土反の観てきた!クチコミ一覧

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音楽劇 「ヴォイツェク」

音楽劇 「ヴォイツェク」

TBS

赤坂ACTシアター(東京都)

2013/10/04 (金) ~ 2013/10/14 (月)公演終了

満足度★★★

善人、罪、罰
原作部分はそのままに、新たなエピソードを加えたり、シーンを組み替えたりして見通しの良くなった脚本をこけおどしのない演出で描き、ヴォイツェクが狂って行く様子を通じて社会と道徳について考えさせられる内容でした。

本来は途中に置かれる見せ物小屋の場面から始まり、ヴォイツェクの破滅的な物語が描かれた後にエピローグで再び見せ物小屋の場面が再現される構成で、キーとなる単語やエピソードを繰り返して強調したり、ある意味ヴォイツェクと対の存在である知恵遅れのカールに暗示的な台詞を多く言わせたりと、原作を読んだことがなくても分かり易い作りになっていました。
新たに加えられた台詞には今現在との繋がりを示唆する要素がありましたが、説明的過ぎる様に感じられる所もありました。

山本耕史さんが演じるヴォイツェクはとても純粋な男として描かれ、次第に挙動がおかしくなっていく様子が痛々しかったです。
他の役者はわざと芝居じみた大袈裟な演技をしているのかどうか曖昧さを感じることが所々ありました。

「7つの大罪」を想起させる7つのドアがある3m程の壁の前で、家具の位置移動だけで様々な場面を描き、クライマックスの妻殺害のシーンで初めてセットの大きな転換があるのが効果的でした。

クルト・ワイル作曲の『三文オペラ』に東欧的なテイストを加えた様な音楽で始まり、ヴォイツェクの精神状態が悪化するに連れて逆に明快な響きになって行くのが印象的でした。
管楽器奏者2人+ギタリスト+ベーシストの4人編成で、ピアノやドラムを用いてないのが作品の雰囲気に合っていました。

井手茂太さんの振付はダンスらしくない動きも多く、社会に飲み込まれる人間の不気味さが表現されていました。もっと身体表現を見せるシーンがあっても良いと思いました。

麻痺 引き出し 嫉妬

麻痺 引き出し 嫉妬

イデビアン・クルー

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2013/10/05 (土) ~ 2013/10/07 (月)公演終了

満足度★★★★

畳の上で繰り広げられる人間模様
それぞれにキャラクターが割り振られた7人が時にはスタイリッシュ、時にはコミカルに踊る作品で、特に具体的な物語があるわけではないものの、人間関係の様々な状況が描かれていて楽しかったです。

木造住宅の骨組みで囲われ、床には24枚の畳が敷かれた空間に、上手奥には2人掛け椅子、下手奥には和箪笥、中央に畳1枚サイズの座卓が置かれ、上空には和風のシーリングライトが吊された中で展開しました。
ノンストップで続くテクノに乗せてダンサー達が様々な組み合わせで踊るパート、蝉や雉鳩の鳴き声が響く中で、ある行為をしようとする人とそれを阻止しようとする人の攻防が描かれるパート、天井から沢山の照明が降りてきて壮大な音楽に乗せてスタイリッシュに踊るパートと、大きく3つのパートに分かれた構成でした(タイトルの3つの単語に対応している訳ではなさそうでした)。

冒頭は暗闇の中をランダムに点滅する照明の下で2人が絡み合う様な動きをして先鋭的な印象がありましたが、以降はいつものイデビアンの雰囲気で楽しかったです。ユニゾンやいくつかのグループに分かれて踊る振付のダイナミックさと脱力感の対比が鮮やかで印象的でした。
ユニークなダンスが魅力的なのは勿論のこと、箪笥の引き出しを引っ張り出して階段状にし、上に登ってラテン歌謡曲を熱唱したり、ステージの前をジョギングする人が横切ったりといった馬鹿馬鹿しい演出もシュールで良かったです。

もしも僕がイラク人だったら

もしも僕がイラク人だったら

カムヰヤッセン

東京芸術劇場アトリエイースト(東京都)

2013/10/03 (木) ~ 2013/10/06 (日)公演終了

満足度★★★

シンプルながら奥深い戯曲
戦争中のイラクに住む男のことを日本に住む男が妄想する物語で、必要最低限の設えで演じる中に「演じること」や「他人のことを想像すること」についての問い掛けが含まれた、興味深い作品でした。

北川大輔さんが上演作品についての説明や携帯電話の電源を切るアナウンスをしている内に客席の照明がゆっくりと暗くなってシームレスに本編に突入していて、日常的な話題から新聞で目にした家族を空爆で亡くしたイラク人の男のことを想像する話となり、最初からずっと椅子に座っていた辻貴大さんがその想像上のイラク人の爆撃を受ける前後の様子を演じる構成でした。

2人の出演者が会話するシーンがなかったので(同じ台詞を重ねて言う箇所が少しだけありました)、おそらく元々は一人芝居の戯曲を、妄想する人と妄想される人の2役に分けて演じたのだと思います。
メディアでは描かれない個人のことを想像することの可能性と難しさが描かれていました。戦争をモチーフにした物語ですが、単純に戦争の悲惨さを訴えるだけの話とせずに客観的でシニカルな視線が感じられたのが印象的でした。言及される音楽や映像が実際に流され、単なる情緒的な効果として扱われていないのが良かったです。

展示公演と銘打ってるのは劇団の公演記録の展示をしているスペースで公演をするというだけで、展示と公演に明確な繋がりがなかったのが少々期待外れでした。

品川浮き世絵巻

品川浮き世絵巻

S.A.I.(NPO法人 Scenographic Art Institute )

北品川フリースペース楽間(東京都)

2013/09/29 (日) ~ 2013/09/29 (日)公演終了

満足度★★

遊郭の10分間
しながわ宿場まつりの関連イベントで、花魁2人の特に大きな出来事も起こらない10分間を台詞無しで淡々と見せる、緩やかで艶っぽい作品でした。

鳥居清長の浮世絵『美南見十二候』を再現する趣向で、満月の夜に悪戯っぽく振る舞う2人の遊女の様子が描かれていました。歌舞伎の日本舞踊の女形の動きに比べると、滑らかさが欠けていると思いましたが、当時の実際はこの様な感じだったのかもしれません。

遊郭の一間を再現したセットが細部まで凝っていて、たった1日の公演だけの為とは思えないクオリティーでした。会場の真ん中にあって邪魔な円柱も上手く取り込んでいて、パフォーマンスでも違和感なく用いられていました。

ちなみに写真撮影可の公演だったのですが、観ることより撮ることに熱心な観客が多く、情緒の無いシャッター音や電子音が鳴り続けていて残念でした。ちゃんとパフォーマンス後に撮影タイムを設けていたので、上演中は撮影禁止にするべきだったと思います。

フール・オン・ザ・ヒル

フール・オン・ザ・ヒル

多摩1キロフェス

パルテノン多摩【旧情報】(東京都)

2013/09/27 (金) ~ 2013/09/28 (土)公演終了

満足度★★★

池の中の野外劇
寓話的な物語を多彩な手法を用いて描いた作品で、野外劇ならでは開放的な空間を活かした演出が楽しかったです。

妻が亡くなって自分も死にたいと思っている老人と、昔その老人に助けられ願いを叶えようとする狸と、死を思い止まらせようとする猫の物語で、ごまのはえさんならではの原始的なまがまがしいさが薄く、ライトなテイストでした。
想像していた程には「多摩」や「ニュータウン」を強調していなくて、物語としては上演場所との繋がりがあまり感じられませんでした。

池の中にT字型に張り出したステージ、その周りに11台のブランコ、下手にはドラムや打楽器が配置されていて、ステージ上で演じる場面は少なく、大半が池の中で水を撒き散らしながら展開し、ダイナミックでした。
山が切り崩される様子を池の奥にある林にショベルカーのシルエットを映し出して表現したり、池を囲む列柱にプロジェクションマッピングをしたり、夢の世界を表現するのに面状に噴き上げられた水の膜に映像を投影したりとスケールの大きい映像演出が素晴らしかったです。
被り物や人形のクオリティーが高くて良かったものの、対照的にいくつかの小道具が安っぽく見えたのが残念でした。

主人公の老人を演じた茂山童司さんの狂言特有の声色や台詞回しが印象的で、狂言や歌舞伎を模したシーンに映えていました。

No border !!

No border !!

多摩1キロフェス

パルテノン多摩【旧情報】(東京都)

2013/09/28 (土) ~ 2013/09/28 (土)公演終了

満足度★★

テクノロジー×パフォーマンス
4組のショーケース公演で、テクノロジーを前面に出した独特なエンターテインメントの要素が際立ったイベントでした。

明和電機『製品デモンストレーション』
昭和の町工場をモチーフにしたアートユニットで、電気機械仕掛けの奇妙な楽器群のデモンストレーションの体裁を取ったパフォーマンスでした。
水色の作業着を着て真面目な顔で、馬鹿馬鹿しい動きをする楽器を操作する姿が楽しかったです。

WRECKING CREW ORCHESTRA EL SQUAD『ILLUMINATION DANCE』
明滅がコントロールされた線状の照明を仕込んだ衣装と手持ちのLEDライトを用いて暗闇の中でブレイクダンスを踊るパフォーマンス、宙に浮いたり瞬間移動した様に見えるイリュージョン的な表現が楽しかったです。
格好良かったのですが上演時間が短く、もっと長く見せて欲しかったです。

オリジナルテンポ『Shut up Play!! ~喋るな、遊べ!!~ 多摩ver.』
6月にCBGKシブゲキ!!で上演した作品の短縮版でした。ショーケース公演ということもあってか映像を用いたトリッキーな演出は少な目で、身体を用いた音楽的パフォーマンスが多かったです。
客席に子供が多くいたので、客いじり等の分かりやすいベタなネタが受けていて、温かい雰囲気でした。

ホナガヨウコ×環ROY『かみあわない』
ラッパーとダンサーのコラボレーションで、自分の専門にとどまらず、お互いの領域に踏み込み、且つそこに演劇的な魅力も生み出されていて、1回しか公演しないのが勿体なく思いました。
対義語を言いつつ2人が近付き、交差するときに同時に「私」と言い、その後は離れつつ連想ゲーム的に単語を交すシークエンスが印象的でした。ピンスポットや帯状の照明、舞台奥から客席に向けられた照明が美しかったです。

Fragments-枕草子-

Fragments-枕草子-

ボヴェ太郎

三渓園(神奈川県)

2013/09/28 (土) ~ 2013/09/28 (土)公演終了

満足度★★★★★

環境との繊細な照応
1457年に建てられた旧燈明寺本堂の建物の建具を開け放ち、外の庭園を借景として舞う作品で、非常にゆっくりした動きの中に確固とした、しかし押し付けがましくない美意識が現れていて素晴らしかったです。

静かに音楽が流れる中、着物姿の渋谷はるかさんが向かって右のスペースに座り『枕草紙』の有名な季節毎の好ましいものを挙げていく段を読み終わった所で、ボヴェ太郎さんが建物側面の縁側を通って開口部をゆっくり横切り、正面に回り込んで庭園の方を向いて長く佇んだ後に中に入って舞いました。渋谷さんの座る姿と同じ姿勢を取り、座ったまま踊るシーンでは空間の質が変わって感じられました。終盤ではボヴェさんの最初の登場シーンが繰り返され、『枕草紙』の文章と相俟って巡る四季を想像させました。

照明を用いずに自然光のみで、鳥や蝉の鳴き声が響き、爽やかなそよ風が流れる中、その環境に寄り添った静かながら密度のある動きが美しかったです。とても繊細なパフォーマンスで凛とした緊張感がありつつも観ている人の負荷にならない柔らかさが感じられました。
藤色の衣装に現れるドレープに光が当たって現れる、滑らかな陰影と照り返しが美しかったです。

渋谷さんの朗読はウィスパー的な声色も用いた優しい声で適度な強弱をつけていて、とても魅力的でした。

あまり展開らしきものもないので長く感じつつも、いざ終わるとあっと言う間だった様な感覚が残る、不思議な時間感覚が印象的でした。

OPUS/作品

OPUS/作品

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/09/10 (火) ~ 2013/09/29 (日)公演終了

満足度★★★

感情の対位法
弦楽四重奏団の人間関係をユーモアと緊張感を盛り込んで描いた作品で、クラシック音楽を演奏する人や聴く人は勿論、そうでない人でも楽しめる作品でした。

ある出来事がきっかけでヴィオラ奏者を解雇して新たに若い女性奏者が加入し、ホワイトハウスでベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番を演奏するまでの物語が、前任者がいた頃の回想シーンを挟みながらテンポ良く描かれ、色々な思いが交錯する様子が鮮やかに表現されていました。
ショッキングな行動による痛々しい破局の後に優しい雰囲気のコーダが続き、ハッピーエンドではないものの温かみのある後味を感じました。

客席が四方を囲む正方形の舞台の上で、譜面台と4(+2)脚の椅子の配置だけで異なる場所を表していたのが良かったです。
キャップを被ることによって、野球の話題と、がん(抗がん剤による抜け毛)の予感を重ね合わせていたのが印象に残りました。

5人の役者がそれぞれのキャラクターを感情豊かに演じていて、丁々発止の演技に引き込まれました。
演奏家達の物語なので当然ながら演奏シーンが多いのですが、左手のフィンガリングは潔く切り捨てて全く動かさず、右手のボウイングはかなり忠実に弾き真似をすることによってあたかも本当に弾いているようなリアリティーが出ていて良かったです。

作家がヴィオラ奏者とのことで楽曲構造と脚本の関係に凝ったものを期待していたのですが、それほど関連させていない様に感じられ、少々残念に思いました。

ドリフターズ・サマースクール2013成果発表『ココ』

ドリフターズ・サマースクール2013成果発表『ココ』

DRIFTERS INTERNATIONAL

さくらWORKS<関内>(神奈川県)

2013/09/21 (土) ~ 2013/09/22 (日)公演終了

満足度

参加型作品
役者やダンサーが何かをするのを観るのではなく、自ら建物の中を移動することによって自分自身を捉え直す体験をする作品でしたが、その様な参加型の形式を用いる必然性が感じられず、単純化されたオリエンテーリングみたいな印象を受けました。

20名程度の参加者が「You are here」と書かれたスタート地点でくじ引きを行って指示書が渡され、それぞれに与えられた「特定の物を集める」、「ひもを辿って行く」等の指示をこなしながら建物の屋上へ進み、そこに用意されたスクール机&椅子に着席して擬似的なクラスルームが行われる展開でした。
先生が参加者全員の名前を読み上げ出席を取った後に外に向かって名前を呼び掛けると、どこからか返事が聞こえ、外周部の手摺に近寄ると、会場の建物のより1階低い隣の建物の屋上に「I am here」と書かれた旗を持った人達がいて、輪になって走って旗をはためかせるパフォーマンスがあって終わりました。

先生と出演者の点呼のシーンはこの会場ならではの演出で、一気に世界が広がる感覚がとても美しく印象的でしたが、それ以外の要素は作り込みが甘く、フルクサスや寺山修司といった観客巻き込み型作品の先行例(リアルタイムでは経験していませんが)の劣化コピーの様に感じられました。

悪魔としるし / Fiend and Symptom

悪魔としるし / Fiend and Symptom

悪魔のしるし

相鉄本多劇場(神奈川県)

2013/09/20 (金) ~ 2013/09/23 (月)公演終了

満足度

心霊写真と昭和
心霊写真をモチーフにした作品でしたが、テーマやメッセージが見えず、何かしらのテクニックを見せるわけでもなく、印象に残るものがありませんでした。

70~80年代のオカルトブームの時代に心霊写真を作る仕事をしていた男の娘のモノローグを中心に、心霊写真についてのスライドレクチャーとそれを踏まえた上での即興の心霊写真のキャプション作り、空き缶を沢山引き擦りながら革命を訴える男や昭和天皇を思わせる燕尾服姿の男エピソードが絡み、最後に登場人物全員で撮った写真で女だけが写っておらず、実は生きている人ではなかったのかも、いうオチで終わる物語でした。

奥に向かってすぼまった筒状のオブジェが下手に浮いていて、手前の面には紗幕が張られていて映像が投影され、上手にはオブジェと同型のシルエットが描かれて一部が客席側に張り出している空間構成は面白いことが起きそうに感じましたが、あまり活かされていないと思いました。

この劇団(?)にはしっかり構成された脚本に基づく芝居は求めていませんが、今回はいままでの作品に見られた演劇や美術の業界に対するシニカルな姿勢があまり感じられず、既成の価値観を揺さぶるような表現をほとんど見い出せない、ただとっ散らかった作品にしか感じられませんでした。

々開演を14:05、19:05と切りの良い時刻から5分遅らせていたのは、遅刻者を待って(=多くの観客を待たせて)定刻に開演しない演劇界の慣例に対する皮肉が効いていて良かったです。

Woyzeck/W (ヴォイツェク ダブル)

Woyzeck/W (ヴォイツェク ダブル)

冨士山アネット

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/09/13 (金) ~ 2013/09/23 (月)公演終了

満足度★★★

演劇ver.鑑賞
ダンス的な身体表現を多く用いつつも台詞や展開はほぼ原作通りで分かり易く、ダンス版と同様に小道具を用いた影絵や映像の演出についてもダンス版に比べてその必然性が感じられました。
ダンス版に比べると分かり易いとはいえ、それでも戯曲か前衛的ではない演出の上演を知らないと物語が分かり辛いかも知れません。

スクリーンとして用いられるホワイトボードが舞台奥に置かれ、作品の中で用いられる様々な小物(おそらくダンス版と同一だったと思います)がステージ中央に円形に並べられ、基本的にはその中のエリアで演じられ、その外では同時に他の場面が演じられたり、ポーズを取ったまま静止していて、最初から最後まで5人が出ずっぱりでした。

荒野の場から始まり、一般的な配列で進行しつつ、所々で別の場の台詞を挿入したり、同じシーンを繰り返すなどの改編が加えられていました。普通だとマリー殺害前に置かれる寓話的な挿話がマリー殺害後に置かれていて、静かなクライマックスを築き上げていたのが印象的でした。

電子機器や日用品を用いるセンスが良くユニークな表現が楽しかったです。同一の物が連続する場面で異なる物に見立てられたり、ライブ映像でトリッキーに役者と小物を関係させたりと、演出は機知に富んでいて面白かったのですが、役者の台詞回しやダンスに確固とした物が感じられず、覚束無い印象だったのが残念でした。

夏の終わりの妹

夏の終わりの妹

遊園地再生事業団

あうるすぽっと(東京都)

2013/09/13 (金) ~ 2013/09/22 (日)公演終了

満足度★★★

平行線
シンプルなセットと滑らかに変化する照明の中、台詞やシーンが順番を入れ替えながら淡々と繰り返され、ある種の退屈感を覚えつつも引き込まれる不思議な雰囲気を持った作品でした。

「インタビュー資格制度」が制定されている渋谷区内の架空の町、汝滑町(うぬぬめまち)に住む女の話と大島渚監督の『夏の妹』と各役者のインタビューの返答が断片的に現れる構成で、物語性が感じられず掴み所がありませんでした。
沖縄の米軍基地や3.11、原発といった現在進行中の政治/社会的なトピックが淡々とした展開に現実的な引っ掛かりを与えていたのが印象的でした。

舞台奥のドアから手前に伸び、ステージから跳ね出した白い通路が5本並列に並び、それぞれに椅子が1脚置かれていて、各通路に1人ずついる5人の役者は椅子に登って跨ぎながら前後運動を繰り返し、時にはヨガマットを敷いてヨガのポーズを取ったりしていました。
台詞と動きが関連していなくて、役者間の関わり合いもほとんど無く、『夏の妹』についての「良く分からない」というコメントが、そのままこの舞台についての自己言及的なコメントになっていたのがユーモラスでした。

派手さは無いものの刻一刻と変化する照明がとても美しく、特に最後の消え入り方が印象に残りました。

FRIEND

FRIEND

CHAiroiPLIN

d-倉庫(東京都)

2013/09/17 (火) ~ 2013/09/18 (水)公演終了

満足度★★★★★

檻としての家
安部公房の不条理劇をダンスを中心に演奏や映像等を盛り込んで構成した作品で、コミカルな表現の中に次第に恐ろしさが増して来る、素晴らしいパフォーマンスでした。

結婚を控えていた男の家に見知らぬ9人家族が押し掛けて来て様々な屁理屈を付けて住み着き、最後には男が死んでしまう物語が台詞も交えて分かり易く描かれていました。原作には登場しない(と自分で言ってしまう)アパートの隣人がアコーディオンを弾きながら歌うのも、台詞をカットした部分を補っていて効果的で、最後には物語の世界に取り込まれてしまうのも良かったです。

開演前から舞台上に置かれている、電球が仕込まれた家のミニチュアが象徴的に用いられていて、作品に奥行きを与えていたと思います。
途中で床に白いテープを貼って家の間取りを作るパフォーマンスが楽しく、終盤にはそのテープを剥がして男を壁に固定するのに用い、「家=檻」と見せていたのが印象的でした。
家族の1日の生活を早回し何度も繰り返すシーンで、初めは傍観していた男が次第に率先して行動する様になる描写が、見た目はコミカルなのに何とも言えない怖さが込み上げて来て、素晴らしかったです。

キレの良い素早いムーヴメントを多用した振付が爽快で、ユニゾンや数グループに分かれて踊る群舞に迫力がありました。3人でコンタクトしながら踊る振付を毎回異なる1人を抜いたペアで見せるシークエンスも面白かったです。

ダンスとしても演劇としても充実した内容なのに、平日の2日間しか公演がないのが勿体なく思いました。

九月大歌舞伎

九月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2013/09/01 (日) ~ 2013/09/25 (水)公演終了

満足度★★★

夜の部鑑賞
暗さを感じさせる世話物と朗らかな舞踊の2本立てで、両作品とも充実した演技を楽しめました。

『不知火検校』
按磨師の男が悪行を繰り返す物語で、悪者なのに惹き付けられる魅力がありました。
「えー」や「あのー」が口癖の気の弱そうな男が悪に染まって行くに従って堂々とした口調に変化する様子を松本幸四郎さんが巧みに演じ、遂には捕えられた姿を見に来た人々に吐く凄味の効いた台詞と大胆不敵な大笑いが格好良かったです。悪ぶっていても、ところどころに愛嬌が感じられるのも良かったです。

歌舞伎では珍しい2階建ての住宅のセットをセリで上下させたり、回転している回り舞台の上に町人達を歩かせたり、群衆を横一列ではなく、対角線を意識しつつランダムに配置するといった空間演出にモダンな感覚があり、印象的でした。

『馬盗人』
馬を買って帰る途中の男が騙されて馬を奪われる物語を、2人組で演じられる馬と一緒に踊る舞踊劇で、台詞も踊りもひたすら馬鹿馬鹿しくて楽しかったです。
セリから登場した馬が、女形の様にしなを作ったり、見得を切ったり、花道で飛び六法を踏んだりと、歌舞伎特有の表現を演じる姿がシュールでした。
3人の役者の踊りもコミカルでしたが、少々羽目を外し過ぎに感じました(元々その様な振付なのかもしれませんが)。

『ジャンヌ』 ―ノーベル賞作家が暴く 聖女ジャンヌ・ダルクの真実―

『ジャンヌ』 ―ノーベル賞作家が暴く 聖女ジャンヌ・ダルクの真実―

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2013/09/05 (木) ~ 2013/09/24 (火)公演終了

満足度★★★

作家のシニカルな視線
ジャンヌ・ダルクの生涯、そして死後の彼女に対する評価を描いた物語で、サブタイトルの「ノーベル賞作家が暴く聖女ジャンヌ・ダルクの真実」は大袈裟でしたが、単なる歴史劇に終わらないラストが興味深い作品でした。

シーン毎に左右の大きな壁を移動させて空間を変化させつつ、史実通りにストーリーが展開し、ジャンヌが裁判で異端者とされ火刑台に掛けられて死ぬまでが描かれていました。そこまでは史実に則っていたのですが、ジャンヌの処刑から25年経った復権裁判が行われた時代に飛んでファンタジー的な展開となり、さらに20世紀の人物も登場して、それまで地味目だった演出も遊び心が感じられるものとなったのが印象的でした。ジャンヌを含めた登場人物達に対するシニカルな視線が、いかにもバーナード・ショーらしかったです。
ほとんど動きの無い、イギリスの伯爵とフランスの司教の対話シーンがかなり長かったり、ジャンヌの処刑シーンは描かれていなかったりと、シーン毎の時間配分のバランスが良くないと思いました。

ジャンヌ役の笹本玲奈さんは、声や表情の演技は良かったのですが、元々の戯曲上の描き方がそうなのか、キャラクターの造形にあまり魅力を感じませんでした。
ジャンヌ以外の登場人物は全て男性で、ベテラン勢のシリアスな台詞の応酬に見応えがあり、所々で見せるユーモラスな演技も楽しかったです。

転換の時に流れるピアノ曲以外にはほとんど音楽が用いられず、音楽に頼った雰囲気作りをしていないのが良かったです。衣装は時代考証的には正確ではないものだとは思いますが、重厚な雰囲気があって格好良かったです。

家庭的 1.2.3

家庭的 1.2.3

Baobab

d-倉庫(東京都)

2013/09/13 (金) ~ 2013/09/16 (月)公演終了

満足度★★

フィクションの家族
テクノやハウス等のダンスミュージックに乗せて家族の模様が描かれた作品で、大人数でのダイナミックなダンスが印象的でした。

踊りながら喋って家族のメンバーを紹介するソロリレーから始まり、普通の家族の情景をユーモラスに描くダンスが展開する構成で、中盤ではラップと映像を交えたエネルギッシュな群舞もあり、メリハリがありました。
シャツを丸めた物を赤ちゃんに見立て、家族皆で可愛がる終盤のシーンで、男性ダンサーが演じる母親がそれは赤ちゃんではなく唯のシャツだと述べることによって、舞台上で演じられていた家族関係も崩れて行き、演劇のフィクション性と、現代における家族の繋がりの脆さを表現しているように感じました。

メンバー間でダンスの実力差が見られたものの、ストリートダンス的なムーヴメントを用いた振付に躍動感があり楽しめました。
ダンスがメインの部分と台詞がメインの部分の繋がりが弱いと思いました。各シーンが少々長く感じられ、1~2割刈り込めば最後まで一気に持って行く流れが出ると思いました。

God save the Queen

God save the Queen

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2013/09/12 (木) ~ 2013/09/16 (月)公演終了

満足度★★★

個性と共通性を感じ取れるショーケース公演
素舞台、上演時間20分という枠組みの中で、5団体それぞれの個性とある部分では共通した雰囲気が感じられ、興味深い企画でした。

うさぎストライプ『メトロ』(☆☆)
地下鉄の中での2組の男女のエピソードを描いた作品で、相対性理論の曲に合わせて、12脚のスクール椅子を用いて物語とは異なる運動的・作業的な動きが繰り返され、身体的な高揚が次第に精神的な高揚に見えてくるのが印象的でした。おそらく地下鉄サリン事件に言及していましたが、唐突に感じました。
音楽が大きくて台詞が聞き取りにくい場面が多かったのもあり、音楽にパフォーマンスが負けている様に思いました。

タカハ劇団『クイズ君、最後の2日間』(☆☆☆☆)
「2ちゃんねる」に実際に書き込まれた自殺予告者のやりとりをベースに、繰り返しが続く単調な日々が描かれ、生き辛い現代社会の閉塞間が伝わって来ました。
シーン毎に異なる数秒の物音のループで流されたり、政治用語による卓球山手線ゲームのシーンが挿入されたり、段ボール箱で作られたオブジェが次第に一つの大きな形になって行くといった手法がテーマに合っていて効果的でした。
今回の5作品の中では一番完成度が高いと思いました。

鳥公演『蒸発』(☆☆☆)
アダルトビデオで自慰行為する男を双眼鏡で観察する女と、その女と同居する女との2人芝居ですが、単純な対話劇ではなく、相手に成り変わって喋ったり、客席に説明する様に話したりと、主体/客対が揺らぐ様な構成になっていて興味深かったです。
音楽無しの中、下ネタなのに嫌らしさが感じられない話が淡々と進み、独特の乾いた雰囲気がありました。

ワワフラミンゴ『どこ立ってる』(☆☆☆)
成立していない会話がほんわかとしたムードの中で繰り広げられる、癖になりそうなとぼけた味わいのある作品でした。
ステージの上手にテーブルと椅子が置いてあり、基本的にそこに座って会話が進むという小じんまりとした空間の使い方が不思議でした。訴え掛けるメッセージもなく、無理に笑いを取ろうともしない、エゴが感じられない柔かい雰囲気が素敵でした。

Q『シースーQ』(☆☆)
寿司屋の娘と、そこで働いていた2人の人間以外の生き物とのハーフの女の物語が漫画的に描かれ、奇妙な生々しさがありました。序盤では児童劇の様なオーバーな演技に寒々しさを感じましたが、魚介類の写真や春画が壁面に大きく映し出される辺りから赤裸裸でカオスな雰囲気になり、引き込まれました。
他団体がワンシチュエーション的な空間演出だった中、映像や照明によって空間の質が一気に変わる感じがあって新鮮でした。

Woyzeck/W (ヴォイツェク ダブル)

Woyzeck/W (ヴォイツェク ダブル)

冨士山アネット

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/09/13 (金) ~ 2013/09/23 (月)公演終了

満足度★★

ダンスver. 鑑賞
原作を知らずに観ると物語は分からないとは思いますが、様々なアイディアが盛り込まれていて、物語性抜きでも楽しめる作品でした。

湖と月を象徴する、一部が赤くなった青いスクリーンが舞台奥に吊され、劇中で出てくる小道具は左右と奥の壁に沿って肩の高さ辺りに吊されている中でパフォーマンスが展開しました。
ヴォイツェクがマリーを殺害するシーンをリアルには描かず、その前のシーンで周囲の男達に刃物を持たせることによって、社会環境のせいで悲劇が起こった様に見せていたのが印象的でした。その後ヴォイツェクも死に、湖の中でマリーと手を繋ぐ姿をシルエットで見せるのがロマンテイックでした。

スタイリッシュに見せようとしているのに、パフォーマンスの精度が追い付いていなくて、意図していない野暮ったさが出てしまっている様に感じられました。ダンサーに身体を隅々までコントロールしている感覚があまり見えて来なくて残念でした。ライブ映像や影絵、様々な小物を用いた演出は創造的で興味深かったのですが、取り扱いがバタバタしていてせわしない印象が強かったです。
叫んだり、外国語風に出鱈目な言葉を喋ったりする箇所がありましたが、せっかくダンス版と演劇版を分けて作っているので、ダンス版では声による表現は用いない方が良いと思いました。

悪霊-下女の恋

悪霊-下女の恋

森崎事務所M&Oplays

本多劇場(東京都)

2013/08/29 (木) ~ 2013/09/16 (月)公演終了

満足度★★★

盛り沢山な笑いと毒
人間のダークな面を喜劇的に描いた作品で、4人の役者の素晴らしい演技が本多劇場の広いステージと2時間以上の上演時間を満たしていました。

関西でお笑いコンビを組んでいる幼馴染み2人の片方が結婚することになり、そのすぐ後に母が亡くなることによって家族のねじれた関係が明らかになって行く物語で、一軒家の庭先でテンポ良く展開して引き込まれました。どのキャラクターも可愛いらしい一面と恐ろしい一面を持ち合わせていて、笑いと毒がバランス良く描かれていました。

関西弁で喋る4人の演技が濃密で、台詞回しや間の取り方が魅力的なだけでなく、高い所に上ったり妙な歩き方をしたりと身体能力を活かした身軽な動きも素晴らしかったです。
初演、再演、今回と同じ役を演じ続けている広岡由里子さんのはっちゃけた演技が見事でチャーミングでした。

(おそらく)テレビや芸能人にまつわるネタが多くて、その辺りの話題に疎いので、周りが笑っているのに面白さが分からない所が多かったのが残念でした。固有名詞に乗っかった笑い(あと、下ネタもかなり多かったです)よりも、シチュエーションによって起こるおかしみをもっと見せて欲しかったです。

劇団「地点」 リーディング公演 『レンツ』

劇団「地点」 リーディング公演 『レンツ』

東京ドイツ文化センター(ゲーテ・インスティトゥート)

ドイツ文化会館ホール(OAGホール)(東京都)

2013/09/13 (金) ~ 2013/09/14 (土)公演終了

満足度★★★

リーディングの枠を超えた公演
リーディング公演と銘打っていましたが、(一応)台本を手にしていることと照明の変化がないこと以外は、本公演と同様の労力が費やされた、視覚的にも情報量の多い充実した公演でした。

ステージ前面のワインレッドのビロードのカーテンが閉じられ、その前に横一列に並べられた16脚の赤い椅子の上には台本が1枚ページずつ置いてあり、基本的には椅子の手前の1m幅の細長いスペースで演じられました。冒頭や途中で山道を進む場面があることにちなんで、役者は登山靴を履いていました。
冒頭に客席に向かって一礼した後、台本を手にしてリーディング公演らしい体裁で始まりますが、次第に隣の人の紙を奪ったり、他の人に読んでいる箇所を指差してもらったりと、リーディングという形式をパロディー化していて楽しかったです。おそらく台詞は全て覚えていて、敢えて「読む」という状態を演出として用いていたのだと思います。
レンツが部屋の中で暴れるシーンはカーテンの後ろで客席から見えない空間で演じられ、見えないことによって逆に狂気の怖さが引き立っていました。終盤ではコラージュ的に歌や呟きが入り混じり、精緻に構成された音楽の様でありながら、精神を病んで行く様子がリアルに感じられました。

人名や地名といった固有名詞のそれぞれに特徴のある抑揚を割り当て、音楽的な効果を上げていまいした。2人が声を揃えて(途中から交互に)早口で台詞を言うシーンがスリリングでした。靴ひもを結び直したり、小説では終盤で出てくる首を振り続ける動作が序盤で行われたりと、様々な身体表現が全体に散りばめられているのも印象的でした。
小型コントラバスで奏でる音は旋律的な要素は少なく、効果音的に用いられていて、ある時は役者の声と一体になって不穏な雰囲気を醸し出していました。

この内容で、さらに終演後にはワインやスナックも振る舞われて1500円という値段は、とてもリーズナブルに感じました。

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