満足度★★★
善人、罪、罰
原作部分はそのままに、新たなエピソードを加えたり、シーンを組み替えたりして見通しの良くなった脚本をこけおどしのない演出で描き、ヴォイツェクが狂って行く様子を通じて社会と道徳について考えさせられる内容でした。
本来は途中に置かれる見せ物小屋の場面から始まり、ヴォイツェクの破滅的な物語が描かれた後にエピローグで再び見せ物小屋の場面が再現される構成で、キーとなる単語やエピソードを繰り返して強調したり、ある意味ヴォイツェクと対の存在である知恵遅れのカールに暗示的な台詞を多く言わせたりと、原作を読んだことがなくても分かり易い作りになっていました。
新たに加えられた台詞には今現在との繋がりを示唆する要素がありましたが、説明的過ぎる様に感じられる所もありました。
山本耕史さんが演じるヴォイツェクはとても純粋な男として描かれ、次第に挙動がおかしくなっていく様子が痛々しかったです。
他の役者はわざと芝居じみた大袈裟な演技をしているのかどうか曖昧さを感じることが所々ありました。
「7つの大罪」を想起させる7つのドアがある3m程の壁の前で、家具の位置移動だけで様々な場面を描き、クライマックスの妻殺害のシーンで初めてセットの大きな転換があるのが効果的でした。
クルト・ワイル作曲の『三文オペラ』に東欧的なテイストを加えた様な音楽で始まり、ヴォイツェクの精神状態が悪化するに連れて逆に明快な響きになって行くのが印象的でした。
管楽器奏者2人+ギタリスト+ベーシストの4人編成で、ピアノやドラムを用いてないのが作品の雰囲気に合っていました。
井手茂太さんの振付はダンスらしくない動きも多く、社会に飲み込まれる人間の不気味さが表現されていました。もっと身体表現を見せるシーンがあっても良いと思いました。