
蝉追い
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2025/05/27 (火) ~ 2025/06/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
メチャクチャ面白い。井上ひさし的でもある。東憲司氏の何度目かの最盛期が来ているのか。作家の狂い咲きをリアルタイムで味わえる観客は幸運だ。もう座組がオールスターに見えてきた。かなり笑いをまぶしている。
時代は1986年、雨の中、実家を見張る三姉妹(板垣桃子さん、もりちえさん、大手忍さん)の姿。一人暮らしの父親(山本亘〈せん〉氏)に女(鈴木めぐみさん)の影が。かつては夏蜜柑を栽培する農園(梁瀬農園)だった。一体何者か?
板垣桃子さんは高市早苗に似てきた。
井上莉沙さんの存在は大きい。若い娘がいるだけで作品世界が広がる。今回の引っ込み思案の少女役のキャラクターも見事。
親方の瀬戸純哉氏はもりちえさんの旦那でもある。プロレスラーのパイナップル華井(現Ken45)っぽい。
「ですよね〜」三村晃弘氏は助演男優賞もののキャラ造形。
山本亘氏と鈴木めぐみさんがMVPだろう。
山本亘氏82歳!!素晴らしい。鈴木めぐみさんのキャラの強さと妙なリアルさ。
桟敷童子はチケット取れたら一度は観ておいた方が良い。ちょっと凄い所まで来ている。『父と暮せば』みたいな永遠に残る作品が生まれそうな雰囲気がある。観客の期待値も高く磁場がバチバチ起きている。

音のない川
avenir'e
新宿眼科画廊(東京都)
2025/05/10 (土) ~ 2025/05/27 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『音のない川〜病院の空気〜(姉バージョン)』
旗揚げ第1弾『音のない川~病院の空気~』をヴァージョン・アップ。
『音のない川〜病院の空気〜(妹バージョン)』と『音のない川〜病院の空気〜(姉バージョン)』の二作品に、その一年後を描いた『音のない川〜工場の空気〜』を足した三作品を交互上演。だが他の作品を観ていない為、その意図した相互効果は判らない。
完成された作品の提示ではなく観客の想像力を刺激して補完させる類の作品との文言に身構えたがそういう訳でもない。個々のモノローグ(独白)はあるが、情景描写が殆ど。語り口がレイモンド・カーヴァー(翻訳・村上春樹)。向かい合わせの客席に挟まれたスペースで四人の男女がそれぞれの思いで川を眺める。
多摩川(自分のイメージ)の河川敷、病院やマンションや工場の煙突が見える。家入健都氏は物思いに耽っている。同棲している恋人(大井川皐月さん)が帰って来た。家入健都氏は別れ話を切り出す。癌で入院している五十嵐遥佳さんは窓から見える河川をぼんやりと眺めてる。五十嵐遥佳さんの弟、谷川大吾氏は高校生で、学校の女の子に誘われて河川敷でマックポテトを摘んでいる。もしかしたら付き合うことになるのかも知れない。広い河川敷は思い思いの人達で溢れている。
谷川大吾氏は子役からアイドル歌手になった高橋良明を感じさせた。愛嬌があって可愛らしい。笑いを堪えているような表情が母性本能をくすぐりそう。

奴婢訓—Nuhikun
演劇実験室◎万有引力
座・高円寺1(東京都)
2025/05/16 (金) ~ 2025/05/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『ガリヴァー旅行記』で有名なジョナサン・スウィフトの記した皮肉と嫌味満載の召使への訓戒。それを面白がった寺山修司による今作は『青ひげ公の城』っぽいアレンジ。宮沢賢治の作品世界をトレース。
2回目。席が違うので前回見えなかった全体像が分かる。成程。
開幕前から人間モップの伊野尾理枝さんが労働。召使は道具、召使は機械、感情も尊厳も要らない。人間であるのは主人だけでいい。
下手にヴァイオリンの多治見智高ジーザス氏、上手にドラムの J・A・シーザー氏。ラストには生歌も。J・A・シーザー氏の劇伴はキング・クリムゾンっぽい。
舞台美術家である故・小竹信節(のぶたか)氏の考案したSM機械装置が次々と登場。これが真の主役なのかも知れない。建てられた棒に互い上下逆に足の裏を付けて真横に立つ二人。向かい合わせの二人が上下逆に括り付けられた回転式シーソー。家具や器具や楽器と合体させられた召使達は『家畜人ヤプー』の世界。
三俣遥河氏の白塗り全裸でスタート。複雑な機械(自動歯磨き機)が被せるのはヴァイオリンの王冠。コンセントを鼻に差す。
ここはイーハトーブ農場、グスコーブドリ屋敷。遺産相続人の髙田恵篤氏が夜分に訪ねて来る。不意の来客を訝しがる屋敷の下男下女。髙田恵篤氏は屋敷の主に会いに来た。持参したのは主にしか履けない爪先部分が三段に分かれた金色のボロ靴。だが、とうの昔から主人は不在。屋敷を乗っ取った召使達はくじ引きで主人役を決めてごっこ遊びを楽しんでいる。どうも面倒な来客、来なかったことにしようと皆存在を無視して遊びを続ける算段。
女主人に成り切るダリア、森ようこさんがエロい。黒レース網タイツ姿。糸巻きの拷問用具で下男を罵倒。メゾソプラノの歌声。
岡庭秀之氏は骨を投げて犬に模した下男共に咥えて持って来させる遊びを繰り返す。
萌文さんはずっと野菜や果物を齧ってる。
髙橋優太氏は頭にマスクを着けている。
帽子掛けのように置かれた入れ歯を向かい合って咥える二人の男。
奴婢訓を召使達に復唱させる男。ナチスの女性軍人のような通訳(182cm杉田のぞみさん)がドイツ語で訳す。やってはいけないと言われたことをやらなければならないルール。杉田のぞみさんはフランケンシュタインの花嫁のようにも見える。
テープレコーダーから流れる主の声に命令され、自らお尻叩き機に折檻される髙田恵篤氏。財産目録の作成を差配人と行なう。
包帯男達に蹴りを入れていく小林香々(ここ)さん。
糞壺を犬の散歩のように白塗り全裸で運ぶ山田桜子さん。
前回観た時はマッチの火がすぐに消えてしまっていたが今回は改善されていた。
主人=神の不在とか深読みさせるが、SMプレイと考えた方が気が楽。主人と召使ごっこを繰り返して倒錯した興奮を。SMとは役割を演じるプレイ。その役に理由も意味もない。この世は全てロールプレイング、主人と召使ごっこに過ぎない虚しさ。
一人で来ている若いお洒落な女性客が多い印象。昔、SIONのLIVEもそんな客が多かった。美大系の新規流入が多いのか?新しい客層の開拓は素晴らしい。

高尾山へ
さよなら人生
スタジオ空洞(東京都)
2025/05/22 (木) ~ 2025/05/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
倉田大輔氏と市原文太郎氏は大学時代、登山サークルで一緒だった。市原文太郎氏が突然辞めてしまってそれっきり。20年以上経ったある日の午前、新宿紀伊国屋近くの喫煙所で再会。どうにもお互い憶えているもんだ。特に二人とも予定はなかった。「じゃ、山行く?」「え?マジで。」高尾山なら新宿から電車で一本、一時間も掛からない。ほんの思いつきで40代のくたびれたおっさん二人の小旅行が始まる。
役者が主催するだけあって役の振り分けが巧い。
唇に個性ある役者を集めたようにも思えた。
河村凌氏は身体ゲンゴロウの『ノストラダムス、ミレニアムベイビーズ。』の小学生役がインパクトあった。
競泳水着の『暫しのおやすみ』でスター女優役だった鮎川桃果さん、天才新人女優役だった竹田百花さん。
各シーンが書かれたカードをシャッフルしてランダムに捲ってみたような構成。捲る度に時系列が飛び、それぞれの関係性が更に深く掘り下げられていく。それを成立させるスピード衣装替えが見事。パズルのように嵌め込まれていくシーンがラスト、絶妙なステンドグラスを完成させる。
何かどうしようもないやりきれなさに包まれて理由もなく涙ぐむ。今作を旗揚げに選んだ作家の感性にRespect。今これを観るべき人は必ずいる。
是非観に行って頂きたい。

みづうみ×吉野翼企画 音樂LIVE「恋は修羅、命は炎、遥かな唄」
吉野翼企画
パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)
2025/05/21 (水) ~ 2025/05/22 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
凄く良かった。浅井健一の「OVER HEAD POP TOUR 」ぐらい魅力的。二人とも才能あるんで自信持って売れて欲しい。
吉野翼企画の寺山修司・岸田理生作品の作曲をずっと担当してきたギターのなすひろし氏とピアノの秋桜子(あさこ)さんによるユニット「みづうみ」。吉野翼氏演出によるLIVEは歴代アングラの名場面を切り取るかのよう。第一部は俳優達と合唱、第二部は舞踏家達が舞う。第三部はオリジナルを叩き付けた。
白塗り舞踏家の由佳さんが気になった。柴奏花さんは細過ぎて動くマネキンのよう。
秋桜子さんの世界は寺山修司よりもつげ義春の気がする。古川琴音系の美人。
ナゴムレコードだよな。たまを竹中労が絶賛していた頃を思い出した。筋肉少女帯や特撮に三柴理が参加した曲のようなアバンギャルド。日本古来の民謡、童謡に通ずる美しく懐かしいメロディーに乗せられた歌詞は「キチガイ地獄外道祭文」。
この優しい空間はブルーハーツ「パンク・ロック」みたいな気分。「パンク・ロック」が「アングラ芝居」にだぶる。
吐き気がするだろ?皆嫌いだろ?あーあーあーあーあー
真面目に考えた 僕の好きなもの あーあーあーあーあー(中略)
僕、パンク・ロックが好きだ 中途半端な気持ちじゃなくて ああ優しいから好きなんだ 僕、パンク・ロックが好きだ
寺山修司好きなら絶対引っ掛かる筈。
是非観に行って頂きたい。

湿ったインテリア
ウンゲツィーファ
早稲田小劇場どらま館(東京都)
2025/05/19 (月) ~ 2025/05/27 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
劇団名ウンゲツィーファはカフカの『変身』が由来、ドイツ語の“害虫”的な意味らしい。そしてタイトルの『湿ったインテリア』、スカした純文学風。本来なら絶対自分が観ないだろう作品、何故かチケット買ってしまった。多分小難しいハイソな討論とか訳の分からないメタファーとか自意識過剰な自分語りを延々する馬鹿女とか勝手に想像してげんなりしていたが···。
いや全然面白かった。マチルダアパルトマンをシリアス寄りにした感じ。
凝りに凝った舞台美術。下手はゴミが散乱、上手はベビー用品が干されている。中央にソファーと貝殻が刺さった灰皿。全く意図が読めない。
語り口が現代文学っぽいな、と思っていたら松田弘子さんの登場から話がぶっ飛ぶ。全くこの話の全体像を掴ませない。かなり個々の家族観の暗部に入り込む。心の奥深く痛いところに深く深く。照明が凝ってる。
「母親に愛されていることがずっと重荷だった 。」
家族から逃げて逃げて逃げて辿り着いた場所にも家族がいる。いや実は自分は逃げているつもりが家族を追っ掛けていたのか?ソラと名付けた赤ん坊がけたたましく泣いている。絶対に幸せにしてやる。そして父親である俺も母親であるお前もとんでもなく幸せにならなくてはならない定めなのだ。俺達が辿ってきた軌跡は間違いなくそれを要求している。
是非観に行って頂きたい。

彼女たちの断片
東京演劇アンサンブル
あうるすぽっと(東京都)
2025/05/16 (金) ~ 2025/05/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
話の流れが整理され過ぎていて初演の方が良かったような気もするが、演劇はナマモノ。水のように形を変えて生き延びるのが必定。初演時、ボロボロ泣いた記憶があった。永野愛理さんの酔って意に沿わぬ性交を強いられた話から一気に物語は核心へと進む。自分が自分であり続ける為に戦い守らなければならないもの。作家・石原燃さんは産むも堕ろすもその身体の持ち主の自由だ、と叫ぶ。他の何の概念も全く介入出来ない。その身体の持ち主こそが決定すべき自由。女達よ、生まれながらにお前達は自由だ。誰の話にも耳を貸すことはない。決定権はお前にこそある。
わたしの身体はわたしのもの。
本当にもう一度観ようとチケットを確認した程良かった。
中絶、堕胎は悪いことじゃない。決して恥ずかしいことじゃない。当然な女性の持つ権利だ。作家の叫びは強く、この作品の持つ意味は大きい。家父長制とは自分の心の中に住み着くブラックボックス。“伝統”という言葉を掲げ、日本人の精神文化を守り継承していく名目で数々の理不尽がまかり通っている。大事なものを守る為に筋の通らない歪んだ思想まで守る必要はない。

ずれる
イキウメ
シアタートラム(東京都)
2025/05/11 (日) ~ 2025/06/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
終演後、イキウメの活動休止を知ってショック。現時点での集大成だったのか。劇団員五名だけの一杯飾り。「チケット7500円は高いな」と思っていたが、観終わると充分その価値はある。後に前川知大氏を論ずる際、今作は非常に理解し易いものとなっている。作家、劇団が表現したかったことが端的に伝わる。自分的には筒井康隆、黒沢清の系譜。
かみむら周平氏作曲のテーマが心地良い。エリック・サティの「グノシエンヌ」を思わせる自罰的旋律。
全員当て書きの強さ、これが今劇団の全てだ。
後々今作を観たことを自慢できることだろう。自分は感謝した。
是非観に行って頂きたい。

『パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。』再々演ツアー2025
趣向
スタジオ「HIKARI」(神奈川県)
2025/05/09 (金) ~ 2025/05/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
コロナ禍で緊急事態宣言が出されていた頃、一生苦しみ続ける心の病を抱えた者達を集めて戯曲の読書会をする鬱病の劇作家。『人形の家』、『三月の5日間』、『サロメ』。段々盛り上がって来たメンバー達は『サロメ』を舞台として人前で上演することを決める。
まずは現在2025年5月、登場した大川翔子さんが観客に語り掛ける。これは2020年7月から2021年12月の話だと。今となっては過去となった日々のことを思い返しているのだと。
コロナウイルス変異株の名前は差別や偏見に繋がらないように意味のないギリシャ文字の順番に付けられた。アルファからゼータまでの6人は順番通り。語り手の主人公だけは最後の文字、オメガを名乗る。
フォーマットが『コーラスライン』っぽい。
凄く観易く工夫されている。うんざりする意識高い系のスカした討論を危惧していたら全く違った。配役が見事、皆役者とは感じさせずに自然とそこにいる。その自然な存在感こそがテクニックだと終演した後、改めて唸らせる。皆さん歌が上手い。舞台上手でずっとキーボードを弾く作曲の後藤浩明氏。複数の役者が奏でる謎の楽器、ウォーターフォン。鍋の蓋に塞がれたフライパンのような器具、真ん中には水を入れる金属の筒。要は平べったい金属製のフラスコ。その円周上にアルミや真鍮の棒を複数立て、弓で弾く。ホラーの効果音に最適。
主演のオメガ役大川翔子さんは誰かに似てるなとずっと思っていたが、BLUESTAXIの鈴木絵里加さんか?
アルファ役三澤さきさん、ガンマ役榊原美鳳(よしたか)氏は役者に見えずもう本当にそういう人に見えた。
ベータ役前原麻希さんは歌のシーンで魅せる。
デルタ役KAKAZUさんはビョーク系の顔。センシティヴでナイーヴなキャラだが演技に入った途端、ガチ・サロメに豹変、客席が沸く。ニッチェ江上のネタみたい。
ゼータ役海老根理(おさむ)氏は元ジャンポケ斉藤っぽいハイテンション。
劇作家イプシロン役伊藤昌子さんがキーパーソン。作者オノマ・リコさんをダブらせるように描かれている。
いろんなことに負けてしまった連中。死んで物語を終わらすことも選べず、つまらない毎日を続けていくしかない。とっくに終わってしまった話なのにまだだらだらと続けている。その先に何があるわけでもない長いエピローグ。19世紀英国、社会主義者アーティスト、ウィリアム・モリス「人はパンがないと生きていけないが、パンだけでなくバラも求めよう。生活をバラで飾らないといけない」。バラとは何か?
各問題の当事者同士で自助グループを形成し、悩みや苦しみを共有し分かち合うシステムがある。昔自分もアルコール依存症の治療を調べ断酒会を知った。結局行かなかったが参加したらどうなっていたのか?今作は自分がそんなグループに関わったシミュレーションのように観た。集団精神療法の一つにサイコドラマというものがある。自分という役を演じる過程で自分というものを客観的に認識させていく。
宗教でも精神医療でもとにかく人に話を聴いてもらうことが重要。人間は誰もが自分の胸の奥底に溜まった感情を吐き出したがっている。そんなこと話して一体何になる?と思いながら、整理出来ない言語化出来ないモヤモヤを全て反吐のように吐き続ける。それでヘトヘトになって精神の均衡を保つのだろう。カール・マルクスは「宗教は阿片である」と断じた。その場しのぎの現実逃避であり、実際の問題の解決には至らないと。全くその通りだと思う。そう、皆欲しているのは阿片なんだ。とにかく今をやり過ごしたい。今さえやり過ごせれば後のことなんかどうだっていい。後でまとめて後悔してやる。
自身も含めた全ての苦しむ人々に作家(オノマ・リコさん)は自分の知る対処法を告げる。生きることは無意味だが死ぬことも無意味。無理して生きることはないが無理して死ぬこともない。あるがままに。
Nirvana 『On a Plain』
あと一つ何かそれっぽいメッセージを付け加えて
それで終わり、やっと家に帰れる
自分自身を愛するんだ、他の誰よりも
それが間違ってることは知ってる、でもどうすりゃいい?
俺は平原の上
文句なんか言えないんだ
平原の上で
オノマ・リコさんのやろうとしたことにRespect。こんなもの誰がどうやったってどうにもならないジャンル。そもそも誰も救えない。でも何かやろうとした。何かやりたかった。その足掻きが意味を生み出す。
アフタートークのゲスト、精神科医の劇作家・くるみざわしん氏の話が興味深かった。秋に中野MOMOで精神病院の勤務時代から封印していた闇を到頭舞台として発表するとのこと。これは観ないと。

ソファー
小松台東
ザ・スズナリ(東京都)
2025/05/10 (土) ~ 2025/05/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
松本哲也氏の作劇スタイルが何となく掴めた。多重奏。通奏低音から始まり、弦楽器を重ね、更に管楽器を合わせていく。ゆっくりとした立ち上がりに観客はじれるが曲のフォーマットが定まった時、それを破壊する不意の来客の訪問。この展開がどっと受けるとここからは思うがまま、自由自在に観客を操れる。作者であり登場人物でもある松本哲也氏は自身で作品にメタ的なツッコミを入れまくる。この物語が何を象ろうとしているのかを自分自身で確かめるように。
舞台は宮崎県の実家、6人掛けの立派なソファー。父(佐藤達)が母(江間直子さん)にねだられて無理して買ったもの。母は夜の店に勤めて段々帰って来なくなった。映画監督を夢見て上京した長男(松本哲也氏)、次男(今村裕次郎氏)は若い奥さん(道本成美さん)と再婚、長女(山下真琴さん)は今里真氏と結婚。父が亡くなり実家の処分が決まる。長女は家族全員を呼び集める。どうしても会って話したいと。
是非観に行って頂きたい。

あるアルル
やみ・あがりシアター
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2025/04/30 (水) ~ 2025/05/06 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2回目。
全体像と筋書きが判っているので、それ以外に気を配って観ることが出来た。個人的に世話になった人が最近亡くなったこともあり、大槻ケンヂ的感傷で今作を眺める。死んだ人間の存在の喪失感を埋めることなど果たして出来るのか?
いずれ人は死ぬ。遅かれ早かれ消えて無くなる。足掻いても悔やんでも嘆いても人は死ぬ。筋肉少女帯の『リルカの葬列』に挿入された中原中也の詩、『春日狂想』。
「愛するものが死んだ時には、
自殺しなけあなりません。
愛するものが死んだ時には、
それより他に、方法がない。
けれどもそれでも、業ごふ(?)が深くて、
なほもながらふことともなつたら、
奉仕の気持に、なることなんです。
奉仕の気持に、なることなんです。」
梶川七海さんは正しくヒロイン。
脳外科医・渋木耀太(ようた)氏の水商売の女を徹底的に見下したスタンスが大受け。
作家の細やかな優しさが会場中を覆っている。スタッフの高潔な人間性に感銘を受けた。優しい空間。
多分、三ノ輪駅近くの薬局だったと思う。ずっと前、お母さんが「ひまわり、ひまわり」と幼い娘を呼んでいた。凄い名前だな、と当時思ったものだ。

なべげん太宰まつり『逃げろセリヌンティウス』
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2025/05/03 (土) ~ 2025/05/06 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『走れメロス』でメロスの代わりに人質となったセリヌンティウス。彼が捕らえられた牢獄に何故かディオニス王が足を運ぶ。
セリヌンティウス役、工藤良平氏はサンボマスター風味。
ディオニス王には三上陽永氏。
牢獄の中に現れる謎の女神(三津谷友香さん)。セリヌンティウスにしか見聞きは出来ない。
小舘史(ひとし)氏は山田恵一や鈴木桂治、新極真の鈴木国博、ジュニオール・ドス・サントスを思わせる格闘家顔。
小道具のイラストが大活躍。

あるアルル
やみ・あがりシアター
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2025/04/30 (水) ~ 2025/05/06 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
冒頭、高校の教室の教壇、ニカブを被った女(梶川七海さん)が生徒達に拳銃を突きつけている。「『学校あるある』を言え!」と。パニックで怯えながら一人ひとり『あるある』を言っていく。だがすぐに射殺される。一体何を言えば助かるのか?分からないまま殺されていく生徒達。
あるある仙人の部屋、梶川七海さんはあるある仙人(大宮二郎氏)に「どんな『あるある』を言ってもすぐに殺してしまえばそれなりに面白く感じるから」とそれを説明している。あるある仙人はジャンプして「バッカモーン!」と決めポーズで叱りながら正しい『あるある』を授けていく。大宮二郎氏はムロツヨシの斎藤工風味。
居酒屋で高校の同窓会、幹事(佐藤昼寝氏)、脳外科医になった渋木耀太氏。お開きになりかけた時、左耳が血塗れの川鍋知記氏が駆け込んで来る。『あるある』の天才だった同級生を探していると。彼には予知能力があり、この世の全てが見渡せるらしい。佐藤昼寝氏は身重の妻(加藤睦望さん)がその男の元カノだった為、連絡を取ってやる。それを聞いている居酒屋の店員(大見祥太郎氏)。
MVPは加瀬澤拓未氏。彼を見てほっとした客が多かったと思う。

なべげん太宰まつり『散華』
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2025/04/29 (火) ~ 2025/05/02 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
太宰治好きは必見。絶対観た方がいい。
作家(桂憲一氏)がガールズバーのキャスト(木村慧さん)を誘って海辺で酒盛りをしている。鎌倉の小動(こゆるぎ)岬であろう。酒が切れ、女をコンビニに買い出しに行かせる。そして一人になると用意していた錠剤と酒を煽って昏倒。太宰治に傾倒していた売れない作家は七里ケ浜心中を模した自裁を選んだのだ。
遠くで半鐘が鳴っている。靄がかったあやふやな景色。作家が目を覚ますと太宰治(大井靖彦氏)が横に立っている。時代は丁度七里ケ浜心中(1930年11月28日)のすぐ後、女給・田部あつみ(本名はシメ子)だけが亡くなった心中崩れ。絶望的に落ち込んでいる太宰治を励ます作家。「貴方は日本文学を背負って立つ人間なんだ、小説を書きなさい!」
果たしてここは何処なのか?夢か現実か妄想か?
MVPは太宰治役の大井靖彦氏、前回のヒトラーもそうだったが取り憑かれたように成り切る役者。
太宰治文学論にもなっていて面白い。
是非観に行って頂きたい。

なべげん太宰まつり『駈込み訴え』
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2025/04/27 (日) ~ 2025/04/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
太宰治の『駆込み訴え』と映画『ジーザス・クライスト・スーパースター』は自分のキリスト観を築いた作品。常にこういう視点で見てしまうのでユダに感情移入は避けられない。そしてあぶらだこの『PARANOIA』。かなり歪んだ感覚だろう。裏切り者の裏切らざるを得なかった純情を謳う。愛なのか復讐なのか、突き詰めればそれは同じ意味なのか。キリストの物語は未だによく判らない。死にたがりの救世主モドキとその一番の理解者との愛憎物語。ただハッキリしているのはキリストが無敵の神様ではなかったこと。純情を貫いた弱者だった。だから皆トラウマとしてずっと抱えることになったのだ。
①下山寿音さん一人芝居『駆込み訴え』
本編50分程度の原作を30分の下山寿音さん一人芝居に凝縮させた。下山寿音さんは友近の若い頃のようなド迫力と仙道敦子の可憐さが備わった美人。とにかく迫力があって目を奪われる。目力が強い。本当に瞬きをしない。三船敏郎か?
ユダがキリストを本当に愛していて他の誰にも触れられたくなかった気持ちが痛い程伝わる。この人の真の美しさを知るのは世界中で自分一人だけだと。こんな下らない救世主ごっこはもうやめにして静かに田舎で暮らしましょう。何も不自由はさせませんから。だがキリストは破滅に邁進する。自分のことなんて目もくれない。
②青森中央高校演劇部『駈込み訴え』
これはやられた。高校演劇大会の演目に『駆込み訴え』を選び練習を重ねる演劇部の物語。キツい部長(福井来寿々〈こすず〉さん)とこき使われる同学年の演出助手(丹羽桃嘩さん)。厳しい縦社会、嫌気が差して辞めていく下級生達。
福井来寿々さんは松岡菜摘似の美人で存在感がある。
主人公、丹羽桃嘩さんも負けていない。表情に力があって観客の心を揺り動かす。
何かゆるいギャグが散りばめられていてああ学生演劇と思わせといての狙いすましたキツい一撃。『駈込み訴え』の内容を現実の学生生活にだぶらせる仕掛け。これには太宰治も参ったろう。こっちも参った。『駈込み訴え』をお話ではなく、今の現実の一部として描写。これぞ天才の成せる技。台本も買いました。本当に叩きのめされた。こういう作品と出逢う為に皆足繁く劇場に通い詰めているんだろう。

エアスイミング
劇団しゃれこうべ
スタジオしゃれこうべ(東京都)
2025/04/26 (土) ~ 2025/04/29 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
この演目を観るのは四度目。全て劇団が違う。こんな難しい作品によく挑む気になるものだ。それぞれ全く違うやり方で取り組むのでその都度感心する。
今回、場面転換に横開きのカーテン状白シーツを使用、手前と奥の二枚。そのシーツを利用して影絵を投影する。このアイディアは正解。影絵を使えば説明し辛い神話なんかも人形で簡略化、伝え易い。(今回はなかったが月へと飛んで行く二人なんかも絵で見せられる)。
今作はベルセポネーとドーラのエピソードとポルフとドルフのエピソードが交互に語られ、一人二役の二人芝居の戯曲。それを四人の役者に別々に演じさせている。随分実験的な試みだ。この作品の売りそのものを敢えて解体している。成程。
特筆すべきはドーラ役の和泉美春さん。今までと全く違うキャラクターで見事だった。また新しい扉が開かれたのでは。
こんな戯曲に本気で挑む劇団にRespect。

遠巻きに見てる
劇団アンパサンド
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2025/04/18 (金) ~ 2025/04/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白くて驚いた。松本人志とかのセンス系の笑い。昔、中崎タツヤの短編でサラリーマンのおっさんが帰宅途中、UFOの墜落に遭遇してしまうネタがあった。脱出してきた宇宙人が必死に助けを求める。おっさんは「いや、自分そういうんじゃないんで。」と手で制して去っていく。こういう笑いが大好きで発想の切り口に感心する。今作も着眼点と向かう場所が秀逸。これは売れる。
舞台は急な坂の降り口、自販機が置いてある。話しながら歩いている会社帰りのOL二人。永遠の主人公、西出結さんと、誰にも内面は掴ませない永井若葉さん。そこにダッシュで降りて来たランナー、奥田洋平氏が邪魔だとばかりぶつかって来て逆ギレ。気の違ったような猛烈なキレ方。この冒頭部分だけでメチャクチャ面白い空気が充満。奥田洋平氏はリアル、町中に普通にいる男だ。キレ方や言葉の語尾が最高。
重岡漠(ひろし)氏は生真面目にズレている男を。
岩本えりさんは大久保佳代子系の無駄なエロティシズムを漂わせる。
作・演出の安藤奎さんも重要な役で出演。
ランニングに嵌った連中にとってこの坂は魅力的。だが通行人からすれば迷惑。
段々皆何を考えているのか判らなくなる。もしかしたら自分の方がおかしいのか?
超満員の客席だが客層に広がりがある。シュールなコントを求める若い連中だけでなく、いろんな視点から支持されている。西出結さんのキャラが中心に在る限り安泰。彼女の立つ視点は時代を越えたもの。数千年前も数千年後も揺るがない。
是非観に行って頂きたい。

夜の道づれ
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2025/04/15 (火) ~ 2025/04/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
戦後まもなく、深夜の甲州街道を三好十郎自身であろう作家(石橋徹郎氏)が木のステッキ片手にてくてく歩いている。終電を逃し金もない、仕方なしに歩いて家まで。チャップリンのドタ靴歩きのようにその場でタップを踏むように。風貌は野村秋介っぽい。これを2時間会話しながら続ける体力に驚く。観ているだけで疲れる。
行き逢うのは泥酔した男やパンパン、非常線で検問をする警官、肥料桶をリヤカーで引く農夫。(女が滝沢花野さんだとは気付かなかった)。
後ろから足音がする。ずっと後をつけているようで何者か訝しがるが、その男(金子岳憲氏)は煙草の火を求める。ソン・ガンホの茂木健一郎風味な風貌。
夜通しその男と並び歩き話をしていく構図。
特筆すべき演出は可動式の大きな立木。どういう仕掛けになっているのかそびえ立つ見事なる一本の木を場面展開によって役者が動かしてゆく。いろんな使い方。
車の音とライトが走る。夜の甲州街道で煙草を吹かす。もくもくと煙。
男はどこに向かっているのか?かなり遠く遠くまでだ。
RCサクセション「多摩蘭坂」なんかが似合う世界。
多摩蘭坂を登り切る手前の坂の
途中の家を借りて住んでる
だけどどうも苦手さこんな夜は

バタフライ・カフェ・エフェクト
A.R.P
ウッディシアター中目黒(東京都)
2025/04/16 (水) ~ 2025/04/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
A・ロックマン作品は観たことがあるような気がしていたが今回が初めてなのかも知れない。ガチガチに入った客席。客層は老若男女、劇団箱推しのファンっぽい。かつての東京AZARASHI団の聖地サンモールスタジオの感覚。かなり洗練された脚本、地上波の深夜ドラマレベル。
舞台はとある喫茶店。人の心を聴き取れる不思議な力を持つウェイトレス(今野靖菜さん)。店内は二人一組の客で満席、だが全員悉く深刻に揉めている。恋愛と友情、解散、離婚、閉業、引退、第二の人生、自殺、内部告発。全員の心の声が頭で暴れ出し気が狂いそうになるウェイトレス。とあるテーブルのコップの水を零してしまう。すると···。
ブルーハーツの『少年の詩』のような心情。
「どうにもならないことなんて、どうにでもなっていいこと。先生達は僕を不安にするけど、それほど大切な言葉はなかった。」
手の打ちようもない苦境に瀕した時、頼りになるのは自分の中から湧き出る気持ちだけ。ほんの少しの辛抱だ。
テンポいい笑いが弾け、語尾上げ「はい⤴?」が店内に木霊する。
是非観に行って頂きたい。

旅するワーニャおじさん
パンケーキの会
下北沢駅前劇場(東京都)
2025/04/10 (木) ~ 2025/04/16 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『ワーニャおじさん』
アイルランドのブライアン・フリール翻案による1998年初演作品。
『ワーニャ伯父さん』はつまらないと思っていたがこうして観てみると面白かった。成程、提示され構築された関係性にシェイクスピア的多情多感な情緒、エッセンスを振り掛ける訳か。この関係性のどこに一番思い入れるかのセンス。凄く勉強になった。
二面向かい合わせの客席はガッチリ入っていて『寂しい人、苦しい人、悲しい人』よりも席を詰めている。青年団テイストで客入れから役者がステージに登場、役として日常を過ごし場の空気感を醸し出す。どこからか風が吹いている。窓の外の天候を意識させる演出。
主演ワーニャ役、柳内佑介氏はオリラジ中田っぽい。47歳設定にしては若い印象。敢えてこういうキャスティングにしたのか。
アーストロフ医師役、内田健介氏は巧すぎて鼻についた程。どんどん格好良く見えてきてクライマックスではレット・バトラーのよう。
元教授セレブリャーコフ役、大原研二氏は高須クリニックの高須克弥に見えた。
皆が恋する彼の後妻エレーナ役に佐乃美千子さん、流石。
ワーニャの姪っ子ソーニャ役に渡邊りか子さん。
場面転換として白く長いカーテンを客席前二面に引く。様子がうっすらと透けて見え、舞台装置の移動や立ち位置の指示等普通に聴こえてくる。芝居全体が少しメタ的な方法論の演出で役者が時折観客に台詞を投げ掛けもする。
前半、古典戯曲の取っ付きにくさ、ロシア人名と関係性の判り辛さから客席もぼんやりと思いきや、どっこい後半からかなり盛り上げた。
二作品をセットで観た方が楽しめる。作品の構造についてよく解る。
是非観に行って頂きたい。