vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」 公演情報 TRASHMASTERS「vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「廃墟」

    完全にイカれてる。昔、スタークラブが「RADICAL RADICAL RADICAL REAL ROCK!」と歌ったがまさにそんな舞台。
    敗戦の玉音放送、家族を疎開させ自宅で独り聴いた三好十郎。訳も分からず声を上げて泣いた。しかしその理由がどうにも言語化できない。自分の根源で瞑想するが如く問い掛けては1946年11月に書き上げた戯曲が今作。日本人のことが好きで好きで堪らない自分に気付いて驚いたと言う。

    家の主、北直樹氏。休職願を出している歴史学者の大学教授。自らの戦争責任に対して思い悩み近代日本の成り立ちをもう一度検証しようと考える。

    長男、長谷川景氏。新聞社勤務の共産党員。戦中、特高に検挙されて終戦まで刑務所に入れられていた。

    長女、登場せず。有望な女医だったが敗戦を知って自害。

    次男、倉貫匡弘氏。真面目で一本気、優秀な学生だったが召集のち特攻隊に取られ、敗戦を迎える。信じるに足るものを全て失ったアプレゲール(戦後派)。命知らずの愚連隊として全ての価値観に唾を吐いて回る。1936年発売、「HERMES DRY GIN(ヘルメス・ドライ・ジン)」をガブ飲み。度数は37度。飲み過ぎだろ。

    次女、小崎実希子さん。顔の右半分を覆うケロイド。イスラム教を信仰しようとしているのか?

    亡き妻の弟、吉田祐健氏。ブラジルなどの海外移民ゴロであろう。

    焼け出され家事を賄う住み込みの女性、川﨑初夏さん。今作のキーパーソン。実に色っぽい。水を汲んでお茶を淹れ、茶碗を洗い布巾で拭く。

    大工の棟梁の娘、小谷佳加さん。自宅建築費用の未払い金の催促に訪れる。この役は演りたかったろう。実に生き生きとしていた。

    自殺した長女の学友、今はパンパンの下池沙知さん。

    北直樹氏は演劇歴36年、「こんなに難しい台本とは初めて出会いました!」と書かれていた。北大路欣也風メイクでこの戯曲を我が物とする。無論MVP。
    隻腕の学生、星野卓誠(たかのぶ)氏は中村勘九郎っぽい。
    倉貫匡弘氏は中山一也や北村一輝のイケメン犯罪者の系譜。
    小崎実希子さんは役の幅が膨れ上がった。

    中津留章仁氏のもと、狂気の討論劇(ディスカッション・アクト)に身を投ず劇団員と客演達。これこそアングラだと思う。映画として公開された『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』なんかに興奮した連中は絶対観るべき。『日本の夜と霧』のような緊迫感。今作の凄さは三好十郎の戯曲ではなく、それを全身全霊込めて肉体化し憑依させた役者達にこそある。令和に誇るべきアングラ芝居。

    ネタバレBOX

    この世には二つの立場の人間しかいない。資本家(ブルジョワジー)と労働者(プロレタリアート)だ。資本家を打倒した後に労働者による平等な世界が訪れる。共産主義=平等主義。人間に貴賤貧富の差のない平等な社会の実現。だが果たして人間はそんな生物だろうか?

    政治的に右派=維持、左派=解体と考えれば解り易い。左派の方向性は何もかも解体して意味を無くしてしまおうという考え方。その結果として国がメチャメチャになるパターンが多発する。家父長制、歴史、伝統、家族、性別、国籍、ゆくゆくは国家すら解体しようと企む。国がなくなってしまえば世界はいずれ一つになるという妄想か?性善説を盲信する余り、全く人間の本質を掴めていない。本能的に左派に忌避感を抱く人間は仕方なく右派を支持することとなる。

    吉田祐健氏の登場から何か自分的には話が停滞した。どうもうまくない流れ。理由は判然としない。キャラの設定に違和感を覚えたのか。台詞のリズムが合わなかったのか。妙に引っ掛かった。

    何となく黒澤明の『どん底』っぽさを感じ、「折角の踊りをぶち壊しやがって」と浮浪者が吐き捨てて締めるのかと思いきや、観客にペコペコと御辞儀。実は配役表を見るまで星野卓誠氏の二役だと思っていた。浮浪者は寺中寿之氏だったとは。

    ※観劇中に思い出したのは昔読んだ、とある宗教小説。ヤクザの若者が指を詰めて改心を示すラスト。今回の舞台の登場人物達もまるで信仰者のように見える。信仰によって世界は間違いなく変えられると信じている熱気。今の時代にないものはそれかも知れない。信じるに足る希望。世界をきっと正せると、全ての人間を導けると。

    0

    2025/07/26 22:27

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大