人形の家
第七劇場
広島市東区民文化センター・ホール(広島県)
2017/09/01 (金) ~ 2017/09/03 (日)公演終了
満足度★★★★
ノラの物語は想像していたのとは違って、夫のヘルメルはそれほど無神経な鈍感な男ではなく、ノラは思っていたより遥かに思い込みの強い、世間知らずで驕慢な感じの女だった。
だが、社会や世間と同じように、女を一人前の人間と見ない、信頼に値しない未熟なものだとする見方を、夫がした時のショックは計り知れない。
舞台では家を出ていく前のノラと、出て行った後のノラが同時に現れ、時に互いに語り掛けたりもする。出て行った後のノラをもっと幸せになったように描くこともできたのではと歯噛みする思いだ。
自分の不運を、とともすれば身近な夫や父親の責任だと思い込む。真の敵は国の大きな仕組みや昔からの宗教観、長い間の習慣の影響であるかもしれないということに、なかなか目がいかない。
出て行ったノラと、ノラが出ていかないでこの家に踏み止まったとして、女はどちらを選んだら幸せになるのだろうか。この日の観客に聞いてみると、残った方が幸せという人が4割、出て行った方が4割、どちらでもない人が残りだったようだ。残る方に手を挙げた人は男性が多かった気がする。
彼女が置かれた状況・自身の資産や信頼できる知人、世の中の景気次第で、選択は様ざまだろうと演出の鳴海さん。
ノラは何と戦えばよかったのだろうか。
広島ジャンゴ
公益財団法人広島市文化財団 アステールプラザ
JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)
2017/02/16 (木) ~ 2017/02/19 (日)公演終了
満足度★★★★
たった一人の木村になるために
直前まで観に行くかどうか迷った。西部劇らしい?!
あまり期待できない気がしたのだ。客席には200名近くの観客席、しかもほぼ満席である。
それは私の予想を裏切る舞台だった。
まさか広島で、まさかアステールで、広島作のこんな骨太の舞台が見られるとは思わなかった!
西部の町「ヒロシマ」の舞台は、違和感なく目の前で繰り広げられる。アクションがらみのダンスシーンもなかなかの迫力だ。
一人っきりの異質な人間を、和の国日本では、「なぜ折り合いが付けられぬ」「なぜ諦めて人と同じように出来ぬのだ」と公然と追い詰めるところがある。
終幕部の穏やかな静けさが、ことに印象的。
誇り高き弱者のために、私たちは「たった一人の木村」になれるだろうか。
プライムたちの夜
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2017/11/07 (火) ~ 2017/11/26 (日)公演終了
満足度★★★★
リーズナブルなサイドの2階席が取れた。多少観にくいが舞台がとても近い。久々に浅丘ルリ子も観ておきたかった。ご高齢なので、これが最後かもしれないなどと失礼な(!)思惑もあり。
平田オリザのロボット芝居もある中で、役者がアンドロイドを演じるのは興ざめかもしれないと危惧したのだけれど。これがなかなか良かったです。
亡くなった人とそっくりのアンドロイドが開発された近未来。
浅丘ルリ子の80歳過ぎの老女の芝居は、さすがに真に迫った感じがあり、見事だった。ところが次の場面でアンドロイド役で登場した時には、ひややかにシャキッとしたアンドロイド振りで感心した。女優というは凄いものだ。
娘が老いた母のために頼んだのがアンドロイドである彼女の夫(しかも若い頃)、その娘が死んだ後に娘の夫が頼んだ妻のアンドロイドと、役者が本人役とアンドロイド役の二役を演じるのだが、その演じ分けがスゴイ。「それは記録されていません」という台詞が笑える。
そして最後のアンドロイドたちの会話、これが衝撃だった。
アンドロイドたちは、あとからインプットされた情報しか持っていない。ロボットにない、一番の人間らしさは、弱さであり狡さなのであろうかと考えさせられた。
南島俘虜記
青年団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2017/04/05 (水) ~ 2017/04/23 (日)公演終了
満足度★★★★
Bチーム
竹と木の葉で編んだ南の島らしい簡易づくりの医務室にのんびりとだらしなく寝転ぶ捕虜たち、熱帯の木々に囲まれた舞台美術は客席も覆い尽くすばかりで、まるで南の島にワープしたようだ。
近未来の日本は戦争中で、だが捕虜としてとらえられた日本兵たちの収容所は、平和そのもの。努めて緊張感を持たせないような演出で、捕虜たちの怠惰な日々が描かれる。
若い役者の卵たちはさすがに演技も台詞も達者だが、舞台に登場しない部分の奥行と言うか演技の深みが乏しい気がする。きっと、もっと面白い芝居になったろうな。
ウタとナンタの人助け
一般社団法人 舞台芸術制作室無色透明
広島市東区民文化センター・ホール(広島県)
2018/01/13 (土) ~ 2018/01/13 (土)公演終了
満足度★★★★
こんなにたくさんの障害を持った人たちと芝居を観る経験は初めてかもしれない。静かな熱気があふれる満員の観客席だった。
出演者にもたくさんの障害を持った人が参加している。車いすの人もいる。台詞や演技を覚えて舞台で演じることは大変だったろうと思うのだが、実際の舞台は、どこまでが演技でどこまでが素の当人だが分からないような緊張感をはらんだ演劇空間であり、とても30分の芝居だったとは思えない豊饒さが溢れている。
京都の柳沼昭徳が芝居を書き、宮崎の永山智行が演出した舞台だが、劇中には広島の地名がたくさん登場し、当時の少し古風な広島弁が随所に登場する。
アフタートークで聞いたところによると、上演時間はちょうどウタとナンタがマサルを送って行った広島駅(ピロシマ駅)から宇品港までのピロ電の乗車時間と同じだそうで、まさに同時進行の芝居だった。自ら長老役で舞台にも出演した山口隆司さん(NPO法人ひゅーるぽん)が、孤児になってもまわりの仲間たちに助けられしっかりと生きていくであろうユタとナンタの姿に多くの人が共感したとしても、現実は「児童養護施設を探そう」となる。私たちの世界は優しそうでいて実はとても冷たい社会だという言葉に、考えさせられることが多かった。
舞台演劇を都市圏に観に行くことは出来よう。でも私たちは自分たちの物語を必要としている。そんな舞台が地元でたくさん上演されるようになることを祈っている。
さよならだけが人生か
青年団
四国学院大学ノトススタジオ(香川県)
2018/02/06 (火) ~ 2018/02/08 (木)公演終了
満足度★★★★
開演が19:30なので、善通寺の駅から会場までは真っ暗で、うどん屋もとっくに閉まっている。ノトススタジオ(キャパ:100席)のある大学構内も人っ子ひとり歩いていなくて心細いこと限りなかった。
劇場の明かりにホッとする。
会場に入ると例の通り舞台には既に二人の役者が居て、退屈を持て余し、ひと悶着があったりの中での客入れだ。
時間になると休憩なしの110分の芝居が始まる。
相も変わらず、何となく気になる他人のいとなみはついつい興味があり、無責任な感想やら強引な持論やらに、うん、うんと肯きつつ自分も首を突っ込んでしまっている。青年団の芝居は相変わらずである。
アフタートークで平田オリザに、25年後の再演はどんな意味があるのかを訪ねると、劇団のレパートリーとして上演していくつもりだとのこと。自分の芝居には努めて時事性を除いて創作するように心がけているそうだ。そうするといつまでも芝居は古びない。ただ、携帯電話に関しては頭が痛いという。25年前にはもちろん携帯電話は今のようには普及していなかったので、舞台の役者たちはひとりとして携帯を使わない。劇作家は人とのすれ違いを描くことが多いので、携帯電話があったら「ロメオとジュリエット」は成立しない、だから最大の敵だそうで、頭が痛いという。
ロビーで販売していた著書の最新刊を購入し、サインを貰って、夜も10時過ぎ、凍てつく夜風の中を帰路についた。
LOVE ME DO
公益財団法人広島市文化財団 アステールプラザ
JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)
2018/03/16 (金) ~ 2018/03/17 (土)公演終了
満足度★★★★
19時開演、会社帰りでも悠遊間に合う。1時間ほどのダンス公演は苦にならない。
コンテンポラリーダンスってのは相変わらずよく分からないのだけれど、前回観たときも、なかなか楽しいステージだった。
プログラムには出演者14人の名前と血液型!だけ。
ACDCはオーディション合格者が10日間のワークショップを兼ねた稽古をして舞台に臨むらしい。
ほとんど女性だったけれど、男っぽい激しい動きのダンスも迫力があった、地元劇団が劇中に見せるダンスとは段違いだ。ただ、さすがに目が慣れると一人一人の技量の差が見えちゃう。
テーマは恋。舞台を見ていると、男と女の出会いや別れに見えなくもない。逞しく自律的な女性像と、相変わらずか弱い女性を求める男性の視線とが舞台に交錯する感じで面白い。
普段着にベレー帽で舞台挨拶をした近藤良平さんが、そのままの姿でソロで踊るシーン、キレのいい動きと軽やかの身のこなしはさすがプロだね。
訳が分からなくても、コンテンポラリーダンスは、脳の老化を防ぐと平田オリザが書いていた。ダンサーの華麗な動きを見ているだけでも血流がよくなりそうだ。
ブロードウェイと銃弾
東宝/ワタナベエンターテインメント
博多座(福岡県)
2018/03/24 (土) ~ 2018/04/01 (日)公演終了
満足度★★★★
地方都市在住だとミュージカルの舞台を観る機会はほとんどない。
初演の評判が良かったので、思い切って福岡まで観に行くことにした。売れない劇作家が、自作をブロードウェイで上演できることになり・・というストーリにも興味があった。
地図だけを頼りに初めて出かけた博多座、劇場に入ってからも豪華な雰囲気に驚いた。オーケストラピットでは開演前からすでに音合わせ中だ。幕が開くと、回り舞台や迫りの装置が舞台を華麗に演出する。
あらすじは、ほぼ公演チラシより。
自分の戯曲をブロードウェイの舞台に懸ける願いがかなったデビッド(浦井健二)。ところが出資者であるマフィアの親玉ニック(ブラザートム)は、ロクに台詞も言えない大根役者の愛人オリーブ(平野綾)を主役につけろと要求し、部下のチーチ(城田優)を稽古場にボディガードとして送り込んでくる。プライドの高い主演女優ヘレン(前田美波里)は脚本を書き換えろと色仕掛けで迫る。ひと癖もふた癖もある彼らが無理な注文を要求してくるなかで、芸術至上主義でまじめなデビットは困惑する。その上、稽古を監視していたチーチまでが脚本と演出に口を挟んで来る。さらに、残してきた恋人のエレン(愛加あゆ)と自分を誘惑してくる主演女優ヘレンの間で揺れ動くデビット。
舞台を完成させたい一心のデビッドは、脚本と演出に数々の妥協を余儀なくされる。しかも、ギャングの子分であるチーチの提案は、いちいち的確な指摘ばかり。神は意外なところに才能を授けたわけである。二人はともに苦心して脚本を書き直していく。そして舞台は見事に大成功を収めるのだが、初日の舞台の後にデビットは重大な告白をする。
舞台の完成とデビットの恋の行方にはらはらし、ギャングに追われるチーチの運命はいかにと手に汗を握る。舞台を創る側の悪戦苦闘と出来上がった舞台の華やかさを同時に味わえるという予想以上にお得なミュージカルだった。今、人気のプリンス浦井健二を芸達者な共演者たちがしっかりと脇を固めて、ショーアップされた歌やダンスも勿論のこと、思わずニヤリとさせられる台詞のやり取りも洒落ていて、小劇場ファンの私が観てもなかなか楽しめる舞台だった。観客としては、平凡な幸せを選ぶより、悪魔に心を売ってでもいい芝居を作ってくれる人を望みたいところだが。
舞台の上を、役者を乗せた本物のクラシックカーがゆっくりと通り抜ける。日生劇場始まって以来という煽情的な衣装の踊り子たち、ダンスは颯爽として華やかだった。ギャングたちのタップダンスシーンは事前に動画で観ていたが、生の迫力はやはり違う、ため息が出るくらいカッコいい。
思わず身を乗り出して、隣の席の人からやんわりと注意をされる。(幕間には身を乗り出して観劇しないように繰り返しアナウンスされるのだ)3階席の最前列だったので、オペラグラスも初めて用意した。役者の表情の動きがよく見える。いちいち舞台全体と見較べるのは面倒だけど、後方席には必需品ね。
広島アクターズラボで生まれた五色劇場の試演会2 「新平和」
一般社団法人 舞台芸術制作室無色透明
広島市東区民文化センター・ホール(広島県)
2018/06/08 (金) ~ 2018/06/10 (日)公演終了
満足度★★★★
試演会②の「新平和」を観に行った。終演後にアフタートーク有り。
主人公の少女が人型の人形なので演技はしない。共演の役者は、この人形の表情や仕草が目に浮かぶような受けの演技が要求されるという仕掛けが絶妙。
主人公の少女の姿がありありと目に浮かぶというわけには行かなかったが、その代わりに原爆を通した様ざまな人物の日常が生々しく浮かび上がる。
諦め、やり過ごし、あるいは逞しく・・。悲惨な体験だったというのっぺりした印象の原爆が、個人個人の体験をとおして生々しく実感されることに驚く。台本としての台詞は無く、シーンごとに参加した役者たちがほぼ創作したものだという。
少女の初潮を描いたシーンが印象的だった。作者の柳沼昭徳はこんなにフェミニストだったかしらと意外だった。おそらく、参加した役者の大部分が女性だったために、彼らの共同作業のなかで創造されたに違いない。
特に悲劇的なシーンは無いにもかかわらずが、役者ひとりひとりが掴み取った感覚を観客に伝えようとする衝動が強い吸引力をもち、観客席で観ていて引き付けられた1時間半だった。
その頬、熱線に焼かれ
On7
JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)
2018/08/15 (水) ~ 2018/08/16 (木)公演終了
満足度★★★★
原爆乙女のエピソードは聞き知っていたが、実際に渡米した彼女たちの複雑な心境は、舞台を観て初めて思い至った気がする。それにしても、弱いものが、他の人のささやかな幸運を妬み、足を引っ張り合うのは日本人だけなのだろうか。
出迎えたアメリカ人に抱きしめられケロイドにキスをしてくれたという経験を話す女性が、「こちらでは挨拶なのかもしれないけれど、いつも俯いて暗い顔していた自分が、そうされたことで、自分の中で何かが変わったの」という台詞がことに印象に残った。
移植手術で亡くなってしまった彼女が、残された仲間たちに問いかけながら必死で励ます姿に希望を感じた。見送った後に泣き崩れた彼女の悲しみを私たちは忘れずにいたいと思う。
『ソウル市民』『ソウル市民1919』
青年団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2018/10/14 (日) ~ 2018/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
久々に本拠地アゴラでの青年団本公演である。一番前のベンチ席で観劇。篠崎家の客間(居間?)が目の前にあり臨場感たっぷりだ。
以前観たときは、最初から舞台に登場する叔父役だった山内健司が凄く印象に残っていたので、今回は太田宏だったのでオッと感じる。その山内健司が主人の宗一郎役で登場した時には感慨ひとしおだった。観客の私も少し齢を取ったわけである。
まるで篠崎家の一員のような気分で家族の会話や訪れる訪問者との会話に興味津々だ。
さり気なく無邪気に交わされる朝鮮人たちへの差別意識。
差別意識は、こんなふうに意識することもなく、ごくごく普通の人の中に染み込んでしまっている。そのことに私は気づくことが出来ているだろうか。
遺産
劇団チョコレートケーキ
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2018/11/07 (水) ~ 2018/11/15 (木)公演終了
満足度★★★★
七三一部隊で人体実験を行なった医師と、被験者(マルタ)に接して働いていた特別班の隊員の現在と過去が交錯しながら舞台は進む。
いかにも人の好さげな今井医師(岡本篤)は他の医師が口実を付けて断ったマルタの人体実験も引き受けてしまう気弱なところがある。同時にその今井が平然と白衣を血に染めて人体実験を行なう。
マルタは「丸太」からではなく、素材という意味のマテリアルからつけたものらしい。まさに実験素材だったわけだ。
生きた人間をも解剖したという七三一部隊の人体実験の被害者は3000人にも上り一般市民の中国人も多かったという。
いっそ、医師の彼らが人間の皮をかぶった悪魔であったなら、私たちはどれほど心を撫で下ろしたであろうか。
時代の流れと大きな組織の動きの中で、私たちはどれだけ自分の良心と自分の行動を律することができるだろうか。同じ過ちを犯さないとは言えるだろうか。
ドキュメンタリー
劇団チョコレートケーキ
ぽんプラザホール(福岡県)
2019/02/15 (金) ~ 2019/02/17 (日)公演終了
満足度★★★★
「キビるフェス2019」(福岡きびる舞台芸術祭)のチラシで劇団チョコレートケーキの公演が来るのを知り、すでに観た『遺産』に続いて観に行くことにした。
-その感染経路の一つは『薬』。-
1985年、後天性免疫不全症候群いわゆるAIDSの脅威が
日本の水面下に拡大しつつあった。とある製薬会社の社員の一人がジャーナリストに内部告発を行う。そしてジャーナリストと社員は日本医学界の深い闇を知る・・・(パンフより)
たった3人の役者で、歴史の中に埋もれた社会悪を描く力技とも思える手法だが、次第に解明される謎に、どきどきしながら食い入るように観た。フリージャーナリストの彼が聞き取り取材のために、調べておいた経緯をテープに吹き込む設定が、説明台詞を感じさせず、状況を上手く観客に伝えてくれる。
内部告発を決心した社員の動機に当事者にならないと、人の気持ちは揺れ動かないのだと気づかされる。
いかにも人の良さそうな小児科医を岡本篤が演じる。元製薬会社役員であり、戦時に人体実験を繰り返した医師である。
「人は医者の言うことは、信じますからね。」という台詞に愕然とした。信じなければ治療のために自分の体を委ねることができないではないか。真理の究明のためには人間は材料だ、なんて思われいるとしたら・・・。
怖くて医者にはかかれない。
3000人もの人体実験をした人間の手に、私たちの身体は委ねられてきたのだろうか。
ACDC公演「Jealousy Days(ジェラシー デイズ)」
公益財団法人広島市文化財団 アステールプラザ
JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)
2019/03/16 (土) ~ 2019/03/17 (日)公演終了
満足度★★★★
去年だと一生懸命さの中にお稽古たいへんだったろうなって感じがほの見えたのだけれど、今年はひたすら楽しげで、観ている私もワクワクと楽しい。
微妙にずらして踊るダンスシーンがひとり一人を際立たせたし、動きが一斉になったときの迫力は壮観だった。今回男性ダンサーが5人も参加していて、男性のダイナミックさと女性の凛としたしなやかさの対比が面白かった。
台詞はほとんどないが、人間の身体というのは、なんと饒舌なものかと呆れてしまう。お話しするとき表情だけでなくボディランゲージも心掛けたい。
凛とした動きの中西あいさん、意外と器用なんだな井塚昭次郎くん、小柄なのに華麗な恋塚祐子さん、ぽっちゃり体形なのに意外と俊敏、オギエくん。私も禿げみになります、加藤よしたかさん。そしてゆりさん。等々、お芝居で見知った人もお初の人も、今後のご活躍を楽しみにしています。
毎年一回は、コンテンポラリーダンスを観に行こうと決めている。訳が分からないダンスは脳にはとってもいい刺激になるそうで、認知症防止にもなるらしい。
ACDC以外のステージも観に行ってみたのだけれど、興味深い印象はあったものの、「楽しい」かというと微妙だった。
結局、年一回の見物はACDCに定まったわけだ。公演の取り組みは、今年で10年目になるという。来年も楽しみ!
青年団「東京ノート」
枚方市総合文化芸術センター指定管理者 アートシティひらかた共同事業体
枚方市総合文化芸術センター/関西医大・小ホール(大阪府)
2021/10/08 (金) ~ 2021/10/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2021/10/08 (金)
青年団はレパートリーを一定期間ごとに再演してくれるので、地方に住む平田オリザが言うところの「ボクのお客さん」たちは、安心して、好きな芝居の再演を待つことができる。
何年ぶりの「東京ノート」だろうか。
こけら落としの劇場で、久々の「東京ノート」だった。一新された舞台美術がとてもオシャレ。
通常、芝居で台詞が重なることはほぼないが、同時多発演劇の舞台に最初は慣れるまでちょっと戸惑う。
聞いて欲しい会話は巧妙にクローズアップされるので焦ることはないのだけれど。
遺産の絵を相続する問題や高校時代の家庭教師との火遊びやら平和運動をしていてその後堅実な仕事に就いた学芸員の意外な前歴やら・・。まるで人の噂話を立ち聞きするような舞台に観客は耳をひそめる。同じ舞台を観ても、その時の自分の関心事やら経験でハッとする場面が違うのが面白い。観客ひとりひとりの「東京ノート」である。
<ネタバレへ>
私の場合、苦しい時に、女同士はこんなふうに助け合えるんだと、胸がキュンとした。舞台が、自分の生きてきた人生にスポットライトを当ててくれるようで、平田オリザの再演舞台は毎回楽しみにしている。
『だけど涙が出ちゃう』
渡辺源四郎商店
四国学院大学ノトススタジオ(香川県)
2020/02/08 (土) ~ 2020/02/09 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2020/02/09 (日) 12:00
こちらは「どんとゆけ」の前日譚として書かれた工藤千夏の新作。題名はスポ根アニメの「アタックNo.1」から取ったもの。ほぼ同じ舞台装置、被害者家族に死刑を執行させるという設定も同じである。どんとゆけに登場する青木しの、彼女の生い立ちと思春期に遭遇したある事件が描かれる。畑澤によると「どんとゆけ」のエピソードワンだそうだ。
アフタートークで、作者の千夏さんは、「とんとゆけ」と真逆の殺人犯を描きたかったと話した。果たして神原医師は、青木しのの実の父親であろうかと聞かれ、どうぞ、その謎は観劇後までお持ち帰り下さいと答えた。
The last night recipe
iaku
AI・HALL(兵庫県)
2020/11/05 (木) ~ 2020/11/08 (日)公演終了
満足度★★★★
題名の『The last night recipe』は最後の晩餐という意味だという。舞台は、結婚して1年後に、妻のヨリが夕食を食べた晩に急死するところから始まる。その日、彼女はコロナのワクチンを受けていた。接種体験込みの体当たり取材を担当していたのだ。
周囲の達者な役者たちのせいで、ずいぶんとリアルな近未来劇(2021年)になっていた。相変わらず役者の出捌けが巧みで舞台転換が上手い。
コロナ禍のせいで常連客が減り店を閉めたラーメン屋の店主(緒方晋)はリョウヘイの父、会社を早期退職したヨリの父親(福本伸一)は娘が可愛いばかりでちょっと頼りない。リモートワークで経理の仕事をしながら大黒柱になるヨリの母親(竹内都子)の本音トークが小気味よい。ヨリの相談に乗ってくれている先輩ライターの綾(伊藤えりこ)、ヨリが猛アタックして恋人になった得意先のハヤタさん(小松勇司)。
中卒でずっとラーメン屋の下働きをさせられていたリョウヘイに興味を持ち、この取材対象と突如結婚してしまったヨリ。彼女は30歳を前にフリーライターの正念場で少し焦っていた。
何を考えているのか解らないこの二人の、突拍子もない行動、あるいは何も行動しない、そのことに観ている方はまるで感情移入できず、困った。
コロナワクチンの薬害か、取材のために結婚させられた夫による殺人か、舞台はサスペンスタッチで進むかに見えたが、ユリの急死の前の出来事とその後が行きつ戻りつしながら物語は新たな様相を見せ始める。
ヨリは結婚生活での二人の夕食を last night recipeとしてブログにアップしていた。この同じメニューをもう一度食べてみて、リョウヘイはラーメン屋の父の許に帰る決意をする。
もう以前のように、人と会い、喋り、食事を共にしても、コロナ禍の後では、そのことの意味は全然変わってしまっているんだと、私は感じた。
人気劇団の新作舞台、観て戸惑った観客が多かったようだ。
フェイクスピア
NODA・MAP
大阪新歌舞伎座(大阪府)
2021/07/15 (木) ~ 2021/07/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
評判はいいらしく、観に行く人はネタバレ感想は読むな!とあちこちに書かれていた。まったく予備知識なく出かけた。7月25日が楽日である。コロナ禍の中、奇跡的に東京・大阪公演とも一日も中止にはなかった。
大好きな橋爪功や白石加代子も出ていて、野田さんはシェイクスピア役、肖像画通りのハゲでブルマーみたいな衣装で出てくる。
芸達者ぞろいの少数精鋭の役者と大勢のコロスたち。
互いに神様から授かった言葉の箱を取り合うドタバタごっこ。
シェイクスピアのリア王とオセローとマクベス・ハムレットの父王の亡霊シーン、女役を高橋一生が演じ、主役は橋爪さんがさらりと演じてみせるシーンはオイシかったが、いつもの難解な言葉遊びはなくて、ちっとも野田秀樹を観に来たという感じがしない。
こりゃ、駄作かなと思った。
<ネタバレへ>
30数年前に気が付いていれば、こんな状況になならなかった環境問題。「永遠プラス36年前」という謎の言葉に、私はそんなふうに合点がいった。ノンフィクションにしてはいけない!
もし地球が気候変動により元の地球に戻れない、引き返せなくなったとき、自分の命を顧みず必死で生き残る可能性のために戦う人間がいるに違いない。だが多くの乗客が助からなかったように大多数の人類は滅びてしまうであろう。
神様の言葉の箱を奪い合ったドタバタぶりは、私たちの姿だったのだと。
ヒッキー・カンクーントルネード
ハイバイ
山口情報芸術センター YCAM スタジオA(山口県)
2021/09/10 (金) ~ 2021/09/11 (土)公演終了
映像鑑賞
満足度★★★★
【Amazonプライムビデオ】岩井秀人特集
・『て』2018年上演 (1時間50分)
・『夫婦』2018年上演 (2時間2分)
・『ヒッキー・カンクーントルネード』2010年上演(1時間21分)
・『ヒッキー・ソトニデテミターノ』2010年上演 (1時間57分)
・『投げられやすい石』2010年上演(1時間11分)
観に行く予定にしていた山口情報芸術センターの公演が急遽中止になり、ガックリしていたところだった。Amazonでまとめて観ることができてよかった。
まず最初に観た『て』は、浅野和之が出ると知って観に行こうとぎりぎりまで迷って諦めた公演。舞台に登場した浅野がカツラを付けながら、携帯電話の電源を切る等の諸注意をし、そのまま芝居がはじまる。女性(母親)の役を男優が演じるのはハイバイのお約束らしい。声もしゃべり方も特に変えないのに、違和感なく母親に見えるのは役者が巧いせいか・・?
田舎の実家に親類が集まってという経験があると、いちいちあるあるの感覚で、ちゃぶ台とその他すこしの小道具があるだけで、いろいろな場面を演じても全然ついていける自分に驚く。
次に見た『夫婦』が一番面白かった。おススメよ。
岩井秀人の芝居は、私小説ならぬ私演劇と呼ばれているらしい。本人役も登場するが、岩井が演じているのは問題!の父親役。あとから写真をみて衝撃だった。まるでロールプレイのカウンセリングみたいじゃん。子どものころから兄弟で殺害計画まで立てて憎んでいた父親を演じる心境ってどんなだろ。
母親役は髭面まま! 山内圭哉が演じている。
役者が舞台の上で衣装を着替えながら、何役も演じるのだが、見ている観客は全く戸惑うことはないと思う。
普通の青年だった男が、結婚したとたんにDV男に豹変する。運が悪いと多くの女がこんな目に遭う。それでも死因が納得できずに医療ミスを追及する家族、この不可解な心理を舞台は圧倒的な臨場感で演じ出してくる。
観客は、自分の中の苦しさを受け留めて貰ったような奇妙な安らぎを感じるのではなかろうか。まるで幼子のように。
次に、観劇の前にぜひ観てから来てほしいと岩井が言っていた『ヒッキー・カンクーントルネード』
そして、公演中止で観に行けなかった『ヒッキー・カンクーントルネード』、これは岩井の処女作で、一連の作品を発表後、もう新作は書かないのだという。
分かったようなつもりでいた自分が間違っていて、そういうことかとやっと分かろうとした挙句、再び突き放されるという、まるでジェットコースターのように私の心が揺さぶられる。
『投げられやすい石』は、演劇版人間失格って感じ。
みっともなさ、情けなさを、あんなふうに舞台の役者で見せられるのは、観客の精神衛生上すごくいいと思う。
ゴンドラ
マチルダアパルトマン
下北沢 スターダスト(東京都)
2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ダイニングテーブルと三脚のイス。登場人物が3人だけの80分のお芝居。
前半は、うだうだになるかな、と心配になったが、後半の意外な展開が目を瞠る。
パラダイムシフトと言うほどじゃないけど、発想の転換が、鮮やかだった。
シンプルな舞台美術と思ったら、衣装も小道具もコマメに変えてて、下手の寝室と、玄関のある上手と台所やふろ場の空間の雰囲気がさりげなく感じられ見事。
時間の流れと忘れられない記憶と。
こじらせ男の恋は、叶うのだろうか。
意外なところから、救いの神ってのが、いい。
同じ芝居を別々の役者で見せる趣向が面白い。ほかのチームを見られなかったのが残念だ。
白いゴンドラ鑑賞