各団体の採点
マルグリット役の崎山莉奈は、ボブヘアーの美しさが目を引いた。娼婦は赤か黒のドレス、髪は長いものをまとめあげるのがオーソドックスでいいと思っていたが、青いドレスでボブヘアーのマルグリットは、かよわさよりも、自立したきっぷの良さを感じることができた。一人だけ、台詞のないダンサー(鈴木奈菜)がいて、体の張り、芯のバランスが際立っているなと思ってあとで調べたところ、Noismの研究生という経歴を持っていた。椅子を引き合う冒頭の振付けが印象的。身体能力を、あからさまに見せつける感じがないのに、強靭で美しい。古典をみごとに、若い俳優の体に落とし込み、スタイリッシュではかない『椿姫』を作り上げていた。
椿の花の降りしきるラストシーンでは、思わずこの言葉が脳裏をよぎった。「花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき」。しかし、若さを心に焼き付け、恋の憧れを永遠のものにするには、いちばん美しい瞬間に死ぬことがひとつの方法なのである。そういう説得力が、本作にはあった。
ちょっとした仕草、人間の位置関係や触れ合った瞬間など、さり気ないシンプルな動きから物語が紡がれてゆく快感が散りばめられていました。変化して行く男女関係が、コミカルだったり、色っぽかったり、あらゆる角度で見えてくるスリリングさ。遊び心あふれる趣向のかずかず、独創性のある場面構成、魅力的なパフォーマーが繰り出す無駄のない動き。とにかく、最後までワクワクして見ました。
パントマイム、ダンス、お芝居で、男女の恋愛の駆け引きを華麗に綴っていきます。ほぼ何もないと言っていい舞台空間ですが、机、イスなどの小道具を生き物のように使いこなし、ドラマティックな場面を次々と繰り出していきます。舞台上下(かみしも)に設置された照明器具もイスや机と同様に存在感があり、照明の明かりから生まれる光と影はもちろん、劇場内の木調の壁も活かしていました。
机を並べて大きなテーブルにすれば晩餐会、机上を歩けばファッションショー、テーブルの下にもぐり、また上にのぼる動きを大勢で組み立てれば、人間の上下関係が見えてきて、社会そのものが立ち上がります。身体表現で描く無言の群像劇はシビれるかっこよさでした。
衣装(駒井友美子)も良かったですね~!男性はスーツのアレンジ、女性は夜会服系のワンピ-ス。出演者の個性、体型にピタリと合っていて、それぞれに色とデザインが違うので、すぐに見分けがつきます。照明で生地の艶と質感も変化し、スカートの裾が揺れ、ジャケットの前身頃がはだける様も絵になっていました。
恥ずかしながら『椿姫』はオペラしか観たことがなく、原作小説に基づいたエピソードや演技については詳細まで理解できたわけではありませんでした。ただ、言葉ではなく動きや表情、視線から浮かび上がってくる物語は雄弁で、観客に向かって発せられていることがわかるから、私も常に前のめりな気持ちで受け取っていくことができました。舞台の作り手が媚びることなく、観客に物語を伝えようとしている、その姿勢がはっきりと出ているのが素晴らしいです。
娼婦マルグリットに恋する青年アルマンを演じた野坂弘さんは、目が大きくて表情が豊か。コミカルで瞬発力があり、無言でも多くのことを瞬間的に語っていました。驚いたり悔しがったりする時に、とっさに漏れ出る声のバリエーションが多いのも魅力でした。
アルマンが恋する椿姫ことマルグリット役は崎山莉奈さん。細い身体と少し子供っぽい表情は可憐な美少女の印象ですが、ダンスはとても力強いです。カクカクと体が折りたたまれていくような演技や、ピタっと静止したかと思うとすぐに動きだす所作に見入りました。
メガネをかけた男性で、「私」こと作者のデュマ・フィス役を演じた斉藤悠さんは、ハリウッド映画に登場するイタリアン・マフィアみたいにスーツが似合う!クールなヒール役が板についていて、どうかと思うほどかっこ良かったです。アルマンと女性を取り合って対立する場面にゾクゾクしました。
キレのある素早い動きが印象に残った短髪の鈴木奈菜さんは、Noismにも参加されているダンサーでした。彼女が動くと風が見えるようでした。
具体的過ぎず、抽象的過ぎず、そのバランスが本当に素晴らしかった。このオリジナリティは本当に貴重だと思う。
椅子などの小道具含めて、支え合う「バランス」が絶妙だったと思う。
美しいダンスのお芝居です。ダンスを通じて情感が語られ、ダンスやミュージカルが好きな方は感激されると思います。