満足度★★★
シンプルながら奥深い戯曲
戦争中のイラクに住む男のことを日本に住む男が妄想する物語で、必要最低限の設えで演じる中に「演じること」や「他人のことを想像すること」についての問い掛けが含まれた、興味深い作品でした。
北川大輔さんが上演作品についての説明や携帯電話の電源を切るアナウンスをしている内に客席の照明がゆっくりと暗くなってシームレスに本編に突入していて、日常的な話題から新聞で目にした家族を空爆で亡くしたイラク人の男のことを想像する話となり、最初からずっと椅子に座っていた辻貴大さんがその想像上のイラク人の爆撃を受ける前後の様子を演じる構成でした。
2人の出演者が会話するシーンがなかったので(同じ台詞を重ねて言う箇所が少しだけありました)、おそらく元々は一人芝居の戯曲を、妄想する人と妄想される人の2役に分けて演じたのだと思います。
メディアでは描かれない個人のことを想像することの可能性と難しさが描かれていました。戦争をモチーフにした物語ですが、単純に戦争の悲惨さを訴えるだけの話とせずに客観的でシニカルな視線が感じられたのが印象的でした。言及される音楽や映像が実際に流され、単なる情緒的な効果として扱われていないのが良かったです。
展示公演と銘打ってるのは劇団の公演記録の展示をしているスペースで公演をするというだけで、展示と公演に明確な繋がりがなかったのが少々期待外れでした。