阿呆ノ記 公演情報 劇団桟敷童子「阿呆ノ記」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    九州の山奥にある阿呆村。そこでは捨て子や孤児、罪人の遺児等を古来より寺で養う風習があった。そして自然災害や疫病、飢饉・干ばつでの祈祷、建造物建立の安全の祈願の折りに阿呆丸と呼ばれたその子供達を各地に連れて行く。人柱や生贄、人身御供として天に捧げた。明治になって刑法が整備され、この風習は禁止される。解放された阿呆丸達は死に場所を探して山奥を彷徨っているという。この設定だけで凄まじく面白い。

    昭和12年、日中戦争の激化から軍国主義に滑り落ちていく時代。村人は鉄道工事に駆り出され、山は切り崩されていく。代々猟師の一族である、音無美紀子さん、その息子である鉄砲衆頭・三村晃弘氏、孫である加村啓(ひろ)氏の物語。子を産んですぐ亡くなった妻を今も愛し続けている三村氏。そんな息子の嫁として隣村から大手忍さんを貰ってくる音無さん。勝手なことをされて怒る三村氏だったが・・・。

    MVPは女頭目・音無美紀子さん。文句なしの素晴らしい存在感。
    ヒロインの大手忍さんも魅力的、永遠の少女性。もう少しガタイがガッチリしていた方が作品的には合ったかも知れないが。
    もう一人の主人公、加村啓氏も印象的。劇団Q+の『マミーブルー』も覚えてる。寺山修司系の森田剛っぼい感じ。アングラ・イケメン。

    神社のおみくじのように赤い紐が無数に木々に縛り付けられている舞台美術。
    ドイツのモーゼル(マウザー)銃、Gew(ゲヴェーア)98のフォルムが作品の文鎮と構える。
    桟敷童子フォークロアのアーキタイプを見せつけるかのような作品世界。常連客はいろんな既視感にとらわれる筈。
    好きか嫌いかと聞かれたら、大好き。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    作中、一番興奮したのが阿呆丸の三人が素顔をさらしたシーン。板垣桃子さんだったのか!今回出ないんだな、と思っていたら実はファースト・シーンから出ていた。

    何処かにいるのかいないのか、阿呆丸へのお供えとして砕いた根っ子を丸めて作る不味い饅頭。包んでそこらに赤い紐で吊るす風習。舞台美術の正体はこれだった。余りに不味い為、動物達も食べない。こんなものを食おうとするのはそれこそ人間ぐらいだ。

    戦争を広義の生贄と捉える発想が面白い。常に誰かの犠牲でこの世は成り立っている。死ぬ機を逃した阿呆丸共よ、生きて生きて生きて自分の役目を見付けて果たすのだ。死ぬにも役割がある。果たさずして死ぬことなど許されない。

    ※ホンは継ぎ接ぎだらけでどうにも不格好。大手忍さんが登場するまでは茫洋、ぼんやりとした作品世界。後半は女性版『獣唄』のようにも思える展開。だが雑すぎる。いや、いろいろと今作は凄く好きなだけに勿体無い。本当は全く演劇観ない奴に「これ、絶対観てくれ!」と伝えたい気持ち。でもこのままじゃ何か薦め辛い。マニアがニヤリではなく、圧倒的に開かれた作品であって欲しい。この劇団はマジで観劇一発目にふさわしい存在。老若男女、そして外人にも伝わる破壊力を秘めている。だからこそ脚本の細部を詰めて欲しい。とんでもない傑作にならないと今作はおかしいネタ。とにかく勿体無い。

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    2024/06/05 17:06

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