うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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疾走

疾走

aibook

駅前劇場(東京都)

2017/08/23 (水) ~ 2017/08/29 (火)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/08/28 (月)

キャラにドンピシャの役者陣が素晴らしい。
松本紀保さんのたおやかさが際立って美しい。
危うい人々から目が離せない1時間50分、
それだけにラスト不思議な爽快感が残る。

ネタバレBOX

浅いプールのような演技スペースを挟んで対面式の客席。
奥は地方都市のスナックの店内、反対側は福祉施設の屋上だ。
この二つの場所を行き来しながら物語は進んでいく。

スナックのママ可奈子(松本紀保)は、客のひとり柏木(瓜生和成)と不倫関係にある。
義父の介護施設で働く柏木は、どうやら贈賄に関る仕事をさせられている様子で
スタッフたちも不審な告発メールや噂に翻弄されている。
スタッフの中には“戸籍が無い”と噂される浅尾(塩野谷正幸)もいて
父親が疾走したという過去を持つ可奈子をそれとなく見守るようなそぶり。
そしてある日、ついに柏木は追いつめられて…。

理不尽な組織に都合よく使われ、犠牲になる人はいつの時代にもいるものだ。
冒頭から、そんな恐れを抱いて柏木を見つめる人々の苛立ちが爆発する。
妹はそもそも婿入りした兄が歯がゆくて心配で、ついつっかかってしまう。
はらはらしながら見守る可奈子、「大丈夫」を繰り返す柏木はまるで大丈夫に見えない。

失踪した可奈子の父と、“戸籍が無い”と噂される浅尾、
そして今まさに組織から都合よく使い捨てにされそうな柏木。
この3人が重なって過去・現在・未来、同じ悲劇の繰り返しが透けて見える。

この作品の力強いところは
人生は「疾走」、「疾走」するのは「生きるため」、死ぬくらいなら「失踪」しろ!
というメッセージだ。
やられっぱなしでたまるか、という窮鼠猫噛みの一撃が清々しい。
可奈子の、柏木の妹に対する叫びが象徴するように、
“さんざん見て見ぬ振りをしてきた人々”に、逃げた人間を責める資格などあるか、
という倫理が大きな説得力を持つ。

不器用な人々が吹き寄せられるように集まって来る店のママを演じた
松本紀保さんがたおやかで素晴らしい。
声にも仕草にも品がありすぎるが、水商売のしたたかさを持ち合わせるキャラが良い。

責任感と罪悪感にまみれた柏木を演じた瓜生和成さん、
冒頭から彼の重い疲労感が伝わる佇まいが秀逸で、「大丈夫」のリフレインが虚しく響く。

謎の多い浅尾役の塩野谷正幸さん、柏木に「まだ間に合う」と詰め寄るところに
説得力があり、それがまた彼の謎の過去を思わせて上手い。

「木枯し紋次郎」のテーマ曲が非常に効果的。
無頼で孤独な紋次郎の、だがその人生は絶望的ではない。
“捨てながらも生きている”感じが登場人物すべてに重なって沁みる。

人生は「疾走」、「疾走」するのは「生きるため」、死ぬくらいなら「失踪」しろ!
その強烈な開き直りが人を救う。
そこには、自殺などには無い、絶対的な希望があって観る者も救われる気がする。





「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

椿組

花園神社(東京都)

2017/07/12 (水) ~ 2017/07/23 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/07/21 (金)

夏になるとやっぱり夜の野外劇が恋しくなる。
芝居本来のおおらかな力強さと、客席に向かってくる直球ストレートな表現。
夏の野外劇には骨太な人間臭さが似合う。
2017年の花園神社には、権力に翻弄され打ちのめされながらも
再び立ち上がる人間の素朴なたくましさが舞台いっぱいに繰り広げられた。

ネタバレBOX

昔山奥に俗世間から隔離されたような隠里があった。
人々は「外の世界には鬼がいる」という先祖代々のことばを信じ、ひっそりと暮らしている。
ところが掟を破って外の世界を覗いた若者が制裁を受けて逃げ出したのをきっかけに
それを追って出た数人が外の世界の情報をもたらし、
さらには世間知らずの彼らを利用しようと商人たちも乗り込んできて、
里の日常は一変する…。

信じて来た価値観が根底から崩れる不安、それでも新しい世界を知りたいという欲望、
人間の心が千々に乱れる様が描かれて生々しい。
里で制裁を受けて逃亡したが、町で広い社会を知り、
再び里に乗り込んで自分の欲望を満たそうとする若者が良い。
演じる濱仲太さんが、善良そうな顔つきから次第に悪徳商人のそれに変わるあたり、
大変リアルで迫力があった。
終盤、かつて里で受けた傷を晒しながら激白する場面の説得力が素晴らしかった。
この芝居で一番人間くさいキャラだった。

また旅回り一座の白塗りの女形を演じた谷山知宏さんが強烈な印象を残した。
この人が登場すると場をさらってしまうほど客席が湧いた。
これもまた実に魅力的なキャラだった。

土の上の芝居、屋台崩し、役者によるビールの売り声、階段まで客席になる満員御礼…。
洗練とはまた違った方向性を追求して30年になるという花園神社の夏を満喫した。



おんわたし

おんわたし

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2017/07/12 (水) ~ 2017/07/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/07/13 (木) 14:00

沖縄の小さな島の郵便局を舞台に、ここに住む人、出ていく人、訪れる人の
秘めた心情と温かな交差が描かれる。
波の音と風が心地よい郵便局のセットが素晴らしい。
首振りの扇風機がカーテンを揺らし、出演者の髪を揺らし、客席に島の風を吹き込む。
解りやすい登場人物のキャラが次第に陰影を帯びていくエピソードが秀逸。
この展開、この受容の精神は、やはり「おんわたし」の精神が根付く沖縄ならではだろう。
観客に委ねる部分が心地よくもあるが、同時に物足りなさも感じるのは要求し過ぎか…。

ネタバレBOX

会場に入ると風が吹いている。
上手には、郵便局おなじみお取り寄せ名産品の見本、テーブルと椅子、
入り口の外には石垣と赤い花が見えて南国らしさが漂う。
下手は一段高い畳敷きの事務スペースで、奥は郵便局長の居住スペースになっている。
局長は今、浜で拾ったコーラの瓶に入っていた10年前の手紙に返事を書くことに夢中。
近所の人々が集まってアイスコーヒーを飲んだりするのんびりしたこの郵便局に
ある日東京からひとりの青年が保護司に連れられて来る。
誰にも笑顔を見せないこの青年は一体…。

郵便局に集まって来る人々のキャラが楽しい。
バイトながらしっかり郵便局を切り盛りするおきゃん(早川紗代)、
「嫁が欲しい」畑をやってる41歳の吾郎(保倉大朔)、
民宿経営者の庄吉(牧野達哉)など、皆個性豊かで温かい。
青年(榎本悟)の素性を知った後の、周囲の態度の変化にもそれぞれのキャラが反映される。

局長が返事を書いたボトルメッセージの少女に代わって島を訪れたのは、
その母親(秋葉舞滝子)だった。
子育ての失敗から娘を喪ったことを10年間悔やみ続ける母親と、
片や10年間、罪を償って外へ出た青年が「おんわたし」の島で出会うというエピソードが
主軸でありそれが大変良かったと思う。
共に苦しい10年を過ごした2人が、初めて心を通わせる相手として相応しい。
“恩を受けたらその人ではなく、隣の人に返す”という島の優しいルールが生きる。

青年の“家族でいられなくなるほどの”罪が何だったのか具体的には示されないが
それは観る人の想像で良いと思う。
でもあのあと彼がどう変化したのかを知りたい気がした。
私の観方が浅いせいかもしれないが、保護司の徹底的な庇護のもとにあった青年が
そこから一歩踏み出せたのか、意識の変化にとどまったのか、それが観たかった。

「おんわたし」を目に見えるかたちで、というのは作者の意図に反するのかもしれない。
でも“見て安心したい”と思ったのだ。
演じる榎本悟さんの硬い表情や緊張した動きには“制限された人生”が色濃く出ていた。
本当の更生は、そこから一歩踏み出して初めてスタートするのだと思う。
彼の自我と更生の第一歩を目で見て安心したいというのは私の身勝手かもしれないが
それは“苦し気な更生への道”を演じる榎本さんがとても良かったからに他ならない。

最初はただの”合コン好き”だった吾郎が次第に魅力的に見えてくる。
演じる保倉さんの他の芝居を観たいと思った。
座組みの良さが感じられる作品だった。







大帝の葬送

大帝の葬送

ロデオ★座★ヘヴン

王子小劇場(東京都)

2017/06/28 (水) ~ 2017/07/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/07/02 (日) 13:00

十七戦地の柳井祥緒さん脚本・演出でこのテーマなら、
繊細さと大胆な構成を両立させるに違いないと信じていたが、まさに期待以上だった。
大帝の葬送の実行に至る裏方の160日間を、会議室という限られた空間で描く。
柳井さん得意の設定で、史実をなぞるだけでない厚みのある人間ドラマになっている。
こんな重いテーマなのに、時々くすりと笑わせるのは台詞と役者の力。

ネタバレBOX

天皇の体調悪化を受け、宮内庁内では具体的な準備が始まる。
お上に仕える奥の方と、事務、警察、儀式、法律など様々な分野の責任者が集合、
政教分離と伝統の継承に配慮した新しいかたちの葬送を模索する…。

現実的には会議室に入れないはずのライターを狂言回しとして配したのが良かった。
ラストで明かされる奥の方とのつながりから、お上に対する強い思いを持ち
同時に国民の一人としての素朴な視点も持ち合わせている。
演じる澤口渉さんの緊張感ある台詞がドラマを引っ張り、時間の経過が解りやすい。
「関係者席」として確保していた客席の椅子を3か所使ったのも上手いと思う。

同じく現実的ではないが、元華族(?)で右翼の女性「愛国の方」を入れたのも良いスパイス。
実際右翼団体の動きには神経を使っただろうし、発言・行動にはリアリティあり。
中村真知子さん、後半の精いっぱい虚勢を張った姿が強く印象に残る。

そのほかの登場人物は皆リアルで、それぞれの陛下に対する思いと
職業人としての高い意識を感じさせて共感を呼ぶ。
熱い思いが先走りがちなメンバーを押さえつつ会議をまとめていく事務の人、
演じる音野暁さんの実直なキャラがハマって、要の役割に相応しい。

奥の人を演じた朝倉洋介さん、お上のお側近くに仕える人らしい品格と端正な動き、
「鏡を使ってお上に月をお見せした」と静かに話すだけで涙が出そうになった。

同じく奥の方の女性役、百花亜希さんの着物姿が凛として美しい。
伝統と改革をバランス良く備えたキャラが大変魅力的で、皇室の未来を感じさせる。

崩御も“国家のアピールと国会運営の一環”とみなす政治家の先生が良いキャラ。
後半一転して、愛国の方に「スーパーのレジ打ちでしょ」とぶちかまして黙らせるところ
スカッとして実にカッコ良かった。何だ、いいとこあるじゃん、この先生と思わせる。
演じる大原研二さんの座る姿勢や扇子の使い方がいかにも”先生“らしくてリアル。

大喪の礼当日、見送る人々の傘が濡れていたのも細やかな演出でとても良かった。
メモや印刷物が乱雑に散らかった会議室内が、
事務の人によって丁寧に回収されていくシーンが象徴的。
ラスト、ひとり号泣する彼に共感せずにいられない。

難しい宮内庁・法律用語を上手く説明しながらの台詞に工夫があり、理解を助けられた。
当時を思い出して、改めて裏方の苦労をさもありなんと思う。
映像の使い方、チラシのデザインも印象的。

史実に別の視点を投入して、“事実を複眼で見せる”ことに成功している。
これが柳井流の面白さだと思う。
ライターと共に、時代の終わりと始まりを垣間見た思いがする。











泥の中

泥の中

VAICE★

駅前劇場(東京都)

2017/06/27 (火) ~ 2017/07/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/06/30 (金)

会話の中に過去の人生が立ち上る面白さを堪能した。
台詞と間の良さ、それに登場人物を予感させる見事な“ショボい店”のセット。
男たちのキャラのバリエーションが絶妙。

ネタバレBOX

ちらと覗いただけで「やめとこ」となりそうな場末の酒場。
いくつかのテーブルの間に不揃いなイスが乱雑に置かれ、
ビールは店の隅のクーラーボックスから直接取り出し、つまみは乾き物のみ。
(去年食中毒を出して以来そうなった、というのがすごい説得力)
店主の満作(林和義)が小上がりで寝ているところへユリ(小林さやか)が訪れる。
小学校時代から憧れの人、ユリを追って北海道から東京まで追って来た満作は有頂天。
常連客の吾郎(省吾)、遠藤(有川マコト)、それに満作の腹違いの妹(なかの綾)は
突然の展開に、それぞれの思いから狼狽する。
東京から来た新たな客(本間剛)が加わった所へ、謎の男(古川悦史)が入ってくる。
ことば巧みに人心を掌握していく男は一体何者なのか…?

男はみんな純粋で、それは人を騙す男でさえも同じ。
だが女は騙されない、常に騙す側だ。
“騙している”という意識すらなく、軽やかに渡り歩く。
翻弄され疲れ果てた男たちが集まるのが、この“名もない”店なのだ。

登場人物全員が、どこかうさん臭さを持っているところがいい。
それでいて、まだ何かを信じたりすがったりするピュアな部分が残っている。
人を騙す人間は、その残ったピュアな部分に訴えかけてくるんだな。
謎の男のことばに感化され、彼を「先生」と呼んで変化していく男たちが滑稽だが
やがてその「先生」さえも煩悩に支配されていることが判明する。

唯一達観したような存在が、ホームレスのサリーさん(松本哲也)だ。
騙しも騙されもせず、異臭をまき散らしながら店の冷蔵庫から麦茶を出して飲む。
周囲が“元は伝説の博打打ち”と勝手に設定しているのが可笑しい。

芸達者な男たちの中で紅一点、胡散臭くて可愛い女を演じた小林さやかさんが上手い。
不自然なハイテンションぶりと冷徹な観察眼が同居するしたたかさを持つ女、
騙されたと判ったのちも、男が追いかけたくなる女を軽やかに演じた。

緻密な台詞と絶妙の間が、会話劇の面白さを堪能させて飽きない。
力の抜けたキャラが上手く配置されて“騙されキャラ”にもいろいろあるんだな、
でも共通点があるんだな、と思わせる。

満作を一番打ちのめしたのは、失ったものではなく、
ユリの「役立たず」というひと言だろう。
今この店を必要としているのは、誰よりも満作だろうと思った。
サリーさん、助かって欲しいなあ。

ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ

演劇企画集団THE・ガジラ

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2017/06/04 (日) ~ 2017/06/12 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/06/08 (木) 19:00

奇書と言われる原作の異様な世界観が色濃く出ていて惹き込まれた。
長台詞の合間に差し込まれる、流しの「水」、照明の切り替え、効果音、
それに雑遊の造りを活かした演出が作品全体にメリハリを持たせている。
それが作品理解を助けてくれる感じ。
緊張感と”狂気“の2時間15分。


ネタバレBOX

拘束着のような白いツナギを来た男が目覚めたのは
九州大学医学部精神病科の独房。
記憶を失って自分が何者なのかも判らず混乱する彼の前に教授が現れ
「自分で思い出さなければ意味がない」と告げる。
男は殺人者呉一郎なのか、中国の猟奇殺人者の末裔なのか、
さらに、研究のためには手段を選ばぬ教授たちの犠牲になったのか、
次々と繰り出される過去の再現シーンは夢なのか現なのか…。

全体像を把握することが出来ないまま引きずり回される感じが不快ではない。
男と判らなさを共有し、伴走しながら同じ景色を見る感覚が面白い。
「ドグラマグラ」は理解しようとするより、所々で展開する論理に感心する方が楽しい。

例えば「犯罪者の記憶は遺伝子に組み込まれて連綿と受け継がれる」、
「死人の腐敗する様を克明に描くことで、楊貴妃に溺れる皇帝を諫めようとする」、
また「そのために了解を得た上で妻の首を絞めて殺害する」、等々。
作品が発表された1935年当時の、夢野久作の想像力と狂気の表出方法に驚く。

記憶を失い、今や存在そのものが危うくなった男の絶望的な孤独が
もう少し見えたら良かったと思う。
台詞を噛む場面が散見され、せっかくの緊張感が途切れてしまったのが惜しい。

その中でアフリカン寺越さん演じる助手が不気味な空間を体現していて素晴らしかった。
何度も観ている役者さんだが、しばらく気づかなかったほど。
例えば鍬を振り上げる教授に無言で近づく時の緊張感あふれる動きや
鍵束の音をジャラジャラさせて歩いてくる姿勢など
座っているだけで強烈な存在感があった。

呉一郎より、教授陣の方が狂っているような気がしてくる。
照明と効果音が強い印象を残す演出はさすが。






木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

木ノ下歌舞伎

あうるすぽっと(東京都)

2017/05/26 (金) ~ 2017/05/31 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/05/30 (火) 14:00

鶴屋南北の作品における「お岩さん」の怪談話はエピソードのひとつであり、
実は当時の社会の縮図のような、濃密な世界を描いた作品であることがよくわかる。
登場人物の個性が、それぞれの出自と生育環境の違いもあって鮮やかに描き分けられ
その結果としての悲劇が際立つ。
原作に忠実な現代語の台詞が的確で、普遍的な人の心情がストレートに響く。
6時間の長尺にも拘わらず、アフタートークに残った人数が満足感を示している。
いつもながらこれほど面白く、内容の濃いアフタートークを、私はほかに知らない。
江戸の歌舞伎の時代性と勢いを、新しい装いで蘇えらせてくれてありがとう!

ネタバレBOX

おなじみ客席に向かって傾斜した舞台は、汚しの入ったような定式幕柄の床。
もしかして役者さんは歩きにくいかもしれないが、
この傾斜は本当にどこからも見やすく、奥行や距離感が解って好きだ。

第一幕
浅草寺境内で“ことの発端”がいくつか描かれる。
伊右衛門は妻のお岩と復縁したいのだが、義父の左門は彼の素行の悪さを理由に拒む。
お岩の妹お袖は、許婚の与茂七が主君の仇討ちの為、今は離れている。
そのお袖に横恋慕する直助は、お袖と再会した与茂七の後をつけて殺害、
伊右衛門も、激しく叱責されて左門を切り殺してしまう。
お岩は父左門を、お袖は与茂七の亡骸を発見して悲嘆にくれるが
犯人の二人はそれぞれ「敵を討ってやる」と持ち掛け夫婦として暮らすことになる。

第二幕
仇討ちを口実に復縁した伊右衛門とお岩、生活は困窮しお岩は産後の肥立も良くない。
二人に仕える小平は伊右衛門の家に伝わる秘薬を盗んで伊右衛門に惨殺される。
裕福な伊藤家からは度々見舞いの品などが届けられ、今日は薬がお岩に届けられた。
が、その薬を飲んだお岩は突然苦しみ始める。
一方伊藤家でもてなしを受ける伊右衛門は、大金を積まれて
「孫娘の梅と結婚してほしい」と乞われるが、一度は妻があるからと断る。
しかし、お岩に毒を盛ったこと、顔が変わるであろうことを聞いて決心する。
お岩は失意のうちに命を落とし、伊右衛門は梅を妻とする。
ある日、伊右衛門が釣りをしていると戸板が流れつき、そこには
お岩と小平が打ち付けられていた。

第三幕
与茂七の仇討ちの為、直助と仮の夫婦になっているお袖は、
ある日家にやって来た按摩からお岩の死を聞かされる。
その夜お袖を訪ねて来た与茂七を見て、殺したはずなのにと、直助は驚愕する。
与茂七を亡き者にしたい直助と、仇討ちを知る直助の口を封じたい与茂七。
お袖は二人別々に策を持ちかけ、二人は隠れているのがお袖とは知らずに襲撃する。
お袖は二人に詫びながら死ぬ。
伊右衛門に惨殺された小平は、かつて仕えた又之丞が病のため歩けないのを
何とか救いたい一心で伊右衛門の家から高価な薬を盗んだのだった。
その薬を飲んだ又之丞はたちまち歩けるようになる。

七夕の夜伊右衛門は美しい女と出会い、恋に落ちる。
身を隠していた庵でその夢から覚めた伊右衛門は、ついに与茂七の手にかかる…。


スピーディーな場面転換、ヘリの轟音でいや増す不穏な空気、観ている私も
ロックとラップのテンポに巻き込まれながら登場人物と共に奈落の底へと転げ落ちる。
忠臣蔵をバックに、凋落した一族と栄華を誇る一族の対比も鮮やかな人間模様。
現代の比ではない格差社会の、やり場のない鬱積したエネルギーが
負の方向へと向かっていく様がとてもリアル。
登場人物はみんな少しズルくて少し依存して、でも優しいところもある。

お岩(黒岩三佳)お袖(土居志央梨)の姉妹がたおやかで声も良く品がある。
武家の娘である故の“仇討ち”に縛られる人生の哀しみが伝わって来る。
按摩(夏目慎也)の、土壇場でお岩に対する態度の豹変ぶりがリアルで説得力あり。
エネルギーがほとばしるような本音の台詞が迫力満点。
第一幕で一瞬登場する按摩の妻を演じた小沢道成さんの
「どこの女優さんか?」と思うなめらかな女っぷりに目を見張った。
難病の浪士役にも色気があって、実に魅力的。

出世のために愛する女を裏切り、結局すべてを失ってひとりになった男。
「お前は何がしたかったんだ?」という問いかけが本当に虚しく響く。

アフタートークでも語られたが、原作の台詞を忠実に現代語訳する
卓越したセンスがこの作品のキモだろう。
古典の持つ品格と下世話な猥雑さと、庶民の行き場の無いエネルギーの放出。
それらを今に再現する木ノ下歌舞伎の底力を見た思いがする。
杉原氏はキノカブを卒業とのことだが、また次の作品を見るのを楽しみにしている。
何たって最強タッグにちがいないのだから。
半日コース、楽しかった、ありがとうございました!








『死なない男は棺桶で二度寝する』 &『オハヨウ夢見モグラ』

『死なない男は棺桶で二度寝する』 &『オハヨウ夢見モグラ』

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターKASSAI(東京都)

2017/05/03 (水) ~ 2017/05/14 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2007/05/10 (木)

「死なない男は棺桶で二度寝する」を鑑賞。
若干既視感なくもないが、キレの良いブラックなギャグと
シリアスなストーリーの対照が鮮やかなのはさすが吹原作品。
前半のおふざけタイムに、誰があのラストの涙を想像できただろうか。
「死なない男」は世界一孤独な、そして世界一愛された男だった。

ネタバレBOX

開演前の全力投球も素晴らしく、
(ほんと、全力の人を見るとどうして笑っちゃうんだろ?)
「いいトシをして定職にも就かず…」という私の一番好きな格言(?)を聴くと
ああ、またポップンの舞台を観に来たんだなあと心の底から幸せな気持ちになる。

前半のユルさは、すべて後のシリアスな展開のためにあると言ってよいだろう。
なんたって時事ネタの中に痛烈な批判精神を練り込んだ末に
アメリカ大統領が日本の風呂屋で死んでしまうのだ。

本題は、いい加減な日本の首相の友人でもあった一人の男、
はるか昔に人魚を食らって不死の身体になった男(吉田翔吾)である。
この男と結婚した信子(小岩崎小恵)が、夫の過去に疑問を持ったことから
私たちは共に彼の過去を紐解くことになる。

吉田翔吾さんの、浮世離れしたピュアな浮遊感が素晴らしい。
ソフトな優しいキャラが、激しい憎しみを見せ、誰とも共有できない孤独を漂わせる。
ポップンは全員が主役を張れるところがすごいと思うが、
同時に全員を主役にしようとして作品を書く脚本家の愛情を感じる。

NPO法人さんと井上ほたてひもさんの“バスタオル”や“相撲”の掛け合いなど観ると
その演じていないような、素でやっているだけにも見える天然のボケぶりが
本当に素晴らしく、リピートしても全く飽きない。

相変わらず横尾下下さんの凄みのあるキャラには説得力があって
ユルいムードから一瞬のうちに、観る者を暗がりへと突き落す威力を持つ。
異様な風体といい、精神病棟にいる不安定さといい、
「うちの犬はサイコロを振るのをやめた」の元兵士を彷彿とさせ
そこが素晴らしいと同時に既視感を抱かせる要因でもある。

ラスト、再びのピュアな展開に泣かされながら、
この硬軟両極の鮮やかなコントラストこそが、ポップンの底力であり、
魅力なのだと思い知る。
他劇団がやろうとしてやり切れずに、役者の微妙な苦笑いにシラケて終わる、
あの難しさを毎回やってのけるポップンに心から拍手!







60'sエレジー

60'sエレジー

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2017/05/03 (水) ~ 2017/05/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/05/07 (日)

高度経済成長期の高揚感と、その波に乗れない人々の悲哀が“日々のことば”で語られる。
上手く転身できない、あるいはしようとしない人々の、焦燥感と苛立ちが痛いほど切ない。
集団就職の少年役、足立英さんの初々しさと瑞々しさに感嘆。
脚本がいいなあ。台詞がいいなあ。
歴史物の格調高いのも好きだが、普通の会話でこんなにボロ泣きしたのは久しぶりだ。


ネタバレBOX

舞台は昭和35年、東京オリンピックを前に、東京下町の小さな蚊帳工場が
一人の集団就職の少年を迎える。
下手にはガラガラッと外から入れば広がる三和土、奥には作業場がある。
上手は神棚が祭られた居間である。
会津から来た少年修三(足立英)は、ベテランの職人(林竜三)に仕事を仕込まれ
社長夫妻(西尾友樹、佐藤みゆき)の愛情に包まれて成長する。
だが高度成長期の日本はその生活様式までもが変化、蚊帳の需要は次第に減っていく…。

昭和30年代の推進力ともなった、時代の高揚感が伝わってくる。
劇中の台詞にもあったが、戦中戦後の物の無い時代の反動にも見える物欲と拝金主義。
それを享受する人がいる一方で、変化する社会について行けない人も多かったはずだ。
商品開発などという器用さを持たない職人気質と、
商売替えを考えるより、人としての義理を優先する社長の心情は、
時代へのささやかな抵抗にも見える。

その不器用で一途な社長の思いがほとばしるような西尾友樹さんの演技だった。
冒頭テンションの高さにちょっとびっくりしたが、それが彼の“照れ”の裏返しと判ると
妻役の佐藤みゆきさんとの相性も良く、バランスの良さは物語の要となる。
古いタイプと言われるのだろうが、いい夫婦だなと思う。
正しい選択ではないのかもしれない。
だが常にベストの選択をしたのだ、この夫婦は。

岡本篤さん演じる社長の弟の、軽妙だが繊細なキャラが素晴らしい。
頑固な兄の選択を受け容れて、自分が口減らしのために転職する。
ふと、岡本さんが社長、西尾さんが弟、という配役もあったかもしれないと思ったりしたが、
この弟の鷹揚さは、やはり岡本さんだろう。

ベテラン蚊帳職人役の林竜三さんが秀逸。
その佇まい、風呂敷包みを持って帰る仕草、潔さなどすべてが年季と実直さを表している。

兄弟の幼馴染で隣に住む実役の日比谷線さん、軽いだけの紙芝居屋かと思いきや
「引き際を誤るなよ」と忠告し、自身も不動産屋に就職する男がとても良かった。
時代を冷静に見て家族のために身を処するが、どこか一抹の寂しさをたたえている。

先代のときから蚊帳を仕入れてくれた寝具店の営業マンを演じた浅井伸治さん、
相変わらず隙の無いなりきりぶりが見事だった。
会社の方針との板挟みに悩みながらも、蚊帳工場に冷静なアドバイスをする、
その反面、面倒見が良く、修三の次の就職先を世話したりする人情派。
嫌な話をしに来た時の、緊張感が伝わって来るような姿勢や歩き方が素晴らしい。

集団就職で状況してきた少年から、夫婦の元で夜間高校、大学と進学する修三の
刻々と変化する様を演じた足立英さん、
瑞々しい少年期から、理想に燃えて学生運動に身を投じる青年期まで演じきった。
彼が72歳(確か…)でこういう最期を遂げるのかと思うと、誠に寂しい。
修三が一番輝いていたのは、蚊帳工場で過ごした10年間だったのだろう。

新しい職場へ移る修三に妻が、困ったときにはいつでもおいでとかけた言葉
「必ずあんたの味方になるから」という台詞にボロ泣きした。
ラスト、修三が大学に合格した日のシーン、
西尾さんの「合格です」という小さな台詞に、笑いながらボロ泣きした。
何度ボロ泣きしただろう、どれも市井の人々の日常のことばに。

「何かを成し遂げた」人も素晴らしいが
「何も成し遂げずに終わった」人も素晴らしい。
チョコレートケーキは、そのどちらにも光を当てることが出来る。
再びの「東京オリンピック」を前に、私たちはまた何かを喪うのだろうか。
そんなことを考えさせてくれる作品、ありがとうございました。






在り処

在り処

演劇ユニットどうかとおもうプロデュース公演『在り処』

下北沢 スターダスト(東京都)

2017/04/14 (金) ~ 2017/04/18 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/04/18 (火) 14:00

だるま座の剣持直明さんしか知らなかったので、それ目当てで行ったが
力のある役者さんが隙の無い舞台を見せるので惹き込まれた。
冒頭、前説の清水大将さんが暗転の後、さっきのいで立ちに帽子を被っただけで
空巣の役で登場してくるのが面白い。
笑いながら観た後に、老婆の底なしの孤独が見えてくる。

ネタバレBOX

平日の昼間、小さなギャラリースペースには椅子が増設され客席は満員。
舞台は畳敷きの老婆の居間、剣持さんが台の下に横になると、
その上からこたつ布団がかけられ、新聞紙やペットボトルなどが巻き散らかされる。
雑然というより、ゴミだらけの混乱した一人暮らしの老婆の部屋が完成、
ここまでを最初に見せてしまう。
物語は、ここに空巣(清水大将)が忍び込み、まず見つけた印鑑をポケットに入れ
通帳を探すところから始まる。
こたつの中に老婆が居るのを発見して互いに叫び声をあげるが
息子と勘違いされた空巣は、そのまま息子として通帳を探し続ける…。

少ししんどそうな老婆の立ち居振る舞いがリアル。
通帳が見つかったらさっさと帰ってしまう息子を引き留めようと
ポケットに隠して見つからないふりをする心が切ない。
空巣が、見つけた通帳を一度は放棄して、盗まないのか…?と思わせる展開が秀逸。
結局通帳を持って出ていく空巣の表情が、侵入した時と全く違う。
母親に次々と金を出させるダメ息子と、自身も金に困っている空巣が見事にダブる。

そこに入ってくるボランティアの学生(松村紗瑛子)も上手く絡んで楽しい。
空巣を息子と思い込んで説教しまくるところが良い。
滑舌も良く勢いもあって、男2人に引けを取らない存在感を見せた。

ただこの設定でこのキャラなら、もっといろんなことが出来そうな気もする。
”切なさ”とくすくす笑いだけでなく、もっとどかんと泣いたり笑ったり
大きく揺さぶってくる出来事が欲しいと思うのは欲張り過ぎか。
品よく振れ幅の小さいところに若干の物足りなさを覚えた

姪が借金したくて訪ねてくると解っていても、ひとりでいるよりは良い。
新聞読んでご飯食べて散歩して新聞読んでご飯食べて寝る…だけよりは良い。
その現実を息子も、息子のふりをする空巣も、ボランティアの学生も
変えることは出来ない。
ただほんの一瞬かかわって、また去って行く。
その一瞬を、ほとんど渇望している如き老婆の心が、台詞ににじんで切ない。
ラスト、底なしの孤独がくっきりと刻まれた背中が素晴らしかった。



マークドイエロー

マークドイエロー

もぴプロジェクト

王子小劇場(東京都)

2017/03/29 (水) ~ 2017/04/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

緊張感あふれる照明とアホダラ経(?)唱和の迫力に冒頭から圧倒された。
正常と異常の境界は誰が決めるのか、複雑怪奇な共依存の心理、
そして謎解きよりも“自己の喪失”に戦く男の孤独と焦燥感に共感する。
狂言回しのさひがしジュンペイさんが軽妙さと渋さのグッドバランス!
愛とは、暴走したがるもの。

ネタバレBOX

四角い舞台を四方から客席が囲んでいる。
舞台中央には天井から床に届く長い布が、これもまた四角いスペースを作っている。
布に囲まれたスペースが、何か神聖な場所のように見える。

精神病棟の一室で目覚めた男は、自分の名前すら覚えていないという記憶喪失。
「あなたが自分で思い出すことが重要なのだ」という医師とその助手の看護師。
だが男が記憶を取り戻すことは、ある殺人事件の全容解明を意味していた…。

親に捨てられて肩を寄せ合うように育った兄と妹。
妹に対する兄の束縛が次第にエスカレートしていく様が
台詞の端々から息苦しいほどリアルに伝わってくる。
大学生になって、それを少しずつ疎ましく思い始める妹の変化が上手い。
妹の彼氏の、優しいがキレると言動が180度変わるキャラが大変良かった。
3人のキャラがくっきりして、衝撃的な“兄による妹殺し”に至る状況が説得力を持つ。

その真実の再現シーンと、病棟で記憶を取り戻す治療を受ける男の日常が
交互に描かれるという構成が効果的で、緊張感あふれる舞台だった。

私の理解不足かもしれないが、医師の治療計画がイマイチよくわからなかった。
警察の取り調べの一端を担うという立場は判るが、
事件の関係者を連れてきて男に会わせるのが唯一のアプローチであり荒療治なのか?

狂言回しとして心理学の教授が、解説を交えながら関りを持って行くという展開が
非常に解りやすく、また客観的で冷静な視点が加わるところが良かった。
さひがしジュンペイさんの知的で信頼感が持てる佇まいと台詞が素晴らしい。
記憶喪失の男を演じた役者さん、(役名と俳優名が一致しないのがとても残残念)
“記憶を失うことは自己喪失である”ことを体現している。
誰とも分かち合えない孤独と焦燥感を見事に表していて惹き込まれた。

愛はもともと極めて身勝手な個人的思い入れだと思う。
だからこそ相手もそれに応えてくれると信じた時、至上の幸福に浸る。
時にはそれが相手を傷つけるのに、信じた幸福を否定することが出来ずに暴走する。
「キ」の烙印はその暴走の果て、社会から突き付けられたエンドマークだ。

夢野久作の「ドグラ・マグラ」から着想を得たという作品、
はあらすじしか知らないが、一度読んでみたいと思った。




ファントム・ビー

ファントム・ビー

X-QUEST

駅前劇場(東京都)

2017/02/24 (金) ~ 2017/03/05 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/02/26 (日)

初めてのX-QUESTは、華とキレのあるダーク・ロマン・エンタメ満載ファンタジーだった。
主人のために血を集める蜂と、バンパイア伝説が上手く絡んで大変楽しい。
殺陣とダンスのレベルが高くて、その疲れ知らずのパフォーマンスに終始圧倒される。

ネタバレBOX

中央奥の壁面には十字架、その両サイドには六角形の蜂の巣の柄。
太陽の光が届かない北欧の谷間の町。
個を認めず女王のために血を集めるキラー・ビーたち。
その集めた血は“F”と呼ばれる怪人に捧げられていた。
その町に、ドラキュラハンターの二人がやって来た…。

個を押し殺して社会生活を優先する蜂の生態とドラキュラの融合という
アイデアがまず素晴らしい。
体力勝負になりがちな、殺陣とダンスが最後までキレッキレなのも素晴らしく
ストーリーにメリハリを与える。
反面、キャラを掘り下げる個々のエピソードが少なくて
魅力的な登場人物の苦悩がイマイチ浅い印象を受ける。
ファントムの葛藤、ダンパーの孤独などがもっとビシビシ伝わってきたら
さらに物語に深みが増すと思った。

その中で塩崎こうせいさん演じるシャドウのキャラは輪郭がくっきりしている。
キャラに共感すると、殺陣も感情移入して観るのでより一体感を覚える。
X-QUESTの楽しさを体現しているようだった。

詩的な台詞も論理的な台詞もよくこなしているし衣装もとても素敵、
照明やBGMのセンスも洗練されていて、総じて魅せ方が抜群に上手い。
激しい動きの後でも台詞が安定しており、よく訓練されていることに感心した。
次回作もぜひ観てみたいと思った。



クライングメビウス

クライングメビウス

劇団虚幻癖

Geki地下Liberty(東京都)

2017/02/08 (水) ~ 2017/02/12 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/02/08 (水)

良く鍛えられた役者さんが多く、熱量が伝わってくる舞台。
台詞で説明し尽そうとするかのような、怒涛の台詞の応酬は迫力あるが
設定と世界観が面白いので、もっとシンプルな展開でもよいと思う。
乞食の二人のキャラが面白かった。
人間は性悪説ということか。

ネタバレBOX

階段状になった無機質な舞台。
革命軍が政府軍と闘い続ける荒廃した世界と、平和だが麻薬が蔓延する世界。
二つの世界は重なって存在し、人は死んだら別の世界の同じ場所で目を醒ます。
そしてごくたまに、別の世界に住む者同士が一瞬クロスすることがある。
カメラマンの男と、戦火の中を逃げ惑う女のように・・・。

全体的に大声で相手の発言を制するパターンが多発。
ストーリー展開を台詞に頼るよりも、エピソードの積み重ねの方が
登場人物の人間像に奥行きが出る気がする。
例えばアリスの母親のキャラや、二人の芸術家など、
あの言動に至る過去の出来事やいきさつが具体的に語られたら
もっと共感できると思った。

二人の乞食のキャラは、その点興味深い。
“堕天使”のような二人の過去、立場の逆転など、
怒鳴るだけでない台詞で紡がれるのが良かった。

ノートという儚いアイテムも効いている。
もっとその良さをアピールできるエピソードがあれば尚良かった。

せっかく自由な発想が許される分野である “この世とあの世”の話なのだから
作者の世界をもっと私たちに聞かせてほしかった気がする。
別の世界へ移動できる人はいるのか、どうやって移動するのか、
ノートはどんな人が手にできるのか、終わったノートはどうなるのか、
生まれ変わった記憶はどこかに残らないのか、何かの拍子に記憶が蘇らないか、
先に死んで行った者たちが生まれ変わったという証拠はあるのか…。
そういう小さな情報が積み重なることで、世界はリアルに立ち上がってくる。

芸術論よりも、作者の頭の中の世界を存分に語り表現してほしい。
こういうテーマを選んだ以上、時に宗教者の如く
観る者聴く者を惹きつけ、死生観を揺さぶって欲しいのだ。

それがあれば、おのずと“賑やかし”キャラは減って
核となるストーリーがくっきりするような気がする。



さらば、ブラックローズ

さらば、ブラックローズ

ライオン・パーマ

萬劇場(東京都)

2017/02/01 (水) ~ 2017/02/05 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/02/04 (土)

2時間20分という長さを感じさせない舞台だった。
登場人物のエピソードが丁寧で一人ひとりの背景が浮かび上がる。
笑いのセンスが良いので小さな台詞に客席が湧く。
ライオンパーマらしい心温まる展開、そして気の利いたラストに拍手。
プロの変態、君こそヒーローだ!



ネタバレBOX

“音の出る電子機器への注意”に、ここまで力を入れる劇団を私はほかに知らない。
今や一つの目玉となった感があり、早めに行って観るべきものとなっている…(?)

各地を旅する劇団と、常にその劇団と一緒に旅をして夜オープンする
移動SMクラブ、彼らに共通するのは女王ブラックローズ。
だが彼女の鞭には哀しい秘密が隠されていた。
劇団のメンバー、地元住民の参加者、地元の刑事、詐欺親娘、
そしてプロの変態とその家族が織りなす人生の綾と意外な結末!

青春を謳歌し損ねた父(橋本一郎)と息子(井坂光佑)の
不器用な変化が大変良かった。
SMクラブのマスクを被った父親がヒーローになっていくプロセスの可笑しさ、
また母親(比嘉建子)の見事なアメリカンポリスに大笑いした。

ヤな奴だと思った刑事(樺沢崇)が、詐欺母娘にかける思いやりは感動的。
人生のやり直しを賭けた娘(あや)の「イー!」は最高だった。
ラジカセを持ち歩いてピーポーパーポーを鳴らす、
クールな刑事(北島洋志)のキャラも大変良かった。
こういうきらりと光るキャラ設定がライオンパーマの面白いところ。

かつての変身ヒーロー俳優を演じた岩田智世さんがドハマリで存在感抜群。
それに絡む中堅俳優役の渡辺望さんが、リアルな焦燥感を見せて
普遍的な“世代交代”の厳しさを体現している。
ブラックローズ役の絹川麗さんの細くてしなやかな身体が説得力ありまくり。

プロの変態が考えた、ブラックローズの人生を変えるための小道具が素晴らしい。
ライオンパーマの優しさと温かさがあふれた結末だった。
相変わらず加藤岳仁さんは良い台詞を書くが、
ご自分がそれをしゃべる時は滑舌が甘く、滑りやすいところが安倍首相に似ている。
二人とも、もはやこれが“芸”になっているのかもしれないが。

もう少しエピソードを整理してコンパクトにしても良いと思う。
若干”全部のっけ感”を覚える。

ライオンパーマ、次は8月に下北沢へ来るという。
近くて嬉しいな。
“携帯劇場”も楽しみにしていますよ\(^o^)/

『エンジェル・フォール騎士 ANGEL FALL KNIGHT』

『エンジェル・フォール騎士 ANGEL FALL KNIGHT』

無頼組合

シアターKASSAI(東京都)

2017/01/27 (金) ~ 2017/01/30 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/01/27 (金)

久しぶりに観た風吹淳平は円熟味を増してますますいいキャラになってた。
定番の楽しみ、おなじみのキャラの安定感、それに今回は悪役が光った。
音野暁さんの冒頭の衝撃的な姿も楽しかったが、中盤からの存在感に圧倒された。
活劇の楽しさ満載、それにみんなあんなに歌が上手かったの!?とびっくり。
次回に続くような終わり方がまたニクい。
初日の硬さ故か、肝心なところで噛んだり台詞がかぶったりしたのがちょっと残念。


ネタバレBOX

「探偵小説さながら、喪服の女が依頼人としてやってくるような事件」を待っている
私立探偵・風吹淳平の事務所を、まさに喪服の女が訪れて事件は始まる。
クリーンなイメージで当選した女性市長の秘書だった堅物の男が
愛人と飛び降り心中というニュースが毎日報道されていたが、彼女はその妻だった。
夫の無実を晴らしてほしいというその依頼に調査を始めてまもなく
彼はひとりの男にぶち当たる。
それは風吹自身の過去にまつわる男だった…。

サウスベイシティという、金と欲にまみれた街で起こる事件。
クリーンな政治家の理想と無力感が良く伝わる展開で、
ハッピーエンドにならないところもかなりシビアなストーリーだった。
社会のリアルなダークさを描きながら暗くならないのは
からりとした風吹淳平のキャラクターと所々に差し込まれる笑いのおかげだ。
“時が止まって歌が始まる”という力技もそのひとつ。
B級活劇らしい荒唐無稽さと、理不尽な巨悪の実像がうまくミックスして
大変楽しいエンタメ作品になっている。

今回は風吹淳平の過去が改めて紹介され、私は初めて彼の前歴を知った。
そうだったのかぁ、という感慨で、改めて現在の彼を理解できたように思う。

人気シリーズには、優れた悪役が必要で
今回は特に音野暁さん(ロデオ★座★ヘヴン)がとても良かった。
冒頭の女装・歌・ダンスというこれまで観たことのない音野さんを見て
びっくりしたり感心したりしたが、中盤から悪役を生き生きと演じて見せた。
この方は目立たない市井に埋もれるような役も上手いが
冷静でありながら時に狂気を孕んだ一面を見せる役が素晴らしかった。
台詞の間とテンポがセンスのよさを感じさせる。

社会悪の犠牲となった桐山を演じた黒木尚典さん、“負け犬の矜持”とも言うべき
強い信念が伝わる熱演だった。
再会した淳平と実に楽しそうに拳を合わせる場面が印象的。
宿敵・泊役の滝澤信さん、銀髪が美しく細いあごに良く似合って敵役として完璧。
こういう魅力的な悪役がストーリーを面白くする。
クールさに加えもっとアクの強さが出ると、さらに強烈な印象を残すと思う。

次の12月公演を最後に終了するという「騎士(ナイト)シリーズ」。
シラカワさんの“ひときわ高く上がる長い脚”が生かされるような
新シリーズを期待したい。
カミサマの恋

カミサマの恋

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2017/01/18 (水) ~ 2017/01/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/01/22 (日)

若干無理くりな感じはあるものの脚本が素晴らしい。
「カミサマ」とはつまり人の「苦」を知る者なのだろう。
「苦」を知って初めて言えることばがあるということを、道子は教えてくれる。
それを伝えることの大切さも。

ネタバレBOX

上手床の間のようなスペースに掛け軸、祭壇のような段々に白い布、太鼓。
下手にはソファと椅子、テーブルがあって客はまずここで相談事をする。
そして「カミサマ」にきいてみましょう、と祭壇の前へ移る。

「カミサマ」道子のところには引きこもりの息子のこと、嫁姑のことなど
様々な悩み事が持ち込まれる。
道子はそれを聞いて太鼓を叩いて神様にお尋ねし、神の言葉を伝える。
人々は神様のことばを素直に聞いて実行する。
ある日突然何年かぶりで道子の息子銀次郎が帰って来た。
道子自身の辛い過去がよみがえってくる…。

さすがに津軽弁は渡辺源四郎商店には敵わないが、努力の跡が感じられる。
太鼓を叩きながら歌うような神様へのお尋ねもユーモラスで、思わず笑ってしまう。
人生は“人の価値観を受容することの連続”だということが良く解る。
それが出来ずに悩み、衝突し、決裂するのだ。
人の価値観に耳を貸さない人々が、「カミサマ」道子のことばなら素直に聞く。
道子の「まず人の話を聴く」姿勢が秀逸で、固い表情がほぐれていく様が自然。
道子役木村望子さんのおばあさんぶりが素晴らしく、疲労感までが伝わって来た。

元引きこもりの青年が、修行中の由紀に友人の信一をよろしくと頼む場面。
引きこもりで学校へ行かなかった自分に、クラスの様子や行事のことを
返信が無くてもメールし続けた信一への感謝の気持ちがあふれていて
淡々とした台詞にボロ泣きした。
もしかしたら終盤の盛り上がりのシーンよりも、客席が泣いたかもしれない。
脚本の巧さと、役者の真摯な姿勢が見事に合致した場面だったと思う。

畑澤氏の教育者としてのものの見方が私は好きだ。
説教臭さを感じないでもないが、ユーモアと人の心への深い洞察力で
その普遍性に納得してしまう。
孤独な道子が人々に適切な助言をすることにより信頼を得て
だからまた人が集まってくる、という循環が温かくほっとする。
すべての人に先入観なしでまっすぐ向き合う道子の姿に、私も救われる思いがした。
メロン農家の罠

メロン農家の罠

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2017/01/12 (木) ~ 2017/01/18 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/01/12 (木)

夢も現実も失敗も、怒涛の台詞でぶつけ合うのが心地よいのは
次第に露わになる“本音”が清々しいから。
ここまで言うから、あのラストかぁ!と妙に納得。
役者がキャラに上手くはまって大変楽しかった。
お兄ちゃんもお姉ちゃんも、アマンダもいいセン行ってる。
台詞と演出の一体感が素晴らしい。

ネタバレBOX

上手はメロン農家の居間、下手に突き出た雑然としたスペース、
ここがCDショップの事務所やら、車の中やらに変化する。
もう10年も毎年メロンを盗まれる農家、今年こそはと罠を仕掛けたりしている。
現在10歳の妹が生まれてすぐに母は家を出て、その後父が亡くなり
家を守るのは独身の兄と、結婚に踏み切れない姉。
万引きなんかするような妹を心配しながら暮らしている。
そこへ姉に結婚を迫る男や、元ホスト、中国人研修生、風俗店経営者らが関って
怒涛のラストへと突入していく…。

人の好い兄(森崎健吾)のキャラがリアルで切ない。
妹の幸せを願い、みんなの幸せを願い、自分も幸せになりたいと願う。
そんな素朴なキャラがぴったりの風貌で実直な兄を熱演、惹き込まれた。

次第にエスカレートしていく姉(嶋谷佳恵)の言動も説得力がある。
登場した時は曖昧な返事をしながら意思表示の弱い人物像だったが
少しずつ不満を募らせて最後は大爆発、聴いていてスカッとした。

兄と妹が“本音トーク”でバトる演出が面白かった。
CDショップの夫婦が柔らかな関西弁で話すのも心地よい。
この脚本家は聴いても話しても生理的に心地よい台詞を繰り出す人だ。
相手を攻撃し罵倒する時でさえ、カタルシスを覚える。

下ネタや差別ネタは好みが別れるところだろうが
それも本音のひとつで、実はみんなが何かしら抱えていることだ。
最後、妹の暴挙が若干飛躍しすぎのような気がした。
ここまでのリアルな手触りが一気に漫画的になったようでちょっと残念。

初めて観た桃尻犬、面白い劇団だなあ。
隙の無い役者陣もキャラにはまって、生き生きと台詞を繰り出している。
台詞とテンポ、リズムが私的にはどストライク。
台詞と演出の一体感が素晴らしく、次の作品が楽しみになった。

コーラないんですけど

コーラないんですけど

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2016/12/30 (金) ~ 2017/01/02 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2016/12/30 (金)

三上晴佳さんと工藤良平さんにあて書きしたというだけあってドンピシャのキャラ。
少し歪んだ“日本の母子”が、“世界の現実”の濁流にのまれて行くさまが描かれる。
「この子の代わりに私が戦地へ…!」という愚かな母親がリアル。
それにしても音喜多咲子さん、3月に卒業式かってほどランドセル似合い過ぎ!

ネタバレBOX

母親が過剰な期待で次々と習い事をさせた結果、
ひとり息子はネットでゲームするだけの引きこもりになる。
何でもいいから仕事してほしい母親が持ってきた話は、
紛争地へ物資を運ぶという名目ながら実は戦闘員だった。
母子は厳しい現実を前にして、初めて引き離される。
そして数年後…。

母子の過去のやり取りが、役を入れ替えて演じられるのが面白い。
三上晴佳さんが幼い息子を、工藤良平さんが若い日の母親を演じる。
母子が互いに無邪気だった時代が描かれ、その行きついた先がこれか、と思わせる。
三上さんの子どもが絶品。
単に子どもの口調を真似るだけでなく、思考の幼さを表して巧み。

母親は常に傍にいるもの、そして拒絶するもの、と決めている引きこもり息子が
初めて社会に放り出されたらそこは紛争地域だった、というギャップの大きさ。
工藤良平さん演じる若い母親に深い思慮は無く、ただ愛情表現が
子どもの才能に期待して習い事をさせることに集中しているというアンバランス。
そして武器を携帯した男が普通にコンビニで買い物する近未来の日本、という設定。
すべては声高な変化ではなく、“日常の延長線上に存在する”ところが怖ろしい。

物流だけだと信じるノーテンキな日本は、やがて武器を持たされて
“やられる前にやらなければ殺される”状況に飲み込まれるだろう。
帰国した息子が目にした母親は、もう自分を息子だと認識すらできない。
老いた母親にかける言葉もない、息子の眼差しが本当に切ない。
近いうちにコーラやゲームなど人気商品は戦地でしか買えない、という
笑えない社会が現実になるかもしれないと思わせる。
作者の危機感がひしひしと伝わってくる作品。
ミカエル

ミカエル

MCR

駅前劇場(東京都)

2016/12/09 (金) ~ 2016/12/13 (火)公演終了

満足度★★★★

ガス爆発
主演の川島潤哉さんの演技に、観ている私も騙された。
こうまでしないと相手の気持ちは判らないということか。
そして判っても、それが幸せをもたらすわけではないということか。
櫻井さんの”個人の超身勝手な理屈に普遍性を見い出す”視点が素晴らしい。
主人公を取り巻くキャラの立ったユニークな人々が楽しい。
客入れ時から劇中まで、BGMが好き、3ブロックに分けた空間の使い方が上手い。
そして罵詈雑言は相変わらず“愛の証”。

ネタバレBOX

横長の舞台は3つに分割され、上手は友人の家、中央は喫茶店、下手はボロい部屋。
川島(川島潤哉)はマンションのガス爆発により記憶喪失となった。
妻の道子(外村道子)は、昔の楽しい思い出が残る部屋で暮らせば
記憶が戻るのではないかと考えて、懐かしのボロアパートに引っ越してくる。
ある日、町の喫茶店に入った川島は店の従業員飛鳥(後藤飛鳥)からひどく罵倒される。
記憶を失う前の川島は、いったいどんな男だったのか、そして飛鳥に何をしたのか…?

妻の前では理想のサラリーマンを演じ、飛鳥の前では奔放な自分をさらけ出す。
結果妻からは物足りなく思われ、飛鳥からは振り回されただけと言われてしまう。
求められる自分と本当の自分、使い分けは当人だけでなく相手をも疲弊させる。
そんな現代人の処世術を皮肉に眺める視線が鋭い。
周囲はただ面白がって情報収集するだけで、その心に寄り添うことはしない。

彼の記憶喪失が本物かどうかが、最後に明かされる構成なので
過去の再現シーンが無いことが物足りなさの理由かな。
だが再現シーンで男の二面性を鮮やかに見せるのも良い気がするけれど、
あくまで“川島自身”に添うかたちだったのも、それはそれでリアルな経過だった。

喫茶店のマスター(澤唯)が絶妙の立ち位置。
ダイナマイトボディ(古っ!)の伊達香苗さん、インパクト大!

ラスト、妻と愛人の対峙に思わず泣きそうになった。
一人の男の、全く違う面を愛した女二人が、傷つきながらもそれぞれを思いやる、
“会話しない会話”の妙が素晴らしかった。
これがあるから櫻井さんの罵詈雑言はやめられない。



「ヴルルの島 」

「ヴルルの島 」

おぼんろ

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

2回目の参加
前回とは反対側の席から観る。
ストーリーが判ったところで、今回は一人ひとりの台詞と声に集中して観たかった。
わかっているのにやっぱり泣けちゃうんだよなぁ。
それと今作品のビジュアルの美しさは必見。
一人ひとりの衣装やかつらなどがぴったりハマって、作品の世界観を見事に表現している。
創意工夫でしのいできた時代も素晴らしいが、このセンスと美しさも素晴らしい。


ネタバレBOX

おぼんろの魅力のひとつは、5人の役者さんがみな自立していることだと思う。
脚本の末原さんが生み出したイメージに対して、他の4人は与えられたキャラを
自分で構築していく、掘り下げていく、立ち上がらせ動かしていく。
演出は、その5本の糸を縒り合わせてひとつの世界を創り出す作業だ。
その結果がこの舞台であり、骨太なメッセージになる。

トリツキ(わかばやしめぐみ)がシオコショウ(さひがしジュンペイ)に言う、
「私はあなたがいないと生きていけないけど、あなたはそうじゃない、お勤めご苦労様」
という台詞には、「死んだお前の兄貴に、トリツキは俺が守ると約束したんだ」という
男に対する“寂しい抗議”のような女心がにじんでいる。
シオコショウもまた、“大切なものを奪われる恐怖”を知ったと告白する場面で
男の心情と弱さをストレートにさらけ出す。
こういうところに微妙な大人の味わいがあってとても好きだ。

ホシガリ(末原拓馬)とジャジャ(高橋倫平)の、次第に距離が縮まって行くあたりが良い。
ジャジャが語る島の歴史に、「しんどいな」というホシガリのぶっきらぼうな共感が
言葉少ないだけに深く伝わってくる。

アゲタガリ(藤井としもり)の台詞の一定の音程、鼻歌さえも計算された音程で
ロボットっぽく機械的でありながら台詞の絶妙な間が秀逸。
終盤「タスケテアゲル」と船を下りるアゲタガリに、ホシガリが大切な笛を渡したとき
「モラッテアゲル」と応じる台詞に万感の思いがこもると感じた人は多いと思う。
ボロ泣きさせる素晴らしい間のひとつだった。
アゲタガリ、どこかデヴィッド・ボウイを思わせるビジュアルが素敵。

どんな芝居も好みは分かれるものだが、おぼんろは唯一無二のスタイルを確立した。
次は“路上精神”と“劇団運営”の折り合いのつけ方だろう。
そこをどんな風に見せてくれるのか、主催の才能とセンスを信じて期待している。
この先メンバー5人が全身全霊で表現するものを見逃がしたくない。

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