満足度★★★★
こんなにたくさんの障害を持った人たちと芝居を観る経験は初めてかもしれない。静かな熱気があふれる満員の観客席だった。
出演者にもたくさんの障害を持った人が参加している。車いすの人もいる。台詞や演技を覚えて舞台で演じることは大変だったろうと思うのだが、実際の舞台は、どこまでが演技でどこまでが素の当人だが分からないような緊張感をはらんだ演劇空間であり、とても30分の芝居だったとは思えない豊饒さが溢れている。
京都の柳沼昭徳が芝居を書き、宮崎の永山智行が演出した舞台だが、劇中には広島の地名がたくさん登場し、当時の少し古風な広島弁が随所に登場する。
アフタートークで聞いたところによると、上演時間はちょうどウタとナンタがマサルを送って行った広島駅(ピロシマ駅)から宇品港までのピロ電の乗車時間と同じだそうで、まさに同時進行の芝居だった。自ら長老役で舞台にも出演した山口隆司さん(NPO法人ひゅーるぽん)が、孤児になってもまわりの仲間たちに助けられしっかりと生きていくであろうユタとナンタの姿に多くの人が共感したとしても、現実は「児童養護施設を探そう」となる。私たちの世界は優しそうでいて実はとても冷たい社会だという言葉に、考えさせられることが多かった。
舞台演劇を都市圏に観に行くことは出来よう。でも私たちは自分たちの物語を必要としている。そんな舞台が地元でたくさん上演されるようになることを祈っている。