正三角関係 公演情報 正三角関係」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-4件 / 4件中
  • 映像鑑賞

    満足度★★★★

    「カラマーゾフの兄弟」を下敷きに、父殺しの裁判劇(野田秀樹と竹中直人の一人二役の早変わりの繰り返しが面白い)の向こうから、何かが立ち上がってくる。

    父と息子が奪い合った女性グルーシェンカ(=長澤まさみのアリヨシとの一人二役)と、長男富太郎(松本潤=熱演)の婚約者・生方莉奈(村岡希美)の二人の女性が出てくるが、生方に当たる人物はドストエフスキーの原作にいたかどうか覚えていない。

    「大審問官」や少年コーリャの話はない。スメルジャコフもほんの端役になっているので、父殺しの犯人が誰だったのかは、原作を知らない人にはわかりにくいだろう。
    今回は隠れた大テーマ以外にも、戦争中の竹やりでB29を落とす訓練のばかばかしさとか、科学者の軍事研究の倫理問題、軍需物資の横流しなど考えさせる素材がちりばめられている。アリヨシの同性愛の告白もある。

    グルーシェンカは火薬につけた名前なのだという弁護士(野田秀樹)のツッコミがあり、男女関係・父と子の対立が、火薬・軍需物資をめぐる争奪とかぶらされているのも、今回の目立つ趣向である。生方と富太郎が婚約するのも火薬がらみのやり取りが関係しており、火薬の調達は、表面の父殺しの裏の重要なサブストーリーになっている。(結像が少し弱いが、でも最後の父殺しの真相で、生きてくる)

    「一粒の麦、もししなずば…。一粒の麦がもし地に落ちて死ねば多くの実りをなす」のアリヨシのセリフが序盤、中盤、終盤で繰り返され、大きな意味を持つ。が、戦争の大量殺戮を語るこの作でどういう意味なのか、考えなければいけない。
    12月2日夜に配信で鑑賞

    ネタバレBOX

    爆縮の火薬の仕掛けが早めにあり、光の公式E=mc2が出てくる。「長崎」という地名が中盤で出てきて、隠れたテーマがくっきりする。
    8月9日が日めくりをめくるように近づいてくるとともに、人形峠(火薬原料の硝石が取れるとは知らなかった。もちろんウラニウムが取れる)と日本の原爆開発に関わる威番(いわん)の話も進行する。ソ連領事夫人ウワサスキー夫人(池谷のぶえ)の(大声で)もらすソ連の思惑もあり、日米ソの三国の糸が絡んでいく。彼女の超越した大げさな演技は、日本とは異質な存在であることを語り、舞台の幅を広げる。

    最後に原子野に、赤ん坊を背負って立つ少女は「焼き場の少年」の写真を意識したもの。ロンドン公演に向けて、長崎を語る国際的イコンとして使っていたのだろう。
    花火で「みんなが空を見上げるとき人は幸せになる」冒頭が、原爆で「空を見上げた時、人々が死んでいく」ラストの対比がこの作品の骨格である。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    難しかった、元ネタのカラマーゾフの兄弟を観ておけば良かった

    ネタバレBOX

    長崎原爆のお話し
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/07/15 (月) 14:00

    野田らしい舞台だが、いつもより分かりやすい気がする。面白い。(3分押し)139分。
     「カラマーゾフの兄弟」の父親殺し裁判の場面から始まり、花火師の長男(松本潤)・物理学者の次男(永山瑛太)・修道僧の三男(長澤まさみ)の正三角関係を軸に、裁判シーンが続く中…、の展開。いつものように、ある物語を翻案した流れの中に、野田が言いたい題材を紛れ込ませる舞台だが、本作は元の物語を展開する部分は非常に分かりやすい。養生テープを使った美術も見事だが、長澤の2役返信は実に見事。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ネタバレ

    ネタバレBOX

    NODA・MAPの『正三角関係』を観劇。

     劇場に入ると人工的な匂いを撒き散らした熟れた花たちが咲き乱れていた。どうやら池袋芸術劇場が宝塚劇場に成り下がってしまったようだ。
    その要因は勿論、松本潤が主演だからだ。

     いきなり殺気だった唐松族の三兄弟の長男・富太郎の登場に度肝を抜かされてしまった。松本潤の野田秀樹への作品の意気込みか?役柄への憑依か?この勢いがクライマックスまで続く事が伏線とは思えないが、野田秀樹の芝居では得る事のない熱量の芝居が続いていく。
     舞台は花火師・富太郎の法廷劇で始まる。父親を殺めようとした罪だ。
    そこに次男で物理学者の威蕃、聖職者で三男・在良が絡んでくる。
    法廷劇から事件の当日を二重構造にしながら、第二次世界大戦時期の日本とロシアの関係、アメリカとの戦争など踏まえ、終戦まで描いている。
    この時期を題材にしているのは過去作にもあったが、敗戦と分かっていながら戦争を続けた日本を声高に非難しているのは間違いない。ただ描かれるのは市井の人たちである唐松族・三兄弟の話だ。
     花火師・富太郎の火薬が戦争に使われてしまい、花火を打てなく落ち込んでいる最中、恋人・グルーシェニカが父親に寝取られてしまい、憎しみのあまり父親を殺めようとしたというのが物語の発端だ。
    親子で奪い合うグルーシェニカとはそんなに魅惑的なのか?
    本当に富太郎の恋人なのか?否か?
    はたまた実在するのか?
    父親にとっても、富太郎にとっても、日本にとっても貴重な存在であるグルーシェニカだが、サスペンスにするかと思いきや、謎はあっさり分かってしまう辺りから妄想な世界へ誘っていくのだ。入った瞬間から始まる父親と唐松族・三兄弟の確執、アメリカを倒す為に原発を開発する威蕃、神の存在を信じる在良、と未だに続いている戦争への非難がはっきりと読み取れていく。
     長男・富太郎を描いている時は、国家に洗脳され、無理やり戦争に加担させれてしまう市井の人たちの側に立って見ることが出来る。
    次男・威蕃を描いている時は、戦争に勝つ為に危険な兵器を開発し、相手を如何に倒すか?という日本国家側から見る事が出来る。
    三男・在良を描いている時は、神から見た世界、人間同士の無駄な争いなど宗教を通して世界を見る事が出来る。
    そこに気がつけはタイトルの『正三角関係』の意味が読み取れ、作家が毎作ごとに叫んでいるテーマに没入出来るのだ。残念ながらこのタイトルの意味を読み取れないと物語の半分も理解していない事になってしまう。
     今作はいつものように物語を撒き散らす事もなく、何度も観ているファンは、置いてきぼりを食う事もなく、スピィーディーさはさほど感じない。現代の時事ネタを織り交ぜ、言葉遊び、小道具の使い方などは健在だ。
    ガムテープを使いながら、牢屋にしたり、電話のフックやハンガーにしたりと見立ての上手さは他の演劇人には真似出来ないだろう。当時開発されたばかりの録音テープの表現方法の美しさにはうっとりしてしまい、物理の計算式の羅列が背景に映し出されると、手前では理解し難い量子力学を人体を使って表現している上手さにはあんぐりと口が開いてしまったほどだ。人間の創造性と演劇の無限の表現力が交わる最高の瞬間でもある。
     そして今作の最大の注目は松本潤だと思われるが、実は長澤まさみだ。
    既に過去作『The Bee』で演技力は認証済みだが、今作では遂に野田秀樹の分身になってしまったのだ。演劇人は自分の身代わりを登場させるのが常で、初期の頃は自分でその役を演じるが、とある時期から他者に委ねる傾向がある。それは宮沢りえであり、松たか子の存在であった。
    長澤まさみの三男・在良の台詞回しは『夢の遊眠社』頃の野田秀樹とそっくりではないか!今作の最大の見せ場はそこだと言っても過言ではない。
    宮沢りえや松たか子にはまだまだ追随出来ないが、完全なる演劇俳優になった記念的作品だ。
     チケット入手は困難だが、野田秀樹の初めて観る方にはお勧めである。







このページのQRコードです。

拡大