My Boy Jack 公演情報 サンライズプロモーション東京「My Boy Jack」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    前半は、自己満足のために息子を戦場に行かせる真島秀和のひどい父親ぶりに、いろいろ考えさせられた。前半最後の、突撃前のジャック(前田旺志郎)の孤独と緊張も引き込まれた。息を詰めるようにしてみた。後半は一転、倉科カナの息子の死を嘆き悲しみ、夫を責める、まさに迫真の演技に圧倒された。本当に涙と鼻水でぐちょぐちょになっていた。ジャックの戦死の様子を証言する、戦争神経症の兵士ボウを演じた文学座の佐川和正も、恐怖と悔恨と、使命感のいりまじった大変な迫力で、素晴らしかった。15分休憩含む2時間55分だが、長さを感じさせない。一幕の最後の塹壕の場面があるのが、室内劇が続く中でのいい気分転換になった。

    ラドヤード・キプリングのように、国の戦争に協力して(嫌がる)息子を軍隊に行かせて、戦死させた知識人は日本にもいるだろう。ただ、具体的におもいつかない。無学な父親は、周囲に従うだけで、本心は嫌かもしれないが、自覚的に息子を死に追いやった知識人は、それをどう考えるか。恋人としてなら岡部伊都子がいたわけだが、親としてとはまた違う。教師だと、「教え子を少年航空兵に推薦した」などあるが、それも具体的にだれ、とは言えない。日本の戦争の記憶の空白部分になっている気がする。インテリ嫌いの劇友は「知識人は、金を出して子供を危険なところにやらないようにするんじゃない?ずるいから」と言っていた。そういう例もあっただろうが、それだけではあるまい。

    個人の責任があいまいな日本では、徴兵制でいやおうなしだったと「仕方がない」と考えがちなのだろう。そうした反省を発言した例が残ってない、あるいは、埋もれてしまう。戦場での残虐行為と同様に。

    ネタバレBOX

    死を徹底的に恐怖と醜悪と痛みで描く。美化を許さない。それは戦争詩人たちのイギリスの遺産を生かしたものなのだろうか。

    キプリング(父親)が「俺のせいだと考えない日が、一日でもあると思うか。毎日考える。一日何度も考える」と泣き崩れる。一方で「大きすぎる犠牲ということはない」「ジャックは立派に死んだんだ」と、自分のやったことを合理化する。その矛盾は矛盾のままとして我々に提示される。実際のキプリングはどうだったか、わからないが。

    息子が負傷して行方不明の知らせが来た最初に「(18歳の)短い人生だったが、死は生涯最高の瞬間だったろう。おめおめ生き延びて、最高の瞬間を逃さなくてよかった」と、ひどい事を云う。2年後、妻にその言葉を指摘されても、キプリングは覚えてないし、そんな事を云ったことに愕然とする。この皮肉はうまい。

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    2023/10/08 08:53

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