
なべげん太宰まつり『散華』
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2025/04/29 (火) ~ 2025/05/02 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
太宰治好きは必見。絶対観た方がいい。
作家(桂憲一氏)がガールズバーのキャスト(木村慧さん)を誘って海辺で酒盛りをしている。鎌倉の小動(こゆるぎ)岬であろう。酒が切れ、女をコンビニに買い出しに行かせる。そして一人になると用意していた錠剤と酒を煽って昏倒。太宰治に傾倒していた売れない作家は七里ケ浜心中を模した自裁を選んだのだ。
遠くで半鐘が鳴っている。靄がかったあやふやな景色。作家が目を覚ますと太宰治(大井靖彦氏)が横に立っている。時代は丁度七里ケ浜心中(1930年11月28日)のすぐ後、女給・田部あつみ(本名はシメ子)だけが亡くなった心中崩れ。絶望的に落ち込んでいる太宰治を励ます作家。「貴方は日本文学を背負って立つ人間なんだ、小説を書きなさい!」
果たしてここは何処なのか?夢か現実か妄想か?
MVPは太宰治役の大井靖彦氏、前回のヒトラーもそうだったが取り憑かれたように成り切る役者。
太宰治文学論にもなっていて面白い。
是非観に行って頂きたい。

なべげん太宰まつり『駈込み訴え』
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2025/04/27 (日) ~ 2025/04/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
太宰治の『駆込み訴え』と映画『ジーザス・クライスト・スーパースター』は自分のキリスト観を築いた作品。常にこういう視点で見てしまうのでユダに感情移入は避けられない。そしてあぶらだこの『PARANOIA』。かなり歪んだ感覚だろう。裏切り者の裏切らざるを得なかった純情を謳う。愛なのか復讐なのか、突き詰めればそれは同じ意味なのか。キリストの物語は未だによく判らない。死にたがりの救世主モドキとその一番の理解者との愛憎物語。ただハッキリしているのはキリストが無敵の神様ではなかったこと。純情を貫いた弱者だった。だから皆トラウマとしてずっと抱えることになったのだ。
①下山寿音さん一人芝居『駆込み訴え』
本編50分程度の原作を30分の下山寿音さん一人芝居に凝縮させた。下山寿音さんは友近の若い頃のようなド迫力と仙道敦子の可憐さが備わった美人。とにかく迫力があって目を奪われる。目力が強い。本当に瞬きをしない。三船敏郎か?
ユダがキリストを本当に愛していて他の誰にも触れられたくなかった気持ちが痛い程伝わる。この人の真の美しさを知るのは世界中で自分一人だけだと。こんな下らない救世主ごっこはもうやめにして静かに田舎で暮らしましょう。何も不自由はさせませんから。だがキリストは破滅に邁進する。自分のことなんて目もくれない。
②青森中央高校演劇部『駈込み訴え』
これはやられた。高校演劇大会の演目に『駆込み訴え』を選び練習を重ねる演劇部の物語。キツい部長(福井来寿々〈こすず〉さん)とこき使われる同学年の演出助手(丹羽桃嘩さん)。厳しい縦社会、嫌気が差して辞めていく下級生達。
福井来寿々さんは松岡菜摘似の美人で存在感がある。
主人公、丹羽桃嘩さんも負けていない。表情に力があって観客の心を揺り動かす。
何かゆるいギャグが散りばめられていてああ学生演劇と思わせといての狙いすましたキツい一撃。『駈込み訴え』の内容を現実の学生生活にだぶらせる仕掛け。これには太宰治も参ったろう。こっちも参った。『駈込み訴え』をお話ではなく、今の現実の一部として描写。これぞ天才の成せる技。台本も買いました。本当に叩きのめされた。こういう作品と出逢う為に皆足繁く劇場に通い詰めているんだろう。

エアスイミング
劇団しゃれこうべ
スタジオしゃれこうべ(東京都)
2025/04/26 (土) ~ 2025/04/29 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
この演目を観るのは四度目。全て劇団が違う。こんな難しい作品によく挑む気になるものだ。それぞれ全く違うやり方で取り組むのでその都度感心する。
今回、場面転換に横開きのカーテン状白シーツを使用、手前と奥の二枚。そのシーツを利用して影絵を投影する。このアイディアは正解。影絵を使えば説明し辛い神話なんかも人形で簡略化、伝え易い。(今回はなかったが月へと飛んで行く二人なんかも絵で見せられる)。
今作はベルセポネーとドーラのエピソードとポルフとドルフのエピソードが交互に語られ、一人二役の二人芝居の戯曲。それを四人の役者に別々に演じさせている。随分実験的な試みだ。この作品の売りそのものを敢えて解体している。成程。
特筆すべきはドーラ役の和泉美春さん。今までと全く違うキャラクターで見事だった。また新しい扉が開かれたのでは。
こんな戯曲に本気で挑む劇団にRespect。

遠巻きに見てる
劇団アンパサンド
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2025/04/18 (金) ~ 2025/04/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白くて驚いた。松本人志とかのセンス系の笑い。昔、中崎タツヤの短編でサラリーマンのおっさんが帰宅途中、UFOの墜落に遭遇してしまうネタがあった。脱出してきた宇宙人が必死に助けを求める。おっさんは「いや、自分そういうんじゃないんで。」と手で制して去っていく。こういう笑いが大好きで発想の切り口に感心する。今作も着眼点と向かう場所が秀逸。これは売れる。
舞台は急な坂の降り口、自販機が置いてある。話しながら歩いている会社帰りのOL二人。永遠の主人公、西出結さんと、誰にも内面は掴ませない永井若葉さん。そこにダッシュで降りて来たランナー、奥田洋平氏が邪魔だとばかりぶつかって来て逆ギレ。気の違ったような猛烈なキレ方。この冒頭部分だけでメチャクチャ面白い空気が充満。奥田洋平氏はリアル、町中に普通にいる男だ。キレ方や言葉の語尾が最高。
重岡漠(ひろし)氏は生真面目にズレている男を。
岩本えりさんは大久保佳代子系の無駄なエロティシズムを漂わせる。
作・演出の安藤奎さんも重要な役で出演。
ランニングに嵌った連中にとってこの坂は魅力的。だが通行人からすれば迷惑。
段々皆何を考えているのか判らなくなる。もしかしたら自分の方がおかしいのか?
超満員の客席だが客層に広がりがある。シュールなコントを求める若い連中だけでなく、いろんな視点から支持されている。西出結さんのキャラが中心に在る限り安泰。彼女の立つ視点は時代を越えたもの。数千年前も数千年後も揺るがない。
是非観に行って頂きたい。

夜の道づれ
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2025/04/15 (火) ~ 2025/04/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
戦後まもなく、深夜の甲州街道を三好十郎自身であろう作家(石橋徹郎氏)が木のステッキ片手にてくてく歩いている。終電を逃し金もない、仕方なしに歩いて家まで。チャップリンのドタ靴歩きのようにその場でタップを踏むように。風貌は野村秋介っぽい。これを2時間会話しながら続ける体力に驚く。観ているだけで疲れる。
行き逢うのは泥酔した男やパンパン、非常線で検問をする警官、肥料桶をリヤカーで引く農夫。(女が滝沢花野さんだとは気付かなかった)。
後ろから足音がする。ずっと後をつけているようで何者か訝しがるが、その男(金子岳憲氏)は煙草の火を求める。ソン・ガンホの茂木健一郎風味な風貌。
夜通しその男と並び歩き話をしていく構図。
特筆すべき演出は可動式の大きな立木。どういう仕掛けになっているのかそびえ立つ見事なる一本の木を場面展開によって役者が動かしてゆく。いろんな使い方。
車の音とライトが走る。夜の甲州街道で煙草を吹かす。もくもくと煙。
男はどこに向かっているのか?かなり遠く遠くまでだ。
RCサクセション「多摩蘭坂」なんかが似合う世界。
多摩蘭坂を登り切る手前の坂の
途中の家を借りて住んでる
だけどどうも苦手さこんな夜は

バタフライ・カフェ・エフェクト
A.R.P
ウッディシアター中目黒(東京都)
2025/04/16 (水) ~ 2025/04/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
A・ロックマン作品は観たことがあるような気がしていたが今回が初めてなのかも知れない。ガチガチに入った客席。客層は老若男女、劇団箱推しのファンっぽい。かつての東京AZARASHI団の聖地サンモールスタジオの感覚。かなり洗練された脚本、地上波の深夜ドラマレベル。
舞台はとある喫茶店。人の心を聴き取れる不思議な力を持つウェイトレス(今野靖菜さん)。店内は二人一組の客で満席、だが全員悉く深刻に揉めている。恋愛と友情、解散、離婚、閉業、引退、第二の人生、自殺、内部告発。全員の心の声が頭で暴れ出し気が狂いそうになるウェイトレス。とあるテーブルのコップの水を零してしまう。すると···。
ブルーハーツの『少年の詩』のような心情。
「どうにもならないことなんて、どうにでもなっていいこと。先生達は僕を不安にするけど、それほど大切な言葉はなかった。」
手の打ちようもない苦境に瀕した時、頼りになるのは自分の中から湧き出る気持ちだけ。ほんの少しの辛抱だ。
テンポいい笑いが弾け、語尾上げ「はい⤴?」が店内に木霊する。
是非観に行って頂きたい。

旅するワーニャおじさん
パンケーキの会
下北沢駅前劇場(東京都)
2025/04/10 (木) ~ 2025/04/16 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『ワーニャおじさん』
アイルランドのブライアン・フリール翻案による1998年初演作品。
『ワーニャ伯父さん』はつまらないと思っていたがこうして観てみると面白かった。成程、提示され構築された関係性にシェイクスピア的多情多感な情緒、エッセンスを振り掛ける訳か。この関係性のどこに一番思い入れるかのセンス。凄く勉強になった。
二面向かい合わせの客席はガッチリ入っていて『寂しい人、苦しい人、悲しい人』よりも席を詰めている。青年団テイストで客入れから役者がステージに登場、役として日常を過ごし場の空気感を醸し出す。どこからか風が吹いている。窓の外の天候を意識させる演出。
主演ワーニャ役、柳内佑介氏はオリラジ中田っぽい。47歳設定にしては若い印象。敢えてこういうキャスティングにしたのか。
アーストロフ医師役、内田健介氏は巧すぎて鼻についた程。どんどん格好良く見えてきてクライマックスではレット・バトラーのよう。
元教授セレブリャーコフ役、大原研二氏は高須クリニックの高須克弥に見えた。
皆が恋する彼の後妻エレーナ役に佐乃美千子さん、流石。
ワーニャの姪っ子ソーニャ役に渡邊りか子さん。
場面転換として白く長いカーテンを客席前二面に引く。様子がうっすらと透けて見え、舞台装置の移動や立ち位置の指示等普通に聴こえてくる。芝居全体が少しメタ的な方法論の演出で役者が時折観客に台詞を投げ掛けもする。
前半、古典戯曲の取っ付きにくさ、ロシア人名と関係性の判り辛さから客席もぼんやりと思いきや、どっこい後半からかなり盛り上げた。
二作品をセットで観た方が楽しめる。作品の構造についてよく解る。
是非観に行って頂きたい。

寿歌
いいいのいー
アトリエ第Q藝術(東京都)
2025/04/08 (火) ~ 2025/04/13 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
平均年齢73歳の三人芝居。ヴィジュアルから元ネタは大友克洋&矢作俊彦の『気分はもう戦争』だと思ったがこっちが先。1979年発表。核戦争後の崩壊した世界をリヤカーで突っ走る老いぼれた『イージー・ライダー』。ひらめく九重五郎吉一座の幟、要は流しのチンドン屋。
寿歌(ほぎうた)=祝いの歌。
「はいな。」
イオナの化粧品、横顔のバーバラを起用し「イオナ。わたしは美しい。」のCMは1977年誕生。48年後の今日もそのネタを強要。訳が分からないが笑うしかないだろう。
伊東由美子さんはいい女だな。老人ホームのマドンナみたい。井村昴氏はカッコイイ。山田康雄やクリント・イーストウッドの美学。猪股俊明氏は奇跡を起こせるのだが大して使い道もない。
オリジナルを知らないので自分的にはこの老人の愉快な旅こそが原像となる。今平とかホドロフスキー、フェリーニ風に映像化して欲しい。寺山修司調にアレンジしてアングラ地獄巡りの道中なんかもあり得る。
観に行って正解。面白かった。

旅するワーニャおじさん
パンケーキの会
下北沢駅前劇場(東京都)
2025/04/10 (木) ~ 2025/04/16 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『寂しい人、苦しい人、悲しい人』
凄く脚本は好きなテイスト、作家(ユン・ソンホ氏)は映画として書いたんだろう。やりたいこと、伝えたいことはよく判る。だが演劇となるとまた少し改変が必要。そもそもの媒体の仕組みの違い。テーマは「大人のモラトリアム」。自己決定を遅らせて時間稼ぎをしたところで同じこと。痛みは同じだけついて回る。
天井に吊るされた二本の蛍光灯が意味ありげに点滅を繰り返す演出。やしゃごの『きゃんと、すたんどみー、なう。』でも使っていた手法。基本、酒飲んでグダる描写が続くので真面目に仕事に励む虚しさも欲しい。ソジュ(韓国焼酎)の緑の小瓶で人気のチャミスル、ピーチ味。やたら皆飲む。中身は水だとしてもかなりの量になる。
舞台は現代の韓国、2018年ソウル。硬派な言論が売りの雑誌『時代批評』、売り上げがヤバく梃入れで新編集長(西本泰輔氏)が赴任。この雑誌に人生を捧げているチーム長〈デスク〉(平吹敦史氏)は不満気。編集長はグラフィックデザイナーの美女(金聖香 〈キム・ソンヒャン〉さん)を秘書のように帯同させている。チーム長の古くからの友人、大学院で哲学を学ぶ研究員(荒井志郎氏)がいつものように顔を出す。
自分的には『ワーニャ伯父さん』風味はゼロ。言われなきゃ気付かないだろう。
ワーニャ(捨て鉢の主人公) チーム長(平吹敦史氏)
アーストロフ(医師) 先生(荒井志郎氏)
ソーニャ(医師に恋する) 編集者(西村由花さん)
セレブリャーコフ(大学教授) 編集長(西本泰輔氏)
エレーナ(後妻) デザイナー(金聖香 〈キム・ソンヒャン〉さん)
経理の佐乃美千子さんは髪型を変えただけでガラッと印象が変わる。美人は得だな。舌っ足らずの甘い声は声優向き。
金聖香 (キム・ソンヒャン)さんがえらく美しい。藤村志保の生き写し、目を奪われる。
西村由花さんは初代タイガーマスク(佐山タイガー)のイラスト・トレーナーを愛用。
平吹敦史氏の靴下が破れていたのは狙いか。
西本泰輔氏の吹くシャポン玉。
荒井志郎氏がトニー・レオン顔なので、ウォン・カーウァイの『花様年華』や『2046』の雰囲気。(大好きな映画だったが全くと言っていい程内容は覚えていない)。
荒井志郎氏、平吹敦史氏、佐乃美千子さん、金聖香さん4人でクラブのようなBARのような店で飲む場面、店内に掛かっているフュージョン曲が良かった。
ゆっくりと滅んでいく時代の中で取り残されたような気持ちになる者達。チャールズ・ダーウィンは「最も時代の変化に敏感なものだけが生き残る」と記した。生き残れないと知った連中がふと失くしてしまったもののことを思い返すような日暮れ時。
是非観に行って頂きたい。

嵐 THE TEMPEST
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2025/04/10 (木) ~ 2025/04/19 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
第一幕75分休憩15分第二幕80分。
素舞台、というよりも観客に見せたいのは取り壊される俳優座劇場そのものだ。がらんどうのステージ、小道具はそのまんまの箱馬。剝き出しの生身の劇場に役者陣が登場。平体まひろさん演ずる妖精エアリエルの「ドーン!」からスタート。そこは暴風吹き荒れる大海原、荒れ狂う大波、叩き付ける雨粒、右に左に船体は軋み天地は逆さま、為す術もない木の葉の如く弄ばれる船の上。混乱と恐怖、狂乱と混沌、パニック状態の乗客と船員。それを嘲るかのようにエアリエル率いる6人のニンフ(精霊)達が愉快に歌い踊っている。(サロペットのワークマン女子みたいな衣装)。
ミラノ公国の大公、プロスペロー(外山誠二氏)は魔術の研究に没頭する余り、政務を弟のアントーニオ(浅野雅博氏)に任せっきりにしていた。アントーニオは敵国ナポリ王アロンゾー(藤田宗久氏)と謀り、プロスペローと幼い3歳の娘ミランダ(あんどうさくらさん)を船に乗せて追放。流れ着いた絶海の孤島で二人は12年間何とか生き延びた。到頭魔術を究めたプロスペローは妖精エアリエル(平体まひろさん)、半人半獣のキャリバン(藤原章寛氏)を従え復讐の幕を開ける。
平体まひろさんのファンならば今作は必見。まさに彼女が彼女たる所以、歌も踊りも演奏も魅力いっぱい。劇場中をヘトヘトになるまで走り回る。ライアーハープの音色。日高哲英氏作曲の歌が印象的。「ドーン!」
ニンフの一人、蟹澤麗羅さんが大家志津香っぽかった。
のんべえの執事、ステファノー(上杉陽一氏)の佇まいに観客大受け。十八番。
ヒロイン、あんどうさくらさんは原日出子や倉沢淳美の若い頃っぽい。登場から涙ぐんでいた。
主演・外山誠二氏は我儘な頑固爺、魔術を使って好き放題のイカレっぷりはトランプのようでもある。この老人の癇癪に付き合わされて皆ヘトヘト。

熱風
Nana Produce
サンモールスタジオ(東京都)
2025/04/04 (金) ~ 2025/04/08 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
流石に面白い。高木登氏版夏目漱石の趣き。ホラーに長けると全てに応用が効く。役者全員フルに活かす演出は鬼才・寺十吾氏。この怒濤の仕事量と質は後世に名を残す筈。今、リアルタイムで味わえる連中は幸運だ。ほんのちょっとの細工なのに圧倒的な才覚の違いを決定付ける。これは一体何なのか?何でこうなるのか?
サラサーテのようなテーマ曲がリフレインする。この小さなステージで驚く程の場面転換。拘りの美術、やり過ぎだろ。鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』を思わせる不思議な品のある空間美。
大企業に勤める瓜生和成氏45歳、妻の田崎那奈さん44歳、大学生の娘の堀口紗奈さん22歳、妻の妹の杉本有美さん36歳が暮らす一軒家。娘の彼氏であるコンビニバイトの依田啓嗣(たかし)氏31歳が呼び出されている。怒号が飛ぶ修羅場にタイミング悪く隣に越して来た奥野亮子さんが挨拶に訪れる。売れないカメラマン小出恵介氏43歳との夫婦二人暮らし。その晩その話を聞いた小出恵介氏は隣の家族の名前に引っ掛かる。
全員キャラが立っていて見せ場あり。瓜生和成氏VS堀口紗奈さんなんか盛り上がる。依田啓嗣氏のキャラはリアル、ペットの水ガブ飲みが良い。杉本有美さんの存在が実は効いている。
小出恵介氏に何の思い入れもなく興味もなかったが一言、「良かった」。
是非観に行って頂きたい。

CARNAGE
summer house
アトリエ第Q藝術(東京都)
2025/03/26 (水) ~ 2025/03/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
水野小論さんは観る作品、観る作品、ずば抜けたセンスのキャラ造形で感服した。この圧倒的才能の女優が主催する初プロデュース公演、一体どんなものになるのか?
今作の真矢ミキさん主演版を2019年東京グローブ座、『正しいオトナたち』のタイトルで観ていた。(出演・真矢ミキさん、岡本健一氏、中嶋朋子さん、近藤芳正氏)。
四人芝居なのだが高度な言論プロレス。攻守目まぐるしく入れ替わりタッグパートナーだった筈が裏切り裏切られ一体自分は今誰と戦っているのか訳が分からなくなる。このスラップスティックの疾走感が客席をどっと沸かせる。名勝負だったと思う。キャスティングの時点で勝負あり。笑いのセンスの高さ。脚本を読んでここの何が笑えるのか肌ですぐに解るのだろう。これは天性のもので努力で身に付く訳じゃない。スピード感、タイミング、リフレイン、この小屋がジャスト・サイズ。
舞台はフランス、ヴェロニク(水野小論さん)とミシェル(小林タカ鹿氏)夫妻の家。11歳の息子、ブリュノが公園で前歯を折られて帰って来る。やったのは同級生のフェルディナン。彼の両親であるアネット(伊東沙保さん)とアラン(小野健太郎氏)を招いて話し合いを持つことに。アランは急ぎの仕事を抱えていて常に携帯が手放せない。
凄く面白いので是非観に行って頂きたい。

痕、婚、
温泉ドラゴン
ザ・ポケット(東京都)
2025/03/20 (木) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

ガラスの動物園
滋企画
すみだパークシアター倉(東京都)
2025/03/26 (水) ~ 2025/03/31 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
『ガラスの動物園』についてはよく考えることがある。テネシー・ウィリアムズは何を描きたかったのか、果たして自分は何を観たかったのか?いろいろ妄想するのだが正解は見えない。それ故にまた観てしまう類。
今作は素晴らしかった。超満員の詰め掛けた観客。知ってる役者が結構観に来てた。何でこんなに人気あるの?と不思議に思う程。
一つは徹底的に戯曲を溶かした。10分の休憩込みで二幕2時間45分。そんなに長い話か?と思ったが徹底的に煮詰めている。もうこれ以上ない程考え尽くしやり尽くしている。ありとあらゆる方法論を探って行き着いたキャラクター。もうこれしか選択肢はない。納得のいく『ガラスの動物園』。しかもまた更に別のアプローチで観てみたいとも思わせる。行間の空白に広がる無限の可能性を垣間見せた。
母アマンダ、西田夏奈子さん。饒舌でヒステリックで強圧的、自己顕示欲の塊で常に自意識過剰の躁状態、病的に過去の栄光に縋り続ける。憎むべき侮蔑するべき母を西田夏奈子さんは愛すべき人物に仕立てた。名女優・望月優子のような人の痛みを知る弱き者に。アマンダの新しい息吹。
姉ローラ、原田つむぎさん。文句なし、これぞローラ。すっぴんの一幕、メイクした二幕。今作を観た若い奴にとって一生胸の奥底に貼り付く心の疵となろう。クライマックスの表情が物凄い。一幅の宗教画のよう。
主人公トム、佐藤滋氏。今回の趣向の一つに主人公が自分の心の中の情景を演劇として観客に見せているという額縁構造がある。その為、語り手として説明しながら照明や曲出しに合図を送る。この舞台が彼の心の中の光景だと伝える。MVPはそれを見事に担当した照明の岩城保氏だろう。クライマックスの照明は語り継がれる程。
主人公の勤める靴倉庫の同僚ジム、大石将弘氏。弁論部出身ということで石丸伸二っぽいアプローチ。成程そうきたか。
ユングの提唱した元型(アーキタイプ)。人類に共通する心の中にある記憶の象徴。各人の経験を越え人類が普遍的に備えているとされる感覚。今作がこれだけ繰り返し上演され繰り返し観劇される理由はそこに触れているからだと思う。誰か徹底的に論じて本にしてくれ。
曲で例えるとPearl Jamの「Off He Goes」みたいな感触。
是非観に行って頂きたい。

白い輪、あるいは祈り
東京演劇アンサンブル
俳優座劇場(東京都)
2025/03/19 (水) ~ 2025/03/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
これも傑作。面白かった。
名奉行として名を残す大岡忠相(ただすけ)。作者不明の「大岡政談」として草双紙、講談、落語で大活躍。その中の一つ、大岡裁きとして有名な「子争い」。元ネタとされるものは無数にあり、その中で最も古いのは「旧約聖書」の「列王記上3章」。それを描いた「ソロモンの審判」という絵画も有名。今作は13世紀の元(中国一帯をモンゴル系が支配した時代)の作家、李行甫の書いた戯曲『灰闌記』、それを翻案したベルトルト・ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』が原作。2015年、鄭義信(チョン・ウィシン=てい・よしのぶ)氏が韓国にて歌劇・唱劇(チャングク)としてアレンジ。歌いながら物語を語る伝統芸能パンソリを土台に芝居として構成し直した。
鄭義信氏の良い所が揃っている。笑いの一つ一つに拘り、本当に観客を笑わせようと練っているのが伝わる。下ネタもガッチリ。音楽の久米大作氏の曲も素晴らしい。一曲も捨て曲がなかった。演出の求めにより、俳優陣の魅力がかなり引き出されていて一人ひとり見せ場あり。ブレヒトに興味ない人も素直に楽しめる音楽劇。皆何役も兼ねるのだが驚く程衣装もメイクもがっちり変えてみせる。懸けるエネルギーが半端ない。そのエネルギーを浴びる為の舞台なのか。
この劇団は学校巡回公演を行なっているのが強み。演劇に興味のない、初観劇の学生達を相手に楽しませるには腕がいる。お約束が通用しない世界で何が伝わり何が伝わらないのか、ハッキリしてくる。
今回の語り部、アツダクを演じた洪美玉(ほん・みお)さんなんか強い。ただの呑んだくれのエロ爺。
ヒロイン、グルシェ役永野愛理さんは流石。鄭義信氏の演出との相性がいいのでは。ジブリヒロインのように輝いていた。イチャつきキスネタが決まる。
彼女と婚約を交わす衛兵シモンは雨宮大夢氏。他にも何役かこなすのだがグルシェの兄、ラヴレンティをラヴとレンティの二人に分けて演ずるギャグが最高。このアイディアは狂ってる。
領主他の公家義徳(こうけよしのり)氏は第二幕、ショーケンみたいな絶唱シーンあり。
領主夫人ナテラは福井奏美(かなみ)さん、何か甘いもんを食いつつおんぶを求める。
彼女を護衛する口髭が決まっている三木元太氏。この人も凄かった。全ての役で観客を沸かせた。唾がかなり飛ぶので共演者は大変。
クーデターを率いる裏切りの胸甲騎兵、浅井純彦氏。音の鳴る鞭の小道具がカッコイイ。つまみ枝豆っぽい邪悪さ。
志賀澤子さんと真野季節さんの老婆コンビのギャグ「狙われる〜!」「犯される〜!」が炸裂!
肩から吊るしてクンチェ(バチ)で叩く韓国の伝統的打楽器・杖鼓(チャンゴ)。歩きながら前後違うリズムを見事に鳴らすのは戸澤萌生(もえみ)さん。前村早紀似。
劇団の代表作になる完成度。ラストも見事。

痕、婚、
温泉ドラゴン
ザ・ポケット(東京都)
2025/03/20 (木) ~ 2025/03/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
山﨑薫劇場!
凄まじい作品。叩きのめされる。大正12年(1923年))関東大震災発生、震度7の揺れ、大規模火災、10万人以上の死者。天災によるやり場のない怨みや怒り、恐怖、苛立ち、不安、それら全てを社会的弱者にぶつけて憂さを晴らす。朝鮮人が各地で虐殺された。何の罪もない彼等をぶち殺したのは殺気立った普通の市井の人。時が経ち冷静になり、恥ずかしさと罪悪感から贖罪を背負う。だがそんなもの一体何になる?殺された連中にとってそれが一体何になるのか?
震災から二年経ち、やっと日常を取り戻した東京の下町。洋服店の店主(いわいのふ健氏)、娘(飯田桃子さん)、住み込みの職人(山﨑将平氏)、辞めた短気な職人(相川春樹氏)。隣の醤油屋の女将(中村美貴さん)。看板書き(筑波竜一氏)と教員(林田麻里さん)夫婦。よく猫を探しに来る在郷軍人(シライケイタ氏)。上京して来た新聞記者(阪本篤氏)。出版社の男(秋谷翔音〈しょうん〉氏)。
そんなある日、店の前で「裁縫職人募集中」の貼紙を眺めている一人の女性(山﨑薫さん)の姿が。
とにかく飯を食う。やたら皆食べる。日常の生活が丁寧に描写される。掃除をして配膳して後片付け、草履を揃える。毎日の日々の積み重ね。縫い物の技術、洋裁の楽しさ、雑誌に載った写真を眺めて自分が着てみたい服を選ぶ女性陣。それをミシン一つで縫い上げる山﨑薫さん。
山﨑薫さんのたすき掛けは絵になる。
作品としての目線、テイストは中国映画『鬼が来た!』みたいに突き放した感覚。日本のドラマツルギーっぽくない。韓国人が今作を観てどう思うのか知りたくなる。
新国立劇場演劇研修所第17期生公演にて『君は即ち春を吸ひこんだのだ』を演った飯田桃子さん。今作はその作者であった原田ゆう氏の新作。手足が長く表現力も大きい為目立つ。売れそう。
相川春樹氏は手塚治虫顔。『福田村事件』の水道橋博士にイメージがだぶる。
シライケイタ氏の朝鮮から連れ帰った飼い猫「柴田君」が気になる。噂だけが広がり皆に嫌われて恐れられる可愛い猫。
筑波竜一氏の描き込んだ設定、中村美貴さんの吐き捨てる台詞、山﨑将平氏の負い目、いわいのふ健氏の表情、申し分がない。
そして山﨑薫さんの怖ろしさ。これを見逃すと後悔することになる。テーマは「贖罪」。全ての「被害者」と全ての「加害者」、全ての「傍観者」に送る。
本当にもう一度観たいくらい良かった。
必見。

ぶた草の庭
劇団道学先生
小劇場 楽園(東京都)
2025/03/19 (水) ~ 2025/03/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈庭チーム〉
未来の日本、ヨコガワ病と呼ばれる奇妙な伝染病が発生している。感染すると身体のどこかに赤い痣のような斑点が現れ進行と同時に変色、徐々に記憶障害が酷くなって死に至る。感染者は各地にある隔離居住区に分散されて生活。その内の一つ、瀬戸内海に浮かぶ離れ小島、廃村となった蓮池村の集落にあるコミュニティーセンターが舞台。
青年団の『S高原から』や今作の作家・土田英生自身の『燕のいる駅』を思い起こさせる。不条理にも誰もに確実に訪れる“死”との対峙を描く。これは人間の永遠のテーマ。“死”を前にしないと人間は“生”について考えられない。
主演の佐藤達氏の魅力爆発。まさに適役。彼の持つ技術が遺憾なく発揮されている。
石川佳那枝さんは香坂みゆきっぽい余韻。味がある。
松田一亨(かずあき)氏は満島真之介系、笑いの作り方が巧妙。山口良一系か。
田上大樹氏は安田大サーカス・団長安田っぽい。
菅沼岳氏はいつもながら剛腕でなぎ倒して場をかっさらう。
花渕まさひろ氏は吉田豪っぽい。
佐藤達氏のキャラ、事を荒立てない生き方。脳裏に流れてくるのは氷室京介の「ANGEL」の歌詞。
いつでも優しさを弱さと笑われて 弱さを優しさにすり替えてきたけど
流石の完成度。是非観に行って頂きたい。

ほおずきの家
HOTSKY
保谷こもれびホール 小ホール(東京都)
2025/03/15 (土) ~ 2025/03/17 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
韓流俳優チェ・ジョンヒョプの通訳として「ラヴィット!」に出演したみょんふぁさん。盛田シンプルイズベストによるネタ、「イメージダイブ」を通訳することに。動きまで真似て被せてみせてスタジオ大受け。決め台詞の「ここでダイブ!」を「ヨギソダイブ!」と決めてSNSでバズリ、未だに世間では「面白通訳さん」のイメージ。いやいや大物女優ですよ。
初演も観たが、何か観なきゃいけない気分になった。美味い酒が飲めそうな舞台。
開演前に流れるのは生のラジオ放送、「新浜ぐんぐんサテライト」。タケ坊(阿比留丈智氏)とジュンジュン(七味まゆ味さん)、彼等のサインは居酒屋食堂なぎにも飾られている。
驚いたのが全キャスト、2年前と同じ。凄いこだわり。この人じゃないと駄目なんだ!執念を感じる。
伴美奈子さんが秀逸、リアルな存在感。
一番観客を沸かせたのはベトナム留学大学院生兼店員の佐々木このみさん。日本語英語ベトナム語をMIXしたものを駆使しつつ「聞け!」と威圧。こんな女に恋心を持つ日本人客もいびつ。
今回は七味まゆ味さんの視点に重点を置いた感じ。差別されて苦しんだ世代から、それを踏みしめて更に先に歩を進める世代へ。差別も偏見も無知から来る病気でしかない。知性によってそれは治癒できる。人間を無知によって差別する時代は終わりを告げた。これからは差別する者こそが差別される時代となる。
作家の主張は「人と人の絆こそが世界を繋ぐ」。理想論すぎるがそれしかないのかも。差別を乗り越えるのは毎日の生活の日々。人にとって他に何がある?

神々の里
神々の里製作委員会
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2025/03/13 (木) ~ 2025/03/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
稲垣浩監督、三船敏郎主演『日本誕生』の人形劇ヴァージョン。「古事記」「日本書紀」の舞台となるのは宮崎県、島根県、兵庫県の淡路島と脈絡がない。鳥取県、奈良県、広島県、和歌山県、新潟県、福島県、鹿児島県・・・と更に広がる。奈良時代、天武天皇が日本の成り立ちの歴史をまとめるべく稗田阿礼(ひえだのあれ)に命じて各地の伝承を集めさせた。太安万侶(おおのやすまろ)がそれを編纂したものが「古事記」。同様に舎人親王(とねりしんのう)が編纂したものが「日本書紀」とされる。
まあいつ見ても無茶苦茶な歴史。聖書やギリシア神話の影響を受けたのか?作者の思惑を知りたい。ギルガメシュ叙事詩か?集合的無意識か?
人間が演じるのは天照大御神(アマテラスオオミカミ)を青井美文(みふみ)さんが演るのみ。
神木優氏は弁士として開幕からラストまで怒濤のしゃべくりで大活躍。一応、首から人形の身体を下げている。痩せた小島聡、パンサー尾形風味。よくぞこれだけの長台詞を頭に入れたものだ。凄い仕事振り。Respect!
この訳の分からない日本の歴史を「まあそういうもんだよね」と納得させる力技。人形劇の魅力はそこにある。宮崎県の政治的思惑を感じなくもないが普通に面白かった。7000円は高いが是非観に行って頂きたい。

女歌舞伎「新雪之丞変化」
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2025/03/04 (火) ~ 2025/03/13 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2回目。
水嶋カンナさんの貫禄、観客を手のひらで自在に転がす。
BUCK-TICKのアルバム「RAZZLE DAZZLE」のジャケットをイラストレーターの宇野亜喜良氏が手掛けた縁で数々のコラボが実現。今作も氏の発案らしい。(角川文庫の「ドグラ・マグラ」の表紙をずっと氏の作品だと思っていたら、米倉斎加年〈まさかね〉氏で驚いた。)
踊り子達が被る上半分の狐面がベルク・カッツェみたいでカッコイイ。