満足度★★★
リーディングの枠を超えた公演
リーディング公演と銘打っていましたが、(一応)台本を手にしていることと照明の変化がないこと以外は、本公演と同様の労力が費やされた、視覚的にも情報量の多い充実した公演でした。
ステージ前面のワインレッドのビロードのカーテンが閉じられ、その前に横一列に並べられた16脚の赤い椅子の上には台本が1枚ページずつ置いてあり、基本的には椅子の手前の1m幅の細長いスペースで演じられました。冒頭や途中で山道を進む場面があることにちなんで、役者は登山靴を履いていました。
冒頭に客席に向かって一礼した後、台本を手にしてリーディング公演らしい体裁で始まりますが、次第に隣の人の紙を奪ったり、他の人に読んでいる箇所を指差してもらったりと、リーディングという形式をパロディー化していて楽しかったです。おそらく台詞は全て覚えていて、敢えて「読む」という状態を演出として用いていたのだと思います。
レンツが部屋の中で暴れるシーンはカーテンの後ろで客席から見えない空間で演じられ、見えないことによって逆に狂気の怖さが引き立っていました。終盤ではコラージュ的に歌や呟きが入り混じり、精緻に構成された音楽の様でありながら、精神を病んで行く様子がリアルに感じられました。
人名や地名といった固有名詞のそれぞれに特徴のある抑揚を割り当て、音楽的な効果を上げていまいした。2人が声を揃えて(途中から交互に)早口で台詞を言うシーンがスリリングでした。靴ひもを結び直したり、小説では終盤で出てくる首を振り続ける動作が序盤で行われたりと、様々な身体表現が全体に散りばめられているのも印象的でした。
小型コントラバスで奏でる音は旋律的な要素は少なく、効果音的に用いられていて、ある時は役者の声と一体になって不穏な雰囲気を醸し出していました。
この内容で、さらに終演後にはワインやスナックも振る舞われて1500円という値段は、とてもリーズナブルに感じました。