第三帝国の恐怖と貧困
東京演劇アンサンブル
ブレヒトの芝居小屋(東京都)
2015/03/12 (木) ~ 2015/03/22 (日)公演終了
満足度★★★★
戦争を止めるには・・・
劇団チョコレートケーキの『熱狂』ではナチスの内部から独裁政治から戦争へ向かう話が描かれたが、
ブレヒトによる本作は市民の生活からの戦争を描いている。
訳者は左翼演劇の重鎮であった俳優座の故・千田是也。
ナチスドイツの話ではあるが、いまの日本を思わせる台詞がたくさんあって身につまされた。
心の中では疑問をもっても、監視され言論統制されているなか、息が詰まるような毎日を送っている民衆。
その根底には貧困の問題がある。戦争と貧困はいつも表裏一体。いまの日本も政府のお題目とは裏腹に庶民の暮らしは一向に楽にならない
東京演劇アンサンブルの特徴は、俳優たちが台詞を覚えて稽古するだけでなく、毎回、自身の問題としてテーマにじっくり向き合い思考を重ねていること。
今回も福島の原発に関する裁判や沖縄の辺野古やヘイト・スピーチなど市民の視点で取材してパンフレットにリポートを載せている。
日本とドイツが戦争に向かった経緯や戦後処理などについても、大学の研究者による詳しい解説が年表と共に書かれていて充実した内容になっている。
独裁的な権力者によって国家が戦争へと突き進もうとするとき、市民の立場で戦争を止めるにはどうしたらいいのか焦燥感にとらわれた。
バリモア
無名塾
シアタートラム(東京都)
2014/11/03 (月) ~ 2014/11/16 (日)公演終了
満足度★★★★★
俳優としての生きざま
残念ながら映画版のほうは観ていません。
暗い内容を想像し、眠ってしまったらどうしようと心配しましたが、始まったらもう演技に釘付けで、すごく満足できました。
「仲代達矢を観る芝居」新聞の劇評にはそう書いてありましたが、まさにそのとおり。俳優としての生きざまをぶつけてくるようなお芝居でした。
私は仲代さんの旧作映画を映画館で観ない月はありません。毎月、何本かはちゃんと映画館で観ています。
映画では、演技の現場は観ることができませんが、私にとっては仲代さんと同じ空間の空気を吸えるだけで幸せというか・・・
次々、好きな俳優さんが亡くなられて、仲代さんには生きて演技していただけるだけでありがたいと思っています。
この作品は、今年の7月に再演されますので、見逃したり興味のある方はぜひご覧いただきたいと思います。
死の舞踏
ジェイ.クリップ
博品館劇場(東京都)
2015/02/17 (火) ~ 2015/02/22 (日)公演終了
満足度★★★★
凄まじい夫婦
前日まで寝たきり生活だったので、観に行けたのは奇蹟というか・・・・(苦笑)。
仲代さんと白石さんのコンビで夫婦役とはぜがひでも観ておこうと珍しく去年のうちに予約しました。
実はリーディング公演と知らずにチケットを予約したのですが、そこは名優だけに普通の芝居に勝るとも劣らない楽しさでした。
演出が映画『日本の悲劇』で仲代さんの信頼も厚い小林政広監督なんですね。舞台の演出家ならまた違う雰囲気になってたかもしれませんが、白石さんの『百物語』もTV演出家の鴨下信一さんだったから、それはまぁ、いいのかな。私が観たのは2日目で、後半を観た記者によれば、仲代さんは後半からエンジンかかってきたとのこと。
台詞の多さに慣れているかただけに、仲代さんにリーディング初めてと言う不自然さは感じませんでしたが82歳でこのチャレンジ精神、頭が下がります。リーディング劇ですが、ラストにフィナーレというか、美しいコスチュームでのダンス場面がありました。
十一月新派特別公演
松竹
新橋演舞場(東京都)
2014/11/01 (土) ~ 2014/11/25 (火)公演終了
満足度★★★★
貴重な二本立て
昨年秋から体調を崩して最近まで病人生活だったのと、コリッチがアクセスできなかったりで、すっかりごぶさたしてしまいましたが、観劇数は少ないながらぼちぼち備忘録がてら挙げたいと思います。
『鶴八鶴次郎』は昔に観た先代八重子と17代目勘三郎の舞台が印象に残っていますが、成瀬巳喜男監督の映画版も好きで特に山田五十鈴には惚れ惚れします。『婦系図』でも共演した長谷川一夫との息がピッタリなのです。芝居でも観たいと思っていた矢先に、中村屋兄弟が初演するというので行くことにしました。
従来の新派公演ならこの二つの演目は昼夜に分けて上演するでしょうが、二つの芸道ものを堪能できる貴重な機会でした。
最近の客席は世代交代したせいか、新派の演目自体知らずに観に来ている年配客もいるようで、名場面にもキョトンとして拍手も来なかったりするので時代の流れを感じさせられました。
ナイゲン
劇団あかぺら倶楽部
TACCS1179(東京都)
2014/07/17 (木) ~ 2014/07/21 (月)公演終了
満足度★★★★
まちがいなく「名作」の域
あかぺら倶楽部もアガリスク・エンターテイメントも両方好きで観続けてきました。客層の違う劇団だけにあかぺら倶楽部のファンは今回「ナイゲン」は初めてと言うかたが多いようだ。私は「ナイゲン」についてはアウェイ気分で配役の違いや客席の反応を楽しみながらの観劇でした。
「ナイゲン」はまちがいなく秀逸なコメディで脚本が抜群に面白い。高校の文化祭のための会議が舞台なので、若い俳優でないと演じられないという制約はあるが、今後、いろんな劇団、俳優に演じてもらいたいなと思える戯曲だ。
ベルばらや忠臣蔵同様、キャラクターがきっちり描かれ、ある意味様式美が確立されているといってもよい。笑いの中にも「学生自治」の問題提起も含んでいて、ほろ苦いラストが私は好きだ。
現役の高校生、大学生にはうってつけの題材であろう。しかし、あかぺら倶楽部のNEXTという若手中心の企画として本作が取り上げられたのはうれしい限り。アガリスクの公演を観て上演を決定してくれた演出の中村伸一さんには感謝したい。
レイ・クーニーなどふだんは海外の作品上演が多いあかぺら倶楽部はやはり勝手が違うのか珍しく台詞を噛む俳優さんもいた。高校生が自然な自分の言葉をつっかえるというのが実際にはありえないので、芝居としては減点だが、かえって新鮮な感じがした(笑)。
私が観たのは2日目だが、これからさらに舞台も客席も弾んでくると思う。
今回、三方+αの変則的客席で、あかぺら倶楽部としては初のリピーター割引も実施、声優さんが多い劇団だけにファン層が厚く複数回リピート前提というお客さんの声がロビーで多数聞かれた。
名作「ナイゲン」を今後ももっともっと多くの人に観てもらいたい。心からそう思う。
時をかける稽古場
Aga-risk Entertainment
サンモールスタジオ(東京都)
2014/06/07 (土) ~ 2014/06/15 (日)公演終了
満足度★★★
「劇団員であること」がネックに
タイムマシンがどんな感じで表現されるのかなと思っていたので、舞台を観て、なるほど!と納得しました。
小劇場系劇団のバックステージものコメディで、私が観た回はマチネということもあり、劇団の俳優さんが多数客席を埋め、うなずきながら「あるあるネタ」としていて笑っている感じが伝わってきました。
そのことが個人的にはもうひとつ乗り切れなかった原因でもあります。
「劇団員」が物語の主役で、「劇団員であること」が物語の「枷」になっている点も否めないのが気になりました。
オシラス
電動夏子安置システム
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2014/07/08 (火) ~ 2014/07/15 (火)公演終了
満足度★★★★
陪審員制度の限界が見えて興味深い
電夏が得意とするロジックで展開するコメディ。
人は、所詮、自分の経験や主観で物事を見て考えるしかない、だからこそ陪審員たちが話し合うのだが、「十二人の怒れる男」とは逆に、ラストで陪審員制度の限界のようなものを感じてしまった。それは現在の裁判員制度への疑問にもつながる。
コメディとして楽しめるが、ブラックユーモアには偏らず、「ただただ笑っておしまい」にもならないところが電夏のコメディの優れた点である。
今回はあらすじを読んで期待が大きすぎたせいか、私の中では意外に平凡な印象に終わった。
話の構成上やむえないのかもしれないが、冒頭の沈黙時間が長く、そのあと一気に惹きこまれなかったのが残念。
上演時間も1時間45分くらいにして、テンポよくしたほうがよかったのでは。
※私自身かつて日本橋中州に住んでいたことがあるのだが、小伝馬町は神田には近いが日本橋である。
江戸時代の古地図でも小伝馬町は日本橋界隈である。
格別架空の町に設定したとは思えず、なまじ江戸時代の事件の疑似体験を織り込んだ劇だけに「神田小伝馬町」という呼称は気になった。
「40 Minutes」
TABACCHI
スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)
2014/03/21 (金) ~ 2014/03/24 (月)公演終了
満足度★★★★
テーマ設定と運営には不満も残った
過去に受賞歴がある3実力派劇団がそろい、期待を持って観劇に臨んだ。
観客数に比して会場が広いので、自由席にしてもよかったのではと思いました。
作品と作品の間が暗転のままという感じで終わりと始まりの境目がはっきりしない。
幕も下りるホールなのだから、幕を下ろして装置替えするなり、照明を明るくするなり工夫がほしかった。
3作品で120分だからノンストップでなく、5分くらいの休憩を入れてもよかった。
出場団体は参加が決まった時点では会場は未定なのだろうか。
いつもの小劇場の間合いで作ってる劇団はハコの大きさと演出が合致せず、バラツキが出た。
「サムライ」という共通テーマをどういう考えで主催側が出したのかわからないが、はたして妥当だったのか疑問だ、
現代劇では「絵」にしにくい課題のためか、生かせずにコジツケに感じた劇団もあった。
個別の感想はネタバレで。
星ガール
多少婦人
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2014/02/13 (木) ~ 2014/02/17 (月)公演終了
満足度★★★★
SFものとしては良い出来、成長を感じた
多少婦人は等身大の日常生活の人間観察をもとにした作品が特徴であるが、作・演出の酒井さんは学生時代は近未来の
不条理劇風作品をやっていたので、彼はこのジャンルは好きなのかもしれない。今回、ひさしぶりに昔の酒井さんに再会できたような懐かしい気持ちで観た。
テーマがはっきりしていて、会話も多少婦人らしい面白さが出ていて、私が観た多少婦人発足以来の酒井さんの作品の中では一番よくできていたと思う。
というのも、オムニバスが多い多少婦人のスタイルは酒井さんが学生時代に作っていたものとは少し違うので、普通のコメディ作品を多少婦人のテイストで書こうとしたときにうまく収まりがつかないところがある。そこをどう克服するかという点を今回興味深く注視したのだが、なんとかクリアできたと思う。
人間社会は個性や欲望がぶつかりあい、軋轢を生む。それが長期間の密室空間ではなおさら助長されるのでスムーズに航行がなされるよう、欲望抑制の薬を使ってみたらどうなるか。
欲望はエゴという悪も生むが、互助や調和も生む。「極限まで抑制すると呼吸さえできなくなる」ということを見せ、「欲望の効果」にも思いをはせられる作品だ。
なまじ困難が現れてみんなで一致団結する方向にまとめなかったのは良いと思った。
難が残ったのは前半。多少婦人風のだらだら会話が続くので、途中で疲れてしまう。
体感時間が長く感じられ、あと10分程縮めてメリハリをつけたほうがよかったと思う。
今回は舞台美術も凝っていたし、キャストも以前とは替わり、なかなか面白い個性の持ち主が揃っていた。
母をたずねて膝栗毛
松竹
新橋演舞場(東京都)
2014/02/01 (土) ~ 2014/02/25 (火)公演終了
満足度★★★
小劇場コメディ風松竹新喜劇?
多彩な顔ぶれなので、たまには商業演劇もよいかと思い、気鬱気味でもあり気分転換を兼ねて観に行った。
中村獅童の喜劇的素質を確かめる意図もあったので。
獅童の父の小川三喜雄さんは、東映のプロデューサー時代、中村錦之助、賀津雄兄弟のために沢島忠監督と組んで「殿様弥次喜多」というコメディシリーズをヒットさせた実績がある。
藤山直美といえば、この季節は、かつて中村勘三郎とともに「浅草パラダイス」などのコメディを演舞場で上演してきた。
今回のこの芝居の私の印象は小劇場コメディ風松竹新喜劇だった。
松竹新喜劇は笑いの中にも一本筋が通った作品が多かったが、本作はそのレベルまで達していない。
系統的には「雲の上団五郎一座」に近い。
初日ではないが、道具転換で舞台装置が不具合が起き、幕が下りて芝居が中断したのは残念。
抱腹絶倒というほど笑えなかったし、パッチワークというか有名な役者さんたちのかくし芸大会といった趣だ。
軽い話の中で水谷八重子と市村萬次郎がさすがの貫禄をみせ、それだけは一見の価値があった。
初春歌舞伎公演「三千両初春駒曳(さんぜんりょうはるのこまひき)」
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2014/01/03 (金) ~ 2014/01/27 (月)公演終了
満足度★★★★
復活通し狂言の意義を感じさせた力作
国立も正月らしい繭玉が飾られ、華やいだ初春公演。
国立劇場の文芸研究会による復活通し狂言はいつも楽しみだが本年は午年にちなみ、面白い作品がかかった。
辰岡万作という狂言作者も私は「馬切」以外知らなかった。
現代の新作歌舞伎ではなく、こういう作品を掘り起こし脚本を研究するのは、一から新作を作るのと同じ労力がいるが国立劇場だからこそできる大事な仕事。
橋下大阪市長などは、そういう点を理解していないのが歯がゆい。
尾上菊五郎を座頭に、中村時蔵が立女形、若女形と二枚目を兼ねる菊之助、二役の尾上松緑、坂東彦三郎はじめ山崎屋や橘屋など羽左衛門のところの三兄弟と息子たちがそろう。
伸び盛りの尾上松也の若衆ぶりもみずみずしい。
今回は五幕物にまとめてあるが、原作は8幕もあり、お家騒動も今回は二派対立だが、原作は三派対立だという。
江戸時代の芝居の筋は本当に複雑だったのだなぁと感心する。
現代では江戸時代の通し狂言を原作に近い形で堪能するのはまず不可能である。
そう思うと、少しさびしい。
本作は文楽でも上演できる作品ではないかと思う。
せっかくの暗転からの幕開きに隣の中高年男性がぎりぎりに着座してメールチェックをやめず、明かりが気になっていらいらした。
おまけに幕切れの手ぬぐい撒きでは、私の靴の上に落ちた手ぬぐいを体当たりでぶんどる。
こういう無粋で行儀の悪い自分勝手な客が近頃増えてきてうんざりする。
平成25年12月歌舞伎公演「主税と右衛門七」「弥作の鎌腹」「忠臣蔵形容画合」
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2013/12/03 (火) ~ 2013/12/26 (木)公演終了
満足度★★★★★
バラエティ豊かで楽しめた外伝
歌舞伎座の本家「仮名手本忠臣蔵」に対し、国立は忠臣蔵外伝ともいえる三作を並べたが、どれも外れなしの年の暮れらしい好企画で楽しめた。
吉右衛門を座頭に、その親戚である芝雀や歌六・又五郎兄弟、錦之助と一門の若手゚がそれぞれ活躍の場を与えられた。
そのルーツは三代目中村歌六で、その子息の初代吉右衛門や子福者の三世時蔵、17代目中村勘三郎の3兄弟が今日歌舞伎界全体の中でも層の厚い人材の基礎を築いたわけだから感慨深い。
今回、吉右衛門は初役で「弥作の鎌腹」に主演したが、これは初代吉右衛門から17代勘三郎へと受け継がれてきた演目。
先年亡くなった18代勘三郎は、初代吉右衛門譲りの父17代目勘三郎の当たり役を受け継いでいたので、この役も吉右衛門から勘九郎にいずれ伝えてほしいところだ。
意外なようだが、映画俳優だった初代錦之助は初代吉右衛門の芸風を大切にし、17代目勘三郎や先代又五郎が生前から高く評価していたという。
初代錦之助が収集した膨大な歌舞伎関係の蔵書は播磨屋と萬屋の若手たちに譲られ、研鑽に活用されている。
「主税と右衛門七」は、その初代錦之助と親交が深かった脚本家の成澤昌茂の作。初演は松竹の大谷竹次郎会長が東映の錦之助映画を観て若き脚本家も成澤を気に入り、新作歌舞伎を依頼し、当時まだ10代の現幸四郎と吉右衛門兄弟が演じた。ここにも初代錦之助と梨園の子供たちの絆がつながっているのだ。
犯行予告
劇団肋骨蜜柑同好会
サブテレニアン(東京都)
2013/12/20 (金) ~ 2013/12/23 (月)公演終了
満足度★★
観念的で消化不良感ぬぐえず
今回も会話劇だと言うので、「つぎとまります」の充実度を期待したが、前作の「ま・ん・だ・ら」に共通する消化不良感がぬぐえなかった。
入れ子構造のアイディアは面白いが、私には成功しているとは思えない。
「不条理劇をめざしているのではなくあくまで結果」と作者は言うが、不条理劇としてどうか云々よりも、表現力をもっと磨かないと、訴えたいことが明確に伝わらないと思う。
「わかる人にはわかるはず、自分はちゃんと説明した」という姿勢を貫くなら、「そうですか」としか言えないが。
「大切なものは人それぞれ違う」ということと「人はみな自分の真実の姿には気づいていない」ということが主題なのだろうか。
まちがっているかもしれないが、私にはそうとしか解釈できず、「ま・ん・だ・ら」同様、観念的な作品に思えた。サスペンス仕立てにしたことで、サスペンス部分に不満が残るため、入れ子効果が分離しているように感じられた。
息詰まるような会話劇を期待したが、みごとにアテがはずれた。
不条理劇は理詰めで見るものではないが、観念的な台詞を入れてくるので中途半端になり、主題がぼやけてしまう。
治天ノ君
劇団チョコレートケーキ
駅前劇場(東京都)
2013/12/18 (水) ~ 2013/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★★
群を抜く力作
明治と昭和に挟まれた大正と言う時代をまさに象徴する存在としての大正天皇の生涯を描いて、秀逸な脚本。
作者の古川氏の、過去の歴史と時代への鋭い洞察力と着眼、的確な作品化には、演劇の持つ社会的役割という点でも、毎回敬服させられる。
大正天皇の伝記を読んで一番印象に残るのは、その責任感の強さと父である明治天皇への尊崇の念の強さであり、それは本作でも余すところなく描かれている。
ここでは描かれていないが、健康に恵まれない中、過酷な軍事教練にも率先垂範で耐え抜き、深夜も読書にいそしみ、軍事指導教官を尊敬して従順だったという。
太平洋戦争中に強化された「御真影」が最初にクローズアップされたのも大正時代であり、関東大震災や火災における校長や教師たちの死守するあまりの殉職を美談として形成されたのも大正時代である。
ために、病状が進み、身体の自由を失ってから、大正天皇の公式の場での撮影がなされなくなったのも関係している。
大正デモクラシーに代表される自由清新の息吹に満ちた大正天皇の御代が、先帝の示した理想と威厳、富国強兵の政策に抑圧されていく悲劇が戦後を生きる我々の胸に強く迫る。
民情視察の観点から自ら強く要望した大正天皇の「行幸」が、太平洋戦争を経て、人間宣言のもと、敗戦後の全国を行幸した昭和天皇の思いへと連なる。
昨今、ネットでは「昭和天皇は人間宣言すべきではなかった、日本の天皇は現人神である」という若い人の意見が当然のように書かれていたりするので、いったい、いまはいつの時代かと錯覚してしまう。
天皇の神格化についても考えさせられる内容だった。
東京暮色-映画「東京暮色」から-
立教大学現代心理学部映像身体学科・松田正隆クラス
立教大学新座キャンパス(埼玉県)
2013/12/21 (土) ~ 2013/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★
解体し再構成して見えてくる小津のシナリオの秀逸さ
立教大学の授業の一環として学生たちによる上演である。
ちょうど、神保町シアターで小津安二郎の全作品上映特集が開催中で、「東京暮色」も折よく上映され、
数年ぶりに家人と鑑賞して、この上演にも同行した。
ほのぼのと家族を描く穏和な小津監督には珍しく、悲劇味の濃い作品である。
地味な内容だけに舞台化したら、どうなるのか、興味があった。
映画は2時間を超えるが、1時間35分にまとめてある。
シナリオを解体して立体的に再構成していく点が興味深かった。
正直、映画を観ていないと細部などはわかりにくいかもしれない。
この公演で改めて、小津のシナリオの巧さ、それに命を吹き込んだ名優たちの演技力を思い知った。
脚色・演出の松田正隆氏は、小津の台詞は変えずに上演している点に好感をもった。
会話劇を手掛ける小劇場の若い現代演劇作家には、小津の脚本から学べることは多いと思うので
ぜひ、小津の映画を観てほしいと思う。
授業ではこの前にギリシャ悲劇を上演しているので、同様に普段着で現代劇をと、選んだそうである。
松田氏は「東京暮色」とギリシャ悲劇の共通点を感じたという。
演劇化してみると、確かにそんな印象がある。小津を尊敬する後輩の吉田喜重監督もギリシヤ悲劇を意識した作品を手掛けているので感慨深かった。
ア・ラ・カルト2 ~役者と音楽家のいるレストラン Final
こどもの城劇場事業本部
青山円形劇場(東京都)
2013/12/06 (金) ~ 2013/12/26 (木)公演終了
満足度★★★★★
四半世紀が過ぎた実感
この企画も今年で25年、青山円形劇場の閉鎖に伴い、今回が最後と言うので、久し振りに出かけた。
私は第一回から数回観ている。
90年代初頭に小劇場劇団の活動を紹介する仕事をしていた時期に、遊⦿機械/全自動シアターの芝居を観て、私の現代演劇アレルギーが払しょくされたともいえる。
ご贔屓劇団の劇団員から偶然「遊⦿機械/全自動シアターが好きだった」と聞くと、そういう好みをいまも引きずっているのかもしれない。
白井晃・高泉淳子のコンビが私は大好きだった。
高泉との方向性の違いからか、白井晃、陰山泰も年一回は出演していたア・ラ・カルトからは外れてしまって久しい。
白井晃はもう売れっ子演出家・俳優で、昔のように女装しておバカなコントなんかやれないのかもしれないが、私は小さな劇場で公演して終演後も出口でペコペコお辞儀していた二人の無名時代を懐かしく思い出しながら今回も観ていた。
二人が別々の活動をしていても、この作品だけはライフワーク的に二人一緒に25年が迎えられたら、もっとよかったのにと思わずにはいられない。
「ア・ラ・カルトはマンネリ」という声も含め、ネットでの高泉への批判を私も読んでいたが、才能ある人だけに、白井晃と組まなくなってから、普通の演劇活動からは遠のいてしまったのは残念。
出てくるキャラクターや構成は変わらないのに、初期の頃の若い観客ばかりで会場が揺れるような爆笑は消え、みなおとなしく観ているのが歳月を感じさせた。
中西俊博のヴァイオリンだけはずっと高泉に寄り添ってきたのが忘れられない。
ま・ん・だ・ら
劇団肋骨蜜柑同好会
王子小劇場(東京都)
2013/09/19 (木) ~ 2013/09/23 (月)公演終了
満足度★★
不条理劇でも・・・
物語の構成が「作家、フジタタイセイさんの失踪から始まる」、これがテーマにもなってるそうだが、同行した家族がフジタさんのツイッターのフォロワーで、いつも「死にたい」とか「消えてなくなりたい」とか心配なことばかり書いてるし、この数日、ツイートもボット化し、配役表の名前が消えてたし、本当に失踪したと思い込んだ。
家族は真面目な性格なので私がフィクションだと説明しても信じてくれず、「嘘や冗談であんな不謹慎なこと言うはずない」と帰路、口論になり、とても後味が悪かった。
劇場を出て心配なのですぐフジタさんにDMまで送ったそうである。
家族には最後に出てきた釣りの男がフジタさんだとわからなかったのだ。顔がよく見えなかったので。
作者の狙いはわかるが、それなら劇を観てる間だけの「嘘」でよいのではないだろうか。
口上で「どんな些細な情報でもかまいません。何かご存じでしたら、終演後でもけっこうですから受付のものにお知らせください」とまで言うということは失踪を信じ込ませたいから言わせたのだろうが、ちょっとやりすぎに感じた。
そこまで言うなら、せめて千穐楽には最後に出てきて「失踪は劇中のことです」と挨拶してくれたらよかったのに。
フジタ氏を応援している家族が観たいと選んだのでしかたないが、こういう演劇にあまり慣れてない人には不向きだった。
「牡丹燈籠」と「真景累ヶ淵」をないまぜにしているが、人間関係が入り組んでいるし、原作を知らない人もいるので、簡単な説明くらいパンフにつけたほうが親切だし、一段と理解しやすいと思う。それで、この作品を損なうことになるとは思えない。
興味があればググればいいということだろうが、最近はちゃんと資料をつける劇団もある。
不条理劇仕立てにしたから謎が多ければよいというのは独りよがりに思えた。
テンポは悪くないし、原典をよく知っているものにはそれなりに楽しめたが、もう少し客のほうに歩みよって作ってもよいのでは。
押忍! 龍馬【池袋演劇祭CM大会優秀賞受賞!】
劇団バッコスの祭
萬劇場(東京都)
2013/09/26 (木) ~ 2013/10/02 (水)公演終了
満足度★★★★
久々のバッコス時代劇、楽しめた
毎回新しいことに挑戦しているバッコスだが、今回は得意とする時代劇に戻ってきた。
ナンチャッテ時代劇が大嫌いな私が唯一観続けている劇団である。
史実とは異なる大胆な解釈に私が反感を持たないのも、作家の森山さんの歴史に対する真摯な取り組みと的確な脚色を信頼しているからである。
今回、「ギャグが気になる」という意見が多かったので、心配していたが、観てみるといつもどおりで、格別ギャグが多いわけではないので安心した。
本格的時代劇を目指して真面目に演じてもチープ感がある劇団が多いだけに、気恥ずかしさを感じないで史劇を観ていられるのも、時々入る笑いがあるからだ。
エンタメ時代劇の沢島忠監督に近いセンスだから私には許容範囲だ。
普通の時代劇を観るなら、大劇場で商業演劇を観に行く。
新感線の時代劇だって、ギャグは多いではないか。
今回は女性たちが活躍するというので、興味と不安が半々だったが、みごとバッコス時代劇に仕立てていて、飽きさせない。
ナイゲン【ご来場ありがとうございました】
Aga-risk Entertainment
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2013/09/26 (木) ~ 2013/10/08 (火)公演終了
満足度★★★★★
自信を持ってお薦めできる傑作コメディ
本作は厳密には今回で、三演目になるそうだが、私は昨年の再演に続いて二度目の観劇となった。
大幅に変わってはいないが、去年とは熱量が違う!
おおげさでなく、会場が揺れるような笑いのうねりが起こるほど、とにかく素晴らしい、傑作コメディ。
脚本がよく練られていることに加え、キャスティングの良さ、役者の好演を引き出す優れた演出。
シンプルな舞台装置だけに役者の演技力が試される真っ向勝負のシチュコメだ。
昨年と同じ配役を実現できたのも幸い。
もはや役柄と役者が一体化しており、「ナイゲン一座」と呼びたいほど完成されている。
今回、体感できた観客は本当に幸せである。
冨阪友氏の代表作といえよう。将来が本当に楽しみな作家。
演劇好きで、コメディを愛するかたにはぜひ観ていただきたい、自信を持ってお薦めするが、演劇をふだん観ないかたにも観ていただきたい。
できればリピートしたいと思っています。
ネタバレは後日、追記します。
SEA HORSE ADVENTURE(シーホースアドベンチャー)
マグズサムズ
南大塚ホール(東京都)
2013/09/20 (金) ~ 2013/09/22 (日)公演終了
満足度★★★
おおざっぱな印象
ドギツさがなく、気軽に楽しめるマグズらしさが出たコメディ作品。
ただ、ゲームの世界が主になるため、扮装や役柄の設定など既視感は否めない。
この劇団は流行に注目し、作品にしてきたので、ほかのかたも指摘しているようにそのまま再演すると時代のズレが出てしまう。
台詞などは現代に合わせる工夫もほしかった。
映画なら、そういう時代のズレも気にならないが、生もののコメディでは違和感が強い。
せっかく南大塚の大きな舞台で上演する機会を得たのに、この再演以外に適切な作品がなかったのかなという疑問は残る。