土反の観てきた!クチコミ一覧

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くちづけ 【閉幕しました/配役発表】

くちづけ 【閉幕しました/配役発表】

オーストラ・マコンドー

中野スタジオあくとれ(東京都)

2012/04/11 (水) ~ 2012/04/18 (水)公演終了

満足度★★★

ブラックなマッシュアップ童話
『白雪姫』をベースに、いくつかの有名な童話のキャラクターが登場する物語で、女の嫉妬心が面白い演出で描かれていました。

暗い中で静かに始まり、不幸だった主人公が幸せになって行くに従い現状に満足しなくなり、また同じような不幸な境遇に陥る話で、人間の心の醜さがシニカルに描かれていました。
途中までは引き込まれていたのですが、タイトルになっている「くちづけ」が途中何度か出てくるものの、思ったよりストーリーに絡んで来ず、少々中弛みを感じました。

セットや小道具のセンスが素敵でした。あえて頭が当たりそうな高さのプロセミアムアーチを設けることによって不思議なスケール感が出て人形劇のように見えて、童話的な雰囲気が醸し出されていました。舞台のの手前と奥を仕切った壁に設けられた窓やドアも上手く使われていて、印象に残る美しいシーンが所々にありました。
ゴム紐を用いた見立ての表現もスマートでユーモアもあり良かったです。

主役を演じた神戸アキコさんの次第に性格が変わっていく様子が良かったです。7人の小人の暑苦しい感じが楽しかったです。

平成中村座 四月大歌舞伎

平成中村座 四月大歌舞伎

松竹

隅田公園内 仮設会場(東京都)

2012/04/02 (月) ~ 2012/04/26 (木)公演終了

満足度★★★★

盛り沢山な『小笠原騒動』
実際にあった御家騒動を題材にした作品で、笑わせる所も泣かせる所もある物語に、宙吊りやアクロバティックな立ち回り、様々な美術の仕掛けもあり、休憩込みで4時間あるにも関わらず、長さを感じさせませんでした。

序幕~一幕目は人物関係を追うのに集中力を持って行かれてしまい、演技や演出を楽しむ余裕があまりありませんでしたが、二幕目からはドラマチックな展開に惹き付けられ、とても面白かったです。
二幕目前半は笹野高史さんのまるでコントのようなコミカルな演技が楽しく、後半では子役の女の子の親を思う健気さに心を動かされました。
三幕目は橋之助さんと勘九郎さんの水車小屋での激しい決闘シーンが見所で、本水を用いた大掛りなセットの中、屋根に登ったり池の入ったりして客席を沸かせていました。特に水車に掴まって回転するのが凄かったです。
大詰は大勢の追手と戦う勘九郎さんの軽やかな身のこなしが見事でした。全員勢揃いの最後のシーンが格好良かったです。

客席の中を歩き回ったり、池の水をわざと客の方に飛ばしたりと観客との一体感を高める賑やかな演出が楽しかったです。

微か

微か

世田谷美術館

世田谷美術館(東京都)

2012/04/06 (金) ~ 2012/04/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

空間との対話
世田谷美術館のリオープン記念のパフォーマンスで、静謐で非常にゆったりした動きから、能の良い公演を観た時に感じられるような、まどろみと覚醒が同時に来る感覚が感じられました。

横長の窓を通して外の風景と繋がる扇型の空間を照明を用いず、外から入る柔らかな自然光だけで照らす中で約30分の間、日常とは異なる時間の流れが存在していました。
静かなアンビエントミュージックが微かに聞こえる中、客席後方から音を立てずに現れ、摺り足で空間をゆっくり移動し、時折腕を水平や上方に広げる動きがほとんどでしたが、表現に奥深い豊かさがあり、静止して踵を上げる動きや、少しだけ腰を落とす動きがとても印象的でした。
強く自身をアピールするのではなく、空気が凝固して人の形になったかのような存在の仕方が美しかったです。
室内が暗いためハレーション気味に見える窓の外で、花見客の人だかりや巨大なヒマラヤ杉、地面を群れて歩くムクドリ等の姿が無音で見えるのが、手前に見えるダンスとの対比で特別なものに見えて来て、不思議な体験でした。

パフォーマンス後のトークもダンスと同じような環境に対して威圧感のない、穏やかで丁寧な話し方・内容で魅力的でした。

ロング・アゴー

ロング・アゴー

劇団ING進行形

タイニイアリス(東京都)

2012/04/06 (金) ~ 2012/04/08 (日)公演終了

満足度

全く魅力が感じられず
ファンタジー系のロールプレイングゲームかアニメのような世界観の作品でした。決して演劇を舐めていたり、手を抜いたりしているわけではないのが伝わって来たので、悪く書くのは気が引けるのですが、脚本、演出、演技、スタッフワークのどの要素もレベルが低く、かなりの研鑽が必要だと思いました。

敵対する村の片方の人々が原因不明の病でほぼ全滅し、生き残った男が相手の村の長老に会いに行く物語で、ヒーロー、ヒロイン、老人、道化といったキャラクターがあまりにも典型的な演技で表現されるので、劇中劇として子供向け演劇のパロディを演じているのかと思い、どのように異なる階層の話に移行するのかを期待していたのですが、最後まで同じ調子で拍子抜けしました。

役者の大半は基礎がなっていなくて、型に頼った表面的な発声・台詞回しになっていて、伝わって来るものがありませんでした。ダンス的な身体表現もポップス歌手のバックダンサーみたいな動きで、物語との関連性が感じられず異物感がありました。

下ネタや駄洒落がかなり多い台詞も滑ってばかりで残念でした。何かと「変態」という単語を多用するのも必然性が感じられず、小学生が面白がって連発しているみたいに見えました。前半で台詞やシーンのループが何回かあって思わせぶりだったのに、後半で活かされていなくて勿体なかったです。

上演時間の8割程度の間、テクノ系を中心とした音楽が流れていて、脚本や演技ではなく音楽に頼って雰囲気を盛り上げていたように感じられたのも残念でした。

くろねこちゃんとベージュねこちゃん【ご来場ありがとうございました!!】

くろねこちゃんとベージュねこちゃん【ご来場ありがとうございました!!】

DULL-COLORED POP

アトリエ春風舎(東京都)

2012/03/14 (水) ~ 2012/04/08 (日)公演終了

満足度★★★

母親
母親と家族との関係を、ある時はポップに、ある時は悲痛に描き、感動させるかと思いきや、その裏に毒が潜んでいたりと、母親に対するアンビバレンツな感情が感じられる作品でした。
ストレートな会話劇だけに留まらない演出手法を適度に用いていて、新鮮な味わいがありました。

夫が亡くなり、葬儀のために母親の元に息子と娘が帰ってくる物語で、途中に母親と子供の確執が生じた時の回想シーンが挿入される構成でした。回想シーンは猫役の2人が母親の役を演じていて、良かれと思ってした行動が逆に相手を怒らせる様子が痛々しく描かれていました。終盤のちょっと意外な展開にも、母親に対する愛憎が感じられました。

母親役を女性でなく男性が演じることによって、ある特定の母親ではなく、普遍的な母親像が出ていたと思います。母親を演じた大原研二さんは最初はカツラを被っていますがすぐに外してしまい、見た目は男そのままなのに母親らしく見えて、良かったです。
猫の2人は家族とはテイストの異なる、コケティッシュでコミカルな演技で、母親の痛々しさが際立っていました。

陰影を強調したり、ライブハウスのようにカラフルだったりする照明が印象的でした。舞台上にある物の大半が猫絡みだったのも洒落ていて、面白かったです。

ニジンスキー

ニジンスキー

ニッポン放送

天王洲 銀河劇場(東京都)

2012/04/01 (日) ~ 2012/04/08 (日)公演終了

満足度★★

バレエファンとしては…
20世紀初頭に活躍した伝説的なバレエダンサー・振付家、ヴァーツラフ・ニジンスキーの半生をニジンスキーの妹が回顧する形で描いた作品で、ダンスは勿論のこと、歌もあってミュージカル的でした。
今年、東京バレエ団のニジンスキー特集と、バレエ・リュスの伝統を受け継いでいるモナコ公国モンテカルロバレエ団の公演を観たことと、振付が平山素子さんということで期待していたのですが、作品としてまとまりきっていないと思いました。

ニジンスキーが興行師のディアギレフに見い出され、バレエ・リュスで活躍した後に精神を病んで死ぬまでが、ニジンスキーの兄、妹、妻、妻の不倫相手でもある医師、ディアギレフの台詞を通じて描かれ、ニジンスキー自身はあまり台詞を喋らず、ダンスで表現する構成でした。
『薔薇の精』、『ペトルーシュカ』、『牧神の午後』、『遊技』、『春の祭典』等の代表作がオリジナルの振付を引用しながら踊られていて興味深かったです。

ニジンスキーやバレエに馴染みがない人でも分かるように配慮した説明的な台詞が多い、親切な作りでしたが、あまりニジンスキーの独創性が伝わって来ず、ドラマとしての流れも悪くなっていました。
『牧神』のエピソードに比べて『春の祭典』のエピソードはほとんど触れられなかったのはニジンスキーを語る上でバランスが悪いと思いました。

カンディンスキーあるいはクレー風のグラフィックが施された、両サイドの大きな箱状のセットや黒幕の開閉で一部だけが見え隠れする背後の壁や具象的な柄の照明等、ビジュアル的な演出に必然性も効果も感じられませんでした。
ドビュッシーやストラヴィンスキーの曲をアレンジした音楽も原曲の良さが殺されているように感じました。ヴァイオリンとヴィオラだけ生音で他は打ち込み音源のトラックに違和感がありました。オーボエやチェロも本物の楽器の音で録音して欲しかったです。

第2幕の後半、舞台から捌けた役者のマイクの音量を落とし忘れたのか、舞台監督が舞台裏で指示を出しているらしき声がスピーカーから聞こえていて、気になりました。

いないかもしれない 静ver.

いないかもしれない 静ver.

青年団若手自主企画 大池企画

アトリエ春風舎(東京都)

2012/03/26 (月) ~ 2012/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★

痛々しくもセンスの良い会話劇
60分間のワンシチュエーションもので、淡々とした会話の中に登場人物の心境が丁寧に描かれていて、引き込まれる作品でした。

小学校の同窓会の2次会で集まった男女2人ずつの所にクラスメイトだった名乗るものの誰もその記憶がない女性が現れて謎が深まるのと同時に、過去のいじめの関係が次第に明らかになっていく話で、過ちを忘れて変わろうとする3人の女性の姿が描かれていました。
コミカルな雰囲気で始まり、次第にそれぞれの心の暗部が浮かび上がって、ギスギスとした痛々しい雰囲気が増して行く展開が巧みでした。謎が全ては明らかにならないままに終わるのが反ってリアルに感じました。

いじめられていた女性が客席に世を向けた状態で話し続けるシーンは表情が見えない分、逆に表情を想像させ印象的でした。唐突なラストがどう受け止めれば良いのか悩みましたが、コンパクトな上演時間の中で展開する会話に充実感がありました。

怪しい勉強会に誘い込もうとする謎の女を演じた木引優子さんの不気味さが魅力的でした。物語の本筋にはあまり絡まないものの、ちょっと抜けた感じのキャラクターで場を和ませた田村健太郎さんも良かったです。

白の帯状の生地を縦格子状に並べて飲食店の店内を表した美術のセンスの良さが素晴らしかったです。通常は壁で隠されている上階への階段を店への階段として扱い、扉を開けて鈴が鳴り、足音が近付いてくるときに、誰が来たのか期待させる演出も効果的でした。

今度、同タイトルの動ver.の公演がありますが、脚本は同じで演出が異なるのか、それともテーマが同じで全く異なる話になるのか楽しみです。

菊次郎とさき

菊次郎とさき

東宝

大阪新歌舞伎座(大阪府)

2012/03/28 (水) ~ 2012/04/01 (日)公演終了

満足度★★

王道の人情喜劇
北野武さんの両親の半生を描いた人情喜劇で、いかにもな分かり易いストーリーテリング・演技でしたが、笑わせ方や泣かせ方にあまり強引さがなく、引いた見方にならずに観ることが出来ました。

物語は関東大震災の日から始まり、第二次世界大戦を経て、貧乏で苦しいながらも逞しく生活する様子が暖かくユーモラスに描かれていました。これからは学問が大事と考えるさきと、職人の子は職人で良いと考える菊次郎がぶつかり合いながらも共に生きて行く姿が頻繁な場面転換を挟みながら軽快に進み、客を飽きさせない構成となっていました。
自然な伏線の張り方で、ある古典芸能のストーリー引用がされていて、洒落ていて面白かったです。

メインのセットと、その手前の空間と、1層高くなっている奥の空間を使った空間演出は良かったのですが、それを有効に利用したスムーズな転換にはなっていなかったのがもったいなく思いました。
転換の繋ぎにミュージカル的なシーンが何回かあり、もっとたくさん歌を聴きたかったです。

タイトルロールの陣内孝則さんと室井滋さんはコミカルに若い頃から晩年までを演じていて楽しかったですが、出演者の全員が分かり易いお約束的な演技だったので、深みを感じることがありませんでした。

NHKバレエの饗宴 2012

NHKバレエの饗宴 2012

NHKプロモーション 

NHKホール(東京都)

2012/03/30 (金) ~ 2012/03/30 (金)公演終了

満足度★★★

豪華競演
バレエカンパニー5団体とデュオ1組のオムニバス公演で、様々なスタイルの作品が上演され、カンパニーの個性を見比べることが出来て、楽しめました。

新国立劇場バレエ団
『アラジン』から「財宝の洞窟」 
(振付:デヴィッド・ビントレー 音楽:カール・デイヴィス)
オムニバス公演らしからぬ大きなセットを持ち込んでの上演で、少人数のアンサンブルが次々に出て来て踊る、華やかなで楽しい作品でした。ルビー役を踊った長田佳世さんの軽やかな動きが際立っていて印象的でした。

Noism1
『Solo for 2』
(振付:金森穣 音楽:バッハ ヴァイオリン:渡辺玲子)
舞台上で弾かれるバッハの無伴奏ヴァイオリンに合わせてストイックなダンスが展開する作品でした。デュオの振付を別々に1人ずつ踊ったり、同じ振付がカノン風に重なったりと、凝った構成が興味深かったです。男女の区別が付きにくい衣装を着ていて、不思議な雰囲気がありました。

谷桃子バレエ団
歌劇『イーゴリ公』から「ダッタン人の踊りと合唱」
(振付:望月則彦 音楽:ボロディン 合唱:藤原歌劇団合唱部、二期会合唱団) 
合唱団の人達も衣装を着てステージ上で歌う、オペラの中のバレエシーンをそのまま抜粋した豪華な上演でした。民族的な衣装や振付が印象的でしたが、音楽の盛り上がりに比べてダンスはゴチャゴチャしていて、あまり魅力が感じられず、残念に思いました。

牧阿佐美バレヱ団
『ライモンダ』第三幕から「グラン・パ・クラシック」
(振付:マウリス・プティパ、テリー・ウエストモーランド 音楽:グラズノフ)
まさにクラシックバレエといった感じの演目でした。決めのポーズを大事にしたカッチリとした動きが美しかったのですが、音楽のテンポに追い付けていない箇所が所々にあってもったいなかったです。男性4人の踊りが良かったです。

東京バレエ団
『ザ・カブキ』から第八場「雪の別れ」、第九場「討ち入り」
(振付:モーリス・ベジャール 音楽:黛敏郎)

忠臣蔵をベースにしたベジャールの名作の初の生演奏ヴァージョンでの上演で、オーケストラ、合唱、三味線、和太鼓等に合わせて、多数の男性ダンサーによって迫力のあるダンスが繰り広げられました。馬蹄形、円、三角形といったフォーメーションが美しかったです。

吉田都&ジョセフ・ケイリー
『真夏の夜の夢』から「オベロンとタイターニアのパ・ド・ドゥ」(振付:フレデリック・アシュトン 音楽:メンデルスゾーン)
牧歌的で静かな雰囲気の作品で、派手な大技はありませんでしたが、吉田都さんの緩急の付け方が印象的な繊細な踊りが美しかったです。腕の動きが表情豊かで素晴らしかったです。上演時間が短く、もっとたくさん、出来れば早いテンポの作品も観たかったです。

最後は『眠りの森の美女』の「ワルツ」の演奏の中、出演者全員が舞台上に登場し、バレエダンサーが180人以上並ぶ光景が圧巻でした。
セットや音楽の生演奏等、踊り以外の要素にも力を入れていて、1回しか公演がないのが勿体なく思いました。ぜひ来年以降も企画を継続して欲しいです。

満ちる

満ちる

MODE

座・高円寺1(東京都)

2012/03/22 (木) ~ 2012/03/31 (土)公演終了

満足度★★★

父と娘
お互い素直になれず距離を置いてしまう父と娘の姿がしっとりと描かれた作品で、とてもベタな泣ける演出にすることも出来そうなところをそうせずに、クールな質感が所々に感じられました。

かつて奇才と呼ばれていた年老いた映画監督が久々に映画を撮っていたところにトラブルが発生して中断し、小説家であり映画監督としての活動も開始した娘が脚本を書き換えるために、とある島の寂れた民宿に呼び出されることから始まる物語で、お互い我の強い父と娘の相入れない様子や、それぞれ満ちたりなさを抱えている周囲の人達の様子が淡々とした調子で描かれていました。

舞台全面は用いず、中央に1段上がった民宿の食堂のセットがあり、舞台手前には窓を表す巨大なフレームが吊り下げられた美術が、民宿の素朴さを感じさせつつ洗練された趣きもあって良かったです。
手前に窓がある設定にすることによって、全員が正面を向いているという小津映画的な人物配置を違和感なく見せていたのが巧みだと思いました。

映写機がフィルムを送る音が客席背後から聞こえ、吊り下げられたフレームが映画のスクリーンに見立てられる冒頭が素敵でしたが、棒読み的な台詞回しだったりオーバーな大声や動きだったりと、役者間・役者内での演技のテイストが一貫していなくて、もどかしく感じられ、なかなか作品の世界観に浸れませんでした。
終盤のすまけいさん演じる父と山田キヌヲさん演じる娘の対話のシーンは言葉に表さない感情が表情や会話の間から伝わってきて、素晴らしかったです。すまけいさんは台詞が聞き取りにくい箇所はありましたが、役と本人が重なって見え、圧倒的な存在感がありました。

役者達が喋ったり動いたりしているシーンよりも、むしろ誰も話さずに静かにしている時や、わざと見せる演出になっていた転換が絵として美しく、印象に残りました。

魚のいない水槽

魚のいない水槽

スポンジ

サンモールスタジオ(東京都)

2012/03/23 (金) ~ 2012/03/27 (火)公演終了

満足度★★★

ジワジワと来る怖さ
すっきりとしない、気分が重くなる物語を会話主体のオーソドックスな演出でリアルに描き、社会の目に捕われて転落して行く怖さがジワジワと伝わってくる苦々しい作品でした。

美容室で働いている男がメディアに出ることによって過去に関わった犯罪のことが周囲に知られ、疑心暗鬼になって身を滅ぼす物語が時間を掛けて丁寧に描かれていました。
終盤、男が妄想に駆り立てられて狂っていく描写に切迫感があって良かったです。途中で女性が下着姿になるシーンがあり、ただの男性向けサービスシーンかと思いきや、滑稽かつ切実な展開になり、感情が強く伝わって来て良かったです。

日常会話と変わらない大きさの声で、耳を傍立てないと聞こえないときもあって、逆に引き込まれました。どのキャラクターも実在してそうな雰囲気がありました。
時間の経過を示すために度々効果音付きで暗転することによって流れが滞るのが気になりました。必要最低限のところだけで用いた方がインパクトがあって効果的だと思いました。

手前が美容室の控室で奥がカットスペースになっていて、場面によって奥が透けて見える舞台美術が良かったです。
映像のクオリティ(内容・解像度とも)が低かったのが残念でした。

脚本と役者の演技は良かったのですが、演出とスタッフワークがあまり洗練されていなくて、この劇団ならではのカラーが見えて来ないのが勿体なく感じました。

ジョギリ婦人

ジョギリ婦人

芝居流通センターデス電所

「劇」小劇場(東京都)

2012/03/21 (水) ~ 2012/04/01 (日)公演終了

満足度★★★

ホラーミュージカル
スプラッターホラー風の内容にいかにもミュージカルらしい音楽で歌われる、不思議なテイストの作品でした。

幼い娘を亡くした若い夫婦が遺体の場所を聞き出そうと、証拠不十分で釈放された犯人を捕えて拷問する話に、大きなハサミを持って悪い人を殺しに来る「ジョギリ婦人」という架空の都市伝説が絡み、凄惨な殺人が連続する物語でした。全体的に怖い雰囲気が支配的でしたが、前半は笑える所もたくさんありました。

血が飛び散ったりと痛々しい表現が印象的ですが、心の奥に潜む鬼、憎しみによる負の連鎖、循環といった古典的なテーマが扱われていて、分かり易い内容でした。

音楽があまりホラー的でなくてのどかな曲調のもあり、内容とのギャップが楽しかったです。終盤シリアスな展開になるにつれて歌が少なくなるのが残念でした。キーボードの生演奏の伴奏による音楽がメリハリが効いていて、良かったです。

少々オーバー気味な演技が作品の雰囲気に合っていて、コミカルな味わいが感じられました。歌のレベルに差があったのがもったいなく感じました。

ミクニヤナイハラプロジェクト vol.6『幸福オンザ道路』

ミクニヤナイハラプロジェクト vol.6『幸福オンザ道路』

ミクニヤナイハラプロジェクト

横浜赤レンガ倉庫1号館(神奈川県)

2012/03/22 (木) ~ 2012/03/24 (土)公演終了

満足度★★★

畳み掛ける言葉と動き
ハイテンションに早口で喋り続ける台詞に加え、台詞とは関係なく踊ったり走り回ったりする、役者にとってはかなり負荷の掛かる演出で、70分程の上演時間にも関わらずボリューム感がありました。矢内原さんのミクニヤナイハラプロジェクトとしての公演を観るのは初めてでしたが、ニブロールの公演と同様のザックリした質感が魅力的でした。

台詞が聞き取りにくく、場面が断片的に時間を前後したり繰り返したりしながら展開するので、どういう物語だったのかあまり把握出来ていないのですが、朗読好きな男が道に倒れていた記憶を失った男を家に連れて帰り、同棲する女医やその同僚との会話から15年前の連続殺人事件との関わりが浮かび上がってくるというサスペンス的テイストの漂うもので、生と死のテーマが描かれていました。

会話体の台詞なのに演技が相手の存在してないかのように間を取らずにどんどん喋り通すスタイルが新鮮でした。1曲生歌がある以外は全く音楽も効果音も使われていないのに、とても迫力がありました。
ずっと体を酷使する演出なので、後半は少し勢いが衰えたように感じられ残念でした。

色褪せた木製のパネルを物語の展開とは無関係に役者達が並び替えてたり、奥の壁に立て掛けたりして空間を変えていく演出が興味深かったです。天井から吊られた工事用のランプとシャンデリアを振り子のように揺らすシーンが美しかったです。

歌劇「死神」

歌劇「死神」

横浜みなとみらいホール

横浜みなとみらいホール 小ホール(神奈川県)

2012/03/24 (土) ~ 2012/03/24 (土)公演終了

満足度★★

ブラックな喜歌劇
落語の『死神』をベースにしたオペラ作品で、わずかなセットと少人数の歌手と演奏家によるコンパクトな設えでの公演でした。

葬儀屋の男がセクシーな女の死神と出会い、死神の力を用いて医者として多くの人の命を救って金持ちになったものの、人を救った分だけ自分の寿命が短くなって死んでしまうという物語が際どい言葉を用いながらブラックユーモアとエロティシズムを散りばめて描かれていました。

音楽的には調性と無調性を行ったり来たりしつつ、ジャズやタンゴ、日本民謡的な旋律も時折聞こえてくる、バラエティに富むものでしたが、あまりメリハリがなく、後半は少し飽きを感じました。

演技が大袈裟だったり、アンサンブル役の合唱の人達が絶えず意味の感じられない稚拙な小芝居をしたりとうるさく感じられて、作品の魅力を失わせているように感じました。途中で映像が用いられ、有名人の写真が映し出されていましたが、表層的なウケ狙いにしか見えず、センスが感じられませんでした。視覚的にも物がゴチャゴチャしていて、美しさを感じませんでした。
むやみに説明的な要素で時間や空間を埋めようとせずに、余白を活かした演出をして欲しかったです。

ピーター・ブルックの魔笛

ピーター・ブルックの魔笛

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2012/03/22 (木) ~ 2012/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★

簡素で軽やか
通常はオーケストラ伴奏で、セットの入れ替えも要求される、2時間半~3時間かかる作品を必要最低限な要素だけを残してコンパクトな形態に構成し直していて、「オペラ」ではなく「ジングシュピール(歌芝居)」と題された通りの、演劇的要素の強い演出で、楽しい公演でした。

序曲は序奏部だけでアレグロの主部は飛ばしてすぐに第1場に入り、その後もサクサクと物語が進み、アリアの後も拍手をする間を取らず次の台詞を被せて行くスピーディーな展開が爽快でした。
物語の展開のきっかけとなる、3人の侍女や3人の天使は登場せず、2人の俳優がそれらの役を担うことによって、メインキャラクター達の関係性に焦点を当てていました。

最近のオペラ演出にありがちな、時代設定を現代に置き換えて社会的なメッセージを訴えるようなこともせず、ある意味とてもオーソドックスな演出でしたが、色々と遊び心が感じられて、新鮮でフレンドリーな雰囲気がありました。竹と布と控え目な照明だけで十分に独自の世界観が立ち上がっていて素晴らしかったです。

ピアノ1台の伴奏にすることで歌手の表現や息遣いに沿った、自由なテンポ感が生じ、躍動感のある音楽になっていました。冒頭の和音からして原曲のオーケストラの重厚な響きとは対照的なふわっとした響きで、印象的でした。途中にモーツァルトのピアノソナタが引用されていたのも自然で効果的でした。
歌手達は少々物足りなさを感じる時もありましたが、いわゆるオペラの気張った感じではなく、親しみを感じる雰囲気がありました。

ブルックさんの演出を観るのは今回初めてで、本やネットで知った情報から非常に革新的なものが観られるのではと期待し過ぎてしまい、原作に忠実な演出(特にパパゲーノ絡みで普通のオペラ公演でも定番のネタが多かった気がします)に拍子抜けしてしまったところはありましたが、変に色々盛り込まずにシンプルに徹することから生まれる美しさが魅力的でした。

大掛りにしなくても充実したオペラ上演が可能であることを示したこの作品を観て、日本では別世界になっている、小演劇系の演出家とオペラ団体がもっと交流して、新鮮なオペラ公演を行って欲しいと思いました。

お嬢さんお手上げだ

お嬢さんお手上げだ

ココロ・コーポレーション

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2012/03/15 (木) ~ 2012/04/01 (日)公演終了

満足度★★★

良くも悪くもオーソドックス
沢田研二さんのヒット曲『お嬢さんお手上げだ』にインスパイアされてマキノノゾミさんが書き下ろし、演出した、分かりやすいベタな作品でした。強引に笑わせよう・泣かせようとする嫌らしさを感じさせない、すっきりとした味わいで、思っていたよりも楽しめました。

スランプに陥り、友人達と酒や麻雀の毎日を送る中年の漫画家のところに、実の娘だと名乗る女性がやって来て、漫画家の心が次第に変わっていく、というハートウォーミングな展開の中に少しほろ苦さを感じさせる物語で、新鮮さや意外性はありませんでしたが、中年の役者達のちょっと力の抜けた感じの演技が楽しく、飽きることなく観ることが出来ました。
時代設定は昭和中頃のようでしたが、携帯電話が使われずダイヤル式電話が出てくることくらいしか時代を感じさせるネタがなく、もう少し時代を明確にする物や出来事が織り込んであっても良いと思いました。

漫画家を演じた沢田研二さんは全盛期(リアルタイムでは見ていませんが)とは大分体型が変わっていましたが、歌声は流石で演技も可愛らしさがあって魅力的でした、セルフパロディー的なシーンも自虐的な痛々しさがなく、余裕が感じられて面白かったです。
他の3人の男性役者もくどくならない程度に個性的でした。唯一の女性キャストのさん朝倉みかんさんはチャーミングな演技が素敵したが、第1幕最後のアカペラの曲で完全に音を外してしまっていて残念でした。

バンドネオン、チェロ、パーカッションによる生演奏は控え目ながらも安定感のあるノリの良い演奏で楽しめました。

ご多分にもれず、ふつう。

ご多分にもれず、ふつう。

モモンガ・コンプレックス

STスポット(神奈川県)

2012/03/16 (金) ~ 2012/03/21 (水)公演終了

満足度★★★

発想の転換
女性ダンサー3人と「舞台美術」と称された男性8人によるパフォーマンスで、失笑を呼ぶようなユーモアの中にメタシアター的な仕掛けが仕組まれた、興味深い作品でした。

白い衣装を着て林のように立つ「舞台美術」の合間を縫うように赤い衣装を着たダンサーが現れ、ダンサー同士はあまり絡むことがなく、それぞれ何となく物語性が感じられるダンスを踊り、手首と足首だけを使ったユニゾンを踊るという流れが形を変えながら繰り返される構成で、最初はいかにも舞台美術然としていた男性達が次第に動きを増し、手前に並んでダンサーが踊っているのを見えなくしたり、合図によってダンサーの動きをコントロールする様子が印象的でした。

開演前のBGMの合間に舞台美術の人達へのインタビューの録音が流れたり、途中でダンスが何を表していると思うか美術の人達が会話する録音が流れたり、美術の1人が途中でトイレに行ってしまったりと、作品のフレームの外側を意識させる演出が多く、脱力的ながらも刺激的でした。
踊れない人間をそのように扱うのではなく、動く舞台美術として扱うことによって、ダンス作品の中に非ダンス的なバラバラでだらしない身体性が存在することを「あり」にしていて、見事なアイディアだと思いました。

構成・演出は良かったのですが、純粋な身体表現としてのダンスという観点からすると、振付やダンサーの動きに少々物足りなさを感じました。

悪魔のしるしの危口統之さんを迎えてのアフタートークは、白神さんが踊る数分間のソロに危口さんが舞台美術の演出をするというもので、面白い試みだとは思いますが、グダグダな結果になってしまっていて、もっと突っ込んだトークをして欲しかったです。

アンナ・カレーニナ

アンナ・カレーニナ

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/03/16 (金) ~ 2012/03/20 (火)公演終了

満足度★★★

テンポ良く描かれる、ある女の孤立
トルストイの小説を読んだことがないので、どこまで原作に忠実かはわかりませんが、三角関係の末に自殺する女性をチャイコフスキーの管弦楽曲に乗せて描いた、分かり易くてダイナミックな振付が印象的な作品でした。

暗い中、汽車のおもちゃで遊ぶ子供がスポットライトで照らされて始まり、舞台奥にアールデコ的な鉄橋と駅舎にあるようなアーチ状の窓があるセットの中で、アンナとその夫カレーニン、不倫相手のヴロンスキーの3人の関係がテンポ良く展開し、アンナが鉄橋から汽車が迫り来る線路に身を投げて死ぬまでが描かれていました。

第2幕の冒頭の酔っぱらった兵士達の群舞がユーモラスで、全体的に重い雰囲気が支配的な作品の中で良いアクセントになっていました。
『悲愴』の第3楽章に合わせて踊る舞踏会のシーンでは早いテンポで複雑なフォーメーションが展開し、その中で孤立を感じていくアンナの様子が描かれていて印象的でした。
終盤では阿片を吸って錯乱するアンナの様子が全裸(に見える衣装)とバレエ的でない振付と不気味な電子音楽で表現されていましたが、その部分だけが古臭い前衛芸術みたいなテイストで違和感がありました。
クライマックスのシーンはメカニカルな動きの群舞とインダストリアルな音楽で緊張感がありましたが、アンナが橋に現れてから飛び下りるまでがあっさり過ぎて、もう少しタメが欲しかったです。

アンナを演じた厚木三杏さんは大人の女性を感じさせるキリッとした雰囲気が素晴らしかったです。
カレーニンを演じた山本隆之さんは片手で持ち上げたり、倒立状態の相手を支えたりするアクロバティックなリフトを危なげなく決めていて良かったです。
ヴロンスキーを演じた貝川鐡夫さんは少々キレが悪くもっさりとしていて、アンナがカレーニンを捨ててヴロンスキーに惹かれて行くことに説得力が感じられず、残念でした。

TVロード

TVロード

劇団東京乾電池

駅前劇場(東京都)

2012/03/15 (木) ~ 2012/03/18 (日)公演終了

満足度

消化不良
東京乾電池が運営する役者養成所の終了公演で、全員が出演出来るようにとの配慮からなのか、登場人物が31人もいる作品だったので、話の焦点が定まらず、散漫な印象が強かったです。

銀行や飲食店などのパロディ看板が宙や床に散在し、中央に街路樹が抜かれた跡があるセットの中、電車が終わって始発が出るまでの時間帯における、ボランティアで町の清掃する人達や、荷物を運ぶように依頼された便利屋の2人組、バイト帰りの人達、たむろする若者達などの話が特に大きな事件も起きずに淡々と連なり、それぞれが抱える悩みがうっすらと見えてくる作品でした。

ドラマ性もパフォーマンス的要素もなく、台詞のやりとりだけで引っ張っていかなければならない、役者の能力次第で面白くもつまらなくもなるタイプの作品だと思うのですが、残念ながら若い役者達には荷が重かったようで、約100分間の上演中で惹かれる瞬間が全くありませんでした。
感情が込もっていなくて相手との会話になっていないような棒読みはわざとだと思うのですが、そうする意図が伝わってきませんでした。

物語の展開とは関係のない環境音として、歌入りのBGMが結構大きな音量で鳴り続けていたり、宙に吊られた看板がバタバタと落ちていく演出も意図が汲めず、作品を分かりにくいものにしていたと思います。

ガラスの動物園

ガラスの動物園

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2012/03/10 (土) ~ 2012/04/03 (火)公演終了

満足度★★★★

斬新かつ説得力のある演出
様々な演出で上演されている名作を独特な表現で演出し、斬新さがありつつも演出家の自己満足に陥らない、戯曲の魅力をしっかりと伝える説得力が感じられる総合的にレベルの高い舞台でした。

上手、下手の壁に3つずつドアがあり、舞台奥の壁に大きな窓がある、遠近法を強調した、ムラのある白い舞台美術の中、3人家族と1人の来訪者の物語が、あるときはリアルに、あるときは演劇的な非リアルな表現を伴って描かれ、戯曲の回想劇的な形式が意識された演出になっていたと思います。

4人の役者達はオーバーに見えるラインをあえて少しだけ越えたような感じの演技で、逆に海外戯曲における文化の違いや固有名称から生じる不自然さが打ち消されていると思いました。
演技の仕方によっては静かで悲痛なトーンが終始漂うにもなる作品ですが、立石凉子さんのおばさんっぷりや、鈴木浩介さんの快活な青年っぷりが楽しく、笑える場面が所々にあり、それによって一層寂涼感が際立っていました。

以前に単独公演で観たときに全身タイツのような衣装と視線の強さが印象的だったプロジェクト大山のダンサー達が、この作品においてもそれらの要素を上手く用いていて、ストレートプレイにダンスを持ち込んだときにありがちな、取って付けたような違和感がなく、作品世界に溶け込んでいました。
ただ踊るだけではなく、黒子的な役割も担っていて、衣装がセットに溶け込むような柄で、死角を用いた出捌けの場所も効果的で、まるで舞台美術が命を持って動きだしたかのように見えて、美しかったです。

音楽や照明も目立ち過ぎることなく雰囲気を盛り上げていて素晴らしかったです。

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