マークドイエロー
もぴプロジェクト
インディペンデントシアターOji(東京都)
2017/03/29 (水) ~ 2017/04/02 (日)公演終了
満足度★★★★
日本の3大奇書(黒死館殺人事件、虚無の供物、ドグラ・マグラ)、その最後の小説に着想した本公演は、その世界観の魅力を引き出していた。
着想した小説の難解さ、それは周知のことである。この公演は、あえてその世界を描こうとした野心作のようにも思える。戸惑うような雰囲気は、客席内に入ってすぐ実感できる。囲み舞台のどこに座るか?けっして凝った作りではない、むしらその逆のシンプルな設営。しかし何となく”あやしげな”空間、その視覚から様々な感覚が目覚め、開演までを楽しませてくれる。
(上演時間1時間40分)
ネタバレBOX
舞台は真ん中に細長い台座空間。その周り(客席と台座の間)を回廊のように使用する。台座真ん中、そこに上から四角く囲うように幕が垂れ下がる。
冒頭は、この幕内での若い男女の泣き嘆きから始まる。直ぐに出演者全員による怪しげな足取りのパフォーマンス。序盤はその雰囲気作りに腐心しているようだ。物語はストーリーテラー(さひがしジュンペイ サン)が観客に話し掛けながら物語へ誘う。その俯瞰した立場から実際物語へ溶け込んで行く。また現実と過去(3年程前か)とを往還するような回想シーン。その多重層な演出は、混乱・錯乱に満ちた舞台をしっかり観(魅)せる。
梗概は、警察病院・精神科医療室内と主人公の兄・妹が暮らしていた部屋を同一空間で表す。その違いは同一登場人物を2人1役で分かり易くすること、状況に応じて登場する周りの人物で区別させる。犯罪を犯したであろう男、その男の記憶を呼び起こすことで事件の解決を…。なぜ事件解明にその必要があるのか、その混乱・錯乱に満ちた舞台は観応え十分。正気から狂気へ変質していく兄と妹の関係。その”血”の繋がりがなければ、単なる若い男と女という生身の異性という存在になる。その人間の性(さが)が純粋であるがゆえ異常な行為へ…。その描き方が虚実の世界(俯瞰)、時間のズレ(回想・往還)として表す。
また舞台技術が巧み。舞台上の照明は上から照射し幾何学的な文様もしくは文字を映し出し精神の不安定さを表す。音響は阿呆陀羅経に木魚の音・不気味で不安を煽る。全体的にサイコ・サスペンスというジャンルであろうが、その雰囲気作りは上手い。舞台上に絞った照明と客席も巻き込むような照明、その使い分けが観客の集中力を物語に向ける。
気になるのが、物語の意外性があまりなく、ラストは大方の観客が思い描く結末だったと思う。警察のプロジェクトの意味合いが不明確で、その国家的視点がどう絡んでいたのか?警察側が記憶を教えないのは自白の強要にならないため。その一事件のためのプロジェクトとしては壮大過ぎないか。
物語の意外性は、公演そのもののテーマになり、より面白さが増すと思うのだが…。
次回公演を楽しみにしております。
家族の神話
劇団 でん組
ザ・ポケット(東京都)
2017/03/28 (火) ~ 2017/04/02 (日)公演終了
満足度★★★★
切美な毒を盛り込んだ悪魔的虚心犯、まんまと騙されるような。
物語の展開は分かり易いが、その心の奥底まで届くような印象付け。そのトラウマが生んだものは…。
本公演は、母親からの虐待を受けながらも生き抜いた兄妹が、新たな悲劇と闘い、家族の絆を自らに問い力強く生きていく、そんな物語。その展開はサイコサスペンスのようでラストまで目が離せない。
(上演時間1時間30分)
ネタバレBOX
舞台セットは、中央奥に古い大きな机、その前(客席寄)に応接セット、上手側に別空間(警察取調室イメージ)としてスチール机とパイプ椅子。物語が動く程度の作り込みで、観客が色々想像しやすいような心象形成に優れている。
梗概…4歳の最愛の娘が死んだ。その死が殺人であると主張する父親。それも自分の妻(死んだ娘の母親)だと言い、警察に訴え続ける。その挙句、妻に脅迫状を送りつけるという常軌を逸脱した行動をし逆に警察に事情聴取されるはめになる。
この父親、男の妹が弁護士で事件、事故を調査し始める。実はこの兄・妹は実の母親から虐待された過去を持ち、兄の庇い立てもあり生き延びてきた妹。頑なに、妻が娘を殺したと信じる兄が妻を追い詰めようとする。兄の異常な行動に不安と恐れを感じ始め、心の傷と闘いながら、虐待の連鎖に苦しむ妹。兄の頑なさが、妹の日常生活を侵食し、家族が崩壊するようだ。二転三転しながらも事件の真相に迫っていく母と娘。次第に明らかにされていく驚愕の真実は…。
母と子、家庭内という一種の密室で行われる虐待という悲劇。その問題に真っ向から向き合い、人間の尊厳と希望を謳いあげた感動作。物語は表層的には溺死したのは事故か事件かというミステリーと、兄妹が親から受けた虐待による人格崩壊を思わせるようなサイコサスペンス、という2つの構成で成り立っている。妹の娘(姪っ子)が母親と対立するような意見(伯父の子は「事件」)を述べ、兄の主張に肩入れする。この娘の存在が物語の鍵となり…。
ミステリー部分は、順々に「事故」か「事件」なのか謎解きを行い、納得性を持たせる。一方、サイコサスペンスは急転直下の展開で衝撃的なラスト。その見せ方はとても印象的である。物語は二分割するような構成に思えるが、根底には人の心に棲む魔物を観るようだ。親からの虐待で居場所がない兄妹が、寄り添い生きてきた過程。そこには怒りの捌け口のない無情さだけが残る。妹は自己防衛のための別人格を作り出す。遣る瀬無い思いを漏斗から狭めて悲しみの泪と血を注ぎ込むように収束を見せる秀作。
次回公演を楽しみにしております。
青春の延長戦
冗談だからね。
インディペンデントシアターOji(東京都)
2017/03/22 (水) ~ 2017/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
物語は、3つの時代(1998年秋、2008年冬、2018年夏)という10年間隔を往還して展開する。その時代は役者の控え位置、舞台上部の幕(スクリーン)への年代映写によって分かる。
登場するのは演劇(小劇場)に携わる人々、その等身大の姿を通して自らの状況(総じて若い役者であるから青春真っ只中)を投影させているようである。全体としてテンポをよく観せようと努めているが、少し時代の往還(場面転換)が慌しく余韻が感じられないのが残念。舞台上にある色々な(小)道具を引っ切りなしに使用するため、その可動なりに意識がとられたように思う。
(上演時間1時間30分)
ネタバレBOX
舞台をコの字で囲み役者控席とし、残りの一方向が客席になっている。それぞれの時代・季節ごとに座る場所が決まっている。舞台上にはテーブル、TV、旅行鞄という比較的大きな物から灰皿、クッション、クマのぬいぐるみまで様々なものが雑多。場面転換によってそれらの物を中央に運び、片付ける。
物語は演劇に関わる人々の暮らしや思い入れ、演劇を続けていく経済的・精神的困難さを思わせる。日常の安定した生活と好きな演劇活動との間に揺れる心。その状況変化を3つの時代から眺めているようだが、過去から近未来へ時は流れているのか、はっきり分からない。切り取ったシーンから断片的な状況が観てとれるが…。物語の関連性をもう少し意識して描いてほしいこと、キャストの個性的キャラクターを丁寧に演出できていれば面白かったと思うだけに勿体無い。
思っていることをストレートに表現しているようだが、その気持に客が”観劇”しているという点をもう少し意識すれば…。青春(若い)の思いを勢いよく表現しているところは魅力的。それだけに観客を芝居の中に引き込むような観せ方に工夫があればと思う。
次回公演を楽しみにしております。
BANRYU<蟠龍>
世仁下乃一座フェアアート/岡安伸治ユニット
d-倉庫(東京都)
2017/03/22 (水) ~ 2017/03/26 (日)公演終了
満足度★★★★
2008年初演、その間に起きた東日本大震災をしっかり本公演(2017年版)へ取り込んでいると思う。その観点の違いを意識させるが、その状況変化もさることながら、本公演は人間の欲望…その普遍的なテーマを役者の演技力で魅力的に観せているところ。常時、役者は舞台におり一人ひとりの演技力と豊かな表情が素晴らしい。
物語は、青森県下北半島の六ヶ所村にほど近いご在所村の奉納祭へ…。
(上演時間1時間30分:ぼたんチーム)
ネタバレBOX
舞台セットは、冒頭(上演前)は中央に賽銭箱、奥に神棚イメージ。さらにその奥に衣装や小物を収納してある箱が置かれている。ほぼ素舞台であるが、ダイナミックにして華麗な演技を披露するためのスペースを確保する。上手に太鼓、下手の客席側に三味線奏者が座り、状況に応じて三味線を使い分け生演奏で魅了する。
この村では年に一度、小さな龍神様の社を奉る奉納芝居が行われてきた。今年の出し物は、十二支に数えられた龍(蟠龍)が鼠にそそのかされた物語…。本公演は3つの話をヒントに物語を紡いでいる。 その1.龍には天に昇れないタツノオトシゴのような龍(蟠龍)もいたという。 その2.その昔、天空と守敏という二人の僧の法力合戦で生き残った西の蟠龍。都の人間にすかされ騙され落ち込んで、流れ着いたのが下北半島。 その3.自分に嫌機がさした西の蟠龍は、神様に願って役者・龍之介(幕末の頃、病で足を失い義足で舞台に上がった歌舞伎役者・沢村田之助をモデル)にしてもらう。そして人気欲しさに願掛けをする。欲が講じて東の蟠龍に…。
さて、東日本大震災を挟んだ前後の視座として、原発誘致やその後の事故補償交渉の金額まで台詞で喋らせ、人間の強欲を表す。西の蟠龍・龍之介の芸道への貪欲さを重ね合わせ、その行く末を暗示させる。その表現、冒頭の消防団による消化訓練、それは見事な消火活動をイメージさせるが、震災後はその消化活動に支障、空回りするような滑稽さ。人間の欲が村を衰退させるようなイメージ、そして賽銭箱が廃れが…。
この人間の欲…普遍的なテーマ(当日パンフで、秦の始皇帝の不老不死を引き合いに記載)を大震災を挟んだ視座で明確に表現する巧みさ。社会状況・情勢を背景とし、人間の深奥を生身の人間が体現(パフォーマンス)する面白さ。震災後の混乱、混沌を感傷に溺れさせることなく、演劇として”観せよう”と構造的に捉えているところ魅力を感じる。
次回公演を楽しみにしております。
ダンデライオンII~飛龍伝より~
ThreeQuarter
JOY JOY THEATRE(東京都)
2017/03/19 (日) ~ 2017/03/20 (月)公演終了
満足度★★★★
JOYJYO…初めて行く会場であるが、要所要所にスタッフが立ち、道案内をしており分かりやすかった。また場内は乾燥しているのでアメを配っており、制作サイドの気配りが嬉しい。この劇団「スリークウォーター」は、「4分の3」の意味。劇団員以外も客演、スタッフ、そして観客と「1」になることを目標に活動しているという。その思いがしっかり伝わる対応であった。
物語は、つかこうへい の有名な作品。それを清水みき枝女史の演出で「卵」「雛」「鶏」チームのバトルロイヤル公演第十弾として上演した。
【鶏チーム】を観劇したが、1960年安保反対学生運動の熱量が役者の演技の熱量を通して伝わってくる。
(上演時間2時間)
ネタバレBOX
舞台は、いくつかの平箱(赤が印象的)を積重ね貼り合わせバリケードをイメージさせる楯が左右に2つ。それは可動するもので、その配置によって闘争状況を演出する。赤は赤旗、故郷のリンゴを連想させる色として使用している。細かいことだが、学生側は、大学名が書かれたヘルメット、大学(法政、早稲田)校歌、角材を用意し、機動隊側は警棒、制服など舞台技術も良かった。
梗概…1960年安保反対学生運動を指揮した全共闘委員長・神林美智子と第四機動隊隊長・山崎一平の間に生まれた子「勝利(かつとし)」は国会前である男と会う。この子の俯瞰するような回想を通して、二人の馴れ初めから別れまでを緊迫感溢れる物語として描き出していた。
つか作品らしく、学生運動をしている学生の方が機動隊の給料より仕送額が多い。学歴にしても然りである。国家権力の象徴として登場する機動隊、革命を叫ぶ学生の暮らしが、その生活レベル(貧富)において逆転しているアイロニー。
”革命”とは人と人が信じ合い赦し合うこと、と叫ぶ。その信念のためには体も…その哀しいまでの行為。立場が人をつくるというが、その典型的な展開に抗うことができず、運命(さだめ)に翻弄される切なさがしっかり伝わる。
演技は、鶏チームということもあって、迫力、緊迫感に溢れていた。この劇場は後部が一段高くなるが、ほとんど段差がない。それゆえ後部座席から伏臥、横臥したシーンが観えただろうか。特に客席寄りで演技をした場合、最前列の人の体で遮られてしまうので、演出上の配慮が必要になると思う。
「やってられねえよ」ということを言わなくても済む世の中…そんな台詞があったが、本公演は「観られてよかった」という素晴らしい世界を観(魅)せてくれた。
次回公演を楽しみにしております。
「谷のかげ」「満月」
劇団俳小
d-倉庫(東京都)
2017/03/15 (水) ~ 2017/03/19 (日)公演終了
満足度★★★
アイルランドの近代劇一幕物。どちらも翻訳は松村みね子女史、上演台本・演出は松本永実子女史である。「谷のかげ」は短編であるが物語性が伝わる。一方「満月」は比喩なのか、錯覚なのか、その混沌とした展開が抽象的のようで難解であった。
「谷のかげ」(35分) 「満月」(55分) 途中休憩(セット転換)15分
ネタバレBOX
「谷のかげ」(ジョン・ミリントン・シング作)
山に囲まれた谷間にある小屋…レンガ作りの重厚感がある。上手側に暖炉、中央にテーブルと椅子、下手側はベットが置かれている。
この家には、年老いた主人・ダン(勝山了介サン)と若妻・ノラ(吉田恭子サン)が住んでいる。ノラはダンが亡くなり、その始末に困っている。そんな雨の日に旅人(斎藤真サン)が一夜の宿を求めて現れる。彼はノラが「死体」の始末のために近所の人の助けを借りに行く間、小屋の番をすることになる。しかし、その間に死体は起き上がり…。
風が不気味な音を立て吹く音響効果。それが寂寥感を際立たせるが、別の視点から観れば人の孤独な心情を表しているようだ。毎日繰り返される平凡な暮らし、そこへ旅人が現れ、少しの変化が見える。財産目当ての打算による結婚生活。そこから女性の自立が芽生える。一方、高齢・孤独への不安。人間(男女)の嫉妬と打算、夫婦の普遍的なテーマが垣間見える。
「満月」(グレゴリー夫人作)
「谷のかげ」から一転して、簡素な舞台。上手側に木箱2つ。下手側には片輪が外れた荷車。奥は閉ざされた扉があり、時々、町の外が見える。
クルーンの町の人々から尊敬されているハルヴィー。しかし、神父の迎えに乗じてクルーンの町を逃げたいと思っている。満月の夜に、狂犬が町に現れ町の人々が大騒ぎをする。そんな時、突然クルーンに戻ってきた狂人のメアリ。いつしか物語が歪みだし、住民たちとメアリのどちらが正常で狂人なのか…。
序々に自分以外は変人、狂人という意識に変わっていく。その歪で錯覚するような感情が精神を病んでいるように思える。また町の内・外という観点からみれば異次元とも受け取れる。彼岸と此岸の世界を往還しているのか、正気と狂気の交感か…人は自分こそが絶対正しいと信じている、その傲慢な感情が透けて見える。その感情が顕わになるのが「満月」の夜だという。
登場しない神父の存在は、登場人物の由り立っている場所、世界はどこか。そもそも生存しているのだろうか。狂人の女性の白い衣装が病院着のよう。物語のシーンは分かるものの、全体の流れが難しい。
次回公演を楽しみにしております。
うつろな重力
シアターノーチラス
RAFT(東京都)
2017/03/15 (水) ~ 2017/03/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
人が持つ嫌らしい面、嫉妬、妬み、虚栄など心の奥底蠢く感情を覗き、時にそれを刺激する。そんな心理劇のようであった。
閉塞感に満ちた部屋でむき出しの感情をさらけ出し、ぶつけ合い、滑稽にも思えるような登場人物。人を赦すこと、分かり合うことが苦しく困難になっている。人の心に巣食う闇の部分を抉り出しながら、その先にある幸せを掴もうとする。鬱積した気持を抑えきれず溢れ出す不平不満、出口が見えない濃密な会話が繰り広げられる。
(上演時間1時間20分)
ネタバレBOX
舞台セットは、高瀬夫妻のリビング…当初はテーブルと椅子2脚のみ。極めてシンプルで、白基調であるため余計な生活臭がなく、人物にフォーカスした物語に徹したところが巧み。
客席は2方向(L字型)、どちらに座っても舞台に近く濃密な会話が堪能できる。
ポルノ小説家の夫と結婚した元雑誌編集者・姉(木村香織サン)の負の感情を中心に、彼女に関わる周囲の人々の思惑などが揺れ動く。
梗概…結婚をして荒んだ生活を送る姉(木村香織サン)、幸福な結婚を目の前にした妹、境遇が高校時代とは逆転している姉と妹は複雑な感情でつながっている。姉がネズミ講を行っており、その関係で姉の目の前に、高校時代のクラスメイトが現れる。呪術研究会に所属していた彼女は秘密を明かす。「高校の時、あなたが不幸になるように呪いをかけた」。最初は信じていなかったが、少し不気味な感情に囚われ始める。その呪術をかけた動機…驚愕なラストシーン。
呪いとは違うが、願掛けという神頼みの行為がある。こちらは事の成就を願うものであるが、人知れず行うお百度参りなどは、呪いの藁人形とは対極にあるよう。人の心の持ちようは、きれい事を言えば自分の心をどう操り、他の人をどう思い遣るか、その心の動き次第といったところ。このあやふやな心の動きこそタイトル…うつろう重力のようである。
役者陣はそれぞれのキャラクターを立ち上げ、その関係性を十分認識した演技である。しっかりした適材適役で、それぞれの言葉(台詞)の応酬が物語の流れを作っている。
次回公演を楽しみにしております。
その先にあるモノ
デッドストックユニオン
ウッディシアター中目黒(東京都)
2017/03/14 (火) ~ 2017/03/20 (月)公演終了
満足度★★★★
知っているようで案外分からない日本有数の歓楽街・歌舞伎町。その裏社会で蠢く人々を生き活きと描いた、群像劇のようであった。
(上演時間2時間15分)
ネタバレBOX
舞台セットは、歌舞伎町にある探偵事務所。しかし表向きの稼業とは別に不動産仲介、派遣風俗を行っている。上手側には事務所応接スペース、バーカウンターが設えてある。下手側は和室、押入れがあり二面分割したような作り。中央にトイレドアがあり他の空間があることをイメージさせる。
上手側壁には、額縁に入った「死して屍拾う者なし」というTV時代劇「大江戸捜査網」で有名なナレーションが掛かっている。
登場するのは、フィリピンのハーフ、タイ、モンゴル、在日韓国人など東南アジア系の訳あり人物。そして日本人のヤクザ、アイドル追っかけ、占い師など、こちらも一癖ふた癖ある者たちばかり。多くの登場人物のキャラや立場を鮮明にするためこのような出色にしているようだ。
日本のそれも闇社会の中で翻弄され彷徨い漂流している人々。しかし明るく前向きな姿が救いであり、全体として喜劇風に仕上がっている。特に日本への出稼ぎ外国人は、誰もが精一杯生き、遠く離れた異国故郷へいつか帰り夢(親孝行など)を叶えたいと。
物語は、訳あり女性の依頼ごとから、そこに居る外国人たちを巻き込んで泣き笑いの人情話へ展開して行く。前半は登場人物や事務所の生業を紹介し、中盤以降に主筋として展開する女性からの依頼を契機に騒動が起きる。分かりやすい展開であり、物語を牽引するモンゴル人の思惑も何となく理解出来そう。
ラスト…以外な展開、盛り上げのため警察機構が登場する。視点は違うが、昨年(2016年)公開された映画「日本で一番悪い奴ら」を思い出した。違法捜査、覚醒剤密売・同使用で逮捕された現職警部の事件を題材にしていた。裏社会との癒着などが扱われていた。その意味で題材としては注目度も高く興味深いが、それゆえ、ありきたりで表層的な描き方では物足りないと思った。
次回公演を楽しみにしております。
快楽の谷
劇団 背傳館
インディペンデントシアターOji(東京都)
2017/03/08 (水) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★
同人サークル、エロゲーを作っている集団における人間関係や運営を巡る思惑などが歪んで描かれる。チラシの冒頭に「あらすじなんかありません」という卑下か挑発か分からない刺激的な文が記してある。それでも一生懸命制作したと続けている。
テーマは、オタクカルチャー、サブカルチャーという”文化”の創り手、その若者たちが苦悩する様が描かれる。
(上演時間1時間20分)
ネタバレBOX
舞台セットは、エロゲーサークル事務所内。上手・中央にスチールデスク2つ、その上にパソコン。下手側奥は喫煙スペース、客席寄は応接ソファー、椅子が置かれている。いくつかの本棚には雑誌類。全体的に雑然とした感じがよく出ている。
社会、それもインターネットという姿が見えない相手からの評価に一喜一憂する重圧が彼らの精神を蝕んでいく。言葉の不安と行為(タバコを腕に押し当てる自傷-焼)の怖さも見える。彼らが耐えるためのアジール(避難所=サークル)がさらなる重圧を生み出していくという矛盾。その後は戦線を縮小し守勢することに汲々とした姿になる。エロゲー本がだんだんと整理されていくに従い心が解放されていくようでもある。
物語としては面白いが、いまひとつサークル内の人間関係や立場が掴めない。そもそもどんな不始末があったのか、状況が説明不足の感がする。それゆえ物語の妙味となる人間関係の歪み不気味さなど、心に抱える問題が登場人物の視点ごとに変わり薄い印象になったのが残念である。
演技はバランスあるようだが、せりふが被り(喫煙スペースと執務室)聞き取り難い。ラスト、エロゲーを創っているのは、SEXが苦手だから…生身の人間と向き合えないような印象を受けるが、そこに真のサブカルチャーが生まれるのだろうか?
次回公演を楽しみにしております。
ルート67
劇団あおきりみかん
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2017/03/10 (金) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★★
人生になぞらえたロード・ムービならぬロード・ライブのようであるが、そこには人の深い思いが込められており観応え十分であった。
少しネタバレするが、パンフに主宰・鹿目由紀女史が「好きな道というものがある。高校の頃好きだったのは並木道の向こうにピンクのネオンが美しい宝飾店がある道だった。夕方、自転車でさわやかな木の間を抜けていくと、ピンクのネオンが夕闇の中に光っていて、なんだか外国に来たような気持ちになった」とある。この情景が舞台そのもの。
(上演時間1時間35分)
ネタバレBOX
日本ではないであろう、ルート67という道を巡る物語。物語の本筋は間違いなく「ルート67」であるが、この道は取り壊される(廃道)になるという。一方、脇筋としてこの道を守ろうとする動き(1人の女子高生)があり、いつの間にか本・脇筋が相互に侵食するように関わりあって行く。
舞台は日本以外の異国または架想国に設定することで、さまざまなルールに捉われない自由な発想で描いている。基本になる舞台美術は、両側に傾斜のある平台スペース、中央奥にポールが数本立っているのみのシンプルなもの。
物語はタイトルにあるルート67という道が無くなる。それを何とか阻止したいと思うランナーたちの奮闘劇。いろいろなランナーが登場するが、道を守るために立ち上がる姿を喜劇的に描いている。各々のランナーのラン・スタイルに潜むエネルギーを登場人物に豊かに発散させている。その観せ方は、とにかく走る、その姿をいろいろな角度(傾斜台を利用し後方からの姿、ポールを使い真上からの姿など)で演出し躍動感という印象付をしている。
一方、この道の景色が好きで毎日眺めている女子高生がいる。その親友が何とか道が無くならない様、工事現場へ日参する。この場面はオー・ヘンリー「最後の一葉」を連想してしまう。風景の移ろいに人生の足取りを重ね、走る早いテンポと抒情が感じられる緩いテンポという緩急が心地よい。
このシーンへの転換は薄明の中で、ベンチ、並木などが配置され、パンフにある鹿目女史の高校時代の風景を彷彿させるようだが…。
このルート67の存続をめぐり、民主主義の原点は個人の思い覚醒と連帯だという向日性をしっかり描いた秀作。
次回公演を楽しみにしております。
Rabbit Hole
Rabbit Hole
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2017/03/09 (木) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★
平凡と思えるような夫婦の暮らし、確かに数ヶ月前までは幸せな家庭であったが、ある出来事を境に変わってしまう。過去に囚われた妻、未来に思いを馳せようとする夫、その心の持ちよう、葛藤が周囲の人々との関係の中で澱のように沈殿していく。
ピューリッツァー賞受賞、ブロードウェイでトニー賞受賞した原作、その日本初上演の翻訳劇は日本の情景・状況へうまく取り込むには難しいようだ。
(上演時間2時間 途中休憩10分)
ネタバレBOX
舞台セットは、神戸夫妻(原作はコーベット)の宅内。上手側はリビングルームでソファー、TVがあり、その奥に子供部屋のような別空間。下手側はダイニングキッチン、冷蔵庫が置かれている。全体的に白基調の調度品のイメージから空虚な感じが漂う。
梗概は、4歳の一人息子が8カ月前に交通事故で亡くなった。その息子(事故)が忘れられない妻、何とか前向きに生きようとする夫、その悲しみに対する夫婦が持つ感情に違いがあり、捩れた関係になる。それを修復しようとお互いを思い遣るが、その行為が自分本位になるところもあり、より深く相手を傷つけてしまうという悪循環に陥っている。
1部で妹の妊娠が発覚、自分の兄の死を巡り、亡くなった息子への思慕はより鮮明になると同時に、悲しみの感情をコントロール出来ない苛立ち。
2部で交通事故の加害者少年(高校生)を自宅に招き、その胸中を聞く。少年も事故のとこを苦しんでいたようだが…だんだん高校生活の楽しさも語り出す。
息子の思い出を仕舞い込みたい思いと、そう出来ない行為(子供が映ったVTRを観るなど)の矛盾。そこに2人の心の悲しさを埋めきれないやるせ無さが見える。
原作、アメリカという国を舞台に絶望と喪失感をリアリティに描いているが、人間ドラマの嘆きは国が違っても普遍的なものである。しかしその観せ方、演劇という見世物になれば文化の違いを意識させても良いと思うが…。描く内容は理解できるが、その感情表現としてはどうか?日本人の感情として数ヶ月でここまで露骨な会話が成り立つか。その話題に触れないよう気を使う。その重圧・閉塞・絶望・喪失感が先に立つような気がする。
また視覚として、加害者の衣装「学生服」が端的に違和感を覚える。
次回公演を楽しみにしております。
STORE HOUSE Collection No.9 アジア週間
ストアハウス
上野ストアハウス(東京都)
2017/02/24 (金) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★
台湾 『Zodiac(ゾディアック)』
八の字にした二面映像幕に客席、ロビー、バックヤード等を後景として映し出している。その世界観はどちらかと言えば非日常空間・宇宙を思わせる空想空間を投影しているようだ。そして、その幕を捲り上げると….。
(上演時間1時間30分)
ネタバレBOX
舞台セットは、映像幕があるシーンと幕を捲り上げたシーンとでは違う。
幕を捲り上げた奥スペースには、日常という平凡な空間(机、扇風機、雑貨等のパーソナルスペース)が出現する。
説明によれば、「Zodiac」とは、1960 年代アメリカで一人の連続殺人鬼が名乗っていた“名前”である。その正体は謎に包まれており、送られてくる犯行予告や暗号文も人々の関心を集め、大きな話題となった、という。
Shakespeare's Wild Sisters Group の『Zodiac』はこの人物に着想を得た二人芝居だ。一人は殺人鬼を、もう一人は彼の周りの様々な人間を演じていく。多くのやりとりが組み合わさり、まるでパッチワークのように“彼”という存在が浮かび上がってくる。彼は“現実”と“想像”、“正常”と“異常”の境界線を飛び越え逃げてゆく...というもの。
時間と空間の隙間に落ち込む、もしくは挟まった人々を描いたもの。その表現は少し抽象的であり、分かり難い感じがする。
次回公演を楽しみにしております。
STORE HOUSE Collection No.9 アジア週間
ストアハウス
上野ストアハウス(東京都)
2017/02/24 (金) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★
日本 『PARADE』
パレードということであるが、上演前からガムラン音楽のような音色が…。丘へのピクニックという説明である...人びとは丘に立っていたが、今その記憶は曖昧だ。例えば、森の中で木の葉を踏む音を聞きながら、波打ちぎわで絶えずかき消される自分の足跡を抱きしめる行為のようなものだ。人々の姿も、丘の形状も思い出すことはできないが、現実はいつだって曖昧のままそこにある、と。
歩くという一律的な動作とその行為をする目的の曖昧さが対照的に描かれている。
もっとも自分は別の印象を持って観たが…。
(上演時間1時間15分)
ネタバレBOX
公演が始まるとキャストが無表情で客席通路から登場する。そして素舞台を歩き回る。時に足踏みし足音が大きくなる。不安・不穏のようなピアノの音色。全員が異なる自由な服装だが、リュックザックを背負い帽子を被っている。動作も歩き回るだけだが、スロー、アップテンポと自在である。疲れ互いに助け合いながら上る。そして頂で抱き合って喜ぶ姿、その肌を叩きあって乾いたパシッという音が響く。
自分は、戦時中、それも原爆投下された街の住民を想像してしまう。日常の穏やかな生活が原爆によって阿鼻叫喚、焦土と化した街並み。熱風で服を脱ぐ、叫ぶというトランス状態を経て”生きている喜び”を感じお互いを労わる。そんなイメージを持った。
この公演は、台詞らしい台詞がある訳でもなく、身体表現に込められたメッセージを自由に解釈し、舞台上で繰り広げられる世界観に自分の思いをイメージし当てはめて楽しむことが出来る。何かを表現する、その身体を通して可視化してイメージを膨らませる。
身に着けている服・小物、髪といったファッションは演技、ダンスパフォーパンスは異界のものではなく、日常と繋がりのある展開を提示してくる。音楽と身体表現のコラボ、その聴覚・視覚的な調和には必ずしも言葉(台詞)がなくても物語を紡ぎ出せると。
案外、事前に説明文を読まず、自分の感性に浸り無常の喜びを噛みしめたいところ。
次回公演を楽しみにしております。
第19回公演『隣人』
劇団天然ポリエステル
OFF・OFFシアター(東京都)
2017/03/08 (水) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★★
劇団の目標であった下北沢出進、その公演が「隣人」。公演内容とタイトルの関係は意味深で、観終われば、あぁそうなのかという納得の頷き。
公演の底流には大きなテーマが横たわっているが、表層的にはドタバタ喜劇仕立てにして、まずは観客を楽しませようという狙い。
差別社会への警鐘か…大きな言葉ですくい取ろうとすると、物語の網の目から大事なことを見落とさないように観る。しかし本公演は、シーンを愉しむことで肩肘張らず、その場面ごとの面白さが網目と網目として繋がり、細部を通して全体を観ることができる。
(上演時間1時間40分)
ネタバレBOX
舞台セットは、畳、緑・緋毛氈に雛人形(3段)が飾られているが、何故かその間は隔絶している。細竹(籐)屏風、脚立、座布団などが置かれている。
劇団「寂し部」の公演という典型的な劇中劇のセット。
いつもであれば、遅筆でありながら掛け持ち仕事で原稿が遅れぎみになるところ、今回は3日前に脚本が出来上がった。もっともアニメの原稿が遅れているという最悪な状況ではあるが…。マンガ雑誌社からの催促をかわし劇団稽古を観にきた。ところが主演男優が降板したいと伝えてきた。公演を行うか中止するか、開演時間が迫る中、スタッフ・キャストの右往左往が面白可笑しく描かれる。
主演男優の代役として劇団スタッフが務めることになったが、その男、実はオカマ(LGBT マイノリティ)で化粧・女装している。舞台に立つにも化粧は落とさないという。また台詞も覚え切れていない。一方、相手の姫役も一世を風靡した女優であったが、今は泣かず飛ばずの状況。メイン2人の関係も最悪の状態で、とても公演できるようではない。それでも劇団「寂し部」の面々が創意工夫、奮闘努力の末…。
オカマの婆ちゃんが芝居を観に来ることになるが、自分の性癖を知られたくない。受け入れてほしい訳ではない。ただ嫌われたくないだけ、という台詞が生々しい。新聞でマイノリティに関する特集があったが、そこでは受け入れてほしいと書かれていた。すでに祖母は知っていたが、黙っていたようだ。それでも受容出来ない葛藤が切ない…ひ孫が抱けないのね、とポツリ。他人からは生き苦しく思える生活や環境であっても、温かく掛け替えのない仲間。社会通念や常識で皮が固くなる前の子供の柔らかな手で包む様な公演、好きである。
脇筋としてマンガ雑誌のオタクのようなファンが、自分の思いとは違う物語の展開に憤り、またマンガ脚本遅延の腹いせに、「寂し部」の楽屋を荒らす。最近アイドルとの関係、距離を巡り殺傷事件が話題になった。色々な問題性を盛り込みながら、それでも楽しめ泣かせる「隣人」公演は見事。自分の身近にも居そうな人たちを隣人と親しみを込めてタイトルにしているところが巧い。
次回公演を楽しみにしております。
The Dark
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2017/03/03 (金) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
優れた舞台美術は、会場に踏み込んだ途端、観客を引き込み、視覚からさまざまな感覚を目覚めさせ、開演までの時間を物語の世界へゆっくり誘うかのようだ。
本公演は、作:シャーロット・ジョーンズ、翻訳:小田島恒志、小田島則子で日本初上演だという。それは、ひとつの空間で奇妙に混じり合う3組の家族の物語、その実験的な作品は観応え十分であった。
ネタバレBOX
物語が展開するにつれ、視覚に訴えてくる奇妙な情景が、より鮮明になって舞台セットが内容に溶け、現実と虚構が混然一体となってくる。
舞台美術は、吉祥寺シアターという高い天井の特長を活かし、3面3階の計9スペースで成り立っている。上手側にダイニングキッチン、上部に赤ん坊がいる部屋、その中間に別スペース。中央は玄関ドア、中間に引き篭もり青年の部屋、上部は洗面所・シャワールーム。下手側は高い天井窓、寝室、老女の部屋が設けられている。その多重層空間に配置された調度品は実にリアリティ(例えば、TVは本当に映る)である。いたる所に電燈があり幻影を生み出す。その照明効果が素晴らしい。
登場するのは、同じ間取りのテラスハウスに住む3組の家族。その同じ空間を共有して同時進行するような話は、ある日突然の停電によって各々の家族が抱えた’闇”が浮き彫りになってくる。各々が独立した生活、それが停電によって生じた闇が心細くなるのか、妖しく心が躍るのか、お互いの生活空間へ関わり混じってくる。同じ間取り、しかし家族形態やそこに内包された問題の質・量は異なる。その違いを前提としつつ、それでも奇妙に同時進行するさまが面白可笑しく描かれる。けっして喜劇的要素は無いと思われるが、それでも滑稽に思えるところが巧い。
物語に則した斬新な舞台美術であるが、奇妙に侵食し合う展開を助け、さらにうまく物語に溶け込んでいるのが魅力的である。ともすれば先走った奇の衒いになりかねないところをうまく踏みとどまり、公演の印象をより鮮明にしているところが素晴らしかった。
役者陣は、登場人物の性格、立場などを取り込み、見事に体現していた。特に”闇”に蠢く感情表現は人それぞれ違うが、物語の混沌・猥雑に満ちた舞台を意識した演技になっており感心した。
次回公演を楽しみにしております。
赤い金魚と鈴木さん~そして、飯島くんはいなくなった~
九十九ジャンクション
インディペンデントシアターOji(東京都)
2017/03/01 (水) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
見事なまでの不穏・嫌悪という負の感情を抱かせる怪作。それは単にヘイト・クライム(憎悪犯罪)でないところに真の怖さを覚える。当日パンフには、3組の家族が紹介されているが、その表記は夫1.2.3、妻1.2.3などという数字であるが、劇中ではしっかり姓・名で呼んでいる。この長いタイトルの種明かしになるため、敢えて形而上の表記にしているところに作者(土屋理敬氏)または演出家(後藤彩乃女史)のしたたかさを感じる。
(上演時間1時間35分)
ネタバレBOX
物語は、ホラーでもサスペンスとも少し違うし、その描き方もスプラッターでもバイオレンスでもない。別人として生きる男、その家族(男の弟)の苦悩。過去を隠して生き続けること、その血脈への慄きが切ない。また若い女(後妻)の心の奥底にある狂気が静かに牙をむく。それは決して社会や家族、周囲の人達に対する怒りや不条理に対する抑制された感情から生まれたものではない。その不可解さは「解らない」という台詞の凝縮されている。
舞台美術は、部屋の一室(リビング)で、3組の家族の住空間を同じに見立てつつも、その異空間をしっかり演出している。フローリング、そこにハの字型に3壁面を作り、それぞれの間を出入り口としてその先に他の空間があることを想像させる。その壁前に食器棚、飾り棚(上には電話兼FAX)が置かれている。上手側にソファー、中央にダイニング・テーブル、椅子がある。3組の家族は、ハウスクリーニングを営む家族1、同じマンションに住む2組の家族2・3(息子同士が中学の同級生)。そして家族1に住み込みで働いている男の弟が、家族2の夫という関係で物語は展開して行く。
このハウスクリーニング店と分譲マンションの2つの場所で流れる時間と運命…知ってしまった衝撃の事実。これから先の人生をどう乗り切っていくのか興味を惹く。
以前マンションで猫の惨殺事件が起きている。そして家族2の部屋ベランダに同じように猫の屍骸が...。それを契機にハウスクリーニング店で働く男の過去、家族2の夫の苦悩が露になり、夫々の家族崩壊が始まる。意外な人物が犯人でその動機が不可解。それだけに不気味で後味が悪いが、逆に言えばそれだけ脚本、演出そして演技が巧みということだろう。
なお、少しネタバレになるが異空間であるがハウスクリーニングの話とマンションでの話は時間軸が1年ずれている。またタイトルとサブタイトルの名字は犯人を示唆している、という凝らしたもの。
次回公演を楽しみにしております。
ジャーニー
AnK
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2017/02/22 (水) ~ 2017/02/26 (日)公演終了
満足度★★★
自己の内面と対話、または兄弟の会話を通して作品への深化を高めようと試みた異色作のようだ。
さて、20世紀ソ連で驚異的な観客を動員した映画「不思議惑星キン・ザ・ザ」(邦題 1986年公開)…地球は遠かったと。その映画は脱力系SFであったが、本公演は脚本・演出の山内晶女史が「星の王子さま」をサンプリングしたあてもない旅の物語である。舞台美術は一見、雑然、雑多な印象であるが、反対に確固たるテーマを掲げた寓話を意識した作品のようだ。もっとも「星の王子さま」そのものが寓話。
(上演時間1時間35分)
ネタバレBOX
舞台セットは、少し高い段差のある長変形六角型を中央に設え、その面は格子模様。その周りに木片、木脚立、綱などが置かれ雑然としている。
「星の王子さま」をサンプリングした物語であることは先に書いたが、サンプリングの能書は省略し、原作の「伝承」をセカンドモチーフにしたという。
本公演では、星の王子さまに出てくるサハラ砂漠が鳥取砂丘に変わり、そのロードムービーならぬロードライブは宇宙の星々を巡る壮大なもの。自星「温泉と音楽」の旅立ち、暗黒星、インドカレー、仮面舞踏…全12星を訪ずれるというもの。目的星は地球であるが、その途中にあるいくつかの星はその特徴を説明するに止まる(例えば「クズ星」「水の星」「岩の星」など)。そしてその星での体験を繰り返す、または回想するような演出はクドイように思う。それよりも表現を省略した星々の体験談を観てみたかった。
ちなみに星の王子さまでも7番目が地球だったと思う。
地球人と異星人の交流・交感を通して人生譚を描き出す。異星人の兄弟は、真上で光っている星(地球)を目指して旅が始まる。先にも書いたが5番目くらいまでの星での体験が描かれているがそれ以降は台詞での説明のみ。それがどうも中途半端なようで…。
寓話性は、環境問題が透けて見える(大切なものは目に見えない)。もっとも公演は、サハラ砂漠→鳥取砂丘→大都会・東京砂漠を連想させるような、その乾き切った夢(ドライ・ドリーム)を潤す瑞々しい感性が感じられるようなもの。その一種独特の表現であるが、しっかりとした主張が見て取れるところに”力”を感じる。この劇団公演は、前回と今回だけであるが、どちらも伝えたい主張が明確なところが自分には好み。
しかし、その表層的な観せ方が繰り返しと抽象的になったことから分かり難い印象を持ったのが残念。
もう一つが死生観のような台詞…死んだら忘れられて寂しい。そこで伝承…生きていたことは子(ヨタカ)、孫(ミタカ)、曾孫(コタカ)へと言い伝えられる。
次回公演を楽しみにしております、と言い伝えます。
リバース、リバース、リバース!~Reverse,Rivers,Rebirth!~
ピヨピヨレボリューション
虎ノ門ギャラリー(東京都)
2017/02/23 (木) ~ 2017/02/28 (火)公演終了
満足度★★★★
本公演は、「ピヨラボ」という新コンテンツの公演という。ピヨラボの真骨頂である「ライブstyle演劇」を封印し、外部から脚本家や演出家を招き、新しい風を吹かせることにより、劇団とメンバーのレベルアップを図る実験的な公演、ということ。その実験的な試みは脚本・演出はもちろん面白かったが、それ以上に役者陣の演技力が見事であった。
さて、この公演劇場は、虎ノ門ギャラリーという本来は劇場スペースではないであろう場所だが、そこに簡単ではあるが物語の情景が浮かび上がるような工夫が…。少しオカルト的な気もするが、そこには生・死という人の究極な運命(さだめ)が描かれている。
(上演時間1時間15分)
ネタバレBOX
他愛無い意地悪、冗談が招いた悲劇。12年前も小学校6年の時、自分・悠(東理沙サン)の幼馴染を好きになった女の子・逸香(あずさ サン)に腹を立て、逆なで川そばの公園ベンチに呼び出した。しかし、天候が急変し豪雨になり川が氾濫し逸香をのみ込んだ。
あれから12年、悠は東京の大学に通学している。久しぶりの帰省した時、死んだはずの逸香を見かけパニックになる。逸香に瓜二つだが別人、しかし意識下には逸香が宿っているという不思議現象。そしてそれぞれの人が12年前へ邂逅するが…。
舞台は白基調で少し傾斜している。客席は三面ひな壇席。舞台正面はガラス、外には木立があり情緒を漂わせている。過去の豪雨シーンにはガラスに雨水、木立ちが揺れるという臨場感を演出する。
何気ない意地悪が過ちになり、心の奥底に閉じ込めていた後悔と悲しみの感情が溢れ出てくる。12年間の苦しみ、これから先の人生もその悲しい後悔に苛まれながら生きて行かなければならない。そんな切ない思い出...何気ない言葉、仕草が人を傷つけているかもしれない。そんな人を思いやることの大切さを、少し不思議オカルト的に観(魅)せた珠玉作。
今後の公演も楽しみにしております。
もれなく漏れて
ぬいぐるみハンター
OFF・OFFシアター(東京都)
2017/02/22 (水) ~ 2017/02/28 (火)公演終了
満足度★★★★
常識と非常識では言い過ぎかもしれないが、何が世の常識なのかを問うような鋭い指摘にハッとさせられる。物語の大半は世間では常識と思われていること、その知っている人と知らない人のかみ合わない会話が面白可笑しく描かれる。その観せ方は会話(内容は重量級だが、喋りは軽妙)中心で、動作(格好)は笑いを誘う程度のもの。
しかしラストは、しっかり物語としてオチがある見事な展開である。
ネタバレBOX
舞台セットは、上手側に住んでいる家屋のようなものが作られている。中央は幕に山奥をイメージさせる絵(子供が描いたような山・雲・空)が描かれているだけ。その幕繋ぎ部分から出入りすることで、山奥(非日常)と外界(日常)を区別している。
物語は、山奥で暮らす少女・満天は大好きな爺さん(実は叔父さん)、山羊飼いの少年、相棒の犬(のような生き物)と共に穏やかな日常を送っていた。
純真無垢に育った満天は、この世界の仕組みを知らない。その満天の体調が優れない。治療のために山を降りようと提案する周囲だったが満天はそれを激しく拒む。已む無く治療のために街から医者がやって来たが、その非現実的な日常に驚き...。
不便だが、そこには何か大事な忘れ物を思い出させてくれるような、懐かしさ優しさがある公演。都会暮らしに夢・希望を求め、一方で現実の生活に先が見えにくくなった場所で彷徨う現代人への清涼剤のようにも思える。純真無垢であるがゆえに、逆にリアリストでロマンチズムを紡ぐ。その少女・満天の目を通して見た世間は”スラッジ”かもしれない。
全体的に少女の記憶に幽かな光を当てるような繊細さも感じられたが、ラストは殺人事件という衝撃的な現実が遮ってくるという展開に驚かされる。その伏線と思える 相棒の犬(刑事の隠語=犬)を早い段階で登場させている。
自由な知的遊戯を展開する印象を与えているが、純粋・単純な疑問・質問という言葉(セリフ)を発するだけのもの。そこには難しい問題が潜み、複雑な思考を要するようだ。言葉に込められた内容、その肯定・否定の混乱するような議論が高尚な哲学のようにも...。現実・可能・論理世界という異なる視点を整理して観るようだが、場面は役者の演技力もあって可笑味をもって観られる。ちなみに満天の変顔を含め、その表情の豊かなことが面白さを倍加させているようだ。
次回公演を楽しみにしております。
オルゴール
劇団Birth
上野ストアハウス(東京都)
2017/02/15 (水) ~ 2017/02/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
大学入学から15年間にわたる友情と愛情を描いた青春群像劇。1980年代にTVで流行した元祖トレンディドラマ「男女7人夏(秋)物語」を連想したが、こちらの公演の場面は冬(12月)が多いことから”冬物語”といったところ。一人ひとりの生い立ち、性格などが描き込まれるが、それは自分の周囲にいる人々、その等身大の人物像に親近感を持たせ感情移入がしやすい。
【メロディ チーム】
ネタバレBOX
舞台セットは素舞台に近く、描かれる内容と異なり演技力による”力”公演という印象である。
梗概は、売れっ子漫画家の戸上真希。彼女の心の中には、いつも“智美”がいる15年前、真希と智美は大学のキャンパスで出会う。天真爛漫な真希に対し、内気で気弱な智美。そんな二人が、旅を目的としたサークル「旅倶楽部」を発足させ7人が集まった。苦楽を共に時間を過ごすうち、真の友へ。
いつまでも続くと思っていた学生時代だが、現実は容赦なく時を刻む。就職活動、妊娠・退学…それぞれの夢へ向かう。卒業後、現実の時間に流される日々が始まる。“今”を生きることに汲々とし出していた。そんな数年後のある日、突然智美から「皆に会いたい」という手紙が。満を持して旅クラ同窓会決定した。その頃、智美は…。
人間関係を丁寧に描きつつ、どこにでもいる普通の男・女が抱える不安、悩み、喜びを緊張感溢れ、抒情豊かに謳い上げた物語。目の前にいる自分の大切な人々をもっと愛おしみたくなる。何よりも二度とこない人生を悔いなく生きていく、そんな勇気付してくれる公演であった。
役者陣は総じて若い。その演技は、若い大学生時代に似合う瑞々しさ、卒業後の若さとは距離が出てきた人物を繊細な演技力で魅了する。
次回公演を楽しみにしております。