実演鑑賞
満足度★★★★
ニール・サイモンの自伝的戯曲。1943年、ユージン・モーリス・ジェローム(濱田龍臣)は10週間の新兵訓練でミシシッピ州のビロクシー・キャンプへ。そこで寝食を共にした5人の仲間と、新兵を徹底的にしごいて規律と服従をたたきこむ鬼軍曹トゥーミ―との出会いと別れを描く。娼婦のロウィーナ(小島聖)との童貞喪失と、カトリック女学生のデイジー(岡本夏美)の恋もある。
なんといってもニューヨーク州出身の頑固で読書家のユダヤ人、アーノルド・エプスタインの存在が光る。最初はただ胃弱の神経質な落ちこぼれ兵なのかと思うと、次第に芯の強さ、無理を許さない合理的思考が明らかになっていく。とくに、トゥーミーのしくんだ「盗難」事件を、みずから犯してもいない盗みを告白して、一矢も二矢も報いるところはすごい。エプスタイン演じるのは宮崎秋人。宮崎は真面目な坊ちゃん刈りと眼鏡で、二枚目を隠して、これまで見たのとは全く別人。繊細で偏屈なエプスタインを好演した。エプスタインの敵役であるトゥーミー(新納慎也)も、優男がサディスティックな軍曹を演じるから、そのギャップにすごい面白みがある。そしてコミカルでなく怖い。
この二人を描くことで、サイモンの戯曲としては、最も深みがある作品かもしれない。
良いせりふがいくつもある。とくにユージンの「文字に書いたことは皆信じてしまう」という教訓は、いまのSNSの炎上、ネット社会(その走りだった佐世保の小6女子の事件)を見ると、その意味は一層深い。マクルーハンは「聴覚型社会」から「視覚型社会」への転換を指摘していたそうだ。
ほかにも「どうしてわざわざ苦労をしょい込むのか」問われて「苦労がなければ人生は朝の11時で終わる」(エプスタイン)。「君は人生へのツッコミが足りない。傍観者に過ぎない。人の言動をノートに書いているだけ。人生のどまんなかにとびこまなければ」(同)とか、理性などいらない「兵隊が敵の前に飛び出すのは、けつに銃剣を突き付けられているからだ」(トゥーミー)等。「彼女の名前を思い起こすと、小さな心臓発作を起こす。命を奪うほどではないが」という恋愛気分も。
「人間以下の異分子、へそ曲がり、落ちこぼれ云々」の、トゥーミーのエプスタインへの敬意を秘めた悪口もいい。
2時間45分(休憩20分込み)