満足度★★★★
SFものとしては良い出来、成長を感じた
多少婦人は等身大の日常生活の人間観察をもとにした作品が特徴であるが、作・演出の酒井さんは学生時代は近未来の
不条理劇風作品をやっていたので、彼はこのジャンルは好きなのかもしれない。今回、ひさしぶりに昔の酒井さんに再会できたような懐かしい気持ちで観た。
テーマがはっきりしていて、会話も多少婦人らしい面白さが出ていて、私が観た多少婦人発足以来の酒井さんの作品の中では一番よくできていたと思う。
というのも、オムニバスが多い多少婦人のスタイルは酒井さんが学生時代に作っていたものとは少し違うので、普通のコメディ作品を多少婦人のテイストで書こうとしたときにうまく収まりがつかないところがある。そこをどう克服するかという点を今回興味深く注視したのだが、なんとかクリアできたと思う。
人間社会は個性や欲望がぶつかりあい、軋轢を生む。それが長期間の密室空間ではなおさら助長されるのでスムーズに航行がなされるよう、欲望抑制の薬を使ってみたらどうなるか。
欲望はエゴという悪も生むが、互助や調和も生む。「極限まで抑制すると呼吸さえできなくなる」ということを見せ、「欲望の効果」にも思いをはせられる作品だ。
なまじ困難が現れてみんなで一致団結する方向にまとめなかったのは良いと思った。
難が残ったのは前半。多少婦人風のだらだら会話が続くので、途中で疲れてしまう。
体感時間が長く感じられ、あと10分程縮めてメリハリをつけたほうがよかったと思う。
今回は舞台美術も凝っていたし、キャストも以前とは替わり、なかなか面白い個性の持ち主が揃っていた。