
陽炎座
花組芝居
博品館劇場(東京都)
2025/11/11 (火) ~ 2025/11/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「あやめ十八番」を観ていると「花組芝居」を観なきゃいけない気になる。一度は観ておこう、でも歌舞伎か···、難しそうだな。
人通りのない静まり返った町の寂し気な横丁、何やら聴こえて来る鳴り物の音。何かやっているみたいだな。その音に誘われた一人の男、里神楽の狂言方(作家)である小林大介氏。同じく背広を着込んだ紳士・丸川敬之氏と着物姿の美しい女(ひと)、品子(永澤洋氏)。こんな所に芝居小屋?義太夫、長唄、囃子が揃い、狐(桂憲一氏)、狸(黒澤風太氏)、猫(髙橋凜氏)が踊る。「迷子の迷子の迷子やあい」。探している迷子の名前を聞くと「迷子の迷子のお稲(いな)さんやあい」。享年19の亡くなった娘らしい。その名に覚えがある小林大介氏、そして品子。死んだ娘をどうやって見つけるというのか?帰りたがる丸川敬之氏、筋の先を知りたがる品子。
鈴木清順の『陽炎座』しか知らなかったが、元はこんな話だったとは。非常に面白い芝居。芸に色気がある。次回作も観たい。
是非観に行って頂きたい。

さらば黄昏
阿佐ヶ谷スパイダース
小劇場 楽園(東京都)
2025/11/08 (土) ~ 2025/11/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Ver.B〉
人口500人程の小さな町、踊田(おどりだ)。駐在所に暮らす定年間近の警察官、中村まこと氏。新たに赴任して来た若手、大久保祥太郎氏。町役場の長塚圭史氏。
背景は水墨画のような山の稜線が壁やブラインドに跨って描かれているもの。
MVPは志甫(しほ)まゆ子さん。オープニングから強烈。どんどん話に熱がこもり、いつしか「楽園」の観客にまで話し掛け同意を求める。圧倒的話術で観客は虜に。
そして中村まこと氏と村岡希美さんのワードがなかなか出て来ない掛け合いトーク。アドリヴのように見えるがきっちり脚本なのだろう。もう芸だな。
観客の想像力を刺激する構成。阪本順治の『トカレフ』みたい。
是非観に行って頂きたい。

存在証明
劇団俳優座
シアタートラム(東京都)
2025/11/08 (土) ~ 2025/11/15 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ミステリー好きなら堪らない傑作。海外戯曲だと思っていたが長田育恵さんのオリジナルとは!眞鍋卓嗣氏の演出も冴え渡る。(場面転換のタイミングが決まる)。そして杉山至氏の舞台美術がMVP。背景は直方体で組まれた無機質な壁面。これが収納家具のように引き出されると、忽ち別のセットに早替り。いろんな美術が様々な場所に仕込まれている。トランスフォーマーのような見事さ。黒板にチョークで数式を書き付ける音が響き渡る。
素数について前知識があった方が楽しめる。今作に入りにくい人はそこで躓いていると思う。素数とは自然に存在する数字。その他の数字は素数の合成数である。例えば2、3、5、7は素数であるが4、6、8、9は合成数。4(2×2)、6(2×3)、8(2×2×2)、9(3×3)。素数とはそれ自体で独立しているオリジナルな存在。ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンが1859年に立てた仮説「リーマン予想」。素数の出現に規則性があることを予想した。(166年前の仮説が未だに解明されず、証明できた者には100万ドルの賞金が付けられている。更に現在、素数の分布は量子力学における量子カオスのランダムな数値と類似していることが判明。この解明は物理学にまで波及することに)。
主人公は保(たもつ)亜美さん。1977年、精神病院で働く炊事婦。院長(河内浩氏)と理事長(安藤みどりさん)に呼び出され、ある患者(椎名慧都さん)から話を聴き出すことを頼まれる。彼女が選ばれた理由は、父親が高名な数学者ジョン・エデンサー・リトルウッドだった為。
1911年、ケンブリッジ大学のフェロー(研究員)である数学者、ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ(志村史人氏)。人付き合いが悪く頑迷偏屈な男。ある夜、真逆のクリケット選手でもあるスポーツ万能で快活なフェロー、ジョン・エデンサー・リトルウッド(野々山貴之氏)と出会う。クリケットの熱狂的ファンであったハーディはリトルウッドに興味を持つ。二人は共通の課題である「リーマン予想」について夜通し語り合う。この二人だったら世紀の難問も解ける気がした。
二つの年代が同時進行する面白さ。素数の謎を解き明かし、この世界の摂理を我が物とせよ。
雰囲気はショーン・コネリー主演の『薔薇の名前』なんかを思い出した。『イミテーション・ゲーム』というベネディクト・カンバーバッチがアラン・チューリングを演じた作品も思い返していたら、ズバリ、アラン・チューリングも登場する。
志村史人氏は姜尚中(カン・サンジュン)っぽくカッコイイ。 インテリの色気。
野々山貴之氏は市川猿之助っぽい。
こういうのが観たかった!観ているだけで頭が良くなるような錯覚。数学で世界を宇宙の真理を解き明かし、人間の知性の辿り着ける最果てまで行こう。
是非観に行って頂きたい。

とりあえずの死
劇団1980
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2025/11/06 (木) ~ 2025/11/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
伊藤弘子さんの代表作になってもおかしくない作品。伊藤弘子ファンは見逃す訳にはいかない。メイク、衣装、美術、照明、役者陣、目一杯金も労力もかけた総力戦。これが「劇団1980」、通称ハチマルだ!
創立者である藤田傳氏が1992年に書き下ろした戯曲。
旧満洲国ハルピンにある中国から帰国できなかった外国人だけを収容する中国国営哈爾濱(ハルピン)外僑(がいきょう)養老院。4人の中国残留婦人が1989年の今も暮らしている。酒が飲みたくてたまらない伊藤弘子さん、日本からの手紙を待つ早野ゆかりさん、懐中時計の修理を待つ新井純さん、何かを隠している上野裕子さん、全員70代。養老院のスタッフとして韓国人の小谷佳加さんが大忙し。
4人にはまだ満洲国にいた頃の若い自分が分身のように見えている。
伊藤弘子さんには角田萌果さん。旦那である神原弘之氏の残した詳細な日記ノート。
早野ゆかりさんには光木麻美さん。関東軍でラッパを吹いていた曽田昇吾氏。
惚けかけている新井純さんには真っ赤なドレスの磯部莉菜子さん、山田ひとみさん。
上野裕子さんには山川美優さん。
メイクが秀逸。京劇やイタリアの道化師のような過剰な化粧が効いている。伊藤弘子さんも本当にそうなのか確信が持てない位。よくこんな脚本が書けたものだ。伝えようとするものが大き過ぎる。イタリア映画の感覚。
いつか日本に帰る日を夢見ている老女達。敗戦後の地獄を敵国で這いずり回って生き延びてきた。何もかもを失って残るのは遠い故郷への想い。きっと自分に手を差し伸べてくれる人がいつか必ずやって来る。
是非観に行って頂きたい。

風神雷神図
糸あやつり人形「一糸座」
赤坂RED/THEATER(東京都)
2025/11/05 (水) ~ 2025/11/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
外人客が多い。家族もいた。謎めいた客層。全公演のチケットを買っている人もいた。
開場して中に入ると白い死霊犬オス(田村泰二郎氏)が白塗り褌一丁で通路やステージを這い回っている。暫くすると白い死霊犬メス(Kみかるmicoさん)が登場。白塗りに下着姿、乳首を前貼り的なもので隠している。面白いのが観客は慣れているのか特に反応もせず談笑を続けていること。異化効果のクセが凄い。江戸伝内氏と結城一糸氏が登場し紋付袴の着付け。二人の奥さんである結城民子さんと結城まりなさんが手伝い、かなり時間を掛けてきちんとやっている。やっと終わり二人共正座して観客に深々と頭を下げる。長い沈黙。何も起こらない。突如暗転、轟音ノイズ。ゲロゲリゲゲゲを思わすような破壊的ノイズが耳をつんざき強いストロボ照明がフラッシュを繰り返す。
台本・構成・演出+朗唱=芥正彦氏79歳。客席中央右端に立ち、マイクで詩をがなる。
下手前のスペースに音楽・灰野敬二氏73歳。晩年の内田裕也や往年の早川義夫のようなロン毛にグラサン。『ファントム・オブ・パラダイス』のポール・ウィリアムズのような妖気。横に長いハーディ・ガーディをフィッシュピックのようなT字型の物で叩く。ひたすらノイズノイズノイズ。時折奇声。パーカッション。
チラシに書かれた宮台真司氏の檄文が迫力。「暗闇で名状しがたい力が降ってきて僕を貫いた。(中略)すべきことが確定した。我々の時空からこの力が失われた訳を知り、力を回復する方法を探るぞと。」

高知パルプ生コン事件
燐光群
「劇」小劇場(東京都)
2025/10/31 (金) ~ 2025/11/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
主演の永瀬美陽(みはる)さんが可愛かった。福永マリカさんに似てるような。ミニスカの登場シーンから惹き付けられる。
土台はアジプロ演劇(革命の思想を大衆に説く手段としての演劇)だが、驚くことに観客の為にSFをまぶしてある。近未来である2026年からタイムスリップしてしまった永瀬美陽さん。気が付くとそこは1970年(昭和45年)の高知県高知市旭町早朝。高知パルプ工業社で働く円城寺あやさんに保護される。円城寺あやさんは物分かりが良く観客に取って面倒臭い遣り取りをすっ飛ばしてくれるのが有難い。永瀬美陽さんは知っていた。来年、ここで何が起きるのかを。
1950年に操業を始めた高知パルプ工業社、旭川から江ノ口川へと一日あたり13500tもの亜硫酸系パルプ廃液を垂れ流し続けた。更に江ノ口川から浦戸湾へと流れ込む廃液は生態系を壊滅させる。魚は死に周辺住民は健康被害に苦しんだ。奇形魚、ドブの臭い、どす黒い水、ヘドロの層。浦戸湾で揚がった魚は買い手がつかなくなる。江ノ口川沿いの旅館は余りの悪臭で客は逃げ出し女中は辞めていった。
記憶喪失の謎の男、大西孝洋氏。夏八木勲と和田良覚を足したような風貌。佐渡旅館の女将、森尾舞さんが面倒を見てやることに。一体彼は何者なのか?
果たしてこれからここで何が起こるのか?
是非観に行って頂きたい。

地味な労働者三部作
Ahwooo
新宿眼科画廊(東京都)
2025/10/31 (金) ~ 2025/11/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈東京ver〉
①Ahwooo「すぐやるか すぐにやるなよ 考えろ(上の句)」
如月萌さんの経営する会社が神戸の海岸通に引っ越し。友達のハイソの専業主婦・牧野亜希子さんがお祝いに駆け付けた。まだダンボールだらけの事務所、何処に何があるのか分からない。その内の一つに謎の文言が書かれた紙の束が。リストラした従業員の誰かの嫌がらせか?
②わたしとともに現前×mooncuproof「キャッチャー・イン・ザ・フトン」
末延ゆうひさんの一人芝居。会社を辞めて実家に帰って来た病んだニート、ダンボールの山の中でハローワークカードを探す。散々なボロボロの自分の半生を思い返しながら。幼い日、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』に心を揺さぶられたこと。
③排気口「海につながる湯船のほうへ」
大学の卒業旅行として佐藤暉(あきら)氏、坂本ヤマト氏、中村ボリさん、大久保佑南(ゆうな)さんが海へ向かう。バスを間違えて仕方なく山奥のひなびた旅館に泊まることに。番頭の坂本ヤマト氏は「この村には守って貰わねばならない決まりがある」と語る。
末延ゆうひさんは要チェック。
是非観に行って頂きたい。

我ら宇宙の塵
EPOCH MAN〈エポックマン〉
新宿シアタートップス(東京都)
2025/10/19 (日) ~ 2025/11/03 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
客入れSEにデヴィッド・ボウイ「I Wish You Would」が流れる。何故かそれだけで気分が良い。
ステージ上に置かれた椅子に突っ伏して寝ている宇佐美星太郎(しょうたろう)少年のパペット。幼稚園児位の大きさ。肌はフェルト生地っぽく見える。毛玉が付いている。背面は全て壁面に貼り付けたようなLEDビジョン。どうなっているんだか分からないが迫力満点。星太郎は首の後ろの下辺りにグリップが付いている。後頭部の真ん中にも掴む部分が。左手でグリップを掴み、右手で頭部もしくは他の部分を動かす。歩く時は自分の靴の上に星太郎の足を載せて一緒に動く。床に大量に散乱している紙には何がが書かれている。床の穴から次々と人々が出て来て開幕。
多分、今作が評価されているのは語り口なのだろう。一見何の話なのか全容が見えない。『インターステラー』的なものを期待していたが全く違った。どちらかと言えばジョディ・フォスターの『コンタクト』か。
小沢道成氏を初めて認識した。星太郎を操演。
異儀田夏葉さんは観る度に美しくなっているように感じる。プラネタリウムの背景が高速で移動する度、一人パニックを起こす設定は面白い。
渡邊りょう氏は今回も流石の強キャラ。今年何度観たことか。泣き上戸、笑い上戸の発達障害。彼の小太郎のエピソードからぐんと面白くなった。
※しょうたろう=正太郎だと思っていたので「鉄人28号」から名付けたのかと誤解。

華岡青洲の妻
文学座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2025/10/26 (日) ~ 2025/11/03 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
華岡青洲、江戸時代和歌山県の医師。外科手術を行なうにあたり、麻酔薬の開発こそ必須だと知る。十年間動物実験を重ね、六種類の毒草を調合して麻酔薬を作る。曼陀羅華(まんだらげ=チョウセンアサガオ)、トリカブト、白芷(びゃくし=ヨロイグサ)、当帰、川芎(せんきゅう)、天南星(てんなんしょう)。全身麻酔薬として発明した麻沸散(=通仙散)。だが実際に人間に投与する為には更なる人体実験が必須。十数人の親族の協力があったとされる。
1804年、記録に残る所では世界初、全身麻酔での乳癌手術に成功。(アメリカでウィリアム・モートンがエーテル麻酔での手術を成功させたのは1846年)。
それ以前の外科手術は患者に激痛をひたすら我慢させる悲惨なものだった。
一番今作を象徴するのが現在では使われていない江戸時代の紀州弁。語尾にOshiが付く独特の語感。「〜のし」「〜よし」「〜とし」と音として面白い。この会話を女性陣が柔らかく紡ぐ屋敷にはゆったりと漂う優しげな空気感。これが後半、どろどろ煮えたぎる修羅界へと堕ちた屋敷にて見事なる異化効果を上げる。小面(こおもて)を被った般若達の口にする雅な方言として。
華岡青洲(幼名・雲平〈うんぺい〉) 釆澤靖起(うねざわやすゆき)氏
妻・加恵(かえ) 吉野実紗さん
母・於継(おつぎ) 小野洋子さん
妹・於勝(おかつ) 太田しづかさん
妹・小陸(こりく) 平体まひろさん
原作者有吉佐和子は華岡青洲の偉業よりも嫁姑の確執に焦点を当てた。母・於継を杉村春子が演じた舞台は大評判、当たり役となった。女優陣の織り成す剥き出しの生き様こそが人気の所以。
8歳の時、美しくて賢いと噂で聞く於継をどうしても見たくなり、乳母に頼んで隣村まで足を伸ばした加恵。夏の照りつける太陽の下、垣根越しにこっそり庭を覗き見ると無数の気違い茄子(キチガイナスビ)の真白な花が狂ったように咲き乱れている。その中に凛と立つ於継の横顔。余りの美しさに眩暈がする。真白で清らかな美しい花と於継を重ねて見た幼き加恵。その正体が気違い茄子=チョウセンアサガオ=曼陀羅華であることを後に知る。実に巧い文学的仕掛け。
是非観に行って頂きたい。

デンジャラス・ドア
劇団アンパサンド
ザ・スズナリ(東京都)
2025/10/23 (木) ~ 2025/10/29 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2023年4月に「爍綽(しゃくしゃく)と」(=女優・佐久間麻由さんの企画ソロユニット)の第一回公演として脚本・演出したものをセルフカバー。TOKYO MXにて全3話のドラマとしても放送されている。安藤奎さんが初監督。
永遠の主人公・西出結さんは過酷な職場の新入社員。仕事もまだ覚えられず戦力にはなっていない。常に運が悪く日常の細々な事でもタイミングが合わない。悪い星の下に生まれてきた。
優しい先輩の永井若葉さんは沢山話し掛けてくれるのだが結構面倒臭い。ロッカーにお菓子を大量所持している。社会人の娘と暮らしている。
安藤奎さんも優しい。図書館で本を借りている。
安藤輪子(わこ)さんは「資本主義」に対して思うところがある。カレーはある店でしか食べられないがそこが閉店してしまった。
西田麻耶さんは部長のビリヤードのような指図に苛ついている。間接的に人を使わず直接本人に言えよ。
藤谷理子さんはスピリチュアルか宗教にハマっていて「人生は魂を磨く修行の場だ」と念じながら苦行のように働いている。ミスが多い。
リーダー格だった「ミツザキさん」が辞めてから職場の苛酷さが増した。皆満足に食事休憩も取れず長引く残業で帰れない。
西出結さんはオフィスの片開きのスライド式ドアが開けると間を置いて勝手に閉まる事が気になってしょうがない。そもそもそういう設計のものではない。一体どういう仕組なのか?
とにかく会話が面白い。細かいワードのセンスが冴えている。各々のキャラがかなり細かく設定されており、それが観客に丁寧に共有されていく。その為、会話の流れが脱線する様も観客の予測通りで皆ニヤニヤしながら眺めることとなる。ああこの人、絶対話の流れを堰き止めるよなあ、とか。この人、やたらと面倒臭い拘りがあるよなあ、とか。逆に全く予想もつかない方角に会話がすっ飛んでいく痛快さも。

蛍の光、窓のイージス
劇団文化座
あうるすぽっと(東京都)
2025/10/17 (金) ~ 2025/10/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
流石の畑澤聖悟氏、高校教師だっただけに職員室モノは圧倒的リアリティー。(定年になったと聞いたが今も?)。
2019年3月1日、秋田県の私立高校卒業式の朝。卒業生代表の答辞を読む季山采加(あやか)さんの原稿が問題になっている。担任の髙橋美沙さん、学年主任の津田二朗氏の困惑。6年後に高校から300mの距離に位置する陸上自衛隊新屋演習場にイージス・アショアの配備が決定。これはレーダーによる探知で弾道ミサイルを迎撃する防衛システム。北朝鮮からの弾道ミサイル発射が大いなる懸念となっており、政府はアメリカからの購入を決めた。季山采加さんの答辞はそれに不安を抱く内容。髙橋美沙さんはこういう発言が左翼系メディアの格好の餌となり、無用なトラブルに巻き込まれることを危惧。無駄に大人の政治的対立に巻き込まれても碌な事はない。何とか書き直させて無難な内容で終わらせたい。学校の経営を握る理事長がタカ派の与党政権の支持陣営であることも。
秋田の英雄、栗田定之丞(くりださだのじょう)の存在が作品の背景を支える。古来より飛砂(ひさ)害に苦しんできた海沿いの住民。栗田定之丞は独自の植林法・塞向法(さいこうほう)を考案し全長120kmに及ぶ黒松の海岸砂防林を築き上げた。
髙橋美沙さんは東ちづるの宝塚風で華がある。
田中義剛風秋田弁丸出しの教師、白幡大介氏がムードメーカー。峰竜太っぽくもある。
軍事オタクの演劇部顧問、桑原泰氏。
隠れてデモ活動を個人で行なっている早苗翔太郎氏。
長年の勤務で教師の中にも教え子が沢山いる教頭の米山実氏がキーマンに。
政治と教育と国家の進む道、いろんなテーマを巧く組み込んだ脚本。答辞の内容一つで大騒ぎする大人達を戯画化する視点。感心した。後期岡本喜八っぽくもある。

キュクロプス ─貧民街の怪物(東京公演)
清流劇場
駅前劇場(東京都)
2025/10/23 (木) ~ 2025/10/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「タマコさ〜ん、私生きてます〜」
川が決壊して氾濫、河川敷のバラックだけが孤島のように浮かび上がる暴風の中、橋の上に逃がした荷物の見張り番をし続ける80代の老婆。
「タマコさ〜ん、私生きてます〜」と30分毎に橋の上から大声で伝達しなくてはならない。報酬として300円。多分貨幣価値は今の十倍だろうから3000円か。身寄りがなく誰の目にも映らない浮浪者オシズを演じた曽木亜古弥さんがMVP。
ステージ中央に廻り舞台、回転する盆を人力で動かす。ぐるぐるぐるぐる台風で飛ばされかかる危機的なバラックを表現。ぐるぐる回りながらどうにか家を守らねば。SEのせいで台詞がよく聴き取れないのが残念。マイクの音が混ざる。全編この調子か···、と危惧したがオープニングだけだった。
1961年(昭和36年)7月、兵庫県尼崎市武庫川(むこがわ)河川敷、国道武庫大橋の袂にバラックが建つ。屋根に火の玉のようにも見える一つ目のマーク。(現実には集落に1200人程が暮らしていた)。
1895年(明治28年)から川の氾濫を防ぐ為の大規模な工事が始まり、集められた労働者達は河川敷に作られた飯場に寝泊まりした。危険で過酷な作業の為、朝鮮人の割合が多かった。仕方なくそこで暮らし続けた者達が邪魔になれば不法占拠の名のもとに追い払う。
町の住民から「一つ目」と呼ばれて差別されている集落に対し7月28日、国は強制代執行を行なう。半日で解体除去、全ては何もなかったかのように。それは1964年の東京オリンピックに向けた美観整備でもあった。
BC5世紀に古代ギリシアのエウリピデスが書いた戯曲『キュクロプス』。BC8世紀にホメーロスが成立させたとされる叙事詩『オデュッセイア』の第9歌を元に作られている。英雄オデュッセウス一行が乗った船がキュクロプス島に流れ着く。そこは一つ目巨人族の島で洞窟に囚われた一行は次々と食べられてしまう。オデュッセウスはキュクロプスを酒で酔わせ、一つ目を潰して脱出する。名前を聞かれたオデュッセウスは「ウーティス(誰でもない)だ」と嘘を教える。仲間達に「誰にやられたのか?」と聞かれ「誰でもないんだ、誰でもないんだ」と答えて皆が呆れる笑い話に。
今作はこの話の舞台を昭和36年の武庫川バラック強制代執行に翻案。正義の英雄オデュッセウスが愚かな未開の蛮族を成敗する逸話は果たして真実だったのか?そもそも正義とは本当に正しいのか?
開演前に主宰の田中孝弥氏のビフォアトーク。これが秀逸。田中孝弥氏はガタイのいい古坂大魔王。話が面白い。
クズ鉄屋の親方(アンディ岸本氏)とその妻タマコ(日永貴子さん)。キツイ仕事ばかり押し付けられるタマコの弟(大対源氏)と妻の山本香織さん。親方の妹(八田麻住さん)と旦那の辻登志夫氏。皆家族だと信頼し合っては不安に苛まれ、いつか離れることを考えては日々の生活に追われていた。
一つ目の一家は漁師町の着物を古代ローマの軍装風アレンジで着こなす。
代執行の役人達は制服的な青を混じえた服を着る。
アンディ岸本氏はスキンヘッドの川津祐介。愛用タンバリンでの怒りながらの陽気なムーヴが最高。「俺は河川敷の王子様」と歌う。美声。
八田麻住さんは岸本加世子っぽい。左目の充血と常用する杖が気になる。
辻登志夫氏は芸達者で酒飲みの見事な屑キャラ。アコギで歌う「ならず者」が良かった。香港功夫映画でお馴染みの火星(マース)っぽい。
代執行責任者の髙口真吾氏はフット後藤っぽい。
下手でピアノの生演奏、仙波宏文氏。曲が良い。
凄く面白かった。桟敷童子でこのネタをやったらどうなるのか、気になる。差別される側とする側を早着替えで同じ役者がこなす妙味。

明日を落としても
兵庫県立芸術文化センター
EX THEATER ROPPONGI(東京都)
2025/10/22 (水) ~ 2025/10/27 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
捩れた時間軸。この作家の武器は語り口にある。話が時空を超えてすっ飛んでいく刹那の快感。遣り口が小説っぽい。あれ?これ、いつの話なのか?と頭の中でガチャガチャ構成を手繰り寄せる。ばら撒かれたフラグメントを脳内で整える。BUCK-TICKに『VICTIMS OF LOVE』という曲があって再録BEST版では歌詞の順番がバラバラにされている。当時、櫻井敦司は「歌詞を書いたカードをばら撒いて拾い集めたような構成」と語っていた。それでも伝わるものは伝わる不思議。話の関係性を読み取る脳の認識機能。関連する物事を推理し少しずつ組み立てていく。
阪神・淡路大震災、1995年1月17日5時46分52秒にマグニチュード7.3の地震が発生。死者6,434名、行方不明者3名、負傷者43,792名。2011年3月11日に起きた東日本大震災は死因の9割以上が津波による溺死であったが、こちらは建造物の倒壊による窒息、圧死が殆どであった。
震災から10年、復興のシンボルとして建てられた兵庫県立芸術文化センター。開館20周年記念作はピンク地底人3号氏の書き下ろし。
作家は演出の栗山民也氏との相性がいいのでは。互いに足りない部分を補うような関係性。
舞台は新神戸駅近くの桐野旅館、2025年現在の様子と1994年から1995年に掛けての日々が交互に描かれる。旅館を継いだ社長に尾上寛之氏。妻の田畑智子さんは女将として取り仕切る。産まれたばかりの赤ん坊、遥。先代からの番頭格、春海四方氏。
主人公である佐藤隆太氏はやる気のない従業員、社長の弟である。かつて定時制高校に通っていた時代、ボクシングに情熱を燃やしたがそれも靭帯を切って呆気なく終わった。追憶の残り火のように吊るされたままのサンドバッグ。
物語は田畑智子さんの学生時代の級友(富田靖子さん)が息子(牧島輝氏)のバイト採用のお願いに来たことから動き出す。息子は喧嘩っ早いヤンキーで礼儀知らず、定時制高校にも禄に行ってない。職に就いてもすぐに喧嘩でクビになる。社長はこのどうしようもなさが弟そっくりだと思った。3ヶ月の見習い期間中、教育係として佐藤隆太氏が面倒を見ることに。
MVPは牧島輝(ひかる)氏。リアルなイキったヤンキーキャラを自然に演じている。富田靖子さんを背後から軽々と持ち上げたり人形のように横抱きにするシーンは場内バカ受け。
佐藤隆太氏がヤンキーをスポーツで更生させる流れは『ROOKIES』っぽいのでは。(観ていないが)。ボクシングに嵌まっていく流れが興奮する。
佐藤隆太氏は昨年の『GOOD -善き人-』の自然に段々とナチスに取り込まれていく大学教授役が素晴らしかった。普通の人間の尺度を持っているので観客も心を寄せ易い。
酒向芳(さこうよし)氏は映画『検察側の罪人』に大抜擢され、怪演で狂い咲き注目を浴びた。蜷川幸雄似。今作でも妙に意味有りげな存在感。
30年前の震災の傷が全く癒えないままの主人公。同じ所をぐるぐるぐるぐるループしている感覚。歳だけ取るが見える景色は何も変わりゃしない。そのリアルさといつまでも繰り返す悔恨。もしあの時ああだったら。もしあの時こうだったら。全てが自分の選択でどうにかなったものだとの誤解。そんな力は個人にはないよ。受け止め切れない現実と時間を掛けて折り合いを付けるしかない。とにかく時間は掛かるだろう。けれどきっとその時は訪れる。きっと訪れる。
是非観に行って頂きたい。

焼肉ドラゴン
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2025/10/07 (火) ~ 2025/10/27 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
第一幕90分休憩15分第二幕75分。
チェーホフの『三人姉妹』をだぶらせる人が多いと思う。立ち昇る諦念は『ワーニャ伯父さん』や『桜の園』にも。人生を蹂躙される不合理を運命だ宿命だと無理矢理受け入れ生きていかざるを得ない。無力なんだ、人間は。でもそれだって気持ち次第だろう。気持ちの持ちようで何とか生きていける。それはどんな気持ちなのか?一体どんな?
飛行機が近くを飛ぶ度に轟音と振動、桜の花が音を立てて散ってゆく。ピンクの雨がスラムのトタン屋根を染め上げる。少年はそれが好きで好きで堪らなかった。明るかった少年は日本人ばかりの私立中学校に入れられ差別と虐めで失語症を患う。登校拒否で日がな屋根の上に登り自分の世界に浸った。こんな町は大嫌いだ!こんな連中は大嫌いだ!自分の出自を呪うように汚らしいゴミの町を睨みつける。そんな町を一瞬にして桜吹雪が塗り替えてくれる。
1969年春、大阪国際空港に近い伊丹市中村地区、国有地を不法占拠して暮らす在日韓国人の集落。太平洋戦争で左腕を失くした隻腕の男、金龍吉〈キム・ヨンギル〉(イ・ヨンソク氏)の営む「焼肉ドラゴン」。妻(コ・スヒさん)、右足の悪い長女(智順〈ちすん〉さん)、次女(村川絵梨さん)、クラブで働く三女(チョン・スヨンさん)、中学生の長男(北野秀気氏)。
常連客の太った陽気な櫻井章喜(あきよし)氏、アコーディオン奏者の朴勝哲(パク・シュンチョル)氏、韓国太鼓(チャング)奏者の崔在哲(チェ・ジェチョル)氏。櫻井章喜氏の親戚であるキム・ムンシク氏が時折顔を出す。彼はリヤカーにドラム缶二つ載せて5km離れた豊中まで豚の餌としてうどんの茹で汁を貰い受ける仕事をしている。
次女の婚約者、千葉哲也氏、大学出だが仕事が続かず遊んでばかりいる。
三女の働くクラブ支配人、石原由宇氏。かっぽれが持ちネタで多才な男。歌手を夢見る三女は彼に夢中。
砂利をトラックで運搬して羽振りのいい韓国人、パク・スヨン氏は舞の海似。
1970年に大阪万博が開催される為、都市開発の名のもとに朝鮮部落の解体が強制執行、1971年までの物語。
お父さん=アボジ、パパ=アッパ。
お母さん=オモニ、ママ=オンマ。
「これが私の宿命なのか···。」といつも嘆いているコ・スヒさん。
「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる。」と自分に言い聞かせるように呟くイ・ヨンソク氏。
「帰るところはない。日本で生きていくしかないんや。」
キャスティングが神懸かっている。当て書きとしか思えない。この中で暴れ回る千葉哲也氏は日本代表の貫禄。
必見。

ロンリー・アイランド
ティーファクトリー
ザ・スズナリ(東京都)
2025/10/10 (金) ~ 2025/10/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
冒頭、前説かと思いきや月船さららさんの挨拶からスタート。劇中劇の前説シーン。トライアウト(試験興行)として上演後に観客を交えたディスカッションを行なうと。
ところは新宿歌舞伎町のバー、マスターで劇作・演出家の田中壮太郎氏がいる。トライアウトが終わり、打ち上げを兼ねた意見交流会。加藤虎ノ介氏は役者を辞めたいと相談。月船さららさんは日系アメリカ人の鈴木裕樹氏の演技が大仰なので本公演では代えてくれと言う。それを聞いた鈴木裕樹氏はエキサイト、差別ではないか?と。近くのガールズバーで働く水野花梨さんが顔を出す。「東日本大震災の年に生まれたから絆と名付けられました。この名前は嫌いなのでキズって呼んで下さい。」田中壮太郎氏の古くからの友人、沢田冬樹氏が訪れる。反社らしい。舞台のテーマである「今現在の日本人と戦争」についてのディスカッション。突然そこに轟音と振動、爆発。北朝鮮からのミサイルが着弾したらしい。パニック。
白地に墨筆の斜線が幾筋も入った背景。セットの椅子やカウンター、テーブルにもそれに合わせた斜線が。戦場のシーンになると背面の幕がステージ全体に掛けられ裏地になる。赤地に黒の斜線。カウンターやテーブル、椅子の凹凸で戦地の地形を表現。
加藤虎ノ介氏は桑マン似。
月船さららさんは漫画顔。『この世界の片隅に』の義姉、黒村径子や時代劇漫画に出て来る女キャラのよう。独特な目。特に今作は表情が多彩。
新宿周辺に今夜も棲息する業界ゴロ、沢田冬樹氏。宇崎竜童や成田裕介監督とかミッキー・カーチスみたいな風貌。じゃあ飲み屋はburaか。
水野花梨さんは巨乳で可愛い。『abc♢赤坂ビーンズクラブ』からの振り幅。
鈴木裕樹氏は目が薬物中毒者。

セイムタイム, ネクストイヤー
劇団しゃれこうべ
スタジオしゃれこうべ(東京都)
2025/10/11 (土) ~ 2025/10/13 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
戯曲の出来が素晴らしい。これは傑作。一夜限りの情事が余りにも良過ぎた為、毎年一夜だけ不倫する事を決めた家庭持ち男女の25年間の物語。思いっ切り下ネタとリアルな男性の思考回路からスタートする為、登場人物に信頼が置ける。SEXの相性がいいというのは理由として通る。笑いのセンスはウディ・アレン。時代をリンクさせる手法は後の作品、『フォレスト・ガンプ』へと続いていく。(この戯曲は1975年、『フォレスト・ガンプ』の原作は1985年)。
時代は1951年、アメリカ東海岸ニュージャージー州の会計士ジョージ(木田博喜氏)27歳。丁度合衆国中央に位置するオクラホマ州の主婦ドリス(和泉美春さん)24歳。この二人がたまたまアメリカ西海岸カリフォルニア州のレストランで出逢う。家から遠く離れジョージの泊まる海辺のコテージで一夜限りの情事に耽ける。毎年同じ時期に顧客の監査業務の為この地を訪れるジョージ。そのコテージの老管理人チャーマーズとして安田美忍さんが登場。前説、暗転時の場面転換などかなりの作業量を一人で見事にこなす。二人芝居でネタは続くのか?と思いきや、ありとあらゆるアイディア満載。血を見ただけで失神してしまうジョージのキャラが効いている。年と共に二人の生き方が変わっていく様をファッションやメイクで表現。年毎にちゃんと演じ分けてみせるのが面白い。
朝食の出来が良く、食品サンプルかと思う程綺麗。和泉美春さんが本当に食べていた。回る天井扇。木田博喜氏は本当にピアノを弾いていたとしたらかなり巧い。
二人の会話の中にしか出て来ない妻や夫や子供のエピソード。会ったこともないのに段々と親しい友人のように思えてくる二人。

ハハキのアミュレット
(公財)可児市文化芸術振興財団
吉祥寺シアター(東京都)
2025/10/09 (木) ~ 2025/10/15 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
和歌山県の過疎化した町、大正時代創業の由緒ある棕櫚箒(しゅろほうき)工房、倉西商店。働くのは四代目の南果歩さんと弟子入りして一年目の橋爪未萠里さん。町興しの一環として神社の奉納返礼品、荒神箒(こうじんぼうき)を卸している。神主(福本伸一氏)は観光客を呼び込もうと子宝祈願の御利益を大々的にアピール中。地元のホテル経営者で町会長(?)の緒方晋氏。その娘の東宮(とうみや)綾音さん。南果歩さんの息子(田中亨氏)はIT企業の在宅勤務。そこに突然帰って来る南果歩さんの兄、平田満氏。高校を出て東京の大学に行ってから47年間で僅か三回しか帰郷しなかった男だ。
傑作2022年版『あつい胸さわぎ』の田中亨氏&橋爪未萠里さんコンビだけで嬉しくなる。
奏(かなで)=南果歩さん、穂香(ほのか)=橋爪未萠里さん、凛=東宮綾音さん。名前の響きが心地良い。
東宮綾音さんは松たか子と小川麻琴を足したような美人。長身スラリ。
福本伸一氏が会場の笑いをかっさらっていく。
横山拓也版『男はつらいよ』かと思わせて作家の狙いは別にあるようだ。人の心こそが故郷。
是非観に行って頂きたい。

マクベスに告げよー森の女たちの名前を
MyrtleArts
劇場MOMO(東京都)
2025/10/09 (木) ~ 2025/10/13 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
五月に趣向の『パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。』を観劇。アフタートークのゲストがくるみざわしん氏で非常に興味深い内容。今作の予告があったので絶対観ようと決めた。その時の直感は間違っていない。凄まじい作品。観逃したら後悔じゃ済まない。大手忍さんが凄すぎて途中からもう怖くなった。人は余りに怖ろしいものを目撃すると興奮が頂点を突き抜けて無感覚になり背中の方から冷えてくる。想像力の範疇を超えてきた演技。自分のキャパシティではとても受け止め切れない。昨年末の桟敷童子、『荒野に咲け』と地続きのキャラ。『荒野に咲け』に戦慄を受けた人は必見。
百年続く由緒ある精神病院、神滝病院。七年前、とある事件で病院を辞めた看護師(岩戸秀年氏)、復職する前夜、夢の中で探し物をしている。三枚の扉の向こう側から格子窓越しにそれを見ている三人の魔女(小林美江さん、三浦伸子〈しんこ〉さん、滝沢花野さん)。岩戸秀年氏が探していたのは学生時代に心に刻まれた一冊の本、「患者を尊敬しなさい。」と書かれている。次に迷い込んで来たのは院長(原口健太郎氏)。子供の頃に遊んでくれた三人の「分裂のお姉さん」を探している。拍子木がカンと音を立て緊迫感を煽る。「きれいはきたない、きたないはきれい。」
神滝病院六号病棟は他の病院が収容に困る患者を引き受ける社会の暗部。「死亡退院」として死なないと外には出られない。精神病院での患者虐待は知的障害者施設での虐待と同一で患者を人間とみなしていないことが根本にある。
そこに十代から百以上の精神病院を転々として来た三十代の患者、坂上(大手忍さん)が現れる。
『マクベス』の三人の魔女の台詞を上手く使って、この世の地獄を邁進する現代のマクベスを描写する。登場人物の誰のどの立場も人として充分理解出来る。いつだって現実と理想は相容れないものだろう。「逆さま逆さま」。
これ、映画化した方がいい。
必見。(全日程、前売りで完売だそうだ)。

埋められた子供
劇団昴
Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)
2025/10/03 (金) ~ 2025/10/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
Pit昴公演の見ものと言えばやり過ぎ舞台美術と小道具、狂気すら感じる。今作では本物の土塊や砂がステージを覆っている。設定は普通の民家の居間なのに。登場する奴等は安いB級ホラー、スプラッター映画の馴染の連中。映画なら皆惨殺されるだろうが今作はそういうものではない。ヘロインでダウナー状態のデイヴィッド・リンチが朦朧として書き殴った覚書みたい。例えるならトビー・フーパーの撮ったエクスプロイテーション(低俗搾取)映画をタランティーノがプロデュースしてリメイク、監督にデイヴィッド・リンチを起用。『悪魔のいけにえ』のようなメジャーなものではなく、あえて『悪魔の沼』のような作品を選択するセンス。70年代ホラーの空気感とマジックリアリズムのハイブリッド。
深夜、土砂降りの大雨、長いドライブ。知り合ったばかりのヴィンスが6年振りに故郷に帰るのに付き合うあばずれのシェリー。寂れた田舎町、荒れ果てた農場、崩れ掛かった古い家。主演のシェリーには映画なら若い頃のジュリー・デルピーかロザンナ・アークエットでどうだろう。家に入るとそこに居る連中は誰一人孫であるヴィンスのことを覚えていない。どうにも噛み合わない会話。シェリーはその異様な雰囲気に帰りたくてたまらなくなる。老人に頼まれて酒を買いに行くヴィンス。シェリーは独り残される。悪い予感。
MVPはシェリーを演った髙橋慧さん。マルシア似。人参の皮を削ぐシーンが良い。
家の老主人ドッジ役金尾哲夫氏は津川雅彦みたいでカッコイイ。病気持ちで酒を止められている、
その妻、ハリー役、一柳(ひとつやなぎ)みるさんの声が冒頭二階からキンキン頭に響く。
ニューメキシコ州から実家に戻って来た長男ティルデンに佐藤洋杜氏。トウモロコシが本物なのかフェイクなのか判別つかず。
左脚が義足の次男、ブラッドリーに中西陽介氏。
ハリーと親密な関係の神父、ファーザー・デュイスに宮島岳史氏。
ドッジの孫でありティルデンの息子、ヴィンスに赤江隼平氏。藤井尚之似。
去年、名取事務所がやった『メイジー・ダガンの遺骸』に近い感触。現代のある意味ステレオタイプの家族像を過剰なまでに描き込み無意識の底をひたすらに掘り下げると集合的無意識に行き着く。誰もが何故か共有する感覚。辻褄の合わない正解の出ない物語にこそ普遍的な強度が宿るのだろう。妙な面白さに充ちていた。隠し持ったスキットルで一杯飲りたい気分。
是非観に行って頂きたい。『ツイン・ピークス』や『ロスト・ハイウェイ』好きにも。

小さな王子さま/夏の夜の夢
座・高円寺
座・高円寺1(東京都)
2025/08/30 (土) ~ 2025/10/11 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「夏の夜の夢」
これは傑作だと思う。この手の芝居でこんなに子供達に受けているのは余り観ない。岩崎う大氏の上演台本にも感心した。65分で「夏の夜の夢」で子供達にも楽しめる娯楽作として成立。演出のシライケイタ氏にも感服。テンポがいい。何役もこなす役者の着替えは上手下手でやっていて全て観客の見てる前。舞台美術・青山健一氏がまた凄い。巨大な発泡スチロールを不均等な多角形の球体として黄色基調の様々な色で塗りたくる。その月が空に昇っていく。月を多面体にしたセンスが図抜けている。色とりどりな段ボールの箱がカラフル。更に衣装・摩耶さん。電球を帽子や服に仕込んで光らせるアイディア。花や蝶や果物をイメージした妖精の衣装。鈴木光介氏作曲の歌もいい。ララランランランランララン。
跳ねないように工夫されたプラスチック?の小さなゴムボール。赤青黄緑紫が1000個程ステージに撒き散らされる。このアイディアが抜群で役者が歩き回るたんびにザザザザザとそこら中に転がりステージ外へ落ちたりする。時には怒りの表現として拾ってコミカルにぶつけ合う。
手話表現者・西脇将伍氏は生まれつき耳が全く聴こえないろう者。彼は妖精パックとして台詞を手話で伝える。その際、同時音声通訳として上手端や下手端でマイクを持った役者(武田知久氏、峰一作氏)が代わりに声を出す。無音の世界で生き生きと見事に踊る姿に驚く。何処でタイミングを合わせているのか。
西脇将伍氏はさかなクンっぽい。
峰一作氏は深沢邦之っぽい。
滝本圭氏は佐野史郎っぽい。
坂本夏帆さん、木ノ下藤吉氏、武田知久氏、何役も見事にこなす。
山﨑薫さんはヘレナを眼鏡で猫背で劣等感丸出しの喪女として表出。その自嘲気味な話し方など子供達に大受け。分かり易さで笑いを取る。その後、別の役は別のアプローチで演じ分け、その意図が子供達にも伝わっているのは流石。空気で笑いを掴む勘の良さ。
かなりの完成度。来年もやるだろうから観た方がいい。