15 Minutes Made Anniversary 公演情報 Mrs.fictions「15 Minutes Made Anniversary」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    公演チラシの裏面や公式サイトに記載された上記の文章中に「予告でも試食でもない15分の可能性」というフレーズがある。

    Mrs.fictionsが継続して主催してきた15分の短編で綴るショーケースイベント『15 minutes made』。観に行けば、まさに『予告でも試食でもない』独立した作品としての15分を堪能できるだろう。

    加えて今回は10周年の記念公演とのこと。それにふさわしい素敵な団体が集まっている。

    ね、もう、この顔ぶれだもの、どうしたって楽しいよね。15分の作品1つ観て帰っても満足できるヤツなのに、それを6本。キラッキラの約2時間。

    美術やその他さまざまなスタッフワークも含め、アニバーサリーにふさわしい素敵な公演だった。

    ネタバレBOX

    『フランダースの負け犬』
    昨年の柿喰う客フェスでも上演された中屋敷さんの初期の名作を大胆にリメイクし、キャスト4人上演時間15分というコンパクトな作品にまとめた。

    左右に分かれて立つ七味さんと田中さんの語りで物語の背景や状況を伝えつつ、深谷さんと葉丸さんの2人のやり取りに焦点を絞って展開する。

    15分の作品があらすじでも序章でもなくきちんと一つの物語となり得るという、この15mm自体の象徴のようなできばえとなっていた。え、前に観たバージョンより好きかも、という意見もチラホラ。ただ、短時間かつ少人数でまとめたため説明等でハイテンポの語りが続き、一部聞き取りにくい部分があったのが残念。

    一方、コンパクトになったことで4人のキャラがくっきりと立ち上がった。

    ハイヒールを履き背筋を伸ばした七味さんと、揃いの黒いマニキュアをした田中さんが、「権力」や「打算」を象徴する。

    理不尽な運命の中で葉丸さんが見せた笑顔と震えた声、そして非情になりきれず深い葛藤を感じさせた深谷さんの演技が、鮮やかに残った。


    『ハルマチスミレ』
    目が潤むとか、そういうレベルでなく泣いた。しかもなぜだか回を重ねるごとにますます涙が出て来た。

    昼と夜ですれ違ってしまう恋人たち。
    謝りたいことと許したいことを抱えた友人同士。
    夢を追う少女とその友だちのどこか甘やかな関係。

    やってられっか!と叫ぶ少女らとそれを見守る少年たち。

    大なわとびを高校生活に見立てて、なんて言ったら、ご覧になってない方には何のことかわからないだろう。実際に観てみれば一目瞭然なのだけれど。

    ステージに落ちた細長い光が、縄跳びのなわになり、電話線になり、あるいは他の何かになる。

    縄跳びの掛け声として散りばめられた言葉が、物語のリズムを刻んでいく。

    カーテンコールのたびに、目を潤ませる彼女らにつられて客席もまた涙を拭く。若い人のがんばりに向けた感傷だけでない、表現として確かに胸に届く想いがあった。

    パッと咲いて散る桜でなく、慎ましく美しい小さい、これから春を待つハルマチスミレ。

    美しく生きていきたいなぁ。と叫ぶ少年。
    ひとつのりこえるたびに、人は美しくなれるのです、という少女。

    歳を経てもなお、そういう美しさの小さなかけらを大切に抱えていたいと、そんなふうに思うのだ。

    この会場でこの枠組の中で上演された彼らの舞台。ある意味、公演全体を象徴する作品となっていたようにも感じられた。


    『BBW』
    台詞はほとんどなくJポップに乗せたダンスで展開するラブストーリー。

    なんていってもまずは会場のノリノリ具合が楽しい。この団体のファンも大勢いらっしゃっているのだろう。ステージ上の彼らもよくわかっていて客席をあおる。

    しかし、そういうライブめいた楽しさだけでない。

    パフォーマンスとしてだけでなく、物語としての精度も高い。定型的なストーリーの中に登場人物の想いが生き生きと立ち上がる。

    ヒロイン役のお二人が本当に可愛い。ダイエット後を演じる野田さんはもちろんだけれど、ダイエット前の役の原田さんも仕草や表情がむっちゃ可愛い。しかも動きがキレッキレである。

    ヒロインだけでなく、今人さん率いる応援団。天使と悪魔、ケーキ屋のお二人、インストラクター。それぞれのキャラが印象的で楽しかった。


    『ラスト・フィフティーン・ミニッツ』
    重たい展開の物語を軽やかに笑いを多めに含ませながら、しかし切実に描く。

    三歳の娘に向ける両親からのビデオレターは、まもなく爆発する宇宙船の中から送られるものだった。

    愛する娘に言い残したいこと。

    15分という限られた時間の中で、娘への説明として観客に状況を伝えつつ、2人の出逢いとここに至るまでの人生を描き出す、細密な脚本。それを軽やかに、チャーミングに立ち上げていく筒井さんと渡邊さん。

    ほっぺについたカルボナーラ、いや、雪のひとひらを、彼女がぬぐう。冒頭から中盤、そしてラストへ引かれた伏線を回収する台詞がキレイに決まる。

    チャーミングで切ない物語。あるいはここから2時間の物語が始まるのかもしれない、と思ったりもした。


    『想いをひとつに』
    何ごと?何なの?と思いながら、そうとう笑った。

    原宿にやってきたオシャレに無縁の女の子たち、おしゃれ三銃士(?)、編集者たち、デザイナー、人間に一番近いゴリラ(??)、ガンジー(???)。

    次々と繰り出される台詞やアイテムの脈絡のなさがホントに可笑しい。こういうのをいったいどうやって考えつくのだろう。

    他の団体とのバランスもあってか、ウワサを聞いて予想していたより下ネタは少なめだったけれど、回を追う毎に人数が増えたり(他の団体のキャストが加わったりしていた)、なにげにバージョンアップしている辺りも可笑しすぎる。

    ゆる〜くふざけているようで、実はいろいろ確信犯なんじゃないかと思ったりもする。

    緊張感に満ちた作品が多かっただけに、ここにこの団体が加わるというのはいいバランスだったのだろうという気がした。


    『私があなたを好きなのは、生きてることが理由じゃないし』
    公演を観たあと友だちが、Mrs.fictions、印象変わったね、なんかあったのかなぁとつぶやいていた。

    どうなんだろうなぁ。そういえば昨年の夏とか今回とか、以前とやや作風が変わっただろうか。そういえば時間の扱い方がとても印象的で、それがどちらもスゴく効いていた。

    今回は、主人公が他の人々の縛られている世のことわりから逃れて自在に客席と関わったり、メタ発言をしたりする。その流れで指を鳴らすことで時間の経過を表したりするのだけれど、何度も指を鳴らしながら恋人を見守る主人公の表情を見れば、さまざまなことわりから自由になったとしても、人を想う気持ちはやはり消えずに胸に残るのだ。指を鳴らし続ける彼の表情は、思い返すだけで切なくなる。

    それもまた生きてる者の思い描く希望に似た何かかもしれないけれど。

    遺された人々の日々は確かに過ぎゆき、現実の暮らしが積み重ねられていく。それでも、その中で消えない想いはそれぞれの胸に形を変えつつ留まっているのだろう。

    オバケのQ太郎をもじった登場人物のネーミング(久太郎、優子、おうじろう)など遊び心も相変わらずだけれど、なんていうか確かに変わってきているのかもしれない、と思った。

    個々の人間のささやかな想いに寄り添いつつ、もう少し大きな、普遍的な何かがそこに感じられるような気がした。

    4人のキャストがそれぞれに魅力的で、特にお父さんを演じた岡本篤さんがなんとも言えない味わいを醸し出していた。

    懐かしいようで、でも確かにこれまで観たことのない物語がそこにあった。

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    2017/12/31 09:01

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