Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

41-60件 / 688件中
空ヲ喰ラウ

空ヲ喰ラウ

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

山に入って木の高所の枝打ち などを行う作業員を空師というらしい 。山深い集落で、林業が衰退する中、かつて7つもあった空師集団が今 2つしかない。そのうちの大きい方の梁瀬組が、もう 女3人しか残っていない 中村組 に共同作業を呼びかける。しかし 中村組としては今までの経緯 もあって素直に受けられない。そんなところに、山に迷い込んだ若者が中村組見習いとして入ってくる。
山育ちの人間と都会の人間との対立や、天井までセットされたうっそうとした木組みを、縦横に上がり 下がりする姿は素晴らしい。群像劇ならではのパワーがある。
惜しむらくは後半、新人青年春一(吉田知生)が、命の危険を感じるほど追手を恐れている設定に説得力が乏しい。吉田氏は白のつなぎで図体はでかいが気の弱い青年を好演していた。もう少し無理のない設定を考えてほしい。

無駄な抵抗

無駄な抵抗

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/11/11 (土) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

前回「終わりのない」は「オデュッセイア」がモチーフだったそうだ。今回は「オイディプス」だというから、どのように「母と交わり、父を殺すのだろう」と思いながらみた。だいぶん変形した形で「運命」は姿を現す。最後に明らかになる運命には、驚きがあった。

いつもの前川知大のような異次元の体験がないのは残念だった。
休憩なし2時間

ネタバレBOX

DV父が娘(池谷のぶよ)には手を上げず、恐れていたようだった理由は、娘が母と伯父の間の不倫の子だったから。その娘が伯父の子を妊娠・出産していたとは。母が書き残した手紙を読んで「こんなこと、墓場まで持って行けよ」という気持ちはわかる。
シモン・ボッカネグラ

シモン・ボッカネグラ

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ヴェルディのオペラに、こんな作品があるとは知らなかった。あらすじにあるように、少々話が複雑。第一幕になって、プロローグから25年たっているとはわからなかった。とはいえ、人間関係がわからないほどではない。アメーリアをめぐる実父シモンと、養父。恋人と横恋慕するパオロの三角関係が軸になる。パオロがイアゴーのような、恨みっぽい策略家で複雑。2幕でシモンが「おれは犯人を知っている」とうたうので、パオロをはめるつもりなのかと勘違いした。実は犯人を知らない強がりだった。

歌手たちの歌の聞かせどころはたっぷりあって、それは見事なものだった。
初日に見たが、天皇陛下がきており、手荷物検査などあり、天皇の入場退場には拍手が起きた。残念ながら3階席から、その姿は見えなかった。

ねじまき鳥クロニクル

ねじまき鳥クロニクル

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2023/11/07 (火) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初演を見たので2回目。蜷川幸雄演出の「海辺のカフカ」よりも、村上春樹の世界観をうまく舞台に現出させたと思うので見に行った。が、仕事で70分遅れていったので、前半90分のうち見られたのは15分と、後半75分。休憩込み3時間。

「ねじまき鳥」=村上ワールドの持つ、深部の暴力性の噴出を、ダンスと生バンドのドラムなどを使って、表現しているところが一番の見どころと思う。身体性と音楽性がカギで、言葉はあまり響いてこない(「6歳の時から声を出さなくなったの。何かあったのか、決意したのか」など、説明やほのめかし)。
音楽は大友良英が演奏しているんだから、そりゃあ力が入ってる。

ネタバレBOX

前半は、①プールサイドで岡田(渡辺大知)と笠原メイ(門脇麦)がしゃべり、ももの長い古めかしい型のピンクの水着の人々がその前を泳ぐ②金髪の娼婦(加納マルタ/クレタ=音くり寿)が綿谷ノボル(大貫勇輔)に暴力的にもてあそばれる二人のアクロバティックなからみ。「何かがかいくぐるように抜け出てきて、私は以前の私とは違ってしまった」③井戸の底へ降りていく=6人くらいがまるい列になって次々舞台中央の穴に吸い込まれる
(見てないが、この前に、ノモンハンで皮をはいで殺される回想しーん、満州の動物園で動物が殺されるシーンもある)
後半はホテルから。フロントがナツメグ(銀粉蝶)と息子の声を出さないシナモン(松岡広大)。①岡田(成河)がダンサーたちに逆さにされながら、着替えるパフォーマンス②「彼女たち」が壁をすり抜けるように現れて群舞…この後は眠くて、記憶が飛んでいる。起きていたつもりだったが、かなり寝たようだ。③ちびの牛河(さとうこうじ)と岡田のシーンもあったが、何を話していたか覚えてない。③時々、明るく軽快な曲をバックにメイが髪の毛をたくさんおさげにして壁に張り付けた書き割りのように出てくるが、何をしゃべったか? 行方不明の妻のクミコが青い裾長のワンピースで出てきて、やはり何か話していたが…。
最後は岩の上?に腰かけたメイと岡田で、綿谷ノボルは、クミコが人工呼吸器を外したため死んだことがあかされる。そして幕(あまりカタルシスはない)
マクベス

マクベス

日生劇場

日生劇場(東京都)

2023/11/11 (土) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ヴェルディのオペラの中では、それほど演奏機会が多くないが、意外と面白かった。もっと演じられていいと思う。そもそもシェイクスピアのマクベスが見せ場の多いドラマチックな芝居なので、ヴェルディのオペラの作風とぴったり合う。
一幕はマクベス夫人(田崎尚美)の登場のアリアや、夫(今井俊輔)妻の二重唱など、伴奏なしでアカペラの部分が多い。これが意外と緊張感を醸し出して聞かせる。ダンカン王殺害が判明しての、1幕最後のフィナーレは金管などが響くど迫力で、最大の盛り上がりだった。それまでがマクベス夫妻の密談のような抑えた音楽なので、その落差が効果的だった。
二幕のバンクォー(伊藤貴之)殺害場面も見ごたえ・聞きごたえがあった。その後のマクベスの宴席での錯乱(バンクォーの亡霊におびえる)も、一種の「狂乱の場」になっていて、音楽的にも聞かせる。二幕冒頭だったか、一幕だったか忘れたが、マクベス夫人が権力欲にとりつかれた野心を歌うアリアも一種の「狂乱の場」で迫力があった。
三幕・四幕はなぜか飽きてきちゃって、一・ニ幕がよかった。見ながら、「マクベス」は「罪と罰」にに散ると思った。野心から殺人を犯した犯人が、犯行後に心の平穏を失って自滅していく展開が重なる。

連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/11/09 (木) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2000年の初演、翌年の再演から22年ぶり。ソ連軍将校にいわれて、余興の台本作りに取り組む二人の劇作家(高橋和也、千葉哲也)…という設定はおぼろげに覚えているが、後は全然忘れていた。若い作曲家(西川大貴)とマドンナ(霧矢大夢)の破局を防ぐため、「ハゲを隠す坊主頭」「嘘を隠す大嘘」で、マドンナと元満州国役人の俳優(石橋徹郎)の衝撃シーンを芝居の中に組み込んでしまおうという大芝居。演劇の「キネマの天地」のように、演劇は人を救えるという思想を前面に押し出した演劇賛歌である。そこに、政府の満州引揚者を受け入れない棄民政策の告発をちょいときかせている。

後半、芝居の稽古の場面がみごとに笑わせる。石橋徹郎が長ーいロシア人の名前を云えずに口ごもったり、止むにやまれず選出家に泣きついたり、その困りぶりがコミカルかつ生々しくて爆笑に次ぐ爆笑。

ネタバレBOX

『井上ひさし全芝居』の扇田昭彦の解説で、井上ひさし自身が参考文献に挙げた芝居が元ネタになっていることを知った。よくできてはいるが、敗戦後満州を舞台にしている割には軍部批判や戦争責任問題がなく、井上ひさしにしてはシンプルな芝居だなと思ったが、そういうことなのかと納得した。
ラストの、背景が動いて舞台の俳優が歩いている風に見せる浅草劇風シチュエーションの紹介も一種の演劇論になっている。
アメリカの怒れる父

アメリカの怒れる父

ワンツーワークス

駅前劇場(東京都)

2023/10/26 (木) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

みる前は韓国系アメリカ人の父親の話かと思っていたが、違った。ウォール街の仕事でクズになり、仕事も失って、麻薬とアルコールに身を持ち崩したビル(奥村洋治)。息子のウイル(米澤剛志)もやはり証券トレーダーらしいが、虚業に嫌気がさして、アラブ系の妻ヘバ(北澤小枝子)をのこし、スーダンの支援活動へアフリカに行ってしまう。題材としては重い。韓国で上演した時、客席からしじゅう笑いが起きたというが、ホント、どうしてだろうか?

ネタバレBOX

息子がアルカイダに処刑され、その映像が全世界にながれるという衝撃的な事件。ビルは再び薬と酒に逃避し、周囲の忠告にも耳を貸さず、無為に閉じこもる。その自閉的状況を、若いビルの幻(金光柊太郎)との対話で芝居として立ち上がらせる。また若いナンシー(東史子=彼を振って、デイビッドに走ったヒッピーの女性)、死んだデイビッド(山下雷舞=髪を上半分だけ金髪にして目立つ)も幻になって現われ、彼の錯乱、堂々巡りは深まっていく。

しかし、これは物語。実話の父親マイケル・バーグは、息子を殺したアルカイダの男達よりも、報復戦争にまい進するブッシュ大統領を批判し、声を上げた。「息子を奪った殺人者たち以上に、私は命を終わらせるための政策を立てる人々を非難します」という手紙を、息子が殺された直後の、ロンドンでの反戦デモに送った。舞台が終わった後の帰りに、観客はその手紙を受け取り、舞台とは別の感動を味わうことになる。
劇で殺されたウィルが「一瞬だけど、僕は彼らと友達になった。お互いにのぞまないことをせざるを得なかった」という。背景にある事実に粛然とした。

私も9・11後に、「平和を求める9・11遺族の会」だったか、報復戦争の中止を求めて活動する遺族(歌手だった)を取材したことを思い出した。まさにアメリカの良心ともいうべき人たちだ。その良心の声が、こうして日本でも伝えられることをうれしく思う。いまガザ攻撃に狂奔するイスラエルの中にも、こういう良心の声はあるはずだが、日本のメディアには出てこない。
フートボールの時間

フートボールの時間

(公財)可児市文化芸術振興財団

吉祥寺シアター(東京都)

2023/10/26 (木) ~ 2023/11/01 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

見せ場で、良妻賢母教育の権化だった裁縫の宇田先生(林田麻里)が若く開明的なミチコ先生(堺小春)にいう。「私は先生が苦手です。私を動揺させるからです」と。「しかし、私は流されたりしません。私は私の石を投げます」と。うかつながら、ここにきて、どういうラストになるかが分かった。その前、生徒たちが何よりの楽しみにしていたフートボール(サッカー)が禁止され、ボールもすべて穴をあけて捨てられて、いったいどういう風に物語をしめくくるのかと、いらぬ心配をしていたからだ。

宇田先生が体育祭で「あなたたちを傷つけることは、私を傷つけることだと気が付きました」の言葉には無理がない。それに続くラストこそ演劇的フィクションをいかんなく発揮した感動のクライマックスで、思わず涙が出た。

ネタバレBOX

丸亀高校が2018年全国高校演劇大会で最優秀賞を受賞した作品。その1時間の舞台を、2時間弱に脚色した。素材、元の台本、脚色・演出、いずれもすばらしい。高校演劇大会は、最近いくつか見たが、台本は教師がつくるほうがいい作品になる(生徒がつくってなかなか物語としてメリハリがつけられない場合が多い)。しかし、高校生たち(あるいはそれと同年代の女学生たち)を中心に描いた時に、高校演劇は最も輝く。それを痛感した。

現実の丸亀高等女学校でフートボールをしたのが1920年ごろとすれば、その時、頑迷な人々に禁止されても、25年か30年後には時代は変わる。壁に挫折した新任女性教師は、50代で現役として戦後を迎える。女子サッカーが日の目を見る時代を見るだろう。この時代、意外と社会の変化は速い、と思いながら見ていた。
BILOXI BLUES

BILOXI BLUES

東宝

シアタークリエ(東京都)

2023/11/03 (金) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ニール・サイモンの自伝的戯曲。1943年、ユージン・モーリス・ジェローム(濱田龍臣)は10週間の新兵訓練でミシシッピ州のビロクシー・キャンプへ。そこで寝食を共にした5人の仲間と、新兵を徹底的にしごいて規律と服従をたたきこむ鬼軍曹トゥーミ―との出会いと別れを描く。娼婦のロウィーナ(小島聖)との童貞喪失と、カトリック女学生のデイジー(岡本夏美)の恋もある。

なんといってもニューヨーク州出身の頑固で読書家のユダヤ人、アーノルド・エプスタインの存在が光る。最初はただ胃弱の神経質な落ちこぼれ兵なのかと思うと、次第に芯の強さ、無理を許さない合理的思考が明らかになっていく。とくに、トゥーミーのしくんだ「盗難」事件を、みずから犯してもいない盗みを告白して、一矢も二矢も報いるところはすごい。エプスタイン演じるのは宮崎秋人。宮崎は真面目な坊ちゃん刈りと眼鏡で、二枚目を隠して、これまで見たのとは全く別人。繊細で偏屈なエプスタインを好演した。エプスタインの敵役であるトゥーミー(新納慎也)も、優男がサディスティックな軍曹を演じるから、そのギャップにすごい面白みがある。そしてコミカルでなく怖い。
この二人を描くことで、サイモンの戯曲としては、最も深みがある作品かもしれない。

良いせりふがいくつもある。とくにユージンの「文字に書いたことは皆信じてしまう」という教訓は、いまのSNSの炎上、ネット社会(その走りだった佐世保の小6女子の事件)を見ると、その意味は一層深い。マクルーハンは「聴覚型社会」から「視覚型社会」への転換を指摘していたそうだ。
ほかにも「どうしてわざわざ苦労をしょい込むのか」問われて「苦労がなければ人生は朝の11時で終わる」(エプスタイン)。「君は人生へのツッコミが足りない。傍観者に過ぎない。人の言動をノートに書いているだけ。人生のどまんなかにとびこまなければ」(同)とか、理性などいらない「兵隊が敵の前に飛び出すのは、けつに銃剣を突き付けられているからだ」(トゥーミー)等。「彼女の名前を思い起こすと、小さな心臓発作を起こす。命を奪うほどではないが」という恋愛気分も。
「人間以下の異分子、へそ曲がり、落ちこぼれ云々」の、トゥーミーのエプスタインへの敬意を秘めた悪口もいい。
2時間45分(休憩20分込み)

ネタバレBOX

エプスタインのモデルもいたのだろうか。ヨーロッパ戦線で行方不明、遺体も見つからないという最後だったが。また歌が好きなカーニーは、6ケ月砲撃にさらされて精神病に、二度と歌わなかった。頭は足りないが突進力のあるワイコフスキ(大山真志)は、片足を牛なう。それぞれの戦争は苦い。ユジーンは戦場に行く前に、けがで「星条旗新聞」記者に回され、作家デビューを摑む。「罪悪感を覚える」と告白していた。
逃げろ!芥川

逃げろ!芥川

文学座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/10/27 (金) ~ 2023/11/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

東京から下関(乗り継いで長崎)までの芥川龍之介(若松泰弘)と菊池寛(瀬戸口郁)の二人旅。当時の2等はロングシートだったそうで、舞台セットは長ーいベンチシート。どんな道中が始まるかと思っていると…。

大きく4つの場面がおきる。起承転結と言おうか。最初は友人でありライバルである二人の掛け合い。スペイン風邪の流行中で、菊池寛がマスクを外そうとしないなど、当時と今と重なる状況もある。田山花袋、志賀直哉などが芥川龍之介の「奇抜さ」や「拵えもの」を批判した、同時代評に、いちいちやり返したり。菊池が芥川を嫌な男に書いた「無名作家の日記」がきいている。
「気をつけないと噂に尾鰭がついて、足まで生えてきて勝手に歩いていく」と、気の利いたセリフもある。

続いて、突然女たちが車中に現れる。まずは「俸教人の死」で焼け死ぬロレンゾ。さらに「地獄変」で焼き殺される絵師の娘。そして「藪の中」の国司の妻だが、これはまだ芥川が書く前で本人もわからない。登場人物たちが「どうしてこんな酷い死に方をさせるんですか」「私が死んだのは誰のせいですか」と作者をなじる。急に活気付いてきて、本作で一番弾けた場面だった。

そして転になるのが、この女たちが頭巾を抜いだりして、芥川と関係のあったリアルな女性たちに変わるところ。そうして、芥川の憂鬱な「晩年」へと話はうつっていく。

「河童」「或る阿呆の一生」など晩年の自嘲的作品が、次第に行き詰まっていく芥川を示す。「死にたがっていらっしゃるんだそうですね」「いえ、生きることに飽きただけです」など、若い時に読んだはずだが忘れている。今聞くとドキリとした。

作家の評伝劇で、現実と虚構が入り混じる趣向など、井上ひさしを思わせる。最後に、芥川の人生から現代へのメッセージが立ち上がれば、いうことなかったのだが、そこが残念。芥川龍之介を熱心に読んだのは大学生の頃と、国語教師として勤めていた頃だった。いろいろ思い出すことも多いし、知らなかったことも多かった。

ネタバレBOX

最後、菊池がつぶやく「君は、誰よりも愛したとともに、誰よりも近づきにくい友だったのだ」と。
道産子男闘呼倶楽部『きのう下田のハーバーライトで』

道産子男闘呼倶楽部『きのう下田のハーバーライトで』

モダンスイマーズ

OFF OFFシアター(東京都)

2023/10/24 (火) ~ 2023/10/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

笑えて笑えて ちょっとほろ苦い大人のコミュニティです ツムラが 一方的に突っ走る危ない男 を演じ 、犬飼がそれに振り回される 大人しい男を演じる。 大学で犬飼が落とした君 消しゴムを キリスト教の家に生まれた津村が拾って親しくなるところから始まり、津村の思い込みで非公認の応援団を作る。最初はドン引きだった犬飼も破れかぶれでコールする。それが注目集めて、学内の有名人になったのに、津村は公認されないなら意味ないと退学…
一方的にやめてしまった津村がいつのまにか実演販売家に。つまらない仕事でくすぶっていた犬飼が、「応援団の演技をしたら」と言った一言を、実行したら大ブレイク!
と、笑わせながらの人生かいこ。マネージャー

ネタバレBOX

になった犬飼がテレビの仕事に津村を押し上げ、津村はアッパー○○の芸名でブレイク。ここで主導権が入れ替わり、津村が引きずられてぼやきはじめる。この逆転の機微がみそ。酒が増えた津村が暴力事件をお越し、そこからもうヒトは乱
尺には尺を / 終わりよければすべてよし

尺には尺を / 終わりよければすべてよし

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2023/10/18 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「尺には尺を」
面白かった。「終わりよければ」よりも、大いに弾けた。大満足。なかでも貞淑な修道女見習のイザベラ(ソニン)が抜群だった。死刑判決を受けた兄(浦井健治)に「私が名誉を失うくらいなら、兄さん、潔く死んでください」ととんでもない宣告を平然とやるところがおかしい。ベッドトリックは「終わりよければ」と共通していて、この2作を交互上演する理由が分かった。
女性たちがスケベな男たちにしっぺ返しをするという仕掛けも似ている。

公爵代理のアンジェロ(岡本健一)が主役かと最初思ったら、そうではなかった。身を隠して、神父に化ける公爵ヴィンセンシオ(木下浩之)が中心。最終場面、「終わりよければ」同様に、こちらも最後の最後まで老神父の正体を明かさないで、大いにじらす。しかし、老神父が実は公爵だったと、はやがわりよろしく正体を明かすと、見事な大岡裁きで一件落着。これこそ「水戸黄門」の源流だと思った。ただ、アンジェロが厳格な政治をやるだろうとわかっていて、それを陰で傍観するというそもそもの公爵の作戦は、いただけない。

典獄(立川三貴)の板挟みになりつつ寛大に行動する良心性、酔っぱらいの死刑囚バーナーダイン(吉村直)の庶民性も光った(ちらりとしか出ないけど)。チンピラのルーシオ(宮津侑生)の、遠慮ない公爵への悪口、黙れと言われても最後まで茶々を入れる道化ぶりもよい。女郎屋のおやじのボンビー(小長谷勝彦)のダジャレと身振りを駆使したギャグ尽くしも見事だった

尺には尺を / 終わりよければすべてよし

尺には尺を / 終わりよければすべてよし

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2023/10/18 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「終わりよければすべてよし」
死んだ父伯爵の喪から、ヘレナ(中嶋朋子)のフランス王の治療、バートラム(浦井健治)への求婚まではヘレナの目論見通り。ところがバートラムは、断固ヘレナを拒み、イタリアの戦場へ。そこでヘレナもイタリアへ巡礼者に身をやつして、なんとしてもバートラムをわがものにしようと…。と、ここまでは台本通りという感じで気分がのらない。

ところが、最後にきて、がぜん面白かった。ヘレナは死んだと思われているから、バートラムは王の勘気も解け、ラフュー公の娘と婚約…と、明後日の方から始まって、二つの指輪がカギになって、バートラムの甘い夢はもろくも崩れていく。その慌てぶりやごまかそうとしての右往左往が面白い。ダイアナ(ソニン)が「あの男は私にと結婚の約束をした」とバートラムの不実を責めるが、これは序の口で、切り札のヘレナがなかなか現れない。観客をじらしにじらす。最後の場は簡単に種明かしして終わり、と思っていたら、さにあらず。最後の場だけで30分か40分とたっぷりある。ここは「演劇的アイロニー」が存分に味わえるところだ。

検察側の証人

検察側の証人

俳優座劇場

俳優座劇場(東京都)

2023/10/22 (日) ~ 2023/10/28 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

映画にもなった有名な作品らしいが、初めて見た。ラストのどんでん返しに次ぐどんでん返しにはやられた。息をもつかせない大変なインパクトだった。
俳優陣も、スターや人気者はいないが、アンサンブルがよく、安心してみていられる。ザ・新劇という感じ。とくに容疑者の妻にして「検察側の証人」というカギ人物ローマインの永宝千晶が光る。3度登場するが、緑のくすんだスーツ、純白のタイトスカート、グレーのタイトスーツとその都度、衣装も変わって舞台映えした。2時間45分(休憩15分含む)

レイディマクベス

レイディマクベス

TSP

よみうり大手町ホール(東京都)

2023/10/01 (日) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

たいへん抽象的な芝居。マクベスを下敷きにしているということを知っているし、天海祐希だからかろうじて見ていられる。天海祐希はりりしく格好いいが、孤軍奮闘という感じ。バンクォー(要潤)はマクベス夫人の幼馴染であるとか、国王ダンカン(栗原英雄)の従姉妹のマグダフ(鈴木保奈美)とか、「マクベス」からはみ出した設定もいろいろ。マクベス夫妻の娘(吉川愛)は、この殺風景な芝居にふく、一陣の春風であり、せめてもの救いだった。

戦争をやめるため「反撃しないことはできないんですか」(マクベス夫人)などなどの願いが、「国も文化も滅び、我々は奴隷になるだろう」(ダンカン)と恐怖と脅しによってはねつけられるなど、現代の戦争に通じるところもある。そこは評価しなければと思う。2時間15分(前半1時間15分、後半45分。休憩15分込み)

ネタバレBOX

ダンカン王の寝室に忍び込むのはマクベス夫人の方で、寝ている王の周りで「私にはできる」と自分を鼓舞しながら、なかなか手をくだせないのは、見せ場である。
王冠がマクベスへ、そしてマクベス夫人へ、最後は娘へと、王位に就く者が次々殺され、その殺したものが王位を継いでいく様子は、ダークな黙劇だった。
同盟通信

同盟通信

劇団青年座

新宿シアタートップス(東京都)

2023/10/13 (金) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

日本の戦争の過ちを、いくつもの戯曲に書いてきた古川健の新作。いわば戦争については専門家なので、史実に裏付けられたドラマは非常に安定した出来である。対米交渉は成功の眼があったのか?南部仏印進駐をやめればまだ交渉はいくらでも可能だったが……というくだりなど、「帰還不能点」を思い出す。
今回は同盟通信社の「戦時調査室」という史実を提示してくれた。戦争に懐疑的な記者たちの隔離部屋だったが、終戦工作のための情報収集集をやり、終戦の決定にも貢献したと。

松本重治、加藤万寿男の実在したジャーナリストを配しつつ、「国のための宣伝」ではなく「客観事実の報道」をすべきだと悩む若手記者の葛藤が、一見すると書生論だが、しかし否定できない議論として訴えるものがある。

多重露光

多重露光

(株)モボ・モガ

日本青年館ホール(東京都)

2023/10/06 (金) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

なんといっても稲垣吾郎のための芝居。そこにいて声を出すだけで舞台が成り立つ。他のキャストは出入りが多い中で、稲垣吾郎だけほぼ出ずっぱりであることに、この芝居の構造が集約されている。間口の広い舞台なのに、まったく隙間を感じさせないオーラは、やはりスターである。
したがって、泣いたり叫んだりのオーバーアクションをしない、彼の自然体のたたずまいが舞台のトーンを決める。稲垣の独白の多い戯曲とあいまって、安定して落ち着いてみられる芝居だが、激しい衝突や修羅場も、意外とあっさり終わってしまうのは否めない。

冒頭、橋爪未萠里がキャンキャンせめて場を盛り上げ、竹井亮介が、天然のボケに徹して笑わせに行くのだが、、どうも笑いがはじけない。それも稲垣吾郎の、柳に風と受け流すのがあまりに自然だから、周りが浮いてしまうからだろう。

ネタバレBOX

いくつか仕掛けが仕込まれているが、その生かし方がもったいない。一つは純九郎(稲垣)が、小学生時代、仲睦まじい近所の一家に憧れて、家族写真を盗み出してしまっていたこと。これを後半で麗華(真飛聖)がその写真を見つけて、責める。しかし、観客にはあらかじめ純九郎の独白で明らかにしているので、驚きが弱いし、麗華の責め方も中途半端になってしまう。
もう一つは、戦場カメラマンの父親(相島和幸)が生きていたこと。これも、途中の母親(石橋けい)の回想シーン(ここだけ稲垣吾郎はいない)でネタバレしている。母親が昔、急に寝込んだことがあった、きっと父の死の知らせを受け取ったのだろう……だけで寸止めしておけば、クライマックスの父帰宅の意外感がもっと違っただろう。母との回想も最後にとっておいてもいいのではないか?

純九郎が高校の運動会の撮影をすっぽかすのも、やりようによってはもっと修羅場になるところだ。
眠くなっちゃった【10月1日~10月7日昼公演中止】

眠くなっちゃった【10月1日~10月7日昼公演中止】

キューブ

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/10/01 (日) ~ 2023/10/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ケラの世界にどっぷりつかる3時間半。筋が3つも4つも絡んで、芝居はパッチワークのようだ。一つの話が進んだかと思うと、別の話に変わり、と変化が多い。一つ一つの場面がよく作りこまれていて、完成度が高い。そのせいか、3時間半(休憩15分)の割には、全然長さを感じさせない。そこは芝居作りが上手なケラ・チームである。しかし、だからどうなの? と終わってみて考えると、何か核になるものが弱い。井上ひさしがニール・サイモンを評して言ったことが当てはまる気がする。あるいは、全体よりも部分に凝る「土着世界観」的芝居と言えよう。

乳飲み子を抱えた女(篠井英介)が、門番にミルクを求めるプロローグ、回想のサーカス(サーベル飲み、ナイフ投げが見事)。本編が始まって、主人公ノーラ(緒川たまき)の貧しい家。夫(音尾琢真)が言葉を全く同じに繰り返すから、何か変と思うと、実はロボット…というのも面白い。そこに管理局の男(北村有起哉)がやってきて…。これがプロットの第一の柱。

娼婦(依田朋子)が、息子の密告で逮捕される街頭(このシーンはこれだけで終わる。残念)、第二の柱は、娼婦シグネ(水野美紀)がマフィアのゴーガ(山内圭哉)に囲われてる部屋。シグネの夫(斉藤悠)が監禁されてるが、この夫、ボロボロになってる設定で、ほとんどセリフない。なのに後半はライナスの毛布のように連れまわされてかわいそう。手下のナンダ(野間口徹)はダークな道化と言えよう。「これナンダ!」「はい」「お前じゃない!」というような、ボケ役である。

第3の柱は大家のウルスラ(犬山イヌコ)の家族、その周辺(マザコン男とその母、遺書を見せ合う男女)。屋根の上に上ったノーラとナスカ(奈緒)が、下にいる男女の遺書をのぞき聞きする場面は、映像も生かして面白い。

この近未来の管理社会(舞台の照明・色調も終始くらい)で人々はひっそりと生きている。そこに、歌手のボルト―ヴォリ(篠井英介)が、ウルスラの記憶を盗もうとゴーガをけしかけ、ウルスラたちの逃避行が始まる。

ネタバレBOX

結局、最後はほとんどみんな死んでしまうが、からっとした終わりである。ハッピーエンドは嘘くさくなりやすいが、アンハッピーエンドにするのは実に簡単だと思った。シグネが息子(人形)を燃やされたことにキレテ、ゴーガに復讐するなど、若干唐突なのだが、決して嘘くさくはない。
新編 糸桜

新編 糸桜

新派の子

日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)

2023/10/12 (木) ~ 2023/10/13 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

地味な題材だが、美しいせりふと、花のある役者を得て、いい舞台だった。波乃久里子が一本気な江戸っ子を、べらんめえ調(と言っても女性なので抑え気味だが)で小気味よく演じる。養子の繁俊(尾上菊之丞)に、芝居の本読みをしこむ「第五夜 雷鳴の夜」は絶品。床に就くところなどかわいげもある。第2幕「第一夜 三つ巴の日々」の親子喧嘩の波乃久里子もよかった。

勘当されたヤクザな三五郎(石橋直也)も、真面目な人ぞろいのなかで、ちょいと斜に構えた小ワルを粋に演じて印象が強い。彼のセリフは黙阿弥のような七五調やべらんめいを取り入れて、心地よい。尾上菊之丞は初めての芝居とは思えない存在感がある。新人の勢い、新鮮さとともに、芯のある安定したたたずまい。姿勢がいいのは日本舞踊の踊り手だからだろうが、声もいい。二人の女中役(村岡ミヨ、鴫原桂)も、わきで舞台を支えてよい感じだった。

今回「新編」ということで、前の上演台本に手を入れた。一番大きな変更は、関東大震災で母子妻がはぐれて、炎のなかを逃げ惑うシーンと、再会の場面を入れたところ。それぞれの必死の姿に迫力があり、メリハリがついて、動きのある芝居になった。幕開けも、震災後の糸と繁俊から始まる。(前の上演では、「人形の家」の稽古から、坪内逍遥の養子縁組話という流れだった)

バックの箏曲、太鼓・笛も生演奏でぜいたくな音響。雰囲気を盛り上げた。2時間30分(休憩10分、前半80分、後半60分)

ネタバレBOX

地震の火災の様子を目にして、繁俊が「鬼が引く炎の大八車」云々と、比喩も豊かに描写するのは一つの見せ場。ただ、状況の緊迫感にあうかどうかという賛否はあるだろう。糸の晩年、夢に見た黙阿弥の前で、「おとッつぁんがほめてばかりいるから、こんなのができちゃったじゃないか」は、波乃久里子の実人生からとられている。黙阿弥の娘・糸と17代目中村勘九郎の娘・波乃を重ねてのセリフに感心した。

客席の最後列に尾上松也と渡辺えりがいたし、ほかにも女優・俳優が結構見に来ていた。作・演出の齋藤雅文さんの人徳だろう。
My Boy Jack

My Boy Jack

サンライズプロモーション東京

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/10/07 (土) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

前半は、自己満足のために息子を戦場に行かせる真島秀和のひどい父親ぶりに、いろいろ考えさせられた。前半最後の、突撃前のジャック(前田旺志郎)の孤独と緊張も引き込まれた。息を詰めるようにしてみた。後半は一転、倉科カナの息子の死を嘆き悲しみ、夫を責める、まさに迫真の演技に圧倒された。本当に涙と鼻水でぐちょぐちょになっていた。ジャックの戦死の様子を証言する、戦争神経症の兵士ボウを演じた文学座の佐川和正も、恐怖と悔恨と、使命感のいりまじった大変な迫力で、素晴らしかった。15分休憩含む2時間55分だが、長さを感じさせない。一幕の最後の塹壕の場面があるのが、室内劇が続く中でのいい気分転換になった。

ラドヤード・キプリングのように、国の戦争に協力して(嫌がる)息子を軍隊に行かせて、戦死させた知識人は日本にもいるだろう。ただ、具体的におもいつかない。無学な父親は、周囲に従うだけで、本心は嫌かもしれないが、自覚的に息子を死に追いやった知識人は、それをどう考えるか。恋人としてなら岡部伊都子がいたわけだが、親としてとはまた違う。教師だと、「教え子を少年航空兵に推薦した」などあるが、それも具体的にだれ、とは言えない。日本の戦争の記憶の空白部分になっている気がする。インテリ嫌いの劇友は「知識人は、金を出して子供を危険なところにやらないようにするんじゃない?ずるいから」と言っていた。そういう例もあっただろうが、それだけではあるまい。

個人の責任があいまいな日本では、徴兵制でいやおうなしだったと「仕方がない」と考えがちなのだろう。そうした反省を発言した例が残ってない、あるいは、埋もれてしまう。戦場での残虐行為と同様に。

ネタバレBOX

死を徹底的に恐怖と醜悪と痛みで描く。美化を許さない。それは戦争詩人たちのイギリスの遺産を生かしたものなのだろうか。

キプリング(父親)が「俺のせいだと考えない日が、一日でもあると思うか。毎日考える。一日何度も考える」と泣き崩れる。一方で「大きすぎる犠牲ということはない」「ジャックは立派に死んだんだ」と、自分のやったことを合理化する。その矛盾は矛盾のままとして我々に提示される。実際のキプリングはどうだったか、わからないが。

息子が負傷して行方不明の知らせが来た最初に「(18歳の)短い人生だったが、死は生涯最高の瞬間だったろう。おめおめ生き延びて、最高の瞬間を逃さなくてよかった」と、ひどい事を云う。2年後、妻にその言葉を指摘されても、キプリングは覚えてないし、そんな事を云ったことに愕然とする。この皮肉はうまい。

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