My Boy Jack 公演情報 サンライズプロモーション東京「My Boy Jack」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    『ジャングル・ブック』の作者、ラドヤード・キップリング。彼は愛国者で祖国イギリスの為に戦争に行く使命感を国民に鼓舞した。勿論息子のジョンにもそれを求めるも重度の近視の為、兵役不適格。だがノーベル文学賞を受賞した国民的作家の名声を活用し、入隊させることに成功。時は第一次世界大戦、ドイツ軍との戦闘の為フランスに派遣された息子は行方不明になってしまう。

    第一次世界大戦の英国軍の記録としては、ピーター・ジャクソンが記録映像をカラー化し音を付けた『彼らは生きていた』というドキュメンタリー映画がある。ひたすら劣悪な環境で塹壕戦を戦う我慢比べのような戦場。何年もの膨大な日々を爆撃や毒ガスの恐怖に怯えながら泥の中で過ごさなくてはならない地獄。(擬似的)ワンカット映画『1917 命をかけた伝令』も同時代の話。そして終戦後、やっと故郷に帰っても仕事はなく誰も相手にしてくれない虚しさ。

    主演のラドヤード・キプリング役眞島秀和氏、この役は終盤になるにつれ味わい深く熟成していく。国民の規範たる父親像を示さねばならない義務感と、果たしてそれが本当に正しかったのか脳裏で呻き続ける苦悩。
    少尉として第2大隊で中隊を率い塹壕戦を戦ったジョン・キプリング役は前田旺志郎氏。お笑い芸人には見えない妙に雰囲気のある俳優。印象に残る清冽な存在感。
    妻であり母親でもあるキャリー・キプリング役倉科カナさん。女優としてレヴェルが更に上がった。前半の母親振りはシェイクスピア劇のよう。後半が少々大仰過ぎたか。
    娘のエルシー・キプリング役は夏子さん。いいスパイスとなって作品に効いている。スタイル抜群。
    佐川和正氏は物語の核心部、クライマックスを担う見せ場が待っている。

    後半にある回想シーンが美しい。父親の創ったお話しを楽しみに聴く幼い兄と妹。インド風の色鮮やかな衣装。無限の想像力だけで何処までも行けた。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    第一幕ラスト、黒幕がアイリスアウトして少尉一人になる演出効果が素晴らしい。死と向き合う、実存と向き合う感覚。

    第一幕の流れは退屈。演出もホンも跳ねない。何かが足りない印象。状況説明ばかり。休憩時、結構帰る人がいた。第一次世界大戦のイメージが日本人には馴染みない。
    第二幕は段々と面白くなる。

    自分の息子の死をどうにか理性と叡智を駆使して正しい形に治めようとする父親の葛藤。その一見冷徹な姿に失望する母親。
    砲弾で顎を吹っ飛ばされ、余りの激痛で立ったまま泣いていた少尉。その光景を克明に思い浮かべ、気が狂わんばかりになりながらも理性で浄化する方法を必死に模索する。何とか意味のある、価値のある、美しい物語に息子の死を昇華しないことにはとても耐え切れない。

    「My Boy Jack」
    ああ、私にどんな慰めがあるのでしょう?
    この潮流では何もない
    どこの潮流にも有りはしないんだ
    けれど彼は仲間達に恥をかかせなかった
    あの風の中でも、あの潮の中でも

    実際はユトランド沖海戦の英雄、ジャック・コーンウェル少年に対しての詩とされている。

    日本的美学だと、息子の死の報に顔色一つ変えない三船敏郎が、泣き叫ぶ香川京子に酷くなじられる。その夜更け、一人外でさめざめと泣いている三船を目撃してしまう妻。貰い泣きしながらもぐっとこらえ、見て見ぬ振りをする。

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    2023/10/13 16:37

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