ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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博士の愛した数式

博士の愛した数式

まつもと市民芸術館

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/02/19 (日) ~ 2023/02/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「た組。」の第七回公演(2015年)の再演。ずっと観たかったので嬉しい。
原作も映画も知らなかったのだが、それが良かった。ある意味、自分の理想の作品。観るチャンスがあったなら、是非観て頂きたい。『博士と彼女のセオリー』なんかを思い出す。

事故で記憶が80分間経つとリセットされてしまう元数学の大学教授、通称“博士”の家政婦に派遣された女性。皆記憶がすぐに初期化されることに付き合い切れず逃げ出してしまうらしい。博士と家政婦の数学だらけの日々。家政婦はシンママで、家で留守番中の10歳の息子を心配した博士は「ここに連れて来なさい。」と告げる。

時間の砂に塗れた砂丘のようなステージが幻想的。上手に腰掛けたギターを爪弾き続けるUNCHAINの谷川正憲氏!この感覚、懐かしい。語り手の近藤隼(じゅん)氏は開演前から舞台をうろついていて和やか。背後には巨大な窓ガラスが斜めに突き刺さっている。そこに何やら数式を書き込んだり。

家政婦役、ひたすらハンバーグを捏ねる安藤聖さんが美しい。随分綺麗な女優をキャスティングしたな、と感心した。こまつ座の『貧乏物語』が素晴らしかったが、同一人物とは気付かなかった。何処の誰の役でもこなせるであろうキャパの大きさ。

博士役の串田和美(かずよし)氏、80歳!名優が演じている感じが一切しない。本当にそんな感じの人なんだろうな、と思わせた。(数式をよく聴くと結構適当だったりするが、その感じこそ正解だと納得させる役作り)。

息子、ルート役の元乃木坂46、井上小百合さん。絶妙なキャスティング。泣かせてくれる。

博士の義理の姉役の増子倭文江さんはヤバイ。数シーンの出番ながら、強烈なインパクト。市川崑の金田一耕助シリーズ、真犯人役の大女優を思わせる貫禄。事故で足を引き摺る後遺症。登場で空気が変わる。

いろいろな役を受け持つ草光純太氏も軽妙なフットワーク。

数学の世界、崇高で底知れぬ数字の魅力に人生を捧げた博士。彼との生活の中、家政婦と息子も数字の面白さに取り憑かれていく。数字は人類の誕生前から存在していた宇宙の法則。モノリスのように人類はそこに秘められた謎を、手探りで何千年も掛けて解いてきた。宇宙からの巨大ななぞなぞ。
優しさと正しさに全力な人達。出来る限りシンプルに人生を解いていく。

ネタバレBOX

1975年に交通事故に遭い、脳を損傷した博士。同乗していた義理の姉も片脚に障害を負う。博士の兄であり、義姉の夫はとうに亡くなっている。
現在は1992年であるが、新しい記憶を上書き出来ない博士にとっては1975年のままである。

余りにも素晴らしいシーンが二つ。
一つは風邪を引き熱を出した博士を独り置いて行けず、家政婦とルートは泊まって看病をする。朝になって甲斐甲斐しく世話を焼きリンゴジュースを勧める家政婦に、博士はさめざめと泣く。涙の理由も説明もなくそれは誰にも分からない。けれど凄く伝わるものがある。(勝手に家に泊まり込んだことで家政婦は解雇されてしまう)。

二つ目は、家政婦が解雇された数ヶ月後、ルートが博士に読ませたい本を持って遊びに行く。解雇された家に息子を送り込む行為に不審を抱いた義姉は「目的は金か?財産目当てか?」と家政婦とルートを呼び出して問い詰める。ショックで泣きじゃくるルート。その状況が耐え切れなくて、博士はメモに何かを書いて机の上に置く。
「e^πi+1=0」
それを目にした義姉ははっと全てを理解したように話を終える。そしてまた家政婦を雇い直す。
書かれた公式は『オイラーの等式』と呼ばれるもので、「数学史上最も美しい等式」とまで言われるもの。全く無関係に存在している筈だった複雑な数字に一つ足すだけで完璧な調和が生まれることの発見。矛盾なく美しいものの存在に全てが抱き留められること、そう造られたこの世界の不思議さ。

「義弟は、あなたを覚えることは一生できません。けれど私のことは、一生忘れません。」
博士と義姉の、物語では語られない関係性。『オイラーの等式』を一瞥しただけで全てを読み取る知性。

ラストの語り手の現在はルートが中学の数学教師に採用された11年後、多分2004年。原作の小説が発表されたのは2003年である。
終演後、原作を買い求める人が多数いた。

ちなみに自分の「た組。」BESTは花奈澪さん主演の『惡の華』。小説でも映画でもない演劇の面白さに満ち溢れていた。
フツーの生活 沖縄編

フツーの生活 沖縄編

劇団昴附属養成所

Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)

2023/02/15 (水) ~ 2023/02/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★


舞台美術が素晴らしい。前回観に来た時と全く違う会場構成。スタジオ空洞みたいに横に長いセット。ガマ(沖縄の鍾乳洞、戦時中は避難壕として使用)が見事に再現されている。遠くから聴こえる爆撃音。照明も見事。

戦時中、ハーベールー(蝶々)・ガマに避難した人々の日々。
島村泰平氏は柔道経験者のような見事なふくらはぎ。
賀原美空さんの三線が見事。
もっと笑いをまぶしてウチナーンチュの独特の生活感、空気感を醸成した方が良かった。妙な呑気さが逆にリアルだと思う。

ネタバレBOX

役者陣は熱演、文句なし。ラストの皆の合唱から青年の凶行、手榴弾の流れが説明的で勿体無い。絵で叩き付けて欲しい。

大変申し訳ないが脚本が稚拙に感じた。「戦時中の沖縄のガマを舞台に書いたら、まあこんな作品になるな。」の想像通り。80年前の実話を今、観客の面前に叩き付ける行為の難易度。コピーのコピーの焼き直しみたいな脚本に、作家個人の声が聴こえない。戦後まもなくではなく、今これをやるのであれば、観た人間全員がトラウマになる位やるべき。独り生き残る奴の人間関係をもっと掘り下げて描き込んで欲しい。それが現在から過去を追憶する者の余韻となる。
対話

対話

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2023/02/10 (金) ~ 2023/02/24 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

近年評価の高まるオーストラリアの戯曲。
粗筋と感想を目にして、これこそ自分が観るべき作品だと足を運んだ。
入場時に「必ず開演前にお読み下さい。」と配られる紙。
「一部、性暴力についての強い表現がございます。」との警告。「途中で会場を出ることは自身を守る行為です。」と不快なら我慢せず途中退場することを劇団側から促している。一体これから何を観せられるのか?異様なムードの会場。

観客が体験するのは地獄の光景。2回レイプ事件を犯した性的サディズム障害の青年スコット。刑務所で臨床心理士にOKを出されて仮釈放、弟の働くスーパーに勤務。そこで美人で良家の出である女子大生の客に目を付ける。ずっと我慢しようと様々な方法を試みるもどうにもならない。彼女のマンションに侵入し、帰宅と同時に室内に滑り込む。両手を後ろ手に縛り上げ口を塞ぐ。お気に入りのSM雑誌のグラビアを見せて、想像の限りを尽くして凌辱。罵倒殴打内出血虐待暴力性行拷問屈辱苦痛懇願、詰め込まれたコーラの瓶。彼女は絶望の果てに死ぬが、スコットは「殺意はなかった」と語る。
医療刑務所にて終身刑で服役中のスコット(声のみ山田貢央氏)。

今日一室に集められた8人。
被害者の父デレク(斎藤淳氏)、母バーバラ(安藤みどりさん)は今も地獄の日々を送っている。
加害者の母コーラル(山本順子さん)、姉ゲイル(天明屋〈てんみょうや〉渚さん)、弟ミック(辻井亮人氏)、叔父ボブ(河内浩氏)。
スコットを担当した臨床心理士ローリン(佐藤あかりさん)。
「修復的司法」の調停人・ジャック・マニング(八柳豪〈やつやなぎたけし〉氏)。
「修復的司法」とは罪に対して国家が罰を与える「応報的司法(刑事司法)」では、本当の意味での解決にはなり得ないとの考え方から生まれた。直接的な「被害者加害者対話」を通じて、被害者の回復と加害者の更生について当事者及び周囲のコミュニティの者が話し合うこと。性善説のようなぬるいイメージが付きまとうが、この試みに一体どんな意味があるのか?それとも何もないのか?は見てみないことには分からない。

この場にいないのは加害者と被害者だけ。
誰に一番感情移入して観ることになるのか?
被害者の母親役の安藤みどりさんがヤバかった。

ネタバレBOX

いろんな感情や思考が渦巻き、まとまりがつかない130分。死者がいなくなるのは不公平だ。この世界は生者達のもの。殺された者に発言権はない。残った生きている人達で一番心が安らげる方法を選択することが正解なのだろう。

加害者の家族は何もしていないのだから責めるのは筋違いというもの。だが被害者の両親の気持ちに誰もが共感する筈。出来ることなら顔を合わせたくないし、口もききたくはない。なら何故この場があるのか?

「奴は娘の未来だけではなく、過去をも奪ってしまった。娘の思い出のアルバムを開こうとしてもどうしても開けない。この娘が最期に行き着く結末の光景が頭をよぎることで、楽しい優しい思い出すら全て残酷なものに変わってしまう。」

娘の頬笑ましいエピソードを語り出す母。
娘が自ら企画主催した誕生会、両親が良かれと思って呼んだサプライズのマジシャン。それに怒り心頭のエピソード。キッチンの壁の色が気に入らなく、自らペンキでカナリア色に塗り替えるエピソード。意地になってやったものの、それが失敗だったことを終いには認める。話の途中でふっと何かを思い出し、慟哭を堪らえられない父。

「ふとした時に、神に娘のことを祈って下さい。」との母の言葉にはっとする。このどうしようもない修羅地獄を主観だけではなく、俯瞰する神の視点こそが心には必要なのか。
この台詞と、「娘はもう死んでいるのよ。」の台詞が一番突き刺さった。
どうしようもない現実の受容。
そのどうしようもなさすら、時間に包まれていく。

今作について正当な評価は出来ない。素晴らしい作品とは思わないが、ここまでいろいろ考えさせる(体験させる)ことに対して認めざるを得ない。

Oasisで一番支持されている曲、『Don't Look Back in Anger』〈「想い出を醜い感情(怒り)で汚さないで」〉のことを考える。
2017年5月22日の夜、英国マンチェスター(Oasisの地元)でISによる爆弾テロが発生。22人の死者、負傷者59人。哀しみと怒りに暮れた、犠牲者を追悼する集会で不意に一人の女性が『Don't Look Back in Anger』を歌い出す。段々と参列した皆が声を合わせて歌い出し、最終的には大合唱となった。このことが世界的に大きく報道されて、この曲はアンセム(この事件に対する民衆の心構えの象徴)となる。
これを知った作詞作曲のノエル・ギャラガーは今曲の印税収益をマンチェスター支援基金に全て寄付した。
初めに歌い出した女性はこう語る。「私達は起きてしまったことに対して後ろ向きになってはいけない。前を向き、未来に向かって行かなければいけない。」

「そう、サリーは待っていてくれる
 共に歩くには手遅れだと知っていながら
 彼女の気持ちは離れていく
 けれど、『想い出を汚さないで』ってそう聴こえたんだ」
生者に梔子

生者に梔子

牡丹茶房

高田馬場ラビネスト(東京都)

2023/02/15 (水) ~ 2023/02/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

前半は死ぬ程面白い。この設定、この導入だけで群を抜いた才能。清水崇や中田秀夫はこの作家〈烏丸棗(からすまなつめ)さん〉に書かせた方が良い。「ああ、成程」と細かい所まで工夫の効いたシチュエーションに感心。テーマは「口は災いの元」。詰め過ぎの客席、客の期待度はMAX。

山形県にある黒殿山深願寺。冬の雪山の禅寺にて泊り込み一週間の断食道場を実施。参加者は女性四名、男性二名。住職の國枝大介氏、スタッフの飯智一達(いいともかずと)氏、池島はる香さん、二ツ森恵美さん。
芸能事務所所属の赤猫座ちこさんは8キロ痩せることを事務所から要求されて決死の覚悟。売れない芸人(杉本等氏)と妻(片渕真子さん)、専業主婦(三浦久枝さん)と仲の良いその隣人(佐藤友美さん)、やたら下調べをしてこの地に詳しい山田健太郎氏。

空腹でギスギスしていく人間関係。大雪に閉じ込められていく寺院。不意の闖入者。

飯智一達氏は楽しんごとライスの田所仁似。

ネタバレBOX

ここは曹洞宗の寺ではなく、元々は江戸時代に湯殿山(黒殿山?)信仰の拠点(山形県鶴岡市)となった真言宗・山岳信仰の寺院。自らの意志で断食死しミイラ化した遺体を即身仏と呼ぶ。一世行人(いっせいぎょうにん)と呼ばれた一代限りの修行者の即身仏を御本尊に祀る伝統。
参加者達は次々に起こるトラブルが自分等を即身仏にさせる為の罠ではないかと訝しむ。

この辺りから話がもやもやし始める。この寺では口のない女性(二ツ森恵美さん)を尸童(かばねわらし)と呼んで御本尊に奉っている。昔、廃墟の寺院で務所帰り(?)の國枝大介氏は尸童と出会った。人の死の間際の告白を聞くことが性癖だった彼はネットで自殺希望者を集めて逮捕された。尸童の正体はハッキリしない。病気の女性とも考えられるが、口腔のない人が生きられるとは考えられない。國枝氏は断食合宿参加者を極限状態に追い詰め、死の前の告白をさせる。その上で「これは嘘でした。お帰り下さい。」と参加者に帰宅を促す。怒り狂った参加者にリンチされて殺される国枝氏。実はこれも国枝氏の当初からの策略で、皆に誰にも話せない共有する罪の意識を植え付けることが目的。尸童に抱かれて死んでいく。

ディレクターや輩の存在意義もハッキリしない。即身仏に憧れる修行僧みたいなキャラが欲しい。
撮影された謎の映像を後日観ている、別の視点が必要。その語り手がこの寺で一体何が起こったのか考察するような構成にするべき。

後半はどんどんどんどんガッカリしていった。
磁界

磁界

オフィスコットーネ

小劇場B1(東京都)

2023/02/09 (木) ~ 2023/02/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

L字型の客席。舞台美術(金安凌平氏、西山みのりさん)がやり過ぎぐらいに凝っている。打ちっぱなしのコンクリート。(加工したシートを敷き詰めている)。廃墟ビルの埃の溜まった一室。雑然とそこら中に転がる椅子。両端に積み上げられた縄で縛られた椅子の山。ディストピア感満載、流れるインダストリアル・ミュージック。
二人が向き合い会話を進める途中でノイズ音が走る。するとカメラを切り替えしたように、互いの場所を入れ替えて会話の続きを始める。どちら側に座っている客にも役者の表情が見えるようにとの配慮だろう。とにかく客に見せたいものがハッキリしている。

磁界とは磁気が働く空間の状態のこと。
「教示願います。」
マルガイ(被害者)、マルヒ(被疑者)、警察用語が飛び交う。

署長(青山勝氏)、課長(大滝寛氏)、係長(谷中恵輔氏)、主任(西尾友樹氏)、巡査(井上拓哉氏)のヒエラルキー。それぞれ味のある役者が重厚なハーモニーを奏でる。格と名のあるプロレスラーが次々にリングに登場し、ファンの妄想を刺激するような。青山勝氏は怖ろしい。権力という暴力を身に纏っている。

失踪した妹に電話で金を無心された姉(柿丸美智恵さん)、双子の妹(異儀田夏葉さん)、相談を受ける弁護士(狩野和馬氏)。
柿丸美智恵さんの居酒屋のシーンは人間的で良かった。
双子という設定で、失踪した妹役も異儀田夏葉さんが演ることの予想はつく。判っていても度肝を抜かれる。

熊井啓映画の気分。反権力弁護士は鈴木瑞穂にやらせたい。
西尾友樹氏はテッド・バンディみたいなサイコパス役が似合うと思う。企業舎弟のインテリヤクザや新興宗教の広報(上祐史浩的役回り)なんか打って付け。まともな善人役では勿体無い奥行き。目の玉が据わる演技が凄い。ティム・ロス流か?目の玉のくすみで役柄の内面の変化を表現する技術。ゾッとした。ここだけでも今作を観る価値は充分ある。

ネタバレBOX

西尾友樹氏が罪悪感に押し潰されそうになる、象徴的な場面が欲しかった。

最もド迫力な名シーンは、個人の判断で遺族に謝罪に行った西尾友樹氏を叱責する青山勝氏の場面。「お前等末端が意思を持つな!」と言わんばかり。組織の論理で徹底的に総括される。逃げる余地などもう何処にもない。

実家の母の世話を妹に押し付けて出て行った姉。未婚なのか姓は変わっていない。駅前のスーパーでレジ打ちをしていた大人しい妹。ホストや風俗嬢と何処で知り合ったのか、家族や仕事を投げ出す程の刺激的な出会いだったのか?そこにも描かれていない“磁界”に囚われた者の物語が。

警察批判というよりも組織論の話。最も無駄がない最強の組織は軍隊である。上意下達で組織が一人の人間のように動く。頭脳の部署が決定したことを正確に遂行することのみが要求される。個々で判断したりためらったりすることは許されない。それが軍隊であり、全ての組織はそれに傚ったもの。組織で生きていくことを決めたならば個々の善悪の判断は邪魔になる。どれだけ優秀な機械に徹することができるのか。
今作は学校や新興宗教を舞台にしても面白かったと思う。自殺した生徒の苛め問題の隠蔽。理想を持って身を投じた筈の宗教団体の中で、組織論で醜く捻じ曲がっていく信仰の有様。

嫌なら必死でその“磁界”から逃げるしかない。
生活と革命

生活と革命

マチルダアパルトマン

OFF OFFシアター(東京都)

2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

⑤が池亀三太演出、①にも参加。他は役者陣のみで演出。

①「ふやけたヌードル」
母の葬式後、四十過ぎの兄(坂本七秋氏)と介護の為に夢を諦めて帰省していた妹(松本みゆきさん)が今後について話し合う。

②「のがしたフィッシュ」
部屋には血溜まりに倒れている男。樋口双葉さんと冨岡英香(はなこ)さんが対峙している。

③「ひみつのキヨスク」
Kioskの美人店員の私設ファンクラブを秘密裏に長年作っている二人、葛生大雅氏と久間健裕氏。くずうっちが自宅にたけちゃんを呼び、「聞いて貰いたいことがある」と伝える。

④「つらなるワンナイト」
半年一緒に同棲していたカップル。突然、小久音さんが大垣友氏に別れを告げる。

⑤「めぐるキャット」
必見。全員登場。

MVPは葛生大雅氏、飛び道具感。久間健裕氏はセンスがある。

隣の駅前劇場の音が結構聞こえるものだ。

ネタバレBOX

何かあんまり面白くない短編の連なり。⑤だけぐっと来た。猫が繋いでいく人間の関係性は美しい。喧嘩別れした二人が2年振りに猫の為、再会する美しさ。全く関係のない人達の個々の繋がりの細い線が、別れた彼女が連れ帰った愛猫を自分のもとにまで届けてくれる温もり。人間は個々それぞれは全く関係がないように見えて、どこかしらでか細く繋がっている。これだけで素晴らしい作品の草稿足り得る。

矢野顕子がTHE BOOMをカバーした「中央線」を想い出す。
「逃げ出した猫を探しに出たまま
 もう二度と君は帰ってこなかった
 今頃君はどこか居心地のいい
 町をみつけて猫と暮らしてるんだね」
運動会をやりたくない

運動会をやりたくない

万能グローブ ガラパゴスダイナモス

駅前劇場(東京都)

2023/02/09 (木) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

客入れSEがandymori。「モンゴロイドブルース」なんかいい感じ。「都会を走る猫」のメロディーが耳に残る。「ベンガルトラとウィスキー」なんてカッコイイ。

友田宗大氏の降板の為(理由は未公表)、初日と二日目のマチネを中止。二日目のソワレから作・演出の川口大樹氏を代役として開幕。全く先月の艶∞ポリスと同じ展開。

しかしこれが面白かった。ネタとしては『ナイゲン』+アンジャッシュの勘違いコントなのだが、人の描き方に感心した。

福岡の寂れたシャッター商店街。そこに新たに店をオープンする脇野紗衣(さえ)さん。地元の町内会に手厚く歓迎される。この脇野紗衣さんのキャラが面白い。読めそうで読めない。掴めそうで掴めない。波風立たない静かな田舎町に落とされた、誰にもコントロールの効かないインフルエンサー。
ここから町の何かが狂い出す。
会長代理のスポーツ用品店の石井実可子さんと文房具屋の野間銀智(うち)さんの幼馴染みコンビが実質観客目線を担う。こういうところが巧い。
和菓子屋の椎木樹人(しいきみきひと)氏、居酒屋の杉山英美(えみ)さん、ガラス屋の川口大樹氏、カフェの千代田佑李さん、コンサルタント業の澤柳省吾氏は竹内涼真っぽい。

ありふれているようでありふれていないキャラクターの織り成す独特な喜劇。

ネタバレBOX

クライマックスの運動会の構成がイマイチ、テンポが悪い。あれよあれよと畳み掛けてカオスに導いて欲しい。
野間銀智さんのデザイン画のエピソードが秀逸。

※4月8日に劇団からアナウンス。友田宗大氏の降板理由が、公演初日に問題行為が発覚した為とのこと。一体、何が起きたのか?
ストリッパー物語

ストリッパー物語

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2023/02/09 (木) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

里中満智子さんがチラシのイラストを描いていることの不思議。
昨年10月に観た『酒乱お雪』、主演の藤田怜さんにやられた。元男装アイドル『風男塾』で藤守怜生として活躍。ルックス、演技、バレエ・・・、全てが揃った完璧(パーフェクト)超人。今回は主演の安藤瞳さんが体調不良の為、降板。急遽1月中旬から稽古に合流。その凄まじさは今作を観た人全員に焼き付いている筈。つかこうへいが原稿用紙に刻み込んだ情念の陽炎が鬼火となって立ち昇り実体化したような存在。

ストリッパーの明美(藤田怜さん)とヒモのシゲ(伊原農〈みのり〉氏)のつか流純愛劇。シゲが捨ててきた娘の美智子(星野李奈さん)が高校生になって巡業に訪ねて来る。

選曲のセンスが良い。定番「夜桜お七」から始まり、「イルカの日」のサントラ、「ホット・スタッフ」に「メモリー」、ビヨンセの「クレイジー・イン・ラブ」。暗いシャンソンからグラインドコアにテンポチェンジする曲なんか良かった。
脳梅にかこつけて、泉谷しげるの「おー脳!!」を歌う伊原農氏。
五十嵐明氏はルー大柴や“リーダー”渡辺正行を思わせる動き。
能面をかけて踊る椿紅鼓(つばきべにこ)さんの舞踏も印象的。
本職のストリッパーでもある若林美保さんの技、エアリアルフープ。もうエロスを超えた技術。これに挑む藤田怜さんの身体能力の高さ。

のぐち和美さん一座のショーとして完璧な出来。つかこうへい作品の正しい解釈。

ネタバレBOX

公演後、地元のヤクザやら議員やらに明美を要求され、車でホテルまで送り届けるシゲの述懐。車の中でことが終わるのを煙草を吸ってじっと待つ。明美の部屋に懐中電灯で合図を送るとSEX中の明美が窓越しに手を振る。懐中電灯によるモールス信号のメッセージに、明美はライターの火の点滅で返す。「愛してる」「私もよ」。
もの凄い詩だ。誰にも汚せない、二人にしか触れられない絆。

SION 「夜しか泳げない」
 夜しか泳げない魚は影を連れて歩かない
 だけど光だけが光じゃないことだけは太陽より知ってる
ほどよく洒落たチョコレート

ほどよく洒落たチョコレート

劇団4ドル50セント

シアター・アルファ東京(東京都)

2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

艶∞ポリスの岸本鮎佳さんが脚本、流石に面白い。三本のオムニバスなのだが、一本目のセンスにやられた。ずっとこれで通して欲しい位。トム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が大好きな人は劇場に足を運んで欲しい。こういう笑いのセンスこそが求められている。

石原さとみ似で話題になった安倍乙(おと)さん、エースの風格。
前田悠雅さんはすでにベテランの貫禄、首が長い。
岡田帆乃佳さんは総監督、たかみなの域。自分が何をすべきかが俯瞰的に見えている。

正統派アイドル劇団、ガチガチにシリアスな古典なんかを演って欲しい。

①「大友デパート地下食品売り場」
バレンタインデーの日に合わせ、デパ地下和菓子屋で「らぶらぶ饅頭」を販売することに。前日に追加の発注を掛けた筈が倉庫に在庫はない。

②「人生オーディション」
あるドラマのオーディション、監督の到着が遅れていて受験者達は控室で呼ばれるのを待っている。

③「男と女と犬と猫」
腹を壊した愛犬をペットクリニックに連れてきた女。そこに愛猫を連れて現れた男は、長年推し続けてきた人気俳優であった。

ネタバレBOX

前説は後藤めぐみさん。
スケッチ①浮気した彼氏の軽薄な言い訳にキレてボコボコにする女(吉川真世さん)。

①「大友デパート地下食品売り場」
2/13から2/14までの日々を何度も繰り返しループしてしまうバイトの安倍乙さんと店長の罍(もたい)陽子さん。安倍乙さんが営業の内田航(わたる)氏に告白された喜びで「らぶらぶ饅頭」を発注し忘れたのが原因と睨む。バイトの本西彩希帆(さきほ)さんの口が悪くて面白い。罍陽子さんは流石の貫禄、柴田理恵みたいなキャラで見事に笑わせる。メチャクチャ面白い。

スケッチ②男との飲みの席でドン引きされる女(吉川真世さん)。

②「人生オーディション」
売れない女優(前田悠雅さん)、少し業界に顔が利く女優(宮嶋璃乃さん)、かなり売れている女優(國森桜さん)などの人間模様。他には前田悠雅さんの元彼(宮地樹氏)、場違いな劇団員(辻本耕志氏)、猛烈に腹を下している中村碧十(みんと)氏。この6人が何かの手違いで外から鍵を掛けられてしまい密室に閉じ込められる。
一人だけ世界観の別な辻本耕志氏の味が効く。都合いい便失禁ネタなど後半が雑な展開。宮嶋璃乃さんの脚が長い。

スケッチ③わがままな夫との結婚生活。全く趣味嗜好が合わず、うんざりする妻(吉川真世さん)。

③「男と女と犬と猫」
岡田帆乃佳さんのキャラが秀逸。愛犬あずき(小谷皐月さん)への粗雑な扱いがいい。ドMのイケメン俳優(瀬谷直矢)と愛猫チョコ(田中音江さん)。岡田帆乃佳さんのおばさん演技が場内を沸かせる。
矢張り、後半の展開が雑なのが勿体無い。
愛犬家

愛犬家

甲斐ファクトリー

ザムザ阿佐谷(東京都)

2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

客入れSEがLOVE PSYCHEDELICO。「Last Smile」が何かに似ているなとずっと考えていた。レッド・ホット・チリ・ペッパーズの「snow」っぽいが、「Last Smile」の方が先。シェリル・クロウの「What I Can Do for You」に似ていると言われているらしいが(?)。「I miss you」はローリング・ストーンズの「ルビー・チューズデイ」っぽい。

ネタバレBOX

ラストはエリック・クラプトンの「レット・イット・グロウ」で締める。

死んだ愛犬をブルーシートにくるんで背負い、埋める場所を探して土砂降りの雨の中を何時間もとぼとぼと歩く初老の男(トラ丸〈伊藤順〉氏)。ブルーシートからは血の滲みが。それを不審に感じた若き警官(塩谷惣一朗氏)が保健所の職員の女(大槻千草さん)と共にその男の後を追う。
男はまむし指と呼ばれる太く短い親指を持つ。16年前、若く美しい、二十も歳下の会社のマドンナ(安藤紫緒さん)と結婚、娘(辻村妃菜さん)を授かる。しかし産まれた娘もまた、まむし指であった。
妻は不倫を繰り返し、醜いまむし指の娘に手袋を着けさせる。夫はその全てを許し、娘の為に同年齢のゴールデンレトリバー、デカプリオを飼う。娘と共に成長し、守護神として友達として共に人生を分かち合う伴侶としての祈りを込めて。隣の家の夫婦、廣井真知子さんに味があった。

物語は自己中心的な病んだ妻、顔色を伺うだけの卑屈な夫、学校でいじめに遭うコミュ障の娘を描く。6年前に妻は手首を切って自殺し、犬もとうの昔に死んでいた。ぬいぐるみのデカプリオをいつも大事に抱きかかえる娘。
デカプリオの散歩に行って帰ってくる父親(彼の妄想で本当は存在していない)。娘と口論になって思わず首を絞めてしまう。はっとなって我に返るシーンが。

いつから男の妄想なのかが焦点なのだが、ストーリーの流れは娘の高校生活の話に比重が傾き過ぎていてバランスが悪い。ラストに娘が高校ではぐれギャル達に受け入れられるエピソードが語られ、髪を染めた3人組が公園で楽しそうに遊んでいる映像が流れる。
「愛を育てよう 育てていこう
 満開に咲かせ 風に靡かせ
 晴れた日も雨の日も雪の日も
 愛は素敵なもの だから育てていくんだ」

誰もいない家で娘の映像を眺めていた男。
娘と同年齢の犬の死ということから、背負っていたのは娘の死体だったんじゃないのか。(それにしては大きさが小さすぎるのだが)。

正直、自分的には面白く感じられなかった。脚本がどっちつかずで振り切れていない。必要のない登場人物が多過ぎる。夫、妻、娘、それぞれを見つめるゴールデンレトリバー、デカプリオの視点が必要。
血は立ったまま眠っている

血は立ったまま眠っている

文化庁・日本劇団協議会

Space早稲田(東京都)

2023/02/01 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

全く期待していなかったせいか、自分的には意外と凄く面白かった。驚く程超満員。皆、何目当てなのか?
寺山修司が23歳(1958年)の時に書いた処女戯曲というだけで、頭でっかちでつまらなそうなイメージ。それに反し今作は寺山修司の名前を伏せた方が良いぐらい痛快。新人の新作だったとしたら随分と設定が古めかしく、逆に好意的に受け止められたことだろう。

「地下鉄の鉄筋にも一本の電柱にも流れている血がある
 そこでは血は立ったまま眠っている」
オレノグラフィティ氏の音楽が冴える。

沖縄顔の新垣亘平(あらかきこうへい)氏と赤塚不二夫キャラのような本間隆斗氏は使い勝手が良く売れそう。
甲津拓平(こうずたくへい)氏は前回観た時よりもかなり太っていて、似た別の人かと思っていた。六平直政に寄せたのか。
ズベ公3人組、金髪の内田敦美さん、胸の谷間を見せつける木村友美(ゆみ)さん、美脚の竹本優希さんがエロくて最高。
時代は違うが『ゴジラ対ヘドラ』みたいな厭世観。
首を吊ったマネキン、和式便所に捨てられる猫の死体。

今となってはステレオタイプの定型文のような設定と展開。逆にパロディーみたいに見えて楽しい。中島貞夫が渡瀬恒彦とピラニア軍団で撮りそうな映画。誰一人好感を持てるキャラが登場しないことが気楽でいい感じ。誰が死のうが生きようが何とも思わない。

ネタバレBOX

革命だなんだは所詮時代の流行歌。全ては“醜さ”の許容と否定でしかない。醜い現実に我慢出来ず“否定”を叫ぶか、「まあそんなもんだ」とせせら笑ってやり過ごすかの違い。革命(?)に燃える若者達への冷ややかな視線。筒井康隆の『霊長類 南へ』や『革命の二つの夜』を想起。やっぱり当時の大衆は皆馬鹿馬鹿しく感じていたのだろう。浅沼稲次郎を刺した山口二矢が、高校では馬鹿にされていたエピソードを思い出す。(あだ名は「右翼野郎」)。大多数のノンポリと少数のキチガイ思想家がこの世を司るバランス。
今作を現代劇にするならば、闇バイトに迷惑系YouTuber、炎上系TickTokerなどの登場する『闇金ウシジマくん』みたいになりそう。

何かSIONの初期作を聴いている感覚になった。
草迷宮~ここはどこの細道じゃ~

草迷宮~ここはどこの細道じゃ~

演劇実験室◎万有引力

座・高円寺1(東京都)

2023/02/03 (金) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かつて泉鏡花の『草迷宮』を寺山修司が映画化。40分の短編で、他の監督の二本と合わせオムニバス映画『コレクション・プリヴェ(個人的蒐集)』として1979年にフランスにて公開された。主演の三上博史、15歳のデビュー作。
原作のモデルとなった話は江戸時代中期の1749年、広島の武士の子息・稲生平太郎が実際に体験した実話、『稲生物怪録』(いのうもののけろく)。16歳の豪胆な少年が一ヶ月間毎日脅かしに来るありとあらゆる妖怪共を冷静にあしらう講談調の記録。

J・A・シーザー氏の1979年のコンサート、『ブラック・クリスマス』に於いて『組曲・草迷宮』として初披露。1986年、渋谷で開催されたイベント「テラヤマ・ワールド」にて「演劇実験室◎万有引力」により『幻想音楽劇「草迷宮」―てんてん草紙ー』と銘打ち初舞台化。2006年、『幻想燈音楽劇「草迷宮」―たずねて母の迷宮三千里ー』(こまばエミナース)にて二度目の舞台化。

そして今回は、
「『ブラック・クリスマス』の際に寺山修司が書いた原作より手毬唄を巡るエピソードを核として抽出した十九枚の台本原稿をベースに、前二回の公演や原作の要素を織り交ぜ···」(「Press Walker」より引用)。
最早誰の夢なのかも解らない。

J・A・シーザー氏はパーカッション。(キーボードも?)
琵琶語りの川嶋信子さんと巨大な二十五絃箏(そう)を操る箏奏者・本間貴士氏が素晴らしい。もうずっとLIVEで曲の合間に芝居位が丁度いい。ヴァイオリンの多治見智高ジーザス氏は聴いたことのない音色を響かせる。

亡き母(森ようこさん)の口ずさんでいた手毬唄。それをどうしても思い出せない主人公・明(髙橋優太氏)。その歌詞を探して諸国放浪の旅に出ている。横須賀市秋谷(あきや)にて川上から流れてきた手毬を捕まえ、上流にある廃墟と化した黒門屋敷に泊まり込む。

怪奇西瓜男(三俣遥河氏)の軽業師を彷彿とさせるアクロバティックなアクション。
裏の土蔵に監禁された色気違いの千代女(ちよめ)。
誘惑に抗えない少年時代の明(多賀名啓太氏)。
神隠しに遭った幼馴染みの菖蒲(あやめ)。
芋の葉で顔を隠しながら「通りゃんせ」を唄う童たち。

小寺絢さん、内山日奈加さん、真夢(まむ)さん、皆化粧が美しく女優陣が映える。

何度でも観れる良いLIVEだった。

ネタバレBOX

森ようこさんのラストの台詞、「ほうら···、お前をもう一度妊娠してやったんだよ!」
おやすみ、お母さん

おやすみ、お母さん

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2023/01/18 (水) ~ 2023/02/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。
凄く合点がいった。作家の表現したいことがやっと理解出来た。
自死遺族の物語は家族や友人恋人にある日突然、死を選ばれたことへのショック、遺された者の心の傷を語るものが殆ど。
「何故相談してくれなかったのか?」
「自分に何かしてやれることはなかったのか?」
永遠の自問自答が続く。

今作は自殺する娘が丁寧に母親に説明してくれる。泣き叫び怒り狂い喚き散らす母親。だが娘の決心は揺るがない。「やっぱり私がやることは思ったようにいかない。」と、さらに自己嫌悪の念が広がるのみ。
自殺を決めた者の、この感覚の表現。
「これ以上、自分のことを嫌いになりたくない。」
「誤った選択を選ぶ位なら、もう何も選びたくはない。」

そんな娘に何を言える?
死を選んだ側の気持ちを的確に表現してみせた。

ネタバレBOX

セルマ(那須佐代子さん)とジェシー(那須凛さん)についても理解出来た。

セルマは15の時に嫁ぐ。旦那のことは愛していなかった。旦那は多分癲癇持ち。発作が起きるとソファーでじっと収まるのを待つ。ジェシーは5歳の時、初めての発作を起こす。それから何回もあったが、セルマはそれをジェシーには秘密にしていた。
内向的で口下手なジェシーに大工職人のセシルを引き合わせ、結婚へと導く。息子の誕生。ジェシーはセシルに誘われて乗馬に付き合った際に転倒、癲癇の発作を起こす。(彼女はそれが初めての発作だと思っていた)。ジェシーとセシルは離婚。(セシルはセルマの友達の娘、カーリーンと浮気をしていたが、ジェシーは知らない)。実家に帰るジェシー。父親は亡くなっており、兄のドーソンはロレッタと結婚して家を出ている。セシルに引き取られた息子はぐれて、ジェシーのネックレスを二つ盗んで家出。
母との実家暮らしも十年経ち、ジェシーは父の遺品の拳銃で自殺することを決める。新しい薬が効いて、ここ一年発作は出ていなかった。兄夫妻がパジャマに着替える前の午後10時までに終わらせること。セルマからの電話で起こされ、また着替えさせるのは可哀想だから。午後8時10分頃に舞台は始まり、午後9時52分頃に銃声が轟いた。

セルマ側の視点で観客は事態の推移を見守る。ジェシー側の視点で物語を見直すと、全く違う光景が広がる。本多勝一の『殺す側の論理』と『殺される側の論理』を思い出す。

前回も那須佐代子さんが右膝か腿の付け根を痛めているような歩き方をしていた。だがカーテンコール時にはスタスタ歩いてくる。まさかこれも役作りだったのか!?
ドッペルゲンガーちゃん

ドッペルゲンガーちゃん

坊ちゃん嬢ちゃん

東中野バニラスタジオ(Vanilla Studio)(東京都)

2023/02/03 (金) ~ 2023/02/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

客は関係者(?)を入れて十人、不安になる程。だが始まれば観に行って正解だったと誰もが思う筈。女優三人でこれだけの世界を演れるのか。脚本はまさに才能次第。一人の女性の実存に斬り込んでいる。
流される曲はクラシックのスタンダード、余りにも正攻法。メルヘンチックな描写は大林宣彦調、『ふたり』なんかを想い出す。少女の一人遊びのような心象風景。

上半分だけ二次元美少女キャラのお面を付けて(偽った自分を演じるメタファー)、コンセプトバーで働く主人公(マタハルさん)。コンセプトはかぐや姫。いつか月に帰る日まで皆を接客し楽しませる設定。ある夜、占い師に「あんたは死相が出ている。生き物を飼いなさい。」と勧められ、ハムスター(じゃじゃんがさん)を買ってくる。そんなある日、ガチ恋の常連客(じゃじゃんがさん)とのトラブルを理由に30代にして5年勤めた店を卒業させられる。気力を無くし、部屋に引きこもる主人公のもとに、昔の自分によく似た女(ちこゆりえさん)が現れる。

マタハルさんに透明感があって魅力的。
ちこゆりえさんの演技力のポテンシャルはヤバい。
じゃじゃんがさんのドスの効いたキャラ。
作・演出の加藤睦望さんの世界、妙に記憶に残る話。

ネタバレBOX

Oasisの代表曲、『Wonderwall』。

「誰もいやしないんだ
 俺くらいお前の事を想っている奴はね」
「だって多分
 俺を救ってくれるのはお前だけ」
「俺は多分前にも言った
 俺を救えるのはお前しかいない」

窮地に陥った自分を励まし力になってくれるもう一人の自分の歌。どうしようもない状況で自問自答している。

主人公にガチ恋していた常連客に捨てられた恋人が、復讐の為に顔をそっくりに整形して近付いてきたというもの。他人に恋愛感情を持てずにいた主人公は、”もう一人の自分“となら上手くやっていけそうな気がする。この心底落ち込んでどうでもよくなった自分が、再生していく過程が丹念に描き込まれる。ラストの「さびし〜〜〜!!」が効いた。
黒い湖のほとりで

黒い湖のほとりで

文化庁・日本劇団協議会

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2023/01/27 (金) ~ 2023/01/31 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

二人の女優の狂気の殺し合い。
NOKKO+大竹しのぶの井上薫さん。『さんせう太夫』のカルマ全開の母親役が印象に残る山崎美貴さん。どちらに軍配が上がるか注視したが、二人共取っ組み合ったまま海に落ちて消えて行った。往年の怪獣映画を思わせるラスト。何か凄いものを目撃した感覚が残る。

巨大な紙で折られた小舟が舞台中央に吊るされて頭上をゆっくりと回転している。4年ぶりに再会する二組の夫婦。転勤ばかりの銀行員夫婦と、黒い湖のほとりに暮らす家業を継いだ地元のビール工場の経営者夫婦。どちらも4年前にこの湖で子供を亡くしている。
四人は初めて会った日のことを思い出し語り出す。四人で夜のボートに乗り込み子供のようにはしゃいで終いには転覆してしまったっけ。

銀行員ジョニー(沢田冬樹氏)、その妻で心臓の悪いエルゼ(山崎美貴さん)、娘のニーナ。
ビール工場の社長エディー(南保大樹〈なんぽひろき〉氏)、その妻のクレオ(井上薫さん)、息子のフィリッツ。

誰が誰の役を演っているのか混乱しながら観ていた。わざとそう演出しているような。心に空いた巨大な空虚が自分達の存在を不安にしていく。

ネタバレBOX

子供達はエディーの家のガラステーブルを叩き割ると、そこに90ユーロの紙幣と手紙を残した。「ここという場所は美しくない。」。黒い湖に浮かぶボートに乗り込み、湖の真ん中で睡眠薬を飲む。互いの手首は紐で縛り付けてある。そして舟底に穴を開けた。
いごっそうと夜のオシノビ

いごっそうと夜のオシノビ

Nana Produce

サンモールスタジオ(東京都)

2023/01/25 (水) ~ 2023/01/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

してやられた。
よく知らぬままチケットを買ってぼんやりと眺めていたら「ああ、本当に良い喜劇を觀た」満腹感に充足。寺十吾氏の名前があると何か観たくなる。山田洋次のテクニックに中崎タツヤのリアリティーを足した感覚。嘘臭さ(作り物)のラインを器用に飛び越えてみせる。それは『庭劇団ペニノ』の手触りと同じ。今生きて在る生活者と地続きの光景、地に足の着いた本物の実感。まさしく自分と周りの連中の物語。

①『夜のオシノビ』
舞台は寺十吾氏の経営する居酒屋「夜のオシノビ」。9年前に亡くなった彼女の命日に催される偲ぶ会。籍は入れていないが同棲していた。遺品になった生理用品さえ捨てられずトイレに置き続けている。最早、会に来てくれるのは彼女の古くからの友人、金子さやかさんだけ。手塚理美に似た雰囲気の美人。「もう次からは来ない。」と去って行く金子さやかさん。  
翌年の十年目の命日、誰も訪れない筈の会に見知らぬ男性(浜谷〈はまや〉康幸氏)が訪ねて来る。

②『いごっそう』
高知県の寂れた田舎町の居酒屋「いごっそう」。“いごっそう”とは、土佐弁で「頑固で気骨のある男」の意。店主は妻に先立たれた加山徹(てつ)氏。加山雄三の息子!激しい雨が叩き付ける中、常連の四人が来店。町役場の独身三人組(鎌倉太郎氏、有川マコト氏、浜谷康幸氏!)と東京から赴任して来た既婚男性(泉知束〈ともちか〉氏)。町中の男達が憧れている美人店員、青山祥子(さちこ)さんは未だ外出中。「自転車なので酒は飲ませない!」と厳しい店主。おっさん達は仕方なくオレンジジュースを呷るのだが・・・。

「いごっそう」のメニュー、たこわさびが550円なのが気になった。他の物と比べて高くないか?高知県だからものが良いのか?

もの凄い完成度の短編喜劇、松竹全盛期の映画館からの帰り道の気分。老若男女の胸が優しくあったまる。横山拓也氏に『男はつらいよ』を書いて貰いたい。

ネタバレBOX

①さまぁ〜ず(バカルディ)のコントの感覚。寺十吾氏が三村マサカズに見えた。「どういう気持ちで俺はそれを受け止めればいいんだよ!」。ガラケーで撮ったハメ撮りがウイルスに感染して世界中に拡散されてしまったことへの謝罪。この酷い展開は「た組」っぽい。

②生瀬勝久っぽい鎌倉太郎氏、逆に渋味すら感じる48歳独身男性の哀しみ。泉知束氏はTKOの木本っぼい。素人童貞、フィリピーナと見合い結婚する有川マコト氏は上島竜兵に見えた。そして発狂する浜谷康幸氏。この人の狂いっぷりが二作品のMVP。青山祥子さんは巧い。確かにこんな娘がいたらおっさん共はのぼせて通うことだろう。本当によく出来ている脚本。『仁義なき戦い』のテーマ曲もズバリハマる。横山拓也氏の立ち位置とそこからの視点こそが日本人の国民性のど真ん中。
星の王子さま サン=テグジュペリからの手紙

星の王子さま サン=テグジュペリからの手紙

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2023/01/21 (土) ~ 2023/01/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

振付・演出の森山開次氏は昨年、布袋寅泰の幕張メッセX'mas Eve LIVEにピエロ役で出演。江頭2:50を思わせるアクションで会場を大いに盛り上げた。今作も江頭2:50っぽい振付が多い印象。デフォルメした肉体パフォーマンスにコミカルな味付け。バレエの動きと絡み合う。本人も蛇役で登場、凄まじい舞踊を刻み込んだ。
舞台美術の日比野克彦氏は流石。画用紙で作ったような様々な造形物が天井から吊るされている。様々な形の沢山の紙が貼り付けられたグロテスクな月の造形が素晴らしい。風船をいろんな工夫で効果的に使用。
衣裳のひびのこづえさんのデザインはエロティック。薄手の全身ボディタイツの上に網タイツ状の黒いボディストッキング。
生演奏に合わせてハミングや歌を歌う坂本美雨さん。矢野顕子の娘だけあって高音の伸びが素晴らしい。

「星の王子さま」役のアオイヤマダさんはさかなクンに似ているイメージ。お笑い芸人やギャグ漫画のキャラを思わせるユニークな動きと感情表現。
飛行士役の小㞍健太氏の親近感が湧く人の好さそうな柔和な表情。
バラの花役の酒井はなさんはほぼ全編ルルベ(つま先立ち)、気品高く優雅。
ダンサーの池田美佳さんは長身で手足が長く、皆藤愛子っぽい気品で目立つ。
キツネ役の島地保武氏は動きが鮮やか。

正直、物語が伝わり辛い。自分の望んだ『星の王子さま』ではなかった。やっぱり泣かせて欲しい。夜の砂漠の余りの美しさに立ち尽くしたい。舞踊としても説明口調な気がする。

おやすみ、お母さん

おやすみ、お母さん

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2023/01/18 (水) ~ 2023/02/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

那須佐代子さん、那須凛さん、すっぴんに近い薄化粧。那須佐代子さんの演技力の高さは最早誰もが知っていること、那須凛さんのシリアスな演技に見入った。かなり魅力的。役柄的には60歳の母と40歳の娘。8時過ぎから始まった時計の針が10時に近付いていく。矢鱈お菓子に溢れた部屋。
那須凛さんの印象的な台詞。
「行き先もないのにずっとバスに乗って揺られているのならば、何処で降りても同じことなのよ。」

ネタバレBOX

重苦しい話。だがそんなに戯曲が良いとも思えない。同じ死を望む話ならばユージーン・オニールの『月は夜をゆく子のために』の方がぐっと来た。那須佐代子さんと那須凛さんがちゃんとし過ぎているのかも知れない。どうしようもなくだらしない母親と、全てが上手く行かなくなって詰んだ娘の感じがしない。理路整然と自分が自殺した後にやることを指示するブラック・ユーモアなのだろうが、そこもどうもずれている。演出家の描いたイメージが綺麗すぎるのか。
元気になると鬱病患者は自殺を行動に移すエネルギーを得るという。那須凛さんが理知的に自分の半生を省み、元気な今こそ自殺を実行しようと決めるのはリアル。論理的に遂行される娘の自殺、母の那須佐代子さんはありとあらゆる言葉を用いてそれを先延ばしさせようとする。死ぬ前に母親にきちんと伝える娘、無理と分かっていても必死に止める母。間違いなくそこに愛情と呼べるものが見えた。

死ぬことを完全に決めたからこそ、母親と心を開いて語り合えたのかも知れない。そうでもなければお互いの痛みを伝える機会もない。癲癇の発作で仕事に就けず、旦那とも離婚、ぐれた息子は指名手配。

ニルヴァーナの猟銃自殺したカリスマ・ヴォーカリスト、カート・コベイン。ニルヴァーナのドラマーだったデイヴ・グロールは自身のバンド、フー・ファイターズにて彼への歌を作った。(『Let It Die』)。ずっと繰り返される言葉。

Why'd you have to go and let it die?
(何故、君は自分を死なせなければならなかったのか?)

自分という存在に最適な答が死ぬことであった。
血の婚礼

血の婚礼

劇団東京座

中野スタジオあくとれ(東京都)

2023/01/19 (木) ~ 2023/01/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

戯曲は面白い。マカロニ・ウエスタンのように情念がゆらゆらと静かに立ちのぼり、美しく激しくあっという間に散っていく。これは何度も上演したくなる作品だろう。
誰もが連想するのは『嵐が丘』。ヒースクリフとキャサリンの亡霊が荒野を彷徨い続ける様。

DIY感の強い舞台美術。左右の柱に紙皿やフォーク、ナイフが塗り込まれた工夫。予算がなくても情熱でカバー。手堅い日常ドラマではなく、フェデリコ・ガルシーア・ロルカに挑む姿勢を支持。武器は無限の想像力だけ。

実質的に主人公である、一条政美(まさとみ)さんがこの地に生まれた一族の宿業を滔々と語る。
鈴木みのる調のバリアートで老婆役、穴山ジョウジ氏は座頭を彷彿とする動きで印象的。脚が異様に細い。
遠藤愛生(あい)さんは小池栄子系の顔立ち。

スペイン南部アンダルシア地方の荒れ野が広がる町。因縁のある一族同士の結婚式を前に、不穏な空気が流れている。夫と長男を争いで亡くしている母は息子の結婚相手が気に入らない。唯一残った息子だけを生き甲斐にしてきた。花嫁は以前従兄弟の男と交際していたが、その男は家庭を持ち子供もいた。

ネタバレBOX

原作通りだが、ラストの花嫁が花婿の母親に会いに来るエピソードは不要。何があったか想像させるだけで充分。これを描くならもっと母親の比重を作品内で高めないといけない。
演出が力不足。もっと攻めていかないと、この戯曲に太刀打ちできない。勝手な独自の解釈で自分の作品にして欲しい。

「世界の果てまで俺を連れてってくれ
 潰れていってもいいんだ 失うものは何もない
 冷たい水晶を今夜お前と食べよう
 喉が切れても構わないから」

「お前は帰るとこがない だからここにいる
 俺は行くべきとこがない だからここにいる
 激しい光の中で二匹の虫が目を焼いた
 今更飛び立とうとは決して思わない」

スターリン『STOP GIRL』

遠藤ミチロウの声が聴こえてくるような二人の逃避行。
明日の幸福

明日の幸福

diamond-Z

日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)

2023/01/20 (金) ~ 2023/01/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かなり期待していただけはあった。手堅く面白い。木下恵介の『破れ太鼓』や市川崑とか岡本喜八の初期作を思わせる。雪村いづみや江利チエミ、新珠三千代なんかが似合う話。昭和29年(1954年)初演の作品だが、今観ても誰もが共感するだろう。結局、物語のカタルシスとは耐えに耐えた人間の大爆発に尽きる。力道山がシャープ兄弟と綴った物語は永遠不変、人類のアーキタイプ。誰もが心の奥底に抱えているもの。

経済同友会の理事長、日向進吾氏は国務大臣に任命されそうな大物。由緒ある家柄で家父長として君臨。家宝は代々伝わる1500年前の馬の埴輪。新婚の孫夫婦も同居して三世代の家族を切り盛りするのは厳格なルールに縛られた女性達。
息子、中村利一氏の務める裁判所では愛し合う若夫婦が離婚調停を申し立てる不思議な事件が。

diamond-Z(ダイアモンド・ゼット)というももクロのファンクラブみたいな劇団名。役者陣は本格的で分厚い。
奥様役の菊地美奈さんがとても良かった。これで本業はソプラノ・オペラ歌手というのも凄い。
大旦那役の日向(ひゅうが)進吾氏 は志村喬+加藤武みたいで絵になる。冒頭、顔剃りから始まるのだが突き出た口髭というのも狙いか。
大奥様役の内藤通子さんは物語の要。この品のいい老婦人のクライマックスでの動きに観客はどっと沸く。
裁判官の旦那役、中村利一氏も好演。人の好い、仕事に誇りを持つ立派な男なのだが···。

会場は広く綺麗で観易い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

嫁姑問題をクローズ・アップしながら、実は家父長制封建主義に支配され続けた女性の解放の叫びの物語に。
「まだ夫に相談出来る内はいいわよ。もうそんな気持ちも失くなってしまった。」
「私だって“明日の幸福”を掴みたい!」
菊地美奈さんと内藤通子さんの叫びにうろたえた夫達がおののく。

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