柿喰う客
採点【柿喰う客】

他の作品を全く見てない分、ハードルを上げることもなく興味から入り込めた。超ハイスピードな展開にもついていっている自分にびっくり。役者たちが小道具一つで一つの役を入れ替わりながら演じていく演出は珍しくはないけれど、役者の技量は相当なもの。元ネタが聖書からきているというのは興味深く、「恋人としては無理」という人間臭い部分につなげた脚本はよかった(圧倒的な情報量を精査する間もなく終わってしまった感は否めないが)。フランスにも行って(しかもこの演目で!)、凱旋公演なのにたった一日の上演!それ自体がやったもん勝ち!そのまま突っ走っていただきたい。

 イエスと12人の使徒のお話でした。フランスで新約聖書ネタを上演する勇気にまず乾杯(笑)。5人の役者さんは全員が黒装束です。「ヘッドフォンをしている」のはユダ、「マフラーをしている」のはピラトという風に簡単な目印で役の違いを示し、持ち物や被り物を変えてスピーディーに入れ替わりながら演じます。

 5人の男女が次々と演じる役を変えていくのはもちろん、役柄の口癖や発音を演じ分けていく面白さもありました。セリフにはだじゃれやギャグがこれでもか!と言わんばかりに盛り込まれており、独特の単語の並び方に脳みそがくすぐられるような感覚を覚えました。

 観客を圧倒する大量の早口なセリフや、いきなり緊張感の頂点から始まることについては、演出に工夫が必要な気がします。観客が自ら進んで入り込むように誘導してもらえたらなお良くなると思います。
 演技については、きびきびと動いて言葉の重みも表現してくれる達者な人と、そうではない人との差が目について残念。特に大声を張り上げっぱなしにするのは、個人的にとても苦手です。

 開演前はフランスでの劇団員の様子を撮った映像を流していました。長時間のフィルムをしっかり編集したサービス精神は素敵だと思いますが、あのはしゃぎっぷりには引いちゃう人もいたんじゃないかと、少々心配になりました(笑)。屋根にワンワンニャンニャン(だったかな)と書かれたお店は、私もパリで見つけて笑いました。

フランスで上演してきたんだそうで。しかも字幕なしで。その度胸に恐れいります。でも、確かによく動いてしゃべりまくるスタイルは圧倒的な勢いがあったし、モチーフがイエスと十二使徒の話なので、いわゆるせりふ劇として捉えなければ、フランスの人にも伝わったかなと思います。「イエス大好き人」の集まり=使徒という設定は面白いんだけど、さらにストーリーとしてその設定を生かせれば、だいぶ印象も変わったと思います。身体と声と小道具だけで怒涛の1時間を繰り広げたパワーは買いたいですが、今回は、圧倒されただけで終わってしまいました。

観る度にスタートの置いてきぼり感が増してる印象の柿喰う客(笑)
今回は開演前の場内にフランス公演の際の映像が流れており、それを見る役者の状態がゆるりと自然体だったため、新たな展開を期待したりもしたのですが、やはりオープニングから全力疾走。これはこれでエネルギーとして面白かったりもしますが、いつも以上に速い気も。
帰国報告会で話されていたフランスの観客や、柿喰う客と同じ大会に参加していた韓国の方とは違い、キリスト教はやはり遠く、登場人物や設定を掴むのに少し時間がかかっている部分もあるかと思います。

すごく無理のある話と演出だったと思うのですが、ダイナミックに伝えられるうちに、次第にペースに飲み込まれ、すごく楽しかったです。ベースが宗教の話でありながら面白い観点で表現されていて、感心したり、大爆笑させてもらったりした、若さ&パワー溢れる作品でした。

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