泥の中 公演情報 VAICE★「泥の中」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2017/06/30 (金)

    会話の中に過去の人生が立ち上る面白さを堪能した。
    台詞と間の良さ、それに登場人物を予感させる見事な“ショボい店”のセット。
    男たちのキャラのバリエーションが絶妙。

    ネタバレBOX

    ちらと覗いただけで「やめとこ」となりそうな場末の酒場。
    いくつかのテーブルの間に不揃いなイスが乱雑に置かれ、
    ビールは店の隅のクーラーボックスから直接取り出し、つまみは乾き物のみ。
    (去年食中毒を出して以来そうなった、というのがすごい説得力)
    店主の満作(林和義)が小上がりで寝ているところへユリ(小林さやか)が訪れる。
    小学校時代から憧れの人、ユリを追って北海道から東京まで追って来た満作は有頂天。
    常連客の吾郎(省吾)、遠藤(有川マコト)、それに満作の腹違いの妹(なかの綾)は
    突然の展開に、それぞれの思いから狼狽する。
    東京から来た新たな客(本間剛)が加わった所へ、謎の男(古川悦史)が入ってくる。
    ことば巧みに人心を掌握していく男は一体何者なのか…?

    男はみんな純粋で、それは人を騙す男でさえも同じ。
    だが女は騙されない、常に騙す側だ。
    “騙している”という意識すらなく、軽やかに渡り歩く。
    翻弄され疲れ果てた男たちが集まるのが、この“名もない”店なのだ。

    登場人物全員が、どこかうさん臭さを持っているところがいい。
    それでいて、まだ何かを信じたりすがったりするピュアな部分が残っている。
    人を騙す人間は、その残ったピュアな部分に訴えかけてくるんだな。
    謎の男のことばに感化され、彼を「先生」と呼んで変化していく男たちが滑稽だが
    やがてその「先生」さえも煩悩に支配されていることが判明する。

    唯一達観したような存在が、ホームレスのサリーさん(松本哲也)だ。
    騙しも騙されもせず、異臭をまき散らしながら店の冷蔵庫から麦茶を出して飲む。
    周囲が“元は伝説の博打打ち”と勝手に設定しているのが可笑しい。

    芸達者な男たちの中で紅一点、胡散臭くて可愛い女を演じた小林さやかさんが上手い。
    不自然なハイテンションぶりと冷徹な観察眼が同居するしたたかさを持つ女、
    騙されたと判ったのちも、男が追いかけたくなる女を軽やかに演じた。

    緻密な台詞と絶妙の間が、会話劇の面白さを堪能させて飽きない。
    力の抜けたキャラが上手く配置されて“騙されキャラ”にもいろいろあるんだな、
    でも共通点があるんだな、と思わせる。

    満作を一番打ちのめしたのは、失ったものではなく、
    ユリの「役立たず」というひと言だろう。
    今この店を必要としているのは、誰よりも満作だろうと思った。
    サリーさん、助かって欲しいなあ。

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    2017/07/01 04:10

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