タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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『ピーチの果て、ビーチのアビス、つまりはノーサイド』R-18

『ピーチの果て、ビーチのアビス、つまりはノーサイド』R-18

キ上の空論

サンモールスタジオ(東京都)

2022/12/15 (木) ~ 2022/12/21 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。と言っても万人受けするかは別。
師走の時期、心温まる内容を欲するところであるが、この物語は真逆と言っていい、典型的なノワール劇である。

狂愛と再生の三部作、その第三弾と銘打っているが、一般的な男女における恋愛とは違い、主人公の生い立ち、その童貞いや道程を切ないほど描いた愛憎劇である。そう身近にいる女といえば「母」である。その愛情が十分に受けられず、その結果 裏返しの感情…憎悪が芽生える。
成人し女性遍歴を重ねることで自分本位で歪んだ愛情表現と性癖が…。表層的には救いの無いような展開であるが、実は身近(バイトの後輩で後に正社員になり立場が逆転)なところで愛を育み幸せを築いている、そんな光景を隣り合わせに観せる巧さ。それによって、物語のような「愛情表現」は皆無ではなく、むしろ特別な偏愛としてあり得るという存在感を観せつける。

この公演は、けっして後味がよいとは言えないが、逆にそれだけ心に強い興奮と刺激、そして印象に残る作品になっている。ぜひ その衝撃を小劇場で…。
(上演時間1時間55分 途中休憩なし)【Bチーム】

ネタバレBOX

全体的に妖しい雰囲気、それは いくつかある台座のようなモノの天板部分が赤色、組み合わせによってベットになり刺激的な行為を演じる。また幾体かのマネキン、それを過激に弄ることで苛め虐待を表現する。ハイヒールが一足。上演前は波の音、心の漣のようにも思える。

物語は、日本人の父とフィリピン人の母の子・山越陣(鈴木研サン)が主人公。今は地方でバイト生活をしている。幼い頃、父は働かず、母は夜の仕事へ。父の日常的な虐待、母はそれを見て見ぬふり 育児放棄同然の暮らし。
冒頭、地方でバイトをしているが、どこか無目的で怠惰な様子、そして後輩との談笑に小さな優越感に浸っているような。25歳の時、SNSで東京に住んでいる女子大生と知り合い、たまに上京してデートをする。当初は純粋に付き合っていたが、だんだんと彼女を束縛し始める。彼女は何不自由なく生きており、陣は 環境や境遇の違いに苛立ちを覚える。いつの間にか自分と同じような惨めで不幸な思いをさせることで得られる快感に喜びを見出しているような。

また 泡嬢、不倫している女との関係など、爛れた情景を描くことで愛と欲の多情性を観せる。必ずしも相思相愛などではなく、どこか歪んで危険な匂いがする。そこに男の滅びの美学ならぬ爛れた美学が跋扈しているようだ。苛立ち、不安、焦燥といった表現し難い感情を実に上手く表現する。貧乏ゆすり、床を踏み鳴らす、大声で怒鳴るなど、直接 肌に伝わる。そのリアルな情況が圧倒的な存在感となって立ち上がる。
🔞ゆえ舞台としては過激な性描写であるが、そこには鬱屈した男であり1人の人間の本能が剥き出しになっている。境遇の違い、幸せすぎる相手を自分側の世界に引き込む身勝手さ、理屈では許されないだろうが、偽りなき感情(本音)として迫ってくる。何となく痛々しくも瑞々しい感性と圧倒的な構成力と演技力に観入ってしまう。役者陣は文字通り体当たりの熱演で、ダークで魅惑的な世界へグイグイと誘う。

歪んだ愛ゆえの結末、欲望の果てに得たモノはなんだったのか。ラスト、性行為の中で叫ぶ女性、異常な体験に歓喜する姿に本性が垣間見えたような気がした。そう異常の中に普段得られない高揚感、満足感が潜んでいるのだと。肉体のぶつかり合いというか交わり(愛)合いで、記憶に残る青春残酷物語を観たよう。
次回公演も楽しみにしております。
短編劇集「新江古田のワケマエ」

短編劇集「新江古田のワケマエ」

劇団二畳

FOYER ekoda(ホワイエ江古田)(東京都)

2022/10/29 (土) ~ 2022/11/03 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【A】「そう言われると今年一番はあの日かな」【B】「咲良を待ちながら」観劇   

江古田にある古民家を改造した会場。劇団名からも明らかなように、二畳分のスペースと最小限の音響・照明効果だけで公演を行う。公演は、約30分の2短編の上演だが、実に味わい深い内容であった。
もしかしたら遭遇する、若しくは経験するかもしれない、そんな奇妙な感覚にさせられる作品。現実から少し離れた設定だが、皆無とは言えない微妙なリアルさが面白い。同時に、会場が面している千川通りの車騒が、絶えず日常を意識させるから、何とも不思議な気分になる。

勿論、素舞台で役者の演技力だけで観せることになるが、両作品の出演者とも見事な表現力であった。共通して言えるのは、「間の取り方」 その空白(無言)のような時間の使い方が上手い。何となく隙間は埋めたくなるが、敢えて話(筋)をピーンと張らないで、逆に弛めることで物語に込めたテーマらしきものを表現する。当日パンフにあった「日常とは違う時間の流れを感じて」は十分に伝わった。
(上演時間1時間10分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

【A】「そう言われると今年一番はあの日かな」 
場所は埼玉県飯能市、劇中でも言っていたがムーミンのテーマパーク「メッツァ」があるところ。サバイバルゲーム施設にゲームをするために来ていた砧三二六(中込博樹サン)は、尿意をもよおし、サバイバルゲームのフィールドを外れ山道へ。そこで自殺?首に縄を巻き付け、片方の靴が脱げている籾田桜那(丸山小百合サン)に出会う。少し酒に酔っているようで呂律が怪しい。2人が話していると、1日2杯のデリバリーコーヒー、行商人風の滝沢つばさ(たきざわちえ象サン)がやって来る。桜那はブラック企業に勤めているようで、労働条件は劣悪、辞めたいと呟く。しかし辛抱・我慢が足りないと思われるのが癪に障る。周りの評価も気になるが、つばさ は簡単に辞めちゃいなという。命があるから後悔出来る。要は命あっての物種だ。話の内容は重いが、雰囲気は柔らかい。コーヒー1杯2,000円、屋外にも関わらず本格的に豆を挽く。コポッコポッという音が聞こえるだけで、沈黙の時間が流れる。張り詰めた気持ちを和らげる、そんな優しい情景になってくる。

中込さんは会場外から現れ、尿意をもよおしているわりには落ち着いている。二階から縄、それを手繰り寄せると 丸山さんがよろよろと階段から下りてくる。その首に縄が巻き付いている。片手にアルコールの3~4Lペットを持ち千鳥足である。2人の演技は珍妙であるが、観入るほど巧い。ほどなく会場外から たきざわ さんが荷物を背負い入ってくるが、その飄々とした演技が仄々とした雰囲気を漂わす。三者三様の演技は柔らかいが、観る者の心をつかんで離さない研ぎ澄まされた感性 表現力に感心する。

【B】「咲良を待ちながら」   
タイトルから「ゴドーを待ちながら」を連想するが、けっして不条理劇ではない。
場所は江古田にある田中家、高校の卒業式の夕方。母 田中和子(五十嵐ミナ サン)、兄 武尊(吉岡圭介サン)が卒業祝いに寿司の出前の話をしているところへ牧田竜也(長谷川浩輝サン)がやって来る。高島平に住んでいる竜也は、三年間片想いの相手・咲良へその想いを伝えたい。しかし、咲良は友人とカラオケに行っており帰宅していない。仕方なく、その家族と共に帰りを待つことになる。そこへ父 正博(小泉匠久サン)も帰宅し事情を聞く。思わず缶ビール2本をたて続けに飲み、気を落ち着かせようとする。暫し無言、その何とも言えない気まずさ 微妙な空気が流れる。結局 咲良は帰ってこず、竜也の帰り際、父は一瞬彼の袖口を掴む。そこには在りし日の自分の姿を見たのかも知れない。父・母も高校の同級生で、母の(義)父からは帰れ!と言われた経験があるよう。そんな懐かしい気持ちになったかのよう。

五十嵐さんは、娘への想いを告げに来たことを素早く察知する、自然体の母親を見事に体現する。小泉さんは、逆にどう対応すればよいのか戸惑う姿が 父親らしい。思わずアルコールに手を出すところは、その心境を上手く表現している。吉岡さんは妹のどんなところが好きなのか興味津々といった兄らしい感情を表す。ある意味 主人公の長谷川さんは、おどおどした落ち着きのなさ、そして ぎこちなくも真摯に接しようとする。それぞれの表情や仕草から溢れ出す感情表現、その場の少し軋んだ音が聞こえそうなほど上手い。
次回公演も楽しみにしております。
ナビゲーション in 池袋

ナビゲーション in 池袋

タルトプロデュース

シアターKASSAI(東京都)

2023/08/30 (水) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
脚本・演出は、設定の妙と惹き込む力、そして演技のメリハリ…演劇の魅力を凝縮したような公演。タイトルからロードムービー的な展開を想像させるが、実はハートフルな物語である。
まず 主人公 横山凪紗は傷害罪で執行猶予中、そして同僚の遺体を山形まで車で運ぶ途中で当たり屋と思われる女を乗せるハメに…この途中で乗せた女が物語の肝。この話は実話をベースに江頭美智留さんが脚本にしたもの。勿論 遺体を運ぶことには抵抗(報酬を得ているから違法か)があるが、無理を承知で実行したことで 凪紗の心に変化が…。

東京公演には大阪公演を観た観客が多数来ており、人気の程がうかがえる。勿論 キャスト目当てもあろうが、作品の魅力…ミステリー サスペンス調の仕掛け、抒情を感じさせる挿入歌など、観せる力・聴かせる力が 再び劇場へ、となるのではなかろうか。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

中央に車一台。勿論ドアもなければ窓もなく、その開け閉めはパントマイムで行う。
横山凪紗(22歳)は5歳の時に母と死に別れ、父は その3年後に再婚した。母が亡くなり17回忌法要を行うと父から連絡があったが、継母との関係が気まずく出席しないと決めていた。

そんな時、職場の上司で身元引受人の佐々木陽子から急死した同僚の遺体を山形まで運ぶよう頼まれる。渋々引き受けて出発するが、途中 奇妙な女が飛び出してくる。孤独に凝り固まる横山凪紗を演じる NMB48の佐月愛果さんは、実にキュートだ。他人と関わることが苦手、それが旅を通して人との触れ合いに温かさを感じ始める。そんな繊細な難役を見事に表現していた。また出番は少ないが、佐々木陽子を演じる 桐さと実さんは見守るという包容力を観せる。

単に遺体を運ぶだけではなく、途中で凶悪犯と思しき人物を乗車させたり といったサスペンス ミステリー風な展開へ。ハラハラドキドキするような場面を挿入することで、観客の集中力・緊張感を逸らさない。一方、車内で凪紗と途中で乗せた謎の女 菅原陽向子(村崎真彩サン)が歌う曲が切なく心に沁みる。
因みに謎の女の正体は、ぜひ劇場で確かめて。

他人と密な関係を築かず生きることが当たり前のような現代、しかし<築く>ではなく<気づく>ことがなかった人の優しさ温かさを知ることになったロードドラマ。孤独と孤立に凍った心が解けていくような、そんな心温まる秀作。
次回公演も楽しみにしております。
名前を呼んで、もう一度

名前を呼んで、もう一度

ブルー・ビー

銀座タクト(東京都)

2023/09/12 (火) ~ 2023/09/13 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
サスペンス ミステリィを思わせる説明で興味を惹くが、 自分には微妙な印象。と言うのもシチュエーションやエピソード(高齢者施設への入所、両親の離婚等)が最近観た演劇に似ており、新鮮味に欠けたからである。結末は異なるが、それだけ この問題の深刻さを表しているとも言えるのだが…。

アコーディオン(DANサン)の生演奏、劇中で歌う曲(うちにかえろう)に手話を交えるなど、多くの人に観てほしいとの気持が伝わる。また銀座TACTという雰囲気がある会場(ライブハウス)、天井のミラーボールが回転し煌びやかな光彩を放つ。観(魅)せることに 力 を入れた演出だ。
(上演時間1時間)【きゃんどる】 

ネタバレBOX

朗読劇。スタンドマイク 台本を持った役者。後景にはアニメーション動画のような映像を映す。

物語は、動物界におけるヒエラルキーを描いた問題作。同時に見守る人の苦悩を描いた心象劇とも言える。最近観たー劇団龍門第20回公演「桃太郎の大冒険」と同じ内容で、驚いた。
燦々

燦々

U-33project

王子小劇場(東京都)

2023/08/16 (水) ~ 2023/08/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

テーマは同じような、若い女性の<暗澹>たる気持、それでも<燦々>と生きようとする姿を描いた3短編。最近の公演は若い女優陣で紡いでおり、本作も例外ではないが 内容は性別に関係なく、人が抱える葛藤であり苦悩である。しかし 重苦しくせず、どちらかと言えば 打開しようと奮闘する様子を明るく描く。表層の面白可笑しさ、その奥に隠れた心の傷が痛いようだ。

短編のタイトルは 上演順(キャスト)に「謝ったら死ぬ病」(6名)、「ワンダフルな人生」(4名)、「意味不明」(2名)で 何となく群像から二人芝居へ。この構成は良かったが、作品の出来に差があり 全体としてみたとき 心に響かないのが惜しい。

舞台は斜めに設え 二段菱形状のよう。それに対し 客席は2方向に配置しているが 観やすさは変わらないだろう。印象に残ったのは、最近の(U-33project)公演に比べ<心情と情景>の違い、それを照明の諧調によって表現しており巧い。
(上演時間1時間35分) 

ネタバレBOX

「謝ったら死ぬ病」
すぐに謝ってしまう少女、診察した結果「謝フィラキシーショック症」らしい。このまま謝り続けると死んでしまう。そして「怒」「泣」といったフィラキシーショック症候群に悩む少女たちと出会い、悩みの共有と打開策を練る。まずは食生活の改善を試みるが失敗。心の問題は自分自身に向き合うこと。謝る・怒る・泣く といった感情を過度に意識しない平静さが大切。自信の無さ、対人恐怖といったアリがちな心の悩みを明るく描いた短編。それまでの物語を ラジオの人生相談に語っているかのような。

「ワンダフルな人生」
<隣の芝は青い>または<王子と乞食(差別用語か?)>といった、他人の暮らしを羨むような。劇中 「私より辛い人生の人はいない!断言出来る!」とあるが、その辛さが伝わらないため共感が得られない。人の身なりや姿形に惑わされず その本質を見ることや、周りに流されない意思をもつことの大切さ、といった寓話を思わせる。物語では橋本環奈の暮らしに憧れ、神様がその願いを叶えてくれるが…。その暮らし 体験してみれば、思った以上にハードで過密スケジュールに悲鳴を上げる。そして予定調和の結末へ。

「意味不明」
「エンターテイメント」をキーワードにした心象劇のよう。私とあなた という二人称でありながら自分への自問自答のような気もする。人々を楽しませるだけで、自分は楽しまないのか。人の心を魅了して離さないためには 自分自身が楽しんで、その気持を伝えることが必要なのでは…そんな2人の遣り取りというか(1人)心の葛藤。人の心にある表裏をエンタメの原義に絡めたドラマのよう。この物語では何を伝えようとしているのか?作者(結城ケン三氏)=登場人物 わたし のエンタメに対する思いを語っているのであろうか?まさに<意味不明>のような。

若い女性の葛藤や憧憬のような心の様(サマ)を淡く揺れるような照明で表す。全体としては 淡色照明で明るくすることで、重苦しい雰囲気にしない。またシーンによっては 朱紙(セロハン)吹雪+照明効果で気持ちを吐き出させるような。この演出はU-33projectの特徴のようだ。
次回公演も楽しみにしております。
福寿庵【再演】

福寿庵【再演】

演劇企画アクタージュ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/09/14 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

人情劇の定番のような描き方で、過去(開店3周年迄)と現在(開店8周年)を往還するように展開する。説明にあるように愛妻を亡くし、その喪失感から やる気を失った店主が店を畳もうと考え出したが…。過去と現在の常連客(名前の関連付けはある)は違うが、どちらも稲荷寿司を注文する。そこに常連客の素性のようなものが連想できる。

物語は喪失感という切なさと周りの温かさで再起しようとする姿、それを店主と昔勤めていた従業員に重ねる.。その思(想)いを分かり易く描いており、ストレートに伝わる。一瞬、雨月物語「浅芽が宿」の世界観を連想したが、怪異幻想というよりは明朗快活な雰囲気で楽しませる。過去・現在の常連客は春夏秋冬の名前(呼び名)で関連付け、それによって四季折々…つまり時代の流れを感じさせると同時に、変わらぬ<情>をも表現しているよう。勿論 登場するモノの個性をも表している。

観た回はアクシデントがあり、観客が失笑する中 何とかアドリブで乗り越えた。帰りがけに主宰で主役 店長役の大関雄一氏が冷や汗ものだった旨、話していた。物理的なアクシデントだが、自分はそれよりも小さなミス、例えば稲荷寿司を床に落としたり、おにぎり と言い間違えたところが気になった。好感がもてる公演だけに細心の…。
第35回池袋演劇祭参加作品(★評価は演劇祭授賞式後)。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 追記予定

ロリコンとうさん

ロリコンとうさん

NICE STALKER

ザ・スズナリ(東京都)

2023/08/30 (水) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ロリコン( 幼女 ・ 少女 への恋愛感情)という性癖のある人々の心情吐露、それを世間(実態を知らない人々)というフィルターを通すことで不器用と不寛容が浮き彫りになるような公演。芝居として表層的には面白いが、少女愛への共感・共鳴は出来ない…そう感情移入が出来ないのだ。冒頭、フィクションと ことわりがあり、理屈で考え 観るつもりはなかったが、どこか醒めた目で観ていた と思う。

さて、物語では ロリコンの対象年齢が小学生以下のようだが、登場するロリコンの人々は大人の女性と恋愛をし結婚もしている。勿論 ロリコンとうさん というから 父親 である。この<親>ということが肝。ちなみにロリコンとうさんの身長は 149.9cmと小柄、舞台では桑田佳澄さんがランドセルを背負って熱演している。

当日用チラシにもあったが、ネットで募集した40人以上の「ロリコンの方」と会い、通話し、テキストを送り取材した、フィールドワークに基づいて作劇したという。それゆえ、ロリコンという性癖の描きは、実に自然体だ。何となく解らないのが、どうしてロリコンになったのか、その理由や原因、または生まれもった性癖であったのだろうか(自分の知識・認識不足か?)。フィールドワークで そこを質問しなかったのだろうか? そんな 素朴な疑問を持った。

終演後の挨拶で 作・演出のイトウシンタロウ氏が まだ次回作の予定がないと言う。ロリコン公演に全力を注いだのであれば、今度は「シスコン」などは…。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

ほぼ素舞台。中央に「LOLIcom」と書かれたオブジェが設置。
自分のロリコンという性癖に向き合う人々の悲哀と可笑しみに満ちた暮らし、その生き様をフィールドワークに基づいて作劇した野心または挑戦作。タイトルからは想像できないほど真面目に描いており、その物語性(展開)も巧い。イトウシンタロウ氏は、世間から偏見の目で見られそうなロリコンという性癖に独自の<光>をあてたようだ。

痛みに似たような感覚、それを分かち合うような独自の作家性ー舞台という虚構性に現実の存在を取り入れーと熱い思い入れが伝わる。どうしても創り上げたかった、その強烈な渇望に満ちた渾身の一作のようだ。
本作はフィールドワークに基づいているから、自ずとロリコンという性癖を持つ人の視点。しかし ロリコンとは知らず付き合っている女性の気持はどうなのか、が気になる。

ロリコンとうさん:桑田澄太郎役を小柄な桑田佳澄さんが演じているが、何故 彼女が演じているのか。その謎が最後に明かされるが、その性癖ゆえに悩ましく切ない。自分に正直に生きようとすれば するほど悩みは深くなり、周囲の人々との関係も微妙になるようだ。舞台という虚構性の中に、リアルな思いを巧みに掬い上げ興味深く表現していた。
次回公演も楽しみにしております。
引き結び

引き結び

ViStar PRODUCE

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2023/08/23 (水) ~ 2023/08/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

違う雰囲気の2つの芝居を観ているような。前半の面白可笑しく 弾けた娯楽劇、後半の生きるを切々に訴えた心情劇、その動的であり静的という二面構成で紡ぐ。サブタイトル~紬ぎ結ぶは約束の糸~、その約束について ニーチェの「人間は行動を約束することはできるが、感情は約束できない」の言葉を引用して物語は始まる。

本作は、昨年上演予定であったが、本番直前で中止になっている。カーテンコールで主宰の星宏美さんが感極まって涙が。劇中で 雨が降る比喩として<悲し涙>と<嬉し涙>と言っていたが、まさに星さんの昨年と今年の心境に重なるように思える。そして手書きの挨拶文に「皆様に作品をお届けし続けることを 約束 します!!!」と力強い表明、一観客として応援したい。

この作品は、前作「引き結び~紬ぎ結ぶは命の糸~」の1~2年前という設定のよう。前作の主人公 高松一輝(前作では大学生、本作では高校生)の友人 南波圭介とその妹 藤田彩芽が主人公。舞台は北海道、そしてレンタルビデオ店だけに映画に準えた雰囲気の人々が…。全ての人物が善人、そして優しく温かく紡ぐが、先にも記したが前半の笑いから後半の泣き、その感情の揺さぶりが半端なく凄い。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)【紬チーム】 

ネタバレBOX

舞台美術…冒頭は白シーツで隠されているが、物語が始まるとレンタルビデオ店が出現する。左右非対称だが、両側に階段を設え 上部に別場所を作る。夏の風物らしく簾、麦わら帽子、夜店で売っている お面が飾られている。中央に🔞暖簾、その両側にレンタル品棚が立つ。
当日パンフには、前作との関わりがあるため 役名とキャスト名が記された人物相関図があり丁寧な紹介をしている。

物語の前半は、仲の良い兄妹とその周りにいる人々の日常を面白可笑しく描く。コロナの関係で上演順が逆になっており、高校の友人 高松一輝は前作「引き結び~紬ぎ結ぶは命の糸~」では大学進学後として語られる。そして前作で謎だった雪江の正体は既に知れているので、本作ではあっさりと描く。

さて、レンタルビデオ店に出入りするのは、ヤクザの姉さん 我衆院志摩子(鬼龍院花子 の捩りか)と子分、興味本位の常連小学生、そして「男はつらいよシリーズ」を観たいといった映画愛(癖)の強い人々である。この前半で笑いを誘い、後半でサブタイトルになっている<命>=<約束>を描き、感情を揺さぶる。

後半は妹の体に異変が…義理の母に急性骨髄性白血病と診断され、兄が何とか助けたいと奔走する。その様子に周りの人々が協力しようとする善意が涙を誘う。そして自分の骨髄の移植を…はたして妹を助けることが出来るのか。この「引き結び」公演の定番とも言える展開は、分かっていても毎回泣かされる。
次回公演も楽しみにしております。
ワーニャ伯父さん

ワーニャ伯父さん

ハツビロコウ

シアター711(東京都)

2023/09/05 (火) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。今まで観た「ワーニャ伯父さん」の中では 一番印象的だ。
当時のロシアの田舎町の閉塞と停滞感、そこへ都会暮らしの年老いた元大学教授夫妻が滞在した日々の出来事、それを きわめて現代的な問題・話題と絡めて描く。120年以上前の戯曲とは思えないような問題意識、そして濃密な会話。何となく時代・社会から取り残された人々、その苦悩と諦念が切々と伝わる力作。

薄暗く重苦しい雰囲気が停滞感を漂わせ、その中で俳優陣の迫真ある演技が繰り広げられる。ラスト、ソーニャがワーニャ伯父さんに どんなに過酷な状況下でも<生きていかなくちゃ>と静かに語り掛ける場面は絶賛もの。舞台で発する<言葉>の重み、それが心魂を震わす。この公演の魅力…まず 場面毎が夫々独立しているようで、描きたい事がはっきりしている。次に人物の立場と心情がよく表れており、例えば セレブリャコフが皆を集めて話す場面では、人の立ち座る場所で気持(心)の距離感が観てとれる。その美意識ともいえる構図が凄い。戯曲の面白さを十分に引き出した演出と演技、観応え十分。
(上演時間1時間55分 途中休憩なし) 追記予定

七曲り喫茶紫苑

七曲り喫茶紫苑

劇団芝居屋

劇場MOMO(東京都)

2023/08/30 (水) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
<人間と地域>を<愛情と愛着>をもって描いた好公演。劇団芝居屋らしい安定感、それは演じている役者の演技そのもの。今回は地方都市の寂びれた設定から、東京郊外にある私鉄沿線の街が舞台になっている。そしてコロナ禍の影響で タイトルにある通称「七曲り」という路地裏横丁が移転を強いられる。現実にありそうな内容を厚い人情噺として紡ぐ。昭和という佇まい 雰囲気に、令和の時代の出来事、その苦境を逆に題材として描く強かさ。

いつもの人情噺、しかし 少しネタバレするが、親が戦後間もない頃に開店し、そこで生まれ育った女将・影山典子の慟哭が痛ましい。親から受け継いだ おでん屋「万年青」が取り壊され、愛着ある風景が一変する。75年の歴史ある店が一瞬にして無くなる無常。雑多な路地裏、それが何も無く見渡せてしまう光景、その変貌した様子が想像できる破砕音。同時に典子の取り乱した姿…彼女の人生と店舗が重なり哀愁をみるようだ。単に移転ではなく、人生の歩み(思い出)が消えるような不安、それでも人は力強く生きていく を思わせる。そこに劇団芝居屋の真骨頂を観る。

物語は、立ち退きを中心に、そこで生きてきた人々の背景と今後の行く末を温かく見守る。同時に今 日本が抱える問題も点描する幅広い描き。少子・高齢化を思わせる後継者問題、マイノリティに繋がるゲイBAR「夜と朝」、そのマスターの生き様と今後の行く末が気になる。説明にある、かろうじて残った五店舗の立ち退きを、喫茶紫苑を中心に紡ぐ「現代の世話物」、そう まさに<現代>の人情芝居。ぜひ劇場で覗いてみては…。
(上演時間1時間55分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は喫茶紫苑の店内…上手にカウンターと腰高スツール、中央奥・客席よりにテーブルとイス、下手にソファ席がある。壁(一部がレンガになっており時代を感じさせる)には絵画や三角ペナントがあり、その雰囲気作りの上手さは いつもの芝居屋。ラスト このテーブルやイス、小物類が…。

昭和の匂いを残す路地裏横丁が、以前からあった再開発による区画整理、そしてコロナ禍の悪影響(経営不振)が重なり 移転が決定した以降を描く。老舗のおでん屋「万年青」、喫茶紫苑はこの地で長い間 営業を行っており、現在は夫々 先代から受け継いだ二代目。思い入れある横丁とそこで触れ合う人々の優しさ温かさに、古き良き時代の郷愁を感じる。いつもの人情芝居だが、今作は「万年青」の取壊し移転に伴って75歳の女将 典子(永井利枝サン)の心情を掘り下げる。今更 新しい店で仕事が出来るかといった不安、そして跡継ぎがいないことから閉店を考えている といった事情を盛り込む。またゲイBAR「夜と朝」のマスターはLGBTの仲間と新たに高齢者施設を、といった夫々の事情を通して少子・高齢化社会を考えさせる。

一軒一軒 取壊しが始まるが、それを不安・不穏を煽るような音楽と破砕音で想像させる。音と言えば、万年青の女将と従業員 福田登和(細川量代サン)が情感込めて「昭和枯れすゝき」を歌うシーンは、昭和の雰囲気そのもの。
勿論「万年青」や「紫苑」だけではなく、焼き鳥「鳥功」、立ち飲み屋「海路」や「権藤ボクシングジム」が抱える問題、それが現代の地域社会を反映するような描き。一方、先行き不透明な事情の中に、若いボクサーや若手女性弁護士といった人々を登場させ 新たな未来をも感じさせる。この個性と事情ある人物をベテラン、若手が生き活きと演じ物語を紡ぐ。

場面転換するごとに衣裳を着替え、時間の流れや状況の変化を表す丁寧な観せ方である。しかし それだけ暗転が多いと感じられた。ラスト、紫苑の店内にある物が運び出され、二代目ママ 中村良子(増田恵美サン)が佇む中、黄昏を思わせる照明が印象的だ。余韻ある演出(地主 栗山金蔵 役<増田再起サン>)が心に沁みる。いつか薄れていくかもしれない コロナ禍の怯えと記憶の記憶を 真摯に繋ぎ止めてくれるような公演だ。
次回公演も楽しみにしております。
新・ワーグナー家の女

新・ワーグナー家の女

Brave Step 

アトリエ第Q藝術(東京都)

2023/08/30 (水) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
濃密で緊迫した母娘の会話劇。
物語は1946年、廃墟と化したドイツのバイロイトで開かれた委員会に参考人として召喚された女性、そして もう一人の若い女性の対峙を通して戦時中のナチスドイツ(ヒトラー)の関係を明らかにする。初演は2004年、このような芳醇な香りを思わせる公演は初めてである。

1946年という設定であるが、会話から現代に通じる問題が次々に浮かび上がる。第三帝国という破滅への背景には、当時の不景気、不寛容、防衛のため…どこかで聞いたような言葉が述べられる。現実に世界のどこかで戦争や紛争が続いている。それは対岸の火事(戦火)ではなく、グローバル化した現代においては何らかの影響を受け、与えることになる。そんな怖さを感じさせる。

ピアノの生演奏(「タンホイザー序曲」を始め有名クラシック音楽)という贅沢さ、2人の女性は勿論、委員会委員(コロス)、そして場内に飾られた肖像画等への照明が物語を印象的・効果的に観(魅)せている。また コロスは(有名)指揮者であり、ナチス兵・委員という複数の役を兼ね時の流れを表す。

立場の違う母と娘…チラシでいうところの敗戦国ドイツ、戦勝国アメリカ、どちらにしても「バイロイト音楽祭」はワーグナー家が仕切ることが出来た。そして 戦中・戦後の一時期を除き、「バイロイト音楽祭」は 別名リヒャルト・ワーグナー音楽祭といわれるように、彼のオペラ・楽劇を演目としており、現在も続いている。その意味では<音楽祭>を守り継続させるための 母娘の深謀のような気もするが…。だからこそ「新・ワーグナー家の女」なのだろうか。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は中央に大きめの椅子、周りに不規則に置かれた机と椅子。中央奥の壁にはヒトラーの肖像画が見える。また有名な指揮者の絵画か写真も飾られている。しかし何となく 廃墟然とした雰囲気が漂い、薄暗い中で母が淡々と語る。そして娘が登場し母と対峙してからは緊張感ある激論が始まる。

物語は、委員会に召喚された母ヴィニフレッド・ワーグナー(観世葉子サン)とその娘フリーデリント・ワーグナー(新澤 泉サン)が、戦時中のナチスドイツ(ヒトラー)との関り、特に「バイロイト音楽祭」を巡り激論する。そこで明らかになるのは、ナチス時代にワーグナーがどう受け入れられていたか、そしてナチスとはなんだったのか。物語のほとんどは、この2人の息詰まる台詞の攻防に終始するといっても過言ではない。そして母の不遜 尊大な態度、娘の鋭い理論的な追及といった立場の違いを、観世葉子さんと新澤 泉さんが見事に演じていた。

ナチスが、19世紀まで続いた伝統的な社会価値や秩序に対し、ある種の変革を打ち出し民衆の支持を得ていたらしい。 第2次世界大戦中も「バイロイト音楽祭」はナチスの支援下を受けており、母が時代を乗り切るため 生きるが故に矛盾や絶望に苛まれていた訳でもない。一方 娘はアメリカへ渡り反ナチ活動をしており、両者とも実情に基づいている。それ故 言葉(台詞)に誤魔化しがなく重みがあり、時代と人間のドラマを感じさせる。ヴィニフレッド・ワーグナーは、ナチス ドイツの傷を自らに刻みつつ、それからも運命に翻弄されながら逞しく生き抜いたようだ。

公演は、リヒャルト・ワーグナー「バイロイト音楽祭」を題材にしていることから、彼の曲をピアノの生演奏で聴かせる。演奏は高橋瞳輝子さんであるが、彼女の衣裳は黒一色で黒子に徹したかのよう。この公演を影?からしっかり支えていた。
次回公演も楽しみにしております。
イエスタデイランド

イエスタデイランド

青春事情

劇場MOMO(東京都)

2023/08/23 (水) ~ 2023/08/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
時代に取り残されて今にも潰れそうな遊園地<ドリームワールド>、そこで働く人々の心温まる奮闘記を描く。ワクワクするような非日常が過ごせる場所であるが、そこで働く従業員は日々 集客するために頭を悩ませる。特に園長は夢<ドリーム>を見るどころか、数字という現実を突きつけられる。物語の魅力は、そこで働く人々の面白可笑しい姿、しかし 心に秘めた熱い思いをしっかり伝えるところ。どんなに閑散としていても防災訓練は怠らない、そのシーンを冒頭とラストに描くことによって、さり気なく従業員の意識の変化を観せる。

舞台美術は簡素な作りであるが、遊園地のアトラクションや祭り(提灯)を思わせる光景。それでも奥行きを感じさせる。そして不思議とファンタジーでありノスタルジーな雰囲気が漂う。そんな背景の中で テンポ良い展開、そして笑える会話、時に含蓄ある言葉で感情を揺さぶる。今後 この遊園地がどうなるのか気になるな~。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は 後景に観覧車、上部に提灯の形をした張りぼて という簡素なもの。全体で園内の広さを表すスペースとし、動き回る姿によってテンポのよさを出す巧さ。
今は昔、小さな遊園地はデパートの屋上にもあり それなりに人気があり需要もあったと思う。物語は、客足が遠のいた遊園地<ドリームワールド>、そこで働く人々の熱い思いと厳しい現実の狭間で苦悩する姿を通して<時代=流行り廃り=需要>とは を考えさせる。

アイドルを 招請してのイベントを企画したが、事情によって無名の演歌歌手がやってくる。客がいない中で熱唱する、その姿に園長は疑問を呈する。歌手曰く、柱の陰に一人だけ聞いている客がいた。客数の多い少ないではなく、一人一人のために歌っている。音源もカセットテープという時代遅れのモノを用意する。演歌も聞く人がいなくなれば廃れるのか、今の若者は演歌など聞かないと辛らつなコメント。自分(園長)も年を取れば演歌を聞くようになるのか、といった自嘲。このシーンが遊園地の人気<需要>に重なる。

従業員と 時どき来園する客の思いが、経営の厳しい遊園地の対比として描かれる。幼い時に来た楽しい思い出を大事にする従業員、態度が悪くどこも採用してくれなかった女子バイト、人手不足でメンテナンスも含め多くの業務を担うベテラン、マスコット(着ぐるみ)のラビット、そして社会人経験のない主婦が…。一癖も二癖もあるような人々が一人の客のためにイベントを催そうとする。年を取り 守りに入ったら、夢が見られなくなる。

不愛想な女子バイト(先輩)と笑顔で対応する主婦(後輩)の生き方、考え方の違いも面白い。学歴に劣等感があり、働き先が見つからなかった女子バイトはバカにされないよう虚勢を張る。一方 主婦は年下後輩に厳しく当たられても笑顔で応じる。笑顔の下には悔しい思いも、そんな2人が心を通わせていく。
ラスト、久しぶりに盆踊り大会を開催することになり、演歌歌手を再び招請するという大団円へ。
次回公演も楽しみにしております。
眠らない街と愛していたが訳ありだった僕ら

眠らない街と愛していたが訳ありだった僕ら

運命論者

アトリエファンファーレ東池袋(東京都)

2023/09/01 (金) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

旗揚げ公演にして、第35回池袋演劇祭参加作品(★評価は演劇祭授賞式後)。
大学生公演らしく瑞々しく、そして年齢が近い等身大の人物を立ち上げる。物語は新宿の歌舞伎町の中心にあるTOHOシネマズ新宿広場前を溜まり場とした若者の生態を描いた堕思春期劇。

新宿、それも通称トー横界隈を描き出すため映像を用い、その雰囲気を演出しようとする工夫。そして中心になる少女2人の衣裳に住む世界・環境の違いを表す。表現し難い心情をどのように表出できるかが課題であろう。それを少女2人の境遇を微妙に変化させ描く。しかし どうしてもダークな面を取り入れないと ドラマとしては盛り上がらない。トー横界隈=倦怠/堕落した若者=犯罪の温床=闇社会といった画一的な筋書きのように思える。そして、その理由/原因が家庭や学校という捉え方に狭さを感じる。救いは闇社会にいる者と一線を画そうとする少女の態度と その後の行動。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、中央奥に白幕でスクリーン代わり、左右で段差が異なる台。上手に置き台のようなものがあり 床にはコミが散らかっている。多分 縁石と広場の汚さを表しているのだろう。

瑞々しさの表裏と言えるか、演技が少し粗いような気がした。例えば缶ビールを飲むシーンでは、泥酔していないのに 缶を傾けたまま口元から離し、焼き肉を食べるシーンでは口元へ運んでいない。細かい仕草も丁寧な演技をすることによってリアリティがうまれる。せっかく新宿街の雰囲気を出し、心情という表現が難しい…いやトー横キッズという注目度・社会問題という目新しい観点に挑戦しているだけに惜しい。

主人公 舞(松沢佳奈サン)が興味本位であろうか トー横界隈に行って知り会ったルミ(ハナスエトミ サン)、新(246番街サン)と過ごした一時期、それを現代世相に絡めて描く。家庭や学校に居場所がない空虚さ、親しい友達もいない寂しさ、そんな思春期の不安定さが観てとれるが、決定的な詭道さが観えない。たしかに闇の仕事(未成年売春等)も出てくるが、舞が優等生すぎて闇世界と一線を画している。トー横界隈の危うさにどっぷり浸るのではなく、客観的に観ているようで緊張感が伝わらない。敢えて 優しく無難に仕上げた、そぅ救いをもたせるといった印象だが…自分は肯定的に捉えた。

衣裳は、舞が制服、ルミが秋葉原等で見かける可愛いいフリルもの、新はカジュアルで、そこに三者の立ち位置が見えるようだ。舞はこの先 大学まで進学し、ルミは闇に沈みといった展開のようだが、深追いはしない。あくまでトー横界隈で過ごした一時期を紡ぐことで等身大の若者像を描く。改めて テーマが現代的で話題性もあるだけに惜しい。
次回公演を楽しみにしております。
桃太郎の大冒険

桃太郎の大冒険

劇団龍門

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2023/08/03 (木) ~ 2023/08/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
㊗️第20回公演、劇団の代表作にして「2016年シアターシャイン最優秀作品賞受賞作品」…その再演は観応え十分。サスペンス ミステリーとして展開していくことから公演終了までネタバレ厳禁。

物語は、「桃太郎」という子供向けの お伽話ではなく、どちらかと言えば大人向けの啓発劇のよう。劇中、何回か繰り返す「今を生きることがサバイバル」という台詞が切実だ。どう生きるのか、その運命を握る者とは…その関係を鋭く捉え、考えさせる濃密な作品。その視点の奇知が物語の肝であり、面白さだろう。ぜひ劇場で!
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台セットは 中央に平台、その周りを柵のようなもので囲っただけのシンプルなもの。
物語は、動物界におけるヒエラルキー、それを人間とそれ以外の動物の観点から それぞれ捉えた問題作。人間の身勝手さ、しかしそれに抗うことができない動物たち。その生死さえもである。「人の命は地球より重い」 多くの人が、耳にした言葉だろう。しかし あくまでも<人の命>である。

物語は、擬人化した動物の背景を描くことによって、様々な人間のエゴを浮き彫りにする。そこには自然(動物界)の摂理ではなく、人間社会のルールによって生殺与奪が決まる。この悲痛な叫びを<人間の声>と<動物の声>を重ねた音響で印象付ける。

再演の可能性があるため、内容は伏せておくが、そう簡単には解決できない問題。表層的には制度の問題として描いているが、根底には人の考え方と行動に由る、と思う。
次回公演も楽しみにしております。
BIG MOUTH

BIG MOUTH

GHETTOプロデュース

Gyoen ROSSO 198(東京都)

2023/07/29 (土) ~ 2023/07/29 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

楽しいエンターテイメントショー‼ 満席。
客の9割以上が女性で、男性は数えるほどだ。はじめは場違いかと心配したが それは杞憂だった。「演劇」というよりは「ショー」といった趣だが、始まってみれば しっかりドラマが立ち上がる。「ようこそ!男性ストリップ『L&J』今を喋れぬ俺たちが、裸で語る夢現実」という謳い文句…上演前は 筋肉質のイケメンキャストが黒いビキニパンツで場内を歩き回り 接客する。女性客の嬌声と乾杯の声が方々で聞こえる。女性客が推しのキャストに酒を奢り乾杯をする、と隣席の女性が教えてくれた。偶然にも常連客の隣に座ったことで色々なことが聞けた。日々の憂さを晴らす一夜の桃源郷のような、常連になるのも肯ける。
なんと、8月にも上演するという。また楽しみな公演情報を得た。
(上演時間1時間30分) 

ネタバレBOX

タイトル「BIG MOUTH」は、まだ何者にもなっていない、そんな駆け出しのダンサーを表している。主人公は、説明にある「俺の居場所はブロードウェイと大口たたき続けるソラが騙され、抱えた借金返済の為に辿り着いた先は新宿二丁目」にある男である。会場Gyoen ROSSO 198を「男性ストリップ『L&J』」に見立て、裸で激しいダンスを繰り広げる。時に ダイナミックなポールダンスを魅せる。舞台だけではなく、客席通路も使い躍動感を出すと同時に 観客との密接度というサービスをも表す。

物語は『L&J』にソラが入店するが、先輩ダンサーと上手くやっていけない苛立ち。自分はこんなチンケな店ではなく、ブロードウェイが舞台と大口をたたく。そのくせ女に貢がせ自分の借金を肩代わりさせる。が、店の流儀や踊ることの魅力、何より自分の未熟さに気付きだし…。
そんな時、リーダーの子が交通事故に巻き込まれ、輸血が必要になる。リーダーは別れた女房の子を1人で育てている。実は血の繋がりがなく、自分は輸血できない、そこでソラに頭を下げ 輸血を頼む。俺の足にしがみつき立つ息子のために踊るんだと言い放つ。このシーンがグッとくる。
全体としては、生意気な若者の成長譚、ヒューマンドラマといった描き方である。

物語の牽引役にして、『L&J』の支配人役であるマペヲ氏の独特の風貌と語り口が場内の雰囲気を和ませつつ、自然と話を引っ張っていく。また高額納税者ならぬ それぞれの推しキャストへ貢いだ数人の女性への御礼なのか、舞台へ上げサービスをする。それが嫌味ではなく、見ている観客をも楽しめる参加型の公演。
次回公演も楽しみにしております。
アオハルがやりたくて

アオハルがやりたくて

リブレセン 劇団離風霊船

OFF OFFシアター(東京都)

2023/08/16 (水) ~ 2023/08/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初見の団体…面白い、お薦め。
この劇場で上演前の緞帳は初めて見たかも。説明に「とある車両に乗り合わせた6人の男女がおりなす人間模様」とあるから、セットは何となく想像できる。表層はアオハルに憧れる女子高生:山田佳菜子(赤松怜音サン)の 心の葛藤 いじらしさを描いているが、その展開は意表をつく。因みに 赤松怜音さんは、若い時の多部 未華子に似ており 本人登場か と少し驚いた。

登場人物の苗字は勿論、劇中の場面に映画の名シーンを挿入している。映画好きには 直ぐ分かるが、そうでなくても物語の一場面として上手く取り込んでいるので楽しめる。全体としては ミステリー、奇怪といった雰囲気を漂わせているが、その不思議感覚(演出)こそが肝。

乗り合わせた人々の役とキャラが妙。何の接点もないが、主人公の女子高生の心に寄り添うような言葉(台詞)と行為(好意)、普通であれば関わることがないだろうが、特殊な状況ゆえに緊密になる。人々の煽(アオ)によって治(ハル)ような女子高生の心持、その青春の一幕はぜひ劇場で…。
(上演時間1時間5分) 

ネタバレBOX

舞台美術は電車内。つり革やソファー、そして広告が見える。
山田佳菜子は、文化祭の準備を押し付けられ やり終えての電車内。乗車しているのは中年男性・針生、中年女性・林田、乳母車に赤ん坊を乗せた女性・大鳥、そして途中から男子高校生・石井が乗ってくる。突然の急ブレーキ、電車が動かなくなる。車内という閉鎖状態、なんとなく気まずい雰囲気になるところだが、針生が皆に話しかける。

不安になる状況下において 明るく振る舞う。そして つり革を雲梯のようにして遊び、ソファーに寝転ぶ。普段の車内では出来ないことをして楽しんでしまう。一方、佳菜子は引っ込み思案、人見知り、自己肯定感が低い。そんな自分を何とか変えたいと思っている。少しずつ 針生のポジティブな思考に影響され…。

佳菜子は、映画好きであり人に興味もある。例えば、大鳥はオードリーヘップバーンに似ており、映画「ローマの休日」に出てくる<真実の口>の名場面を演じる面白さ。電車が不規則な動き 停車をするなかで、佳菜子が石井に後ろから抱きしめられるのは、「タイタニック」の甘美な世界。有名映画のワンシーンをさり気なく挿入して楽しませる。

いつからか、車内の外に人影(謎の男)らしきものが…。そして乗客が一人づつ車外に消えていく。赤ん坊の泣き声が車内に甲高く響くが、実は赤ん坊は存在しない。一瞬オカルトかと思わせるが、最後に車内に残ったのは佳菜子と石井だけ。夫々の乗客は佳菜子へ声掛けをし、彼女の内気に対する励ましをする。そして今ある状況に唖然とする。再演があるかもしれないため、結末は伏せておく。しかし 実によく考えられたシチュエーションで観応え十分。
次回公演も楽しみにしております。
血の底

血の底

演劇プロデュース『螺旋階段』

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2023/08/24 (木) ~ 2023/08/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

バブル期を背景に人の痛みと悲しみ、そして憎しみを描いた人間ドラマにして社会ドラマ、その重厚・骨太作品は観応えがあった。事件を追う手法で次々と明らかになる事実、しかし人の上っ面ほど信用できないものはない。その騙し騙されは、ますます不幸の連鎖を生む。まさにバブル崩壊によって土地神話が崩れ、金融機能は行き詰まり金融機関の破綻、そして国家経済の低迷期へ…に重ねるような展開である。事実という点と点が繋がり線として交差するが、全てに紐付けするようで 少し強引に思えた。

タイトル「血の底」は、勿論 バブル期の<地>と掛け合わせているが、物語では そのまま<血>の底、その深い憎しみを表している。しかし、その憎しみこそが 生きる<力>にもなっている。そのためには人を騙し貶め、そして奪う。劇中にある「バブル期とは何だったのか」は、今にして思えば浮かれ踊り狂った幻想の時期だったような。表層的には、恨み辛みを果たすための復讐劇に観え(思え)るが、人の感情ほど読み取れないものはない。その底知れなさに この劇の面白さがある。

舞台美術が、物語そのものを表しているよう。擂鉢状で さらに底には穴がある。掘っても掘っても底が見えない、その どこまで続くのか解らない人の怨嗟と強欲。演劇的には奈落の底といったところであろうか。そしてぶちまける砂、まさしく築いた地位と財産、そしてバブル期という<砂上の楼閣>を表しているかのようだ。
(上演時間2時間30分 途中休憩なし)【白チーム】追記予定

立飲み横丁物語

立飲み横丁物語

劇団芝居屋

ザ・ポケット(東京都)

2022/10/26 (水) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
昭和の日本映画(界)を牽引した仁侠映画、その象徴的な言葉が「義理」と「人情」。そのヤクザの世界と縁を切った 正統派の的屋組合とその周りの人々のコロナ禍における悲哀と奮闘を描い物語。芝居屋は現代の「世話物」の創造を目指し「覗かれる人生芝居」というコンセプトの下に役者中心の表現を模索している。その覗かれる立場から、逆に庶民が見(置かれ)ている今の状況…コロナ禍、物価高そして戦争という台詞がポロッともれる。

演劇という「見世物」だけではなく、そこには社会を冷静に見詰め、庶民が置かれている状況を過不足なく描く。芝居屋の公演は 表層的な解り易さだけではなく、ヤクザの世界とは違う地域や職域に密着した「義理」と「人情」という諦観と情感、それを役者の演技力で力強く そして魅力的に表現する。そこに芝居屋・演劇の真骨頂を観る。
(上演時間2時間20分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

冒頭、立飲み屋のカウンター内で的屋の口上ー七味唐辛子のレシピを小気味よく喋る花村凛子(増田恵美サン)の観(魅)せる掴み。長台詞だが立て板に水のようで聞き惚れてしまう。そこに本当の的屋姿を見ることができる。
舞台美術は、冒頭は立飲み屋のボトル棚やカウンター、そしてビールケースが置かれているが、開店と同時にビーブケースを3段に積み重ね立飲みらしいテーブルを作り出す。
経営(高利貸しが絡んだ経営危機)や地域活性化といった庶民の暮らしが描き出される。まさしく芝居屋のスローガンそのもの。

全体を通して分かり易く、現実にもありそうな物語。それに現在の地方都市が抱える地域事情を絡め、しかも人情と義侠ある人々で豊かに紡ぐ。その社会性と人間味を丁寧に描く公演は観応えがあった。
次回公演も楽しみにしております。
ノストラダムス、ミレニアムベイビーズ。

ノストラダムス、ミレニアムベイビーズ。

劇団身体ゲンゴロウ

シアターバビロンの流れのほとりにて(東京都)

2023/08/06 (日) ~ 2023/08/11 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ミレニアム(2000年)生れの小学6年生の群像劇か、それとも主人公 ゆきのりとその級友 りょうの心象劇か。何となく中途半端な印象である。どちらかを中心に描いたほうが、もっと印象的になった。
チラシにもあるように「金魚鉢の魚のように、教室で僕らは群れをなしている」は、それぞれの登場人物の背景を描き、狭い世界(教室)でマウントを取り合っている。一方、ラストは先の2人の夫々のモノローグ、その思いを激白する。

2012年、東北地方(宮城県か)の小学校。前年の東日本大震災を背景にしているところもあるが、緊密性は感じられない。少しネタバレするが、教室におけるヒエラルキーを覗き見て、虐めという負の連鎖に心が…。劇中一人ひとりが叫ぶ「教室は、戦場だ!」は、逃げ場のない教室で、いかに上手く立ち回るか。小学校を舞台にしているが、実は大人になっても勤め先、いや社会という枠の中で どう上手く立ち回ろうか四苦八苦している。そんな光景が垣間見える可笑しみと悲哀を感じる作品だ。
(上演時間2時間5分 途中休憩なし。アフタートーク20分)

ネタバレBOX

舞台美術は、ほぼ素舞台であるが、状況に応じて後ろの衝立(壁)が左右に開き、奥から東日本大震災時の立ち入り禁止(地区)を思わせるオブジェが迫り出してくる。この演出は前作にもあった。

アフタートークのゲストは生田みゆき女史(演出家)であった。トーク で登場人物(級友)は皆 被災者であるが、その背景の描きが弱い。被災経験者と距離感のある(被災地から遠く離れた)者とでは捉え方に感覚的な違いがある。観ていて 教室内の出来事と被災という背景に距離を感じる、そんな趣旨の話をしていた。脚本・演出の菅井氏は被災経験者であり その感覚の違いか。

主人公 葛西ゆきのり は母子家庭、父は大震災で行方不明のまま。震災前日に父と諍いをしたことがトラウマになり、自分の主張をしなくなり争いも避ける。級友から仲間外れにされないよう周りに気を遣い不自由だ。一方、雨宮りょうは 空気が読めずクラスの嫌われ者、友人がいなく孤独だが自由でもある。そして彼は母が失踪し父子家庭。この親1人子1人という似たような境遇にありながら、心持はまったく正反対な二人が微妙な距離感で親しくなったことで 少しずつ世界観が変わる。

物語では、クラスメイトのそれぞれが抱える苦悩を描き、虐めることによって自分の存在を知らしめている。いかに仲間外れにならないようにするか、強い者は その立場をいかに守るか。虐める側か虐められる側か、まさに教室は戦場だ!この教室内の出来事は面白く描かれているが、震災に係る場面はやはり弱い。劇中でも ゆきのり の思いだけが描かれている。
演出は、アフタートークでも 司会が話していたが、ソフトボール大会のシーンが好評らしい。たしかに 投打を色々な角度で見せ、音楽と相俟って迫力・緊張感ある場面を描いており巧い。

ラストシーン…ゆきのり は、自分(の意思で)一人で生きていけるような強さがほしい。一方、りょう は、寄り添える仲間がほしい、といった今までの生き方とは違う思いを激白する。いつの間にか入れ替わったような思い 考え方は、二人の友情の表れであろうか。
次回公演も楽しみにしております。
観るお化け屋敷「カーテン」

観るお化け屋敷「カーテン」

下北沢企画

ザ・スズナリ(東京都)

2022/08/18 (木) ~ 2022/08/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

劇場「ザ・スズナリ」をお化け屋敷風と見立て、探訪させるといった企画。怖がらせつつ、バックステージを見せたのは、本編(演劇)へ繋げるため。案外、野心作かもしれない。

上演された内容は、怪奇ものであり 或る人物の怨念を描いたもの。企画・お化け屋敷といったコンセプトを十分に意識した、または内容に合わせてお化け屋敷を意図したのか。いずれにしても面白い「カーテン」が幕を開けた。
(上演時間50分)22.8.21追記

ネタバレBOX

舞台美術は、左右に板塀のようなものと天井から鎖。下手にミニタンスがある。上演前は白布(幕)、物語が始まると奥には左右対称に板塀と白幕が三重になっており、一番奥は少し高い台。遠近法的感覚で奥行きを感じさせるが、それは劇場内を巡った後だけに実感として分かる。

ネタバレしないためにも、説明を引用…上演前には怪しげなメイクをした MCのJ.K.Good Man氏が「ザ・スズナリ」が四十年前、古いアパートだったこと、そして203号室と204号室に住んでいた女・森キヨコ(みょんふぁサン)と男・ハヤシ(新城侑樹サン)の話、かつての住人が時を超えて出現し観客に語る恐ろしい真実。
キヨコは、長い黒髪で顔を隠し典型的な幽霊姿、この顔判別が難しいことを利用した演出は上手い。『ヤツは殺人者じゃない、部屋に棲みついた悪霊だ』やがて驚きは恐怖へと変わり、誰もが悪夢の底に引き摺り込まれていく。怨霊と除霊師たちによる悪霊退治(マジックのような)が始まる。そして怨霊の真の狙いとは…。

「小劇場ザ・スズナリで恐怖をテーマに繰り広げられる前代未聞のエンターテイメント・ホラー・ショー!漆黒の激空間に浮かび上がる未曾有の惨劇を観よ!」という謳い文句。建物構造を楽しま(怖がら)せ、劇場の歴史を物語化することで「お化け屋敷」と「観る」ことを上手く繋ぎ怖さ見たさの好奇心を満たす企画、堪能した。演出協力に五味弘文氏の名があったことから興味を持ったが、劇場のお化け屋敷はもう少し怖さが感じられればと思う。
次回公演(企画)も楽しみにしております。

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