正三角関係 公演情報 NODA・MAP「正三角関係」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ネタバレ

    ネタバレBOX

    NODA・MAPの『正三角関係』を観劇。

     劇場に入ると人工的な匂いを撒き散らした熟れた花たちが咲き乱れていた。どうやら池袋芸術劇場が宝塚劇場に成り下がってしまったようだ。
    その要因は勿論、松本潤が主演だからだ。

     いきなり殺気だった唐松族の三兄弟の長男・富太郎の登場に度肝を抜かされてしまった。松本潤の野田秀樹への作品の意気込みか?役柄への憑依か?この勢いがクライマックスまで続く事が伏線とは思えないが、野田秀樹の芝居では得る事のない熱量の芝居が続いていく。
     舞台は花火師・富太郎の法廷劇で始まる。父親を殺めようとした罪だ。
    そこに次男で物理学者の威蕃、聖職者で三男・在良が絡んでくる。
    法廷劇から事件の当日を二重構造にしながら、第二次世界大戦時期の日本とロシアの関係、アメリカとの戦争など踏まえ、終戦まで描いている。
    この時期を題材にしているのは過去作にもあったが、敗戦と分かっていながら戦争を続けた日本を声高に非難しているのは間違いない。ただ描かれるのは市井の人たちである唐松族・三兄弟の話だ。
     花火師・富太郎の火薬が戦争に使われてしまい、花火を打てなく落ち込んでいる最中、恋人・グルーシェニカが父親に寝取られてしまい、憎しみのあまり父親を殺めようとしたというのが物語の発端だ。
    親子で奪い合うグルーシェニカとはそんなに魅惑的なのか?
    本当に富太郎の恋人なのか?否か?
    はたまた実在するのか?
    父親にとっても、富太郎にとっても、日本にとっても貴重な存在であるグルーシェニカだが、サスペンスにするかと思いきや、謎はあっさり分かってしまう辺りから妄想な世界へ誘っていくのだ。入った瞬間から始まる父親と唐松族・三兄弟の確執、アメリカを倒す為に原発を開発する威蕃、神の存在を信じる在良、と未だに続いている戦争への非難がはっきりと読み取れていく。
     長男・富太郎を描いている時は、国家に洗脳され、無理やり戦争に加担させれてしまう市井の人たちの側に立って見ることが出来る。
    次男・威蕃を描いている時は、戦争に勝つ為に危険な兵器を開発し、相手を如何に倒すか?という日本国家側から見る事が出来る。
    三男・在良を描いている時は、神から見た世界、人間同士の無駄な争いなど宗教を通して世界を見る事が出来る。
    そこに気がつけはタイトルの『正三角関係』の意味が読み取れ、作家が毎作ごとに叫んでいるテーマに没入出来るのだ。残念ながらこのタイトルの意味を読み取れないと物語の半分も理解していない事になってしまう。
     今作はいつものように物語を撒き散らす事もなく、何度も観ているファンは、置いてきぼりを食う事もなく、スピィーディーさはさほど感じない。現代の時事ネタを織り交ぜ、言葉遊び、小道具の使い方などは健在だ。
    ガムテープを使いながら、牢屋にしたり、電話のフックやハンガーにしたりと見立ての上手さは他の演劇人には真似出来ないだろう。当時開発されたばかりの録音テープの表現方法の美しさにはうっとりしてしまい、物理の計算式の羅列が背景に映し出されると、手前では理解し難い量子力学を人体を使って表現している上手さにはあんぐりと口が開いてしまったほどだ。人間の創造性と演劇の無限の表現力が交わる最高の瞬間でもある。
     そして今作の最大の注目は松本潤だと思われるが、実は長澤まさみだ。
    既に過去作『The Bee』で演技力は認証済みだが、今作では遂に野田秀樹の分身になってしまったのだ。演劇人は自分の身代わりを登場させるのが常で、初期の頃は自分でその役を演じるが、とある時期から他者に委ねる傾向がある。それは宮沢りえであり、松たか子の存在であった。
    長澤まさみの三男・在良の台詞回しは『夢の遊眠社』頃の野田秀樹とそっくりではないか!今作の最大の見せ場はそこだと言っても過言ではない。
    宮沢りえや松たか子にはまだまだ追随出来ないが、完全なる演劇俳優になった記念的作品だ。
     チケット入手は困難だが、野田秀樹の初めて観る方にはお勧めである。







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    2024/07/13 12:10

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