ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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えんやこら讃歌

えんやこら讃歌

劇団だるま座

アトリエだるま座(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

必見 花五つ星
 初日を拝見。何度褒めても褒めたりない。必見の舞台。

ネタバレBOX

 えんやこら、ヨイトマケ。掛け声は様々であるが、工事現場で地固めをする時に使われた掛け声である。太い丸太に何本もロープがついて、それが組まれた櫓の中央にいちしているのだが、この太くて大きな丸太をこの掛け声と共に皆で引っ張り上げては落とす。これを繰り返して地固めをしたのである。綱を引くのは殆どが女性だ。自分もガキの頃、港湾で荷役のアルバイトをやっていると矢張り港湾の建築現場で働くおばちゃん達に良くからかわれたものである。結構若くて綺麗な人も居て、その色気に圧倒されながらからかわれていたことを懐かしく思い出した。
 丸山 明宏が歌った“ヨイトマケの歌”もこの土方のお母さんのことを歌った歌だった。シナリオが素晴らしいし、演技が自然で深みがあり、チームワークも実にいい。人情の機微と人としての佇まい、女の意地と戦争の齎したどうにもならない現実を凌ぐ姿の痛々しさ。それら総てを秘めて去って行く男の後ろ影。深い余韻を残す名舞台である。
「ラヴ・レターズ」2016 Autumn Special

「ラヴ・レターズ」2016 Autumn Special

パルコ・プロデュース

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2016/10/31 (月) ~ 2016/10/31 (月)公演終了

満足度★★★

シナリオ自体は花四つ星
だが、残念な点が2点。詳細は下記で。

ネタバレBOX

 A.R.ガーニー原作の今作、アンディーとメリッサの幼年から壮年、メリッサの死までを手紙の往信、返信を介して描いた朗読劇。シナリオは、WASPの傲岸を描き、アメリカ人にとっては良いのだが、有色人種に対して非常に差別的な表現が為されているにも関わらず、その点に留意しているとは思えないプロデュース・演出であった。プロデューサーや演出家自身何か勘違いしている「バナナ」*なのかも知れないが、こんなことだから、アメリカになめられるのだ。文化人であるなら、少なくともインターナショナルを気取るなら、inter とnationalの間位は考えておいて欲しいものである。
 また、朗読という形式を採っているので、シナリオを持っているのであるが、女優は噛むシーンが多かった。観客をなめているか、演劇そのものをなめてかかっているかどちらかであろう。それとも、その両方か? だったら演劇は止めてしまった方がよかろう。静かな劇だということで遅れて来た観客は2幕迄待たねばならない、ということだったので、もっと緻密な舞台を期待したのだが、この2点では裏切られた。
*バナナとは、肌が黄色い癖に精神は白人だと思っている日本人に対して、アメリカ人が用いる蔑称である。
『哀れ、兵士』

『哀れ、兵士』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

あうるすぽっと(東京都)

2016/10/27 (木) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
 韓国の劇団コロモッキルが今年3月に韓国で初演した作品の上演である。

ネタバレBOX

作家のパク・ウォニョン氏は、現在韓国政府から最も睨まれているアーティストの一人だが、その原因は彼の創造する作品群が、朝鮮半島の歴史を多角的且つ当事者的な視点で見つめ表現しているからだと思われる。国家というものは、その正当性を神話の上に打ち建ててきた訳だが、少なくとも近代以降このような幻想はあっけなく崩されてしまった。何の前に? と問うのか? 愚問である。無論、合理性と力の前にだ。そして近代国家は新たな神話を生み出したのである。それは、合理性と軍事力を持てば、世界の覇者となれるという神話であった。なんだかんだ言っても現代の地球上で覇を唱え得るのは米国と中国であろう。何れも宗教色の強い国家である。アメリカはキリスト教原理主義の国民が人口の40%を占め、中国の一応マルキシズムを継承したとされている共産党の一党独裁がずっと続いているのは、無論本来の社会主義などではない。現代中国のそれは科学的社会主義などとは全く異なる。一党独裁の頂点に神格化した独裁者を頂いた宗教的組織にすぎまい。だから意見の異なる者を異端者として始末・処罰しているのだ。
 ところで、このような覇権国家の植民地として暮らすのが、日韓の民衆である。日本人の中には、地位協定の現実もアメリカの日本侵略も全然見ようとせず、唯々諾々と従う自民党、公明党等、「保守」と呼ばれるA級奴隷の更に下位のB級奴隷として搾取されることに満足している腐れ切った下司共がうようよいるようだが、このような奴隷には元々プライドなどというものが無いらしいので、何も見ず、何も聞かず、何も言わなくても大丈夫なのだろう。どうやら正常の振りをするのは得意なようだ。まあ、底が浅いからすぐ抜けて、何れ露頭に迷い乍ら、負け犬の遠吠えたる愚痴を垂れ流すことしかできまい。
 何れにせよ、今作は1945年迄日本の植民地であった朝鮮半島と其処に住んだ朝鮮の人々が、受けた辱めを何とか返そうと奮闘努力する姿が描かれる。その当事者性が役者達の卓抜な演技で迫ってくる。無論、演出は力のある役者達の力を引き出すように働いていて観易い舞台になっている。時代はこればかりではない。つい最近2010年に起こった北朝鮮軍による魚雷によって沈没させられたことが疑われた韓国哨戒艦の犠牲者達について。
 更には米軍のファルージャ攻撃などイラク「戦争」とそれに派兵した韓国軍によって、韓国民間人が処刑された件などは、現在、囚われている安田 純平氏や、殺害された後藤さん
湯川氏などのことと、それに対応した日本政府のアリバイ作り見え見えのアホな対応。そして彼らの命を救えなかった我々自身の不如意を如実に思い出させるものであった。
 更には2015年除隊間近に脱走した韓国軍兵士についての、極めて興味深い動機とそれが齎す結末については大いに考えさせられた。
 いくつもの時代を交互に描き、その各々のストーリーで犠牲になる最も弱い者達が現実に生きてゆく中でのアンビヴァレンツを表現することで、現代の治世への強力な異議申し立てとなっている点で、また兵役義務を課せられている韓国の人々の休戦当事者としての緊張感なども実によく表現されていた。自衛隊では、こうはゆくまい。未だ実戦経験がないのだから。但し、日本の軍隊(現在は一応、自衛隊という名であるが)が、一度走り始めたら、また、勝負の終りまで盲進し続けるだろう。アホな国民の持つアホな軍隊にならなければ良いのだが。現在、「最高責任者」を務める安倍がアホを絵に描いて壁に貼り付けたような鉄壁のアホなだけに猶更心配なのである。
オトギ

オトギ

劇団超ダッシ

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2016/10/28 (金) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★

発想が甘い
 お伽噺というものは、洋の東西を問わず、原作に当たってみると驚くほど残虐な話であることが多い。

ネタバレBOX

このことは、恐らく以下のことに起因する。支配体制が現在より遥かに苛酷で、タブーも多かった。その苛酷な現実をうっちゃる為にこそ、残虐なもの・ことを登場する悪の化身たる存在に負わせ、それを退治することでカタストロフを得ていたということなのであろう。近代以降、国家も基本的には生まれ変わったハズである。少なくとも理念の上ではそうだ。そして近代国家は、その基本に民衆の自由を保障するから、法理体系に於いても国家権力を縛るべき法が含まれている。だが、実際にそのような権利が主張されそれが素直に通る社会や国家ばかりではないことは、己の国をちょっと振り返ってみれば一目瞭然である。長期政権となった2次以降の安倍政権のしていることといえば、日本会議メンバーを大量動員した愚民化政策とアーミテージレポートによって命じられたことがらの実行ばかりではないか!? 民意は届かず、政府は嘘ばかり垂れ流してF1人災を風化させようと躍起だし、自由への様々な弾圧も頗るつきで酷い。民主国家とは名ばかりのアメリカの植民地が日本の実相である。こんな世相を目の当たりにしながら、反逆的表現としてのオトギを作るのでなければ、余り意味が無いように思われる。もっとラディカルな作品が作れるハズである。奮闘して欲しい。
 シナリオにエッジが効いていない点は上記で指摘した通りだが、演出、演技にも感心させられるものはなかった。
ホテル・ミラクル4

ホテル・ミラクル4

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2016/10/28 (金) ~ 2016/11/07 (月)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
危ないシチュエーションや、際どいすれ違いを巧みに描いていて楽しめる。

ネタバレBOX

 「ホンバンの前に」「メキシコ」「楽しい家族計画」「後戻り出来ない女」「クリーブランド」という作品構成だ。「ホンバンの前に」は、Wミーニングで、にゃにと劇の本番とを掛けてあり、実質前説なのだが、完全に芝居仕立てになっていて粋な悪戯に思わず笑ってしまう。見事なセンスである。
 舞台装置は変わらない。舞台を逆くの字で観客席が囲う形になっていてWベッド、二段のサイドテーブル。一段目にはティッシュ。二段目には真っ赤な電話機とコンドームの入ったクリアケース、ミニスタンド。その横には冷蔵庫。部屋の奥には、赤いソファ。出入り口の横にシャワールーム。そしてベッドの反対側の壁際にラウンドテーブルと椅子。テーブル上には灰皿が置いてある。ラブホの基本セットが揃っていて、無論、カラオケも使える。
 「メキシコ」は、彼に飽きられて振られた女が、逆上して彼を刺し殺し、街中で逆ナンした男をホテルに連れ込むが、彼は人が良過ぎて、彼女と寝ることを拒否、挙句財布から金を抜くことを示唆して彼女の逃亡を助ける話。メキシコは良くアメリカ映画に出てきて、国境を越えてしまえば、捜査権が及ばないので自由の身、というアレである。
「家族計画」息子の宿題にパパのお仕事、というテーゼを出されたラブホオーナーが、他の人々の楽しく過ごせるような仕事をしているという印象を持たせるべく、ラブホ改修の見積もりを一級建築士に依頼。建築士は内寸を取る為、ホテルにやってきたが。様々な提案の中に夫婦のセックス頻度やセックスレスの問題などが入り込んで際どい会話の連発で楽しませてくれる。無論、時代の移り変わりの中で、今までにも改装はしてきたのだが、そんなホテル史の一面も出てきて楽しめる。
「後戻り出来ない女」は、上司の仕事に対する厳しいプレッシャーから逃れる為に出会い系で憂さを晴らしていた若手社員が、出会い系で連絡を取り合い、ラブホで合流することになったのだが、やって来たのは、当の上司。20歳ほども年の違う部下と、ヤバイ状況であればこそ、関係して秘密を保持したい上司と、何としても逃げ出したい部下との葛藤が描かれる。追い詰められた部下は直属の上司に連絡、話は増々こんがらがってゆく。
「クリーブランド」は、明日にも結婚という情況の女が心を寄せている男を誘って飲みに行き泥酔してホテルに泊まる話だが、女の入れ込み具合が真剣で哀れを誘う。彼も良い奴で、好かれるのも当然というキャラではあるのだが、彼には彼女を抱いてやれない事情があった。人生の皮肉を表して素敵な作品。
フーとスリンと祷りの倣わし

フーとスリンと祷りの倣わし

菱路コネクト

劇場HOPE(東京都)

2016/10/26 (水) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

Aチームを拝見
 基本的には征服者と被征服者の話である。

ネタバレBOX

但し、今作で特記しておくべき点は、征服者サイドが1枚岩ではないこと。被征服者の闘争形態が非暴力、話し合い路線を採っている点。更にTVクルーというメディアが関わっている点である。
 一般的に国家というものの本質は空虚である。その本質を隠す為に為政者は様々な手管を用いる。例えば秩序とその手続きである法、例えばこれらを維持し続けるための強権としての軍などである。無論、これらの実質的手続き以外に領土だの国民だの通じる言語だの、通底する風俗習慣等によって、そしてこれらの幻想を繋ぎとめる幻想としての歴史などによって補完されているのである。
 ところで、これらは、本来人間が持って生まれた自由を束縛するものとして機能する。而も、自由を知り且つ実践する者こそ、国家にとって最大・最強の敵なのである。ここに暮らす原住者達は、この自由を知り且つ実践してきた民であるから、かつては存在した村長すら必要とすることのないほどの民主制を実現してしまっている。言い換えれば、イスラムのロヤジルガのような民主制と言い換えても良かろう。日本でもかつて、このような自治を持つ村が存在したし、基本的には村民の衆議一決を問題解決の条件としていたのである。
 だが、現在のイスラム圏が欧米の確たる敵と看做されてその自治を破壊され、抵抗する者達はテロリストのレッテルを貼られて惨殺されている実態は、今作のような解決は極めて難しいということをも示しているであろう。また、欧米の介入が彼ら自身の勝手な論理に従って為され、最初からイスラムに対するバイアスを梃に論理が組み立てられている為、誤った方向に歴史を動かしてきたことは、アフガニスタン、イラク、パキスタン、アルジェリア、リビヤ、シリア、トルコなどの実情を見れば明らかである。そしてこれら諸問題の原因もまた、欧米が作ってきたという史実を見れば、決して一部イスラムの過激化ばかりを責める訳にも行かないのである。
 演劇的には、様々な所で踊られる踊りに必然性が感じられなかったり、踊りとテーマとの密接な関係の出し方に難が在ったりと突っ込むべき点はあるものの、権力と対峙する方法としては寧ろ最強の方法を描いている点、国歌と自由市民との対立を描いている点、即ち力と自由の根本的問題に竿差している点を評価したい。
鉄人

鉄人

ThE 2VS2

OFF OFFシアター(東京都)

2016/10/27 (木) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

また東京へも来てね!! 花四つ星
 「同窓会白書」「サッカー」「愛の宇宙」「恋のピンチヒッター」「ファンファーレと熱狂」「大事件」というショートストーリーのオムニバスである

ネタバレBOX

。個々の作品それぞれの関連は余り無く、一話一話の独立性がかなり高い点に特色がありそうだ。その分バラエティーに富んでいるという事もできるが、各ストーリーに対する観客の好みは分かれそうだ。「同窓会白書」 では引き籠りだった男が同窓会の案内状に釣られてやって来たのだが、同級生の誰一人からも覚えていて貰えなくて、何で来たの? との禁句を発されからかわれる話なのだが、何故、彼の引き籠りが治ったのかを入れるともっと良くなる。
 「サッカー」は実に面白い作品だった。オフサイドトラップなどの様々なテクニックが非常に巧みに織り込まれバランスの良い心憎い作品に仕上がっている。因みにサッカーという呼称は世界標準ではない。世界標準はフットボールで、サッカーという言い方はアメリカと日本だけではないか? この辺りの事情も取り込むと笑いを一つ、二つ増やせるかも知れない。然しサッカー(フットボール)ほど面白くエキサイティングな球技が他にあろうか? 自分はかつて世界最高レベルの選手たちと1か月を共にした関係で、サッカーの面白さを知った。Jリーグのようなプロフットボールチームを日本にも作ろうと言い出した人間の一人である。
「愛の宇宙」は女性的な視点が多く観られ、恋する相手との距離が遠のいてゆく寂しさを表した作品と理解したが、センチメンタル嫌いの自分の感性とはかなり違っていたので評価できない。悪しからず。
「恋のピンチヒッター」は、かつて同じチームの大の仲良しとしてチームメイトだった2人の選手が、今は、日本一を争う敵味方の四番打者とキャッチャーという位置づけだ。2人の名選手の恋にも似た感情のぶつけ合いと試合の趨勢を決める対決場面の緊張感とそれを崩すような四番打者の振る舞いが、脱落や脱臼そして互いの心理戦との乖離と脱線を経つつ最終局面に至り、さよならホームランで幕を閉じる展開も素晴らしい。
「ファンファーレと熱狂」は、競馬の話でこれも実に面白く拝見した。馬たちの恋の季節は、初め人間の恋話として始まるのだが、これが馬の話に転化してしまうシュールな点や、恋の季節に牝馬を追いかける牡馬の有様が実に巧妙に描かれていて笑いを誘う。牝馬の後追いをする行為をフケと言うのだが、この有様に、タイプの正反対なジョッキーが騎乗してのG1重賞レースの実況も含めて競馬ファンには堪らない作品に仕上がっている。
「大事件」は、抱腹絶倒。胃腸の極めて弱い男が気の強い彼女の両親に呼ばれて、結婚受諾を願い新婦(候補)の実家を訪れるのだが、内容は余りに尾籠な話なので、流石に差し控えるが、開高 健の名言にこんなのがあった。水上生活者が、食べた物を体内から排出すると、魚共が寄ってたかってその“極上のフォアグラ”に喰らいつく、という内容であった。この一行を思い出してしまったほどだ。
 普段関西で活躍している劇団だが、またぜひ東京へも出張して公演して欲しい劇団である。パンフレットも手が込んでいて中にはペーパークラフト迄入っており帰宅後迄楽しめる内容だ。色々な仕掛けがしてあって遊べるのが楽しい。
狼少年ニ星屑ヲ  終演しました!沢山のご来場ありがとうございます!

狼少年ニ星屑ヲ 終演しました!沢山のご来場ありがとうございます!

おぼんろ

ワーサルシアター(東京都)

2016/10/25 (火) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

祭りに参加できる者は参加すべし 花四つ星
 今作の内容については、終演後アップする。純な思いで観れる人には
ブーケを差し上げたいような。赤心に帰ってみるべき作品。

ネタバレBOX


 自分の年になると流石に祭りに参加して積極的に騒ぐ主体にはなれない。醒めてしまうのだ。かつて祭りの王と自他共に認めた、隠れラテンの自分にしてそうである。祭りに参加できる間は参加しておいた方が楽しい。こんなことを述べるのも今作のような路上で行われていたバージョンは祝祭の雰囲気が濃厚な作品だからである。実際、序盤から中盤に至るまで筋書は極めて単純である。無論、伏線は潜ませてあるし、その潜ませ方にも無理はない。これはシナリオ作家の体質と才能を示しているのは事実である。但し、この段階では、乳離れしていない少年の無垢やその無垢の夢見る幻想は表せても、それ以上年齢層が高くなると共感を得るのはかなり難しくなるのも事実である。現在、おぼんろのファン層は若手の女性陣がマジョリティーだろう。無論、祭りに参加できる傾向を持った若い男の子もいる。だが、ホントにコクーンを目指すのであればもっと幅広い層に受け入れられるファンタジーを紡ぐ必要がありそうだ。
 現代日本では、普通の人が普通に生きること自体容易ではない。互いにしたくも無い競争と競合を強いられ、上層部からの評価が低ければ、例えその人が人並以上の能力を持つが故にし得た提案であっても否決され、上司に胡麻をするだけが取り柄の下司共が、勝ち組として生き残る。結果、日本はガタガタである。無能を絵に描いたような連中が権力の中枢を占めるようになったことが原因である。従って窓際族、左遷組の中には気骨も能力も高い士が埋もれていることも多い。当然、彼らの心中には様々な思いが去来する。そういった人々の興味も惹ける大人のファンタジーも紡ぐ必要があろう。時にそれがダークファンタジーという体裁を取っても構うまい。作家、演者(語り部諸氏)、観客何れもが少しずつ成長してゆきたいものである。
刺毛-シモウ-

刺毛-シモウ-

はぶ談戯

テアトルBONBON(東京都)

2016/10/19 (水) ~ 2016/10/24 (月)公演終了

満足度★★★

特異な世界観ではあるが
世界を普通でない色に染めることは?

ネタバレBOX


 共犯と、愛の間の勘違いに竿さして他人を壊してゆく男のダークファンタジー、だと考えたということか? 即ち、生きるとは、自分の色に世界を染め上げることだと。それが、例え不幸で、反社会的であるにしても。
 両親の行為を押入れの中から覗き見るしかなかった兄妹の傷は、妹が思春期を迎えるに至って頂点に達する。だが、兄はそれを認める為には、余りに理が勝る年になっていた。一方、傷は兄、妹それぞれが担うことによって軽減するしかないと二人は考え実践する方向へも動いた。ある朝、燃え上がる朝焼けの只中に母がぶら下がっていた。
彼らの抱えたカルマは両親のカルマ、兄妹間の禁じられたセックスによるカルマであった。いつしか彼らの業は、他者を食い物にし、他者を破壊することで転化し得ると幻想されるようになった。両親のカルマが如何なるものであったかについての具体的描写はなかった。両親も兄、妹だったのかも知れぬ。何れにせよ、自らが自らを呪う為には充分なカルマであろう。総てが朧な中で展開してゆく物語なので、様々な解釈が成立する。作者の狙いもその辺りにあるだろう。霊界にあるのであろう妹の出現も、ホントに霊なのか否かはハッキリしないし、登場する人物各々が抱える闇もハッキリしているようで殆ど謎であるように作られているので、醸し出されるダークな雰囲気を自分に引き寄せながら面白いと思うか否かで評価が分かれそうだ。で、ホントのことはどこにどのようにあるんだろうね?
思い出のブライトンビーチ

思い出のブライトンビーチ

劇団グスタフ

シアターグスタフ(東京都)

2016/10/21 (金) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

アンチセム
の中で生きるということ。

ネタバレBOX

 舞台は1937年、アメリカNYのブルックリン地区。下層中流の人々が暮らすブライトンビーチ。この街に住むユダヤ系一家の物語を中心に描かれた作品だ。作家は優れたシナリオ作品を多く書いたユダヤ系作家ニール・サイモン。NYブロンクスで1927年7月4日に生まれている。今作は、1983年の作である。
 この時代、TVAで何とか大恐慌を凌いだとはいえ、アメリカの民衆は、決して楽な暮らしをしていたという訳でもない。ましてWASPでないこの一家は働けど、働けどといった状態であり、夫を亡くした体の弱い妻の妹が、娘二人と厄介になっている他、この家の息子も二人が同居、都合七人の所帯である。思春期の従妹同士には、微妙な感情も芽生えている。家庭としては何処にでもありそうな家庭である。無論、ユダヤ系であるということはあるのであるが。シナリオ自体、個々のキャラクターを極めて個性的かつ自然に描いている点、その個々人に社会と時代の荒波が嫌も応もなく押し寄せ、砕こうと襲い掛かってくる様を、それぞれの抱える事件・事情と個々人の悩みとして見事な対比させて描きつつ、各々が決断してゆく過程を具に描いて見せている所にこのシナリオの極めて優れた普遍性を見ることができる。同時にこのように選り抜かれたシナリオを演目として選び、舞台化したシアターグスタフの見識の高さ、これだけのシナリオを自然に見えるように演出し、演じた演劇の総合的な力もまた確かなものである。ベテランは無論のこと、若手もいい演技をしている。
 作品の完成度は以上述べた如く素晴らしいものである。が、作家50代半ばに書かれた今作でさえ、シオニストがパレスチナ人に行っていた、ナチがユダヤ人にやっていたと同じような行為が(これは現在も続いているのだが、)作家と今作に影を落としていないことは残念である。
輪廻転生∞楽園ダイバー

輪廻転生∞楽園ダイバー

映像・舞台企画集団ハルベリー

ワーサルシアター(東京都)

2016/10/19 (水) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

花四つ星 干支めぐり
 男がビルから飛び降りた。

ネタバレBOX

否飛び降りさせられた。気が付くと男は天干地に居た。
新宿カンタータ(聖歌)

新宿カンタータ(聖歌)

ピープルシアター

シアターX(東京都)

2016/10/19 (水) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★

傷 花四つ星
 新宿歌舞伎町からゴールデン街、2,3丁目までは言わずと知れた歓楽街

ネタバレBOX

。シノギが良いから世界中のマフィアの狙う街でもある。殊に中国が国力をつけるに従い中国系マフィアの中でもこのエリアに目を向けたのは上海系と福建省系である。上海は戦前から魔都と恐れられた世界の悪の巣窟の一つ。そして福建省はやり手として知られる中国華僑の中でも最も結束力と実力に長けた客家(正しい表記は客の辺として口が付く)を生み出した省であり、中国国内でも最も土地が痩せ昔から他に移住しなければ生活が成り立たないような風土のエリアである。
無論、この界隈には台湾14Kの縄張りもある。国内の組織も多くの組織が各エリアを自らのシマとして仕切っている為、ヤクザ者が大手を振って歩けるエリアは案外少ないのも事実である。だが、トンデモナクオイシイ話が転がり込んだ。時代はバブル真っ最中、チャイニーズマフィアが大挙乗り込んできた時期とも重なる。無論、チャイニーズマフィアの装備とその手荒さ、大陸黒社会の実態を知らなかった日本のヤクザも対抗し、あっさり殺された。当然である。日本の基本的に戦わないヤクザが、マシンガンを日本に持ち込み、狙いを付けたこの辺りの拠点に、こういう武器を大量に隠していつでも敵対する事務所ごと簡単に潰せるばかりでなく、チャカを躊躇なくぶっ放し、四の五の言わずに殺害現場から姿を消す、実践慣れしたチャイニーズマフィアに勝てる訳が無い。
 何人かの組員がいとも簡単に殺害されるに及んで、日本のヤクザは、直ぐ金を彼らに渡すようになっていた。先ほど、上げたようにこのエリアに目をつけたチャイニーズマフィアで日本で今も活動している有名どころは、大陸系2つと台湾系1つであるが、14Kはとっくの昔に棲み分けができているので問題ではない。今作の時期設定が厳密でないので、上海系、福建省系何れとも現実との対応では判断しかねるが、日本のヤクザを手玉に取った彼らは、大陸系同士でぶつかりそうになったこともある。それを収めたのが、在日の中国人でどちらにも顔の利く人物であった。その人物は、新宿の直ぐ傍に同じように大きな街があり、そこでのシノギも良い。それぞれが、新宿、池袋のどちらか1つを取れば良い、と。そんな経緯があって、このいざこざは片が付き、上海系が新宿、福建省系が池袋ということになったと言う。
 何れにせよ、物語の展開するエリアは、トウシロウが入り込むにはリスクの高いエリアだったのである。この物語は緑苑街、ゴールデン街、三丁目界隈の何処とも知れぬ場末の路地を中心に展開する。職安通りや新大久保の話も出てくるが、無論、店(聖亭)の常連の徘徊エリアでもある。座長の森井 むつみ氏の拘るエリアでもある。実際、地上げが散々行われた当時、大企業は都内でやくざとつるんで土地を取得していった。自分の知っている限りでも、森ビル、住友不動産などがあり、ゴールデン街にも彼らの魔手は延びて、立ち退かない者にはやくざ者による嫌がらせや恫喝が相次いだ。自分が昵懇にしていた店も何度となく嫌がらせ、恫喝を受けて頑張りぬいた。今でこそ、女子大生やヨーロッパ系の連中が結構平気に飲めるようになったが、自分達が毎晩入り浸りになっていた頃は、表現する者の集まる店の常連であった我々のような人種以外は怪しい連中しかいなかったし、トウシロウは怖がってこのエリアには入ってこなかった。入った以上、とんでもなくぼったくられるか、命を含め、危険な目に遇わない保障が無かったからである。“いつ、どこで、どんなくたばり方をしようが関係ねいや”と居直ることのできる人間だけが入れた街だった。
 背景は記した。後は舞台を観て欲しい。
咲けぬ椿は落ちずに腐る

咲けぬ椿は落ちずに腐る

牡丹茶房

ザムザ阿佐谷(東京都)

2016/10/19 (水) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★

パトスに宿る知性 花四つ星
 組織解体の在り様と女の業、男の業を絡めて描いた興味深い作品。

ネタバレBOX

複合意識の複雑さを極めて分かり易く描いた。結果、それは、複合意識を持つが故に疎外される日本の個性と、その構造を見抜いた上で利用せんが為に入念に練り上げられた罠に絡め取られ、自分と自由を失ったハズのメンバーにバグが出たことから、狭いキャパシティーしか持ち得ない組織とその論理を構築していたリーダーというものが破壊されてゆく様を描いた。恐らく、際どい綱渡りを通じて。その緊迫感が堪らないという人々が居そうである。自分は、総てを喜劇として楽しませて頂いた。人間の世の中、この程度の遊戯に勝ち抜けなければ生きてゆけないのは、必然だろう。最後の最後に梯子を外した判断が面白い。

遠い国から来た、良き日

遠い国から来た、良き日

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2016/10/14 (金) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★

紛争地 花四つ星
の住民の生活を覗き見、難民キャンプも可也見て回っている自分にとっては、戦闘シーンや残虐な描写が随分抑えられ、リアリティーには欠けたが、それでも日本の一般の人々にとってはかなりショックを受けた人々も居るハズ。

ネタバレBOX

一般日本人向けの良く出来た教科書という感じであった。無論、主人公、ベフルーズが、飛翔するミサイルに似た大きな音、空爆の破壊音に怯えたり、被ばく者の写真を見て気持ちが悪くなってしまうなどのトラウマを紛争地の多くの子供が抱え、悪夢、夜尿症、不眠、神経症、時に失語、精神分裂などの症状を呈するのは事実であり、ケアを受ける過程で将来なりたいものを訊かれると医者、ジャーナリスト、教師などの答えが多いのも事実である。如何に彼らが、自分達の置かれた状況に真剣に向き合っているかは、彼らに遇ってみれば直ぐに分かることだ。(こういった事例については、自分も難民の子供達に直接向き合って数百人の子供たちの反応を直接見聞きしている。)中学生くらいの子が、アラビア語以外に英語やフランス語を話したり、パレスチナに於いては必要からヘブライ語をこなす者も居る。知的にも精神的にも日本の同世代の子供より遥かに大人である。日本は、日本会議の下司共がいくら美しい日本などと美辞麗句を並べた所で、QSの2016大学世界ランキングでも去年から5つ上昇した東大の34位1つ上昇した京大の37位、と日本を代表する大学でこの程度の評価。アジアではシンガポールのシンガポール国立大12位、13位で同じシンガポールの南洋理工大にも遠く及ばない。日本の頭の悪い為政者共もソクラテスの弁証法に敗れ、詭弁の代名詞となったソフィストの真似など好い加減に止めるが良い。受験時のペーパーテストの結果が良いだけでは、ヒトのその後の成長は計れない。人は他者に揉まれて成長するのである。その事実をこの物語は良く示している。ベフルーズという名はペルシア語で”良き日”を意味するという。彼は様々な武田レオからの嫌がらせにも基本的に暴力で対応しない。虐殺された母の形見のスカーフを何度も踏みにじられた時でさえ、堪えに堪えた後、体当たりして取り返しただけである。その伏線は、作中至る所に鏤められていた。ファーストシーンにアザーンが流れ、武装集団に属することになった兄と共に組織メンバーの前に連れ出された彼と兄の様子で、無論、それは察せられる。その後もアラブの代表的な弦楽器ウードの、人の心情を切々と訴えるような音色に、爆弾を仕込んだベストを脱ぎ、逃げれば兄が死ぬことになると恫喝されたにも関わらず、人ごみの方には投げず逃げろ! と声を挙げながら他人の居ない方向へ投げたこと。その時破片で自ら傷を負ったことなど。他人に殺される怖さも、他人を殺す恐怖も味わった彼の、だからこそ、明日は昨日と同じであってはいけないという強い思いが、医者になって故郷に戻り、傷ついた人々を一人でも多く助けたいという彼の希望を支えている点にも注目したいのだ。
 唯、ちょっと気になった単語がある。自爆テロという単語だ。通常海外メディアはsuicide attackとか suicide bombingという表現が多く用いられているように思う。ISが、劣勢になってからは殊にこの方法を活用するようになったのは事実である。然し、ISを産んだのはアメリカの戦争犯罪とイラク破壊による世界武器市場への宣伝(アメリカの軍産複合体による)と戦中、戦闘終了宣言後イラク国内の混乱を利用しての、治安維持名目や国家軍事予算の名目移転という誤魔化しにより、民間移転した軍兵(特殊部隊兵士を多く含む。ブラックウォーターなど)による民衆虐殺、レイプ、イラク国宝の略奪(これはイラク戦争中にも米兵によって行われていたし多くは未だに返還されていない)、使われたDU弾による極めて凄まじい核汚染(α線による被害が多い為、内部被ばくになることが多い。(それが、ICRPをはじめ、IAEAに逆らえないWHOなどが、内部被ばくを一切問題にしない原因であろう。無論、このDU被害に関してはDU弾が使われた総ての地域の医師、看護師などの医療研究・従事者、そして良心的な科学者が問題を提起し続けている。その地域とは、ヨーロッパではコソボ、中東では湾岸戦争時に汚染されたイラク南部(バスラを含む)、アフガニスタンなどであり、使用した米軍兵士もDU汚染で後遺症を患い、子供に障害児を抱
える退役軍人が居る。)イラク戦争では更に大量のDU弾が首都バクダッドでも用いられたが、その後の混乱で医学的データを収集整理するまでには至っていないようである。)
 イラク関係では、まだまだ言わなければならないことがあるのだが、アメリカのイラク占領で最も大きな失敗は、それまでイラクを支配してきたスンニ派を総て公職追放したことだろう。確かにフセインは、シーア派を弾圧したり、クルドを弾圧したりはした。秘密警察が、国民を監視していたのも事実である。然し、民衆レベルではシーア派もスンニ派もお隣同士で仲良くしていたし、殺す、殺されるなどということは考えさえ及ばなかったのも事実である。それが、アメリカの占領政策の失敗により、傀儡マリキ政権の下、クルドのペシュメルガ、シーア派民兵が、スンニ派住民を拉致しては凄まじい拷問に掛けて惨殺してきた。そこでスンニ派も自衛の為に軍事組織化していったという経緯は無視できない。それらが離合集散してとどの詰まりISに結集していったのだ。無論、ISの中には旧アルカイーダの人々も紛れ込むことになった。
 ところで、日本でベルフーズを受け入れる地域となったのが広島であることは意義深い。いじられキャラのヤスミの兄がISに参加しようと企てるのは、TVでアラブ関連のドキュメンタリーを多数見、就職試験に落ちまくっていることから簡単に見通せるが、その兄のエクスキューズについては、実際、日本社会の事大主義と事大主義をベースにした一面的なレッテル貼りのマイナス面を良く表していて興味深い。同時に、日本人の甘さ、甘え、弱者に対する想像力の欠如も良く表していて面白い。その点では、ベルフーズのクラスメイトであるレオのスタンドプレーと狭い了見に根差したプライドの嗤うべき浅さも通底していよう。
「月見ドロボー物語」

「月見ドロボー物語」

劇団暴創族

上野ストアハウス(東京都)

2016/10/12 (水) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★

Aチームを拝見
 舞台美術はしっかり作り込んであってグー。

ネタバレBOX

然し噛むシーンがちょっと多かったのは残念であり、シナリオに徹底性がないのが、作品の弱点になっている。余り芝居を観なれない人々にとっては、結構楽しい作品なのだろう。だが、シナリオに徹底性が無いということはドラマツルギーの強度が低いことと同義であり、実際、何をテーマとしたいのかがよく分からない。殆ど総てが中途半端なまま終わってしまう。それが狙いで過程こそ大切だということを主張したいのであれば、そのことを痛烈に批判する結果主義と対置させるなり作中どこかで鋭い批評性を持つ科白を入れなければならない。他にも方法は無論ある。結果主義の総てが空しいことを徹底的に観客に分からせれば良いのだから。何れにせよ、こういった演劇的深みは弱いと感じた。今作中のプロットで唯一完結したと取れるのは、結婚詐偽師と彼女の息子の霊が去って行く件だけである。子役にいい役を振るのは良いが、子供の可愛らしさに大人が頼ってしまうのはズルかろう。そんなことすら感じさせる舞台であった。
ひずむ月【本日千秋楽!当日券若干あり】

ひずむ月【本日千秋楽!当日券若干あり】

劇26.25団

OFF OFFシアター(東京都)

2016/10/12 (水) ~ 2016/10/17 (月)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
地震でデータが消失した。

ネタバレBOX

大森式地震計で有名な東京帝国大学教授、大森の下にはすぐれた研究者が居た。名を今村 明恒という。日本の家屋特性や地震時の状況を的確に判断し、関東大震災の起こる前から大地震の可能性と予想される被害状況を説いたが、新聞の不正確で扇情的な記事から社会的誤解を受け、ほら吹きと評されるようになる。無論、彼の子供も学校でこのことを根拠に苛めを受けたりからかわれたりするのだが、日本の大衆の事大主義と軽率が、彼を追い詰めて行った。然し、物事をまっすぐに見つめることのできる彼には、自分の地震学が、主任教授の大森のものより正しく思えた。その為、以前よりメディアに注意するようになってはいたものの理論的に正しいと信じることに対しては発表していた。この姿勢が、彼への風当たりを増々強いものにしていった。無論、彼もこの件では悩む。偶々、義太夫の呂昇という人物に出会い、人生のいろはについても深い思索を身に着けるようになった今村だったが、彼の呂昇に対する批評が鋭く呂昇自身が感心するほどであったこと、また義太夫の上達が早かったことを見ても、彼がバイアスなしに物事を正確に見る目を持っていたことの証拠となるであろう。それに引き替え、学問的正しさより政治や評判を気にするタイプとして描かれている大森が、学会の大会でオーストラリアへ出掛けている間に明恒の予想通りの大震災が関東を襲い、死者105000人という大惨事となった。大衆は、明恒を地震の神様と呼びならわすように豹変したが、見苦しい限りである。昨日までほら吹きとさんざ馬鹿にしていた舌の根も乾かぬうちに態度を一変させる。この見苦しさと見識の無さは、自分が日本人を嫌う最も大きな理由である。
 それでも、大森は帰国直後、衰えた体をおして、地震研究所を訊ね、自らの瑕疵を認めると共に侘びを入れ、後任を明恒に託す。大森も流石に一流の学者であったのだ。腐り切っていない。間違いを間違いと認め、けじめをつけることは誰にでもできることではない。裕仁の戦争責任は明らかであるのに、彼はけじめをつけなかった。その故にこそ、戦後日本は此処まで腐り切ってしまったのだ。明仁天皇は皇太子時代から、父の尻拭いをしてきた。その上での生前退位の要望だろう。良く贖罪をなさった。ご希望を叶えて差し上げれば良い、と自分は思う。
 今作にも出てくる、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件は日本人の恥として、先ずは侘び、亡くなられた方々の冥福を祈るべきであろう。
 そして、このような惨劇を二度と繰り返すことの無いよう、日本人は、事大主義を改め、キチンと自分の目で見、自分の頭で考え、他人の話をまんべんなく聞いて自らの選択をしてゆきたいものである。
 万遍なく聞くということは日本会議メンバーのような下司の吐く嘘迄聞けということでは断じてないことは無論である。
 役者達の演技に関しては、背凭れの高い椅子に座りながら、列車の揺れまで表現していたことに感心。舞台美術、場転も話の展開の腰を折らないスムースなものであった。この辺りの演出もグー。
100人のタナカ!

100人のタナカ!

PocketSheepS

TACCS1179(東京都)

2016/10/13 (木) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★★

自己増殖
 第3研究所では、残業、休日出勤は当たり前のハードスケジュールで、新たな研究を完成させようと励んでいた。

ネタバレBOX

研究対象は「queen」と名付けられたコンピュータ。人の脳に直接アクセスすることのできるコンピュータである。チームの中心は、若干変わってはいるものの天才の誉れ高い田中 士郎。彼に対する室長の期待値は高く、彼が思う女に心を奪われてチェックが疎かになって起きた重大事故についても殊更彼を庇い責任追及はしなかった。だが、彼は内心自分の罪だと深く悩むことになる。その為、元々非外交的であった彼は自らの魂の中に避難してしまう。脳に異常は認められない。その為、彼の昏睡から彼を覚醒させるためあるミッションが企てられた。彼の脳内にミッションで派遣される者の意識を送り込み彼を覚醒させようというのである。無論、実態を送り込んでオペをするという訳ではないから、サイコダイバーが負うようなリスクをミッション担当者は負うことになる。人選はあっさり決まった。志願者が居たからである。志願者の名は杏梨。彼を慕う乙女であるが研究職ではない。だが彼女の熱意は専門職ではない困難を乗り越えた。そこで派遣された彼女の意識の見たものは? といった展開で話としては中々面白く、恋に夢中になる女性本能を骨太に描いてもいるのだが、演じ手が劇場サイズを勘案していない。のべつ幕なしに大声のキンキン声で発声するものだから音に敏感な人間は辟易してしまう。後半話が佳境に入り他との相乗効果で余り気にならなくなるものの、この辺り演出家はもっと気を使うべきだろう。
Requiem

Requiem

宴友企画

d-倉庫(東京都)

2016/10/12 (水) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★

初日観劇 約2時間
 満を持しての公演という意気込みは買うが

ネタバレBOX

、殺陣は、腰が入っておらず散漫だし、蜻蛉を切ったり側転・側バクなど、アクロバティックな要素も入らないので動きが通り一遍のものになってしまっている。主題歌は可也いい線をいっていると思うが、シナリオも溜めのない通り一遍のもので、ストーリーを線で描いたような単調さが目立った。終盤の種明かし部分に至って漸く、この活劇に相応しい大胆で興味深い内容がでてくるのだが、子供が居ないという伏線以外に伏線らしい伏線もないようだし、様々な矛盾、不自然さをマイアのメンテナンス技術者から少しずつ示すなり何なりして大団円に至るなり、小ネタを上手く利用するなりして物語の有機的必然性を醸し出して欲しかった。主張が極めて単純な分、観客に直ぐ見抜かれてしまうから。この主張をそのまま通すのであれば、見抜かれても観客が納得できるような、物語としての必然性を書き込んで欲しいのだ。それができなければ、シナリオは外部に任せた方が良かろう。自分で書くというなら、良いシナリオというものがどういうものか更に勉強して欲しい。 
パラサイトパラダイス

パラサイトパラダイス

ワンツーワークス

ザ・ポケット(東京都)

2016/06/23 (木) ~ 2016/07/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

ワンツーワークス前回公演
 初演は十数年前。

ネタバレBOX


だが、今作ちっとも古くなっていない。それどころか、普遍性を感じさせるのだ。それは登場人物個々の遭遇すべき現実が、個々人にとって最も痛い所で現実に演じられるからであろう。どういうことかというと、例えばいきなり夫と妻の科白が入れ替わる。夫は妻の科白を、妻は夫の科白を喋るという演出が為されるのだ。これこそ、想像力の用い方そのものである。何故なら想像するという行為は、相手の立場に立つことだからである。このような演出は、無論観客の度肝を抜く。その上で納得させるのである。
 今作で描かれる家族の形は、日本の伝統的なそれとは全く異なる。いわば、一つ屋根の下に住みながら、家族のメンバー個々人が能う限り自由を実践しているのであるから。娘(菜摘)は、彼氏(明良)を自室に連れてきて同棲している。息子(春人)は勝手に大学を止めて、パソコンで何かをやっているが引き籠り状態。家族会議があっても携帯電話で参加するほどだ。妻(和絵)は妻でなんやかんやの不平を梃に自己の取り分を拡張してゆく。夫(耕平)は調整型だが、楽しみは帰宅後、社畜から解放されて飲むビールとガンダムのプラモ制作。隣の住人(佐渡)が年中出入りしているのだが、サプライお宅である。おまけに母(=妻)の母という言い方を強制する祖母(さち)、はアキレス腱を切って不自由という理由で強引に狭い一家に転がり込んでくる。更に、耕平の父(孝典)は壁と対話する孤独に耐えかね、持ち家を売却後、矢張り転がり込んできた。既に家族会議で決まっていたことも状況の変化に応じて変えなければならない現実の前で、それぞれの思惑、利害が交錯して人倫と自由、既得権などの権利を巡る議論が展開される中で、上で述べたような互いの科白の入れ替え、立ち場の逆転などの演出が加えられるので、決してセンチにならず、緊張感を持続した舞台展開が可能となっている。
シナリオ自体非常に優れたものだが、演出、演技、舞台美術の特異な形態、照明や音響の効果が相俟って普遍性を持ちつつ衝撃的な作品になっている。
「66~ロクロク~」

「66~ロクロク~」

円盤ライダー

シダックス カルチャービレッジ6階(東京都)

2016/10/08 (土) ~ 2016/10/10 (月)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
 10月8日から3日で3公演というかなり贅沢な公演。

ネタバレBOX

5月にもこの「66」の公演があったそうだが、そちらは拝見していない。今回は、メンバーが少し入れ替わっているという。  
何れにせよ高校時代の仲間が6人集まって兎に角、他人を楽しく、自分たちも楽しくと大きな夢を抱いて途中、女や進路の違いで1人はアメリカンドリームを実現すると仲間を割って出た。10年後、残る5ンインはチームを組んで人も羨む立地に事務所を開設することができた。ところでリーダーの平野は、フェイスブックでアメリカに渡った仲間に顔を見せにくるよう連絡を取っていたのだった。彼はアメリカ到着後すぐにカツアゲにあって全財産をすってしまい。何と日雇いの労働で帰りの金を稼ぐと直ぐに日本に戻って来ていたのだが、皆と別れるときに約束したアメリカンドリームを掴んでいない以上、恥ずかしくて皆の前に顔を出せなかった。この辺りの男の子の意地が、彼に嘘を吐かせた。矜りの為に素直に事実を言い出せず、昔の仲間から、借金でもしに来たのかと勘繰られながらも、徐々に内実が明らかになってゆく。つまり高校生の時から抱えていた無邪気な夢と気負いを捨てずに来た5人と、形は違えど幸せを実現したアメリカンドリーム「失敗」者が、その純で一途な姿勢を変えなかった仲間であったことを再確認し、また6人の仲間に戻ってゆく過程は男の子にしかできぬ、熱いロマンを感じさせる。
 一般のビル内の会議にでも使えそうなビジネスライクな空間を使って、役者達のアドリブや、その場、その瞬間の判断による空間の身体化によって、瞬時に桁を外す技術を持った役者ばかりが集まって濃く、熱い時間を手渡してくれた。いい年をして、胸に迫る熱い念を感じた。

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