住み込みの女の観てきた!クチコミ一覧

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Downstate

Downstate

稲葉賀恵 一川華 ポウジュ

駅前劇場(東京都)

2025/12/11 (木) ~ 2025/12/21 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

カタブイ、2025

カタブイ、2025

名取事務所

紀伊國屋ホール(東京都)

2025/11/28 (金) ~ 2025/12/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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『カタブイ、2025』を観劇。

三部作の最終作品。

 1972年、1995年、そして今の沖縄を家族間を通して描いている。
地元民から、政治から、米兵から被害を受けた家族から、憲法から、と様々な視点で三部作は描かれていて、隣人の出来事として避けてはいけない。詳細を知れば知るほど怒りを覚えるが、観劇している最中だけではなく、その後も続かなければならない。
 社会問題を扱う作品は登場人物に寄り添い、カタルシスを得る事によって、自分事として捉えやすいが、今作の劇作家の方法論はそうではない。起承転結を崩しながら、言葉遊び、見立て、時事ネタなどを混ぜるのが小劇場の面白さだが、一切使用しない代わりに、俳優に憲法を語らせたり、メッセージを発したり、と直接に突っ込んでくるのだ。
特有の面白いところを別な見立てとしているからか、見入ってしまうのだ。
 社会問題を強く扱いすぎると、演劇の面白さを飛ばしてしまい、テーマが忘却の彼方に行ってしまうが、作・演出の内藤裕子は他の作品群も含め、何度も観たくなる面白さを秘めている。
 80年代小劇場の特徴は微塵もないが、新しい世代が波を起こしているようだ。
星の流れに

星の流れに

羽原組

赤坂RED/THEATER(東京都)

2025/11/18 (火) ~ 2025/11/24 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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羽原組『星の流れに』を観劇。

 羽原大介氏の芝居を観るのは何十年ぶりだろうか?
『新宿芸能舎』時代のシアターブラッツでの公演だったか、赤坂レッドシアターだったか記憶は薄いが、久しぶりだ。
作風からして、80年代小劇場シーンの影響は受けてないようだ。

 戦後の混乱期、生きていく為には、男女問わず、なんでもやらなければ生きてゆけない。やむ得ず売春を行い刑務所にいる女性たちは、人生の巻き返しを募ろうと独立国を作ろうとするが、警察によって粉砕されてしまう。彼女たちの人生は如何に…?

 戦後の混乱期を描く作品は数あれど、1964年生まれの劇作家がどのような視点で描くかが焦点だ。戦争経験者ではないが、親世代が戦争体験があるのは確かだ。
「独立国を作ろう!」というチラシのキャッチフレーズから、市民vs国家との激しい展開を期待しないではないが、『清水邦夫』や『野田秀樹』世代ではないので、まずないだろう。師匠が『つかこうへい』なので、『初級革命講座』『飛龍伝』的なものと一瞬期待はするが、羽原氏の過去作から鑑みるとまずならないだろう。
 描かれるのは市井の人たちの生き様だ。平和だった頃の夢や許嫁との約束などが戦争によって人格形成まで破壊されてしまう。
「絶対に生き抜く」という登場人物たちの姿勢に、災害で疲弊してしまっている現在の人たちへのメッセージと読み取ることが出来る。物語は戦後の焼け跡だが、戦後から現代までの長い物語と捉えることが観て行く上で大事なことだ。
未見だが、舞台版『フラガール』も同じような気がするので、確かめてみる必要はあるようだ。
 『惣田紗莉渚』が出ずっぱりだが、『伊藤わこ』に惹かれてしまった観客は私だけではないような気がするのだが….。
位置について

位置について

かわいいコンビニ店員 飯田さん

吉祥寺シアター(東京都)

2025/11/12 (水) ~ 2025/11/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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かわいいコンビニ店員飯田さん『位置について』を観劇。

初見の劇団である。

 認可保育園の保育士たちの苦悩を描いている。
モンスターペアレンツ、労働形態、保育士不足など、社会問題になって久しいが、トラブルがありすぎて、物語を描くには格好のネタが揃っている。
 保育士たちの実状を描きながら、親の借金問題に困っている保育士・安西春の私生活を二重構造で描き進めているので、個人vs社会としての問題認識が高くなり深みを与えている。
ただ終焉に向かうと、安西春の問題はあっさりと解決するのだが、保育士たちの問題は変えられない、という結の曖昧さが気になる。
劇作家が大ナタを振るぐらいの切り込みが欲しかったのは、2時間15分の長尺ながら、面白い物語があったからだ。期待するのは当然で、終わり方には釈然としない。
「あの清水邦夫、山崎哲、野田秀樹を見よ!」
ただ俳優たちの力量あってこそ成り立っている今作なので、そこは十分に堪能出来、見応えはある。
 かつて人気を博した『自転車キンクリート」を思い出さずにはいられないが、意識の高い劇団であるのは確かだ。
 気になる劇団なったのは間違いないようだ。
さらば黄昏

さらば黄昏

阿佐ヶ谷スパイダース

小劇場 楽園(東京都)

2025/11/08 (土) ~ 2025/11/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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阿佐ヶ谷スパイダース『さらば黄昏』を観劇。

あらすじ:
過疎化が進む町では、過去の忌々しい事件を忘れつつ平和に日々を過ごしている。そこに犯罪を犯した男が刑期を終えて戻ってくると噂が流れる。巡査を中心に対策を練ろうとするのだが…。

感想:
追い詰められた人たちが無謀な行動に出る展開は、過去作『はたらくおとこ』を思い出さずにはいられないが、それに近い感じかと思えども違う。
刑期を終えた男が戻ってくるという噂にあたふたする町民たち。
男は現れず『ゴドーを待ちながら』的な展開だと思わせるが、そうにはならない。追い詰められ、怯える町民たちの未知への恐怖に、小さな町での出来事ながら、今の世界情勢が見えてくる。
下北沢『楽園』という狭い劇場をあえて選んで、群像劇にしているからか、観客も町民に巻き込まれ、謎の男に不安すら感じてしまい、「この問題の解決法は?」と一緒に考えてしまうほどだ。
町民と観客の不安はどこへ向かっていくのだろうか?と終わりの見えない流れに、長塚圭史は驚くような手法を提示してくるのだ。
観客の想像力を徹底的に試す『阿佐ヶ谷スパイダース』
これだから観るのを止められない。
傑作である。
デンジャラス・ドア

デンジャラス・ドア

劇団アンパサンド

ザ・スズナリ(東京都)

2025/10/23 (木) ~ 2025/10/29 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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劇団アンパサンド『デンジャラス・ドア』を観劇。

 初見の『地上の骨』は大当たり、二回目の『遠巻きに見てる』は外れだったが、今作はどうだろうか?
 再演である。

あらすじ:
 何かと間が悪いと思い込んでしまっているユウコだが、勤め始めた会社でも感じ始めている。忙しい最中、オフィスのドアが勝手に閉まってしまう事に気づき、周りに伝えども嘲笑されてしまう。だが社員全員が目撃し始めると、「これは辞めた社員・ミツザキさんの念に違いない」と喚き始めるのだが…。

感想:
 『ゴドーを待ちながら』もどきを引用しながら、複雑な日本語の面白さを駆使する不毛な台詞。それに輪を掛けるような芸達者な俳優たちと、生でしか見れないウソのようなリアリティ。演劇という生の表現媒体を利用した最高な見せ物と言ってもいいだろう。
 作・演出 安藤奎は、あっという間に岸田戯曲賞を取ってしまったが、読み物としても面白いと思える。
『ドアが勝手に閉まる』という着眼点から、物語を広げる巧さには圧倒されるが、「社会性など全くなく、こんなので良いのか?」なんてすら思わせない、たまらない楽しい時間が存在しているのだ。
いつ見ても『西出結』が演じるキャラクターは、この作劇には欠かせない。
お勧め。
西に黄色のラプソディ

西に黄色のラプソディ

フライングシアター自由劇場

吉祥寺シアター(東京都)

2025/10/20 (月) ~ 2025/10/27 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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フライングシアター自由劇場『西に黄色のラプソディ』を観劇

アイルランドの劇作家・J.M.シングの喜劇を串田和美が潤色している。

あらすじ:
 父親を殺した青年クリスティは、小さな田舎町の居酒屋に逃げ込む。酔客たちは嘘か真か?と青年の戯言を聞きながらも好意を頂き、村内に受け入れてしまう。許嫁がいるペギーンまでもが青年に惚れてしまい、クリスティは人気者だ。
だが殺しはずの父親が現れるや否や、クリスティは窮地に追い込まれてまう…。

感想:
 喜劇という形をとっているからか、おもしろおかしく鑑賞していけるが、観客自身も村人たちと同じように青年に疑念を抱き始めると、悍ましい人間の本性と集団心理によって、村人たちの理性が崩壊していく様が見えてくる。
クリスティの父親殺しに歓喜の声を上げ、ヒーローと崇めえる村人たちと青年に恋に落ちるペギーン。「脱力コメディーかい?」と思わせる毎回の串田節は、いとも簡単に物語に没入させてくれるが、そこから待ち受ける壮絶さは言葉には出来ないほどだ。演劇を鑑賞していると登場人物に同化してしまう瞬間が多々あるが、その入り口はかなり危険だ。
清水邦夫と蜷川幸雄『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』を思い出さずにはいられないが、やはり串田作品『白い病気』が真っ先に浮かんでくる。その作品の時もそうだったが、戯曲が書かれた時代と場所が違えども、政治も社会も人間も過去の出来事を顧みず、今に至っていると憤慨している演出家・串田和美の怒りが見えてくる。
既に何度も再演しているようだが、今回は最終地点にたどり着いたと確信してしまうほど完成度の高さを感じられる。
伝説の女優・銀粉蝶が出演しているは忘れてはいけない。
 
 お勧め。
ドント・ルック・バック・イン・マイ・ボイス

ドント・ルック・バック・イン・マイ・ボイス

公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2025/10/03 (金) ~ 2025/10/13 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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三鷹市立芸術文化センターの期待の若手劇団シリーズ

東京にこにこちゃん『ドント・ルック・バック・イン・マイ・ボイス』を観劇。

あらすじ:
 テレビアニメの創成期から現代までの声優たちの物語。
まだ舞台に立った事のない新人俳優・小山笑子が、テレビアニメの声優に抜擢される。スタジオには癖のある声優たちがおり、初の声優体験は不安だらけだが、周りのアドバイスで日増しに上達していく。
仕舞いには長寿番組になっていくが、年齢と共に声が痩せていく声優たちは少しづつ引退し、小山笑子だけになってしまう。
そこでプロデューサーが生成AIを使い、永遠の声を手に入れようと画策するのだが…。

感想:
 子供の頃に見続けていたテレビアニメの声が声優の都合で交代し、違う声を当てられた衝撃は経験あるだろうが、それを基に昭和から現代までのテレビアニメ界の裏側を描いている。
 時代の変化と波、それに抗う声優たちの葛藤を存分に味わうことが出来、朝の連ドラを一気に見ているような物語は全く飽きさせない。
ボケとツッコミが満載だが、展開の匙加減としては悪くない。演出家曰く、『漫才のボケとツッコミを演劇に転用するとボケと困惑になる』と言っていたが、その困惑の上手さを演じているのが小山笑子役の
『西出結』だ。間違いなく今後、小劇場のヒロインになるであろう、彼女の演劇におけるキャラクター作りはいつも抜群だ。
 演劇を観て、笑いながら涙が出たというのは初めての経験だったが、とても良い気分で劇場を後にした。
 今後の追っかけ劇団になったようだ。
『REAL』

『REAL』

metro

インディペンデントシアターOji(東京都)

2025/09/11 (木) ~ 2025/09/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

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metroの『REAL』を観劇。

 長女は不在で、次女が質屋を営みながら、寝込んでいる三女の看病をしている三人姉妹の話。
前作から感じ取れた物語不在の展開は同様で、チェーホフの三人姉妹、ニーチェ、宮澤賢治と時代と場所に関わりがなく、物語に交差するはずがないと観客は確信するが、天願大介という劇作家にかかると全てが交わってしまい、「我々は芸術文学ショーを見せられているのか?」と疑念を抱きながらも、二時間近く付き合わなければならないのが今作なのだ。だからか睡眠薬を飲まされた様に眠りこける観客も多数出てくる(開演前の注意事項で、寝ている人がいたら起こしてください、というお願いがあった)
更にドイル君と垣乃花顕太郎という謎の人物が現れて混乱を極めるが、少しずつ隠れていた戯曲の核が見え始めてくると、俄然面白くなっていくのだ。
 全く関係性がない時代と人物を交わらせて、物語を作ってしまう野田秀樹は天才的だが、どうやらもう一人ここにいたようだ。
ただ物語をあえて作ろうとしない作劇は凶と出るか?吉と出るか?は分からないが、今作は吉と出た為か、ラストに向けて、かなりの破壊力があった。眠気が吹っ飛び、鳥肌が立ってしまったほどだ。
われわれなりのロマンティック

われわれなりのロマンティック

いいへんじ

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2025/08/29 (金) ~ 2025/09/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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いいへんじ
『われわれなりのロマンティック』を観劇。

毎年行われる、三鷹市立芸術文化センター主催の期待の若手公演。

あらすじ:
 茨城から東京の大学に入学した茉莉。フェミニズムサークルで蒼という男性と知り合うも、彼氏を作った事がない為か?蒼が恋人か否かと戸惑いながら親密になっていく。
社会人になり、蒼とはあえて同棲はせず、同じアパートで隣同士で住みながら関係を続けるも、仕事で知り合った女性との出会いに感情が揺れ始める…。

感想:
 学生から社会人になり、価値観の違いから異性と己の関係が変わっていく様が丁寧に描かれている。青春ものと捉えて良い作品で、時代の変化を敏感に感じ取れる内容だ。
登場人物たちは傷つきながらも、成長していくという展開は王道で、終点は見えてしまうのが戯曲の欠点でもあるが、私自身の観劇率の高さ故か?そのような事を瞬時に判断してしまうのは観客としては失格である。
 劇作家は登場人物たちの感情を大切に扱っているからか、寄り添いながら物語に身を委ね、心地よい気分で彼らの人生を見ていられる。
社会背景を上手く取り込んでいる戯曲、演出力、俳優陣の芝居は侮れない。群像劇にありがちな、主役ではない俳優に感情を寄せてしまうのはよくある事だが、『百瀬葉』という女優にやられてしまったことだけは隠さずに言っておこう。
八月納涼歌舞伎

八月納涼歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2025/08/03 (日) ~ 2025/08/26 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

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八月納涼歌舞伎『野田版・研辰の討たれ』を観劇。

あらすじ:
守山辰次は元は刀の研屋で、殿様の刀を研いだ縁で侍に取り立てられたものの、武芸はまったく駄目。家中の侍に打ちのめされた辰次は家老へ意趣返しをしようとします。ところが、仕返しのために仕掛けたからくりが元で家老は死んでしまい、辰次は家老を殺した敵として追われる身となります。仇討ちの旅に出た家老の息子二人に追われて、諸国を逃げ回る辰次でしたが……(チラシより)

感想:
 今作を観る機会はシネマ歌舞伎しかないと思っていたが、息子たちで再演で観れたのは嬉しい限りだ。
 20年ぶりの再演ながら、時代は初演当時とかなり変わってきている。世界では戦争が至る所で行われ、混沌としている。
舞台では、赤穂浪士たちの仇討ちで街は湧き上がり、やられたらやり返すという『義』がまかり通っていた当時と同じような事が、現実に起こっている世界情勢と重ね合わせている。
 今や野田秀樹の芝居は「夢の遊民社」の頃とはかけ離れ、悲惨な出来事を受け止め、己の舞台で描いているが、歌舞伎でもブレることはない。歌舞伎界隈の時事ネタや見立てはもちろんだが、歌舞伎特有の華やかさを借りながら、仇討ちに逃げ惑う守山辰次の「死にたくない!生きたい!」という叫び声は現代に至るまでの戦争犠牲者の叫び声だ。
華やかさと軽さが相反するように闇が迫ってくるラストには唖然とし、「町民・守山辰次の叫び声は永遠に誰にも届かないのだ」と訴える劇作家の願いは絶望に等しく、終演後には座席から立ち上がれなかったほどだ。

 再演とはいえ、見過ごしていけない。
料金が高いので、歌舞伎シネマで済まそうなんて思ってはいけない。
歴史的傑作なのだから…。
海と日傘

海と日傘

R Plays Company

すみだパークシアター倉(東京都)

2025/07/09 (水) ~ 2025/07/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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松田正隆『海と日傘を』観劇。

1996年に岸田戯曲賞を取った作品

 長崎に住み、床に伏せることの多い妻と教師をしながら細々と作家を営む夫。大家夫婦や医者、雑誌編集者を囲みながら、ゆっくりと時間は過ぎていくのだが…。

 今では観る機会の少ない松田正隆の戯曲で、前後して平田オリザが岸田戯曲賞を取っている。
 1990年代の演劇界は、80年代小劇場の勢いが下降し始め、若者たちが離れていく中、口語演劇が狼煙を上げ、小劇場ではなく、演劇として評価され始めた時期だ。
 平田オリザの口語演劇に感情を揺さぶられることは無いが、松田正隆に描かれる日常に、少なからず80年代小劇場の匂いを感じ取る事が出来、劇的なるものが隅々に存在している。
 余命3ヶ月の妻と最後の旅行をする夫の下に、元雑誌編集者の女性が現れ、ふたりの間柄を察知した妻が、突然止まってしまったかのように、死の世界に導かれ、白日夢の夫は妻に永遠の愛を約束するという流れだ。演じる俳優陣もかなり強者ばかりで、主人公だけが物語の軸ではないと言わんばかりに、各々が強烈な役柄を演じている。
 余計な情報を一切与えず、静かな日常を延々と切り取っているだけと思い込んでしまい、物語に妄想に妄想を膨らませるも、瞬時に割ってしまう作劇の巧みさには唖然としてしまった。口語演劇と80年小劇場が見事に混じり合った傑作である。
 初演を観ずに、今観たからこそ、このような感動を得ることが出来たのだろう。
 大傑作である!
ガマ

ガマ

劇団チョコレートケーキ

吉祥寺シアター(東京都)

2025/05/31 (土) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

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劇団チョコレートケーキ『ガマ』を観劇。

再演である。

 沖縄戦でガマに追い詰めらた人たち。
 戦場は地獄化して、勝てる見込みのないと訴える脱走兵たち、沖縄戦の真の意図を知り尽くしている少尉、天皇陛下の為に戦い続けると言い続ける女子学徒隊、沖縄戦について疑問を呈する先生、地元民など、
食料すらない中でどうにか生きながらえている。
ガマの入り口まで米兵が迫る中、降伏をするか否か?
各々の立場で議論をし始めていくが、気がつくと六人の集団劇に見えなくもない。沖縄県の歴史観、沖縄県の存在意味、洗脳教育などが浮き彫りにされていき、「戦争とは?」を知らず知らずと観客自身が問いただしてしまう。あまりにも息苦しく、涙してしまうが、戦争経験のない我々は時々、この状況を俯瞰して見てしまう。感情に溺れさせずに見せる事に今作の意図はあるようだ。
 この劇団は歴史物を描くことが多く、「何故、そのような事が起きたのか?」を常に考えさせる戯曲作りをしているので、後を引くのはいうまでもない。
 過去作『帰還不能点』で、閣僚たちが止められなかった戦争に、自ら戦争責任者達を演じて、問題点を洗い出すということもしており、歴史物を別な視点で描く面白さを秘めている。
 初演でかなりの評判を得た再演だが、演劇史に残る傑作が今、上演されているのを知っておいた方が良い。
ずれる

ずれる

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2025/05/11 (日) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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イキウメ『ずれる』を観劇。

 親の会社を継いで財をなしている輝の下に、精神疾患で入院していた歳の離れた弟が自宅に戻ってくる。この辺りは豪雨災害の影響か、野生動物たちが街に下りてきているようだ。秘書兼家政婦と整体師を雇い、在宅勤務に変えたが、弟の怪しげな友人によって輝の様子が少しずつ変調していくのだった…。

 現実には起こり得ない事柄から、人間の精神に食い込んでいく作劇で観客を物語に没入させて戯曲は毎回驚かせるが、奇ッ怪シリーズを全て観ているか、現代版の奇ッ怪かと思ってしまうのが常だ。ここ最近の精神に深く踏み込んでいく様は、以前にも増して濃いようだ。
 非科学的な出来事と人間の魂のぶつかり合いはギリシャ悲劇とは似て非なるものだが、決して精神論を謳ってはいないのがイキウメの魅力で、あり得ない出来事があり得てしまう?と思わせてしまう執筆力に観客の没入度はかなり高い。
 今作は劇団員のみで行なっているからか、全員の芝居に何かが降りてきていると思わせるほど、役柄に成りきっている。戯曲の出来と作家のメッセージを一段、いや二段ほど上げているのは間違いない。
現実に起きている出来事の根本を我々に問いつめ、追い詰められた観客は逃げ場を失い、終始緊張しながらの観劇体験であった。
 『イキウメ』はしばらく休むようなので、必ず観ておいた方が良いのである。
明日、泣けない女/昨日、甘えた男

明日、泣けない女/昨日、甘えた男

株式会社テッコウショ

シアターサンモール(東京都)

2025/05/03 (土) ~ 2025/05/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

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北海道の漁師町での様々な問題を描くが、全く回収せずに終わらせている。
どうしたらこのような戯曲が書けるのだろうか?
何を演出したいのだろう?
これじゃ、熱演する俳優陣が可哀想だ。
散らかした話を回収せずに、面白く展開出来るのは長塚圭史のみだ
そんな中で、関幸治という役者の上手さはピカイチだ。
そよ風と魔女たちとマクベスと(2025)

そよ風と魔女たちとマクベスと(2025)

フライングシアター自由劇場

すみだパークシアター倉(東京都)

2025/04/25 (金) ~ 2025/05/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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串田和美『そよ風と魔女たちとマクベスと』を観劇。

 日本人は本当にシェイクスピアが好きなのだろうか?
故・蜷川幸雄が有名人を使って、埼玉県の田舎でシェイクスピアをやり続けたのは原因の一端だが、アングラ演劇人・串田和美が和製ミュージカルとコクーン歌舞伎で世間を席巻し、シェイクスピアには関心がないと思われていたのも事実だ。
どうやら日本人をシェクスピアフリークにしたのは、彼らだったのは間違いないようだ。

 いきなり銀髪ロックスターのような若者が、聴衆を魅了する。舞台を見せられているのか?それとも学生運動のリーダーか?はたまたボディビルダーか?
そこからマクベスの人生が始まるのだ。厄介なシェイクスピアを見るのは困難だ!という思い込みも、始まりから崩れ去っていくのだ。
魔女の囁きにより、将来に希望を見出し、強力な力を得てしまった人間に起こる、長く辛い悲劇が面白さだ。マクベス夫人の戯言も我が妻の囁きに聞こえ、仕事での地位をもっとあげ、沢山の給料を貰いたいという己の果てしない欲望に悶え苦しんでしまうのである。
 そして誰もが迎える老の姿まで見せてしまう残酷さ。誰もがマクベスに寄り添いたくないが、喜びを見出せるのは観客の勇気次第だろう。もし劇場からこっそり立ち去ろうとするなら、スカイツリーが立ちはだかり、逃げられないのである。
 元ボディビルダーが演じる若きマクベスは見事である。
 お勧めである。
遠巻きに見てる

遠巻きに見てる

劇団アンパサンド

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2025/04/18 (金) ~ 2025/04/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

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劇団アンパサンド『遠巻きに見てる』を観劇。

一昨年、三鷹市主催の期待の若手劇団シリーズに登場したと思ったら、あっという間に岸田戯曲賞を取ってしまい、今やチケットが取りづらい劇団になってしまったようだ。
因みに私の一昨年のベストワン劇団だったのは言うまでもない。

あらすじ:
小林さんとユウコは仕事帰りの道すがら、マラソンランナーに道を邪魔したといちゃもんをつけられる。歩行者優先なのだが、マラソンランナーが勝手に私用道路にしてしまっているのだ。
あまりの理不尽に頭にきた小林さんとユウコだが、その道を逆に走ると異次元の世界に行けることを発見する。
そこでユウコは彼らをその世界に追いやってしまおうと考え、小林さんはトリカブトでマラソンランナーの水に毒を盛るという作戦に出るのだが、果たしてどうなるのだろうか…?

感想:
前々作もそうだったか、身近な出来事が一瞬にして変わってしまう展開はシュールとも取れなくないが、ドリフターズ的なドタバタ調と生の舞台だからこそ出来る手法をフル活用し、虜にさせてくれる。勿論、演出と俳優陣の芝居があってこそ成立するのが最大の特徴だ。
あらすじだけを読んでも明らかに観たくなるが、どうやら期待の新作は不出来だった。
劇作家が岸田戯曲賞を取る前後作は、他者を寄せ付けないほどの傑作を作るのに、今作の消化不良は一体何なのだろう? 前々作の期待値が高かったからか?
導入部から期待を裏切らない展開と見事なキャスティング(永井若葉、西出結、奥田洋平、岩本えり、重岡漠)には笑わされ、これからどうなっていくのだ?という期待が高まった瞬間に幕が閉じてしまうのだ。何とも言い難い虚しさを感じるオチは満足だが、この終わり方をするなら、もうひと山欲しかったなぁ〜と思った観客は沢山いただろう。いやそれとも気分が高揚した時に閉じてしまうのは劇作家の意図なのだろうか?そのお陰で観劇後は未だに引きずっているのは間違いない。観客を遠巻きに見て、微笑んでいるのは劇作家なのだろうか?
全ては謎だが…、次回作も必ず観ようと思う劇団なのである。
淵に沈む

淵に沈む

名取事務所

小劇場B1(東京都)

2025/03/07 (金) ~ 2025/03/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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内藤裕子『淵に沈む』を観劇。

昨年の『カタブイ1995』から追っかけている演出家の新作だ。
八王子市の精神科病院・滝山病院事件が元ネタになっている。

あらすじ:
統合失調症の三男を二〇年も精神科病院に預けている母親は、息子の症状が寛解期あると主治医から伝えられ退院を勧められるが、長男、長女は反対し、病院長までもが経営の為か?首を縦に振らない。看護師らの患者への虐待という報告が上がり、精神保健福祉士は自分の身を切るつもりで内部告発をし、病院長に掛け合うのだが…。

感想:
長期間、息子を病院に入れた家族の苦悩、一日も早く退院をさせて社会復帰を願う主治医、病室を満床にして経営を優先にする病院長、患者を虐待してしまう看護師など、様々な視点で目を背けている暗部を見つめることが出来る。90%が民間の精神科病院で成り立っていて、国があまり触れない精神疾患への偏見がおのずと見えてきてしまう。
途中に日本国憲法、障害者基本法、スイス・ジュネーブ障害者権利条約を説明しながら進めていく技法は『カタブイ1995 』でも行っていたが、『人間が生きていく権利とは?』について掘り下げていく。
ややお堅い芝居になりながらも、正義と悪という構図が作られているので、精神保健福祉士が退職覚悟で病院長に切り込んでいくクライマックスに熱いものを感じずにいられない。
決して逃げはせず、理想に向かっていく姿勢こそがメッセージなのだ。
そして患者が吐く最後の一言が、精神疾患を救う最善策だとも思えるのだ。
見応えあり!
Lovely wife

Lovely wife

劇団青年座

本多劇場(東京都)

2025/03/06 (木) ~ 2025/03/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

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青年座『Lovely wife』を観劇。

作・演出 根本宗子が青年座に依頼された作品で、高畑淳子主演ありきのようだ。

売れっ子作家を夫に持つ雑誌編集者・妻の出会いから結婚、終焉を迎えそうな夫婦の顛末記。
同世代の些細な事を描くのが得意な若い劇作家が、枯れていく夫婦の姿をどのように描いていくかが焦点だ。
常にテンションが高く、演技へのエネルギーを一瞬たりとも休ませない演出が持ち味の劇作家の下、老舗劇団の俳優陣はどのように対応していくのだろうか?いやどのように演出されるのだろうか?
過去作では、狭い小屋では収まりきらない俳優たちのエネルギーに何度も圧倒され、劇作家を追いかけ続けたが、今回の厄介な座組で出来るのだろうか?という心配はあり、それを無くしてしまうと全て欠けてしまうのだ。だが俳優たちに狙いをやらざる得ない戯曲を与え、ほと走るエネルギーが劇場に蔓延していた。
ただ圧倒的な劇的な力も、残りの人生を考えなければいけない老年を迎える大人たちを描くには説得力には欠けていた気がする。舞台装置を駆使し、過去から現在、そして若い頃の自分を客観的見れる演出もしていただけに惜しい。小さい劇場なら許されていた表現方法も本多劇場となると観客は納得したくなる終わりも見たくもなるのだと思って劇場を後にしたが、よくよく考えてみるとこの批評は間違っていたと後で気付く。
劇作家は徹底的に男性を罵倒し、女性優位を謳っている過去作を鑑みると、今作も同じような試みがなされている。いつまで経ってもだらしない夫が妻へ投げかけるクライマックスの陳腐な愛の讃歌の場面こそが、劇作家の持ち味を最大限に表している。この箇所に賛否が起こりそうだが、今作の面白さを垣間見れる瞬間と別れ道なのだ。
流石、根本宗子である。
GIFT

GIFT

metro

小劇場 楽園(東京都)

2025/02/27 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

metro『GIFT』を観劇。

あらすじ:
女優・星影は戦争の夢をたびたび見る。
枯れてしまっている才能を認識しての現実逃避の夢なのか?
時代を跨いで、様々な人物を演じている中、才能は神様から貰ったただのGIFTに過ぎなかったのか…。

感想:
早川雪洲、太宰治、ブルース・ウェインなど時代と場所を飛び越えながら、女優・星影は旅をしているのだが、「何の脈略があるのだ?」と毒づきながらも、唐十郎とスタニフラフスキーの演劇論が始まった瞬間、「なんて面白いのだ!」と思わず声を上げてしまったのだ。彼らを演じた俳優が汗と怒号を上げて、観客席に迫ってくるのだ。
本来は女優・星影の旅を楽しむのが見所で、演劇論で喜んでいるようでは観客失格なのだが、年配客が多いせいか?あの時代の知っているのは、どうやら私だけではないようだ。
『夢の遊眠社』『第三舞台』『第三エロチカ』『3○○○』などが疾走していた80年代小劇場から現在の『青年団』『城山羊の会』まで、今作のような作劇は貴重で、もう誰も作れないだろうとも思っていたら、暗く、狭く、見ずらい地下劇場で細々と作っている劇作家がいたのが驚きで、観る価値十分ありと言っても良いだろう。
女優・星影を見ているとタイトルは『GIFT』ではなく『GIFTED』にしてくれれば、「彼女の苦悩の旅に一緒に寄り添えたのになぁ〜」と思っただけに残念だった。

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