ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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朗読劇『少年口伝隊一九四五』

朗読劇『少年口伝隊一九四五』

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2025/07/31 (木) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

クラシック・ギタリスト宮下祥子(さちこ)さんによるフラメンコ奏法、実はこれが主役。背面のスクリーンに光や文字が投影され効果を上げる。
舞台中央前に挿絵をジオラマ化したような巨大な広島市の地図が置かれている。物語の舞台となる比治山は標高71.1mの小高い丘。爆心地から約1.8km南東にあり、爆風を遮った為、比治山の東側は比較的生き延びた人が多かった。時折、その地図の上に砂を振り掛ける役者達。雨を表現。サーッという音。

原爆投下による地獄絵図。蛆虫と蝿が地上の盟主。その中で必死に生き続ける者達。この生への執念にこそ人間の凄まじさがある。
広島文理科大学の哲学教授、通称哲学じいたん(﨑山新大〈しんた〉氏)。
「狂うてはいけん。正気でいなきゃいけん!」狂った世の中があったことを後の人に伝えなくちゃいけない。

どんな状況になっても生き物は飯を食い水を飲み排泄し怒り泣き笑う。眠り目を覚まし思い巡らせ考える。

本社が全焼した中國新聞社、輪転機も紙もなく、緊急の情報伝達手段としてメガホン片手に「声の新聞」、口伝隊(くでんたい)を編成。花江(向井里穂子さん)は旧知の仲だった国民小学校6年の三人に協力を依頼。焼跡を走り回り情報に飢えた被災者達に出来得る限り今の情報を伝え続ける。

一度は味わうべき作品。

ネタバレBOX

枕崎台風は『この世界の片隅に』の長尺版、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に追加されたシーンを観て覚えていた。だがここまでのものとは···。「昭和の三大台風」とされる超大型台風が9月17日の夜、広島市を襲う。まさに『ゴジラ-1.0』。原爆で一面焼け野原になった地は湖の底へと沈んだ。

肩を叩かせる正夫の祖母(野仲咲智花さん)。
一人、体操服の英彦の妹(田村良葉〈かずは〉さん)。
正夫(和田壮礼〈たけのり〉氏)は原爆症で死ぬ。手榴弾で米兵に復讐を考える勝利(森唯人氏)は台風の中、小屋で溺れ死ぬ。英彦(菊川斗希氏)は哲学じいたんに叱咤を受けて生きる。石碑に刻まれた享年。やはり死因は原爆症。
帰り、小学生くらいの男の子が椅子から立ち上がれない程号泣していた。

当り前のように人々が死んでいく中、それでも生き抜く人間の物語。ジェームズ・キャメロンは現在製作中の原爆映画についてこう語る。「人間という存在が究極的な生死をかけた状況の中、自分よりも他者を大切にしていた事実」。瞬間的に身体を焼かれながら、それでも他の人を一人でも多く助けようとしていたこと。人間の根源には優しさがある。その優しさを信じて絶望の中から生きてゆけ。

もっと長尺で観てみたい。これこそ映画化すべき。
vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2025/07/25 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「そぞろの民」

2015年初演作品を30分削っている。2015年9月19日、新安保法案が成立。「平和安全法制整備法」と「国際平和支援法」。外部からの武力攻撃に対し日本を米国が防衛する義務、日本の領域内で米軍が武力攻撃を受けた場合、日本が防衛を負う義務。解釈次第では日本は戦争に巻き込まれ加担する可能性の法制化。自衛隊を正規な日本軍と認めさせたい流れ。リチャード・アーミテージ元米国務副長官はかねてから日本に有事法制の整備を迫っていた。

介護施設に入居している元大学教授の父(中嶋ベン氏)、勝手に抜け出して深夜実家でTVを凝視する。新安保法案が参議院本会議にて可決、成立。武力放棄、外交による平和維持を日本国の柱として訴え続けてきた人生の敗北。父は庭先で首を吊る。

通夜が営まれる。
次男、星野卓誠(たかのぶ)氏は新聞記者。その妻の週刊誌編集者、川﨑初夏さん。三男、倉貫匡弘氏は元AIエンジニア。その恋人、フリーライターの杉本有美さん。父の教え子だった週刊誌記者、寺中寿之氏。従兄弟のTV局勤務のみやざこ夏穂氏。沖縄からやって来る再従兄弟(はとこ)の長谷川景氏。介護施設の副施設長、小崎実希子さん。フィリピン滞在の外交官である長男、千賀功嗣氏はまだ到着しない。

寺中寿之氏はスリムになった中西学っぽいゴツさ。
千賀功嗣氏は舛添要一と中畑清を足した感じ。
みやざこ夏穂氏は政治家顔、海部俊樹の若い頃みたい。※松本龍か?
杉本有美さんは綺麗。

同時に二作品公演するのだから配役を上手く分担するのだと思っていたらほぼ全員ガッチリどちらをも演らせていた···。狂ってる。何かの実験か?
台詞が飛ぶ危ういシーンもあったがすかさず共演者が口を挟み成立させていく緊迫感。観てる方もビクビクする。

父は何故自殺したのか?通夜の席で息子達兄弟を中心に責任の追求が始まる。敗戦の焼跡、瓦礫の山から国を再建し築き上げた戦後日本社会。何処で間違えたのか?何を間違えたのか?三好十郎の『廃墟』への70年後の返歌。
是非観に行って頂きたい。

※寺中寿之氏の負傷の為、7月30日14時の『そぞろの民』は中止。19時の『廃墟』から千賀功嗣氏が代役に入る。8月1日14時の『そぞろの民』から中津留章仁氏!が代役に。マジか!?観れる方は是非!

ネタバレBOX

自分は信者じゃないので与えられたものを何でも拝む訳じゃない。何かよく分からない演劇。でも妙な魅力はある。中津留章仁氏の考えていることは掴みようがない。そのズレが笑いとして機能もするのだが。(国際問題と兄弟それぞれの人生の処し方とを無理矢理関連付けて戦わせるのは笑うところだろ)。

細かな飲み食いが実は重要。冷蔵庫から缶ビールを取り出しコップと共にお盆に載せ配膳する。ちょっとしたつまみ。お新香を切り分ける。飲めない人には麦茶を。そういう見慣れた光景を基調として観客に世界を馴染ませている。

父親はこう考えたのか?自我のない協調性だけの戦後日本人を生み出したのは自分達である。思想哲学価値観もなく他人の顔色を伺いその場の空気に合わせていく。その行き着く先が時局に合わせての新安保法案容認。自分が敗戦から学び目指した新しい価値観教育の成れの果て。この法案の成立は自分の人生の全否定であると独り首を吊る。その父の絶望を知って息子も首を吊る。自分には信念などない。周りに合わせていく協調性しかない。
鏡の中の鏡

鏡の中の鏡

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2025/07/26 (土) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

MVPは美術デザインの深沢襟さん。この人のセンスはヤバイ。見たことのないデザイン感覚。ハニカム構造の白い網のような物をぐるぐると身体に巻き付けていく。無数のドアが綺麗に折り畳まれていく。幾何学的な部屋が幾つも出現しては一つの箱になる。エッシャーの騙し絵のような世界。まさしく今作の視覚化に成功している。視覚と素材の触覚までも計算しているのだろう。

榊原有美さんによる子供達を参加させる遊戯感覚のオープニング。沢山のひらがなが散らばっている。和やかな雰囲気を一変させて金属の牛の仮面を着けた杉山賢氏が登場し静かな声で語り出す。「私の名前はホア」。(自分はコア〈CORE〉と聴こえた)。暗い声が木霊する。一変した雰囲気に怯えて泣き叫ぶ幼児。前半はもろ万有引力の世界。自分という牢獄から何とか脱出を計るミノタウロスの独白。迷宮ラビュリントスに閉じ込められた牛頭人身の男は音が無限に反響する世界を彷徨い歩く。

この迷宮都市から脱け出す為の試験を受ける若者(杉山賢氏)。翼を着け幸福に包まれた彼に町の不幸な男(大高浩一氏)が自分の不幸を少し肩代わりしてくれと頼む。杖として体にぶら下げられる不幸。ステッキやら傘の柄やら観客も次々にぶら下げていく。重くなった身体を引きずる若者、与えられた試験を忠実にこなした。だが結果は不合格。服従しないことこそがこの試験の答だったのだ。

断片的な短篇が無作為に続く。

子供相手にこれをやるのかという興奮はあった。子供の機嫌など露程も気に掛けない姿勢は好感。

ネタバレBOX

等身大の透明な人型のアクリルシート。大高浩一氏がハンドルを回すとまるで走っているようにも見える。

幕が上がったら芝居が始まるのだがいつまで経っても幕は上がらない。

絶え間なく続く芝居、その芝居だけが世界を一つに結び付けていた。ある日、ある一つの言葉が消えてしまう。その言葉なしでは芝居は続けられない。世界はバラバラな断片になりもうそれぞれは何一つ関係がなくなってしまった。その言葉とは何か?

展覧会を観に来た夫婦(大高浩一氏と舘野百代さん)。受付の女(榊原有美さん)は出入口のない部屋に閉じ込められている。

見張り台から望遠鏡を持った船乗りが降りて来る。そこにバランスポールを持った綱渡りが歩いて来て鉢合わせ。

寝台に寝ている人形。

王女アリアドネー(榊原有美さん)と英雄テーセウス(杉山賢氏)が迷宮ラビュリントスの扉の前で対話する。テーセウスがその中に入って行く。彼はミノタウロスを倒す目的を果たせぬままミノタウロスになり、冒頭に戻る。「おわり」と「はじまり」はいつも同時にやって来る。

前半は超面白い。恐るべしSPAC!と驚嘆したが、展示室の受付エピソードくらいから停滞。ナンセンスなオチのないコントの垂れ流し。原作がどうだか知らないが、二次創作としてやるのなら肚を決めて欲しい。解き明かすべきものが何もないと判った時からぼんやりと遣り取りを眺めるだけになる。ある一つの観念が伝わるように工夫すべき。

ミヒャエル・エンデは今作をホメオパシー(ホメオパティー)として書いたと言う。薄めに薄めた猛毒を服用させることにより毒への抵抗力が生まれ、読者を健康にする。それが芸術の治癒効果の秘密。

この世界を脱出する方法は演劇しかないという話は面白かった。自分で自分を現実世界で演じていくしかない。
わたしたちをつなぐたび

わたしたちをつなぐたび

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2025/07/21 (月) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

原作はイリーナ・ブリヌルの絵本。大池容子さんの描いてきた世界観と重なるのでオリジナルかと思った。記憶の遡行とメランコリックな歌。自分と世界とを紐解いていく精神的な旅。
美術が見事、重量感を感じる様々な青銅の椅子が並ぶ。背もたれが高く格子状のデザインで梯子にも障子にも見える。

森の奥深く静かに母娘暮らす小さな一軒家。
動物の言葉が理解できる主演の少女、藤戸野絵さんに腕がある。「なんでどうしてなんで」の歌が良かった。
背もたれが水平ではなく斜めに傾いている、変わった椅子を作る少路勇介氏。佐藤滋っぽい。歌声が忌野清志郎入ってる。
少女の母親やサケの下司尚実さん。
シカやリスの岩永丞威氏のブレイキン。
シカやキツネの山田茉琳さんはストレッチのヨガポーズ。
コウノトリの造形も匠。川の表現がとても繊細で美しい。

「何故、自分には父親がいないのか?」ある日ふと母親に尋ねた少女。母の答は「ある日、コウノトリが運んで来たの」。そんなディズニーな世界観、今じゃあ乗れないよ。だがどうやらマジらしい。運んで来たコウノトリに経緯を聞く。リスがサケがキツネが···。自分のルーツを辿る旅。それは偶然なのか必然か。自分は一体何なのか?

ネタバレBOX

前半がちょっと退屈。歌以外にネタを仕込んだ方がいい。椅子屋の時事ネタなんかで観客の目先を弄ったり。「動物と子供のfriendship」だと作品のフレームを読んだ連中に一発かましたい。

冒頭に登場する椅子屋が孤児院で少年として存在している。まさに時間の遡行。だが彼は言う。母親が見つかったのに君は何故ここにいるの?ああ、時間は一方向にしか流れてゆかない。過去に戻ってももうそこに自分はいない。自分がいるのは未来を見据える現在にだけだ。それがどんなにうんざりする現実だとしても。少女は名前をユメと告げる。母親はコウノトリが運んで来た赤ん坊に自分の夢を託した。きっと自分の果たし得なかった夢さえ叶えてくれる筈。終演後の客席、ボロボロ泣く母親に幼い娘が「ママ、どうして泣いてるの?」と訊いていた。母親は何も答えない。

怪獣大戦争マーチ(自衛隊マーチ)が流れるロビー。
下に降りると劇団白昼夢がアトリウムにて15分程度の公演を無料開催。詰襟学生服に白塗りの三人組。土方巽起源の伝統的アングラスタイル。自転車紙芝居屋。令和では異形の異化効果よりも野性爆弾のくっきー!みたいな面白いことをやる人の捉え方。
vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2025/07/25 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「廃墟」

完全にイカれてる。昔、スタークラブが「RADICAL RADICAL RADICAL REAL ROCK!」と歌ったがまさにそんな舞台。
敗戦の玉音放送、家族を疎開させ自宅で独り聴いた三好十郎。訳も分からず声を上げて泣いた。しかしその理由がどうにも言語化できない。自分の根源で瞑想するが如く問い掛けては1946年11月に書き上げた戯曲が今作。日本人のことが好きで好きで堪らない自分に気付いて驚いたと言う。

家の主、北直樹氏。休職願を出している歴史学者の大学教授。自らの戦争責任に対して思い悩み近代日本の成り立ちをもう一度検証しようと考える。

長男、長谷川景氏。新聞社勤務の共産党員。戦中、特高に検挙されて終戦まで刑務所に入れられていた。

長女、登場せず。有望な女医だったが敗戦を知って自害。

次男、倉貫匡弘氏。真面目で一本気、優秀な学生だったが召集のち特攻隊に取られ、敗戦を迎える。信じるに足るものを全て失ったアプレゲール(戦後派)。命知らずの愚連隊として全ての価値観に唾を吐いて回る。1936年発売、「HERMES DRY GIN(ヘルメス・ドライ・ジン)」をガブ飲み。度数は37度。飲み過ぎだろ。

次女、小崎実希子さん。顔の右半分を覆うケロイド。イスラム教を信仰しようとしているのか?

亡き妻の弟、吉田祐健氏。ブラジルなどの海外移民ゴロであろう。

焼け出され家事を賄う住み込みの女性、川﨑初夏さん。今作のキーパーソン。実に色っぽい。水を汲んでお茶を淹れ、茶碗を洗い布巾で拭く。

大工の棟梁の娘、小谷佳加さん。自宅建築費用の未払い金の催促に訪れる。この役は演りたかったろう。実に生き生きとしていた。

自殺した長女の学友、今はパンパンの下池沙知さん。

北直樹氏は演劇歴36年、「こんなに難しい台本とは初めて出会いました!」と書かれていた。北大路欣也風メイクでこの戯曲を我が物とする。無論MVP。
隻腕の学生、星野卓誠(たかのぶ)氏は中村勘九郎っぽい。
倉貫匡弘氏は中山一也や北村一輝のイケメン犯罪者の系譜。
小崎実希子さんは役の幅が膨れ上がった。

中津留章仁氏のもと、狂気の討論劇(ディスカッション・アクト)に身を投ず劇団員と客演達。これこそアングラだと思う。映画として公開された『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』なんかに興奮した連中は絶対観るべき。『日本の夜と霧』のような緊迫感。今作の凄さは三好十郎の戯曲ではなく、それを全身全霊込めて肉体化し憑依させた役者達にこそある。令和に誇るべきアングラ芝居。

ネタバレBOX

この世には二つの立場の人間しかいない。資本家(ブルジョワジー)と労働者(プロレタリアート)だ。資本家を打倒した後に労働者による平等な世界が訪れる。共産主義=平等主義。人間に貴賤貧富の差のない平等な社会の実現。だが果たして人間はそんな生物だろうか?

政治的に右派=維持、左派=解体と考えれば解り易い。左派の方向性は何もかも解体して意味を無くしてしまおうという考え方。その結果として国がメチャメチャになるパターンが多発する。家父長制、歴史、伝統、家族、性別、国籍、ゆくゆくは国家すら解体しようと企む。国がなくなってしまえば世界はいずれ一つになるという妄想か?性善説を盲信する余り、全く人間の本質を掴めていない。本能的に左派に忌避感を抱く人間は仕方なく右派を支持することとなる。

吉田祐健氏の登場から何か自分的には話が停滞した。どうもうまくない流れ。理由は判然としない。キャラの設定に違和感を覚えたのか。台詞のリズムが合わなかったのか。妙に引っ掛かった。

何となく黒澤明の『どん底』っぽさを感じ、「折角の踊りをぶち壊しやがって」と浮浪者が吐き捨てて締めるのかと思いきや、観客にペコペコと御辞儀。実は配役表を見るまで星野卓誠氏の二役だと思っていた。浮浪者は寺中寿之氏だったとは。

※観劇中に思い出したのは昔読んだ、とある宗教小説。ヤクザの若者が指を詰めて改心を示すラスト。今回の舞台の登場人物達もまるで信仰者のように見える。信仰によって世界は間違いなく変えられると信じている熱気。今の時代にないものはそれかも知れない。信じるに足る希望。世界をきっと正せると、全ての人間を導けると。
宮澤賢治・宛名のない手紙

宮澤賢治・宛名のない手紙

劇団昴

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2025/07/24 (木) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

超人気、流石来年50周年を迎える老舗劇団、風格がある。

「ケンタウルス、露を降らせ!」
ポランの広場、カラスウリの実をくり抜いて作った青い烏瓜のあかり。
イーハトーブオとは宮沢賢治が心の中に創った理想郷。岩手をもじったとされている。ある日、そこに暮らす山猫博士のもとに差出人不明、宛名のない手紙が届く。チュンセとポーセの兄妹の日々について書かれ、今もチュンセはポーセが何処に行ったのかを捜し続けている、と。それに非常に興味を持った山猫博士は手紙の中のヒントを辿り時空を越えて兄妹を捜す。それらしき兄妹が乗っていたのは銀河鉄道の客車だった。だが二人は否定する。けんじととし子だと。

山猫博士デステゥパーゴは金子由之氏、流石の名演。
けんじは音楽劇 『母さん』が記憶に残る町屋圭祐氏、少年役青年役を演らせたら無双。
とし子は『クリスマス・キャロル』で気になっていた上林未菜美さん、水を得た魚。
赤江隼平氏のかっこうの鳴き声。
聡鳥圭さんのキレのあるダンス。
森島美玖さんのほんわかした華。
江﨑泰介氏のたぬき。
洲本大輔氏のクールなヴァイオリニスト。
市川奈央子さんの三毛猫。

下手で生演奏のキーボード、佐藤拓馬氏。冨田勲を思わせるシンセサイザー交響楽が青白く光り有機交流電燈の電子幻想曲を奏でる。『どんぐりと山猫』の喧々諤々どんぐりギャグ、『よだかの星』の鳥達の歌が最高。

宮沢賢治の世界を丁寧に表現。選ばれた作品は人間と動物との関係性が強いもの。『よだかの星』が一際響いた。
宮沢賢治の作品は今では日本テレビの子会社となったスタジオジブリで全作アニメ化地上波TV放映して欲しい。
素晴らしい作品だった。

ネタバレBOX

第一幕『手紙 四』『銀河鉄道の夜』『どんぐりと山猫』『注文の多い料理店』。
第二幕『よだかの星』『セロ弾きのゴーシュ』『双子の星』『永訣の朝』『無声慟哭』。

『どんぐりと山猫』でジブリ調にスタート。
『注文の多い料理店』ではポールハンガーを役者達がこなす。ベネチアンマスクを被ったスタイリッシュな獣達。有名な話だが面白く観れる。
そして第二幕、『よだかの星』は凄まじい。生来の醜さ故に蔑まれ嫌われ侮蔑され罵倒されるよだか。残酷な鳥達はよだかを差別排除する。そして鷹からは殺すと予告される。どうしようもなく追い詰められたよだかは自分より弱い虫共を惨殺して気を晴らす。羽虫や甲虫が怯えて逃げ惑う様を高笑い。だがその自分の弱さ醜さに自分自身がいたたまれなくなって涙を零す。死のうと思う。何処までも空を飛んで行く。上林未菜美さんの名演。生きるものが業と向かい合う姿。
そこから牧歌的な『セロ弾きのゴーシュ』は無理があるだろうと思ったがなかなかの腕力で強引に引っ張る。楽隊の楽器をそれぞれの形に切り抜いた平面の板で表現。妙な味がある。

全ての存在を幸福にする論理。
ポーセのことを本当に想うのならば全ての生き物が本当に幸福になる方法を探し出すこと。

宮沢賢治作品の感動は自己犠牲の美しさにある。法華経に説かれる薬王菩薩の焼身供養、自らの身を焼いてこの世を照らした説話。だが他者の尊い犠牲の上に成立する歪んだ社会をセンチメンタリズムで昇華してみせてもこの歪み自体は変わらない。宮沢賢治はその先にある築くべき社会を銀河鉄道から下車したジョバンニに託した筈。まことのみんなの幸いを。皆の為に自分を殺して生きるのは御免だ。多数の幸福の為に少数の犠牲が強要されるような世の中はうんざりだ。それがどんなに感動的でも。
家畜追いの妻

家畜追いの妻

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2025/07/20 (日) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2回目。
不在の老犬アリゲーターが気になる。
役者陣、かなり細かい所作をプラスしているのが伝わった。

2016年、この舞台はオーストラリアで大々的なセンセーションを巻き起こす。大ヒットした上、演劇賞を総ナメ。戯曲が文学賞まで受賞する初の事態に。映画化もされた。何故、今作がオーストラリア人にそれ程衝撃を与えたのか?それを考えるのも興味深い。

日本での上演を当初断られたのだが、翻訳家・佐和田敬司氏の長年培った信頼と尽力で何とかここまで漕ぎ着けた作品。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

作品に合わせ観方を変えると更に面白く感じた。家族を守る為なら何でもするのが今作の登場人物の信念。家族こそが全て。アボリジナルも同じ哲学。「肌」は「部族」のことを意味し、「同じ肌」とは「同族」の意味。
ウォークアバウト=アボリジナルの少年の通過儀礼。15、6歳位になると家族から離れ独りで旅に出ないといけない。半年程、独り荒野で生きてゆく知恵と術とを体得する。

月船さららさんの破水シーンも必見。

巨大な満月に照らされた美しい大木、吊るされたヤダカの死骸が風に揺れている。これは絵として見たいところ。
家畜追いの妻

家畜追いの妻

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2025/07/20 (日) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

オーストラリアの国民的作家、ヘンリー・ローソン。オーストラリア・ドル紙幣の肖像にも選ばれた程。『家畜追いの妻』という9ページの短編小説はオーストラリア人なら誰もが知っている古典。今作の作家、アボリジナルであるリア・パーセルはこの題名を敢えて使用してアボリジナル目線から物語を綴った。闇に封印されてきたもう一つのオーストラリアの物語。

アボリジナル(オーストラリア大陸の先住民)。従来日本ではアボリジニと呼称されていたが、現地ではアボリジニは差別用語扱いらしい。アボリジナル独自の文化、ドリーミング(アボリジナルの人生観、世界観、民族としてのアイデンティティ=自己認識)。アボリジナルの世界観は時間と自然と祖先とが混ざり合った霊的世界で暮らすもの。アボリジナルは今尚精霊達と交流し互いにメッセージを送り合って生きている。

主演モリー・ジョンソン役、月船さららさん。四人の子供を抱えた妊婦。劇団がオファーを掛けた意味が判る。今を必死に生きている存在。息絶え絶えに目をギラつかせて今日をどうにか生き延びる獣。肩に掛けたマルティニ・ヘンリー銃。欲望と暴力だけが支配する土地で女手一つ子供達を一人前に育て上げねばならぬ。口ずさむ歌が最高。皆忘れてるかも知れないが元宝塚女優、辞めなければトップ確実とまで言われていたエリート。

アボリジナルのヤダカ役、筑波竜一氏は千葉真一の弟、千葉治郎(矢吹二朗)っぽいかも。渡瀬恒彦風味も。鎖の付いた首枷をはめられたまま何処かから脱走してきた原住民。生きてゆく方法、生きてゆく意味を知っている。

不在の夫、ジョー・ジョンソン。雇い主から預かった家畜の群れを安全に生活させながら長距離移動させるのが仕事。羊が放牧地の草を食べ尽くしたら次のパドック(屋外の放牧地)に移動させる。長期間、家を空けることになる。

モリーの息子、ダニーは根本浩平氏。ヤダカに憧れる。
浮浪者トマス・マクニーリ役、大久保たかひろ氏は適役。カウボーイハットにスタッズを吊るすセンス。
行商人ドナルド・マーチャント役、佐京翔也氏は水を得た魚。虫歯の抜歯からのいい流れ。
レズリー巡査役、駒形亘昭(のぶあき)氏。
家畜追い仲間、ロバート・パーセン役、岡本高英氏はまさにリアルな荒くれ者。とても話が通じそうにない。お手上げだ。
同じく家畜追い、ジョン・マクファーレン役、井上覚氏。反吐が出るキャラ設定に徹する。

アフタートークで翻訳家であり、早稲田大学教授、オーストラリア演劇研究者の佐和田敬司氏の話が興味深かった。民族のアイデンティティは目に見えない部分にこそある。そここそが重要、核となるのは精神性。

本物の手斧を小道具で使用している。重々しい。
きびきびとしたスタッフの西本さおりさんが印象的。
佐和田敬司氏翻訳のオーストラリア演劇シリーズは必見だと思う。これは鉱脈を掘り当てた。劇団俳小の看板になる。もっと広く世間にアピールすべき。知れば興味ある人は必ずいる筈。何故今これを観るべきなのかを論理的に伝えなければいけない。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

『みんな鳥になって』もアイデンティティの物語だった。自分が自分である根拠、所以。敬虔なユダヤ教徒のユダヤ人一家に生まれた主人公はアラブ人の恋人と結婚したい。家族にそれを許して貰いたいが、拒絶される。宗教だの民族だの歴史だの伝統だの下らない戯れ言。自らのアイデンティティはそこにはないと思う。ユダヤ人であることに誇りを持っていた父は実は赤ん坊の時盗まれたアラブ人だった。ユダヤ人として育てられただけ。そのことを知った父は壊れてしまう。アイデンティティ・クライシス。自分が自分である根拠を失った。自分の拠り所の何という脆弱性。そこで皆アイデンティティを探す。自分が生きていく為の心の地図を。自分という存在のしっくりくる生き方を。自然に在るべき姿を。

今作ではモリーが自分の出自がアボリジナルであったことを知り、いろいろな謎が解ける。孤独だと思っていた自分の生き様は祖先達がずっと見守り共にあったことを。アイデンティティは道しるべ、ずっと精霊達が道を照らしてくれている。自分は独りではなかった。

演出が振り切れていない。シリアスでドロドロなものが観たかったが何処か中途半端。アメリカの90's 西部劇っぽい軽さ。何か時代と地域の閉塞性、重圧やストレスが感じられない。踏みしめる大地の砂埃。日々の生活の苦々しさ。物語が転調する一番重要な場面、家に踏み込んだ巡査を殺してしまうくだりが段取り芝居。これではしらける。

演出の山本隆世氏は今作についてかなり口ごもる。いろんな制約があって自由にやれなかったのだろう。ブラックフェイス(黒人ではないものが黒人風にする舞台化粧)をしなかったこともその一つだろう。自分は敢えて今作こそやるべきだったと思う。この物語を的確に伝えるには必要な効果。高度に差別の概念を弄ると逆効果になる。(精神性の過剰な押し付けは作品を台無しにする)。モリーの母親、二人の赤子を抱くブラックメアリーがタイトルロールで登場する。(演出助手で今作に関わっている諸角真奈美さんか?)彼女だけブラックフェイス。だが作品としての効果はてきめん。作品イメージを司るイコン。物語にとって視覚効果は重要。まず観客に作品を誠心誠意提供すべき。物語にのめり込み興奮高揚したからこそ作品を愛す。全てはその後のこと。その前にぐだぐだやるとフェミニストの演説みたいで味気無い。全ては観客のものだ。肌の色の違いこそ、当時の世界を司る極めて単純なルール。その虚しさ、無意味さをも表現すべき。(トランスジェンダー〈性別と性自認が一致していない人〉を巡る競技についてのトラブルも同様な混乱)。

レズリー巡査役、駒形亘昭氏の場面はコントっぽい。作品世界との違和感。アフタートークの司会は絶妙だっただけに不思議。もっと暴力的で感情的な演出が合ったのかも。
井上覚氏のSEXはもっとリアルな方がいい。観客を心底どんよりとした気持ちにさせるべき。本当、今後顔を見るのも嫌な位トラウマにして欲しい。

※月船さららさんの歌った曲が今も脳裏に流れる。
スコットランド民謡「Black is the color of my true love's hair」。

黒は僕が心から愛する彼女の髪の色
彼女の唇は美しい薔薇の色
誰よりも愛らしい顔と優美な手
彼女が立つこの土地が僕は愛おしい

※The Corrsの『Black Is the Colour』がカッコイイ。
グロリアストラベル

グロリアストラベル

桃尻犬

浅草九劇(東京都)

2025/07/16 (水) ~ 2025/07/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

無茶苦茶面白い。笑いとして今年観た中で一番高レヴェル。こういう笑いが好きなんだな。
キャスティングが秀逸。文句なし。

佐野剛氏はウィレム・デフォー系。声が誰か(お笑い芸人?カミナリのたくみ?)に似ていて特徴的で味がある。聴き入ってしまう。
加納和可子さんもズバリ。この人じゃないといけないと思わせる。横澤夏子っぽいキャラ。
小笠原遊香さんは強烈な飛び道具。最初の泣き顔からこの界隈じゃかなり有名な人なのかと勘繰る程。
林竜三氏が出ているとは思わなかった。何か似ているなあ、と思ったが。出演してはいないが劇団チョコレートケーキの名作『帰還不能点』にかこつけたのか「point of no return」の語句が作品内に出る。
海上学彦氏は毎度ルックスに似合わぬ抜けっぷり。実は言っていること考えていること相当意識が高い。
片桐美穂さんはフワちゃん系の破壊力。闇が垣間見える。
堀靖明氏は凄腕。要チェック。
宝保里実さんは今回の役が一番板に付いていた。かなり面白いキャラ。
青山祥子さんは手足が細すぎて驚く。

こういう作品を観れることが演劇の醍醐味。
何も上手く行かない時こそ心を澄ませ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

東京のパン屋「ニシカワベーカリー」が青森県のイベントに参加する為、車を走らせる。店主(佐野剛氏)、妻(加納和可子さん)、中2の娘(小笠原遊香さん)、店主の父(林竜三氏)、ヒッチハイカー(海上学彦氏、片桐美穂さん)が乗る。もう一台には古株職人(堀靖明氏)、新人(宝保里実さん)、ホールスタッフ(青山祥子さん)が。店主と妻は口論が絶えず、娘は離婚を心配して気が気ではない。店の経営状態も悪く、ムシャクシャする店主は今回の旅行が何かの切っ掛けにならないかと夢想。車は大渋滞に嵌って動かない。

コートニー・ラブのガナリ声の印象が残る。
父と暮せば

父と暮せば

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/07/05 (土) ~ 2025/07/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。
かなり遣り取りの密度が上がっている。瀬戸さおりさんの表情の変化が凄い。松角洋平氏の台詞一つ一つを受けて瞬時に変えてみせる。『この世界の片隅に』のすずさんのような素直さ。観客は自分の心を隠し切れない生まれついての天真爛漫さに惹かれていく。大きな饅頭にかぶりつく幸福そうな顔。
そして松角洋平氏の原爆への怒り。全ての被爆者の無念を代表して天に向かって怒声を上げる。こんな残酷な苦しみ、人間の歴史には決して必要のないもの。人間はこの地獄を教訓として未来を変えていかないといけない。戦争は憎悪の捌け口、その先に広がる光景は自らをも滅ぼす。
必見。

ネタバレBOX

瀬戸さおりさんは下瞼に赤いアイライナーを引いている。それが最後のシーンでは消えている。心境の変化を表しているのだろう。
松角洋平氏は長南亮に似ている。山本麟一っぽくもある。

他人の不幸は所詮他人の不幸でしかない。同じく自分の不幸も他人からしてみれば他人ごと。だが不幸が主観的なものではなく共通の敵だとしたら。
不幸が病気ならきっと治癒できる。
音楽劇 金鶏 二番花

音楽劇 金鶏 二番花

あやめ十八番

座・高円寺1(東京都)

2025/07/07 (月) ~ 2025/07/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。
初回よりも面白く感じた。前回は金子侑加さんの老女の台詞がさっぱり聴き取れなかったが、かなり改善されていた。

クリント・イーストウッド監督の硫黄島ニ部作『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』。アメリカ側と日本側に視点を分け「硫黄島の戦い」を映画化。アメリカが奪取後、日本本土空襲の発進基地となる重要な拠点だった為、地獄の激戦に。
今作も『金鶏 二番花』『金鶏 一番花』で全体像が完成するように作られている。その為の伏線であろう台詞も多い。

ここは本当に凄い才能が掛け合わさっていく様を体感できる場。居合わせることの幸運。作家(堀越涼氏)の見ている先はもっととんでもない場所だろう。本当に前人未踏の領域へ。

ネタバレBOX

2025年、NHK放送100周年を記念して黒柳徹子と先輩である宮田恵美(河口恵美子)が思い出を語るトーク番組。宮田恵美は亡くなっており、生きていても百歳を越えている為、1992年位の設定かな?と思ったが現在だった。そりゃ腰も曲がりゃ声もしゃがれる。

ライターは消しゴム?、椅子はNHKと印字された箱馬、花束はメガホン、お菓子は紙テープ?、テーブルは脚立で見立てる。

丸川敬之氏と浜端ヨウヘイ氏が天井から操るマリオネット劇。
念仏を唱える母親(璃音〈りのん〉さん)を家に置きハレー彗星を見に外に駆け出す高柳健次郎(藤江花さん)。曲は「ハレー彗星から生き残れ」。幻想的な夜の丘を何処までも駆けていく宮沢賢治的名シーン。
浜松高等工業学校に助教授として赴任し、学長(内田靖子さん)の訓示に心震わすシーン。その後、藤江花さんと内田靖子さんがタップを踏むのも決まる。

金子侑加さんの姉(高岡由季さん)は帝国放送効果団のアコーディオン。

宮内國郎のウルトラマン調「ピストルと大砲」。

浜端ヨウヘイ氏は声が上田晋也と富澤たけしっぽくもある。左肩を痛めているのか湿布。
サナトリウムで浜端ヨウヘイ氏が起こした騒動、ラジオから流れてきた曲(「僕の可愛い妹よ」)を「この曲好き!」と歌い出して内田靖子さんが治める。この曲が良い曲で、河西美季さんが歌う妹・中野亜美さんへの歌に繋がる。

照明技師の武市佳久氏と田久保柚香さんの悲恋。「恋は日光網膜症」も良かった。

「特効野郎!ストレプトマイシン」は『ゴジラ対ヘドラ』の名曲「かえせ! 太陽を」を思い起こさせる出来。サナトリウム看護婦トリオで決める。織詠(おりえ)さん、藤江花さん、古川和佳奈さん。

ラストの紅白メドレーは前回よりも曲数が増えていたと思う。作品を彩った歌のリフレインは上手い。

神宮外苑で行われた「出陣学徒壮行会」を実況した井上裕朗氏。その中に愛する息子もいた。隠れて酒を飲んでやり切れない思い。ビルマで戦死した息子。戦後も酒に溺れる。彼の存在が作品の柱になっている。

スマトラ島は石油など天然資源が豊富だった為、爆撃されず。そこで見た蜃気楼。

当時のテレビのイメージは街頭テレビに群がる人々と力道山。今作に足りないのはテレビのイメージ。ラジオ番組の印象の方が強くなっている。

井上裕朗氏、内田靖子さん、田久保柚香さんの方が物語の引きが強い。

「遠くまで届ける為にテレビはあるんだ。きっと向こう(あの世)にだって届いてるよ。」
「人生は生放送。」

鴻上尚史でお馴染みのOpus「Live Is Life」を思い出す。
音楽劇 金鶏 二番花

音楽劇 金鶏 二番花

あやめ十八番

座・高円寺1(東京都)

2025/07/07 (月) ~ 2025/07/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕80分休憩10分第二幕85分。

時代は1992年だろうか?NHK放送劇団一期生の老女がNHKスタジオで後輩の五期生の女性タレントとトーク。日本のテレビ放送の歴史を振り返る特番のようだ。亡くなった旦那は日本を代表する名アナウンサーだった。思い返せば時は1950年(昭和25年)11月、NHKは週1回だけ1日3時間の定期実験放送を開始。それを日本橋三越の会場にて一般に公開。先は何も見えないがあり余る情熱だけはスタジオ中に満ち満ちていた。

織り込まれる戦時中のNHKラジオ局でのエピソード。詩を募集し選ばれたものに曲を付けて歌にする番組。そこに送られてきた「愛おしいもの」。時局柄、反戦歌として検閲される恐れもあった。だが金子侑加さんがその歌を歌うことで人々の運命が動く。

MVPは内田靖子さんだろう。やるな。
浜端ヨウヘイ氏はイケメンの諏訪魔(全日本プロレスのレスラー)みたいでカッコイイ。本職は歌手なので流石の歌声。
中野亜美さんの多彩な表情は昔から『おはよう!スパンク』を連想する。金子侑加さんとの二枚看板までになるとは。
田久保柚香さんは必ず胸に残る存在。巧い。

黒柳徹子の話を思い出す。養成所時代、アメリカからNBCのプロデューサー、テッド・アレグレッティが技術的な指導の為来日し講演。「今後テレビは今世紀最大のメディアになるだろう。いずれ世界中のあらゆるものを見ることができるようになる。使い方次第でテレビは人々を幸せに導き、世界に永遠の平和をもたらすことができる」。その言葉に感銘を受けこの仕事に誇りを持ってやってきたと。

もの凄いボリューム、一回だけじゃ物足りない。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

第一幕が描き込みや仕掛けが多過ぎ、ごちゃごちゃして何か世界に入りづらかった。クリストファー・ノーランの映画みたいな情報量。それが第二幕は嘘のように全てのエピソードが綺麗に澄んでクリアにされる。流石。凄い魔法。成程。

日本のテレビの父、高柳健次郎。今作では桂憲一氏演ずる金原賢三。9月に演る『金鶏 一番花』の主人公でもある。
彼がNHKスタジオでインタビューに答えている。「何故、テレビを発明しようと思ったんですか?」
思い起こすのは11歳の頃、ハレー彗星の接近で地球上の空気が吸えなくなり窒息死するというデマが飛んだ。パニックに陥る民衆。帰宅した高柳少年は母親に死ぬ前に何がしたいのか尋ねる。「そうね、歌舞伎がもう一度観たいかしらね。東京まで観に行くにはお金がかかり過ぎる。歌舞伎の方からこっちに来てくれればいいのに」。
日本中に伝わる金鶏伝説。天上に住む金の鶏は無限に金の卵を産む。それを捕まえた者が国の何処かに埋めたという。国が危機に陥った時こそそれを掘り出せと。工業学校の入学式、胸に残る恩師の言葉。「その金鶏が埋まっている場所は君達自身の胸の中だ。必死になってそれを掘り出して国を救え」。
人形劇でその少年時代を再現するのだが、演じている藤江花さんのパントマイムが凄かった。勿論他の方も。

使う小物をスタジオの道具で見立てる。煙草は白い鉛筆、葉巻はマジック、湯呑みは養生テープ、ベッドは脚立。そして吐く血は赤鉛筆の束。

円谷プロの特撮モノのような曲やヒーロー物の「特効野郎!ストレプトマイシン」の振付にやられた。

高橋圭三、宮田輝、和田信賢、藤倉修一、河口恵美子、黒柳徹子などがモデル。
みんな鳥になって

みんな鳥になって

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2025/06/28 (土) ~ 2025/07/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

第一幕105分休憩20分第二幕85分。

今年No.1の作品かも知れない。間違いなく見逃したら後悔する。今、この世界状況で今作を日本で上演することは偶然ではなく必然。運命的なものを感じた。
ワジディ・ムアワッドが2016年に発表した作品。レバノン・ベイルートに生まれ内戦を逃れて8歳の時、一家でフランスに亡命。元々レバノンはフランスの統治下だった為、フランス語圏。だが15の時、滞在を拒否されカナダのケベック州へ一家で移住。ケベックの公用語もフランス語。カナダ国立演劇学校を卒業後、劇団を設立。2007年、国立劇場の芸術監督に就任。到頭2016年、自分達を追い出したフランス・パリの国立劇場の芸術監督に就任。その一作目である今作は彼にとって最大のヒット作となった。「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」にて『空を飛べたなら』のタイトルで公演予定だったがコロナにより中止。到頭本邦初公開。原題は『tous des oiseaux』(全ての鳥)、英訳では『Birds of a Kind』(ある種の鳥)、今回の日本語タイトルは『みんな鳥になって』。

照明が神懸かっている。ちょっと並のレヴェルではない。

現代の『ロミオとジュリエット』。ニューヨークの大学図書館、遺伝学・量子論・統計学を学ぶドイツ系ユダヤ人エイタン(中島裕翔〈ゆうと〉氏)はイブン・ハリカンによって書かれた「ワファヤット・アル・アヤン」(13世紀イスラムの人物辞典)を座ろうとしたテーブルに見付ける。偶然とは思えない程、この図書館に一冊しかないその本は彼が訪れる度待ち受けている。そしてそれを使って博士論文を書いているアラブ系アメリカ人美女ワヒダ(岡本玲さん)。そのどうしようもない美しさに理性が吹っ飛び思わず話し掛けてしまう。もう自分でも何を言っているのか解らないが本能的に必死になって。それを黙って眺めていたワヒダはくすくす笑い出す。何処か踊れる場所に行かない?

遺伝子の入れ物である46本の染色体、血族から受け継いだDNAに書き込まれている設計図。先祖から受け継ぐ情報は生物学的なものだけ。記憶や経験が遺伝する訳じゃない。最先端の科学を学び、遺伝情報を理解したインテリジェンスな若者達は旧来の迷信や因習など打破できる。民族の歴史など乗り越えられる。もうそんな時代じゃないんだ。

エイタンはワヒダを紹介する為、ドイツから敬虔なユダヤ教一家である家族を呼ぶ。ユダヤ教にとって重要な儀式、「過ぎ越しの祭り」。そこで待っていたのは絶望的なまでの家族からの罵倒。怒りに打ち震えるエイタンは科学的にこの不条理を分析し解明しようと決める。

ワジディ・ムアワッド作品は『森 フォレ』しか観ていないが、その時感じた手塚治虫感を今作でも強く感じた。とにかくストーリーが面白い。
まさに日本を代表する役者陣が世界の芯を握り締めたトップ現代作家の作品と格闘。今こそ観るべき作品。イスラエルとアラブ(パレスチナ)の憎悪の歴史に正しい解答はあるのか?この作品の中にその答があるのか?今作は映画化して世界中の人に観せるべきだと思う。
必見。

ネタバレBOX

世田谷パブリックシアターだと当り前のように前田亜季さんが出ているものだと思っていた。今回いないことに驚く。

第一幕終了時点では最後まで観たらこの問題の解決策に辿り着ける気がして興奮した。一体それはどんな答なのか?

エイタンは家族に対して不信を感じ、密かに全員のDNA鑑定をする。(このあくまでも科学的に分析するスタンスが素晴らしい)。父母との親子関係は証明されたが祖父とは血縁関係がないことが判明。80年代に離婚して一人イスラエルに暮らす会ったこともない祖母に自分のルーツを問い質そうとワヒダとイスラエルに向かう。ヨルダン国境のアレンビー橋(キング・フセイン橋)を越えてイスラエルの国境検問所へ。世界一厳しいとされる入国審査で足止めを食うワヒダ。先に抜けてバスに乗ったエイタンはパレスチナ人による自爆テロに遭い昏睡状態に陥る。遠い異国で一人ワヒダはエイタンの祖母やドイツの家族に連絡を取る。

エイタンの父、ダヴィッド(岡本健一氏)が物語の中心人物。凄まじい役作り。ぐうの音も出ない。

エイタンの母、ノラ(那須佐代子さん)。ユダヤ人メイク、髪型、眉毛、着こなし、徹底している。よく研究しているなあ。「私はただの雌犬よ!!」

イスラエル女兵士エデンが松岡依都美さんだと気付いた時の衝撃。凄い配役。

アル=ワッザーン(ワザーン)は伊達暁氏。「火の鳥」のように時空を超えて人間達の営みを俯瞰しているよう。

エイタンの祖母、レア(麻実れいさん)は『ガラスの仮面』の月影先生。劇薬。

エイタンの祖父、エトガール(相島一之氏)はクライマックスの独白の迫力。口から勝手に言葉が迸るような怒涛の告解。

まるで岡本玲さんの通過儀礼のように化物役者陣との対決が続く。この中で生き抜くのは凄まじい。リアル『ガラスの仮面』だ。ワヒダはファム・ファタール(運命の女)。出逢う者出逢う者の人生に対し劇的に火を点ける。エイタンとの別れのシーンは『もののけ姫』だ。

Hey! Say! JUMPの中島裕翔(ゆうと)氏は『ウェンディ&ピーターパン』が印象深い。このメンバーに組み込まれるのは相当キツかった筈。よくやった。ラストに繰り返される台詞の意味。作家のこの問題に対する決意表明だと思った。「決して慰めたりはしない」。この問題に対して感傷的なものなど必要ない。慰めの言葉も要らないしこちらからかけることもない。有るのはこの地獄と向き合う人間の覚悟だけ。この地獄と自覚的に向き合う強い気持ちだけ。人類は憎悪を乗り越えることができるのか?きっと無理だろう。だがしかし、だがしかし···。

ワヒダが博士論文のテーマに選んだのはアル=ワッザーン(ワザーン)。
ハッサン・アル=ワッザーンはスペインのイスラム教徒の家に生まれモロッコで育ち外交官となる。1518年頃、旅の途中で海賊に襲われ奴隷としてローマに拉致、教皇レオ10世に献上される。洗礼を受けキリスト教に改宗、翻訳や辞書作成、北アフリカ全域を旅した経験を「アフリカ誌」として著した。
ワッザーンの好んだ話に「税を免れる鳥」がある。鳥の王に税を要求された鳥が海に逃げ魚と暮らす。今度は魚の王が税を要求するとまた空に戻っていく。まるでイソップ寓話の「鳥と獣とコウモリ」のような話だ。

レアがエトガールとダヴィッドとの別れを決めた事件。
1982年9月、レバノンで起きたサブラー・シャティーラ事件。イスラエルが隣国レバノンに侵攻し、親イスラエル政権としてバシール・ジェマイエル大統領を誕生させるもすぐに暗殺されてしまう。その報復として民間人しかいないパレスチナ難民キャンプに突入、二日間で三千人以上を無差別に虐殺した。こんな事をやっている国でダヴィッドを育ててはいけない。

「過ぎ越しの祭り」に隠したアフィコーメンを子供達に探させ、見付け出すとプレゼントが貰える儀式がある。マッツァー(小麦で作られたクラッカー)を割り、布で包んで家の何処かに隠す。それをアフィコーメンと呼ぶ。ダヴィッドはどうしてもそれを見付けられなかった。

どれだけ科学が発達し全てをデータで分析することができてもそれだけでは切り離せないカルマのようなものがある。ワヒダもエイタンも理性や知性では否定した筈の“それ”に抗えないことを知る。どれだけ頭で考えても心がついていかないのか。

※ここから余談。
紀元前586年、ユダ王国が新バビロニア帝国によって滅ぼされ、それ以来ユダヤ人が独立した国を持つことはなかった。西暦135年、ローマ帝国の支配下にあったユダヤ属州が大規模な反乱を起こすも本拠地であったエルサレムが陥落し凄惨な敗戦。ユダヤ教の根絶を考えたローマ帝国はユダヤ人をこの地から追放=ディアスポラ(離散)。住む土地を失ったユダヤ人達は地中海世界や中東、欧州各地に散らばり共同体を形成。だがキリスト教社会では「キリストを十字架に掛けた連中」とユダヤ人は差別され続けた。土地を所有することも許されず就く職業にも制限。キリスト教では禁じられ侮蔑されていた金融業(金貸し)を営むことに。各地のユダヤ人同士で築かれた信頼関係から、離れた地の取引でも信用が置け重宝された。ユダヤ人金融ネットワークは外国為替業務や証券の発明など現代の金融業務の礎を築くこととなる。18世紀、フランス革命後、徐々にユダヤ人も欧州各地で一般市民と認められるように。

第一次世界大戦に敗れたドイツは巨額の賠償金を支払わねばならず、経済はハイパーインフレ、世界恐慌と相まって失業率40%、治安は悪化、社会不安は増大。アドルフ・ヒトラー率いるナチス党は戦争に敗れた理由をユダヤ人と社会主義者の裏切りによるものだと喧伝。「背後からの一突き」だと。国民の全ての不満や怒りをユダヤ人への憎悪に転換させた策略は当たり、1933年に政権を握る。
1935年ナチス・ドイツがニュルンベルク人種法を制定。ユダヤ人との結婚を禁止し全ての公職から追放、公民権を奪う。そこから迫害は加速し「ユダヤ人問題の最終的解決」として強制収容所に送り込み大量処刑、ユダヤ人の絶滅を計画。1945年5月連合国に敗れるまでに600万人のユダヤ人を虐殺=ホロコースト。

19世紀末から20世紀初頭にかけてロシア帝国でのユダヤ人虐殺=ポグロム(ロシア語で破滅の意味)が多数発生。自分達を守ってくれない国家体制に絶望したロシア系ユダヤ人達はパレスチナに移住を始める。現在のイスラエル建国の礎に。
当時イギリスが統治していたパレスチナ。1918年の調査ではアラブ人(=パレスチナ人)70万人、ユダヤ人5万6千人が居住。ユダヤ人の大規模な移民が始まるとアラブ人(=パレスチナ人)との間に何度も武力衝突が起きた。
イギリスが統治を終了し新国家を作ることに。1947年国際連合は「パレスチナ分割決議」を採択。パレスチナを二つの民族による二つの国家に分けることに。だがかなりユダヤ人側に有利な土地分割だった為、内戦に突入。1948年イスラエル建国宣言。それを認めない周囲のアラブ連盟5ヶ国は即宣戦布告、第一次中東戦争に。アラブ側15万人、ユダヤ側3万人という圧倒的不利の中、イスラエルは勝利。国連決議より広大な地域を占領した。その後第四次まで戦争が繰り返されるが米英の軍事的援助を受けたイスラエルは全てに勝利、国土を広げ続けた。

イスラエルにはアメリカの利権が絡んでいる。アメリカにとって中東で安定して石油を確保する為にもイスラエルの存在は大きい。かつてアメリカの国務長官は「中東に家を構えたアメリカの分家」とイスラエルを呼んだ。

ユダヤ人の物語はこの世の仕組みが暴力でしかないことを知った者達の話。暴力によってローマ帝国から住む土地を奪われ、暴力によって差別迫害され強制収容所に入れられ虐殺された。絶滅から自分達を救い出したものは連合国側による暴力だけであった。ノルマンディー上陸作戦など現実的な暴力だけがナチス・ドイツを打ち倒した。決して対話や祈りなど平和的なものではない。この世界で生きていくには暴力で勝つ以外に方法はない、と追い込まれたユダヤ人はひたすらその道を突き進む。世界中から嫌われ憎まれ罵られても、もうこの道を引き返すことはできない。ロシアと同じく暴力で敗北するか核爆弾を使用して道連れにするかまで追い詰められている。もう善悪などそこにはない。ここまでやってしまったのだ。世界と和解など不可能だろう。

観劇後、BLANKEY JET CITYの「不良の森」を聴いているような気分。

静かな森の奥で壁にもたれて
揺れる草を見ている少女もいつかは知ってしまう
都会を流れゆく濁った水のように汚れた心があることを
でもそれは美しいことなのか ことなのか
父と暮せば

父と暮せば

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/07/05 (土) ~ 2025/07/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『父と暮せば』は黒木和雄の映画で観て成程と思った。2018年、山崎一氏&伊勢佳世さんの舞台を俳優座劇場で観て度肝を抜かれた。いや映画の比じゃない、これは舞台で観ないとヤバイ奴だ。2021年紀伊国屋サザンシアターにて同キャストで再演。その時は二回観た。(今思えばもっと無理してでも回数観るべきだった) 。2022年、ゴツプロ!presents 青春の会第二回公演としてシアター711にて佐藤正和氏&中薗菜々子さんで観た。同じ戯曲でもこんなに変わるのか、と奥深さに唸った。
そして今回、松角洋平氏&瀬戸さおりさんの布陣。山崎一氏&伊勢佳世さんではもう観れないのか···、との想いはあるが。こまつ座通ってる連中からすれば瀬戸さおりさんの評価は絶大だろう。一体この名作をどう解釈するのか?

流石の出来。皆泣いていた。超満員じゃないのは残念だが。今日は初日、ここから先は伸び代しかない。何処まで行くのだろう?楽しみ。

ちょうどジェームズ・キャメロンが広島長崎の原爆映画を製作し自ら監督することを発表。「まるで観客が被爆を実体験するかのように徹底的にリアルに描く」と宣言。「この地獄に観客は耐えられるだろうか?」。世界中が初めて原爆の怖ろしさを知る機会になるのかも知れない。それを経験した日本人達が遺した膨大な作品群。『父と暮せば』もまた新たに再評価されることは間違いない。

必見。

ネタバレBOX

やはり井上ひさしの武器は笑い。とにかく観客を笑わせて安心させてからぶち込むのが真骨頂。重要なのは笑いのリズム。
はぐらかしたり、もてなしたり

はぐらかしたり、もてなしたり

iaku

シアタートラム(東京都)

2025/06/27 (金) ~ 2025/07/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

村上春樹の短編、『レーダーホーゼン』を思い出した。

舞台美術の柴田隆弘氏が構築したエッシャーのだまし絵のようなセット。至る所に増設された階段は今は失き九龍城の違法建築のよう。東急ハンズ渋谷店、ドン・キホーテやヴィレッジヴァンガードなどのスラムの迷宮感。増築を重ねた神経症的な高台建築。(関係ないが終わりが見えず延々続く渋谷駅の工事にはガウディのサグラダ・ファミリア感)。

高校教師の瓜生和成氏は教え子だった竹田モモコさんと結婚、授かった娘は高橋紗良さん。瓜生和成氏の好物はオムライス。竹田モモコさんの作るオムライスは鳥肉の代わりにソーセージを何本も入れるレシピ。ある日、お弁当のオムライスに楽しみにしていたソーセージが一本も入っていなかった。帰ってそのことを妻に告げると「確かに入れた」と不機嫌に。その後、失踪してしまう。

MVPは近藤フク氏か。東京03の飯塚のようでいてプロレスラーの西村修みたいな独特の空気。座間事件の死刑囚のような妙なヤバさも。
彼の上司、小林さやかさんのキャラも愉しい。
高橋紗良さんと井上拓哉氏のストーリーは清々しい。
キャスティングが絶妙で横山拓也氏の人を見る目が超一流。

短編『夜のオシノビ』が挿入されていたり、短編連作集を一つに繋いだ印象。何か無理にまとめた感もあった。だが非常に高度な文学性も感じさせる。妻の帰宅時、家族会議のMCを担当する異儀田夏葉さん、その奮闘ぶりが最高だった。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

タイトルは横山拓也氏の今作を観に来る観客に対してのスタンスだろう。

『レーダーホーゼン』は単身ドイツ旅行をすることになった55歳の女性が夫に頼まれて肩紐付き革製半ズボン、レーダーホーゼンを購入。オーダーメイド専門店の為、体型のよく似た現地のドイツ人に試着して貰い、サイズを合わせる。その折に何かの心境の変化があり、突然離婚を決意する。一方的に一緒に捨てられてショックを受ける大学生の娘。三年後、親族の葬式で顔を合わせた母娘。自分を捨てた理由を問い質し、レーダーホーゼンの話を聞いて何故か納得、母を許すこととなる。この母親に離婚を決意させた“何か”が謎で文学としての余韻となる。

自分も当時この小説を読んで深く共感を覚えたことを思い出す。論理的に人間の思考行動は構築されている訳ではない。それは後付けのアリバイ作りみたいなもので所詮は嘘だ。本当は言語化出来ないある種の“気付き”みたいなものの方が生きていく上では大きい。そのキッカケになるレーダーホーゼンが人によってはオムライスだったりする。

ラストはオムライスを皆で食うしかないだろうと思っていたら成程。
人間のあくた

人間のあくた

吉祥寺GORILLA

上野ストアハウス(東京都)

2025/06/25 (水) ~ 2025/06/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

杏奈さんを久し振りに見たがメチャクチャ綺麗になっていて驚いた。平井泰成氏も堅実。長友美聡さん、北川義彦氏は味がある。

舞台は芥川龍之介的ネーミング溢れる架空世界。違法移民達の暮らす被差別地域(岩井俊二の『スワロウテイル』っぽい)、ラショウモン。国民として登録されたナンバーを持たない為、彼等は法律上存在しないとされる。先生と称する奴等がこのスラムにやって来て子供達を教育、テロリストとして育てる為に。それを嫌悪し追い払う老婆。ナンバーを偽造して人間社会に潜り込もうと企む青年。世界の何処かで延々と続く戦争にラショウモンの連中を送り込もうと画策する男。皆世界を憎んでいる。この世界への効果的な復讐を探している。

ネタバレBOX

架空近未来にせずガチガチの現実でやった方がいいと思う。その方が無力さ惨めさが際立つ。過去の話でもいい。事実で構築すべき。逃げ場のあるファンタジーじゃ弱い。実話の上に虚構を塗りたくった方がいい。今作は何処まで行っても作家の自問自答、安全圏でシミュレーション。それじゃ響かない。ハッキリ言って「難民など全員受け入れを拒否したい」「移民、異文化など死んでも認めない」という地域住民の魂の叫びも理解しないことには意味がない。全く別の価値観を持った連中と暮らすのは地獄だ。その地獄を抱え込む度量があるのか?
都議選における参政党の躍進や千代田区で当選した佐藤沙織里は「移民政策への反対」が支持を受けた。欧州も移民難民問題による社会不安が増加、暴力的な排斥を掲げる極右政党が台頭。「人間は皆平等だ」的スタンスでは現実と向き合えない。
コラボレーターズ

コラボレーターズ

劇団青年座

吉祥寺シアター(東京都)

2025/06/19 (木) ~ 2025/06/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

このネタだと劇団印象の『犬と独裁者』が素晴らしかった。1938年モスクワ、反骨の天才劇作家ミハイル・ブルガーコフは独裁者ヨシフ・スターリンの評伝劇の執筆を依頼される。スターリンはブルガーコフの大ファンだった。本来そんな依頼を引き受ける訳はないのだが上演禁止、出版禁止で兵糧攻めに遭い困窮していたブルガーコフ、生活の為に執筆。しかしその作品『バトゥーム』も上演禁止とされる。ブルガーコフはそのすぐ後に亡くなる。

今作はブルガーコフ役に久留飛雄己(くるびゆうき)氏。プロレスラーのMIKAMIみたいな雰囲気。
妻エレーナに松平春香さん。ツイストを踊るシーンがカッコイイ。一番好きな演出。
秘密警察ウラジーミルに小豆畑(あずはた)雅一氏。味がある。
その妻エヴァに清瀬ひかりさん。印象に残る。
秘密警察ステパンに鹿野宗健氏。この人のソヴィエト顔が最高。
そしてスターリンに横堀悦夫氏。メイクが凝っていて本当にそう見える。

冒頭、サイレント映画のようにクローゼットから飛び出てきたスターリンが寝室のブルガーコフを追っ掛け回す。この場面が秀逸。悪夢なのか幻覚なのか妄想なのか。腎硬化症により刻一刻近付く死の足音。
時代はスターリンが「大粛清」を行うソヴィエト地獄の時代。1000万人が一方的な審理で処刑された。密告猜疑心裏切りデマ誹謗中傷、皆が殺されることに怯えて口をつぐんだ。

引き受けたもののブルガーコフはスターリンの評伝劇をどうしても書けない。悩んで悩んで苦しみ抜く。そんなある夜、トンネルの隠し扉からある一室に通される。その秘密部屋の書斎で待っていたのはスターリン自身。劇作に興味があったスターリンはタイプライターで自ら書いてみせる。その代わりブルガーコフはスターリンの仕事、重要書類へのサインを代筆することに。

デイヴィッド・リンチ的な神経症の妄想を思わせる物語。夜な夜なスターリンと密会して一緒に作業をしているなんて誰も信じない話。そのアイディアは面白い。

ネタバレBOX

第一幕80分休憩10分第二幕80分。
皆寝てるかと思いきやきっちり観ていた。作品は元の戯曲がつまらない。余りにも古典的。驚きがなく、その通りに進んでいくだけ。後半は「デビルマン」っぽい空気感。演出と役者陣は最高級なだけに勿体ない。
天井から吊り下げられた人の死体を白いシーツにくるんだものが徐々に降りてくる演出は良かった。だがツラの天井にずっと吊られていた白いシーツは形が人間には見えない。ラスト、何かあるんだなと思っていたが何もなかった。ただ降りてきただけ。多分何かしらの意味合いはあるのだろうが効果としてはイマイチ。

本当に役割を交換して地獄の「大粛清」をブルガーコフが始めるぐらいやって欲しかった。それを必死に止めるスターリンとか。

こういうネタで面白かったのはウディ・アレンの『カメレオンマン』。極度の環境適応能力を持つウディ・アレン演じる気弱なユダヤ人。周囲に溶け込む為、肌の色から何から皆に合わせてしまう特異体質。ある時、アメリカから失踪し数年後ドイツ・ナチ党大会のニュース映画にて発見される。ナチス高官に混じって「ハイル・ヒトラー」を叫んでいた。
骨と肉

骨と肉

JACROW

シアタートラム(東京都)

2025/06/19 (木) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

何となく大塚家具のお家騒動は知っていたが、そこまで興味はなかった。2014年から2015年に掛けて世間を賑わせた創業者一族による骨肉の争い。2017年に舞台化。

メチャクチャ面白い。
開幕からリングアナ(日替わりゲスト)の口上で選手入場。第2次UWFの全選手入場式を思わせる興奮。UWFのテーマ曲が欲しいくらい。プロレスチックなコスチュームで登場する役者陣。プロレスラーのアピールを模したジェスチャーで観客を煽る。新日本プロレス対UWF5対5イリミネーション・マッチの様相。ステージはもろにロープの張られたリング。舞台の端に津軽三味線・楽風(がくふう)の二人が上手下手に分かれて生演奏。リードギターとサイドギターのように音の組み合わせが練られていて見事。

主演の社長・川田希さんは女子プロレスラーっぽく華やか。最初から最後まで光り輝く美人、まさにエース。いい女だな。厚底スニーカーもキュート。
対する父親である会長・谷仲恵輔氏はいつもながらに最高の出来。
銀行マン出身の社外取締役・中村ノブアキ氏は劇団主催で脚本演出も兼任。それでいて持ち味の妙味で笑いもかっさらう凄腕。
実はかなり重要な存在である主人公の妹、専業主婦の福圓美里さん。こういう複雑な立ち位置を演らせると嵌る女優。彼女の存在がこの物語に文学性を与えている。
その旦那である取締役・狩野和馬氏もキーマンに。
会長ベッタリの本部長・芦原健介氏は橋下徹っぽい胡散臭さ。

見事なるエンターテインメント。観劇好きで今作を観れなかった人は不運だろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ラストシーンは印象深い。自分とは違う他人の意見も真摯に聞くことができたなら。自分の中にはなかった意見にこそ生きるヒントがあるのかも知れない。お互い歩み寄れればもっと良い結果があったのかも知れない。だが他人ごとだとそう思えても自分ごととなるとうまくいかないもの。

株主総会で敗れ、会社を辞めた会長は長男と2015年、新会社「匠大塚」を設立。高級路線を突き進むもどうにも先行きが見えない。
大塚家具は業績悪化の為、2022年ヤマダデンキに吸収合併された。
ニトリ、無印良品、IKEAに食われた日本の家具業界。
リチャード三世

リチャード三世

義庵

新宿シアタートップス(東京都)

2025/06/15 (日) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

シェイクスピアの初期作でデビュー作とされる『ヘンリー六世』三部作の続編。15世紀にイングランドで起きた薔薇戦争がモチーフ。赤薔薇の紋章・ランカスター家のイングランド王ヘンリー六世に対し、白薔薇の紋章・ヨーク家のヨーク公リチャードが反乱を起こす。30年続く凄惨な内戦の中、ヨーク家のエドワード四世が王位に付く。その弟、リチャード三世は生まれつき傴僂で跛、この世の全てを憎み自分の欲望を満たす為ならどんな残虐非道なことも平気で出来る邪悪の化身。嘘をつき罠に嵌め家族も仲間も簡単に裏切る冷血な人非人。このリチャード三世が地獄の太閤記さながら成り上がった末、惨めに破滅していく姿を描く。

リチャード三世、加藤義宗氏は劇団印象の鈴木アツト氏っぽい。傴僂でも跛でもなく、『ハウス・ジャック・ビルト』のマット・ディロンを思わせる長身細身のナルシシスティックなサイコパス。自分さえ良ければ何だっていい完全に頭のイカれたキチガイ野郎。このキチガイに妙に気品があり、少々間の抜けた人間味さえ感じさせるところが巧い。
MVPはバッキンガム公・津村知与支(のりよし)氏か。邪悪なアシストの汚れ役、屑を神輿に担ぎ天下を取らせる見事な女房役。ガッチリ笑いを取っていた。
イングランド王妃エリザベス、日下由美さんは綺麗だったな。
渡邊りょう氏にはヒース・レジャーを感じるときがあり、ジョーカーのような嵌り役を見付ければ役と共に死ぬような危うさがある。
のぐち和美さんは流石だな。声色だけで只者じゃないと観客を黙らせる。毒々しくキメるスパイス。トリカブト役者。

役者陣は強者揃い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

悪党三昧の舞台に『仁義なき戦い』を思い出す。広島抗争の中心に立ったヤクザ、美能幸三が刑務所に収監された7年間で書いた獄中手記。自分の見てきた洗いざらいを全て曝け出した。親分であった山村辰雄の金と欲と色に任せた醜態を赤裸々に暴き、任侠道なんてものは内実こんなものだと世間に喧伝した。それを噂に聞き、入手した「週刊サンケイ」が飯干晃一に解説文を付けさせて「仁義なき戦い 広島やくざ流血20年の記録」として連載させる。その面白さに唸った東映の岡田茂社長が映画化を決定。アメリカではジョゼフ・ヴァラキが司法取引によりFBIにマフィア(コーサ・ノストラ)の情報を知る限り供述。世間に謎とされてきた組織の内情が到頭明かされ大衆に衝撃を与える。マリオ・プーゾが事実を元にしてマフィア一家を描いた小説『ゴッドファーザー』がベストセラー、映画化して大ヒット。岡田茂社長は日本でも実話を元にヤクザ映画を作るべきだと睨んだ。登場するモデルになったヤクザ達がまだ存命の時代、身の危険を感じながら取材しまくった笠原和夫の魂がこもった脚本。広島抗争とは大組織であり全国制覇を目指す山口組と本多会が後押しをした代理戦争でもあった。アメリカとソ連に支援されて朝鮮やベトナムで現地の民族同士が延々殺し合いをさせられた時代。広島で生まれ育った者達が神戸の大組織の命令で敵味方に分かれ延々殺し合う姿。実際は書けないことが多過ぎた。(晩年の山村辰雄は痴呆症だったのでは?と言われている)。
話としては美能幸三が親分である山村辰雄に騙され裏切られ使い捨てられひたすら散々な目に遭う物語。主演・菅原文太は組長・金子信雄とその取り巻きの田中邦衛、山城新伍の屑っぷりを憎み罵り怒り狂う。だが映画が大ヒットして全5作製作されていく内に段々と観客に変化が訪れる。悪役である金子信雄、田中邦衛、山城新伍が屑っぷりを見せ付ける度にどっと沸くのだ。待ってました!と。愛すべき屑っぷり、製作陣も思いも寄らぬ妙な魅力の創出。これにより『仁義なき戦い』シリーズは永遠に残る作品となった。

津村知与支氏の演じたキャラクターに似た感触を覚える。リチャード三世もイケメンニヒルではなく、金子信雄的に演ってこそ日本文化ではないか。金子信雄、田中邦衛、山城新伍にこそシェイクスピアを託したい。

隠し芸大会のように次々と何役も兼ねて役者が登場。一つだけのセット、普段着のような衣装も含めそれでも今作を最後までこなすことが目的の舞台なんだろう。そうなると演出が物足りない気も。あの手この手のアイディアで手を変え品を変え笑わしてごまかしてこそだろう。歌に踊りにコントに、遣り口は幾らでもある。一本調子じゃ観てる方も辛い。どういう作品にしたいのかハッキリしていない感じ。居眠り客は開幕から多く、客層もよく判らなかった。
燃える花嫁

燃える花嫁

名取事務所

吉祥寺シアター(東京都)

2025/06/11 (水) ~ 2025/06/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

昨年、この作家の『日曜日のクジラ』を観てイマイチだった。今回も前半はハマらずこの作家とは相性悪いなと感じたが最後まで観ると本物。もっと受け狙いの兄ちゃんかと思っていたがガチガチのマジの人。本気で真剣に世界と取っ組み合おうとしている。今、2025年だぜ。ああ本気なんだな、この人。名取事務所がオファーする訳だ。
実はもの凄く古典的な物語。余りにオールドスクールで驚く程。ポル・ポト、チェ・ゲバラ、毛沢東、金日成、ウラジーミル・レーニンにカール・マルクス···、PUNK ROCKでも構わない。とにかく今の自分の思考回路を支配する鉄の掟のような価値観から自由に導いてくれる風であるならば。

凄いのは構成。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の『DEATH』編を思わせる。これはTVシリーズ24話の総集編なのだが初見の人には全く解らない作り。各登場人物が死ぬ間際に見る走馬灯のようなスタンス。解らなくてもいいから感じてくれ、みたいな作風。勿論今作はきちんと解るようにしっかり作られている。逆にこの構成にした作家の意図こそがミステリー、その謎を観客が頭の中で解いていく作品。

MVPは鬼頭典子さん。この人のキャパシティは想像を絶する程大きい。有り得ない役を振れば振る程開花する。
そして森尾舞さん。この役を女性にしたことが大きい。
更に平体まひろさんは流石に凄い。時系列でルックスを変えてみせる。本当に心が生き生きと生命を謳歌し羽根を天空に開いてみせた時の美しさ。

テーマは『移民と差別』。もろクルド人の物語として受け止めた。正解のない世界でせめてもの擦り合わせで作る、よりマシな答。ラストのタイトルロールは鮮烈。
是非観に行って頂きたい。

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