土反の観てきた!クチコミ一覧

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タヌキさんがやって来た。

タヌキさんがやって来た。

ユニークポイント

atelier SENTIO(東京都)

2013/04/20 (土) ~ 2013/04/23 (火)公演終了

満足度★★

コンパクトな会話劇
1時間弱のシンプルでストレートな会話劇で、生きることについてのメッセージが込められた作品でした。

入院している若い女性のところにタヌキと名乗る小汚い格好の男がやって来たことから、女性が内に秘めていた心情を表に出して浄化する物語で、姉やタヌキさんとの会話の中に入院中の女性の不安が細やかに描かれていました。

普通ならタヌキさんの正体をはっきりさせ、彼が伝えようとしていたメッセージを感動的なシーンとして見せるところですが、そうはせずに敢えて省略して観客が想像するのに任せていたのが良かったです。
しかし、そのことによってドラマとしては少々平坦に感じられ、物足りなさを感じました。またエピローグ的なシーンが勿体ぶっているように感じられました。

話の展開が唐突に感じられる数ヶ所あり、もう少し上演時間を拡大して感情の変化が滑らかに描かれると良いと思いました。

あのひとと

あのひとと

かえるP

北品川フリースペース楽間(東京都)

2013/04/19 (金) ~ 2013/04/21 (日)公演終了

満足度★★

興味深い企画でしたが…
コンテンポラリー系の若いダンサーは自分で振り付けた作品を自分で踊ることが多いのですが、男性デュオのかえるPが女性デュオに振り付け、逆にかえるPが女性振付家に振り付けられるという分業の形を取った興味深い公演でした。

『gull』(振付:大園康司・橋本規靖)
1人はスキップやバレエのといったヨーロッパ的な重心の高い動き、もう1人は能や相撲の土俵入りといった日本的な重心の低い動きをする対比的な展開から始まり、次第にユニゾンになっていく構成の作品でした。終盤まで音楽が使われないので、音楽に合わせて踊り出す時にカタルシスを感じました。
所々のムーブメントに新鮮味が感じられましたが、マイム的な動きには惹かれませんでした。中村蓉さんの動きが美しかったです。

『亜呆とつむじのリズムたち。』(振付:山下彩子)
前半はタンクトップにタイツ姿、後半はブロンドのカツラにワンピースの女装の姿で沢山の台詞を織り込みながらコミカルに踊る作品でした。
演出として印象的な場面がありましたが、振付には魅力を感じませんでした。
劇場の内外で繰り広げられる奇妙なパフォーマンスを見て怪訝な顔をしながら通り過ぎる通行人の反応が観客の笑いを誘っていましたが、見られていると思っていない通行人を劇場の中からガラス越しに笑うのは失礼だと思いました。

BATIKトライアルvol.12

BATIKトライアルvol.12

BATIK(黒田育世)

森下スタジオ(東京都)

2013/04/15 (月) ~ 2013/04/16 (火)公演終了

満足度★★★

ストイックな3作品
バティックのメンバーの内の3人がそれぞれ20~30分の自作を踊る公演で、いずれの作品も安易に音楽に合わせて踊ることを避けていて、ストイックな雰囲気がありました。

『そしてとそれから』(梶本はるか)
暗闇の中で木製の机の軋む音だけが聞こえる冒頭に続いて、音楽なしで机の上だけで様々な重心の移動を試すシークエンス、机から降りて音楽に合わせて地面を踏み鳴らすような動きを体力の限界まで続けるシークエンス、また静かに踊るシークエンスからなる作品でした。
無音の緊張感に対して身体が拮抗出来ていない様に感じる時がありました。真面目過ぎて少々退屈感を覚えたので、少し遊びというか余裕があると良いと思いました。

『スイマー』(中津留絢香)
腕を服の中に入れて寝そべって泳ぐ時の脚の奇妙なフォルムを見せる冒頭、客に向かって不敵な笑みをしながら人数をカウントするシーン、クラゲが泳ぐような手のダンス等、印象的なシーンが多い作品でした。
後半の激しく滅茶苦茶に踊るシーンは、動きをコントロールしている感じが見えていて、もっと暴走感が欲しかったです。中途半端に終わった様に見せて、暗転後に一瞬リフレイン的なシーンがあったのが新鮮でした。

『断章』(矢嶋久美子)
3月に『その部屋の踊り』というイベントで上演した作品の改訂版で、前回より洗練されていて表現が鮮明になっていました。
無音の中を2人がとてもゆっくり歩くだけの静謐な前半に続き、ワンピースを着て、サイケデリックな音楽が流れる中を、1人は激しく動くシークエンスを何度も繰り返し、もう1人は変わらずゆっくりと歩き続ける構成で、デュオ作品でありながら2人が直接的に関わるのは数秒だけで、関係性というよりかは1人の人物の2つの面を描いているように見えました。

Call/Recall

Call/Recall

G.E.

APOCシアター(東京都)

2013/04/12 (金) ~ 2013/04/14 (日)公演終了

満足度★★

錯綜する声と動き
5人の役者と6人のダンサーによって物語の断片がバラバラに繰り返され重ね合わされる、実験的な側面の強い作品でした。

夜に会って星を見る話や、ストーカー殺人をした後に自殺した人の話が自然な台詞回しでありながらも、同時に複数の人で言ったり、異なる場面の台詞が同時進行したりと複雑に構成されていて、埋もれた記憶を掘り起こして行くような感じがありました。
ダンサー達の動きは役者とは異なる流れで展開し、狭い空間の中をダイナミックな振付が印象的でした。
それまでバラバラだった各要素が、テンポやピッチを合わせずに歌われる『かごめかごめ』で演技とダンスの表現するものがはっきりと一致し、インパクトがありました。
前半の淡々とした雰囲気でバラバラに台詞や動きが交錯する様子は惹かれるものがありましたが、中盤で感情が高ぶって叫ぶ辺りからは演技がナルシシスティックに見えて興を削がれ、その後の時間が長く感じられました。

即興の占める割合が多いと当日パンフレットに書いてあり、たしかに事前に決めてなさそうな出演者同士のポジションや台詞のタイミングがスリリングでしたが、その代わりに表現としたいものが伝わりにくくなっているいるようにも思えました。

劇団ウェブサイトの予約フォームから予約しても承りのメールが来なかったので、問い合わせフォームから予約出来ているのか確認したのですが、それにも返事が来ませんでした(結局予約は入っていました)。
今まで予約して承りの連絡が来なかったことは無かったので、不安に感じました。この対応は改善して欲しく思います。

イキヌクキセキ~十年目の願い~

イキヌクキセキ~十年目の願い~

NoH-Ra

東京グローブ座(東京都)

2013/04/09 (火) ~ 2013/04/14 (日)公演終了

満足度★★

ストレートプレイに近い音楽朗読劇
音楽朗読劇と題された公演でしたが、ちゃんとしたセットが作られていて、本を手にしないで演技をするシーンが結構あり、音楽の比重はあまり高くなくて、普通の芝居に近い内容でした。

3.11の津波で両親を失った少女が、自身を引き取って育ててくれる新たな両親に対して心を開いて行く様子を、幽霊になった両親が見守るという物語で、涙を誘う分かり易い話でしたが、心理描写に深みが無くて表面的に感じられました。

真っ白なセットに映像を投影していて、両親が等身大で映し出される場面が何度もありましたが、両親役の2人が舞台上にいる状態でトリック的効果を用いるわけでもないのに映像でも出てくる意図が分かりませんでした。

メインキャラクター以外に十数名のアンサンブルがいて、冒頭の地震のシーンでは真っ暗な客席の通路で小型のランプを振り回し、切迫感が表現されていました。ニュースの音声は説明的過ぎて不要だと思いました。ラストの歌の時にアンサンブルの人達が客席に出て来て観客に歌わせようとするのは無理があるように感じました。

両親2人だけが本を持って演じ、他の出演者は普通に演じていたのですが、両親を演じた小倉久寛さんと市毛良枝さんは雰囲気は良かったものの、しばしば台詞を噛んでいて残念に思いました。新良エツ子さんの歌が素晴らしかったです。

国枝昌人×古舘奈津子『F/B』/ダンシーズ『YAMIKAR

国枝昌人×古舘奈津子『F/B』/ダンシーズ『YAMIKAR

大橋可也&ダンサーズ

北品川フリースペース楽間(東京都)

2013/04/12 (金) ~ 2013/04/13 (土)公演終了

満足度★★

踊らないダンス作品
大橋可也&ダンサーズのメンバーが関わっているユニット2組の公演で、普通に踊ることに対しての問題意識を感じさせる作品でした。

国枝昌人×古舘奈津子『F/B』
いわゆるダンス的な動きがほとんどなく、感情や物語を感じさせない形式性の強い作品で、張り詰めた緊張感が魅力的でした。
道路に接する部分が全面ガラス張りなのを活かして、冒頭は路上で立ち続けたり歩いたりする姿を見せ、室内に入ってからは自分あるいは相手の動きをフィードバック(タイトルはこの単語の略とのことです)して行く様な展開でした。後半ではマイクとスピーカーを用いて踊る時に発生する物音をフィードバックさせていました。最後は急に照明の雰囲気が変わり、盆踊りの様な動きをしながら捌けて行き、そこまでコンセプチュアルに積み上げていたものを自虐的に崩壊させているみたいで印象的でした。

ダンシーズ『YAMIKARA』
男性3人による、物語性を感じさせるとぼけた雰囲気の作品でした。
歌川広重の『品川御殿山花見之図』のポーズを引用したり、ダンサーが指差す先にある避難口誘導灯の人の絵の部分がゴジラになっていたり、パチンコ屋の中のシーンがあったりと(会場はおそらく元パチンコ屋)とサイトスペシフィックを意識した作りになっていました。
ボーイズラブ的なシーンや、BGMに用いられた井上陽水さんの曲といったキッチュな要素が上手く笑いに繋がっていなくて、ダンスとしても意図的に躍動感のあるムーブメントを用いていなかったので、かなり物足りなさを感じました。

効率学のススメ

効率学のススメ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/04/09 (火) ~ 2013/04/28 (日)公演終了

満足度★★★

効率と創造性
ある科学研究所に効率化を進める為にビジネス・アナリストが雇われたことをきっかけに所員それぞれの思惑が交錯する様子を、スタイリッシュなビジュアル表現とユーモアのある会話で描いた作品で、数値で人生を測ることが価出来るのか、絶え間ない科学の発展は善なのかといったことを考えさせられつつも、堅苦しくない雰囲気で楽しく観ることが出来ました。

研究所の室内を表す正方形のステージの周りにロの字型の廊下があり、その外側の4方向を客席で囲み、2階客席の手前を帯状のスクリーンが一周するという変則的なセッティングでしたが、意外な所から現れて始まる冒頭シーン以外はスタンダードなストレートプレイの形式で、役者達のナチュラルな演技もあって海外戯曲であることを感じさせませんでした。
終盤は都合良く話が進んで全員の今後の幸せな人生を予感させる雰囲気で終わるのですが、シニカルな結末を期待していたので、甘く優しい終わり方には物足りなさを感じました。

モノトーンと透明な素材で統一されたセットがクールで、その上で展開する登場人物達の滑稽な姿が引き立っていました。
4辺がシームレスに繋がった映像のクオリティが高さが印象的でしたが、モノトーンやシンプルな絵柄の時は美しかったものの、カラフルでポップな絵柄は中途半端な表現に感じられました。

無限大∞パイプオルガンの宇宙―バロックから現代を超えて

無限大∞パイプオルガンの宇宙―バロックから現代を超えて

東京芸術劇場

東京芸術劇場 コンサートホール(東京都)

2013/04/12 (金) ~ 2013/04/12 (金)公演終了

満足度★★★★

空気を変容させる音と身体
3月にリニューアルし終わったばかりのパイプオルガンの生演奏に乗せて踊る公演で、具体的な物語はないものの、とてもドラマティックな印象が残りました。

音というより空気の振動のような超低音と舞台上を線状に照らす照明で始まり、盛り上がったところで2人のタップダンスとなり、淡々とタップが続く中を静かにオルガンが回転し、明るくなるとバロックオルガンに入れ替わっていて、バッハの荘厳な音楽に合わせて、緩急自在に変化する流動的で且つ鋭いダンスが踊られました。
平均律とは異なる調律の古風な響きやメシアン作品の独特なハーモニーと、床を滑るように移動し、動きで空気の密度を変えて行くような振付がマッチしていて、時代を超越した不思議な感覚がありました。
バロックオルガンからモダンオルガンに戻る時は敢えてダンサー達は踊らず、あたかもオルガンがゆっくりと踊っているかのようで印象的でした。

勅使川原三郎さんと佐東利穂子さん以外はほとんど動かずに立っているだけでしたが、聖像や宗教画のトリプティークみたいで、厳かな雰囲気がありました。特に、3人がそれぞれ舞台上に設けられた小さなステージの角に客席を背にして対角方向を向いて立っている光景が衝撃的に美しかったです。
明暗と立ち位置で巧みに視線を誘導し、気付かない内に異なる場所にダンサーが現れている演出がパフォーマンス全体としての連続性を生み出していました。
コンサートホールでの上演だったためか、照明がいつもの鋭さに比べて少しぼやけている感じがありました。

コンテンポラリーダンスに馴染みがない人にも強く訴えるものがある公演だと思ったのですが、途中で帰ってしまった人が多くいて、想像以上に受け入れられないものなのだと残念に思いました。

ブラック・サバンナ

ブラック・サバンナ

世田谷シルク

アトリエ春風舎(東京都)

2013/04/03 (水) ~ 2013/04/14 (日)公演終了

満足度★★★

動物の命の価値
人間を含めた、動物の命の価値について考えさせるSF的物語を様々な演劇的手法を用いて描いた作品でした。

隕石の落下によって人類のほとんどが死んでしまった中、残された人々が生き延びて行くにあたって、人間/動物、ペット/家畜、絶滅寸前の稀少種/そうでないもの、といった価値判断に関わるエピソードがスピーディーに展開し、シニカルな結末を迎える物語でした。
英語の諺がシーンタイトルに用いられていたり、衣装に共通に取り入れた要素を1人だけ身に付けていなかったりといった要素がラストに向か繋がって行くのが気持良かったです。

スローモーションや高速動作、群舞といった身体表現が多く用いられていて、ダイナミックで楽しかったです。家具的なオブジェと凝った照明効果が組み合わさって各シーンがスムーズに描かれていて、春風舎の空間構造を巧みに用いていたのも印象に残りました。
色々な手法を用いて軽やかな雰囲気でシリアスなテーマを描いていましたが、軽さがそのまま浅さに繋がっているように感じられ、ガチャガチャとした印象を受けました。軽い中にも深い質感が欲しかったです。

切羽詰まった状況を描いた作品なので、大声になる場面が多くなるのは理解出来ますが、快適に台詞を聞き取るには空間の大きさに対して声量が大き過ぎると思いました。ある場面で用いられていた音楽にリズムを合わせた台詞回しは格好悪く感じました。

作品とは直接関係ありませんが、冷房が寒くて集中しにくかったです。

泣き方を忘れた老人は博物館でミルとフィーユの夢をみる(爆撃の音を聞きながら)

泣き方を忘れた老人は博物館でミルとフィーユの夢をみる(爆撃の音を聞きながら)

おぼんろ

東京芸術劇場アトリエイースト(東京都)

2013/04/06 (土) ~ 2013/04/07 (日)公演終了

満足度★★★

観客と共に作る作品
ギャラリー空間を未来の博物館に設定して過去の作品をホログラム映画の上映という体裁で演じ、シンプルな設えでファンタスティックな世界観を表現した作品でした。

少年が夢を見るいう話が入れ子状になった、切なさと希望を感じさせる物語を、4人の役者が客席も含めた空間全体を動き回りながら描いていました。観客に目を閉じるように指示してその間に転換を行ったり、観客に呼び掛けたりと、演じている世界に観客が存在することを前提とした作りが独特でした。
耽美的な要素のあるファンタジー系の作品では自分に酔っているようなオーバーな演技を見掛けることが多いのですが、この劇団の役者達は熱演の中にも客観的な視線が感じられて、独り善がりな演技になっていないのが良かったです。

個人的には、観劇において役者との、あるいは観客同士の直接的なコミュニケーションは求めていなくて、物語も好みではなかったのですが、他の劇団にはない素朴で力強い個性をしっかりと打ち出していて、今後の活動がどう展開して行くのか気にさせる魅力がありました。

入江雅人グレート一人芝居『MY GREATEST HITS 2』

入江雅人グレート一人芝居『MY GREATEST HITS 2』

キューブ

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2013/04/05 (金) ~ 2013/04/07 (日)公演終了

満足度★★★

様々なタイプの一人芝居
SF大作からナンセンスな学園モノまでバラエティに富んだ構成で、映画や音楽に対する愛情が感じられる公演でした。

録音の声にツッコミを入れ続ける作品、1役だけを演じて他の登場人物は観客の想像に任せる作品、レクチャーのような作品、20以上の全ての役を次々に演じ分ける作品、と色々な形式による一人芝居が演じられ、楽しめました。
基本的に笑える作品が多いのですが、時折泣かせるシーンがあり、バランスが良かったです。

作品と作品の間の繋ぎの時間も、映像や舞台上での衣装替えを用いて、ちゃんと見せる演出になっていたのが洒落ていて良かったです。

SF大作『東京大パニックメガネ』では、衣装や小道具を用いず(メガネが重要なアイテムなのに、そのメガネさえ振りで演じていました)、声色も極端に変えているわけでもないのに、多数の登場人物の誰を演じているのかがハッキリ分かり、素晴らしかったです。
内容も映画で良くあるような台詞や演出をパロディー的に散りばめながら、投げやりなくらい早い展開で進めていて楽しかったです。

スモークを度々用いていましたが、量が中途半端で効果が無いように思いました。わざわざ使わなくても演技だけで十分表現出来ると思いました。

ゴドーは待たれながら

ゴドーは待たれながら

ナイロン100℃

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2013/04/06 (土) ~ 2013/04/14 (日)公演終了

満足度★★★

思索的な堂々巡り
サミュエル・ベケットの代表作『ゴドーを待ちながら』では最後まで現れないゴドーのその時の様子が描かれた一人芝居で、コミカルな雰囲気の中に人生やアイデンティティーについて考えさせられる要素も見え隠れする作品でした。

自分を待ってる人の所へ行こうと思いつつも、いつどこで誰が待っているのかが思い出せず、一人ボケツッコミを繰り返しつつ話が堂々巡りして、いつになっても部屋を出ることが出来ない状況が延々と続く物語で、『ゴドーを待ちながら』を知らなくても楽しめて考えさせられる内容でしたが、裏話的エピソードや引用が巧みに用いられていて、知っていると洒落た趣向をより楽しめると思いました。

大倉孝二さんは緩急自在な演技で素晴らしかったです。台詞の語尾の言い回しや妙な動きがユニークで、引き込まれました。大きな声も小さな声も劇場のサイズに合っていて、聞き取りやすかったです。

ナイロンお得意の映像は用いられず、音楽や効果音もほとんど使われず、照明もごく限られた場面以外は変化のない、ストイックな演出が演技を際立たせていました。
録音による野田秀樹さんの声の出演は音響オペレーターさんの会話の間の取り方が上手く、スピーカーからの音の聞こえ方も自然で、まるでそこに野田さんがいるかのようでした。

戯曲の2割程度をカットしての上演とのことでしたが、休憩込み2時間でも飽きることなく観られたので、カット無しのフルヴァージョンで観てみたかったです。

ドブ、ギワギワの女たち

ドブ、ギワギワの女たち

ネルケプランニング

【閉館】AiiA 2.5 Theater Tokyo(東京都)

2013/03/29 (金) ~ 2013/04/01 (月)公演終了

満足度★★

劇場サイズに合っていない公演
とある会社のOL達の姿を漫画的なハチャメチャ感と潔いエロティシズムで猥雑に描いた作品でした。

総務部と経理部のヤクザ抗争の様な戦いと、清掃活動を行う地域の婦人会の会長選挙の2つのエピソードが次第に絡まり合う展開でしたが、宣伝文句にある社会派な要素もバイオレンス性もあまり感じられませんでした。

いかにも小劇場的な内容の作品で、劇場が大き過ぎる為になかなか観客を巻き込むことが出来ず、中盤頃までは舞台と客席の間にかなりの温度差が感じられました。細かい小道具を用いることが多くて何をしているのか分かり辛かったのも残念でした。
足を滑らせて転んだり、クライマックスで降る雨を受けるための大きなトレー状の大道具が引っ掛かって動かず出演者・裏方スタッフ総出で動かしたりといったハプニングの方が、作り込まれた笑いより面白かったです。

舞台全面を遮るカーテンと移動式の各シーン毎のセットを用いて素早く転換しているのに流れに停滞感がありました。
マイクがハウリング気味な時があったり、BGMやSEのタイミングが合っていなかったりと、音響があまり上手く行ってなかったのが残念でした。

演技が固いキャストが多かった中、毛皮族の柿丸美智恵さんや江本純子さんは自由自在な演技で魅力的でした。

秘密も、うろ覚え。

秘密も、うろ覚え。

モモンガ・コンプレックス

岩崎博物館(神奈川県)

2013/03/29 (金) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

50年後の再演
50年後に再演される予定の作品を通じて、現在の姿と50年後の姿がユーモアと切なさをもって描かれていて、しっとりとした質感が心に残りました。

トランペット独奏によるファンファーレが響く中、電動ブラインド越しにダンサー達の姿が見え隠れする印象的なオープニングの後、賑やかなショーダンス的なシーンが続き、それぞれのソロを挟みつつ、50年後のシーンが挿入されて年老いていく体を感じさせ、静かに終わる展開でした。

紙皿やプラスチックかご等に顔を書いた仮面を身に付けて踊るシーンは抑制された動きとジェスチャーが能のようで、とても美しかったです。
このカンパニーらしい失笑を誘う様な小ネタが楽しかったのですが、各ダンサーの存在感だけで十分面白いので、笑いを取ろうとする演出をそれほど盛り込まなくても良いような気がしました。

表情も作品の要素として大きな位置を占めていて、各ダンサーの個性が出ていました。白神さんの男前な雰囲気とソプラノの歌声にインパクトがありました。

ピアノ生演奏を中心とした音楽も、普段はクラシックの演奏会を行うことが多い会場の雰囲気に合いつつ、ノリの良さもあって素敵でした。既製の音楽の選曲のセンスも良かったです。

三月花形歌舞伎

三月花形歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2013/03/02 (土) ~ 2013/03/26 (火)公演終了

満足度★★

昼の部鑑賞
100分程度の中編2本立てで、どちらも恋絡みで悲しい結末を迎える女を描いた作品でした。

『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿』
恋慕っていた男を追って来たところ、他の女と結婚することを知って嫉妬に狂う女の物語でした。
長い作品の一部分なので人物関係やストーリーが分かり辛く感じましたが、義太夫や舞踊や立ち回り等、様々な要素が盛り込まれたバラエティーに富んだ内容で楽しめました。官女達がいびる場面でコミカルな雰囲気の中に冷酷さが増して行くのが印象的でした。

『暗闇の丑松』
義母や兄貴分夫婦の欲によって無惨な状況に陥る夫婦を描いた物語でした。
台詞が現代語に近く、舞台美術も立体的で、明暗のレンジが広い照明や録音の効果音を用いたりと古典的な作品に比べるとかなり分かり易い作品でした。
独特の台詞回しや見栄、ケレン味のある演出等、歌舞伎の様式性を感じさせる要素が用いられていなくて、普通の時代劇のように見え、ストーリーや演技は悪くないものの、あまり興味を持てませんでした。

なにもないねこ

なにもないねこ

富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ

富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ(埼玉県)

2013/03/23 (土) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

個性の尊重
※衣装で関わったので、個人的な評価や感想は書かず、作品の概要についてのみ書きます。

別役実さんの童話を脚色して、ピアノ伴奏のみの1時間程度のコンパクトなオペラにした作品で、少々もの悲しい物語の中にお互いの個性を認めようというメッセージが込められていて、アマチュアの市民オペラ団体の活動とマッチした内容でした。

耳も目も足もない主人公「なにもないねこ」を文章では存在するものとして描けるものの舞台では表せないので、原作にはない3匹の猫を登場させ、その陰画として「なにもないねこ」の存在を意識させる構成となっていました。

音楽はいわゆるオペラ的な大仰なものではなく、歌詞が聞き取り易く、口ずさめるようなメロディーで、親しみの持てるものでした。

3方を客席に囲まれ奥は2階建てになっているシンプルなセットは白と黒だけが用いられ、衣装の色もグレー系に限定していて、照明やクライマックスで出てくる物の色が映えていました。

『駈込ミ訴ヘ』『トカトントンと』

『駈込ミ訴ヘ』『トカトントンと』

地点

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2013/03/07 (木) ~ 2013/03/26 (火)公演終了

満足度★★★★

遊び心溢れる『駈込ミ訴ヘ』
ジャージをパッチワークにしたような衣装に身を包み、タイトルそのままに駆け続ける中で独特の台詞回しと動きやポーズで進行し、馬鹿馬鹿しさと崇高さが同時に感じられる、独創性の高い作品でした。

暗闇の中にホイッスルの音が鳴り響いて始まり、緩い感じで駆け足を続けながら、ラップのようなリズムに乗せて特定の音だけを強調するスタイルで原作のテクストが順番を組み変えられながら語られ、キリストに対するユダの愛憎入り交じった悲痛な独白という内容でありながら、舞台上で行われるパフォーマンスには愛嬌があり、5人の役者達がとてもキュートに見えました。
バリトン歌手が登場してもなかなかステージ上でちゃんと歌わずにじらすのがユーモラスで楽しかったです。
一般的なドラマ性を排除した作りなのに、90分の間で全く飽きを感じさせない構成力が素晴らしかったです。終盤では、いわゆる感動的シーンとは全く異質なのに感動させられる、不思議な高揚感がありました。

「生れて来なかったほうが、よかった」という言葉に対して、「生まれて、すみません」という有名な言葉を引用したり、ずっと走っているシチュエーションが『走れメロス』を思わせたりと太宰治の他の作品を仄めかす遊び心が楽しかったです。
何度も流れる『特賞歌』=ヘンデルのオラトリオ『マカベウスのユダ』が、名前の一致、エルサレムに入ること、走ることといった、いくつものレイヤーで関連付けされていて、バラバラに見える様々な要素をひとつにまとめあげるコアとして機能していたのが見事でした。

美術や照明はシンプルで控え目ながら、時折とても美しいシーンを作り出していて印象的でした。

デカメロン21~或いは、男性の好きなスポーツ外伝~

デカメロン21~或いは、男性の好きなスポーツ外伝~

ナイロン100℃

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2013/02/22 (金) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★

丁寧に作り込まれたデタラメ感
セックスにまつわる話をコミカルに描いたエロティックでナンセンスな作品で、ナイロン100℃結成20周年に敢えてこのような馬鹿馬鹿しい演目を選んだ心意気が楽しかったです。

いくつかのエピソードが断片的なシーンに散りばめられて展開し、終盤はドラマチックに盛り上がりそうになりつつも、そちらの方向には行かず、物語としてまとめることを放棄したようなグダグダな終わり方が印象的でした。
メガネに水玉模様のネクタイ姿の男2人の介入によって作品全体が劇中劇の体裁となっているメタ構造があまり活かされていなかったのがもったいなく思いました。
笑える所は沢山ありましたが、ケラさんのシリアスな作品の中に織り込まれる切れ味の鋭い笑いに比べるとインパクトが弱く感じられました。

どうでも良いような内容ながら、役者の演技はしっかりと個性が出ていて楽しかったです。松永玲子さんや千葉哲也さんの大人の色気が素敵でした。ロロ、範宙遊泳、ろりえといった若くて勢いのある劇団からの客演に注目していたのですが、芸達者なナイロンのベテラン勢に押されていて、あまり目立っていなかったのが残念でした。

可動式のパネルを用いた転換の演出がスムーズで、逆にわざと時間を掛けた暗転との対比が鮮やかでした。劇中映像や、役者やセットの動きと同期させたプロジェクションマッピング等、映像のクオリティーが高くて見応えがありました。

城

MODE

あうるすぽっと(東京都)

2013/03/14 (木) ~ 2013/03/20 (水)公演終了

満足度★★★

奇妙な社会のシステム
城に行こうとするのに、奇妙な権力や社会システムに阻まれて、いつになってもそこに辿り着けない測量士の様子を描いた小説が、身体表現を強調した演出で舞台化されていて、悪夢的でありつつ滑稽な雰囲気がある作品でした。

断片的に連なるシーンを通じて同じ所をぐるぐると廻っているかのような話で、あまり盛り上がりがないので、ドラマを追い掛けるというよりかは、各シーンの雰囲気に浸って楽しむタイプの作品だと思いました。物語の階層とは別の階層に存在しながら主人公が翻弄される様子を眺める黒いロングコートを着た人々が象徴的で、強く印象に残りました。

感情をストレートに乗せない棒読みっぽい台詞回しは、最初は違和感を覚えましたが、表面的には成り立っていてもどこかすれ違っているやりとりに適していると感じました。
『城』のテクストとは別に、カフカによるアフォリズムが引用されていて、暗転時に奥の壁に映し出され、シニカルでかつ考えさせられる内容で作品に深みを加えていましたが、演技がその文章に負けているように感じられる時もあったのが残念でした。

脱力感のある動きや独特のステップ等、振付の井手茂太さんのテイストが色濃く出ていたダンスシーンが物語の世界観に合っていて良かったです。
ヴァイオリンやクラリネットを中心にしたジプシー風の音楽は、曲自体は魅力的でしたがBGMを多用し過ぎていて、ここぞという時の効果が弱まっていると思いました。

3月歌舞伎公演「通し狂言 隅田川花御所染(すみだがわはなのごしょぞめ)」

3月歌舞伎公演「通し狂言 隅田川花御所染(すみだがわはなのごしょぞめ)」

国立劇場

国立劇場 大劇場(東京都)

2013/03/05 (火) ~ 2013/03/26 (火)公演終了

満足度★★★★

盛り沢山な物語・演出
許嫁の松若丸が死んだと思って仏門に入った清玄尼の前にその男が現れ、煩悩に心を乱して破滅する話で、ストーリー的にも演出的にも色々な趣向が盛り込まれていて、物悲しい内容ながらもエンターテインメントとして楽しめ、休憩込みで4時間半近くの長丁場を飽きずに観ることが出来ました。

序幕では主人公の清玄尼が僧になっても心が落ち着かず悩む様子がシリアスに描かれ、一幕目では都合の良い偶然が続き少々コミカルな味わいがありました。二幕目はユーモラスに始まりながらも、次第に清玄尼の嫉妬心が高まり、遂には妖怪に化けてしまうホラー的展開でした。大詰は常磐津に乗せた舞踊と大立ち回りが中心で、幽霊となった清玄尼が若松丸に化けて現れた上で清玄尼の生前の姿を演じるという入り組んだ構成が興味深かったです。
心中物、お家騒動物、怪談物等、舞踊物等を継ぎ接ぎにしたような物語でしたが、主人公が男に対して持つ執着心がブレずに描かれていて、一貫性のある作品となっていました。

回り舞台を使ったり、セットの乗ったセリを動かしたり、床一面が隅田川となって2艘の船が行き交ったりとスペクタクル的な要素が多く、楽しめました。早替わりや『道成寺』のような鐘も良かったです。

中村福助さんは、姫から尼、幽霊と変化して行く役柄を丁寧に演じていました。嘆く演技が少々一本調子に感じられたのが勿体なく思いました。
若手の役者達の台詞回しや立ち振る舞いに芯が感じられず、浮ついた感じになる場面が所々に見られたのが残念でした。

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