負傷者16人 -SIXTEEN WOUNDED- 公演情報 新国立劇場「負傷者16人 -SIXTEEN WOUNDED-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    まさに演劇の真髄に触れた思い
    これこそが、私が心で定義している真の演劇そのものでした。

    嘘のない脚本、演出、役者。人間をきちんと描いた本を、俳優が血肉を注いで、リアルな人物に造形する。

    遠く離れた、人種も宗教も異なる日本にいて、この生易しくない、人間の不条理をひと時でも、自分の身に寄せて体感でき、思考できるのは、演劇だからこそと強く感じました。

    まだ学生時にミュージカルの世界に突然足を踏み入れた井上さんが、ここへ来て、たくさんの名舞台を経験し、まさに鬼に金棒の名役者ぶり。
    初舞台から拝見しているので、無関係ながら、何だか子供の成長を見守って来た母親のような感動を覚えました。

    ノラ役の女優さん、どこかで見覚えがあると思ったら、真中瞳さんが改名されて、東風万智子さんになられたんですね。こちらも、とても好演されていて、ノラのこれからを思うと、胸が痛みました。

    ハンス役の益岡さん、ソーニャ役のあめくみちこさんも含め、キャストの役作りがしっかりしていて、ずっと、息を詰めて舞台を凝視してしまい、何だかひどく疲れたのですが、これは、描かれている解決のつかない難題を真っ向から問題定義する芝居だったから仕方ないことかもしれません。

    終演後、一人珈琲を飲みながらも、ずっと嗚咽してしまいました。

    でも、この疲労は、決して不快なものではないのです。

    こういう素晴らしい芝居を今後もたくさん上演して頂ける日本の演劇界であってほしいと切実に願います。似非演劇には、もう食傷気味ですから。

    ネタバレBOX

    内容は辛い現実に根ざしているのですが、普通なら、理解し得ない、パレスチナ人とユダヤ人の人間としての心の交流に重きを置いた脚本が秀逸でした。

    バスの爆破テロをして、アムステルダムに逃亡して来たパレスチナ人役の井上さん、ユダヤ人のパン職人に助けられ、数年後、しっかりパンの職人として働いている場面の、パンの捏ね方に感嘆しました。驚くべき職人芸!プロはだしの所作でした。

    いつの間に、こんなにしっかりとした演技者になられたのかと、感無量でした。

    ハンスの過去も、ずっと思慕しているソーニャに求婚を受け入れられない男の悲哀までも、描くことで、登場人物それぞれの、悲劇的な事情が、その都度、自分の身の回りの出来事のように、追体験できて、何と、奥の深い作品かと、何度も、この舞台を見過ごさずに済んだ幸福に感謝しました。

    こういう、人間をきちんと深く描いた名戯曲を、きちんと勉強して、上から目線でない演出家に、日本での上演だということをしっかりと視野に置いた上で、名役者揃いで、上演していただけたら、申し分ありません。

    こんな名舞台を、3000円代のチケット代で、観られる幸福で、心が満たされました。

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    2012/05/15 02:33

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