満足度★★★★
過去を振り返るように語り始める男。夕焼けに照らされたどこか懐かしい風景。浜辺で言葉を交わす金髪の少年と男言葉の少女。
西洋人の父を持つ金髪の少年けんとと戦争に行った父の帰りを待つ少女ぼたんは、同級生たちの輪に入れないまま、2人の時間を重ねる。
旅する漫才トリオ サマーフラワーズ。ユリ、ドクダミ、ボタン……とそれぞれ花の名前を持つ元気いっぱいの女たちは、ケンカしたり稽古したりしながら旅を続ける。
2つの時間軸が、それをつなぐ(であろう)ケントの語りとともに進んでいく。
戦争は激しさを増し、空襲に備える子どもたちの様子や素直になれないほくろとぼたんの友情などを繊細に描きつつ物語は進む。
一方、劇中劇めいた漫才を見せつつ、町から町へと車を引いてサマーフラワーズは旅を続ける。
戦争。旅芸人。散りばめられた笑いも郷愁もどこか鄭義信さんらしい。
この物語は、金髪の少年けんとが大人になって、過去を振り返っているのか、と思いつつ観ていた。
そうではない、と気付いたとき、さまざまな言葉や場面が改めて思い返された。
逢えない中で、ぼたんとけんとがそれぞれに見上げる月。空襲。燃えさかる炎。倒れ伏す人々。母へと伸ばした手。
少年けんとを演じた泉さんの星の王子のような金札や少し寂しげな雰囲気と大人のケントを演じる井村さんの透明感を感じさせるたたずまいに説得力があった。
残されたぼたんは大人になり、ボタンとして、人々の笑顔のためにユリとドヌタミとともに旅を続ける。
東西の名作をややドタバタな芝居仕立てにしたサマーフラワーズの漫才(?)が楽しく、ケンカもしつつ前向きに生きる彼女らのエネルギーに元気付けられる。
ドクダミ役の金村さんがこれまで拝見した役柄(ロボットの少年やモーツァルトなど)とまた違うインパクトがあって印象的だった。
歌声や生演奏も物語によく合って、もの哀しい遠い思い出のような柔らかな時間となった。