映像鑑賞
満足度★★★★
「カラマーゾフの兄弟」を下敷きに、父殺しの裁判劇(野田秀樹と竹中直人の一人二役の早変わりの繰り返しが面白い)の向こうから、何かが立ち上がってくる。
父と息子が奪い合った女性グルーシェンカ(=長澤まさみのアリヨシとの一人二役)と、長男富太郎(松本潤=熱演)の婚約者・生方莉奈(村岡希美)の二人の女性が出てくるが、生方に当たる人物はドストエフスキーの原作にいたかどうか覚えていない。
「大審問官」や少年コーリャの話はない。スメルジャコフもほんの端役になっているので、父殺しの犯人が誰だったのかは、原作を知らない人にはわかりにくいだろう。
今回は隠れた大テーマ以外にも、戦争中の竹やりでB29を落とす訓練のばかばかしさとか、科学者の軍事研究の倫理問題、軍需物資の横流しなど考えさせる素材がちりばめられている。アリヨシの同性愛の告白もある。
グルーシェンカは火薬につけた名前なのだという弁護士(野田秀樹)のツッコミがあり、男女関係・父と子の対立が、火薬・軍需物資をめぐる争奪とかぶらされているのも、今回の目立つ趣向である。生方と富太郎が婚約するのも火薬がらみのやり取りが関係しており、火薬の調達は、表面の父殺しの裏の重要なサブストーリーになっている。(結像が少し弱いが、でも最後の父殺しの真相で、生きてくる)
「一粒の麦、もししなずば…。一粒の麦がもし地に落ちて死ねば多くの実りをなす」のアリヨシのセリフが序盤、中盤、終盤で繰り返され、大きな意味を持つ。が、戦争の大量殺戮を語るこの作でどういう意味なのか、考えなければいけない。
12月2日夜に配信で鑑賞