Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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新パラシュート

新パラシュート

平石耕一事務所

シアターX(東京都)

2022/04/07 (木) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

九州北部(佐賀の武雄)の旧家の、戦争中から戦後10年までを描く。次男継男(三國志郎)の婚約者がグラマンの機銃掃射で死んだ、そのグラマンは撃墜され、パイロットはこの家の祖母(内田尋子)の尽力で殺さずに捕虜にした。長男は嫁を残して出征中。継男は徴兵拒否して出頭するが、軍部隊副官の叔父(桑島義明)の力で精神病とされ、特高(鈴木正昭)の監視下に。

深刻な話だが、芝居は明るい。女たちのおかげである。継男の怖いもの知らずの理想主義のせいもある。ただ戦争中なのに軍人や特高の威圧感がなさすぎる。スクリーンに切り取られた映画はいいが、客席と地続きの舞台で、戦争中の空間を現出させるのは難しい(それとも、戦争を特別視しすぎだろうか)。井上ひさし「きらめく星座」や宮本研「反応工程」の達成の貴重さがわかる。

二幕の戦後になると、この明るさが生きてくる。継男はいまや英雄になっておかしくないが、相変わらず、保守的な家のなかの異分子で「ふうけもん」「冷血動物」扱いされている。この異分子と、元軍人が同じ家でぶつかって、芝居の軸をつくる。低い声で重きをなす母(二瓶美江)もよかった。継男の隠れた地主意識を、理解者である元小作の加代子が、我慢しきれずにグサッと指摘して言い争いになるのもアルアルだ。
80分、休憩10分、60分の2時間半

ネタバレBOX

演劇は、戦死の内報が伝えられたり、戦犯容疑連行のGHQが来たりと、舞台で事件が起きるだけではない。最初は何気なく見えて、実は重大問題の最中であることがある。2、3人の縁先の会話から、妹が原爆の落ちた長崎から帰っていないことがわかる。叔父が自衛隊の高官に再就職して出発の祝いの中で、部下が身代わりで絞首刑になったことがわかる。
音楽を結構セリフに被せて、情緒を高めていた。そして、一幕はパラシュートの落ちてきた青い空を見上げ、二幕も同じ青い空を見上げて終わる。
風がつなげた物語

風がつなげた物語

グッドディスタンス

新宿シアタートップス(東京都)

2022/03/31 (木) ~ 2022/04/06 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

セリフがセンスあるし、伏線もしっかりしているし、節々で伏線から新しい展開が生まれ、ラストまでよくできた芝居だった。「月と座る」を拝見。

バス停で本(実は漫画「モーレツ!ア太郎)をよむ女性・瀬戸(旺なつき)に、ひったくりにスマホも財布も取られた千波(野々村のん)が話しかける。「突然、話しかけられて迷惑ですよねー」という感じで。通りがかる女性4人が、なんとなく知り合い、しゃれたセリフから、それぞれの重い人生が見えてくる。

千波が高さ16,17センチはあろう、派手な赤い厚底ハイヒールに文句言うシーンは笑えた。
三十路の地下アイドルの大原瑠花(後東ようこ)の、若さの陰りかけを払い飛ばそうとする精一杯のいきがりぶりがいい。大原のいきつけ(押しかけアイドル?)のスナックのママ田代(鬼頭典子)のうらぶれた色気もいい。最初は一瞬、母娘なのかと思うが、大原は母に捨てられ、田代は、未婚で産んで実家に預けっぱなしの娘に拒まれた。互いに親・娘を思う気持ちで共通するのに、弱みを見せまいと素直になれないで否定しあう姿も切ない。

もちろんバス停は、ホームレスの高齢女性が引きこもり男性に殺された場所。ささげられたガーベラの花が、女たちの間をぐるりと回ってまたバス停に備えられるくだりも絶妙。瀬戸は、女性が死んだ後で「友達になった」という。知らなかったことが申し訳ないと。

座席数100人程度の小劇場がこの繊細な会話劇にピッタリ。口コミサイトの評判もあって、満席。本多グループ経営とはしらなかった。

ネタバレBOX

冒頭、病院の予約に遅れそうで、と言っていた千波は、がんの健診結果が出たのだとわかる。瀬戸は、大原の同級生の母親で、それは、シフォンケーキのにおいから思い出す。瀬戸の息子は今は引きこもり。瀬戸にとっては、殺された女性だけでなく、殺した男も、他人ごとではなかった。

最後に、その息子も出てくるのは意外だった。引きこもりが出てくるのは矛盾なのだが、出したのがよかったかどうか。が、息子の言葉で、大原の言う昔の誕生会の美しい思い出が美化されたものだったとわかる。実は嫌われ者同士二人が集まってケーキをがっついただけの悲惨な会だったと。
こどもの一生【4月23日以降の東京公演中止・宮城公演中止】

こどもの一生【4月23日以降の東京公演中止・宮城公演中止】

パルコ・プロデュース

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2022/04/03 (日) ~ 2022/04/28 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

面白いと言えば、面白いんだけど、私的には今一つであった。休憩なし2時間10分

もはやしずか

もはやしずか

アミューズ

シアタートラム(東京都)

2022/04/02 (土) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

子ども時代に、自閉症スペクトラムの弟を事故で亡くした康二(こうじ=橋本淳)。冒頭、幼時のその時の情景から始まり、場面は現在に飛ぶ。互いに30過ぎの康二は妻麻衣(黒木華)の妊活に協力しているが、二人はどこか仮面夫婦のようでぎこちない。康二が煙草を隠し持っているのをしって、「やめるっていったじゃない」と責める麻衣。麻衣が精子提供を受けてることを見つけても、知らんぷりをつづける康二。麻衣は妊娠したが、出征前診断で障害を持つ可能性が「2分の1」と言われ、二人の間の亀裂は決定的になる。そして……。

自己弁護やその場しのぎの合間に本音が垣間見える、ひりひりするような口語演劇。何かをずっと胸に秘めての責め合いは心理サスペンスのようだ。妊活や性欲をめぐるえぐい話もあり、まさに他人の家をのぞき見するようなリアリティー。
麻衣は子どもを持ちたいと一途で、康二と結婚したのも、何もかも子ども中心。行き過ぎでついていけないところがあるが、それはそれで筋が通っている。実は康二は、自分のことで精いっぱいで、麻衣のそこがわかっていない。そのためにに起きるずれ、すれ違いは、表面の何気なさに反して、根は深い。

二人の熱演、精密で生々しいセリフのやりとりが光る。康二の母を演じた安達祐実も、怒ったり、イライラしたり、悲しんだりの感情表現が素晴らしかった。
弟の保育園の先生(藤谷理子)の、言葉は明瞭なのに内容のない話しぶり、自分の発言の支離滅裂に対する無自覚ぶりもすごい。ここまでひどいのはないけど、でも似たことはどこにでもありそうで怖かった。

ネタバレBOX

パンフレットに山内ケンジが書いている。平田オリザ以来の、語尾を濁したり、無意味な間投詞が多かったりの、現代口語演劇を受け継ぐ、加藤拓也の戯曲と演出。誰もがぼそぼそとつぶやくようにしゃべる。これは今の小劇場なら多い。そこから、最後に飛躍が起きるところが今回の芝居のかなめになる。

子どもが生まれた後の復縁を麻衣が、康二の両親つれて、迫りに来るところ(これも「子供には父親が必要だから」と、子ども優先の都合にすぎない)。康二が弟が事故で死んでからの、自分のトラウマと、それが故の子供を持つ不安を明確に論理的にしっかり語る。なるほど、山内ケンジが言うように、二つの対極的な語り口を、無理なく一つの作品に溶かし込んだのはさすがである。
メリー・ポピンズ【3月26日~30日公演中止】

メリー・ポピンズ【3月26日~30日公演中止】

ホリプロ/東宝/TBS/梅田芸術劇場

東急シアターオーブ(東京都)

2022/03/20 (日) ~ 2022/05/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

2018年の初演(平原綾香)に続いての観劇。笹本玲奈の回を見ましたが、4年前以上に素晴らしかった。歌も踊りも美術も衣装も、一層ブラッシュアップされたのでは。全体で3回あるメリー・ポピンズが空中を歩く演出はやはり、ファンタジーを盛り上げます。
今回は、おなじみの「チムチムチェリー」、「スーパーカリフラ…」以外の、曲の良さに気づけました。「どくに「鳥に餌を」のバラードでしみじみし、「どんなことだってできる」のポジティブさに励まされる。「ステップ・イン・タイム」(曲調は「スパカリ」と共通点がある)のタップダンスは圧巻。
また、子供も楽しめるファンタジーだけではないことがこのミュージカルのみそ。厳格な父親が、見失いつつあった家族の大切さに目覚める大人のドラマに心打たれます。

音楽劇「夜来香(イエライシャン)ラプソディ」

音楽劇「夜来香(イエライシャン)ラプソディ」

キューブ

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

日中のスター李香蘭(木下春香)、男装の麗人・川島芳子(壮一帆)、稀代のヒットメーカー服部良一(松下洸平)…。戦時下の中国・上海で歴史的人物たちを出合わせ、名曲をたっぷりきかせるエンターテインメント。「蘇州夜曲」「別れのブルース」「一杯のコーヒーから」。さらに「チャイナタンゴ」も服部良一とは知らなかった。この曲は井上ひさし芝居でおなじみ。自作の芝居で3回も使っている。

物陰にひそむ謎の女(仙名彩世)が共産党の幹部工作員で、実は李香蘭と幼馴染のロシア女性というのが、ひねりがきいている。彼女の狙う音楽会破壊工作が、はたしてどうなるかという興味でストーリーを引っ張る。
音楽会場面と、その企画を練る上海の租界の華やかなダンスホール・ラ・クンパルシータのべ面の比重が大きい。その合間に屋台での交歓や、陸軍本部での軍の方針決定の場など。

ネタバレBOX

2幕、音楽会後ろ盾である山家大佐(山内圭哉)が、日本へ送還・逮捕(?)されて、音楽会開催が危うくなる、というのが最大の「障害」。その程度の話なので、しょせん、ストーリーに大したヤマはない。豪華な衣装とステージ、美声をたっぷり楽しむのがこの舞台のかなめだ。

日本軍の横暴ぶりは、憲兵や酔った兵隊が「いまどき音楽など!」と怒鳴る程度であまり突っ込まない。憲兵隊長(山西淳)は、最後は音楽会成功のために一肌脱ぐ。司令官(森下じんせい)の命に背いて、音楽会でさわぎをおこそうとした中国共産党の一味を逮捕して、音楽界は無事に終わる。
彼女たちの断片

彼女たちの断片

東京演劇アンサンブル

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

7人の女たちの議論から、性、妊娠、中絶をめぐる歴史が紐解かれる。女性の、女性による、女性のための、と言いたいところだが、これは女性と男性のための芝居だろう。「私の体は私のもの」というセリフが印象的だ。
兵士となる人口を増やすため、戦前は堕胎罪によって、中絶は罪とされた。戦後、中絶は合法化されたが、抑制のため「水子供養」(たたり)という脅しが保守勢力によって広められた(知らなかった!)。中絶に男性の「同意」はいらないという主張もあるとか。
気を失っている間に性行為をされた女性。中絶が許されないペルー育ちで、3人目。4人目を中絶した後、5人目を(女友達の支援を力に)夫に産むことを認めさせた女性。それぞれの女性の語りから、様々な生徒妊娠・出産への向き合い方が浮かび上がる。

ブラッド・ブラザーズ

ブラッド・ブラザーズ

ホリプロ

東京国際フォーラム ホールC(東京都)

2022/03/21 (月) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2幕の思春期になった14歳のミッキー(柿澤勇人)とエディ(ウエンツ瑛士)がとても面白い。客席の笑いも多い。性への好奇心と、素直になれない臆病と、大人への反発、粋がっていながらポルノ映画行きを母親(堀内敬子=要の役として好演、歌も見事)に見抜かれて照れ隠しするかわいさ。等々。そこにリンダ(木南晴夏)が加わった、恋と友情の入り混じった三人関係。これは高校時代に私にも覚えがある。

ネタバレBOX

2幕後半は悲劇へ向かって一直線。14歳から18歳まではナレーションで済ませたうえ、18歳になってからは駆け足というほどのテンポアップで意外だった。だが、早いテンポが感動を薄めることはなく、観客をどんどん引き込んでいく。

リンダの妊娠、結婚の後、エディ―とのクリスマスパーティーの約束が、ミッキーの解雇でダメに。ミッキーの、「とてもいやだった仕事、一日中立ちっぱなしで段ボールを組み立てる。それさえ、3か月職がないと、素晴らしい仕事に思えてくる」というセリフは光る。そこからミッキーは一気呵成に転げ落ちていく。

妻リンダの「裏切り」と、二人の「密会」をミッキーが見るところは黙劇ですませる。リンダのエディに頼る心の芽生えをナレーターが「女のなかにはいつまでも少女がいる。少女を思うままにさせたらどうなるか、女はおそれつつも、やってみたくなる」と語るだけ。

エディに銃を向けるミッキーに母が「撃っちゃダメ」と真実を告げる。するとミッキーは「どうして僕を手放してくれなかったんだ。エディの人生が僕の物だ他かもしれないのに」と叫びざま、エディを撃ち、自分も警察隊に撃たれて死ぬ。このラストは衝撃だった。母が二人は双子なんだという前は、「僕にはエディは撃てない」と打つ気がなかったのに、自分とエディが交換可能だったと知って、一層絶望が深まったのか、近親憎悪なのか。

ライオネルズ夫人が「生き別れた双子が、互いに双子だと知った時、二人は死ぬ」と語った迷信が怖いように完成する。

母が「嘘だと言って、芝居だと言って、やり直せるよもう一度と」と静かに切々と歌う。死んだ二人がここで起き上がって大団円という演出もあり得るが、シリアスな劇としてはもちろん死んだままの方がいい。歌詞は「昔の映画の場面だといって。マリリン・モンローの」とあり、「マリリン・モンロー」の名前が劇中歌で繰りかえされたのが、ここに収れんして舞台を浄化する。
オロイカソング

オロイカソング

理性的な変人たち

アトリエ第Q藝術(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

今は家を出て行った双子の一人・倫子(西岡未央)。彼女が7歳の時に遭った事件。その事件のせいで、10歳の時の学校の性教育でははいてしまい、高校生になると心の傷を埋めるように、だれとでも寝るようになる。双子のもう一人の結子(滝沢花野)が、倫子の恋人(?)だった写真家のルーシー(万里沙)と語り合う32歳の現在と、過去を行ったり来たりしながら、性被害者の問題にじわじわとせまっていく。

若くてパワフルで美しい女優陣の魅力と熱量に圧倒された。狭い会場での熱演、衣装や小道具も段ボールから出したりしまったりの、手作り。幼少期の誕生会や、「サザエさん」の場面はのどかでホッとする。サザエさんを見ながら「カツオはタラちゃんのお兄さんなの?」「サザエさんちは普通じゃないね」「うちも普通じゃないね」と、この家族の事情が分かっていく。母(佐藤千夏)は未婚の母、祖母(梅村綾子)と血のつながりがない。
「引っ越しのバイトは、他人の日記をのぞくようで楽しい」など、ちょっとしたいいセリフもある。

「オロイカ」は天草方言でキズモノのことらしい。漁師のおかみさんたちが「この魚、もってけや。オロイカだ」と使う。芝居では方言もいかされてる。天草から大阪に出て大阪弁になった祖母が、東京で関西弁を直そうと、「ばあちゃんが大阪弁使ったら、10円あげる」と幼い双子にもちかけたり。1時間55分。

ネタバレBOX

性被害をなかったことにはしないと目覚めるシーンでは、倫子が、仲間たちと戦うミーレンジャー(?)に変身する。子どもっぽさにあっけにとられるが、シリアスな展開が続く中の、息抜きであるし、ご愛敬である。サザエさんの話が前半にあるのが伏線になっている。
泣くな研修医

泣くな研修医

劇団銅鑼

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/03/18 (金) ~ 2022/03/23 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

目頭の熱くなる場面がいくつもある、いい芝居だった。はじめのうち、セット転換が多い気がしたが、意外と流れが滞らない。主役南野隆治(山形敏之)の、幼少期の回想の声とオーバーラップさせることで、転換だけではない、意味のある時間になった。病室、面談室、医局、研修医室、合コン会場、公園等の場面をしっかり背景を変えて見せることで、正統派のリアリズムにたつ劇団の良さが出た。演者の芝居にぐっと感情移入できた。

新米研修医役の山形敏之がよかった。無力感にさいなまれたり、現場の矛盾に憤ったり、若い患者の死に打ちのめされたり、体当たりの演技でこちらも心動かされた。外科医長役の館野元彦は、セリフは少ないが、登場場面をきりっとしめる。何度見てもいい俳優である。予定100分のところ、見た回は95分だった。

ネタバレBOX

アフタートークに原作者が登場して楽しめた。客席には日本共産党の市田忠義副委員長の姿もあった。
舞台『千と千尋の神隠し』【5月17日~19日12時、22日12時、25日12時、6月25日~7月3日の公演中止】

舞台『千と千尋の神隠し』【5月17日~19日12時、22日12時、25日12時、6月25日~7月3日の公演中止】

東宝

帝国劇場(東京都)

2022/03/02 (水) ~ 2022/03/29 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

映画のファンタジーを、アナログの人力総動員で舞台に見事に再現していた。目を楽しませる満足の3時間(休憩込み)。能舞台をヒントにした橋掛かり付きの回り舞台が、4面をそれぞれ違った場面に衣替えしながら場面転換をスムーズに。妖怪変化の動きはワークショップで試行錯誤したらしい。工夫が見られたのはいろいろあるが、釜爺の6本手、湯婆婆のド怒り顔、三つの頭の頭(かしら=五十嵐結也が半裸で熱演)、龍のハク、巨大化するカオナシ、鳥やネズミのパペットなど。銭婆のもとへ行く水の上を走る列車シーンは、スクリーンの水辺の映像を使って、油屋とは異なる静かな雰囲気を一瞬で創っていた。

映画通りといえば、冒頭、ハクに手を引かれて走る千尋の、上向きに折った手を振りながらのポーズは、「そういえば」と懐かしかった。
カオナシは有名ダンサーの配役で、油屋の中に忍び込むシーンや、水底を泳いで千尋についていくシーン、くねくねしつつキリッとした独特の動きが印象に残った。

宮崎駿映画の中でも、メッセージ性の低い、つかみどころのない作品。舞台を見ながら「鶴の恩返し」の鶴がハクに変わったような、民話的テイストを感じた。千尋が過去を思い出し、ハクが名前を取り戻す場面は素直に心が動いた。リフティングしながら空中(水中)場面をつくっていた。もちろん全編には拝金主義批判、自然破壊の文明批判もちらちらみえる。

ネタバレBOX

とにかく金と労力がかかっている。ただ、映画と基本同じなので、映画を見れば舞台をわざわざ見なくてもいいのかな。
粛々と運針

粛々と運針

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2022/03/08 (火) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

若手劇作家の中でイチオシの横山拓也の大劇場進出作でまずはめでたい。横山の微細な会話劇を、ウォーリー木下が大舞台のエンターテインメントに見事に仕立て直した。セットは、天井からぶら下がった無数の白いひもが林のように並び、舞台には8個程度のイスとソファー、テーブル。コート、スタンド、振り子時計等々も宙に浮いており、それがシルエットとして、家庭内の様子を象徴したり、蛍光灯や白熱灯がついて、府に気を変えたります。舞台奥にドラムと、アルプホルンの小型原型楽器を電子的にビブラートするような楽器(Didgeridooというらしい)の二人のミュージシャン。奥の壁面には桜をシンボライズした水玉でできた花模様や、様々な中小デザインが、音楽に合わせてダイナミックに展開する。

舞台のバックでこれだけ支えたうえで、6人が演じるのは、夫婦(徳永えり、前野朋哉)とアラフォーの兄弟(加藤シゲアキ、須賀健太)そして老女(多岐川裕美)と子供(河村花)の縫う人の、3組の会話。縫う人の二人は、どこかの桜並木が伐採されて、桜が見られなくなった話をしている。

最初は夫婦が、夫が路上実験中の自動運転車に追突されて、警察に言わんといてくれれば、新車と交換するといううまい話なんや、などたわいもない話から始まる。そして夫婦の妻が妊娠したかもしれないという話から急転直下、本題へ入っていく。兄弟の母ががんで余命いくばくもないから「孫を見せてやれよ」という話もかさなり、産む産まないをめぐってのシリアスないさかいになる。

子どもを産む産まないでシビアにぶつかる演劇は、数年前にどこかの小劇場でも見た。今回もいい芝居だった。男と女の負担の違い、埋めがたい溝が突き付けられて、痛い。横山劇には珍しく、あまり笑いが起きなかったのは不思議だった。休憩なし2時間

客席はずらーッと女性ばかり。本当に99%女性という感じで、しかも若い人が多い。この女性たちが、この芝居をどう思ったか、聞いてみたい。

ネタバレBOX

いつの間にか夫婦と兄弟の会話が、互いに同じ場にいるように入交じり、縫う人の子供が妻のおなかの中の胎児らしいと分かってくる。「私は生まれたらいけないの?」と。すると老女は、がんを患う母。老女が多岐川裕美と、美しいので、病床にある70歳の女性とは全く予想してなかった。
椿姫

椿姫

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2022/03/10 (木) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ソプラノ中村恵理も、テノールのデソーレも、バリトンのミシュケタも最高だった。オケも軽やかで抒情的で、盛り上げるところはしっかり盛り上げ、すばらしかった。全幕、きき所だらけ。なかでも、3幕のヴィオレッタが、なかなか来ないアルフレッドを焦がれるシェーナの後半が聞かせた。指揮者はウクライナ出身。母国の状況を憂いているに違いないが、音楽にも劇場にもそんなきな臭い気配は一切なかった。
2時間45分(休憩30分)

「最高は一つじゃない」という言葉を「粛々と運針」の須賀健太君が、好きな言葉として挙げていたので、使わせてもらいました。

ハングマン

ハングマン

パルコ・プロデュース

世田谷パブリックシアター(東京都)

2018/05/16 (水) ~ 2018/05/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

いい芝居だった

一枚のハガキ

一枚のハガキ

劇団昴

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2022/03/16 (水) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

上手に小さな納屋、下手に階段つきの高さ1m幅2mほどの台があり、軍の上官の演台や、兵士の二段ベッド、啓太の故郷の家になる。開幕時は正面は白いカーテンだけだが、その奥に、劇の中心となる森川の母屋があって、この出し入れで、大きな舞台の転換がある。こうした美術がよくできていた
ただし少々舞台が広すぎた感がある。

前半のどんどん場面が変わるのは、カットを積み重ねる映画のような効果があったが、少々説明的で感情がじっくり深まらないのが残念。
後半は一転、森川家で戦争未亡人の友子(服部幸子)と、尋ねてきた啓太(中西陽介)の二人芝居をじっくり見せる。欲を言えば、二人の対話にさらに時間をかけてもよかったのではないか。意外とサッサとすすんでいく。いい話だが、映画の舞台化にあたってのめりはりのつけかたが不十分だった。
神楽の竜踊りは見事の一言、これももっと見たかった。
2時間10分(休憩15分込み)

ネタバレBOX

森川の家が炎に包まれるシーンは、炎の効果満点。一転しての緑の、そして黄金色にかわる麦畑も併せて、いい場面だった。
裏切りの街

裏切りの街

パルコ・プロデュース

新国立劇場 中劇場(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

いやあ、驚いた。初めて会った二人のやりたい思いを隠した会話、夫への隠し事、彼女へのごまかし、それだけでこれほどニュアンスに富む芝居になるとは。前半は1時間半かけて、ネットで知り合ったダメ男と人妻が、3度目に会って体を交えるまでを、ためらいや無駄話でじっくりじっくりみせる。何も起きない、人生的深みもないのに、これがまったく飽きない。浮気の理由もない。ただ「なんとなく」。これほど非演劇的な話もないのに、すごい演劇的。非常にびっくりした。逆説的な舞台だった。

場面転換が多い。女のマンション、ダメ男のボロアパートもよく作りこまれたセットを使い、映画のような本当らしさがある。演技も、大きな感情の表出がない分、クローズアップ的な微細な演技で映画的といえる。それを舞台でやって観客を引き込むのだからすごい。

ショートメッセージやマッチングアプリの文字のやり取りを、舞台中央に浮かぶスマホ画面で、延々見せる。その間、俳優は自分のスマホに向かってカチカチやるだけ、「声」も動きもない。舞台ではほんとは避けるやり方を、確信犯的にやって成功している。
いろいろな意味で、アンチ演劇の舞台。
三浦大輔というとセックスを席らに描くので有名だが、そんなのなくても、すごいということがわかった。

ドライで冷徹な人間観が、絶望的なようで、意外にも救いを感じる。多少のことでびくびくするな、と勇気を与えてくれる、というか。とにかく、普通の道徳をすべてひっくり返したところに生まれる、かつてない生きやすさみたいなものを感じた。現実はこうはならないので、日常的な表層の底に、非日常的体験、演劇的飛躍がある。そこがひきつけられる理由だろう。アンチクライマックスによるカタルシス経験である。

3時間10分(休憩20分)

ネタバレBOX

後半は、浮気がばれて修羅場になるのかと思っていた。二幕早々、妊娠が起きる(うかつにも予想外だった)。ところが、すぐ「結論は決まってるでしょ。産めといわれても困る」と、軽くスルーしてしまう。あれ? ドラマが起きる格好の材料なのに…。と思っていると、浮気がばれるのも、夫からの呼び出しも、すべて衝突になりそうなことすべてが、何の衝突にもならずにすんでいく。「本当のことは一つじゃないんだよ」「君も面倒なことはいやだろ」とか言って、なかったことのように飲み込まれて行ってしまう。このアンチドラマの作劇にびっくりした。

夫も、ダメ男の彼女も、実は浮気していた。皆が皆相手を裏切っている「裏切りの街」。
裏切りの街【東京・大阪 全公演中止】

裏切りの街【東京・大阪 全公演中止】

パルコ・プロデュース

新国立劇場 中劇場(東京都)

2020/05/31 (日) ~ 2020/06/16 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

いやあ、驚いた。初めて会った二人のやりたい思いを隠した会話、夫への隠し事、彼女へのごまかし、それだけでこれほどニュアンスに富む芝居になるとは。前半は1時間半かけて、ネットで知り合ったダメ男と人妻が、3度目に会って体を交えるまでを、ためらいや無駄話でじっくりじっくりみせる。何も起きない、人生的深みもないのに、これがまったく飽きない。浮気の理由もない。ただ「なんとなく」。これほど非演劇的な話もないのに、すごい演劇的。非常にびっくりした。逆説的な舞台だった。

場面転換が多い。女のマンション、ダメ男のボロアパートもよく作りこまれたセットを使い、映画のような本当らしさがある。演技も、大きな感情の表出がない分、クローズアップ的な微細な演技で映画的といえる。それを舞台でやって観客を引き込むのだからすごい。

ショートメッセージやマッチングアプリの文字のやり取りを、舞台中央に浮かぶスマホ画面で、延々見せる。その間、俳優は自分のスマホに向かってカチカチやるだけ、「声」も動きもない。舞台ではほんとは避けるやり方を、確信犯的にやって成功している。
いろいろな意味で、アンチ演劇の舞台。
三浦大輔というとセックスを席らに描くので有名だが、そんなのなくても、すごいということがわかった。

ドライで冷徹な人間観が、絶望的なようで、意外にも救いを感じる。多少のことでびくびくするな、という勇気を与えてくれる、というか。とにかく、普通の道徳をすべてひっくり返したところに生まれる、かつてない生きやすさみたいなものを感じた。現実はこうはならないので、日常的な表層の底に、非日常的体験、演劇的飛躍がある。そこがひきつけられる理由だろう。アンチクライマックスによるカタルシス経験である。

ネタバレBOX

後半は、浮気がばれて修羅場になるのかと思っていた。二幕早々、妊娠が起きる(うかつにも予想外だった)。ところが、すぐ「結論は決まってるでしょ。産めといわれても困る」と、軽くスルーしてしまう。あれ? ドラマが起きる格好の材料なのに…。と思っていると、浮気がばれるのも、夫からの呼び出しも、すべて衝突になりそうなことすべてが、何の衝突にもならずにすんでいく。「本当のことは一つじゃないんだよ」「君も面倒なことはいやだろ」とか言って、なかったことのように飲み込まれて行ってしまう。このアンチドラマの作劇にびっくりした。

夫も、ダメ男の彼女も、実は浮気していた。皆が皆相手を裏切っている「裏切りの街」。
悪いのは私じゃない

悪いのは私じゃない

MONO

吉祥寺シアター(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

小さな会社の密な人間関係の裏と表がだんだん見えてきておもしろい。勘違い上司や、裏読みゴシップ女や、正論煙たがられ女史など。どこにでもいそうな人たちの右往左往のコメディ。

社員旅行を年に二度もやるのが社員のためと考えるアナクロ社長。突然やめた社員が、代理人を通じて、実はいじめを受けていたと告発をおくってくる。その調査のため、総務課長(金替康博)と同課長代理(石丸奈菜未)が社員を一人ずつ呼び出して話を聞く。でもこの二人実は不倫中。手錠を買って夜は刑事ごっこをやろうなどという話を、調査前にイチャイチャしている。呼ばれた社員も、普段は言えない上司への不満や、同僚のゴシップを「ここだけの話」と次々話す。やめた社員の直接の上司(水沼健)は「俺はわるくない」と。部下をからかって嫌われていたが、本人はそれで課内を和ませているつもりだった。ところが、話した内容が外に漏れたらしい、とわかって、互いに疑心暗鬼に…。

最後は、意外と真面目に終わらせる。リアルな会話の応酬が互いの仮面をはいでいくが、それで終わりでない。いつのまにか癒しの世界に舞台が変わり、許しと友愛が訪れる。終わってみれば、一つの大人のメルヘンだったような気もする。

ネタバレBOX

ICレコーダーを盗んだ犯人は、普段から社内のゴシップ集めを、また別の人間のためにやっていた。社員のリベート着服をえらそうに批判した社長も、実は裏金をもらっていた。そうして、渦の外にいると安心していた偉い人も仮面がはがれていく。
とにかくみんなの前で懺悔して気持ちよくなるというのは、寓話として、思考実験として面白かった。
横濱短篇ホテル

横濱短篇ホテル

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/03/09 (水) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

泣かされた、笑わされた。ホンもいいけれど、ホンを読むだけでは起きなかった感情の波が湧き上がってきた。落ち目の人気女優役の野々村のん、その旧友役の津田真澄の演じる感情のリアルにひきこまれた。人気女優の高校生時代を演じた角田萌果は、オーディション的な演技シーンの没入感が素晴らしい。津田の夫役の、ひょうきんなチャラ男の横堀悦夫も、いいアクセントになっていた。素晴らしい舞台であった。

「セイムタイム・ネクストイヤー」や映画「グランドホテル」にヒントを得ているが、それだけではない。マキノノゾミの自作「モンローによろしく」を先日30年ぶりの再演を見たばかりだったので、「横濱短篇ホテル」冒頭はそのパクリになっているのは笑えた。
2時間35分(休憩15分込み)

行先不明

行先不明

松竹

サンシャイン劇場(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

東京五輪を来年に控えた小さな旅行代理店。運の悪いベテラン佐々(さっさ=佐藤アツヒロ)が、その覇気の無さを仲間や退職した前社長高松(福田転球)にいじられながら、みんなダラダラ過ごしている。そこに事件が起きて…。

社員たちの積立金の口座が引き落とされて、残金がなくなっていたのだ。通帳のしまってある金庫の番号を知る高松が疑われ、そうじゃないとなると、ついで数ヶ月前に退職した経理社員の津野田(永島聖羅)が犯人らしい。津野田を呼び出して話を聞こうとするが、人付き合いの悪かった津野田の連絡先を誰も知らない。ハネムーンの予約客のキリモト(生田輝=好演)がなんと釣友で、知っていた。口実つけて、呼び出してもらったが、どうやって話を切り出すか事前リハーサルで右往左往。本人が来たら、キラキラ明るく変身していた。そのあめか、みんなどうもうまく話を切り出せず、もじもじ…

人気タレントをはめどころよく配して、ツッコミやボケ(失策)で笑わせる。空気の読めない三国(五関晃一)のキャラがいいアクセントになっている。が、事件が小さすぎるのに、その展開が大げさすぎ。犯人らしい元社員にどう話を聞くかで、延々揉められても困る。しかるべき人間が、別室で率直に聞けばいいではないか。

ただ、いくつか、みにしみるとことろもある。二幕で新任の女性社長(真琴つばさ)と元バリキャリのいま自分の意見を言わないおばさん社員((小林美江)が、女性なんて、意見行っても「自分を抑えることを学べ」とか「頭いいねえ」とか「話が長い」と言われるだけ、と盛り上がるシーン。また派遣の添乗員の夏目(馬渕英里何)が、「会社に守られて、いい気味だ」「自分の代わりはいくらでもいると思うものの気持ち、わかりますか」と、派遣の胸の内を吐露するところ。これ以外、登場人物の内面・経験を掘り下げるような告白、葛藤はない。

ネタバレBOX

新婦が突然結婚式を辞めると言い出すのも、夢を見て将来に不安になったからなんて、子供じみすぎてる。展開にリアリティが不足しすぎ。最後の預金行方不明事件の解決も、最近引き落としたという冒頭の話と違って、実は「まえの前の前野社長」が他銀行に移していたと、数年前の話にずれている。ここらへんのいい加減さが許せる場合もあるが、今作は、最も焦点になった事件だけに、台本が手抜きしすぎ。

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