Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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ハングマン

ハングマン

パルコ・プロデュース

世田谷パブリックシアター(東京都)

2018/05/16 (水) ~ 2018/05/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

いい芝居だった

一枚のハガキ

一枚のハガキ

劇団昴

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2022/03/16 (水) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

上手に小さな納屋、下手に階段つきの高さ1m幅2mほどの台があり、軍の上官の演台や、兵士の二段ベッド、啓太の故郷の家になる。開幕時は正面は白いカーテンだけだが、その奥に、劇の中心となる森川の母屋があって、この出し入れで、大きな舞台の転換がある。こうした美術がよくできていた
ただし少々舞台が広すぎた感がある。

前半のどんどん場面が変わるのは、カットを積み重ねる映画のような効果があったが、少々説明的で感情がじっくり深まらないのが残念。
後半は一転、森川家で戦争未亡人の友子(服部幸子)と、尋ねてきた啓太(中西陽介)の二人芝居をじっくり見せる。欲を言えば、二人の対話にさらに時間をかけてもよかったのではないか。意外とサッサとすすんでいく。いい話だが、映画の舞台化にあたってのめりはりのつけかたが不十分だった。
神楽の竜踊りは見事の一言、これももっと見たかった。
2時間10分(休憩15分込み)

ネタバレBOX

森川の家が炎に包まれるシーンは、炎の効果満点。一転しての緑の、そして黄金色にかわる麦畑も併せて、いい場面だった。
裏切りの街

裏切りの街

パルコ・プロデュース

新国立劇場 中劇場(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

いやあ、驚いた。初めて会った二人のやりたい思いを隠した会話、夫への隠し事、彼女へのごまかし、それだけでこれほどニュアンスに富む芝居になるとは。前半は1時間半かけて、ネットで知り合ったダメ男と人妻が、3度目に会って体を交えるまでを、ためらいや無駄話でじっくりじっくりみせる。何も起きない、人生的深みもないのに、これがまったく飽きない。浮気の理由もない。ただ「なんとなく」。これほど非演劇的な話もないのに、すごい演劇的。非常にびっくりした。逆説的な舞台だった。

場面転換が多い。女のマンション、ダメ男のボロアパートもよく作りこまれたセットを使い、映画のような本当らしさがある。演技も、大きな感情の表出がない分、クローズアップ的な微細な演技で映画的といえる。それを舞台でやって観客を引き込むのだからすごい。

ショートメッセージやマッチングアプリの文字のやり取りを、舞台中央に浮かぶスマホ画面で、延々見せる。その間、俳優は自分のスマホに向かってカチカチやるだけ、「声」も動きもない。舞台ではほんとは避けるやり方を、確信犯的にやって成功している。
いろいろな意味で、アンチ演劇の舞台。
三浦大輔というとセックスを席らに描くので有名だが、そんなのなくても、すごいということがわかった。

ドライで冷徹な人間観が、絶望的なようで、意外にも救いを感じる。多少のことでびくびくするな、と勇気を与えてくれる、というか。とにかく、普通の道徳をすべてひっくり返したところに生まれる、かつてない生きやすさみたいなものを感じた。現実はこうはならないので、日常的な表層の底に、非日常的体験、演劇的飛躍がある。そこがひきつけられる理由だろう。アンチクライマックスによるカタルシス経験である。

3時間10分(休憩20分)

ネタバレBOX

後半は、浮気がばれて修羅場になるのかと思っていた。二幕早々、妊娠が起きる(うかつにも予想外だった)。ところが、すぐ「結論は決まってるでしょ。産めといわれても困る」と、軽くスルーしてしまう。あれ? ドラマが起きる格好の材料なのに…。と思っていると、浮気がばれるのも、夫からの呼び出しも、すべて衝突になりそうなことすべてが、何の衝突にもならずにすんでいく。「本当のことは一つじゃないんだよ」「君も面倒なことはいやだろ」とか言って、なかったことのように飲み込まれて行ってしまう。このアンチドラマの作劇にびっくりした。

夫も、ダメ男の彼女も、実は浮気していた。皆が皆相手を裏切っている「裏切りの街」。
裏切りの街【東京・大阪 全公演中止】

裏切りの街【東京・大阪 全公演中止】

パルコ・プロデュース

新国立劇場 中劇場(東京都)

2020/05/31 (日) ~ 2020/06/16 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

いやあ、驚いた。初めて会った二人のやりたい思いを隠した会話、夫への隠し事、彼女へのごまかし、それだけでこれほどニュアンスに富む芝居になるとは。前半は1時間半かけて、ネットで知り合ったダメ男と人妻が、3度目に会って体を交えるまでを、ためらいや無駄話でじっくりじっくりみせる。何も起きない、人生的深みもないのに、これがまったく飽きない。浮気の理由もない。ただ「なんとなく」。これほど非演劇的な話もないのに、すごい演劇的。非常にびっくりした。逆説的な舞台だった。

場面転換が多い。女のマンション、ダメ男のボロアパートもよく作りこまれたセットを使い、映画のような本当らしさがある。演技も、大きな感情の表出がない分、クローズアップ的な微細な演技で映画的といえる。それを舞台でやって観客を引き込むのだからすごい。

ショートメッセージやマッチングアプリの文字のやり取りを、舞台中央に浮かぶスマホ画面で、延々見せる。その間、俳優は自分のスマホに向かってカチカチやるだけ、「声」も動きもない。舞台ではほんとは避けるやり方を、確信犯的にやって成功している。
いろいろな意味で、アンチ演劇の舞台。
三浦大輔というとセックスを席らに描くので有名だが、そんなのなくても、すごいということがわかった。

ドライで冷徹な人間観が、絶望的なようで、意外にも救いを感じる。多少のことでびくびくするな、という勇気を与えてくれる、というか。とにかく、普通の道徳をすべてひっくり返したところに生まれる、かつてない生きやすさみたいなものを感じた。現実はこうはならないので、日常的な表層の底に、非日常的体験、演劇的飛躍がある。そこがひきつけられる理由だろう。アンチクライマックスによるカタルシス経験である。

ネタバレBOX

後半は、浮気がばれて修羅場になるのかと思っていた。二幕早々、妊娠が起きる(うかつにも予想外だった)。ところが、すぐ「結論は決まってるでしょ。産めといわれても困る」と、軽くスルーしてしまう。あれ? ドラマが起きる格好の材料なのに…。と思っていると、浮気がばれるのも、夫からの呼び出しも、すべて衝突になりそうなことすべてが、何の衝突にもならずにすんでいく。「本当のことは一つじゃないんだよ」「君も面倒なことはいやだろ」とか言って、なかったことのように飲み込まれて行ってしまう。このアンチドラマの作劇にびっくりした。

夫も、ダメ男の彼女も、実は浮気していた。皆が皆相手を裏切っている「裏切りの街」。
悪いのは私じゃない

悪いのは私じゃない

MONO

吉祥寺シアター(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

小さな会社の密な人間関係の裏と表がだんだん見えてきておもしろい。勘違い上司や、裏読みゴシップ女や、正論煙たがられ女史など。どこにでもいそうな人たちの右往左往のコメディ。

社員旅行を年に二度もやるのが社員のためと考えるアナクロ社長。突然やめた社員が、代理人を通じて、実はいじめを受けていたと告発をおくってくる。その調査のため、総務課長(金替康博)と同課長代理(石丸奈菜未)が社員を一人ずつ呼び出して話を聞く。でもこの二人実は不倫中。手錠を買って夜は刑事ごっこをやろうなどという話を、調査前にイチャイチャしている。呼ばれた社員も、普段は言えない上司への不満や、同僚のゴシップを「ここだけの話」と次々話す。やめた社員の直接の上司(水沼健)は「俺はわるくない」と。部下をからかって嫌われていたが、本人はそれで課内を和ませているつもりだった。ところが、話した内容が外に漏れたらしい、とわかって、互いに疑心暗鬼に…。

最後は、意外と真面目に終わらせる。リアルな会話の応酬が互いの仮面をはいでいくが、それで終わりでない。いつのまにか癒しの世界に舞台が変わり、許しと友愛が訪れる。終わってみれば、一つの大人のメルヘンだったような気もする。

ネタバレBOX

ICレコーダーを盗んだ犯人は、普段から社内のゴシップ集めを、また別の人間のためにやっていた。社員のリベート着服をえらそうに批判した社長も、実は裏金をもらっていた。そうして、渦の外にいると安心していた偉い人も仮面がはがれていく。
とにかくみんなの前で懺悔して気持ちよくなるというのは、寓話として、思考実験として面白かった。
横濱短篇ホテル

横濱短篇ホテル

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/03/09 (水) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

泣かされた、笑わされた。ホンもいいけれど、ホンを読むだけでは起きなかった感情の波が湧き上がってきた。落ち目の人気女優役の野々村のん、その旧友役の津田真澄の演じる感情のリアルにひきこまれた。人気女優の高校生時代を演じた角田萌果は、オーディション的な演技シーンの没入感が素晴らしい。津田の夫役の、ひょうきんなチャラ男の横堀悦夫も、いいアクセントになっていた。素晴らしい舞台であった。

「セイムタイム・ネクストイヤー」や映画「グランドホテル」にヒントを得ているが、それだけではない。マキノノゾミの自作「モンローによろしく」を先日30年ぶりの再演を見たばかりだったので、「横濱短篇ホテル」冒頭はそのパクリになっているのは笑えた。
2時間35分(休憩15分込み)

行先不明

行先不明

松竹

サンシャイン劇場(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

東京五輪を来年に控えた小さな旅行代理店。運の悪いベテラン佐々(さっさ=佐藤アツヒロ)が、その覇気の無さを仲間や退職した前社長高松(福田転球)にいじられながら、みんなダラダラ過ごしている。そこに事件が起きて…。

社員たちの積立金の口座が引き落とされて、残金がなくなっていたのだ。通帳のしまってある金庫の番号を知る高松が疑われ、そうじゃないとなると、ついで数ヶ月前に退職した経理社員の津野田(永島聖羅)が犯人らしい。津野田を呼び出して話を聞こうとするが、人付き合いの悪かった津野田の連絡先を誰も知らない。ハネムーンの予約客のキリモト(生田輝=好演)がなんと釣友で、知っていた。口実つけて、呼び出してもらったが、どうやって話を切り出すか事前リハーサルで右往左往。本人が来たら、キラキラ明るく変身していた。そのあめか、みんなどうもうまく話を切り出せず、もじもじ…

人気タレントをはめどころよく配して、ツッコミやボケ(失策)で笑わせる。空気の読めない三国(五関晃一)のキャラがいいアクセントになっている。が、事件が小さすぎるのに、その展開が大げさすぎ。犯人らしい元社員にどう話を聞くかで、延々揉められても困る。しかるべき人間が、別室で率直に聞けばいいではないか。

ただ、いくつか、みにしみるとことろもある。二幕で新任の女性社長(真琴つばさ)と元バリキャリのいま自分の意見を言わないおばさん社員((小林美江)が、女性なんて、意見行っても「自分を抑えることを学べ」とか「頭いいねえ」とか「話が長い」と言われるだけ、と盛り上がるシーン。また派遣の添乗員の夏目(馬渕英里何)が、「会社に守られて、いい気味だ」「自分の代わりはいくらでもいると思うものの気持ち、わかりますか」と、派遣の胸の内を吐露するところ。これ以外、登場人物の内面・経験を掘り下げるような告白、葛藤はない。

ネタバレBOX

新婦が突然結婚式を辞めると言い出すのも、夢を見て将来に不安になったからなんて、子供じみすぎてる。展開にリアリティが不足しすぎ。最後の預金行方不明事件の解決も、最近引き落としたという冒頭の話と違って、実は「まえの前の前野社長」が他銀行に移していたと、数年前の話にずれている。ここらへんのいい加減さが許せる場合もあるが、今作は、最も焦点になった事件だけに、台本が手抜きしすぎ。
薔薇と海賊

薔薇と海賊

アン・ラト(unrato)

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/03/04 (金) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

3幕3時間(10分と15分の休憩あり)という長い芝居。とにかく人物設定が(三島由紀夫のいつものことながら)凝っている。高校生時代に行きずりの男に強姦され、その男と結婚して(復讐のために)夫婦生活を拒否している童話作家・阿里子(霧矢大夢)。知恵遅れの30歳の美青年・帝一(多和田任益)は、自分は阿里子の童話のなかのユーカリ少年なのだと信じている。阿里子の夫(須賀貴匤)、その弟(鈴木裕樹)もイケメンで、美男美女がねじが一本も二本も外れたような話を演じる。

三島由紀夫の芝居は実に人工美の世界であって、人間と社会の真実を描こうなどという志向とは真反対であることがよくわかる。セリフもしたがって、普段は言わないような修飾・レトリックにあふれている。

この中で、現実的存在ともいえる額間(大石継太)は、よれよれの背広が本当にみじめったらしくていい。阿里子の娘(一度の強姦で妊娠した)(田村芽美)が、意外とかわいらしく、したたかで、自己主張もあり、この異常な家から出ていく生命力のあるキャラクターでよかった。

ネタバレBOX

その人工美の極めつけは、3幕のファンタジー。ディナーを終えて、さあこれでお別れという段に、老夫婦の幽霊が現れ、阿里子と帝一以外は追っ払ってしまう(この二人以外には老夫婦は見えない)。そして「月の庭」から妖精たちが現れ、お花畑のなかの二人の結婚式を祝う。「夢落ち」というのは、伏線回収放棄のしょうもない手法だが、これはどうなのだろう? とにかくあっけにとられる終わりである。
怖い絵

怖い絵

関西テレビ放送

よみうり大手町ホール(東京都)

2022/03/04 (金) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ベストセラーの西洋絵画エッセーを舞台化する、どんな風に?と思った。無理に物語にしないで、絵画のうんちくを尾上松也(絶品!)が舞台回しとして大いに語る。その潔さがまずいい。そこに、御曹司社長(寺脇康文)の妻の自殺が、実は他殺ではないか、犯人はだれ?というなぞ解きをからめる。

社長が殺したと疑う社長愛人(比嘉愛未=好演)の話を、その弟分(鷹野雄二=よかった)が「画廊レストランオーナーの尾上に持ち込む。尾上が名探偵ポワロよろしく、事件の意外な真実、それぞれの人物の隠れた思いを明らかにしていく。このミステリーも、二転三転(言葉通り)の意外性の連続で、楽しめた。そして、この事件の謎が解けた時、舞台に掲げられていた数々の絵が、実は「怖い絵」だったことが明らかになる…。鈴木おさむの脚本・演出のうまさが光る。

ネタバレBOX

実は、冒頭に別の放火殺人事件の話がある。母親が息子を助けようとして死んだが、父親の「たかし様」が火をつけるところを、生き残った連れ子に見られた、という話だ。その連れ子が鷹野雄二…。と始まるのだが、これはイントロ。本題は上記の事件である。では、最後に冒頭の事件の謎を回収するのだろうと思っていたら、何にも触れないで終わってしまう。気づいてみると、思い切りのいい伏線回収放棄である。多分、7,8割の観客は冒頭の話はすっかり忘れてしまっているのではないか。
放火の話は、落語の枕ではないが、つかみのための捨てネタなのだ。

もう一つ、愛人を妊娠させたのは社長ではない、という「処女懐胎」のような話でびっくりさせるが、では誰なのか?はふれずじまいだった。まさか神の子を流産した? のわけないよね。
サンシャイン・ボーイズ

サンシャイン・ボーイズ

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2022/03/03 (木) ~ 2022/03/14 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白かったが、レイ・クーニーなど加藤健一得意のシチュエイション・コメディとは大いに違う。元人気コメディアンで今は尾羽打ち枯らしたウィリー(加藤健一)が、かつての相棒アル(佐藤B作)と一夜限りのコンビを組むという話。ところが、この二人、名コンビといわれながら、実は犬猿の仲…。久しぶりに二人が会うと、ホテルでも、テレビスタジオのリハーサルでも、そして病気のベッドの上でも、たわいもないことで言い争いになる。その大人げなさ、意地の張り合いが笑える。なんとなく、加藤も佐藤もおり目正しいコントをやっている。品のある笑いだ。

窮地を脱しようとするあの手この手が、次々裏目に出るようなおかしさではない。
アルがいない場面では、甥のマネージャーや年配の看護師を相手に、言葉でくすぐる笑い。
コントのナース役のグラマーぶりの強調は、一時代前の眼福。テレビのADが加藤健一の息子の加藤義宗だったとは、後で気づいた。

ネタバレBOX

アル「お前はまじめに受け止めすぎるんだよ。ジョークだよ、ジョーク。43年間で一度も楽しんでやったことないだろ。舞台で」
ウィリー「楽しむためならチケットを買うよ」
このせりふで、ああアルはわかってたんだなあと気づかされる。
裸の町

裸の町

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場付属養成所

青年劇場スタジオ結(YUI) (東京都)

2022/03/04 (金) ~ 2022/03/15 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

お人好しで破産した夫富久(岡山豊明)と、歯がゆい思いの妻キヨ(八代名菜子)を軸に、金貸しの増川(星野勇二)と、憐れっぽいその妻(藤代梓)も絡む。各々の言い分、生き方がくっきりと浮かぶ舞台だった。

増川の「3000円貸したから、3000円かえしてもらうのは当然。そのうち2000円は戻すなんて話を間に受けるとは」という話は至ってまっとう。増川を信じている富久の世間知らずのおぼっちゃまぶりが痛々しいほど。富久は自分の虫の良さがわかるから、信じたいということも自覚している。
ついには海辺で純白のペルシャネコが縁起が悪いから、商売も失敗したと言い出す夫の責任転嫁は、素晴らしく滑稽だった。

なんの商売が潰れたのか、海辺に来てやっとわかる。クラシック専門のレコード屋という、浮世離れした商売だったとは、人物像の駄目押しだ。このレコードが、最後の明るさをもたらす伏線になる

1富久の夜逃げ先の部屋、2同差し押さえ後、3金貸し増川の家、4近くの路上、5海辺の崖の上、6停車場側の支那そば屋、と場所がどんどん変わる。美術と小道具をうまく使って、それぞれリアルな雰囲気を見せている。とくに海辺のバックいっぱいに真っ青な空の布をかけたのは、パッと雰囲気が変わって見事。

この戯曲が変わっているのは、二人舞台にいても、一方だけがずっと話して、相手はほとんど答えないシーンが続くこと。独白、傍白ではなく、相手に聞かせる対話なのだが、ほぼ一方通行。これでも舞台が成り立つのは、発見だった。
1場では増川、2場の冒頭はキヨ、最後の6場は富久のほぼ独演会。とくに6場はずっと黙ってあらぬ方を見ているキヨが、何を考えているのか、セリフはないのに、その内心が非常に気になる場面だった。

不思議の国のアリス

不思議の国のアリス

文化庁・日本劇団協議会

ザ・スズナリ(東京都)

2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

別役劇は知的でドライな抽象的遊戯的詩的なものだと改めて発見した。今作はそもそもがナンセンスな「不思議の国のアリス」なのだから、多少の不思議は気にならない。サーカスの団長の父(イワヲ、ロイドメガネが似合う)と娘アリス(紅日毬子)をめぐる因果の糸が最後はほどかれて、意外とわかりやすいとさえいえる。砂漠(=流刑地)での死刑執行はカフカを思わせた。休憩なし2時間10分

「雨が空から降れば」が別役の詩とは知らなかった。この舞台で聞けたのは意外な儲けものだった。

ダンサーであるスズキ拓朗の演出は、まず期待通りだった。とくに、兄(小林七緒)の空中ブランコのシークエンスは、小林の体が次々宙に浮かび見事だった。また、音楽とともに、「後ろの正面だあれ」よろしく、人々が横へスライドしていく場面も印象的。最後はみなロイド眼鏡の父になるイリュージョンも面白い。下半身だけのマネキンを宙づりさせ、上半身は床の穴から突き出すのも、不思議な浮遊感が感じられた。

「ペーター・ストックマン」~「人民の敵」より

「ペーター・ストックマン」~「人民の敵」より

名取事務所

吉祥寺シアター(東京都)

2022/02/19 (土) ~ 2022/02/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

おもしろかった。室内をイメージした舞台の前方中央に、小学生用くらいの深さの温水プールらしきものがある。温泉をめぐる話だからかと思っていたが、そうではない。トマス(西尾友樹)の民衆への演説会、変じて糾弾会の場面で、いつの間にかくるぶし高の水がはられ、このなかでトマスが小突き回される。彼はずぶぬれになりながら訴え続ける。この迫力はすごかった。このシーンだけでも見る価値あり。

愚かな民衆すべてを敵に回して、自分だけが正しいというトマスは、正義とも独善ともとれる。今でいえばワクチン問題、内部ひばく問題、危険を針小棒大に言う人もいることを考えると、トマスが正しいとは言い切れない。水質汚染問題がどこかに行ってしまいうのは、トマス自身が演説の冒頭で「汚染問題の話をするのではない。もっと大きな話をする」と宣言した通り。イプセンは確信犯なのである。トマスが正しいのか、それとも世間知らずのニセ預言者なのか。民主主義が続く限り、永遠の問題作だ。

町長(森尾舞)初め、住民がトマスの温泉改修案を拒否するのは、数億という費用捻出のための増税と、2年間の営業停止の損失、さらに将来を決定的にダメにする風評被害のせいだ。これは原発から温室効果ガスまで、今も続く安全か経済かの二者択一の問題である。

ネタバレBOX

ペーター町長を主人公に、しかも女性でという上演台本・演出だったが、私にはどうしてもトマスが主人公に見えた。冒頭のペーターの町民への演説、孤立したトマス宅を訪問した時のペーターの「父は私が政治をすることなど一度だって考えなかった」というジェンダー差別(バイアス)、町長も(弟の騒ぎのせいで)次期選挙で有力者たちからの支援を失うラスト。いじょうが、おおきなへんこう箇所だった。全体、テキストはカット・凝縮して上演時間を短くしていた。
冬のライオン

冬のライオン

東京芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2022/02/26 (土) ~ 2022/03/15 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

佐々木蔵之介の硬軟自在の演技は、ヘンリーの本心がどこにあるのか全くつかめない。リチャードに王位を譲ると言ったのに、いざリチャードがフランスの領土を手放すのを嫌がると、ジョンに王位を譲るのに変えるとか。いうことが二転三転する。一方、エレノア(高畑淳子)の方はわかりやすい。ヘンリーをとにかく愛している。なのに、ヘンリーは美しいロザリンドに心を奪われた。自分は愛を得られないために、あの手この手で振り向かせようとするが、ために逆に疎まれ、幽閉された。またお気に入りのリチャードに王位を継がせたい。一貫しているし、誇張のツボを押さえた演技も笑いを誘う。史劇というより、父親の気まぐれと術策に振り回される夫婦と父子の家族劇である。

意外におもしろいのが、両親どちらからも忘れられた次男のジェフリー(永島敬三)。二幕冒頭のフィリップの部屋で「僕がいるよ。王位を僕に譲って」と嬉々として両手を広げる姿は、哀れかつ滑稽極まりなかった。2時間半(休憩15分)

ネタバレBOX

3人の息子に見切りをつけて、愛妾アレー(葵わかな=若く美しく凛としてはまり役)と結婚して新しい息子を産もうと突っ走る。しかし、エレノアに泣きすがられ、続いて脅されて、離婚許可のためにローマ教皇のもとへ行くのはあきらめる…。かと思うと、次の場では、アレーを起こして、ローマへ行く旅支度だと。この変化はなぜ? ラストの、地下のワイン蔵での息子たちとヘンリーの対決も、息子たちに打ち勝ち死刑を宣告したヘンリーが、いざという刹那に崩れ落ちて、息子たちを逃がしてしまう。これが老いというものなのかもしれないが、佐々木蔵之介が立派すぎて老いを感じられない。そのため、心変わりの理由が不明になってしまう。

結局は堂々巡りの芝居。王位をだれに譲るか、フランス王に領地を返すのか、最後は何も決まらずあいまいに終わる。起承転結のドラマを期待していると裏切られる。その場面場面の駆け引き、掛け合いをこそ見る芝居なのだろう。史実ではヘンリーの後を長男リチャードが継ぎ、そのあとを三男ジョンが継いだようだ。何も決まらなかったので、結局、順当に兄、弟の順で継いだということだろうか。
オペラ『あん』

オペラ『あん』

オペラシアターこんにゃく座

俳優座劇場(東京都)

2022/02/10 (木) ~ 2022/02/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ハンセン病回復者の老女と、前科持ちの中年男の交流。歌い上げるより、セリフや情景描写を節を付けて歌うところが多い。しかし徳江が、社会の役に立たなくても、人間の生きる価値はどこにあるかを語る絶唱に、感動した。

笑う男【2月3日〜9日公演中止】

笑う男【2月3日〜9日公演中止】

東宝

帝国劇場(東京都)

2022/02/03 (木) ~ 2022/02/19 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

あまり期待していなかったが、ラストに思いがけない感動が待っていた。主人公グウィンプレン(浦井健治)の必死の訴えも空しく、貧乏人のことなど何も考えない貴族院、上流階級。「あなたのおかげで本当の化け物は誰かがわかった」というジョシアナ公爵(大塚千弘)のセリフが、ユゴーの言いたかったことを語っている。熊谷彩香のデアが可憐で良かった。

ネタバレBOX

グウィンプレンの地位も財産も捨てて、見世物小屋の仲間のもとに戻るという決断に、素直に心動かされた。更に待っていた最後の悲劇。その楽曲も心にしみた。ラストの盛り上がりですべてを許す、そんな芝居だった。
MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー

MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー

テレビ朝日/シーエイティプロデュース

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/01/08 (土) ~ 2022/01/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

二人芝居の片方が警察(探偵)役、もう一人が容疑者を何人も演じ分ける。ただ容疑者は、おしゃべり女主人や、洒落者の男はよくわかったが、あとは誰が誰なのか、私にはわかりにくかった。ピアノをかわるがわる二人で弾くのは流石だし、見ていてもすごく楽しめた。

レストラン「ドイツ亭」

レストラン「ドイツ亭」

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2022/02/03 (木) ~ 2022/02/12 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

アウシュビッツを裁いた1963年のフランクフルト裁判を、22,3歳の若い女性エーファ(加來梨夏子=好演)の目から描く。近所で中の良かった薬屋のアルベルト(松田史朗)が、裁判の初日に被告席にいるのを見て、私はギクッとした。これが自国民が自国民をさばくということかと。普通の生活を過ごしていた人が、突然戦争中のことで裁判にかけられる。「私は貝になりたい」のようだといったら、ナチスの残虐行為と、冤罪も多い日本人のBC級戦犯裁判を並べるのは不謹慎と言われるだろうか。

フランクフルト裁判を主導したのはユダヤ人検事たち。ドイツ国民の中に、被害者であるユダヤ人がいたことは、日本と戦争犯罪追及で違った最大の原因だったのではないか。

自分の使命として証言するオットーを演じた田口精一に惹きつけられた。ワンポイントの登場だが、裁判での存在にいいしれない迫力があった。木下順二「巨匠」も演じられるのではないか。聞くと、92歳、芸歴71年という。納得である。2時間20分、休憩15分含む

ネタバレBOX

過去に秘密を抱えた恋人ユルゲン(岸野健太)と共産党員だったので拷問の記憶に苦しむその父親(山本哲也)、自分を見にくいと思いこんで嗜虐的行為に救いを見出していた姉アレグレット(石村みか)、戦犯追及の私情に、自分はユダヤ人なのに部外者でしかないというコンプレックスを抱いていた若い検察事務官ミラー(箱田暁史)と、周囲の人のトラウマ、コンプレックスも、少し多すぎかというほど描きこんでいる。それぞれに角度が違って驚きがあった。

冒頭でなくしたクリスマスピラミッド?)の飾りが、最後に意外な形で出てくる。モノに心を託す王道の物語づくりである。
愛の媚薬

愛の媚薬

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2022/02/07 (月) ~ 2022/02/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

コロナの入国規制で日本人歌手のみによる公演でも、ソプラノもテノール、バリトンも好演して、海外歌手に引けを取らない出来だった(と思う)。理屈抜きに楽しいオペラ。とくに2幕が洒落ていて面白かった。1幕はアップテンポの明るい曲ばかり続いた気がするが、2幕はおちゃめな曲や、しんみり歌うバラードもあって飽きない。

妙薬を買うお金がほしい青年ネモリーノ(中井亮一)を、軍隊入隊へ「20✕✕」「現金」「いますぐ」と絶妙な合いの手で誘い込む軍曹ベルコーレ(大西宇宙)、遺産目当てで女たちがネモリーノによってくるのを見て、「俺の薬は本当に惚れ薬だったんだ」と勘違いするドゥルカマーラ(久保田真澄)。アディーナ(砂川涼子)の歌は「私の顔で男はイチコロ」、妙薬などいらないと、自分の魅力を自慢するので、女性の怖さと滑稽味もある。ネモリーノの愛の歌「人知れぬ涙」は最高だった。拍手も長く長く続いた。

モンローによろしく【2月4日~13日公演中止】

モンローによろしく【2月4日~13日公演中止】

Makino Play

座・高円寺1(東京都)

2022/02/03 (木) ~ 2022/02/13 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

洒落たセリフのやりとりとドキドキするシーンの連続できわめて上質な芝居だった。赤狩りのなかで、裏切り、絶望、保身、転落。ハリウッドの映画関係者6人のそれぞれ変わっていく姿、変わらない姿、怒り、悲しみ、赦しの交錯が見事だった。

幕開きは、反戦純愛映画「あかつきの二人」の製作という目標に向けて、主演の二枚目スター、キース(財木琢磨=好演)と監督ビリー(石川湖太朗)が衝突する。目標に対して、主導権の奪い合いで互いが障害になるバディものの常道シチュエーション。そこに女優志望の夢見る皿洗いシェリー(那須凛)が「ギャングに追われてるの」と、飛び込んでくる。そのロマンチックでおしゃべりで空想豊かな姿は「赤毛のアン」のよう。「往きて帰りし物語」の第三の仲間の登場であり、よくできたボーイ・ミーツ・ガール物語の始まりである。探し求めていた「タフでワイルドでいかす」女優を見つけたという設定に、アラレちゃんメガネの那須のまぶしい演技が、すごい説得力を与えている。これが1941年、日米開戦前夜の出来事。

二幕は1951年の、シェリーのバースデー・パーティー。ハリウッドは赤狩りのさなかにある。ここでも会話のウイット、キレ、スマートは絶品。5歳の子ボビーがいるかのような、それぞれのエアー演技もいい。「わたしたち、友達だろ」という言葉が、裏切り、失望、悔恨のドラマの中で、別々の人間の口から4回も5回も繰り返される。そのたびに異なるニュアンスの、異なる人間関係がある。この作劇もうまい。

冒頭の映画「あかつきの二人」の戦前の制作中止と、71年に完成・公開、アカデミー賞受賞という前説は、もしかしたら実話に基づく話?と思わせる。ただし日本未公開、というあたりがフェイクっぽい。実際は大物プロデューサー、ザナック(三上市朗)以外、話は全く架空。でも、ゴシップ記者のエリス(鹿野真央=好演)といい、若いモンローの影で人気を失っていくシェリーにしろ、登場人物は当時のハリウッドにいたであろう人物の一人に間違いない。

2日目の7日金曜夜に観劇予定だったが、行ったら中止だった。うっかり、というか直前の中止決定を知らなかったので。翌週水曜昼も行ったら中止。結局、全公演中止になった。それでも初日1日公演していたので、こうして映像で見られて幸せだった。これが、初演以来29年ぶりの再演というのは勿体ない。

ネタバレBOX

なかでも非米活動委員会で「俺はお前の名前を密告したんだ」というビリーは、エリア・カザンを思わせる。パーティーの余興のための盗聴器(実際は電話の音のモニター化)も、決定的場面を作る小道具になり、うまい。

友人たちが帰っていったあと、一人残ったシェリーに父からの電話。それも終わると、周囲の暗闇に、関係者が現れて、その後を語る。そこに人生の悲しみ、運命の皮肉が漂う。そして「それでも人は生きて聞いく」しぶとさを感じさせる。最後の女性はチョイ役なので、その後などあるのかと思うと、これはシェリーの大ファンで、往年のスターと握手して「この手を一週間は洗わないわ」と。シェリーが、キースと握手していった台詞を繰り返す。ただし、「じゃあ、どうやってお皿を洗うの?」と聞き返されての答えは違う。シェリーは「私は名人だから片手でできるわ」で、最後の女性は「自動食洗機があるもの」。うまい!座布団2枚!

さらに冒頭のキースとビリーの口論に戻る。ただシェリーが安楽椅子に座ったままなのは、追憶の幻のようなエンディングだった。「ギャングに追われてるの」と割って入るのも、最後まで洒落た芝居だった。

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