コクーン歌舞伎第十三弾 『天日坊』
松竹/Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2012/06/15 (金) ~ 2012/07/07 (土)公演終了
満足度★★★★★
見事、平成新歌舞伎の誕生
いえ、これは、黙阿弥の原作があるそうですから、厳密に言えば、新歌舞伎とは言えないかもしれません。
江戸時代以降、上演されていないそうで、さすがに、大正14年生まれの、最後の歌舞伎劇評家だった父も、これは観ていません。
家に、先日まであった黙阿弥全集も処分してしまって…。
だから、どこからどこまでが、クドカンさんの創作なのか、全く不明ですが、
野田歌舞伎や、三谷歌舞伎に比べて、この演目は、しっかりと、歌舞伎の基本を押えた、真っ当な純歌舞伎だったと思います。
36年前に他界した父にも、見せてあげたかった名舞台でした。
白井さん、真那胡さん、近藤公園さん等、畑の違う役者さん達も好演され、すっかり、歌舞伎役者さんの中に溶け込んでいて、感心しました。
黙阿弥の原作の良さを活かしながら、脚本も、演出も、現代仕様にしている、手際の良さが、鮮やかな印象でした。
大詰めの切なさと美しさは、コクーン歌舞伎の初演の「三人吉三」に次ぐ名場面でした。
歌舞伎ののんべんだらりとした殺陣も、現代調に、スピードがあり、昔からのご贔屓筋には眉をしかめられるかもしれませんが、私は、歌舞伎は、昔も今も庶民の娯楽であってほしいと念じているので、今風に、自然な変換があるのは、肯定したいと思います。
ネタバレBOX
誰が、何役かとかを、幕や、看板に書いてあって、観客への配慮があると感心しました。
以前、平成中村座で、笹野さんがまだ出ていないと、隣の席で、喧々諤々論議が上演中に繰り返され、無名の部屋子さんが笹野さんだと断定したりする観客に遭遇して、歌舞伎以外の役者さん等は、特に、なじみのない老齢の観客には見分けがつかないと感じていたので、これは、名案だと思いました。
江戸時代の天一坊事件に材を得た、演目。
天日坊役の勘九郎さんは、誰が親かもわからない孤児で、自分のアイデンティティに悩む内、ひょんなことから、悪事に手を染めてしまう若者の弱さを好演し、現代にも通じる、若者の疎外感や、存在意識の不確かさ等を、クドカンさんの好脚本を生かすように、丁寧に演じて見応えたっぷりでした。
七之助さんは、伝法な悪女役が、益々板に付き、今後が楽しみな女形振り。
獅童さん、亀蔵さん、巳之助さん、新悟さんも、普段の歌舞伎演目ではなかなかできない役柄を、楽しんで演じられてる様子で、こちらまで、嬉しくなりました。特に、巳之助さんは、高窓太夫への恋慕の情を、ユーモラスに言う科白がお上手で、ビックリ。これは、お母様の血も影響していそうに思いました。
三谷さんの書かれた歌舞伎は、私には、なんちゃって歌舞伎のような印象で、期待ハズレでしたが、クドカンさんは、以前、不評だったゾンビ芝居の時も、人物の心情を細やかに活写した脚本が秀逸だと感じました。
今回は、黙阿弥の下敷きがあるので、尚更、歌舞伎の態を骨組みとしてしっかりと歌舞伎の演目として、一級品に仕上げられたと感服しました。
天日坊が、何度も、「マジかよ」と、現代若者言葉を連発しても、しっかり歌舞伎の科白に聞えたのは、Wかんくろうさんの功績故と強く思います。
THAT FACE~その顔
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2012/06/14 (木) ~ 2012/06/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
演劇作品としては秀作
たまたま先日観たサスペンデッズの芝居と被る部分のあるストーリーですが、舞台が全く日本とは違う社会環境だから、どんなに、役者さんが熱演されて、壮絶なシーンの連続でも、心のどこかで、対岸の火事を見るような気持ちの余裕がありました。
新劇の劇団は、ともすると、ご老齢のベテランばかりが健闘して、ちっとも若い人材が育たず、行く末が心配になる団体が多いのですが、青年座は、その点、全く心配無用な気がしました。
ミア役の尾身さん、ヘンリー役の宇宙さんの、役者としての目覚しい成長ぶりに目を細めました。
那須さんは、期待通りの好演ですが、酩酊状態の時の動作に、役になりきった動作ではなく、女優としての防御本能が勝った躊躇いを感じる場面が何度か目につき、その点だけはやや残念に思いました。
ただ、これは映像と違い、毎日、無事公演を務めなければならない柵もあるので、那須さんの役者としての責任感の表れでもあるわけで、こういう壮絶なシーンを演じる舞台役者さんの匙加減はきっとさぞ大変だろうとは察して余りあるものがあるので、難しい注文だとは、自覚しています。
演技力のある役者さんばかりだったせいか、イジィ役の女優さんだけ、ちょっと芝居っぽさが過剰に感じられ、惜しい気がしました。
ネタバレBOX
作家が、10代の時に発表した作品とのこと。
その筆力の鮮やかさにまず驚嘆します。
家族それぞれの心情が細やかに、台詞過多にならずに、的確に表現されていて、これは、日本の若手劇作家には是非テキストにして頂きたい戯曲だと感じました。
ただ、これは、ロンドンの過呼吸だなと、日本の過呼吸体験豊富な私は、感じました。
冒頭の、寄宿舎での、女子学生間の、儀式めいたイジメにしても、マーサのヘンリーに対する、依存と言い、日本の風土ではあまり想像できない部分が多いのです。
だから、結構似たような壮絶体験のある自分にも、落ち着いて、演劇作品として、楽しめた芝居だったのだと思いました。
マーサが、最後に、自分の意思で病院に向かう場面は、本当に秀逸で、名画を観るような気持ちになりました。
いつか、那須さんの演じるブランチを観たくなりました。
母が、病院に行った後、一人残されたヘンリーは、また母と同じように、過呼吸になり、やがてアルコール依存になるのかもしれませんね。
ヘンリーに、ユトリロの悲劇を重ね合わせてしまいました。
GO HOME
サスペンデッズ
吉祥寺シアター(東京都)
2012/06/15 (金) ~ 2012/06/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
闇に光明を見る想い
早船さんのお芝居を観る度、そう思うのです。
早船さんのような演劇人が存在する限り、私はまだ演劇に絶望はしないぞと思います。
ヒトの感情の流れを奇をてらうことなく、細密に、それでいて、一切の無駄なくシンプルに表出できる、類稀な劇作家の筆力と、その世界観を見事に体現できる役者さん達。その連携プレイの秀逸さに、何度も涙し、心身の震えが収まりませんでした。
まるで、私にとっては、小劇場界の希望の星のような劇団です。
もしも、私が、もっと早く、この劇団に出会っていたら、我が家の歩む道も、もっと別にあったかしら?とか考えて、胸がはち切れる想いがしました。
息子の養成所同期の間瀬さんのご出演は、嬉しい反面、そういう個人的な思いも重なり、複雑な心境でした。
どうか、サスペンデッズは、このままであってほしい!
この劇団の役者さんは、本当に、恵まれていると感じます。
これだけ、脚本と演出が的確だからか、演じる役者さん達の魅力も炸裂。
芝居の登場人物全員に、絶え間なく好感を覚え、劇場を後にするのが、心残りでなりませんでした。
ネタバレBOX
昔、2000人の応募者の中から、何故か私が選ばれたFMラジオのオーディションで、私は、当時好きだったさだまさしさんを例に出し、彼の歌詞の素晴らしさについて語ったことがありました。
彼は、歌詞に「愛してる」とか「君が好き」とかいうダイレクトな言葉を使わずに、見事に人物の心情を描く術に長けていました。
早船さんの台詞には、その当時のさだまさしさんに共通する、心情の卓越した表現力をいつも感じます。
今回の作品でも、真澄の和博に対する、彼女なりの愛情吐露の台詞に、何度も心を揺り動かされ、心の中で、慟哭しました。
和博と真澄の別れの場面から始まり、二人の小学生時代の初対面の場で終る、芝居構成の巧みさはもちろんのこと、周囲の人物の描き方も、秀逸極まりなくて、それぞれの人物同士の心の流れが、作り事ではなく、一々、共感を覚えるのです。
このストーリーのシチュエーションと酷似した作品を過去に幾つも観てはいますが、早船さんの描く人物には、生来の悪人が一人も出て来ないんですね。
アルコール依存症で、息子に暴力を振るう父にしても、下級生を恐喝する女子高生にしても、登場人物に、しっかりと作者の愛情が注がれて、一人もご都合主義の登場人物がいないのです。
その上、それを演じる役者さん達が、これまた素敵な演技表現をされる方ばかりで、批難すべき箇所が全く見当たらない。
しいて言うなら、題名が、内容をイメージしにくいという部分ぐらいです。
危機一髪
劇団昴
俳優座劇場(東京都)
2012/06/09 (土) ~ 2012/06/17 (日)公演終了
満足度★★★
新劇向きではないのかも
鵜山さん演出ということで、期待していたのですが、やや期待ハズレでした。
むしろ、亜門さんの演出で、観てみたい気がしました。
以前、文学座の「わが街」を観た時にも、感じたのですが、ワイルダーの芝居は、新劇には向かないような気がします。
型にはまった演技で、演じられると、ちょっと白けるような構成なので。
でも、もし私がツイッターをやっていたら、リツイートしたくなるような台詞がたくさんあって、ワイルダーの作品は、壮大で、奥が深いのだなという勉強にはなりました。
主役の米倉さんの縦横無尽な活躍ぶりが、見た目にも爽快で、元気を頂きました。
新劇には、珍しく、華もあって、三拍子揃った女優さんで、今後、拝見するのが、楽しみになりました。
ネタバレBOX
たぶん、、震災後のこの状況下故、企画者の方は、この作品の上演を決められたのだろうと思いました。
氷河期から、戦争直後までの、人類氏夫妻の何千年にも及ぶストーリーで、それを上演している劇団の状況と絡めつつ、進行する流れに、最初の内は、鼻白む思いも感じたのですが、だんだんと、ワイルダーの演劇愛が、こちらにも伝播し、演劇を愛する人間として、共感する台詞に、だんだんと、心が同化して行きました。
ただ、どうしても、演技の型が見えてしまうせいで、劇団内部で、芝居を度々中断するという演出が、その都度、入り込みつつあった、気持ちを冷却させることに繋がり、バカバカしく感じてしまう部分が多かったのが残念です。
どうも、ワイルダーの作品は、今現在芝居をしていますと観客に提示する仕組みのようなので、もっと、自由自在な、遊びのある演技をする団体が上演した方が、戯曲の良さが生きるのではと感じました。
これを商業演劇だと解説される、後ろの座席のおば様方は、ちっともわかない内容で、あまり堪能された様子は見受けられませんでしたが、臨席の女子校生達は、わからないながらも、面白いとケラケラ笑って観ていましたから、杓子定規で観るのでなく、感性で観ればいいのかもしれませんね。
人類氏夫妻の家政婦のサバイナが、戦争から戻った主人に、「スープストック一つだけは、映画を観るための交換物として、使わせてほしい」と懇願し、主人がそれを了承すると、嬉しそうに掴んで、映画を観に行く場面は、個人的に、ツボで、不覚にも、涙が出ました。
辛い状況下に、たくさんの芝居や映画に、元気をもらった経験者として、この家政婦の心情がわかりすぎる程、わかって、そうなのよ、どんな悲惨な状況でも、心を潤わす演劇や映画のような娯楽は不可欠なのだと、強く共感した次第でした。
恐竜君と、マンモス君の動きが可愛くて、隣の女の子同様、愛着を感じていたところ、着ぐるみの中の若い役者さんも、同じぐらい可愛くて、心がほっこりと癒されました。
リトルショップ・オブ・ホラーズ
アトリエ・ダンカン
本多劇場(東京都)
2012/06/07 (木) ~ 2012/06/20 (水)公演終了
満足度★★★★
久々、幸せな劇後感
真田さんと桜田さんの初演は、子育て真っ最中で、見逃しましたが、それ以後の「リトルショップ・オブ・ホラーズ」、ずっと制覇していたんです。
でも、一昨年のDAIGOさんのシーモアを見逃して、後悔したので、今回、主役のお二人以外は、一昨年と同じ座組なので、行って来ました。
幕開き直後は、ミュージカル畑ではない、松村さんのオーバーアクションの演出にちょっと違和感を感じ、これは、好みでないかもと感じていましたが、新納さんのオリン登場からは、舞台の空気が一変。
それからは、加速度的に、面白くなりました。
何と言っても、今回のキャストがなかなかのメンバー。
相葉さんのシーモアも、個人的イメージにピッタリで、私の好きなシーモアの第2位になりました。(1位は、岸田聡史さんです)
山本耕史さんは、昔、ずっとシーモアを演じて頂きたかった役者さんでしたが、念願叶った時は、ちょっと大人になりすぎていたので…。
最後に、思いもかけない、DAIGOさんをゲストに迎えたアフタートークがあり、これが、新納さんの名司会で、実に楽しい会話となり、周囲の若いお嬢さん達と一緒にニコニコしまくり、還暦間近のオバサンも、気持ちが若返って、幸せ気分となりました。
本編の満足度は☆3ぐらいでしたが、アフタートークが、最高に楽しかったので、一気に、4になった感じ!!
ネタバレBOX
山本耕史さんの出演した、鈴カツさんの演出舞台では、かなりグロテスクで、怖さを強調した演出でしたが、松村さんの演出は、娯楽作品に徹していた気がしました。
ただ、やはり、新納さんの登場までは、それぞれの身振りがわざとらしく、大仰な演出が多く、ミュージカルの雰囲気は阻害した部分も感じました。
訳詞も、ちょっと字余り傾向で、聴いててあまり心地良く感じない箇所がありました。特に、今作品の最大の佳曲である「サドンリー・シーモア」は、従来の訳詞の方がしっくりしました。
新納オリンが、とにかく最高に楽しい!
危険な植物、オードリー2も、見た目も、愛嬌があり、声の深沢さんの名演技もあって、登場人物の一員としての存在感が、かつて観たどの舞台より、秀でていました。
現実社会の風刺が効いた、熟考すると、身震いがするような内容の芝居ですが、今の世の中、世知辛すぎて、こういうミュージカルでは、あまり、オードリー2の不気味さは、強調しない、今回のような演出の方が断然好みでした。
サロメ
新国立劇場
新国立劇場 中劇場(東京都)
2012/05/31 (木) ~ 2012/06/17 (日)公演終了
満足度★★
舞台役者のみで演じてほしい作品
「サロメ」を観るのは、高校の演劇部上級生の、篠井さんの、そして、今回の多部さんで、3度目でした。
昔、映画で、観た記憶も。聖書の会で、牧師さんのご高説を伺ったこともあります。
でも、サロメが、ヨカナーンの首を所望する本当の理由は、未だにはっきりとはわかりません。
オスカー・ワイルドの原作なので、やはり、これは、倒錯愛の物語と取るべきでしょうか?
亜門さんの演出は、何となく、蜷川さん風でした。
映像畑の役者さんも、皆さん、長台詞をしっかり頭に入れ、淀みなく、話されるのですが、でも何か物足りない。
台詞の言い方が、どうしても現代ドラマみたいで、内容と合致しない感じを受けました。
その中で、一人、異彩を放っていたソンハさん。声の出し方からして、違いました。本当に、預言者の声の深みを感じます。
声そのものに、説得力があるんですから…。
多部さんは、それ程の舞台キャリアもない女優さんにしては、驚くべき熱演、好演ぶりですが、でも、こういう難解な芝居には、やはり舞台役者さんでなければ、表現し得ない何かがあるような気がしました。
ネタバレBOX
この頃の傾向として、どうして、昔の時代の芝居を、衣装やセット等、現代に置き換えて、上演する形態がこんなに多いんでしょう?
「ロミオとジュリエット」にしても、「サロメ」にしても、現代ではありえない作品内容なのですから、当時に忠実なセットや衣装の方が、むしろ、観客としては、作品世界に同化しやすいと思うのに、なまじ、現代調にしてしまうと、何だか、茶番劇のようで、浅い芝居になりがちではと感じます。
ただ、舞台の天井に、斜めに鏡が配置してあったのは、登場人物の足の配置が、視覚的に効果を上げていて、最後の血にしても、インパクトがあり、一種の美しさもあって、精巧なセットだったと思います。
多部さんは、お若いのに、台詞の言い方に、色気があり、サロメの狂気を浮つかずに好演されましたが、「ヨカナーンの首がほしい」という同じ台詞を、経過に従って、微妙に変化させるところまでには至らず、やや一本調子になった点が残念でした。
奥田さんは、以前拝見した時より、舞台慣れされましたが、どうしても、映像の奥田映二のイメージを払拭するには至らず、サロメに、そんな無謀な要求はするなと意志を翻させるべく、説得を試みる、へロデの長台詞には到底聞えず、テレビドラマで、父親がハッチャケ娘を説得している程度にしか思えなかったのが、残念に思いました。
席が遠くて、馬木也さんが、何の役だったかもわからず、これも個人的には、残念。
ソンハさんのヨカナーンは、素晴らしかった!!
いつか、彼の演じるキリストを観てみたい気がします。
DOWNTOWN FOLLIES DELUXE vol.8
Aux-Sables
渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール(東京都)
2012/05/25 (金) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★
今回が一番つまらない
vol.1から全て拝見していますが、残念ながら、今回が一番面白くありませんでした。
今までの焼き直しが多く、それも、初披露の出来栄えから、相当レベルダウンのお粗末さ。
今までは、しっかりと骨組みされたエンタメショーでしたが、今回は、エンタメというよりは、コントが主体の余興程度の出来栄えで、正直ガッカリしました。
だいたい、パロディというのは、元になる作品が、誰にでも周知されていてこそ面白くなると思うのですが、今回の元ネタをどれだけの人が知っているのかもかなり疑問でした。
きっと、構成・演出家が大御所過ぎて、関係者は仰せの通りという感じなんでしょうね。(私が、何十年も前に、著作権料をお支払いする事務をしていた頃から、既に大家でいらしたので)
最近、よくお見かけするブラボーお兄さんの存在も、かえって、興を殺ぎました。
舞台とは無関係ですが、最後に、会場を後にする時、振り返って、見上げたら、幼少時の記憶の玉手箱のようなプラネタリウムの懐かしい投影機がオブジェのように窓際に見えて、心で、「さよなら」と呟きました。
私の好きだった物がどんどん過去の産物になって行く悲しさで、胸が張り裂けそうでした。
ネタバレBOX
初見の時は、殊の外面白かった「南太平洋」のパロディ。これは、宝塚トップだった香寿さんが、自分のいた劇団を、生真面目にパロディ化して演じた故の面白さがありました。
でも、今回の、樹里さんには、その潔さが不足していました。
「アーチスト」の北村さんのパロディは、先日観て一番好きな場面をネタにして下さったので、個人的には受けましたが、映画を観ていない人には、チンプンカンプンでは?
それに、私の席からは、字幕が見えず、楽しさ半減でした。
また、今までは、各出演者の舞台上での力加減が一定で、誰が目立つでもなく、比重が同じだったのが、この作品の一番の魅力でしたが、今回は、歌穂さんの演技力に頼り過ぎのきらいがありました。
最初拝見した時は、アイデアに息を呑んだ犯罪舞踏も、何度も観ると、またか!とゲンナリ。今回は、「ブラックスワン」のパロディとして、登場しましたが、やってることはほとんど変わらず、もはやマンネリ気味。
最後に、練炭を出して、木島被告の事件を連想させるぐらいが新味と言えば、新味ながら、あまりセンスのいいアイデアとも思えず。
いつも、目に鮮やかな吉野さんのダンスが観られなかったのも、残念でした。
(お怪我がまだ完治していないのかもしれませんが…)
一番、面白かったのは、吉野さんの「ジキル&ハイド」のパロディ。
ミュージカル俳優として生きるか、そろそろテレビ出演とかも思慮に入れるべきかと二者択一で悩むという設定で、あのジキルがハイドに変化するシーンを、真面目に演じて下さって、一種感動的でさえありました。
ミッション
イキウメ
シアタートラム(東京都)
2012/05/11 (金) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★
脚本と演出の不調和を感じる
と言うより、性格の不一致的と言うべきか?
前川ワールド、って、私は、SFと現実の狭間の独特な世界観が魅力だとずっと思っているのですが、今回の作品は、普通に、家族人情劇風なタッチでした。
いつもの、畳み掛けるような、重量感、重圧感、緊迫感がほとんど感じられず、悪い意味で、芝居がかった芝居に感じられてしまいました。
イキウメには珍しく、まるで、コメディでも観てるような女性観客の高笑いにも、ゲンナリしました。
石を投げて、水面に落ちる音が、ちょうどいい塩梅だったのが、一番心に残りました。
ネタバレBOX
やはり、いつもながら、安田順平さんの好演ぶりには、感嘆します。
浜田さんは、いろいろな役柄を演じられて、お幸せだろうと思う反面、森下さんや大窪さんは、役柄のパターンが決まっている気がして、役者さんとして、どういう思いでいらっしゃるだろうと、ちょっと余計なことが気になってしまいました。
伊勢さん演じる喜美が、死んだ友人がいた病室をつい見上げる癖があって、自動車事故に遭ったり、安田さん演じる神山が、寝る前に、家族や知人を思いやって祈る時に、あまりにも、人数が増えたので、ある時、それらをひっくるめて、「皆」として個人名を列挙しなくなったというエピソード等、台詞の隋所に、自分の経験と重なるところが多く、あー、この舞台、やはり、前川さんの演出で観たかったと強く思いました。
最後の終り方にも、あまりセンスがなくてガッカリ。前川さんなら、もっと余韻が残せたのでは?
ロミオ&ジュリエット
アミューズ
赤坂ACTシアター(東京都)
2012/05/02 (水) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★
気品と初々しさの欠けるロミジュリ
たぶん役者さんのせいではないのですが、何となく、脚本と演出が陳腐な気がしてしまいました。
誰もが、涙を流さずにはいられない、史上最も美しく切ない、決定版…などのキャッチコピーを見ましたが、全く、そんな気配はないと言うか…。
でもね、佐藤健さんは、初舞台とは到底思えない、健闘ぶりで、ファンの方は満足されただろうと思います。
私はと言えば、橋本さとしさんのロレンス神父目当てでの観劇でしたから、とりあえず、その点では満足でした。
ネタバレBOX
玉置さんの執事とか、キムラ緑子さんの乳母とかが、どうして、あんな小ネタ演技で、笑いを取ろうとする必要があるのか、理解に苦しみました。
シェークスピア特有の叙事詩的な長台詞も大分カットされ、衣装も現代風なので、どうも味付けが、大味で、この作品の持つ、繊細さや崇高さが、どこかに置き去られたような印象を拭えず、大変残念に思いました。
それにしても、今回、一番気になったのは、ロレンス神父様は、この後、どういう裁きを受けるのでしょう?
とても思いやりのある神父様なのに、極刑とかになったらお気の毒ですね。
負傷者16人 -SIXTEEN WOUNDED-
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2012/04/23 (月) ~ 2012/05/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
まさに演劇の真髄に触れた思い
これこそが、私が心で定義している真の演劇そのものでした。
嘘のない脚本、演出、役者。人間をきちんと描いた本を、俳優が血肉を注いで、リアルな人物に造形する。
遠く離れた、人種も宗教も異なる日本にいて、この生易しくない、人間の不条理をひと時でも、自分の身に寄せて体感でき、思考できるのは、演劇だからこそと強く感じました。
まだ学生時にミュージカルの世界に突然足を踏み入れた井上さんが、ここへ来て、たくさんの名舞台を経験し、まさに鬼に金棒の名役者ぶり。
初舞台から拝見しているので、無関係ながら、何だか子供の成長を見守って来た母親のような感動を覚えました。
ノラ役の女優さん、どこかで見覚えがあると思ったら、真中瞳さんが改名されて、東風万智子さんになられたんですね。こちらも、とても好演されていて、ノラのこれからを思うと、胸が痛みました。
ハンス役の益岡さん、ソーニャ役のあめくみちこさんも含め、キャストの役作りがしっかりしていて、ずっと、息を詰めて舞台を凝視してしまい、何だかひどく疲れたのですが、これは、描かれている解決のつかない難題を真っ向から問題定義する芝居だったから仕方ないことかもしれません。
終演後、一人珈琲を飲みながらも、ずっと嗚咽してしまいました。
でも、この疲労は、決して不快なものではないのです。
こういう素晴らしい芝居を今後もたくさん上演して頂ける日本の演劇界であってほしいと切実に願います。似非演劇には、もう食傷気味ですから。
ネタバレBOX
内容は辛い現実に根ざしているのですが、普通なら、理解し得ない、パレスチナ人とユダヤ人の人間としての心の交流に重きを置いた脚本が秀逸でした。
バスの爆破テロをして、アムステルダムに逃亡して来たパレスチナ人役の井上さん、ユダヤ人のパン職人に助けられ、数年後、しっかりパンの職人として働いている場面の、パンの捏ね方に感嘆しました。驚くべき職人芸!プロはだしの所作でした。
いつの間に、こんなにしっかりとした演技者になられたのかと、感無量でした。
ハンスの過去も、ずっと思慕しているソーニャに求婚を受け入れられない男の悲哀までも、描くことで、登場人物それぞれの、悲劇的な事情が、その都度、自分の身の回りの出来事のように、追体験できて、何と、奥の深い作品かと、何度も、この舞台を見過ごさずに済んだ幸福に感謝しました。
こういう、人間をきちんと深く描いた名戯曲を、きちんと勉強して、上から目線でない演出家に、日本での上演だということをしっかりと視野に置いた上で、名役者揃いで、上演していただけたら、申し分ありません。
こんな名舞台を、3000円代のチケット代で、観られる幸福で、心が満たされました。
百年の秘密
ナイロン100℃
本多劇場(東京都)
2012/04/22 (日) ~ 2012/05/20 (日)公演終了
満足度★★
ケラ式「わが街」、はたまたチェーホフ劇
って感じのお芝居でした。
確かに、ケラさんの作劇は上手いと思います。
3時間半、長いけど、カットすべき箇所は思い当たりません。
あれだけの、登場人物、一人二役、三役もあったりして、その上、時間が過去や未来に行ったり来たり。それなのに、全くこんがらがらないのは凄い。
でも、この作品、所詮、作り話の域を出る芝居ではなく、よって、登場人物誰一人として、感情移入できるような存在もみつけられないまま、ずっと、客席から、傍観してしまいました。
何役も演じたり、同一人物でも、若い時や老齢まで演じ、役者サイドのテキストとして見たら、秀作脚本かもしれませんが、一般観客である自分には、今回の作品は、凡作に思えました。
実力ある俳優陣が勢揃いしている劇団だから、途中で帰りたい気持ちにもならず、観られるのですが、これをもし、素人紛いの劇団が上演したら、たぶん、途中で、帰りたくなるかもしれません。
萩原聖人さんと、ベイカー家の女中、メアリー役の長田さんがとにかく秀逸な演技と存在感でした。
100年の歴史を現す、映像の使い方、見せ方の巧みさにも、感嘆しました。
ただ、室内と庭の境がないので、舞台の中盤まで、登場人物がどこにいるのか不明な箇所が多く、そういう余計な神経を使わされて、やや疲れました。
せっかく、台本構成は巧みに書かれているのに、セット面で、難解にしてしまったようで、残念でした。
ネタバレBOX
ケラさん流の「我が街」か、「桜の園」、「三人姉妹」、「かもめ」などのチェーホフ劇かというような、壮大な趣の、ある家族と、その周囲の人々の100年に及ぶ歴史物語で、本当に、芸達者な皆さんの、何役もの演技や、幼児から、晩年までのおちゃのこさいさいの演じ分けは、観ていて、楽しいものがありました。
行きつ戻りつのお話で、一体どこでラストシーンになるのかと思っていたら、小学生のティルダとコナが、年長のカレルが思慕するアンナ先生に宛てた恋文を木の下に隠す相談をするところで終わり、これはちょっと意外でした。
正確な台詞は忘れましたが、二人が、「アンナ先生に洗脳されてるかも」というような会話をするのは、先日の中島さんの騒動などを想起してしまい、この芝居のエンディングには相応しくないような気がしました。
むしろ、本当は、兄弟かもしれない、元恋人同士の、老年のポニーとフリッツが、二人手を取り、寄り添って退場するところで、終幕としてほしかったなと、個人的好みでは、そう思いました。
PROMISES PROMISES in CONCERT
サンライズプロモーション東京
新国立劇場 中劇場(東京都)
2012/05/09 (水) ~ 2012/05/09 (水)公演終了
満足度★★
期待ハズレでした
これは、すごく残念!
勝手に期待度マックスで行ったから。
一部のプロミセス・プロミセスの方は、ダイジェストにすらなっていなくて、ストーリーを知らない人には、チャックとフランの心が徐々に寄り添って行く過程が全くわからないのではと思います。
構成・演出がおざなり過ぎて、せっかくの好キャストが生きていない。
2部のバカラックの特集の方は、司会者であり、訳詞も担当された方の知識披瀝のためのショーかと見紛う程、まるで、NHKの素人喉自慢の進行のように、その都度、司会の見識自慢とキャスト紹介が繰り返され、楽曲を堪能する気分になれませんでした。
私は、バカラックの楽曲を聴くのを楽しみに行ったのであって、司会者のレクチャーを受講しに行ったわけではないので、もう少し、歌を楽しめる構成にしてほしかったなと思います。
それに、元々、バカラックの曲は、耳には心地良くても、難解なので、あの訳詞では、原曲の良さを殺してしまいます。
とは言え、中川さんの朗々とした歌いっぷり、彩乃さんの澄んだ歌声、戸井さんの素敵さ、浜畑さんの存在感、よく稽古したアンサンブルの揃った所作、ステージングの本間さんの洒落っ気、紫城さんのチャーミングさ等、キャスト陣は、忙しいスケジュールの中、健闘していらしたので、ステージそのものは、好感触で楽しむことができたのが、何とも救いではありました。
以前、家族が、本物のバカラック招聘に一役買って、素晴らしいステージを知る身には、どうしても物足りないコンサートだったのは、致し方ないのかもしれませんが…。
ネタバレBOX
1月に観た「チェスコンサート」の方は、同じコンサートバージョンでも、骨格がしっかりと構成され、芝居を観たのと同じような充足感があっただけに、この「プロミセス・プロミセス」の付け焼刃の構成には腹が立ちました。
最後に、二人がどうなったかは、想像にお任せしますって、それはないでしょうって感じ。(苦笑)
きっと、主役のお二人が別のお仕事で忙しく、十分、稽古ができないので、こういう構成になったのでしょうが、これでは、ちょっと誇大広告のような気さえしました。
こんな、不十分な内容の「プロミセス・プロミセス」なら、むしろ、全部、バカラック特集として、たくさんの曲を歌い継ぐ形式にした方が良かったのではと思います。
神戸 はばたきの坂
兵庫県立芸術文化センター
新宿文化センター(東京都)
2012/05/06 (日) ~ 2012/05/06 (日)公演終了
満足度★★
やや綺麗ごとに過ぎるきらいが
ミュージカル俳優として、実力ある出演者ばかりだし、謝さんの演出、振り付けにも興味があり、行って来ました。
お隣の方は、またしても500円でご覧になったようですが、私は、5000円で、拝見。
神戸のオーディションで、選抜されたというアンサンブルメンバーは、ダンスも歌も全員が揃っていて、お見事でした。
ただ、アンサンブルの解説台詞は、全員で声を揃えると、音としては聞えるものの、言葉として、耳に届かず、これは全部歌で解説してほしかったと思いました。
キャストは、皆さん、大変好演されていましたが、中でも、彩乃さん、照井さんの真摯な演技が印象に残りました。
土居さんの透き通る歌声はいつ聴いても絶品。戸井さんが、いつの間にか、所作や殺陣風舞踊等、上達されていて、目を見張りました。
ストーリーが、やや綺麗ごと過ぎて、当時をリアルに伝えていない点が残念でした。
ネタバレBOX
ブラジルへ移民するために、準備段階として、神戸の移民収容所で、日本最後の7日間を過ごす人々の物語。
構成としては、シンプルで、よくまとまった物語なのですが、どうも登場人物全員が善人ばかりで、日本での貧困を苦にして、新天地を求めてこの収容所にやってきたような緊迫感もなければ、生活感も感じられません。
たとえば、借金をして、夜逃げ同然に国外に移住しようとしていた男(宮川さん扮する)がブラジルへ行ける様に、つい数日前に知り合ったばかりの、やはり貧困から脱したい男(戸井さん扮する)が、妹(彩乃さん扮する)に頼まれて、いとも簡単に、保証人になったりします。
でも、保証人がいなければ、ブラジル行きは認めないと言っている、債権者が、同じような立場の無一文の男を保証人として認め、無事、移民できるようになったりするものでしょうか?
また、この保証人を引き受けた男の家庭では、以前、親が保証人を引き受けたばかりに債務を肩代わりして大変な辛苦を経験したと言うのに、こんな数日前に知り合っただけの男の保証人をまたしても引き受けたりするものでしょうか?
剣さん扮する女性は、ブラジルで、夫を失い、現地の男と再婚し、子供を亡き前夫の両親に預けるために一時帰国し、この移民希望者達と一緒に、収容所で7日間を共にします。
それは納得するとして、もう7年もブラジルに住んでいるこの女性が、他のメンバーと共に、ブラジル事情を講習する場に同席し、同じように説明を聞いているのも不可解です。
自由時間に門限を破って、ウロウロしていた土居さん扮する女性が、出会ったばかりの親切な華僑にノコノコ付いて行って、相手の家に一晩泊まるとか、とにかく、描かれている出来事に、どうも眉唾っぽく感じる点が随所に見受けられました。
そのため、どうも、へそ曲がりな私は、他の観客の皆さんのようには、あまり感動できずにおりました。
ただ、最後の方のシーンで、剣さんが、一人アカペラで、「故郷」を歌いだした時には、日本人の血に作用したのか、不意に涙腺が緩む瞬間もありました。
やはり、あの歌は胸に沁みます。
へちま -糸瓜-【全公演終了!ご来場ありがとうございました!!】
文月堂
OFF OFFシアター(東京都)
2012/04/24 (火) ~ 2012/04/30 (月)公演終了
満足度★★★★★
三谷さんの出演が嬉しい
劇作家、演出家としての三谷さんも好きですが、私が最初に知ったのは、女優さんとしてでしたから、久しぶりに、女優の三谷さんを拝見できて、まず嬉しく思いました。
またしても、3姉妹もので、よくある設定のストーリーではありましたが、人物の性格付けが細部まで行き渡り、それぞれの人間や関係性がリアルだったので、比較的、引き込まれて、面白く観ることができました。
「ちょぼくれ~」の時は、気が変になった風のお姫様役だった辻沢さんが、今回は一転、どこにでもいそうな女子大生役で、大変な好演をされ、すっかりファンになりました。
当パンに相関図があり、ややこしいのかと心配になりましたが、芝居が始まってみれば、とてもわかり易い関係で、ほっとしました。
加藤茶の奥さんネタや、鉄の女サッチャーをたとえに出したり、今現在の空気をさり気なく出し、実際に存在する家族と錯覚させる程、何もかもが、秀逸な描き方だったように思います。
ネタバレBOX
長女役の三谷さんが、品があって、聡明な美しさで、本当に、存在感十分でした。
それぞれ、母親が違う3姉妹の複雑な関係性が、わざとらしくなく、実にリアルな3姉妹になっていて、驚きました。
キャストが、皆さん、はまり役。特に、三女のいずみの懸命さ、いずみの婚約者の中川のヒトデ愛を、辻沢さんと白州さんが、軽妙洒脱に演じて、このコンビの芝居は楽しくてなりませんでした。
長過ぎた春の、長女たまきと田邊が別れを決心する際の二人の会話も、秀逸な描き方で、山田太一さんや向田さんのかつての名ドラマを彷彿としました。
ただ、次女のみのりとたまきの会話で、父親の葬儀の日の、田代さんがどうのという件が、ちょっと、私にはよく呑み込めませんでした。
隣家に住むおじを心配して、この家に探しに来る真澄を、田邊が執拗に羽交い絞めにして、追い返そうとする場面は、やや作為的過ぎて、白けました。
全体的に、人物造詣が優れていたので、こういう些細な欠点が逆に、気になったのかもしれません。
いずみの母親が、離婚して、娘と離れて暮らしていながら、娘への愛情溢れる母親の心情を吐露する場面では、思わず、目頭が熱くなりました。
文月堂、益々、波に乗っていく予感がします。
国境のある家
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2012/04/21 (土) ~ 2012/04/29 (日)公演終了
満足度★★★★
知識人向きの演劇
ある三世代家族のお話。
皆が家族にそれなりの愛情を感じている、ごく普通の一家。
でも、皆が、言えない秘密を抱えていた。
具体的な内容は、全く似てはいないのですが、山田太一さんの「岸辺のアルバム」とか「それぞれの秋」などを思い出しました。
斜形の柱が、照明によって、色を変え、部屋や、山林や海岸に、瞬時に姿を変えて見える装置が、美しく印象的でした。
父親役の大家さんの演技がこの上なく秀逸。
津嘉山さんの祖父が、家族を諭す自論には、並みの評論家よりも遙かに説得力があり、思わず身を乗り出して聞き入ってしまいました。
娘役の三枝さんの演技が、ややテキストをなぞられている感じで、自然でない点が残念に思えました。
ネタバレBOX
冒頭からしばらくは、やや退屈に感じました。
台詞も、作者の書いたものという印象が強く、やや鼻白む展開。
でも、中盤で、娘がアメリカ人との結婚話を持ち出してからは、物語が濃密になります。
ただ、このストーリーの背景を理解するには、観客側にかなりの教養が必要です。
アメリカ大統領のアンドリュー・ジャクソンや、60年安保の樺美智子さんの死や、「三人姉妹」の粗筋や登場人物、徳富蘆花の知識、アメリカと日本の関係、ありとあらゆる知識がないと、チンプンカンプンになりそうな気配も感じました。
せめて、当パンに、用語解説などがあれば、親切ではと思うのですが…。
それにしても、祖父の話す「日本は、アメリカの属国論」、本当に、そうだなあと、実感して、虚無的な気持ちになりました。
祖父と祖母、どちらが、相手を思いやって、呆けた振りをして、合わせているのかは、最後まで明らかにされませんが、もしかすると、お互いに、少しづつ、変容しているのかもしれません。でも、この家族には、基本的に、お互いへの愛がたくさんある、理想的な家のように思えました。
それだけに、最後の「国境のある家」という台詞には、作者の創作上のこじつけめいた感じがあって、やや、無理に風呂敷を畳んだような違和感を感じました。
夫婦も、お互いに、同じ日、同じ場所で、デモに参加した過去があったことを知り、共感したり、一人の男と関係した姉弟も、呆けの兆候のある老夫婦も、家族全員、理解し、支え合っていて、むしろ、私には、国境のない家に思えました。
平成中村座 四月大歌舞伎
松竹
隅田公園内 仮設会場(東京都)
2012/04/02 (月) ~ 2012/04/26 (木)公演終了
満足度★★★★★
おゆきは誰?(小笠原騒動)
と、とにかく思いました。
歌舞伎で、こんなに活躍の場がある名子役さんを見るのは、久方ぶりです。
もし、神様が、芝居好きな私に、「一度だけ舞台に立たせてあげるけど、何がいい?」と聞いてくれたら、「タイムスリップして、小笠原騒動のおゆきをやらせて!」とお願いするかも。
そんな気持ちになるくらい、幼いながら、独壇場の演技でした。
このストーリー、現代に置き換えても、きっとあちこちの会社とかで、実際にありそうなお話。
でも、現代では、返り忠の忠義者は、いないでしょうね。
ネタバレBOX
のっけから、七之助さんの悪女っぷりが、凄まじい!
自分の出世のために、恩ある養父を口元に笑みを湛えて、赤い帯紐で首を絞めていく様に、先日観た「お染の七役」からの進化を感じ、まずこちらにも笑みが浮かびました。
一方、世話になった隼人への忠義一筋で、良助に惨殺されてしまう、仁義に厚いお早の役も、七之助さん、見事に演じ分けられました。
たった数ヶ月で、役の演じ分けが巧みになられて、幼い頃から拝見している一ファンとして、至上の喜びを感じました。
勘九郎さんの犬神兵部は、悪役を誠心誠意、懸命に演じているのは、わかるのですが、まだ若干、力みが強い感じがします。
もう少し、余裕を持って、悪役を楽しんで演じられるようになる日を期待したいと思いました。
扇雀さんの隼人、おかのには、共に、品格と色気があって、とてもこの芝居のリアル感を増幅させて、素敵でした。
国生さんは、昔の光輝さんを彷彿とさせます。きっと、いい役者さんになられるだろうなと、こちらも楽しみ!
米屋や酒屋、3人の取立て屋が、良助の娘おゆきの健気さに胸を打たれ、借金を取り立てるどころか、逆に、着ていた着物を譲って、襦袢だけで、帰る場面、笹野さん達の楽しげな演技で、心がほっこりし、その分、後の悲劇が際立つ、巧みな演出でした。
それにしても、ずっと歌舞伎を観ていますが、「返り忠」という単語は初めて聞いた気がしました。
橋之助さんの岡田良助の返り忠っぷりに心を打たれました。
現代でも、返り忠になってくれるような人間が増えるといいのに…。
HIDE AND SEEK
パラドックス定数
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2012/04/13 (金) ~ 2012/04/22 (日)公演終了
満足度★
観念を笑い飛ばす芝居?
うーん?
申し訳ありませんが,私の口には合わないお芝居でした。
いつものシリアスオンリーのパラドックスの方が好みです。
役者さんの台詞も聞き取れない部分が多く、残念でした。
ネタバレBOX
松本清張までが登場した時には、危うく我が祖父までが末席を汚すのかと思いきや、そうではなくて、ほっとしました。
私の好みから言えば、登場人物が被る、てがみ座の作品の方が好きでした。
最後に、小野さん扮する編集者が読者として登場し、こちら側の小説家達が、「読者はこちら側にはなれない」と突き放すところは、「観客は、どんな芝居もありがたく観ろ」というどなたかのご高説を思い出し、一人違和感を感じておりました。
幼少の砌から、数々の名作家や、名プロデューサーと卑近な距離で接してはいても、結局、ただの観客や読者にしか過ぎない自分には、到底理解の範疇でない、作者側の論理に裏打ちされた芝居にしか感じ取れませんでした。
シンベリン
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2012/04/02 (月) ~ 2012/04/21 (土)公演終了
満足度★★★★
後味良い大団円が全てを払拭
豪華キャストの割には、最初の内は、企画段階の有り様が容易く想像できる、蜷川流10番煎じ的演出や仕掛けに、やや興醒めな思いがしていたのですが、最終的には、そういう粗やご都合主義を払拭するような、後味の良いラストで、マイナス要素はどこへやら。
結構、大満足して、劇場を後にする、単純な客と相成りました。
大竹しのぶさんは、彼女らしい台詞回しながら、あっぱれ、若い王女の可愛らしさを体現し、お見事でした。
窪塚さんも、映像畑出身とは思えない口跡の良さで、御見逸れしました。
初舞台からずっと注目している浦井さんが、また演技者として、更なる進化を見せて下さり、まるで、親戚のおばちゃん感覚で、感無量でした。
さいたまネクストシアターの川口さんと松田さん、共に大変楽しみな役者さんです。
ネタバレBOX
開幕前に、最近、蜷川さんが多様される、役者自身が舞台上にいて、稽古着などを着用し、普段の会話をして、アップなどしているという演出に、まず鼻白むものがありました。
初めて観た方には新鮮かもしれませんが、私には、もう何度目やねん?って感じ。
源氏物語絵巻風な背景とか、外国向きなのかもしれないけれど、明確な意図を感じられなくて、またこれか!と拒絶反応まで出て、わざわざ埼玉にまで足を伸ばした甲斐がなさそうに思ったりもしました。
でも、シェークスピア作品の中でも、笑いどころが多く、ハッピーエンドの作品で、おまけに、ほとんど死者がいなくて、赦しという大テーマがあって、個人的に、大好きな物語展開だったせいで、最後は、笑顔で、大拍手をして、帰路につくことができました。
観客の方が、先に真相を知っているだけに、安心して、心に余裕を持って観ることができるのも嬉しい利点かもしれません。
勝村さん登場で、笑いが起き、瑳川、浦井、川口の3人組の登場で、一気に舞台が躍動しました。
それにしても、勝村さんのアホ王子、どこかのダメダメ政治家みたいでした。
本役でない、浦井さんの楽師の歌や、勝村さんのジュピターとかの遊びのような出番が愉快でした。
それと、ひどく個人的なツボは、悪巧みの犠牲になったポステュマスを神に救いを求めて、彼の親や兄弟が揃って、夢に登場する場面。こういう親心、身にしみます。
通し狂言 絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2012/04/03 (火) ~ 2012/04/23 (月)公演終了
満足度★★★★
私利私欲の悪の華
近松や黙阿弥の悪人とは異なり、南北の描く悪人は、あくまでも、個人的な欲深さ故の悪行なんですよね。
だから、南北の作品は、悪の華の魅力を体現できる役者さんでないと、ある意味、芝居自体が、意味をなさなくなると思うのです。
さすが、仁左衛門さんの悪役二人は、悪の魅力を存分に放って見事でした。
でも、それにしても、この演目、人が殺され過ぎ。
震災時に公演が中止になったのは、内容も影響したのでしょうね。
段四郎さんが体調不良で、左團次さんが、二役を兼任されていますが、劇場で、そのことが知らされず、お隣のお二人が、ずっと、「どうしても段四郎さんには見えないけど、」と首を傾げていらっしゃいました。
やはり、ここは、きちんとアナウンスで告知すべきではと思います。
ネタバレBOX
幕開きが、何だか間延びした展開で、唖然としましたが、だんだんと面白くなりました。
ただ、南北の作としては、あまり出来が良くない気がします。
仁左衛門さんが、役者の魅力で、押し切って、魅せてしまいますが、もし、これが、それ程の役者さんでなければ、愚鈍な演目にもなりそうな予感がします。
伝法なうんざりお松の時蔵さん、品格のある左團次さんの瀬左衛門と弥十郎が、とても魅力的でした。
仁左衛門さんと愛之助さんの並ぶ舞台は、見た目にも一興でした。
王女メディア
幹の会+リリック
世田谷パブリックシアター(東京都)
2012/04/11 (水) ~ 2012/04/15 (日)公演終了
満足度★★★★
城全さんの進化に感動しました
「王女メディア」は、平さんのと、玉三郎さんのを、若き昔に観て、とても衝撃を受けた思い出があります。
今回の台詞は、高橋さんが、全ての固有名詞を普通名詞に置き換えたそうで、確かに、どこでもいつでも、人間の本質を突きつける普遍的なドラマになっていたように思います。
王女メディアの夫、イアーソン役の城全さんの口跡が鮮やかで、ちょっと拝見しない間に、凄い俳優さんに進化されたと感嘆しました。
最近の文学座では出色の役者さんではないでしょうか?
ネタバレBOX
舞台装置が、コロシアムのようで、ギリシャの昔を偲ばせる作りになっていました。
高瀬さんの演出は、コロスの動かし方に、工夫があり、劇を大変効果的に見せて、成功したと感じます。
平さんのメディアの圧倒的な長台詞が、決して増長的にならないのはさすがです。まるで、職人芸を観ている気分でした。
芸歴が長い割には、ちっとも成長を感じられない俳優さんがいる一方、城全さん始め、廣田さん、斉藤さん、南さんに、演者としての資質を感じ、先行きが楽しみになりました。
メディアの殺されてしまう子供を、素晴らしい人形にした点は、とても良かったのですが、最後に殺される時の台詞が、他の場面と違和感があり、そこだけ、浮いて、最近の映像番組まがいになってしまったのが、大変残念でした。
いつか、平さんのメディアで、岳大さんのイアーソンの舞台を観てみたいと思いました。
今日、気づいたけど、「四谷怪談」を彷彿とする芝居ですね。
それししても、勝手な親の犠牲になる子供がただただ哀れ。
今の児童虐待とかを想起し、胸が痛くなりました。
終幕が、すっきりせず、何度もフライング拍手があったのは、平さんにお気の毒でした。