不届者
劇団鹿殺し
天王洲 銀河劇場(東京都)
2017/09/27 (水) ~ 2017/10/01 (日)公演終了
満足度★★★★
妻を亡くした男が夢を叶えようとしてあがく姿と、徳川吉宗が将軍へと上り詰めていく様子を重ね合わせ、シェイクスピアを思わせる波瀾万丈の物語として描いていく。
妻を殺したのは誰か。彼の夢はどこへ行くのか。
道化師めいた保険屋の示す脚本が、男たちの運命を導く。
現在と過去。罪と野心。
交互に描かれていた2つの時代が、次第に重なり合い混じり合う様子にワクワクする。
生演奏のドラムの響きが、不穏な予感のように物語に寄り添っていく。
人を殺めて権力の座につき、疑心暗鬼からより多くの人を手にかける。そうしているうちに、自分自身の望みや大切なものが何かも見失っていく。
『リチャード三世』や『マクベス』を思わせる血塗られた物語に、歪んだ笑いと哀愁が漂う。
劇団鹿殺しの本公演に流れるピュアで温かな印象の代わりに、虚無を見つめる少し哀しいまなざしが感じられる気がした。
瘡蓋の底(かさぶたのそこ)
タカハ劇団
小劇場B1(東京都)
2017/09/27 (水) ~ 2017/10/01 (日)公演終了
満足度★★★★
終戦直後の満州。ほの暗い船底に5人の男たち。船底に身を潜め、人の名前を買って、満州から日本へ秘密裏に帰国しようと目論んでいる。当たり前の方法で帰れないのは、それぞれ人に言い難い事情があるのだ。
たまたまそこに乗り合わせただけで立場も年齢も目的も違う。互いへ向けた不信の目は、そのまま自らの後ろめたさと重なるだろう。
あることから、買い取った名前が同一人物のものであることがわかり、命がけの駆け引きが始まる……。
一方、ある嵐の夜、母の入院を契機に集まった三人姉妹とその友人たち。
入院は検査のためとわかるが、それを口実に長姉が妹たちを呼び寄せたのは、母の還暦祝いについて話し合うためだった……。
異なる時代、異なるシチュエーションで、交互に進んでいく2つの物語。
船の男たちの物語は、それぞれの事情と命をかけたやり取りによる緊張感と、存在感のあるキャストの熱演で見応えがあった。
一方、現代の姉妹たちの物語は、彼女らの生い立ちや両親との関係、次女の元カレや三女の奇妙な友人などを絡めつつ独特のユーモアと屈折を含んで進んでいく。
それぞれの物語の展開に引き込まれたが、特に、エゴむき出しのやり取りを経て、小さな命を囲むこむ男たちの姿が印象的だった。
2つの物語の関連が明らかになるラスト。つながれていく命のイメージが胸に残った。
シャーロック・ホームレスの食卓
劇団ズッキュン娘
テアトルBONBON(東京都)
2017/09/21 (木) ~ 2017/10/01 (日)公演終了
満足度★★★
男性比率の高い客席。そうだ、女性ばかりの座組だった、と、会場に入ってから改めて気付いた。
彼女たちがダンスや歌も交えて描くのは、公園から追い出されようとするホームレスたちの活躍とある家族の軌跡。
ささやかな約束を守れなかった母に投げつけた言葉を、長女はそれからずっと後悔することになる。なぜなら、母に謝るまもなく家が火事になり家族はバラバラになってしまったから。
そして月日は過ぎ、ホームレスとなった長女はある公園にたどり着いて……。
個性的なホームレスたちの経歴や立ち退きを迫る行政側の対立などをやや戯画的なタッチながら、主要な役柄に説得力のあるキャストを配してテンポよく描いていく。
ホームレス劇団が立ち上がる様子。探偵モノ仕立ての劇中劇。家族の再会。むかし家族で囲んだ食卓。
そして、失われたものは取り戻せなくても、能天気なほどにハッピーな結末。
観終わって元気が出るような、理屈抜きに楽しい舞台だった。
海の凹凸
劇団俳優座
俳優座劇場(東京都)
2017/09/20 (水) ~ 2017/10/01 (日)公演終了
満足度★★★★
1980年代東京。
東京大学で長年公害についての公開講座を行っていた宇井純氏とその周囲の人々をモデルに、水俣病を始めとする公害病について問題意識を持ち、それを広めていこうとする人々の葛藤と転機を描く。
戯曲を担当された詩森ろば氏(風琴工房)は、この題材に高い関心を持っており、自らが主宰する風琴工房でも『hg』というタイトルで水俣病についての作品を上演している。
いや、「題材」という言葉が軽く聞こえるとしたら、見過ごせない同時代の問題として。
社会性の高い問題を広い視点で見つめながら、あくまでも個人の関わり方を中心に描くことで観る者が共感しやすいものとなった。
特に、終盤の主人公の決意と、彼とともに行くと決めた女性の描き方は(モデルとなった人物や事象もあったように聞いたが)、大きな問題に個としてどう関わっていくか、そしてそれを誰と共有できるのか、という人の生き方や考え方に寄り添って描かれていたように思う。
ある種の運動にのめり込んでいく男と、それを理解し得ない、あるいは家族をかえりみない彼の熱意ゆえことさらに目を背けようとする妻のすれ違う心。
そして、家を出て、彼とともに水俣へ行くと決めた女性の迷いないまなざし。
我々は何のために生きるのか、という素朴な問いは、応える人の数だけ答えもあるかもしれない。
我々はここでその答えのひとつを得ることになるだろう。
水俣病という重いテーマを扱いながら、人間ドラマとしての面白さで観る者を惹きつけた脚本はもちろん、説得力のある人物像を立体化した演出も見事だった。
老舗劇団らしい幅広い年代のキャストの活躍や丁重なスタッフワークも見応えがあり、熱量と端正さを併せ持つ舞台となっていた。
オペラ『スマイル─いつの日か、ひまわりのように』
オペラシアターこんにゃく座
俳優座劇場(東京都)
2017/09/14 (木) ~ 2017/09/17 (日)公演終了
満足度★★★★
過去を振り返るように語り始める男。夕焼けに照らされたどこか懐かしい風景。浜辺で言葉を交わす金髪の少年と男言葉の少女。
西洋人の父を持つ金髪の少年けんとと戦争に行った父の帰りを待つ少女ぼたんは、同級生たちの輪に入れないまま、2人の時間を重ねる。
旅する漫才トリオ サマーフラワーズ。ユリ、ドクダミ、ボタン……とそれぞれ花の名前を持つ元気いっぱいの女たちは、ケンカしたり稽古したりしながら旅を続ける。
2つの時間軸が、それをつなぐ(であろう)ケントの語りとともに進んでいく。
戦争は激しさを増し、空襲に備える子どもたちの様子や素直になれないほくろとぼたんの友情などを繊細に描きつつ物語は進む。
一方、劇中劇めいた漫才を見せつつ、町から町へと車を引いてサマーフラワーズは旅を続ける。
戦争。旅芸人。散りばめられた笑いも郷愁もどこか鄭義信さんらしい。
この物語は、金髪の少年けんとが大人になって、過去を振り返っているのか、と思いつつ観ていた。
そうではない、と気付いたとき、さまざまな言葉や場面が改めて思い返された。
逢えない中で、ぼたんとけんとがそれぞれに見上げる月。空襲。燃えさかる炎。倒れ伏す人々。母へと伸ばした手。
少年けんとを演じた泉さんの星の王子のような金札や少し寂しげな雰囲気と大人のケントを演じる井村さんの透明感を感じさせるたたずまいに説得力があった。
残されたぼたんは大人になり、ボタンとして、人々の笑顔のためにユリとドヌタミとともに旅を続ける。
東西の名作をややドタバタな芝居仕立てにしたサマーフラワーズの漫才(?)が楽しく、ケンカもしつつ前向きに生きる彼女らのエネルギーに元気付けられる。
ドクダミ役の金村さんがこれまで拝見した役柄(ロボットの少年やモーツァルトなど)とまた違うインパクトがあって印象的だった。
歌声や生演奏も物語によく合って、もの哀しい遠い思い出のような柔らかな時間となった。
きゃんと、すたんどみー、なう。
青年団若手自主企画 伊藤企画
アトリエ春風舎(東京都)
2017/09/15 (金) ~ 2017/09/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
ああ、いいもの観たなぁ、と観終わってすぐに思った。
切実な題材をしっかり描きつつ、それだけでないさまざまな人の想いを繊細に積み重ねた作品。そこに日常を逸脱する奇妙な存在を加えて、ペーソスとユーモアを感じさせた。
三姉妹を軸に、友人や夫や引っ越し屋さんや施設の職員など、それぞれの想いが丁重に描かれる。
三人姉妹のそれぞれに感情移入しつつ観ていた。特に三女の不安や屈折、そして亡き母(のように見えたもの)との会話が印象に残った。
キャストはそれぞれ魅力的で、中でも長女と結婚したいと言い出す男を演じた岡野さんの演技に説得力があった。
アンネの日
風琴工房
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2017/09/08 (金) ~ 2017/09/18 (月)公演終了
満足度★★★★★
舞台の上に8人の女性。それぞれの初潮の思い出を語っていくオープニング。
生理用品開発に携わるチームの奮闘を通して描かれるそれぞれの人生と、研究の苦労やマーケティングや環境問題まで含めた幅広い問題提起と。膨大な量の情報を、観る者の気持ちをそらさず見せる手腕もさすがだった。
オープニングで語られた思い出が、そのあとの物語に投影されていく構成が気持ちいい。最初に提示された疑問が物語の中で解決されていく様子も本当に面白かった。
観終わって、ああ、元気出た!!と思った。
登場人物がみんな愛しいし、それを演じるキャストがホント素敵だった。
弱さも迷いも、それぞれの真実の中で美しい。それはたぶん彼女たちが前を向いて生きているからだ。
ああ、女に生まれてよかったと、ごく当たり前に思った。いや、もちろん男性がご覧になっても面白い芝居だったはずだけれど。
女でも男でも、それぞれが生きていくことをまるごと愛せるような、そういう舞台だったように思う。
さよならなんて 云えないよ
しゅうくりー夢
ザ・ポケット(東京都)
2017/09/06 (水) ~ 2017/09/10 (日)公演終了
満足度★★★
天使長ラファエル様が、まだ駆け出しだった頃のお話……と言われると、しゅうくりー夢ファンとしてはそれだけでちょっと楽しみ度が増す。
しゅうくりー夢では、これまでに「死期の近いた人間(または急逝した人間)にしか見えない天使」の登場するいくつかの作品があったから、そしてそこに登場した天使長様がとてもキュートだったからだ。
駆け出し天使(だった頃の)ラファエルの今回のお仕事は、ある女の子の願いを叶えること。もちろん(?)その子はまもなくこの世を去るのだ。そんなラファエルの説明を、彼氏からのサプライズだと思い込んだヒロイン音無真代は、可愛くて一途な、いやちよっと一途過ぎるくらいの女の子だった……。
タイトルやあらすじからロマンチックなラブストーリーを想像するけれど。
真代の恋人須藤海斗は本当に優しいけれど、ちょっと、いや相当にチャラいし、海斗の親友 遊馬は友だちへの誠実さだけでなく別の想いをも隠しているし、ヒロインの真代だって、とっても可愛いし健気だけれど、ちょっとめんどくさいタイプだったりもして、なかなかロマンチックにはなれなかったりもする。
でも、そういう一筋縄ではいかない面々がそれぞれに魅力的で観ていて楽しかった。
真代や海斗や遊馬だけでなく、元気な女の子たちや合コンで出会う男の子たち、それぞれの恋やその他の(?)想いもまた丁重に描かれる。
恋人同士が、それぞれ「自分はまもなく死ぬ」と思った時の反応や対応の違い。そして、天使や堕天使(!?)や、一筋縄ではいかないけれどそれぞれに切実ないくつもの想いが描かれて、この劇団らしい笑って泣けるハートウォーミングな物語となっていた。
いろは四谷怪談
花組芝居
ザ・スズナリ(東京都)
2017/08/26 (土) ~ 2017/09/08 (金)公演終了
満足度★★★★
1987年に新宿タイニイ・アリスと下北沢ザ・スズナリで上演された『いろは四谷怪談』初演版を元に、現在の座員に加えてOBや30周年ボーイズや日替わりゲストも参加した多彩かつ豪華な顔ぶれによるダブルキャストでの上演となった。
客席は満席で、開演前から熱気に満ちていた。開演時間が近づく頃、座員が2人登場し、軽やかなトークとともに観客に声がけし、空席を詰めるよう誘導する。その後、椅子を持った観客が通路や壁際を埋めていく。
ますます熱気と期待の高まる場内。
鶴屋南北の葬式から始まって、ご存じ四谷怪談の登場人物たちを笑い飛ばし、仮名手本忠臣蔵を洒落のめし、忠義と義理と恋と打算の物語が綴られていく。いや、綴る……なんていう生易しいものではない。笑いと毒をたっぷり詰め込みつつ、歌って踊ってレビューまで見せる、30周年の記念に相応しい華やかで見応えのあるステージであった。
過去の大作をがっつりと全力で再演することで、30年の蓄積が目に見える形となった。それは、作劇についてだけではなく人脈についても言えることで、たとえば日替わりのゲストが発表されたとき、その多彩さと豪華さにアッと声を上げそうになった。
30周年ボーイズと名付けられた若いキャストのがんばりも、OBも含めたベテランの暴れっぷりも、それぞれ見応えがあった。
色悪の代名詞である民谷伊右衛門はマザコン気味の好青年で、つぶれた主家を見限って敵の家に再就職しようとしている。
ポップで露悪的で、でもその中に確かな美しさがある。
フィナーレは、記念の年の公演にふさわしい華やかなレビューで、役者さんたちの麗しい礼装とキレッキレのダンスを楽しんだ。
ラストで降る雪が、客席にも舞い落ちる。膝に落ちた紙のひとひらをそっと手帳にはさんだ。華やかで奇妙に哀切なその物語の名残として。
青の凶器、青の暴力、手と手。この先、
キ上の空論
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/08/31 (木) ~ 2017/09/03 (日)公演終了
満足度★★★
学校の風景。
彼女ら・彼らの交わす言葉の奥に繊細な想いが行き交う。いくつもの短い場面が、乾いた音で切り替わり積み重ねられていく。その中でしだいに見えてくる過去は深い青に彩られて切ない。
劇中で交わされる会話の柔らかい方言の響きが、重なっていく場面にもうひとつの色を加えていく。
あの子の言葉に、土地の訛りがなかったのはそういう訳だったか、と後から思ったりもする。
現在向き合っている大切な人の死と過去の悲劇とを抱えて、ぶっきらぼうにしか振る舞えなかった少女の自責の念が痛々しい。
あの子もあいつもキミのことを大切に思っていたんだよ、と耳もとで言ってやれたらいいのに。
大きな悲劇を物語の背景に置いたことは、そのことに対する創り手も思い入れや必然性が問われなくてはならないだろう。切実さとかすかな違和感の双方を感じたりもした。
それでも、劇中で交わされた会話やそこに込められた彼女ら・彼らの細やかな心の動きは、観終わった後も確かに心に残った。
小竹物語
ホエイ
アトリエ春風舎(東京都)
2017/08/24 (木) ~ 2017/09/04 (月)公演終了
満足度★★★★
「怪談師」という方々は実際に存在するらしい。集まって怪談を語る催しもあちこちで開催されているようだ。
ここでいう怪談は、『四谷怪談』とか『牡丹灯籠』とかではなく実体験に基づく怪異体験談あるいは実話怪談と呼ぶべきもののようだ。
劇中である人物が「私たくさん怪談持ってますから」と言ったり、『遠野物語』の中の挿話を語った人物が非難されたりするのはそれゆえであろう。
もちろん自らの体験には限らない。「これは友人のAさんが体験した話です」みたいなものであったり、あるいは人が体験した話を蒐集し、整理して語ってりするようだ。ま、考えてみれば先の『遠野物語』を編纂した柳田國男がやってたことだって基本は同じなのかもしれない。
蒐集するだけでなく語って聞かせる訳なので、それぞれパフォーマーとしてのキャラクター付けも抜かりない。それゆえ登場人物も濃い面々の集まりとなっている。
この日の集まりは観客を前にしての語りでなくネット中継。技術を担当するのは主宰の友人である人物。
怪談を語る者たちの立場もそれぞれで、主宰であったり常連であったり初参加であったりゲストであったりする。
キャラの濃い怪談師たちがつかの間の集まる中で見え隠れする人間関係。
加えて、劇中で語られる怪談ももちろん見どころである。
怪談師としてならミロくんのクールそうでいてややウエットな語り口が好き。
怪談アイドルの手馴れた風情には安定感があったし。
憑依型というか、結子のはとにかくインパクトがあったし。
主宰の語った、海で死んだ妻と出会う話は、あ、遠野物語、と想うか思わないかでも印象が変わるだろう。
もうひとつ軸になるのは主宰の友人で、この日のネット配信の技術を担当する高橋だ。
開演前の客席とのやり取り。集まりのはじめに雑談として語られたつぶつぶの話(量子力学?)。その中の関わるということについての話。そしてラストのこちら側からあちら側への越境(?)。
後半はそこにまたさまざまな要素が加わってくる。
怒鳴り込んできた男。聞こえるはずのない階段の音。目玉焼きにかけるもの。
実際に現れた幽霊(?)より、人間の方が(いろんな意味で)怖いよ、という話かもしれない。
いろいろ考えるとより面白くなってくるタイプの作品で、一度しか観られないのが残念だ。
ちなみに、目玉焼きには塩コショーで醤油もソースも雨水もかけない派だ。
純惑ノ詩―じゅんわくのうた―
野生児童
小劇場B1(東京都)
2017/08/23 (水) ~ 2017/08/27 (日)公演終了
満足度★★★★
『四谷怪談』をベースに、現代劇として再構築されたある姉妹と男たちの悲劇。
それは自分の中の『四谷怪談』のイメージとはずいぶん異なっていた。伊右衛門といえば歌舞伎では色悪の代名詞のようなキャラクターだ。だが、この作品で描かれた伊右衛門いや伊左雄は、ただひたすらに石珂を愛していた。彼女とともに生き、そしてともに死ぬことだけを望んでいた。
冒頭で彼女にプロポーズし、承諾の言葉を得た彼自身がそう言ったのではなかったか。
ひとつの愛の成就から始まった物語なのに、なぜだかずっと不幸の予感が漂っていた。原作があるからというだけでない、ああもう、どうしたって悲劇になってしまうんじゃないか、と思わせる不穏な空気が物語を覆っている。
伊左雄をはじめとする登場人物たちの、恋というより執着と呼びたくなるような強過ぎる想いゆえだろうか。
ザワザワと背筋を震わすような悪い予感がしだいに現実のものとなっていくのが、いっそ小気味好いくらいであった。
終盤になって続けざまに悲劇が起きてしまうくだりは、呼吸をするのも忘れそうなくらいの緊迫感であった。
主演のお2人の切実かつ壮絶な愛情が、観終わった後も胸に残った。
15 Minutes Made Anniversary
Mrs.fictions
吉祥寺シアター(東京都)
2017/08/23 (水) ~ 2017/08/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
公演チラシの裏面や公式サイトに記載された上記の文章中に「予告でも試食でもない15分の可能性」というフレーズがある。
Mrs.fictionsが継続して主催してきた15分の短編で綴るショーケースイベント『15 minutes made』。観に行けば、まさに『予告でも試食でもない』独立した作品としての15分を堪能できるだろう。
加えて今回は10周年の記念公演とのこと。それにふさわしい素敵な団体が集まっている。
ね、もう、この顔ぶれだもの、どうしたって楽しいよね。15分の作品1つ観て帰っても満足できるヤツなのに、それを6本。キラッキラの約2時間。
美術やその他さまざまなスタッフワークも含め、アニバーサリーにふさわしい素敵な公演だった。
【本日最終日!27日(日)13時と17時】我飯
劇団鹿殺し6年生企画
Geki地下Liberty(東京都)
2017/08/23 (水) ~ 2017/08/27 (日)公演終了
満足度★★★
ややドタバタ気味のゆるいコメディ、と途中までは思った。登場する人物が片っ端から一癖も二癖もあって、その奇妙な言動に笑っているうちに、事態は常軌を逸していく。
そうしているうちに、タイトルに込められた(複数の)意味がわかってきて、ニヤッとしたりもする。
危うい情熱と人間関係のバランス。アクションや外連味も加えつつ走り抜ける熱量が、なんとなく母体である鹿殺しを思わせる。
やや温かい印象のラスト……にたどり着きそうになったそのとき、ブラックな仕掛けが施されていたりもして、最後まで油断ならない物語であった。
ナイゲン(2017年版)
feblaboプロデュース
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2017/08/11 (金) ~ 2017/08/21 (月)公演終了
満足度★★★★
『ナイゲン』については、2015年にアガリスクエンターテイメントによる最終公演を観た。
だから作品冒頭ではついそのバージョンのキャストや雰囲気が脳裏に浮かんだりした。しかし観ているうちに、目の前で進んでいく会議に没頭していった。
戯曲の完成度による部分もあるし、以前のイメージを裏切ろうとする演出の効果でもあろうし、今回のキャストの熱演による部分も大きいだろう。
内容は知ってるはずなのに、何度も笑った。
特に、海のYeah!!の破壊力や元気一杯の監査が印象的だった。
そして、最後に議長が「僕はこれがナイゲンだと思います」というのを聞いてグッときた。時代が変わりオトナが変わっても、彼らはきっと大丈夫、となんとなく思った。
そんなふうに思ってしまうくらい劇中の高校生に感情移入し、議論にのめり込んだのだろう。
また機会があれば観たい作品である。
瞬間光年
FUKAIPRODUCE羽衣
こまばアゴラ劇場(東京都)
2017/08/18 (金) ~ 2017/09/05 (火)公演終了
満足度★★★★
ささやかな日常から飛翔し宇宙に向かう人の想い。積み重ねられる6つのエピソードがそれぞれ少し可笑しく少し切ない。
それぞれの暮らしの中のありふれた、あるいは本人にとっては深刻な出来事。すべてこの地上で起こってるはずなのに、何万光年の彼方へと想いは駆け巡る。
2人の宇宙飛行士の繰り返される会話が、それぞれのエピソードをつなぐ。
最後には、飛翔した想いが宇宙の果てまで行くようなダンス。
長い旅を終えたような物語の終わりに、客席でひとつ深く息を吐いた。
髑髏城の七人 Season鳥
TBS/ヴィレッヂ/劇団☆新感線
IHIステージアラウンド東京(東京都)
2017/06/27 (火) ~ 2017/09/01 (金)公演終了
満足度★★★★
捨之介を阿部サダヲさんが演じる。
役の設定も衣装等もこれまでとは変えて、元忍びの捨之介として生き生きと走り回る姿はいかにもハマり役であった。
天魔王の森山未來さんと蘭の介の早乙女太一さんの華麗な殺陣や極楽太夫 松雪泰子さんの妖艶できっぷのいい極楽太夫も素敵だった。
個人的には粟根まことさんが演じた計算高い渡京と池田成志さん演じる贋鉄斎がお気に入りであった。
ふだん行き交う街から少し離れた劇場で毎日繰り広げられる物語は、ある種の祝祭めいて高揚感を誘う。
新機軸の箱に鉄板の物語を詰め込み、観客をたっぷり楽しませようとする気概が感じられる舞台だったと思う。
ルート64
ハツビロコウ
【閉館】SPACE 梟門(東京都)
2017/08/05 (土) ~ 2017/08/11 (金)公演終了
満足度★★★★★
あの宗教組織による弁護士一家殺害事件をモチーフに、一見ロードムービーのようでいて、実はある種の閉塞感を描いていたように思える。
とにかく鐘下辰男氏による戯曲が面白い。4人それぞれが語る過去。教団での位置付け。修行。互いへ向ける感情の動き。
ヒリヒリする緊張感と行きつ戻りつする時間軸。4人の感情の動きに合わせて観客も揺さぶられ続ける。
舞台上で音響や照明を操作する演出も面白かった。
約2時間の芝居が終わって劇場を出る。濃密な空間から解き放たれて、思わず伸びをして深呼吸する。
駅までの道を急ぎながらも、ヒリヒリするような緊張感が心地よく肩のあたりに残っているような気がした。
ヨークシャーたちの空飛ぶ会議
公益社団法人日本劇団協議会
ザムザ阿佐谷(東京都)
2017/07/26 (水) ~ 2017/07/30 (日)公演終了
満足度★★★★
劇団扉座主宰 横内謙介氏の初期の戯曲を、同じく扉座の鈴木里沙さんが演出する舞台。
14時開演というのに、受付開始の13時にはすでに観客が列を作っていたらしい。演出の里沙さんが劇場前で人々を案内している。受付にも前説にも扉座の役者さんたちの姿が見える。
千秋楽ということもあって、ぎゅうぎゅう詰めの満席である。狭い空間にビッシリと詰め込まれて、90分ほどの舞台を観た。
「テーマ」を喰らい「無意味」さえ飲み込んで走り出した物語は、約30年前の戯曲の寓意を生かしつつ、時代に合わせたテンポのよさで疾走し続けた。
我々は自分自身を閉じ込める檻に気づかず生きているのか。ラストで飛び立った鳥はどこへ向かうのか。
込められたメッセージは、観る者によってさまざまなことを考えさせるだろう。若々しさと同時にある種の郷愁を感じさせる舞台であった。
3度目のカーテンコールに少し困ったような笑顔を見せた犬飼さんと、受付の横で帰っていく観客一人ひとりに頭を下げる里沙さんの生真面目な表情が印象に残った。
新宿コントレックスVol.17
Aga-risk Entertainment
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2017/07/28 (金) ~ 2017/07/29 (土)公演終了