実演鑑賞
満足度★★★★★
第一次世界大戦下のイギリスの一つの家族の物語。
どんな犠牲も大きすぎることはないと信じて若者を戦場に送るように扇動する著名人の父が、視力の悪い自分の息子を軍隊に捩じ込む。息子の名誉のため将来のためと本気で信じてきた父が息子を失い徐々に後悔と自己嫌悪に苛まれていく。その葛藤を眞島秀和が見事に演じ実際にラドヤードキプリングが書いた詩を詠むシーンは心を締め付ける。
出撃する息子の戦慄、母の悲痛、姉の嘆き、生々しい戦闘を語る兵士の気迫…キャスト全員の熱演に息をするのも苦しくなる。
これは決して過去の物語ではない。今なお行われている現実である。今だからこそ観るべき作品。あまり知られていないのが勿体ない。
実演鑑賞
満足度★★★★★
少数精鋭によるレベルの高い演技、、演出、、大満足でした!
決して宣伝映えするエンターテイメント向きのテーマではないですが、今の時代だからこそ広く観て欲しいと思う内容だと思います。
また、演技もさることながら細部まで作り込まらた美術、音楽、演出にも、驚かされました。是非前の方で自分の目で見てほしい。
こんな大変な舞台にら出演することを選んだ皆さんの勇気に賞賛を贈るとともに感謝いたします。
実演鑑賞
満足度★★★
『ジャングル・ブック』の作者、ラドヤード・キップリング。彼は愛国者で祖国イギリスの為に戦争に行く使命感を国民に鼓舞した。勿論息子のジョンにもそれを求めるも重度の近視の為、兵役不適格。だがノーベル文学賞を受賞した国民的作家の名声を活用し、入隊させることに成功。時は第一次世界大戦、ドイツ軍との戦闘の為フランスに派遣された息子は行方不明になってしまう。
第一次世界大戦の英国軍の記録としては、ピーター・ジャクソンが記録映像をカラー化し音を付けた『彼らは生きていた』というドキュメンタリー映画がある。ひたすら劣悪な環境で塹壕戦を戦う我慢比べのような戦場。何年もの膨大な日々を爆撃や毒ガスの恐怖に怯えながら泥の中で過ごさなくてはならない地獄。(擬似的)ワンカット映画『1917 命をかけた伝令』も同時代の話。そして終戦後、やっと故郷に帰っても仕事はなく誰も相手にしてくれない虚しさ。
主演のラドヤード・キプリング役眞島秀和氏、この役は終盤になるにつれ味わい深く熟成していく。国民の規範たる父親像を示さねばならない義務感と、果たしてそれが本当に正しかったのか脳裏で呻き続ける苦悩。
少尉として第2大隊で中隊を率い塹壕戦を戦ったジョン・キプリング役は前田旺志郎氏。お笑い芸人には見えない妙に雰囲気のある俳優。印象に残る清冽な存在感。
妻であり母親でもあるキャリー・キプリング役倉科カナさん。女優としてレヴェルが更に上がった。前半の母親振りはシェイクスピア劇のよう。後半が少々大仰過ぎたか。
娘のエルシー・キプリング役は夏子さん。いいスパイスとなって作品に効いている。スタイル抜群。
佐川和正氏は物語の核心部、クライマックスを担う見せ場が待っている。
後半にある回想シーンが美しい。父親の創ったお話しを楽しみに聴く幼い兄と妹。インド風の色鮮やかな衣装。無限の想像力だけで何処までも行けた。
是非観に行って頂きたい。
実演鑑賞
満足度★★★★★
前半は、自己満足のために息子を戦場に行かせる真島秀和のひどい父親ぶりに、いろいろ考えさせられた。前半最後の、突撃前のジャック(前田旺志郎)の孤独と緊張も引き込まれた。息を詰めるようにしてみた。後半は一転、倉科カナの息子の死を嘆き悲しみ、夫を責める、まさに迫真の演技に圧倒された。本当に涙と鼻水でぐちょぐちょになっていた。ジャックの戦死の様子を証言する、戦争神経症の兵士ボウを演じた文学座の佐川和正も、恐怖と悔恨と、使命感のいりまじった大変な迫力で、素晴らしかった。15分休憩含む2時間55分だが、長さを感じさせない。一幕の最後の塹壕の場面があるのが、室内劇が続く中でのいい気分転換になった。
ラドヤード・キプリングのように、国の戦争に協力して(嫌がる)息子を軍隊に行かせて、戦死させた知識人は日本にもいるだろう。ただ、具体的におもいつかない。無学な父親は、周囲に従うだけで、本心は嫌かもしれないが、自覚的に息子を死に追いやった知識人は、それをどう考えるか。恋人としてなら岡部伊都子がいたわけだが、親としてとはまた違う。教師だと、「教え子を少年航空兵に推薦した」などあるが、それも具体的にだれ、とは言えない。日本の戦争の記憶の空白部分になっている気がする。インテリ嫌いの劇友は「知識人は、金を出して子供を危険なところにやらないようにするんじゃない?ずるいから」と言っていた。そういう例もあっただろうが、それだけではあるまい。
個人の責任があいまいな日本では、徴兵制でいやおうなしだったと「仕方がない」と考えがちなのだろう。そうした反省を発言した例が残ってない、あるいは、埋もれてしまう。戦場での残虐行為と同様に。