グランプリ発表

審査員が第一次審査を通過した10作品を、日本各地の上演会場へ伺って審査し、
最終審査会議においてグランプリの1作品を決定しました。

最終審査会議

■審査基準
下記の6項目を[5段階]で評価し、最終審査会議にてグランプリ1団体を決定しました。

1 脚本 (歌詞・テキスト) チャートサンプル
2 演出
3 出演者
4 スタッフワーク(美術・照明・音響・衣装など)
5 制作・運営
6 家族・恋人・友人同伴のお薦め度

■審査の流れ
審査員はグランプリに推薦したい3作品を投票。複数票を獲得した4作品について議論しました。

まずは審査員それぞれが自分が推薦する作品について意見を述べました。 その後は「制作体制の信用度」「スポンサード公演となる次回作の魅力」「CoRichメンバーのクチコミ」なども論点に加え、 多角的に話し合いしました。

2時間半におよぶ熱い舌戦の末、グランプリに選ばれたのは・・・

それではグランプリの発表です!
グランプリ・渡辺源四郎商店「ショウジさんの息子」
グランプリ・渡辺源四郎商店「ショウジさんの息子」
吉田麻子 実の親子でもなく、嫁と姑でもなく、婿と舅という設定がいい。接点であった妻(舅から見れば実の娘)を早く亡くし、他人から見ればある意味「一緒に住む破目になった」義父と息子である。「やもめ感」丸出しが面白い。この二人が重大な選択を迫られる時、血縁のためでも生活のためでもない人間としての愛が溢れる。客席ではいい年をした男性が嗚咽を抑えきれないでいた。必ずしも必要でない役もあったように思えたし、息子の経歴にも少し過剰な要素があった気がしたが、家路に着く客席の一人一人に与えた影響は10作品の中でもピカイチだったと思う。演目への評価は高かったのにあっさりと決まらなかったことについては、「劇作家・畑澤さんへの評価と劇団への評価のアンバランスさ」を挙げた審査員がいたが、確かにその通りかもしれない。“なべげん”としての飛躍に期待して、100万円、上手に使ってくださいね。
高野しのぶ どんな人生にあっても、命を肯定して未来を見つめる覚悟が示された感動的な作品でした。ごく普通の日常生活の中で気づかない内に積み重ねられていく悲しみと喜びが、しっとりと空気にしみこむように表されていました。80歳の俳優・宮越昭司さんをはじめ、この作品に関わっている方々の優しさが舞台に満ちているように感じました。青森で暮らす人々が青森で創作したからこそ、生まれたものだと思います。
作・演出・出演された畑澤聖悟さんは、高校演劇界での実績は言うまでもなく、ラジオドラマや大手新劇カンパニーへの戯曲提供など、劇団外でも活躍されているアーティストです。エネルギッシュな畑澤さんとともに渡辺源四郎商店がカンパニーとしての力を蓄えて、独自の劇空間を青森から発信し続けてくださることを期待します。
小林靖弘 年老いた義父と息子の姿を、実年齢に近い役者が演じる。いや、演じるというより、陳腐な言い方だけど「生きている」という手触り。いつ何時、この家族に抗えない変化が起きるかもしれないという現実感が常に漂い、涙を誘わずにはいられない終幕の静かな5分に、人生の重さや家族の絆、そういった言葉にまとめづらいものが一気に押し寄せる。
「演劇のリアリティー」という言葉をよく聞くけど、その言わんとするところがようやく分かった気がしました。共演者のアクの強い演技、戯曲の展開の点で、違和感を覚えたところはありましたが、宮越さんのような高齢な方を俳優として迎えたプロデュース力、そしてなにより「言葉にできないもの」を表現しようという意欲と、それを実現する演劇表現への深い理解は10作品中随一だったと思います。これからも青森の新アトリエ(オープンおめでとうございます!)を拠点に、東京の演劇を刺激する渡辺源四郎商店の舞台を楽しみにしています。
木元太郎 どうにかして青森で観れないかとスケジュールをこねくりまわしてはいたのですが、新しいアトリエで観ることは叶わず、悔しい限りです。過剰とも思える周りの演技もそうですが、おそらくあの舞台美術がこの物語を「演劇」であることとして包み込むのに、工事中のアトリエ・グリーンパークで観ることには意味があったのだろうと思います。
感想には「観るのが10年早かったかもしれない」と書かせて頂きましたが、こうしてこの年でこの作品と出会えたことは、幸せなことだったのかもしれません。いつの日か、舞台上の二人をふと思い出し、あの日客席で泣いていた男性のように、涙を流すことがあるような気がしています。
次回公演はアトリエ・グリーンパークまで観に行ければと。
松月虎次郎 すごく感動した作品でした! 若い役者が元気にベタな笑いを提供して場を和ませ、年配の役者陣は静かな会話の中で、微妙な感情を伝える。 おそらく見る側の人の立場を充分配慮した繊細な演出により、観客はごく自然に作品にのめりこんでいき、本質が伝わるのだと感じさせてくだれる作品でした。 作品の中で、登場人物が全員心温かい人物像で描かれてはいたのですが、役者さん自身も優しい人たちに違いないと思わせられるほどの好演で公演終了時には劇場全体が温かい雰囲気に包まれていました。
是非、この感覚を世界中に広げて欲しいと思います!

※スポンサード公演は、青森・東京公演がある『どんとゆけ』です。

※審査員がグランプリに推薦したい3作品を投票し、複数票を獲得した4作品はこちらです。

(上演順)
・MCR『シナトラと猫(改訂版)』
・柿喰う客『恋人としては無理』
・パラドックス定数『HIDE AND SEEK』
・渡辺源四郎商店『ショウジさんの息子』

MCR
採点【MCR】
吉田麻子 私の仕事のひとつに、若い才能ある劇団や劇作家をいち早く見つけ、全国放送に乗せて紹介する、ということがある。シアター・テレビジョンが開局した十数年前はインターネットの普及もまだまだだったし、劇団が必ずしもホームページを持っているわけではなかった。ましてや劇団が自分で公演を収録し、DVD(その当時はビデオ!)にして売るなんて少数派だった時代だ。全国の人々に、「とにかく見てもらう」ことができる、シアター・テレビジョンで放送をする、というのは宣伝の一手段なのだ、と劇団を説得した。最初は懐疑的だった劇団も、思いもよらない地域からカキコミをしてくれたり、遠方から観劇に来てくれたり、と、リアルな反応が増えるにつれて柔軟になっていった。今回「クチコミ」文化の一端を知り、良くも悪くも劇団はますますうかうかしていられない時代になったのだな、とちょっと気の毒になると同時に、結成したての劇団も立派に勝負することができるのだという公平感も感じた。「テレビ」という手段を使ってはいるが、舞台芸術に多くの人に足を運んでもらいたい、という気持ちは同じだ。CoRich舞台芸術!の皆様、新しい劇団に出会う機会を与えてくださってありがとうございました。
※吉田がどうしても観に行けなかった公演はシアター・テレビジョンの社員が代 理で鑑賞しました。
高野しのぶ 観れば観るほど舞台芸術は奥深いもので、私はここ数年で全く違う人間になるぐらいに自分が変わった気がしています。面白おかしく笑ってすっきりしたり、スリリングな物語に我を忘れてのめりこんだり、歴史上の事実を肌で実感したり、舞台で起こることを材料に自分自身について考えたり。生まれたばかりの芸術団体に人生に必要な大切なことを教えてもらうこともあり、劇場へと通うモチベーションは上がるばかりです。
昨年に続き今年も、しっかりと芯が通った個性を持つ10作品に出会うことができました。渡辺源四郎商店の他には、したたかな“悪ノリ”が飛ぶ鳥落とす勢いに発展しつつある柿喰う客、脚本・演出ともに確かな力を見せてくれたパラドックス定数を推しました。
「CoRich舞台芸術まつり!」は、審査のポイントに“制作・運営”という項目があることも特徴の1つです。劇団衛星の方々の穏やかで温かい接客姿勢に癒されました。一観客としては“大勢の誰かさん”ではなく、“たった1人のあなた”を迎える意識を持った公演が増えてくれたらいいなと思います。
小林靖弘 「審査をするために観る」そのことを意識していたため、10作品とも語るべきものを探すように、いつも以上に身構えて観ていたように思います。多分、しかめっ面をしてにらみつけるように観ていたでしょう(笑)。それでも、力のある作品は理屈をこねる頭を突き抜けて、心の琴線に直接触れてきました。MCRはたたみかけるような鋭い笑いによって、パラドックス定数は物語と視覚の魔力によって、そして渡辺源四郎商店は演じることを超えたリアリティーによって。もちろん、ほかにも一瞬のきらめきを見せてくれた作品がありました。 年齢を重ねるにつれ、芝居を観ても心揺さぶられることが少なくなってきてましたが、今回審査員を務めてみて、小劇場の芝居はもっともっと隠れた驚きのツボを押してくれそうな気配を感じました。嗚呼、また小劇場通いに精を出さねば。
木元太郎 審査のポイントの一つとして、100万円の受け皿となる劇団そのものや次回公演について考え、半年先や1年先への思いをあれこれめぐらすとき、なによりも、若い才能というものには本当にわくわくさせられます。もちろんグランプリを受賞した渡辺源四郎商店の、青森の新しいアトリエでの公演や、次回の東京公演も楽しみではあるのですが、それ以上の何かを選ばれなかった彼らに感じてしまいます。それは単に今ある勢いが魅せる一瞬の輝きなのかもしれませんが、そこにはこの同じく若いフェスティバルの未来すら乗っけてしまいたくなる確かな熱量があるように思えて仕方ないのです。
何故か。きっとなべげんを観たからです。
80歳で演劇ができることを目にした今、その可能性の広がりは無限です。
松月虎次郎 今年もアーティストの皆様のパワーを存分に感じた「舞台芸術まつり!」でした。どうすればこんな素晴らしいストーリーを思いつくのか、この場面でそのセリフを言わせるのは凄い、など日々関心するばかりで日常生活では味わえない刺激的な期間を過ごせました。
中でも「パラドックス定数」は小説の登場人物の表現方法が見事でしたし、笑いもバッチリ、ストーリーにもワクワクさせられました。特に一番うっとおしいと思っていた登場人物が自分だと言われた時の、「上手い」と思ったと同時にビックリさせられた感覚など、観ている最中にこちらの感情が揺さぶられるところも含め非常に面白い作品でした。「MCR」は面白い作品という意味では安定度抜群の団体だと思います。すごく良く練られた脚本で、爆笑の連続というだけでなく、社会の問題を絡ませながらちょっとした感動も与えてくれる、内容の濃い作品でした。その他の作品もそれぞれ随所に感心させられる点があり、楽しい時間をすごさせて頂きました。
今回も舞台芸術界は天才の宝庫だと感じさせられました。また次回、新たな才能と出会える日を楽しみにしております!

ご参加して頂きました劇団の皆様、
クチコミを投稿頂きましたCoRichメンバーの皆様、本当に有難うございました!

今後はグランプリ受賞団体へのインタビュー掲載と合わせて、
スポンサード公演のチケットプレゼントを実施します。
どうぞお楽しみに!

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