消化不良感ぬぐえず
今回も会話劇だと言うので、「つぎとまります」の充実度を期待したが、前作の「ま・ん・だ・ら」に共通する消化不良感がぬぐえなかった。

入れ子構造のアイディアは面白いが、私には成功しているとは思えない。

「不条理劇をめざしているのではなくあくまで結果」と作者は言うが、不条理劇としてどうか云々よりも、表現力をもっと磨かないと、訴えたいことが明確に伝わらないと思う。

「わかる人にはわかるはず、自分はちゃんと説明した」という姿勢を貫くなら、「そうですか」としか言えないが。

「大切なものは人それぞれ違う」ということと「人はみな自分の真実の姿には気づいていない」ということが主題なのだろうか。

まちがっているかもしれないが、私にはそうとしか解釈できず、「ま・ん・だ・ら」同様、観念的な作品に思えた。サスペンス仕立てにしたことで、サスペンス部分に不満が残るため、入れ子効果が分離しているように感じられた。

息詰まるような会話劇を期待したが、みごとにアテがはずれた。

不条理劇は理詰めで見るものではないが、観念的な台詞を入れてくるので中途半端になり、主題がぼやけてしまう。

ネタバレBOX

まず、冒頭の御手洗と山田の会話が私にはまったく退屈で、会話の「間」が悪く、魅力を感じなかった。

御手洗の「えー」というリアクションが判で押したようで、しかも、演技の「間」が作者のフジタ氏の特徴が出ているので、フジタ氏の考える「間」なのだろうが、それが役者の肉体と合致していないのが気になった。

ツンデレ娘の山田とのやりとりもパターン化されて面白みがない。


怪盗キースにまつわる部分の舞台が設置されていく場面は面白く、音楽と共にそこだけが印象に残った。

いざ、サスペンスが始まると、キースの周囲の登場人物が「ま・ん・だ・ら」同様、ばらばらに拡散されていて、ただの点景におわっているように思える。

伏線らしいものがあるが、人物が単なる駒のようで、有機的に結びついて行かない。

警備の黒澤はなぜ、宝石商を殺したいほど憎んでいるのかわからないし、宝石商への殺意を告白されても、神田川刑事が殺さないように念押しするだけで、その部屋から出て二人だけにするなど、警察の対応としては現実にありえないからしらけてしまう。

宝石商にイチゴをもらって食べた黒澤が部屋を出てからうめいたので、毒でも入っていたのかと思ったら、平然と戻ってきたので、何のうめき声だったのか私にはわからなかった。

妻子と別居している神田川も宝石商親子のぎくしゃくした親子関係に想いをいたすわけでもなく、娘がキースにキャンディを盗まれた設定が生きてこない。

ラストに、バニティケースからキースの盗品が出てきて、神田川が御手洗を逮捕しにくるが、それでは御手洗が自覚のないキースなのか?

でも、バニティケースは山田の所持品なので、解釈に迷う。

なまじ暗示や比喩を入れるのでわかりにくいのだ、不条理劇とさえいえない中途半端な劇だと私は思う。

難解な不条理劇で100%理解できなくても楽しめる秀作はある。私が不条理劇が苦手というわけではない。歌舞伎など優れた不条理劇の典型だ。


治天ノ君

治天ノ君

劇団チョコレートケーキ

駅前劇場(東京都)

2013/12/18 (水) ~ 2013/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

群を抜く力作
明治と昭和に挟まれた大正と言う時代をまさに象徴する存在としての大正天皇の生涯を描いて、秀逸な脚本。

作者の古川氏の、過去の歴史と時代への鋭い洞察力と着眼、的確な作品化には、演劇の持つ社会的役割という点でも、毎回敬服させられる。

大正天皇の伝記を読んで一番印象に残るのは、その責任感の強さと父である明治天皇への尊崇の念の強さであり、それは本作でも余すところなく描かれている。

ここでは描かれていないが、健康に恵まれない中、過酷な軍事教練にも率先垂範で耐え抜き、深夜も読書にいそしみ、軍事指導教官を尊敬して従順だったという。

太平洋戦争中に強化された「御真影」が最初にクローズアップされたのも大正時代であり、関東大震災や火災における校長や教師たちの死守するあまりの殉職を美談として形成されたのも大正時代である。

ために、病状が進み、身体の自由を失ってから、大正天皇の公式の場での撮影がなされなくなったのも関係している。

大正デモクラシーに代表される自由清新の息吹に満ちた大正天皇の御代が、先帝の示した理想と威厳、富国強兵の政策に抑圧されていく悲劇が戦後を生きる我々の胸に強く迫る。

民情視察の観点から自ら強く要望した大正天皇の「行幸」が、太平洋戦争を経て、人間宣言のもと、敗戦後の全国を行幸した昭和天皇の思いへと連なる。

昨今、ネットでは「昭和天皇は人間宣言すべきではなかった、日本の天皇は現人神である」という若い人の意見が当然のように書かれていたりするので、いったい、いまはいつの時代かと錯覚してしまう。

天皇の神格化についても考えさせられる内容だった。

ネタバレBOX

配役を生かし、作品のテーマを一段とわかりやすく見せてくれる日澤氏の演出も良かった。

語り手の皇后役に紅一点、松本紀保を起用したのも成功している。

持って生まれた気品、気高さを表現する難役だけになかなか一般の劇団には適任者はいないと思う。

夫、大正天皇とは異なる方向性を持つ息子をも母親の大きな愛で包みこむ場面に心打たれた、

大正天皇の良き助言者、理解者であった有栖川宮の存在に、ふと故高円宮さまと現皇太子さまのエピソードを重ね合わせてしまった。
東京暮色-映画「東京暮色」から-

東京暮色-映画「東京暮色」から-

立教大学現代心理学部映像身体学科・松田正隆クラス

立教大学新座キャンパス(埼玉県)

2013/12/21 (土) ~ 2013/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★

解体し再構成して見えてくる小津のシナリオの秀逸さ
立教大学の授業の一環として学生たちによる上演である。

ちょうど、神保町シアターで小津安二郎の全作品上映特集が開催中で、「東京暮色」も折よく上映され、

数年ぶりに家人と鑑賞して、この上演にも同行した。

ほのぼのと家族を描く穏和な小津監督には珍しく、悲劇味の濃い作品である。

地味な内容だけに舞台化したら、どうなるのか、興味があった。

映画は2時間を超えるが、1時間35分にまとめてある。

シナリオを解体して立体的に再構成していく点が興味深かった。

正直、映画を観ていないと細部などはわかりにくいかもしれない。

この公演で改めて、小津のシナリオの巧さ、それに命を吹き込んだ名優たちの演技力を思い知った。

脚色・演出の松田正隆氏は、小津の台詞は変えずに上演している点に好感をもった。

会話劇を手掛ける小劇場の若い現代演劇作家には、小津の脚本から学べることは多いと思うので

ぜひ、小津の映画を観てほしいと思う。

授業ではこの前にギリシャ悲劇を上演しているので、同様に普段着で現代劇をと、選んだそうである。

松田氏は「東京暮色」とギリシャ悲劇の共通点を感じたという。

演劇化してみると、確かにそんな印象がある。小津を尊敬する後輩の吉田喜重監督もギリシヤ悲劇を意識した作品を手掛けているので感慨深かった。

ネタバレBOX

笠智衆の演じる父親の独特の台詞の間が、この劇でも生かされている。

全体に、学生の演者たちは棒読みに近い平板な台詞のしゃべりかたをしていたが、笠さん自身が棒読み的なセリフ回しなので、違和感がないのかもしれない。

映画では叔母役の杉村春子の達者な演技が印象的だが、何気ないセリフを杉村が生き生きとしゃべることのすごさを改めて感じる。

事務員にお手洗いの場所を聞いて、小走りに急ぐ場面もカットなしに上演されたが、学生はただ走っているふうにしか見えないが、

杉村さんは、それまでトイレを我慢していた女性の和服姿らしい走り方をしているのが憎らしいほどうまい。


映画で中華屋の店主、藤原鎌足が驚いて酒をこぼす場面、若い観客からも同じように笑いが漏れた。

一方、店の名前を看護婦に念押しする場面などは、映画ほど可笑しく聞こえないので、観客は笑わない。

ここなども、親切そうでも、店主の商売人らしいちゃっかりした一面が出た台詞なのだが、さすが藤原さんの味なのだろう。

山田五十鈴の実母が原節子の姉娘を心待ちに汽車の窓の外を気にする場面(結局、娘は見送りに来ない)も、学生の演技には映画のような哀愁は感じない。

妊娠中絶した後に事故死した妹のさみしかった気持ちを父親とふたり、おもいやりながら、姉娘が離婚を思いとどまることを父に告げるラストが、演劇ではよりくっきりと迫ってきて、シナリオの秀逸さを改めて感じさせてくれた。

学生さんたちには事前に映画を見せたのかどうか松田氏に尋ねたら、「けっこう、みな個々に観て知っていたようです」とのこと。

個々の普段着で演じるのはかまわないとして、父親がネクタイを結ぶ場面など、赤のチェックのシャツではなく、白いシャツを着て実際にネクタイを結べばもう少し、自然に見えるのではないかと思った。

見合い写真は台紙に貼ってあるものなのに、まるでスナップ写真を視るみたいに、掌でペラペラ扱うのも気になった。

また、長テーブルを遣うのであれば、もう少し活用してもよい場面もあったと思う。
ア・ラ・カルト2 ~役者と音楽家のいるレストラン Final

ア・ラ・カルト2 ~役者と音楽家のいるレストラン Final

こどもの城劇場事業本部

青山円形劇場(東京都)

2013/12/06 (金) ~ 2013/12/26 (木)公演終了

満足度★★★★★

四半世紀が過ぎた実感
この企画も今年で25年、青山円形劇場の閉鎖に伴い、今回が最後と言うので、久し振りに出かけた。

私は第一回から数回観ている。

90年代初頭に小劇場劇団の活動を紹介する仕事をしていた時期に、遊⦿機械/全自動シアターの芝居を観て、私の現代演劇アレルギーが払しょくされたともいえる。

ご贔屓劇団の劇団員から偶然「遊⦿機械/全自動シアターが好きだった」と聞くと、そういう好みをいまも引きずっているのかもしれない。

白井晃・高泉淳子のコンビが私は大好きだった。

高泉との方向性の違いからか、白井晃、陰山泰も年一回は出演していたア・ラ・カルトからは外れてしまって久しい。

白井晃はもう売れっ子演出家・俳優で、昔のように女装しておバカなコントなんかやれないのかもしれないが、私は小さな劇場で公演して終演後も出口でペコペコお辞儀していた二人の無名時代を懐かしく思い出しながら今回も観ていた。

二人が別々の活動をしていても、この作品だけはライフワーク的に二人一緒に25年が迎えられたら、もっとよかったのにと思わずにはいられない。

「ア・ラ・カルトはマンネリ」という声も含め、ネットでの高泉への批判を私も読んでいたが、才能ある人だけに、白井晃と組まなくなってから、普通の演劇活動からは遠のいてしまったのは残念。

出てくるキャラクターや構成は変わらないのに、初期の頃の若い観客ばかりで会場が揺れるような爆笑は消え、みなおとなしく観ているのが歳月を感じさせた。

中西俊博のヴァイオリンだけはずっと高泉に寄り添ってきたのが忘れられない。

ネタバレBOX

私は高泉演じるところの「見栄っ張りで、背伸びしてもワインの知識がスカスカ、でも、愛すべき人物のおじさん」タカハシさんが好きだ。

彼女の繰り出すエスプリのきいた皮肉っぽいギャグが私にはツボである。

それは宇野千代のパロディと言われた老女役にもいえる。

「年をとること」に笑いをちりばめ、力を与えてくれる。


インテリ女史風の中年女性は、どこか有吉佐和子風の才女である。

相手役を務めた中山祐一朗が若き日の白井晃の面影を感じさせた。

ゲストの春風亭昇太へのさりげなく鋭いつっこみも笑いを誘う。

彼がトランペットがうまいのには驚いた。

高泉の歌唱力を「素人の自己満足」と酷評する人も少なくないが、たしかに彼女は女優であり、歌手ではない。

「歌舞伎俳優の踊りと日本舞踊家の踊りは違って当然で、歌舞伎俳優は技巧的にうまく踊るだけでは意味がない」と言われるが、「ア・ラ・カルト」にも同じことが言えると思う。

歌っている高泉が魅力的ならそれでよいのである。


ま・ん・だ・ら

ま・ん・だ・ら

劇団肋骨蜜柑同好会

王子小劇場(東京都)

2013/09/19 (木) ~ 2013/09/23 (月)公演終了

満足度★★

不条理劇でも・・・
物語の構成が「作家、フジタタイセイさんの失踪から始まる」、これがテーマにもなってるそうだが、同行した家族がフジタさんのツイッターのフォロワーで、いつも「死にたい」とか「消えてなくなりたい」とか心配なことばかり書いてるし、この数日、ツイートもボット化し、配役表の名前が消えてたし、本当に失踪したと思い込んだ。

家族は真面目な性格なので私がフィクションだと説明しても信じてくれず、「嘘や冗談であんな不謹慎なこと言うはずない」と帰路、口論になり、とても後味が悪かった。

劇場を出て心配なのですぐフジタさんにDMまで送ったそうである。

家族には最後に出てきた釣りの男がフジタさんだとわからなかったのだ。顔がよく見えなかったので。

作者の狙いはわかるが、それなら劇を観てる間だけの「嘘」でよいのではないだろうか。

口上で「どんな些細な情報でもかまいません。何かご存じでしたら、終演後でもけっこうですから受付のものにお知らせください」とまで言うということは失踪を信じ込ませたいから言わせたのだろうが、ちょっとやりすぎに感じた。

そこまで言うなら、せめて千穐楽には最後に出てきて「失踪は劇中のことです」と挨拶してくれたらよかったのに。

フジタ氏を応援している家族が観たいと選んだのでしかたないが、こういう演劇にあまり慣れてない人には不向きだった。

「牡丹燈籠」と「真景累ヶ淵」をないまぜにしているが、人間関係が入り組んでいるし、原作を知らない人もいるので、簡単な説明くらいパンフにつけたほうが親切だし、一段と理解しやすいと思う。それで、この作品を損なうことになるとは思えない。

興味があればググればいいということだろうが、最近はちゃんと資料をつける劇団もある。

不条理劇仕立てにしたから謎が多ければよいというのは独りよがりに思えた。

テンポは悪くないし、原典をよく知っているものにはそれなりに楽しめたが、もう少し客のほうに歩みよって作ってもよいのでは。

ネタバレBOX

残暑の9月だし、円朝ものだからせめて浴衣で演じたらよかったのにと私は思った。

現代語の多用がパロディにも思えず、台詞がうわすべりに聞こえた。

女優陣にアニメ声を出す人もいるのもこういう劇では子供っぽく感じて興ざめだった。

「牡丹灯篭」の部分は申し訳程度にしか出てこなくてあまり活きていない。

したがって劇中のニ役にも説得力がない。

ないまぜで不条理劇を作るには鶴屋南北や唐十郎のような優れた先駆者がいるから、これはちと力不足に思えた。

ましてや、この話は、劇として文学座や歌舞伎で何度も上演されているから、役者の力量のなさも目立ってしまう。

作者としては自信作だったようだが、有名な原作のある芝居はそれだけ観客の目も厳しくなる。

再演するならかなり練り直す必要があるだろう。

押忍! 龍馬【池袋演劇祭CM大会優秀賞受賞!】

押忍! 龍馬【池袋演劇祭CM大会優秀賞受賞!】

劇団バッコスの祭

萬劇場(東京都)

2013/09/26 (木) ~ 2013/10/02 (水)公演終了

満足度★★★★

久々のバッコス時代劇、楽しめた
毎回新しいことに挑戦しているバッコスだが、今回は得意とする時代劇に戻ってきた。

ナンチャッテ時代劇が大嫌いな私が唯一観続けている劇団である。

史実とは異なる大胆な解釈に私が反感を持たないのも、作家の森山さんの歴史に対する真摯な取り組みと的確な脚色を信頼しているからである。

今回、「ギャグが気になる」という意見が多かったので、心配していたが、観てみるといつもどおりで、格別ギャグが多いわけではないので安心した。

本格的時代劇を目指して真面目に演じてもチープ感がある劇団が多いだけに、気恥ずかしさを感じないで史劇を観ていられるのも、時々入る笑いがあるからだ。

エンタメ時代劇の沢島忠監督に近いセンスだから私には許容範囲だ。

普通の時代劇を観るなら、大劇場で商業演劇を観に行く。

新感線の時代劇だって、ギャグは多いではないか。

今回は女性たちが活躍するというので、興味と不安が半々だったが、みごとバッコス時代劇に仕立てていて、飽きさせない。

ネタバレBOX

「幕末に帝の国、日本を取り戻す」という大きなテーマがあり、そこにくの一が絡み、龍馬の姉、乙女もその一人という設定。

岩倉具視がモデルの「岩倉ともみ」がくの一たちを操る陰陽師風の黒幕で活躍する。森弥恵がきりりとして良い。

丹羽隆博の龍馬が適役で、愛嬌があり、キレのある殺陣がカッコいい。

丹羽の姉の役は辻明佳が演じることが多かったが、今回は姉の乙女を金子優子が演じた。丹羽との息もピッタリで口跡に進歩のあとが見えた。

姪の春猪役の愛梨が小柄を生かし、花簪もかわいらしく、好演。

薩摩藩主の娘で大奥に嫁ぐ和姫が、明治のような洋装というのは、時代の先取りとはいえ、違和感があった。

武市はてっきり上田直樹かと思ったら、上田は西郷で、いつもは武闘派の熊谷祐弥が文科系の感じで演じている。二人とも客演の常連で、こういう配役も楽しい。

お龍は医者の娘として登場し、やや龍馬との絡みは少ないのが残念だが、小山陽子は美しいので満足した(笑)。

長州のくの一がアイドル歌手というのが時代劇なのにいかにも不自然で、せいぜい旅芸人一座くらいにしてほしかった。

観客におひねりを投げさせる演出も活きていない。

ギャグよりも男性陣がみな若いお兄ちゃん風でメリハリが弱いのが気になった。もう少しそれらしく演じさせたい。

森山の井伊直弼まで軽い男にする必要はない。ここは締めてほしかった。

龍馬が倒幕の先の時代を見つめていたという視点が龍馬ファンとしては嬉しかった。

森山自身は龍馬はあまりお好きでないそうだが、花も実もある男に描いてくれた。

伊藤大輔監督も、「先が読めすぎて頭が割れそうになる龍馬」を映画「幕末」で描いたが、それを具現化している。









ナイゲン【ご来場ありがとうございました】

ナイゲン【ご来場ありがとうございました】

Aga-risk Entertainment

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2013/09/26 (木) ~ 2013/10/08 (火)公演終了

満足度★★★★★

自信を持ってお薦めできる傑作コメディ
本作は厳密には今回で、三演目になるそうだが、私は昨年の再演に続いて二度目の観劇となった。

大幅に変わってはいないが、去年とは熱量が違う!

おおげさでなく、会場が揺れるような笑いのうねりが起こるほど、とにかく素晴らしい、傑作コメディ。

脚本がよく練られていることに加え、キャスティングの良さ、役者の好演を引き出す優れた演出。

シンプルな舞台装置だけに役者の演技力が試される真っ向勝負のシチュコメだ。

昨年と同じ配役を実現できたのも幸い。

もはや役柄と役者が一体化しており、「ナイゲン一座」と呼びたいほど完成されている。

今回、体感できた観客は本当に幸せである。

冨阪友氏の代表作といえよう。将来が本当に楽しみな作家。

演劇好きで、コメディを愛するかたにはぜひ観ていただきたい、自信を持ってお薦めするが、演劇をふだん観ないかたにも観ていただきたい。

できればリピートしたいと思っています。

ネタバレは後日、追記します。

SEA HORSE ADVENTURE(シーホースアドベンチャー)

SEA HORSE ADVENTURE(シーホースアドベンチャー)

マグズサムズ

南大塚ホール(東京都)

2013/09/20 (金) ~ 2013/09/22 (日)公演終了

満足度★★★

おおざっぱな印象
ドギツさがなく、気軽に楽しめるマグズらしさが出たコメディ作品。

ただ、ゲームの世界が主になるため、扮装や役柄の設定など既視感は否めない。

この劇団は流行に注目し、作品にしてきたので、ほかのかたも指摘しているようにそのまま再演すると時代のズレが出てしまう。

台詞などは現代に合わせる工夫もほしかった。

映画なら、そういう時代のズレも気にならないが、生もののコメディでは違和感が強い。

せっかく南大塚の大きな舞台で上演する機会を得たのに、この再演以外に適切な作品がなかったのかなという疑問は残る。

ネタバレBOX

人間関係の描き方がおおざっぱな印象。

キーパーソンになる所長の役柄設定が中途半端に感じた。

キーワードを繰り返すのも作者の特徴で、「ジャングル・ブギー」の「草食系だ

から」、「ズーキーパーズ」の「チヤホヤされたいんです」などが一例だが、今回の場合は「あるある」が多少しつこい。

人工海馬がゲームに結びついてしまうため、SFという印象が薄くなる。

部分部分は面白いのだが、全体を通しては平凡な出来の印象だった。

出番の関係なのか、早々と女性の戦士が消え、メモリーリングが4つ揃わないのに、主人公がチャレンジし始めるなど展開がやや粗雑。グダグダしているうちに終わってしまう。

ほかの作品でも感じるのだが、強引なねじこみがこの作者の短所でもある。

以前の受賞作「ズーキーパーズ」も、演出は抜群に面白いのに、園長の自伝を何度も通読したという取材記者が園長の年齢も把握していない、町の名士なのに視聴者が園長の顔も知らないのが前提というように、物語が成立しないような決定的矛盾が気になった。

それに比べると、さほどの矛盾は感じなかったが、より丁寧な創りこみを今後望みたい。

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