七曲り喫茶紫苑 公演情報 劇団芝居屋「七曲り喫茶紫苑」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    <人間と地域>を<愛情と愛着>をもって描いた好公演。劇団芝居屋らしい安定感、それは演じている役者の演技そのもの。今回は地方都市の寂びれた設定から、東京郊外にある私鉄沿線の街が舞台になっている。そしてコロナ禍の影響で タイトルにある通称「七曲り」という路地裏横丁が移転を強いられる。現実にありそうな内容を厚い人情噺として紡ぐ。昭和という佇まい 雰囲気に、令和の時代の出来事、その苦境を逆に題材として描く強かさ。

    いつもの人情噺、しかし 少しネタバレするが、親が戦後間もない頃に開店し、そこで生まれ育った女将・影山典子の慟哭が痛ましい。親から受け継いだ おでん屋「万年青」が取り壊され、愛着ある風景が一変する。75年の歴史ある店が一瞬にして無くなる無常。雑多な路地裏、それが何も無く見渡せてしまう光景、その変貌した様子が想像できる破砕音。同時に典子の取り乱した姿…彼女の人生と店舗が重なり哀愁をみるようだ。単に移転ではなく、人生の歩み(思い出)が消えるような不安、それでも人は力強く生きていく を思わせる。そこに劇団芝居屋の真骨頂を観る。

    物語は、立ち退きを中心に、そこで生きてきた人々の背景と今後の行く末を温かく見守る。同時に今 日本が抱える問題も点描する幅広い描き。少子・高齢化を思わせる後継者問題、マイノリティに繋がるゲイBAR「夜と朝」、そのマスターの生き様と今後の行く末が気になる。説明にある、かろうじて残った五店舗の立ち退きを、喫茶紫苑を中心に紡ぐ「現代の世話物」、そう まさに<現代>の人情芝居。ぜひ劇場で覗いてみては…。
    (上演時間1時間55分 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は喫茶紫苑の店内…上手にカウンターと腰高スツール、中央奥・客席よりにテーブルとイス、下手にソファ席がある。壁(一部がレンガになっており時代を感じさせる)には絵画や三角ペナントがあり、その雰囲気作りの上手さは いつもの芝居屋。ラスト このテーブルやイス、小物類が…。

    昭和の匂いを残す路地裏横丁が、以前からあった再開発による区画整理、そしてコロナ禍の悪影響(経営不振)が重なり 移転が決定した以降を描く。老舗のおでん屋「万年青」、喫茶紫苑はこの地で長い間 営業を行っており、現在は夫々 先代から受け継いだ二代目。思い入れある横丁とそこで触れ合う人々の優しさ温かさに、古き良き時代の郷愁を感じる。いつもの人情芝居だが、今作は「万年青」の取壊し移転に伴って75歳の女将 典子(永井利枝サン)の心情を掘り下げる。今更 新しい店で仕事が出来るかといった不安、そして跡継ぎがいないことから閉店を考えている といった事情を盛り込む。またゲイBAR「夜と朝」のマスターはLGBTの仲間と新たに高齢者施設を、といった夫々の事情を通して少子・高齢化社会を考えさせる。

    一軒一軒 取壊しが始まるが、それを不安・不穏を煽るような音楽と破砕音で想像させる。音と言えば、万年青の女将と従業員 福田登和(細川量代サン)が情感込めて「昭和枯れすゝき」を歌うシーンは、昭和の雰囲気そのもの。
    勿論「万年青」や「紫苑」だけではなく、焼き鳥「鳥功」、立ち飲み屋「海路」や「権藤ボクシングジム」が抱える問題、それが現代の地域社会を反映するような描き。一方、先行き不透明な事情の中に、若いボクサーや若手女性弁護士といった人々を登場させ 新たな未来をも感じさせる。この個性と事情ある人物をベテラン、若手が生き活きと演じ物語を紡ぐ。

    場面転換するごとに衣裳を着替え、時間の流れや状況の変化を表す丁寧な観せ方である。しかし それだけ暗転が多いと感じられた。ラスト、紫苑の店内にある物が運び出され、二代目ママ 中村良子(増田恵美サン)が佇む中、黄昏を思わせる照明が印象的だ。余韻ある演出(地主 栗山金蔵 役<増田再起サン>)が心に沁みる。いつか薄れていくかもしれない コロナ禍の怯えと記憶の記憶を 真摯に繋ぎ止めてくれるような公演だ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/09/02 07:14

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