満足度★★★★
ネタばれ
ネタバレBOX
『さなぎの教室』を観劇。
『夜、ナク、鳥』を改題して上演。
今作は2002年に福岡県久留米市で起きた、看護師による保険金殺人事件をモチーフにしている。
看護師になる為に実習を受けている仲の良い看護師志望の四人組。小難しい患者、慣れない注射など、大変ながらも皆で励ましあい頑張っている。
そして数年後、その四人は自ら学んだ医療知識を利用して、身内を殺害し、保険金を得ようと画策しているのである。
一人殺し、そしてまた殺し、皆がリーダー格のヨシダの言いなりになり、犯行を犯していく。
「彼女らは何故?そのような行為をするに至ったのか?」
「まるで弱みを握られているかのように、何故?ヨシダの言いなりになり、性行為すら強要されるのか?」
舞台では、ヨシダと看護師たちの歪んだ関係と、犯行計画が描かれ、「何故?」の疑問が、展開が進めば進むほど、湧き上がってくるのだが、その問いには答えようとせず、目を背けたくなるような人間関係をひたすらに描いていく。
そしてこの流れが終わりまで続くのだが、最後に回想で、看護師の夫を急性アルコール中毒で殺害している看護師四人の姿と実習をやっと終えた看護師四人の晴れ晴れとした姿を交互に見せられた瞬間、湧き上がってきた問の答えのようなものが一気に見え始めてきてしまうのである。
そして見え始めてきた後の余韻は果てしなく、重いのである。
傑作である。
満足度★★★★★
歴史的傑作が誕生!
ネタバレ。
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木ノ下歌舞伎『摂州合邦辻』を観劇。
18歳の時に初めて観た状況劇場『住み込みの女』の興奮と震えは未だに忘れられない。
それから数々の演劇人からそのような興奮を受けたが、特に震えたのは、
第七病棟の『ふたりの女』
第三エロチカ『新宿八犬伝』
劇団・離風霊船『赤い鳥逃げた…』
蜷川カンパニー『95キログラムと97キログラムの間』
つかこうへい『飛龍伝』
NODA MAP『The Bee』
ポツドール『新・人間失活』
シルヴィギエム『ボレロ』(但しこれはバレエ)
など多数だ。
最近では平田オリザの現代口語演劇の影響からか、小劇場から、熱く、興奮させて、震えさせてくれる作品が少なくなっている。それは平田オリザが始めた現代口語演劇によって、バブル時代に始まった熱い小劇場シーンの流れをすっかり変えてしまったからだ。そんな僕も平田オリザに傾倒しているくらいだ。
だが、そんな最中、久しぶりに興奮と震えが翌日になっても未だに止まない歴史的傑作を目撃してしまったようである。毎作ごとにどれも完成度は高く、満足いく作品ばかりだが、今作は演出家・糸井幸之助と女優・内田慈の出会いによって出来上がった作品は、演劇鑑賞人生において、ベスト3に入る勢いだ。
妙ージカルというと称す変わったミュージカルを作る糸井幸之助が作る哀愁漂う歌とダンスナンバー、浄瑠璃作品の伝説的な話を昔か今か未来なのか分からない時代設定、そして内田慈の魔性と狂気をはらんだ変幻自在な芝居、もうこれは白石加代子と緑魔子と並ぶ名演だ。
これは
『鈴木忠志と白石加代子』
『石橋蓮司と緑魔子』
『野田秀樹とキャサリンハンター』
そして『糸井幸之助と内田慈』という感じだろう。
何が何でも絶対おすすめ!
と言いたいが、どうやら全くチケットは取れないらしく、関係者ですらも。
ただ当日券はあるみたいだが,,,,,。
満足度★★★★
ネタバレ
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鴻上尚史が率いる虚構の劇団の『ピルグリム2019』を
鑑賞。『第三舞台」時代の傑作芝居の再演。
作家として連載を打ち切られ、創作意欲が欠乏したした作家・六本木。
そこに編集者から新たなる提案を打ち明けられる。それは六本木の作風とは真逆な、現在を問うた、世界観を構築する内容であった。
そしてその作風に登場するピルグリムたちの旅が始まるのである。
六本木が書いている書斎と旅するピリグリムたちの姿が同時進行で、舞台は進行して行くのである……。
かなり昔の作品で、内容は現代に合わせて脚色されている。
時代と世の中の環境は変われども、人間が求めている心のオアシス存在はそれほど変わっていないようだ。
そして以前より人間関係がややこしくなっているのは間違いないが、それは便利さを追求すればするほど、比例するように失って行くものも大きく、人間の苦悩はいつの時代も変わらない。
第三舞台の頃と変わらない、軽妙で、明るく、楽しい舞台であり、観客の感激度は満点で、最強だ。
そして「これこそが小劇場の面白さだ!」と叫んでいる。
だが描き方は変わらずとも、野田秀樹同様、描かれる背景は非常に重く、20代の頃の鴻上尚史は、今ではそこにはいない。
夢の遊眠社と第三舞台、小劇場時代のトップを争った劇団であったが、描く世界の向かう先が、互いに正反対になっていたのは驚かされた。
満足度★★★★
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青年団の『ソウル市民』と『ソウル市民1919』を観劇。
再演である。
『ソウル市民』
1909年、韓国は日本による植民地が進んでいる。
そこで文具店を営んでいる篠崎家の家では、韓国人をお手伝いさんとして
数人雇っているほど、豊かな生活を送っている。
そんな篠崎家では、様々な客人の来訪、息子や娘の将来、何もしていない書生たちが日がな一日、平和な日々を送っているのである……。
『ソウル市民1919』
1919年の韓国では、日本の植民地支配からの脱却の為に、抵抗運動が盛んである。だがそんな事すら知らない篠崎家では、何かのお祭りかと勘違いをしているようである。
そして3月1日、篠崎家で働いている韓国人のお手伝いさんが、急にいなくなってしまうのだが、篠崎家はこれまた日がな一日、平和な日々を送っているのである……。
人が人を支配している恐ろしい様子を描いている。
だが描かれるのは、支配している側からのみ描いていて、全く支配すらしていることすら感じない、想像力の欠如の人たちの日常だ。
それを口語演出で描いているからか、その恐怖を観客が掴み取ることの難易度の高い芝居になっているが、それを掴まなければ登場人物と同じように、観客自身が想像力欠如の人間になってしまうのである。
30年前に、現代口語演劇が幕を開けた、初めての芝居である。
満足度★★★★
ネタバレ
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遊園地再生事業団の『14歳の国』を観劇。
再演である。
ちなみに今作の劇場は、早稻田小劇場(現在はscot)が拠点にしていた劇場である。
1997年に神戸のニュータウンで起きた、14歳の少年が犯した事件が背景になっている。
生徒が体育の授業で校庭に出ている間、先生方は生徒の鞄の持ち物検査を承諾なしに行なっている。
それは事件以降、生徒がナイフを学校に持ち込んでいるかもしれない?と疑心暗鬼になっているからだ。
先生方はそれが疾しい事と分かっていながら、教育という倫理を持ち出し、己の行為を肯定しているのである。
そしてナイフは見つかるのだが、それを手にした先生方は、驚く行為に走ってしまうのである…..。
舞台は教室で、生徒は一切出てこず、先生のみで行われる芝居である。
先生側から見た、いや大人側から見た事件に対する何故?の問いかけから始まっている。
だが先生方がナイフを手にした瞬間、その答えらしきものに観客が行き着いてしまうのである。
それが答えかどうかは明確には提示してはいないが、その少年と同じような状況になって初めて、
少年の心中が見えてくるのではないか?という終わりになっている。
事件が起こると原因ばかり探ることに躍起になってしまうが、それでは事の本質を捉えていることは出来ない、と作家は言っているようである。
満足度★★★★
ネタバレ
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阿佐ヶ谷スパイダースの『MAKOTO』を観劇。
生まれつき心臓に穴が空いている水谷の妻が、穴を埋める手術を行うが、医療ミスにより亡くなってしまう。妻を失った水谷は、悲しみの穴を埋めようと躍起になるが、上手くいかない。
そして思い出に残している妻の洋服を、少しづつ燃やす事で、忘却の彼方へ行こうとした瞬間、とんでもない力を得てしまうのである。
全く先の読めない構成の羅列で、「忘却」をテーマに過大に掲げているのが注目すべき点である。
以前にイギリス留学から帰ってきて作った大傑作『荒野に立つ』に近い作品だ(自分の失った目玉を探す話)。
水谷の「忘却」だけを頼りに、意図的に構成をずらし、一切回収せず、誰が観ても首を傾げて、困惑すらしてしまう展開になっている。
そして鑑賞後、「この芝居は一体なんだったんだ?」と観客は嫌でも考えざる得ない状況に追い込むのが、長塚圭史の芝居の後味の良さであり、面白さでもあるが、昔の阿佐ヶ谷スパイダースのファンは、きっと絶望する作品でもあるのは間違いない。
新生、阿佐ヶ谷スパイダース、次回作も楽しみである!
満足度★★★★
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二兎社の『ザ・空気 ver2 誰も書いてはならぬ』を観劇。
前作が演劇界では話題になり、今作は続編。
ジャーナリストと政治家の癒着の話。
保守系大手新聞社の論説委員が、総理大臣に記者会見の質問内容を事前に漏らしてしまう。それを知った社員記者が内部告発をしようと、他社のリベラル系全国紙政治記者に相談する。
そしてそこにたまたま居合わせた弱小会社のネットジャーナリスも参戦して、総理大臣を追い詰めようとするが、大手新聞記者たちは会社からの圧力と己の保身により屈してしまう。
そして取り残されたネットジャーナリストは、事態を世間に広めようと孤軍奮闘するのである。
理想を持ったジャーナリストたちが、政治家を追い詰められないジレンマを描いているが、それは己の保身との戦いでもあるというのが、今作の見所である。
理想ばかり掲げるエリートの大手新聞記者が、結局は保身に走ってしまい、己の理想を成し遂げられなかった忸怩たる思いがあれば良いのだが、それすらない、いやその感性を意図的に脇においてしまうのが問題である。
今作はコメディー調のややふんわりした描き方とボカしながらもモリカケ問題を中心に描いているからか、見終えた後の余韻は長引きそうだ。
作品の出来も質も高く、一級品になっている。
そしてかなり面白い!
満足度★★★★
ネタバレ
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庭劇団ペニノの「蛸入道 忘却ノ儀」を観劇。
毎度ながら奇妙な世界に誘ってくれるが、今作は遥かに度が超えてしまったようだ。
今作は撮影スタジオでの観劇である。
スタジオの入り口で、教本と楽器を渡される。
そしてスタジオに入ると、そこは薄暗い寺の堂内のセットが組まれている(まるでセットに見えない)
そして演出家から蛸についての講義が始まり、8人の信者が登場し、太鼓の音と共に、お経を唱え始める。信者たちのがなり立てる楽器や踊りで、観客は蛸教の信者になったかのように覚醒させていき、終いには聖水まで飲まされ、一気に蛸教のお祈りが炸裂していくのである。演劇を観ているのではなく、宗教団体の一員になったのではないかと錯覚すらしてしまうのである。
もうこれは物語を通して語る演劇では成し得る事が出来がない、演出家・タニノタロウが考え出した、彼の世界観に没入させる新たなる手法といっても良いだろう。
そしてここで描いている蛸教は、何時ものタニノタロウの世界観だ。
果たしてこれは演劇か?と思うかもしれないが、そんな考えは邪道で、これもひとつの表現といえば表現で、あの寺山修司ですら考えつかない手法でもある。
だが、とてもお勧めは出来ない。
満足度★★★★
ネタバレ
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平田オリザの新作『日本文学盛衰史』を観劇。
明治時代の有名作家の通夜の席での芝居。
一幕物だが、四場あり、全て通夜の場である。
毎回同じ面子が集まる通夜の席で、文豪達は新たなる文学の幕開けと
時代の不安感を感じながらも、故人に思いを寄せている。
いつもながらの永遠と続く会話劇で、通夜に集まっている人たちの会話の内容は、近況報告やら世間話ばかりだ。
場が何度変わっても、話のうねりはなく、まるで同じ場面を何度なく観せられている錯覚に陥る。だが毎回の場にうねりがなくても、時代背景が大きくうねっているのが見過ごせない点だ。
だから今作は、目の前で起きている出来事は、絶えず同じ物を永遠と観せられてはいるが、頭の中では、時代背景が絶えず忙しく動き回っている状態になっている。
そんな状況を2時間近く観せられていて、「何時もの如く、きっとこのままで終わるのだろうな?」
と思いきや、最後に全てを破壊してくれるのである。
いつもと違う平田オリザを存分に味わえるのである。
誰もが真似出来そうだと錯覚しそうな「平田オリザの現代口語演劇」は、
やはり本人しか作れないオリジナルだ。
満足度★★★
ネタバレ
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唐組の『吸血姫』を観劇。
今作は「銀粉蝶」が客演しているのが大きな目玉だ。
過去では、「川村毅」以来の大物登場だ。
初っ端からいきなり舞台奥が開いたかと思うと、ステージに乗った銀粉蝶が登場だ。その姿はまるで李麗仙か緑魔子の幻影を見ているようでもある。その役どころも歌手デビューを目出している看護師で、前半は出ずっぱりながら、下劣で強烈な印象を残して行く。
しかし真のヒロインは引っ越し看護師・大鶴美仁音である。彼女と少年・肥後守のふたりが、関東大震災後の混乱最中、天職の探しの旅に出るのである。
混乱している社会背景に、大陸を股いでいく物語だが、話が進んで行かないのは毎度の事だ。
そして話の発端がなく、物語の無さに混乱をしながらも、その状況に投げ出されてしまった登場人物たちの葛藤が物語の軸となるのである。
そしてその葛藤と破茶滅茶な行動倫理も俳優のセリフと肉体を通すと、とても美しく、心地良い気分にさせてくれるのが、紅テントに通ってしまう秘密でもある。
だが今作の物語の混乱と登場人物の葛藤にはついていけず?という感じだった。
でも大鶴美仁音のヒロインはなかなかだ。
満足度★★★★
ネタバレ
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イキウメの『図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの』を観劇。
今作は3つの短編で、時代設定が昔と未来ながら、僅かな箇所で繋がっている。
人はそれぞれが感じる感情や衝動、思い出を常にさらけ出す事はせず、時と場に応じてコントロールしている。
もしそれを抑制しないと社会では真っ当に生きていけないからである。しかし「その物が一体全体何処から来ているのか?」とその事を探求し始めると、己自身が制御出来なくなり、別な世界に入り込んでしまった可哀想な人と世間では思われてしまうのである。
そう今作は、誰でも現実的に簡単に行ける、異次元への入り口を教えてくれる芝居なのである。
満足度★★
ネタバレ
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岩井秀人の『ワレワレのモロモロ』を観劇。
ハイバイの岩井秀人の芝居はもう観ないと決めていたが、ゴールドシアターなので観劇を決意。
自分自身の体験を下に、私小説演劇として『て』『ヒッキー・シリーズ』などで新しい劇の流れを作り出した劇作家である。
今作は演じる人の人生経験の話しを下に、岩井秀人が構成して、人生経験者本人に自演させているシリーズである。
今作の興味深いところは、人生経験豊富なゴールドシアターの自作自演なので、何が出るか?と期待大ではあったが、どうやら何も出ず?という感じであったようだ。経験者の体験した出来事の掬い出している箇所がとても平凡で、それが本人が演じる事によって何か違う風に見えたり、違う視点で見えてくるというのがこのシリーズの狙いのようだが、素人が演じるか、上手い役者が演じるかのどちらかでないと、狙いは上手くいかないのではないか。特に中途半端に小慣れているゴールドシアターの俳優人には無理のようであった。いや俳優より演出の問題が多分にあると思う。
とても退屈な芝居であった。
満足度★★★★
ネタバレ
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月刊・根本宗子の『紛れもなく、私が真ん中の日』を観劇。
中学生で、お金持ちの山中さんは、毎年誕生日会を行っている。何時もはお金持ちの4人の友人だけで行うのだが、今回はクラス全員(女子のみ)を呼んで行う事になった。だがいざ集まってみるとお金持ち、中級家庭、貧乏家庭と子供ながらでも階級の格差が生じてしまう。
そしてそんな最中、山中さんのお父さんが淫行事件を起こし、逮捕された事から、一気に子供達が階級を超えた、女性特有の感情の大爆破が起きてしまうのである……。
今作も前作同様、短な出来事を、物語らしい展開すらなく、台詞と俳優の熱量で一気に攻め立ててくる。俳優が上手い下手などは一切関係なく、キャラクターの持っている役柄を、俳優が組み取り、演じている様だ。まるでそれは唐十郎の「特権的肉体論」の基本である、舞台は戯曲からではなく、俳優の肉体のみよって作られるという論理を、作・演出の根本宗子が継承しているとも受け取れるが、作風からは唐十郎の影響は一切受けていない様であり、ただ演劇の論理が似ているだけであろう。
そして今作は、毎作ながらの感情の爆発の後に感じる、スカッとした気持ち良さで終わる事なく、後味の悪さを感じさせる終わり方に、新たなる根本宗子の作風を感じとる事が出来たのが大きな発見だ。
紛れもなく、今作も圧倒的に面白いのである。
満足度★★★★
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平田オリザの『革命日記』を観劇。
舞台は現代。
マンションの一室では、新左翼の革命家たちが、管制塔と国会議事堂を占拠する計画を練っている。そんな最中、隣人が町内会の役員になれとしつこく迫ってきて、作戦会議が邪魔されてしまうのだが、一般市民を装っている手前、無下に出来ずに対応してしまう。そしていざ会議が始まると革命についての熱い議論が交わされるが、またもや同じ隣人に邪魔されてしまう。そして再び作戦会議が始まりだすと、外で事件が起きてしまい、それどころではなくなっていくのである…….。
今作は、目的は違えども集団が出来上がる過程と既に出来上がってしまった集団の姿を描いている。
善意で地域に貢献しようとしている人達が、人を集めて、町内会を作り、何かを成し遂げようとしている姿と既に確立されている集団が、善意で、国家の為に正義を知らしめようとしている姿である。
そんな二つの異なった姿を見せられるからこそ、必ず起こる集団での狂気の原因が何なのか?を否が応でも垣間見ようとしてしまうのである。
何時も面白い平田オリザだが、今作は格別に面白い。
満足度★★★★
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串田和美の『白い病気』を観劇。
原作はカレル・チャペック
とある独裁国家で、働き盛りの50歳以上の人間が感染し、死に至る病気が発生する。
ワクチンが開発されずに困っているところに、ある医者がワクチンを作り出す。
だが医者は、独裁者にワクチンと引き換えに戦争中止という取引を持ち出すのだが……。
なんとまぁ〜、この時期にこの演劇を持ってくる串田和美には驚かされたが、こんな戯曲が過去に書かれていたのも更なる驚きである。昔も現在も世界は全く変わらず、一歩間違えれば世界は破滅するという現在の状況の方が更に恐ろしい。
今作は音楽劇にしていて、医者がピエロの様なキャラクターを演じているのが興味深い点でもあるが、そこにコメディーを見出そうとすると相反する効果が生じてきて、恐怖を感じてしまうのである。
そして最後に更なる絶望へと観客は叩き落とされてしまうのである。
とても観るに耐え難い芝居である事は間違いなく、演劇の社会での存在位置というのを改めて考えさせられる芝居でもあった。
満足度★★★★
ネタバレ
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木ノ下歌舞伎の『勧進帳』を観劇。
内容は変えずに、セリフは現代口語で、舞台セット、衣装、音楽などは大きく変えている。
武蔵坊弁慶は外人で、体格は大きく、関西弁を喋り、義経は男性の設定だが、女性が演じている。
義経と弁慶と家来達が関所をどのようにして超えて行くか?を弁慶たちと関所を守る冨樫左衛門の二つの視点で描きながら、関所を超える瞬間をクライマックスと思わせながら、難を逃れた後の弁慶と義経の愛の形を最高の形で見せてくれる。
だがそれも主従関係なので、手さえ握れず、側にも寄れず、見つ目合う事すら出来ず、言葉もない中で、二人は微動だにせず、その後ろで家来たちがラップの歌いながら、その歌詞が彼等の心情を表し、深くつき刺さるのである。
もう涙が出ない訳がない。
そしてこれこそが『勧進帳』いや歌舞伎の一番面白い所を一番面白くするのが、木ノ下歌舞伎の得意とするところである。
今作は再演で、既に傑作と言われているが、傑作ながら、一級品に仕上がっているのは間違いなのである。
そしてこれから一週間程、今作の感激が自身から離れずにいるのであろう…….。
お勧め。
満足度★★★★
ネタバレ
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月刊根本宗子の『バー公園じゃないです』を観劇。
毎回、笑いと興奮をさせてくれる劇団で、今作も全く期待を裏切らず『凄く面白い!』のである。特に『年間何本芝居を作ってんだ?』というくらいに、大小様々なタイプの公演をしているのも驚きである。
そしていつも描くのは、半径5m以内の物語ばかりながら、話の盛り方が上手く、女性の視点で、女性の感情の起伏を物語の焦点に持ってきているのが、一番の魅力である。
女性を描くのを上手いのは『ブス会』だと思っていたら、今や根本宗子と言っても過言ではない。
そしてその感情の起伏を物語に頼るのではなく、役者の熱量と演技力で見せてくれるのが、生で観て、興奮出来るという理由でもあろう。
面白すぎるので、お勧めである。
満足度★★★★
ネタばれ
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渡辺源四郎商店の『ハイサイせば』を観劇。
青森の劇団で、かなり良質な作品を作る劇団。
戦時中に敵国からの無線を傍受されない方法として、琉球語と津軽弁が採用される。
それは同じ日本人ですら内容が理解出来ない上に、敵国には更に理解出来ないという理由のようである。
そして沖縄から二人、青森から二人が選ばれ、作戦を遂行していき、見事に成功したようだが、
実はその裏には隠された本当の作戦があったのである……。
時代設定が戦時中になっているが、昔も今も変わらない沖縄問題、
失われつつある地方の方言、個人の尊厳などがテーマとして描きながら、
そんな状況に陥ってしまった瞬間の人間の苦悩を描いている。
戦況下の話だから、登場人物の卑劣な行為は仕方ないし、その状況に追い込まれないと分からない?
と言い訳をしながら観てしまいがちだが、もしそこで少しでも良いから立ち止まっていたら、
時代は大きく変わっていたのかも知れないとも感じてしまう。
重い内容ながら、方言芝居にコミカルさを感じつつも、戯曲と演出力がテーマを深く掘り下げているようだ。
傑作である。
満足度★★★★
ネタバレ
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AKT(元・北区つかこうへい劇団)の『熱海殺人事件・モンテカルロイリュージョン』を観劇。
五年前にも観たが、再度観劇。
阿部寛を世に知らしめた作品として有名で、熱海シリーズでは一番の傑作。
熱海で起きた山口アイ子殺人事件を調査している木村部長刑事、水野刑事。そして速水刑事も参戦して事件を解決しようとするのだが、同時に木村部長刑事がオリンピック選手時代に起こした殺人事件の容疑もかけられ、各々の秘められた過去が暴かれ始めていくのである。
今作の注目してすべき点は、速水刑事(兄がオリンピック選手)以外、全員がオリンピック選手だったという事だ。山口アイ子事件もオリンピックという栄光を目指した事が原因で、仕方なく起きてしまった事件だ。
熱海シリーズは、事件の解決を話しの中心として捉えていき、その中で容疑者の悲惨な過去が暴き出されていくのだが、今作だけはオリンピックの選手の光と陰を中心として描いていき、事件を解決していく事は二の次にしている。
それ故に、オリンピック選手の辛さや苦しみが痛いほど胸に突き刺さってき、観劇後はとても胸がいっぱいになってしまうのである。
何度観ても傑作は傑作である。
満足度★★★
ネタバレ
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ブス会「男女逆転版・痴人の愛」を観劇。
女性劇作家が描く、女性の凡ゆる秘部を描く劇団。
40歳の独身女性の私が、飲み屋で知り合ったナオミという、年端もいかない少年と共に生活をし始める。
身の回りの世話から、将来の道筋まで描こうとするが、成長と共に彼の自我が現れ始め、理想像が崩れかけていく。
そして痴話喧嘩の果てに、彼を諦める代わりに、血の繋がるナオミを作ろうとするのである……..。
今作は、女性が男性を飼育するという過程が一番の興奮材料で、そこに何かを見出したいと期待して、観に行くのが本音であろう。
そしてそこは、男性が経験している女性像を思い出せてはくれるが、そこでげんなりするか?何かを発見するか?は男性自身の己の性歴に大きく影響しそうだ。
ただそんな状態で観ている男性をよそに、女性はあずかり知らぬという状態になり、男と女の視点を明らかに二分させてしまうのが、ブス会の特徴であり、罠にはまってしまう理由でもある。
そして女性の武器を使って、ナオミを征服してしまう姿を見せつけられた日には、「また次作も見に行こうぉ!」をナオミ同様、種を解き放った状態になってしまうのである。