疾走 公演情報 aibook「疾走」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2017/08/28 (月)

    キャラにドンピシャの役者陣が素晴らしい。
    松本紀保さんのたおやかさが際立って美しい。
    危うい人々から目が離せない1時間50分、
    それだけにラスト不思議な爽快感が残る。

    ネタバレBOX

    浅いプールのような演技スペースを挟んで対面式の客席。
    奥は地方都市のスナックの店内、反対側は福祉施設の屋上だ。
    この二つの場所を行き来しながら物語は進んでいく。

    スナックのママ可奈子(松本紀保)は、客のひとり柏木(瓜生和成)と不倫関係にある。
    義父の介護施設で働く柏木は、どうやら贈賄に関る仕事をさせられている様子で
    スタッフたちも不審な告発メールや噂に翻弄されている。
    スタッフの中には“戸籍が無い”と噂される浅尾(塩野谷正幸)もいて
    父親が疾走したという過去を持つ可奈子をそれとなく見守るようなそぶり。
    そしてある日、ついに柏木は追いつめられて…。

    理不尽な組織に都合よく使われ、犠牲になる人はいつの時代にもいるものだ。
    冒頭から、そんな恐れを抱いて柏木を見つめる人々の苛立ちが爆発する。
    妹はそもそも婿入りした兄が歯がゆくて心配で、ついつっかかってしまう。
    はらはらしながら見守る可奈子、「大丈夫」を繰り返す柏木はまるで大丈夫に見えない。

    失踪した可奈子の父と、“戸籍が無い”と噂される浅尾、
    そして今まさに組織から都合よく使い捨てにされそうな柏木。
    この3人が重なって過去・現在・未来、同じ悲劇の繰り返しが透けて見える。

    この作品の力強いところは
    人生は「疾走」、「疾走」するのは「生きるため」、死ぬくらいなら「失踪」しろ!
    というメッセージだ。
    やられっぱなしでたまるか、という窮鼠猫噛みの一撃が清々しい。
    可奈子の、柏木の妹に対する叫びが象徴するように、
    “さんざん見て見ぬ振りをしてきた人々”に、逃げた人間を責める資格などあるか、
    という倫理が大きな説得力を持つ。

    不器用な人々が吹き寄せられるように集まって来る店のママを演じた
    松本紀保さんがたおやかで素晴らしい。
    声にも仕草にも品がありすぎるが、水商売のしたたかさを持ち合わせるキャラが良い。

    責任感と罪悪感にまみれた柏木を演じた瓜生和成さん、
    冒頭から彼の重い疲労感が伝わる佇まいが秀逸で、「大丈夫」のリフレインが虚しく響く。

    謎の多い浅尾役の塩野谷正幸さん、柏木に「まだ間に合う」と詰め寄るところに
    説得力があり、それがまた彼の謎の過去を思わせて上手い。

    「木枯し紋次郎」のテーマ曲が非常に効果的。
    無頼で孤独な紋次郎の、だがその人生は絶望的ではない。
    “捨てながらも生きている”感じが登場人物すべてに重なって沁みる。

    人生は「疾走」、「疾走」するのは「生きるため」、死ぬくらいなら「失踪」しろ!
    その強烈な開き直りが人を救う。
    そこには、自殺などには無い、絶対的な希望があって観る者も救われる気がする。





    0

    2017/08/31 02:43

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大