はぐらかしたり、もてなしたり 公演情報 iaku「はぐらかしたり、もてなしたり」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    村上春樹の短編、『レーダーホーゼン』を思い出した。

    舞台美術の柴田隆弘氏が構築したエッシャーのだまし絵のようなセット。至る所に増設された階段は今は失き九龍城の違法建築のよう。東急ハンズ渋谷店、ドン・キホーテやヴィレッジヴァンガードなどのスラムの迷宮感。増築を重ねた神経症的な高台建築。(関係ないが終わりが見えず延々続く渋谷駅の工事にはガウディのサグラダ・ファミリア感)。

    高校教師の瓜生和成氏は教え子だった竹田モモコさんと結婚、授かった娘は高橋紗良さん。瓜生和成氏の好物はオムライス。竹田モモコさんの作るオムライスは鳥肉の代わりにソーセージを何本も入れるレシピ。ある日、お弁当のオムライスに楽しみにしていたソーセージが一本も入っていなかった。帰ってそのことを妻に告げると「確かに入れた」と不機嫌に。その後、失踪してしまう。

    MVPは近藤フク氏か。東京03の飯塚のようでいてプロレスラーの西村修みたいな独特の空気。座間事件の死刑囚のような妙なヤバさも。
    彼の上司、小林さやかさんのキャラも愉しい。
    高橋紗良さんと井上拓哉氏のストーリーは清々しい。
    キャスティングが絶妙で横山拓也氏の人を見る目が超一流。

    短編『夜のオシノビ』が挿入されていたり、短編連作集を一つに繋いだ印象。何か無理にまとめた感もあった。だが非常に高度な文学性も感じさせる。妻の帰宅時、家族会議のMCを担当する異儀田夏葉さん、その奮闘ぶりが最高だった。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    タイトルは横山拓也氏の今作を観に来る観客に対してのスタンスだろう。

    『レーダーホーゼン』は単身ドイツ旅行をすることになった55歳の女性が夫に頼まれて肩紐付き革製半ズボン、レーダーホーゼンを購入。オーダーメイド専門店の為、体型のよく似た現地のドイツ人に試着して貰い、サイズを合わせる。その折に何かの心境の変化があり、突然離婚を決意する。一方的に一緒に捨てられてショックを受ける大学生の娘。三年後、親族の葬式で顔を合わせた母娘。自分を捨てた理由を問い質し、レーダーホーゼンの話を聞いて何故か納得、母を許すこととなる。この母親に離婚を決意させた“何か”が謎で文学としての余韻となる。

    自分も当時この小説を読んで深く共感を覚えたことを思い出す。論理的に人間の思考行動は構築されている訳ではない。それは後付けのアリバイ作りみたいなもので所詮は嘘だ。本当は言語化出来ないある種の“気付き”みたいなものの方が生きていく上では大きい。そのキッカケになるレーダーホーゼンが人によってはオムライスだったりする。

    ラストはオムライスを皆で食うしかないだろうと思っていたら成程。

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    2025/06/28 14:52

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