ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

241-260件 / 627件中
磁界

磁界

オフィスコットーネ

小劇場B1(東京都)

2023/02/09 (木) ~ 2023/02/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

L字型の客席。舞台美術(金安凌平氏、西山みのりさん)がやり過ぎぐらいに凝っている。打ちっぱなしのコンクリート。(加工したシートを敷き詰めている)。廃墟ビルの埃の溜まった一室。雑然とそこら中に転がる椅子。両端に積み上げられた縄で縛られた椅子の山。ディストピア感満載、流れるインダストリアル・ミュージック。
二人が向き合い会話を進める途中でノイズ音が走る。するとカメラを切り替えしたように、互いの場所を入れ替えて会話の続きを始める。どちら側に座っている客にも役者の表情が見えるようにとの配慮だろう。とにかく客に見せたいものがハッキリしている。

磁界とは磁気が働く空間の状態のこと。
「教示願います。」
マルガイ(被害者)、マルヒ(被疑者)、警察用語が飛び交う。

署長(青山勝氏)、課長(大滝寛氏)、係長(谷中恵輔氏)、主任(西尾友樹氏)、巡査(井上拓哉氏)のヒエラルキー。それぞれ味のある役者が重厚なハーモニーを奏でる。格と名のあるプロレスラーが次々にリングに登場し、ファンの妄想を刺激するような。青山勝氏は怖ろしい。権力という暴力を身に纏っている。

失踪した妹に電話で金を無心された姉(柿丸美智恵さん)、双子の妹(異儀田夏葉さん)、相談を受ける弁護士(狩野和馬氏)。
柿丸美智恵さんの居酒屋のシーンは人間的で良かった。
双子という設定で、失踪した妹役も異儀田夏葉さんが演ることの予想はつく。判っていても度肝を抜かれる。

熊井啓映画の気分。反権力弁護士は鈴木瑞穂にやらせたい。
西尾友樹氏はテッド・バンディみたいなサイコパス役が似合うと思う。企業舎弟のインテリヤクザや新興宗教の広報(上祐史浩的役回り)なんか打って付け。まともな善人役では勿体無い奥行き。目の玉が据わる演技が凄い。ティム・ロス流か?目の玉のくすみで役柄の内面の変化を表現する技術。ゾッとした。ここだけでも今作を観る価値は充分ある。

ネタバレBOX

西尾友樹氏が罪悪感に押し潰されそうになる、象徴的な場面が欲しかった。

最もド迫力な名シーンは、個人の判断で遺族に謝罪に行った西尾友樹氏を叱責する青山勝氏の場面。「お前等末端が意思を持つな!」と言わんばかり。組織の論理で徹底的に総括される。逃げる余地などもう何処にもない。

実家の母の世話を妹に押し付けて出て行った姉。未婚なのか姓は変わっていない。駅前のスーパーでレジ打ちをしていた大人しい妹。ホストや風俗嬢と何処で知り合ったのか、家族や仕事を投げ出す程の刺激的な出会いだったのか?そこにも描かれていない“磁界”に囚われた者の物語が。

警察批判というよりも組織論の話。最も無駄がない最強の組織は軍隊である。上意下達で組織が一人の人間のように動く。頭脳の部署が決定したことを正確に遂行することのみが要求される。個々で判断したりためらったりすることは許されない。それが軍隊であり、全ての組織はそれに傚ったもの。組織で生きていくことを決めたならば個々の善悪の判断は邪魔になる。どれだけ優秀な機械に徹することができるのか。
今作は学校や新興宗教を舞台にしても面白かったと思う。自殺した生徒の苛め問題の隠蔽。理想を持って身を投じた筈の宗教団体の中で、組織論で醜く捻じ曲がっていく信仰の有様。

嫌なら必死でその“磁界”から逃げるしかない。
生活と革命

生活と革命

マチルダアパルトマン

OFF OFFシアター(東京都)

2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

⑤が池亀三太演出、①にも参加。他は役者陣のみで演出。

①「ふやけたヌードル」
母の葬式後、四十過ぎの兄(坂本七秋氏)と介護の為に夢を諦めて帰省していた妹(松本みゆきさん)が今後について話し合う。

②「のがしたフィッシュ」
部屋には血溜まりに倒れている男。樋口双葉さんと冨岡英香(はなこ)さんが対峙している。

③「ひみつのキヨスク」
Kioskの美人店員の私設ファンクラブを秘密裏に長年作っている二人、葛生大雅氏と久間健裕氏。くずうっちが自宅にたけちゃんを呼び、「聞いて貰いたいことがある」と伝える。

④「つらなるワンナイト」
半年一緒に同棲していたカップル。突然、小久音さんが大垣友氏に別れを告げる。

⑤「めぐるキャット」
必見。全員登場。

MVPは葛生大雅氏、飛び道具感。久間健裕氏はセンスがある。

隣の駅前劇場の音が結構聞こえるものだ。

ネタバレBOX

何かあんまり面白くない短編の連なり。⑤だけぐっと来た。猫が繋いでいく人間の関係性は美しい。喧嘩別れした二人が2年振りに猫の為、再会する美しさ。全く関係のない人達の個々の繋がりの細い線が、別れた彼女が連れ帰った愛猫を自分のもとにまで届けてくれる温もり。人間は個々それぞれは全く関係がないように見えて、どこかしらでか細く繋がっている。これだけで素晴らしい作品の草稿足り得る。

矢野顕子がTHE BOOMをカバーした「中央線」を想い出す。
「逃げ出した猫を探しに出たまま
 もう二度と君は帰ってこなかった
 今頃君はどこか居心地のいい
 町をみつけて猫と暮らしてるんだね」
運動会をやりたくない

運動会をやりたくない

万能グローブ ガラパゴスダイナモス

駅前劇場(東京都)

2023/02/09 (木) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

客入れSEがandymori。「モンゴロイドブルース」なんかいい感じ。「都会を走る猫」のメロディーが耳に残る。「ベンガルトラとウィスキー」なんてカッコイイ。

友田宗大氏の降板の為(理由は未公表)、初日と二日目のマチネを中止。二日目のソワレから作・演出の川口大樹氏を代役として開幕。全く先月の艶∞ポリスと同じ展開。

しかしこれが面白かった。ネタとしては『ナイゲン』+アンジャッシュの勘違いコントなのだが、人の描き方に感心した。

福岡の寂れたシャッター商店街。そこに新たに店をオープンする脇野紗衣(さえ)さん。地元の町内会に手厚く歓迎される。この脇野紗衣さんのキャラが面白い。読めそうで読めない。掴めそうで掴めない。波風立たない静かな田舎町に落とされた、誰にもコントロールの効かないインフルエンサー。
ここから町の何かが狂い出す。
会長代理のスポーツ用品店の石井実可子さんと文房具屋の野間銀智(うち)さんの幼馴染みコンビが実質観客目線を担う。こういうところが巧い。
和菓子屋の椎木樹人(しいきみきひと)氏、居酒屋の杉山英美(えみ)さん、ガラス屋の川口大樹氏、カフェの千代田佑李さん、コンサルタント業の澤柳省吾氏は竹内涼真っぽい。

ありふれているようでありふれていないキャラクターの織り成す独特な喜劇。

ネタバレBOX

クライマックスの運動会の構成がイマイチ、テンポが悪い。あれよあれよと畳み掛けてカオスに導いて欲しい。
野間銀智さんのデザイン画のエピソードが秀逸。

※4月8日に劇団からアナウンス。友田宗大氏の降板理由が、公演初日に問題行為が発覚した為とのこと。一体、何が起きたのか?
ストリッパー物語

ストリッパー物語

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2023/02/09 (木) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

里中満智子さんがチラシのイラストを描いていることの不思議。
昨年10月に観た『酒乱お雪』、主演の藤田怜さんにやられた。元男装アイドル『風男塾』で藤守怜生として活躍。ルックス、演技、バレエ・・・、全てが揃った完璧(パーフェクト)超人。今回は主演の安藤瞳さんが体調不良の為、降板。急遽1月中旬から稽古に合流。その凄まじさは今作を観た人全員に焼き付いている筈。つかこうへいが原稿用紙に刻み込んだ情念の陽炎が鬼火となって立ち昇り実体化したような存在。

ストリッパーの明美(藤田怜さん)とヒモのシゲ(伊原農〈みのり〉氏)のつか流純愛劇。シゲが捨ててきた娘の美智子(星野李奈さん)が高校生になって巡業に訪ねて来る。

選曲のセンスが良い。定番「夜桜お七」から始まり、「イルカの日」のサントラ、「ホット・スタッフ」に「メモリー」、ビヨンセの「クレイジー・イン・ラブ」。暗いシャンソンからグラインドコアにテンポチェンジする曲なんか良かった。
脳梅にかこつけて、泉谷しげるの「おー脳!!」を歌う伊原農氏。
五十嵐明氏はルー大柴や“リーダー”渡辺正行を思わせる動き。
能面をかけて踊る椿紅鼓(つばきべにこ)さんの舞踏も印象的。
本職のストリッパーでもある若林美保さんの技、エアリアルフープ。もうエロスを超えた技術。これに挑む藤田怜さんの身体能力の高さ。

のぐち和美さん一座のショーとして完璧な出来。つかこうへい作品の正しい解釈。

ネタバレBOX

公演後、地元のヤクザやら議員やらに明美を要求され、車でホテルまで送り届けるシゲの述懐。車の中でことが終わるのを煙草を吸ってじっと待つ。明美の部屋に懐中電灯で合図を送るとSEX中の明美が窓越しに手を振る。懐中電灯によるモールス信号のメッセージに、明美はライターの火の点滅で返す。「愛してる」「私もよ」。
もの凄い詩だ。誰にも汚せない、二人にしか触れられない絆。

SION 「夜しか泳げない」
 夜しか泳げない魚は影を連れて歩かない
 だけど光だけが光じゃないことだけは太陽より知ってる
ほどよく洒落たチョコレート

ほどよく洒落たチョコレート

劇団4ドル50セント

シアター・アルファ東京(東京都)

2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

艶∞ポリスの岸本鮎佳さんが脚本、流石に面白い。三本のオムニバスなのだが、一本目のセンスにやられた。ずっとこれで通して欲しい位。トム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が大好きな人は劇場に足を運んで欲しい。こういう笑いのセンスこそが求められている。

石原さとみ似で話題になった安倍乙(おと)さん、エースの風格。
前田悠雅さんはすでにベテランの貫禄、首が長い。
岡田帆乃佳さんは総監督、たかみなの域。自分が何をすべきかが俯瞰的に見えている。

正統派アイドル劇団、ガチガチにシリアスな古典なんかを演って欲しい。

①「大友デパート地下食品売り場」
バレンタインデーの日に合わせ、デパ地下和菓子屋で「らぶらぶ饅頭」を販売することに。前日に追加の発注を掛けた筈が倉庫に在庫はない。

②「人生オーディション」
あるドラマのオーディション、監督の到着が遅れていて受験者達は控室で呼ばれるのを待っている。

③「男と女と犬と猫」
腹を壊した愛犬をペットクリニックに連れてきた女。そこに愛猫を連れて現れた男は、長年推し続けてきた人気俳優であった。

ネタバレBOX

前説は後藤めぐみさん。
スケッチ①浮気した彼氏の軽薄な言い訳にキレてボコボコにする女(吉川真世さん)。

①「大友デパート地下食品売り場」
2/13から2/14までの日々を何度も繰り返しループしてしまうバイトの安倍乙さんと店長の罍(もたい)陽子さん。安倍乙さんが営業の内田航(わたる)氏に告白された喜びで「らぶらぶ饅頭」を発注し忘れたのが原因と睨む。バイトの本西彩希帆(さきほ)さんの口が悪くて面白い。罍陽子さんは流石の貫禄、柴田理恵みたいなキャラで見事に笑わせる。メチャクチャ面白い。

スケッチ②男との飲みの席でドン引きされる女(吉川真世さん)。

②「人生オーディション」
売れない女優(前田悠雅さん)、少し業界に顔が利く女優(宮嶋璃乃さん)、かなり売れている女優(國森桜さん)などの人間模様。他には前田悠雅さんの元彼(宮地樹氏)、場違いな劇団員(辻本耕志氏)、猛烈に腹を下している中村碧十(みんと)氏。この6人が何かの手違いで外から鍵を掛けられてしまい密室に閉じ込められる。
一人だけ世界観の別な辻本耕志氏の味が効く。都合いい便失禁ネタなど後半が雑な展開。宮嶋璃乃さんの脚が長い。

スケッチ③わがままな夫との結婚生活。全く趣味嗜好が合わず、うんざりする妻(吉川真世さん)。

③「男と女と犬と猫」
岡田帆乃佳さんのキャラが秀逸。愛犬あずき(小谷皐月さん)への粗雑な扱いがいい。ドMのイケメン俳優(瀬谷直矢)と愛猫チョコ(田中音江さん)。岡田帆乃佳さんのおばさん演技が場内を沸かせる。
矢張り、後半の展開が雑なのが勿体無い。
愛犬家

愛犬家

甲斐ファクトリー

ザムザ阿佐谷(東京都)

2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

客入れSEがLOVE PSYCHEDELICO。「Last Smile」が何かに似ているなとずっと考えていた。レッド・ホット・チリ・ペッパーズの「snow」っぽいが、「Last Smile」の方が先。シェリル・クロウの「What I Can Do for You」に似ていると言われているらしいが(?)。「I miss you」はローリング・ストーンズの「ルビー・チューズデイ」っぽい。

ネタバレBOX

ラストはエリック・クラプトンの「レット・イット・グロウ」で締める。

死んだ愛犬をブルーシートにくるんで背負い、埋める場所を探して土砂降りの雨の中を何時間もとぼとぼと歩く初老の男(トラ丸〈伊藤順〉氏)。ブルーシートからは血の滲みが。それを不審に感じた若き警官(塩谷惣一朗氏)が保健所の職員の女(大槻千草さん)と共にその男の後を追う。
男はまむし指と呼ばれる太く短い親指を持つ。16年前、若く美しい、二十も歳下の会社のマドンナ(安藤紫緒さん)と結婚、娘(辻村妃菜さん)を授かる。しかし産まれた娘もまた、まむし指であった。
妻は不倫を繰り返し、醜いまむし指の娘に手袋を着けさせる。夫はその全てを許し、娘の為に同年齢のゴールデンレトリバー、デカプリオを飼う。娘と共に成長し、守護神として友達として共に人生を分かち合う伴侶としての祈りを込めて。隣の家の夫婦、廣井真知子さんに味があった。

物語は自己中心的な病んだ妻、顔色を伺うだけの卑屈な夫、学校でいじめに遭うコミュ障の娘を描く。6年前に妻は手首を切って自殺し、犬もとうの昔に死んでいた。ぬいぐるみのデカプリオをいつも大事に抱きかかえる娘。
デカプリオの散歩に行って帰ってくる父親(彼の妄想で本当は存在していない)。娘と口論になって思わず首を絞めてしまう。はっとなって我に返るシーンが。

いつから男の妄想なのかが焦点なのだが、ストーリーの流れは娘の高校生活の話に比重が傾き過ぎていてバランスが悪い。ラストに娘が高校ではぐれギャル達に受け入れられるエピソードが語られ、髪を染めた3人組が公園で楽しそうに遊んでいる映像が流れる。
「愛を育てよう 育てていこう
 満開に咲かせ 風に靡かせ
 晴れた日も雨の日も雪の日も
 愛は素敵なもの だから育てていくんだ」

誰もいない家で娘の映像を眺めていた男。
娘と同年齢の犬の死ということから、背負っていたのは娘の死体だったんじゃないのか。(それにしては大きさが小さすぎるのだが)。

正直、自分的には面白く感じられなかった。脚本がどっちつかずで振り切れていない。必要のない登場人物が多過ぎる。夫、妻、娘、それぞれを見つめるゴールデンレトリバー、デカプリオの視点が必要。
血は立ったまま眠っている

血は立ったまま眠っている

文化庁・日本劇団協議会

Space早稲田(東京都)

2023/02/01 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

全く期待していなかったせいか、自分的には意外と凄く面白かった。驚く程超満員。皆、何目当てなのか?
寺山修司が23歳(1958年)の時に書いた処女戯曲というだけで、頭でっかちでつまらなそうなイメージ。それに反し今作は寺山修司の名前を伏せた方が良いぐらい痛快。新人の新作だったとしたら随分と設定が古めかしく、逆に好意的に受け止められたことだろう。

「地下鉄の鉄筋にも一本の電柱にも流れている血がある
 そこでは血は立ったまま眠っている」
オレノグラフィティ氏の音楽が冴える。

沖縄顔の新垣亘平(あらかきこうへい)氏と赤塚不二夫キャラのような本間隆斗氏は使い勝手が良く売れそう。
甲津拓平(こうずたくへい)氏は前回観た時よりもかなり太っていて、似た別の人かと思っていた。六平直政に寄せたのか。
ズベ公3人組、金髪の内田敦美さん、胸の谷間を見せつける木村友美(ゆみ)さん、美脚の竹本優希さんがエロくて最高。
時代は違うが『ゴジラ対ヘドラ』みたいな厭世観。
首を吊ったマネキン、和式便所に捨てられる猫の死体。

今となってはステレオタイプの定型文のような設定と展開。逆にパロディーみたいに見えて楽しい。中島貞夫が渡瀬恒彦とピラニア軍団で撮りそうな映画。誰一人好感を持てるキャラが登場しないことが気楽でいい感じ。誰が死のうが生きようが何とも思わない。

ネタバレBOX

革命だなんだは所詮時代の流行歌。全ては“醜さ”の許容と否定でしかない。醜い現実に我慢出来ず“否定”を叫ぶか、「まあそんなもんだ」とせせら笑ってやり過ごすかの違い。革命(?)に燃える若者達への冷ややかな視線。筒井康隆の『霊長類 南へ』や『革命の二つの夜』を想起。やっぱり当時の大衆は皆馬鹿馬鹿しく感じていたのだろう。浅沼稲次郎を刺した山口二矢が、高校では馬鹿にされていたエピソードを思い出す。(あだ名は「右翼野郎」)。大多数のノンポリと少数のキチガイ思想家がこの世を司るバランス。
今作を現代劇にするならば、闇バイトに迷惑系YouTuber、炎上系TickTokerなどの登場する『闇金ウシジマくん』みたいになりそう。

何かSIONの初期作を聴いている感覚になった。
草迷宮~ここはどこの細道じゃ~

草迷宮~ここはどこの細道じゃ~

演劇実験室◎万有引力

座・高円寺1(東京都)

2023/02/03 (金) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かつて泉鏡花の『草迷宮』を寺山修司が映画化。40分の短編で、他の監督の二本と合わせオムニバス映画『コレクション・プリヴェ(個人的蒐集)』として1979年にフランスにて公開された。主演の三上博史、15歳のデビュー作。
原作のモデルとなった話は江戸時代中期の1749年、広島の武士の子息・稲生平太郎が実際に体験した実話、『稲生物怪録』(いのうもののけろく)。16歳の豪胆な少年が一ヶ月間毎日脅かしに来るありとあらゆる妖怪共を冷静にあしらう講談調の記録。

J・A・シーザー氏の1979年のコンサート、『ブラック・クリスマス』に於いて『組曲・草迷宮』として初披露。1986年、渋谷で開催されたイベント「テラヤマ・ワールド」にて「演劇実験室◎万有引力」により『幻想音楽劇「草迷宮」―てんてん草紙ー』と銘打ち初舞台化。2006年、『幻想燈音楽劇「草迷宮」―たずねて母の迷宮三千里ー』(こまばエミナース)にて二度目の舞台化。

そして今回は、
「『ブラック・クリスマス』の際に寺山修司が書いた原作より手毬唄を巡るエピソードを核として抽出した十九枚の台本原稿をベースに、前二回の公演や原作の要素を織り交ぜ···」(「Press Walker」より引用)。
最早誰の夢なのかも解らない。

J・A・シーザー氏はパーカッション。(キーボードも?)
琵琶語りの川嶋信子さんと巨大な二十五絃箏(そう)を操る箏奏者・本間貴士氏が素晴らしい。もうずっとLIVEで曲の合間に芝居位が丁度いい。ヴァイオリンの多治見智高ジーザス氏は聴いたことのない音色を響かせる。

亡き母(森ようこさん)の口ずさんでいた手毬唄。それをどうしても思い出せない主人公・明(髙橋優太氏)。その歌詞を探して諸国放浪の旅に出ている。横須賀市秋谷(あきや)にて川上から流れてきた手毬を捕まえ、上流にある廃墟と化した黒門屋敷に泊まり込む。

怪奇西瓜男(三俣遥河氏)の軽業師を彷彿とさせるアクロバティックなアクション。
裏の土蔵に監禁された色気違いの千代女(ちよめ)。
誘惑に抗えない少年時代の明(多賀名啓太氏)。
神隠しに遭った幼馴染みの菖蒲(あやめ)。
芋の葉で顔を隠しながら「通りゃんせ」を唄う童たち。

小寺絢さん、内山日奈加さん、真夢(まむ)さん、皆化粧が美しく女優陣が映える。

何度でも観れる良いLIVEだった。

ネタバレBOX

森ようこさんのラストの台詞、「ほうら···、お前をもう一度妊娠してやったんだよ!」
おやすみ、お母さん

おやすみ、お母さん

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2023/01/18 (水) ~ 2023/02/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。
凄く合点がいった。作家の表現したいことがやっと理解出来た。
自死遺族の物語は家族や友人恋人にある日突然、死を選ばれたことへのショック、遺された者の心の傷を語るものが殆ど。
「何故相談してくれなかったのか?」
「自分に何かしてやれることはなかったのか?」
永遠の自問自答が続く。

今作は自殺する娘が丁寧に母親に説明してくれる。泣き叫び怒り狂い喚き散らす母親。だが娘の決心は揺るがない。「やっぱり私がやることは思ったようにいかない。」と、さらに自己嫌悪の念が広がるのみ。
自殺を決めた者の、この感覚の表現。
「これ以上、自分のことを嫌いになりたくない。」
「誤った選択を選ぶ位なら、もう何も選びたくはない。」

そんな娘に何を言える?
死を選んだ側の気持ちを的確に表現してみせた。

ネタバレBOX

セルマ(那須佐代子さん)とジェシー(那須凛さん)についても理解出来た。

セルマは15の時に嫁ぐ。旦那のことは愛していなかった。旦那は多分癲癇持ち。発作が起きるとソファーでじっと収まるのを待つ。ジェシーは5歳の時、初めての発作を起こす。それから何回もあったが、セルマはそれをジェシーには秘密にしていた。
内向的で口下手なジェシーに大工職人のセシルを引き合わせ、結婚へと導く。息子の誕生。ジェシーはセシルに誘われて乗馬に付き合った際に転倒、癲癇の発作を起こす。(彼女はそれが初めての発作だと思っていた)。ジェシーとセシルは離婚。(セシルはセルマの友達の娘、カーリーンと浮気をしていたが、ジェシーは知らない)。実家に帰るジェシー。父親は亡くなっており、兄のドーソンはロレッタと結婚して家を出ている。セシルに引き取られた息子はぐれて、ジェシーのネックレスを二つ盗んで家出。
母との実家暮らしも十年経ち、ジェシーは父の遺品の拳銃で自殺することを決める。新しい薬が効いて、ここ一年発作は出ていなかった。兄夫妻がパジャマに着替える前の午後10時までに終わらせること。セルマからの電話で起こされ、また着替えさせるのは可哀想だから。午後8時10分頃に舞台は始まり、午後9時52分頃に銃声が轟いた。

セルマ側の視点で観客は事態の推移を見守る。ジェシー側の視点で物語を見直すと、全く違う光景が広がる。本多勝一の『殺す側の論理』と『殺される側の論理』を思い出す。

前回も那須佐代子さんが右膝か腿の付け根を痛めているような歩き方をしていた。だがカーテンコール時にはスタスタ歩いてくる。まさかこれも役作りだったのか!?
ドッペルゲンガーちゃん

ドッペルゲンガーちゃん

坊ちゃん嬢ちゃん

東中野バニラスタジオ(Vanilla Studio)(東京都)

2023/02/03 (金) ~ 2023/02/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

客は関係者(?)を入れて十人、不安になる程。だが始まれば観に行って正解だったと誰もが思う筈。女優三人でこれだけの世界を演れるのか。脚本はまさに才能次第。一人の女性の実存に斬り込んでいる。
流される曲はクラシックのスタンダード、余りにも正攻法。メルヘンチックな描写は大林宣彦調、『ふたり』なんかを想い出す。少女の一人遊びのような心象風景。

上半分だけ二次元美少女キャラのお面を付けて(偽った自分を演じるメタファー)、コンセプトバーで働く主人公(マタハルさん)。コンセプトはかぐや姫。いつか月に帰る日まで皆を接客し楽しませる設定。ある夜、占い師に「あんたは死相が出ている。生き物を飼いなさい。」と勧められ、ハムスター(じゃじゃんがさん)を買ってくる。そんなある日、ガチ恋の常連客(じゃじゃんがさん)とのトラブルを理由に30代にして5年勤めた店を卒業させられる。気力を無くし、部屋に引きこもる主人公のもとに、昔の自分によく似た女(ちこゆりえさん)が現れる。

マタハルさんに透明感があって魅力的。
ちこゆりえさんの演技力のポテンシャルはヤバい。
じゃじゃんがさんのドスの効いたキャラ。
作・演出の加藤睦望さんの世界、妙に記憶に残る話。

ネタバレBOX

Oasisの代表曲、『Wonderwall』。

「誰もいやしないんだ
 俺くらいお前の事を想っている奴はね」
「だって多分
 俺を救ってくれるのはお前だけ」
「俺は多分前にも言った
 俺を救えるのはお前しかいない」

窮地に陥った自分を励まし力になってくれるもう一人の自分の歌。どうしようもない状況で自問自答している。

主人公にガチ恋していた常連客に捨てられた恋人が、復讐の為に顔をそっくりに整形して近付いてきたというもの。他人に恋愛感情を持てずにいた主人公は、”もう一人の自分“となら上手くやっていけそうな気がする。この心底落ち込んでどうでもよくなった自分が、再生していく過程が丹念に描き込まれる。ラストの「さびし〜〜〜!!」が効いた。
黒い湖のほとりで

黒い湖のほとりで

文化庁・日本劇団協議会

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2023/01/27 (金) ~ 2023/01/31 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

二人の女優の狂気の殺し合い。
NOKKO+大竹しのぶの井上薫さん。『さんせう太夫』のカルマ全開の母親役が印象に残る山崎美貴さん。どちらに軍配が上がるか注視したが、二人共取っ組み合ったまま海に落ちて消えて行った。往年の怪獣映画を思わせるラスト。何か凄いものを目撃した感覚が残る。

巨大な紙で折られた小舟が舞台中央に吊るされて頭上をゆっくりと回転している。4年ぶりに再会する二組の夫婦。転勤ばかりの銀行員夫婦と、黒い湖のほとりに暮らす家業を継いだ地元のビール工場の経営者夫婦。どちらも4年前にこの湖で子供を亡くしている。
四人は初めて会った日のことを思い出し語り出す。四人で夜のボートに乗り込み子供のようにはしゃいで終いには転覆してしまったっけ。

銀行員ジョニー(沢田冬樹氏)、その妻で心臓の悪いエルゼ(山崎美貴さん)、娘のニーナ。
ビール工場の社長エディー(南保大樹〈なんぽひろき〉氏)、その妻のクレオ(井上薫さん)、息子のフィリッツ。

誰が誰の役を演っているのか混乱しながら観ていた。わざとそう演出しているような。心に空いた巨大な空虚が自分達の存在を不安にしていく。

ネタバレBOX

子供達はエディーの家のガラステーブルを叩き割ると、そこに90ユーロの紙幣と手紙を残した。「ここという場所は美しくない。」。黒い湖に浮かぶボートに乗り込み、湖の真ん中で睡眠薬を飲む。互いの手首は紐で縛り付けてある。そして舟底に穴を開けた。
いごっそうと夜のオシノビ

いごっそうと夜のオシノビ

Nana Produce

サンモールスタジオ(東京都)

2023/01/25 (水) ~ 2023/01/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

してやられた。
よく知らぬままチケットを買ってぼんやりと眺めていたら「ああ、本当に良い喜劇を觀た」満腹感に充足。寺十吾氏の名前があると何か観たくなる。山田洋次のテクニックに中崎タツヤのリアリティーを足した感覚。嘘臭さ(作り物)のラインを器用に飛び越えてみせる。それは『庭劇団ペニノ』の手触りと同じ。今生きて在る生活者と地続きの光景、地に足の着いた本物の実感。まさしく自分と周りの連中の物語。

①『夜のオシノビ』
舞台は寺十吾氏の経営する居酒屋「夜のオシノビ」。9年前に亡くなった彼女の命日に催される偲ぶ会。籍は入れていないが同棲していた。遺品になった生理用品さえ捨てられずトイレに置き続けている。最早、会に来てくれるのは彼女の古くからの友人、金子さやかさんだけ。手塚理美に似た雰囲気の美人。「もう次からは来ない。」と去って行く金子さやかさん。  
翌年の十年目の命日、誰も訪れない筈の会に見知らぬ男性(浜谷〈はまや〉康幸氏)が訪ねて来る。

②『いごっそう』
高知県の寂れた田舎町の居酒屋「いごっそう」。“いごっそう”とは、土佐弁で「頑固で気骨のある男」の意。店主は妻に先立たれた加山徹(てつ)氏。加山雄三の息子!激しい雨が叩き付ける中、常連の四人が来店。町役場の独身三人組(鎌倉太郎氏、有川マコト氏、浜谷康幸氏!)と東京から赴任して来た既婚男性(泉知束〈ともちか〉氏)。町中の男達が憧れている美人店員、青山祥子(さちこ)さんは未だ外出中。「自転車なので酒は飲ませない!」と厳しい店主。おっさん達は仕方なくオレンジジュースを呷るのだが・・・。

「いごっそう」のメニュー、たこわさびが550円なのが気になった。他の物と比べて高くないか?高知県だからものが良いのか?

もの凄い完成度の短編喜劇、松竹全盛期の映画館からの帰り道の気分。老若男女の胸が優しくあったまる。横山拓也氏に『男はつらいよ』を書いて貰いたい。

ネタバレBOX

①さまぁ〜ず(バカルディ)のコントの感覚。寺十吾氏が三村マサカズに見えた。「どういう気持ちで俺はそれを受け止めればいいんだよ!」。ガラケーで撮ったハメ撮りがウイルスに感染して世界中に拡散されてしまったことへの謝罪。この酷い展開は「た組」っぽい。

②生瀬勝久っぽい鎌倉太郎氏、逆に渋味すら感じる48歳独身男性の哀しみ。泉知束氏はTKOの木本っぼい。素人童貞、フィリピーナと見合い結婚する有川マコト氏は上島竜兵に見えた。そして発狂する浜谷康幸氏。この人の狂いっぷりが二作品のMVP。青山祥子さんは巧い。確かにこんな娘がいたらおっさん共はのぼせて通うことだろう。本当によく出来ている脚本。『仁義なき戦い』のテーマ曲もズバリハマる。横山拓也氏の立ち位置とそこからの視点こそが日本人の国民性のど真ん中。
星の王子さま サン=テグジュペリからの手紙

星の王子さま サン=テグジュペリからの手紙

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2023/01/21 (土) ~ 2023/01/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

振付・演出の森山開次氏は昨年、布袋寅泰の幕張メッセX'mas Eve LIVEにピエロ役で出演。江頭2:50を思わせるアクションで会場を大いに盛り上げた。今作も江頭2:50っぽい振付が多い印象。デフォルメした肉体パフォーマンスにコミカルな味付け。バレエの動きと絡み合う。本人も蛇役で登場、凄まじい舞踊を刻み込んだ。
舞台美術の日比野克彦氏は流石。画用紙で作ったような様々な造形物が天井から吊るされている。様々な形の沢山の紙が貼り付けられたグロテスクな月の造形が素晴らしい。風船をいろんな工夫で効果的に使用。
衣裳のひびのこづえさんのデザインはエロティック。薄手の全身ボディタイツの上に網タイツ状の黒いボディストッキング。
生演奏に合わせてハミングや歌を歌う坂本美雨さん。矢野顕子の娘だけあって高音の伸びが素晴らしい。

「星の王子さま」役のアオイヤマダさんはさかなクンに似ているイメージ。お笑い芸人やギャグ漫画のキャラを思わせるユニークな動きと感情表現。
飛行士役の小㞍健太氏の親近感が湧く人の好さそうな柔和な表情。
バラの花役の酒井はなさんはほぼ全編ルルベ(つま先立ち)、気品高く優雅。
ダンサーの池田美佳さんは長身で手足が長く、皆藤愛子っぽい気品で目立つ。
キツネ役の島地保武氏は動きが鮮やか。

正直、物語が伝わり辛い。自分の望んだ『星の王子さま』ではなかった。やっぱり泣かせて欲しい。夜の砂漠の余りの美しさに立ち尽くしたい。舞踊としても説明口調な気がする。

おやすみ、お母さん

おやすみ、お母さん

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2023/01/18 (水) ~ 2023/02/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

那須佐代子さん、那須凛さん、すっぴんに近い薄化粧。那須佐代子さんの演技力の高さは最早誰もが知っていること、那須凛さんのシリアスな演技に見入った。かなり魅力的。役柄的には60歳の母と40歳の娘。8時過ぎから始まった時計の針が10時に近付いていく。矢鱈お菓子に溢れた部屋。
那須凛さんの印象的な台詞。
「行き先もないのにずっとバスに乗って揺られているのならば、何処で降りても同じことなのよ。」

ネタバレBOX

重苦しい話。だがそんなに戯曲が良いとも思えない。同じ死を望む話ならばユージーン・オニールの『月は夜をゆく子のために』の方がぐっと来た。那須佐代子さんと那須凛さんがちゃんとし過ぎているのかも知れない。どうしようもなくだらしない母親と、全てが上手く行かなくなって詰んだ娘の感じがしない。理路整然と自分が自殺した後にやることを指示するブラック・ユーモアなのだろうが、そこもどうもずれている。演出家の描いたイメージが綺麗すぎるのか。
元気になると鬱病患者は自殺を行動に移すエネルギーを得るという。那須凛さんが理知的に自分の半生を省み、元気な今こそ自殺を実行しようと決めるのはリアル。論理的に遂行される娘の自殺、母の那須佐代子さんはありとあらゆる言葉を用いてそれを先延ばしさせようとする。死ぬ前に母親にきちんと伝える娘、無理と分かっていても必死に止める母。間違いなくそこに愛情と呼べるものが見えた。

死ぬことを完全に決めたからこそ、母親と心を開いて語り合えたのかも知れない。そうでもなければお互いの痛みを伝える機会もない。癲癇の発作で仕事に就けず、旦那とも離婚、ぐれた息子は指名手配。

ニルヴァーナの猟銃自殺したカリスマ・ヴォーカリスト、カート・コベイン。ニルヴァーナのドラマーだったデイヴ・グロールは自身のバンド、フー・ファイターズにて彼への歌を作った。(『Let It Die』)。ずっと繰り返される言葉。

Why'd you have to go and let it die?
(何故、君は自分を死なせなければならなかったのか?)

自分という存在に最適な答が死ぬことであった。
血の婚礼

血の婚礼

劇団東京座

中野スタジオあくとれ(東京都)

2023/01/19 (木) ~ 2023/01/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

戯曲は面白い。マカロニ・ウエスタンのように情念がゆらゆらと静かに立ちのぼり、美しく激しくあっという間に散っていく。これは何度も上演したくなる作品だろう。
誰もが連想するのは『嵐が丘』。ヒースクリフとキャサリンの亡霊が荒野を彷徨い続ける様。

DIY感の強い舞台美術。左右の柱に紙皿やフォーク、ナイフが塗り込まれた工夫。予算がなくても情熱でカバー。手堅い日常ドラマではなく、フェデリコ・ガルシーア・ロルカに挑む姿勢を支持。武器は無限の想像力だけ。

実質的に主人公である、一条政美(まさとみ)さんがこの地に生まれた一族の宿業を滔々と語る。
鈴木みのる調のバリアートで老婆役、穴山ジョウジ氏は座頭を彷彿とする動きで印象的。脚が異様に細い。
遠藤愛生(あい)さんは小池栄子系の顔立ち。

スペイン南部アンダルシア地方の荒れ野が広がる町。因縁のある一族同士の結婚式を前に、不穏な空気が流れている。夫と長男を争いで亡くしている母は息子の結婚相手が気に入らない。唯一残った息子だけを生き甲斐にしてきた。花嫁は以前従兄弟の男と交際していたが、その男は家庭を持ち子供もいた。

ネタバレBOX

原作通りだが、ラストの花嫁が花婿の母親に会いに来るエピソードは不要。何があったか想像させるだけで充分。これを描くならもっと母親の比重を作品内で高めないといけない。
演出が力不足。もっと攻めていかないと、この戯曲に太刀打ちできない。勝手な独自の解釈で自分の作品にして欲しい。

「世界の果てまで俺を連れてってくれ
 潰れていってもいいんだ 失うものは何もない
 冷たい水晶を今夜お前と食べよう
 喉が切れても構わないから」

「お前は帰るとこがない だからここにいる
 俺は行くべきとこがない だからここにいる
 激しい光の中で二匹の虫が目を焼いた
 今更飛び立とうとは決して思わない」

スターリン『STOP GIRL』

遠藤ミチロウの声が聴こえてくるような二人の逃避行。
明日の幸福

明日の幸福

diamond-Z

日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)

2023/01/20 (金) ~ 2023/01/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かなり期待していただけはあった。手堅く面白い。木下恵介の『破れ太鼓』や市川崑とか岡本喜八の初期作を思わせる。雪村いづみや江利チエミ、新珠三千代なんかが似合う話。昭和29年(1954年)初演の作品だが、今観ても誰もが共感するだろう。結局、物語のカタルシスとは耐えに耐えた人間の大爆発に尽きる。力道山がシャープ兄弟と綴った物語は永遠不変、人類のアーキタイプ。誰もが心の奥底に抱えているもの。

経済同友会の理事長、日向進吾氏は国務大臣に任命されそうな大物。由緒ある家柄で家父長として君臨。家宝は代々伝わる1500年前の馬の埴輪。新婚の孫夫婦も同居して三世代の家族を切り盛りするのは厳格なルールに縛られた女性達。
息子、中村利一氏の務める裁判所では愛し合う若夫婦が離婚調停を申し立てる不思議な事件が。

diamond-Z(ダイアモンド・ゼット)というももクロのファンクラブみたいな劇団名。役者陣は本格的で分厚い。
奥様役の菊地美奈さんがとても良かった。これで本業はソプラノ・オペラ歌手というのも凄い。
大旦那役の日向(ひゅうが)進吾氏 は志村喬+加藤武みたいで絵になる。冒頭、顔剃りから始まるのだが突き出た口髭というのも狙いか。
大奥様役の内藤通子さんは物語の要。この品のいい老婦人のクライマックスでの動きに観客はどっと沸く。
裁判官の旦那役、中村利一氏も好演。人の好い、仕事に誇りを持つ立派な男なのだが···。

会場は広く綺麗で観易い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

嫁姑問題をクローズ・アップしながら、実は家父長制封建主義に支配され続けた女性の解放の叫びの物語に。
「まだ夫に相談出来る内はいいわよ。もうそんな気持ちも失くなってしまった。」
「私だって“明日の幸福”を掴みたい!」
菊地美奈さんと内藤通子さんの叫びにうろたえた夫達がおののく。
Dramatic Jam 4

Dramatic Jam 4

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/01/13 (金) ~ 2023/01/19 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

【チームD】
①「紙風船より」
岸田國士の『紙風船』を女優二人で舞台にかける。本番は来週、稽古は今日を入れてあと四日しかない。しかも演出家は遅刻の連絡。頭にきた女優二人は仕方なく待つ間、読み合わせをすることに。夫役は西島朱里さん、妻役は今井未定さん。しかし、二人共台詞はイマイチ入っていない!
②「はこをつくる」
大学のフランス語学科で知り合った環幸乃さんと結井ひよりさん。演劇をやっている環さん、映画好きの結井さん。人見知りコミュ障の二人だが、身長の低さで意気投合。宮城県に帰った結井さんは環さんのツイート、「何処か遠くに行きたい」を見て連絡を取ることに。

ネタバレBOX

①台詞の入っていない二人が送る『紙風船』。何度もつっかえ台本をチラ見。「この台詞はないよな」とメタ的にツッコミ。凄く正しい岸田國士のremixだと思う。古典の再生にはこういう切り口が不可欠。逆に敢えてズレを強調して異化効果を生むやり方もあるが。
何かと注目される今井未定さん、確かに気になった。昭和初期の夫人の喋り口と素のギャップ。かなり勘の良い人なのだろう、細かい工夫が効いている。
ただ『紙風船』といえばあのオチの斬新さ。終わり方が勿体無い。
②等身大の「役者あるある」がリアル。被災地に劇場を作る話なのだが、皆が気になる具体的な手順がカットされている。「劇場を作ろう!」から「劇場は出来たがこれからが本当の戦いだ!」になってしまっている。金の話や施工のエピソードこそが今作で語るべき部分。その現実にうんざりしながらもそれでもやるのだ!の昂揚に観客は興奮する。誰もが『新宿シアター・ミラクル』に重ねて観ている筈だから。

凄く面白いのだが、同時に勿体無さも感じる二作品。あともう少し粘れば新しい風景に到達したような。

勿論意識していないのだろうが時期的に谷賢一を連想せざるを得ない。フェミニズムの観点からの岸田國士、被災地での演劇復興。
Dramatic Jam 4

Dramatic Jam 4

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/01/13 (金) ~ 2023/01/19 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

【チームC】
①「斑な瞳」
プロの殺し屋(結井ひよりさん)が両親を殺された娘(環幸乃さん)の依頼を受け、囚えた標的をマンションのバスルームに監禁。いよいよ殺しの時機だが。
②「いまこそわかれめ」
高校の卒業式の後、いつもの喫茶店で落ち合う男子高生(篠原諒氏)と女子高生(桃川あすみさん)。ウェイターは新明雅巳氏。
③「名前のない名前を呼ぶ冒険」
妄想少女(環幸乃さん)は転校してすぐにガチガチのヤンキー女(西島朱里さん)に付きまとわれる。神様(?)から教師から優等生から漫研から後輩ヤンキーからありとあらゆる役を新明雅巳氏がへとへとになって担う。必見。

ネタバレBOX

① 何か「少年サンデー」っぽい。
②実は心を病んだ桃川あすみさんの妄想で、何年経ってもこの喫茶店で想い出に浸っている。女子高生の「桐場」という名字の響きが良い。
③これは面白かった。目崎剛作品で一番好き。主人公の頃部佳乃子(ころべかのこ)というネーミングが良い。ひたすら妄想で現実をデコレーションして生きる少女の異世界冒険譚。環幸乃さんは適役。西島朱里さんのごつい雰囲気が作品の重しになり、新明雅巳氏の百花繚乱早変わりムーブが会場を沸かせた。

短編は難しい。奇抜なシチュエーションだけの出来の悪いコントになりがち。

※②「いまこそわかれめ」
どうも篠原諒氏が幽霊で、成仏するよう説得(誘導)する桃川あすみさん、という話のようだ。いつもの喫茶店でずっと彼女を待ち続けているのか?毎年卒業式の日にだけ現れるのか?いろいろと腑に落ちない点もあるが···。ラストは納得したのか去って行く篠原諒氏。独り残された桃川あすみさんは涙を零す。自分が死んだことに気付かない友達の幽霊との幾年にも渡る交流の最終節を描いたひととき。

自分は篠原諒氏のことを吹っ切れない桃川あすみさんが「いまこそわかれめ」(「今こそ別れよう」)と無理矢理吹っ切る話だと捉えていた。自分の妄想から解き放たれないといけない、と。

どちらにせよ、何かが足りない気がする。
ビコーズカズコーズ Because Kazcause

ビコーズカズコーズ Because Kazcause

ケダゴロ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/01/12 (木) ~ 2023/01/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

完全に気が狂っている。途轍もない試みに唖然。整形し15年間逃亡し続けた福田和子の逃走劇をこうトランスレーションする発想が有り得ない。筒井康隆に観せて感想を聞きたい。
ステージ上には古い和室の床の間、天井には鉄パイプで足場が組まれている。そこに次々とやって来る7人の福田和子。東映の女番長(スケバン)ものや女囚もののスタンス。前髪ウィッグで変装する7人。天井で蠢くのはアインシュタイン。そこに踏み込んでくるのはニュートン。
7人の福田和子を追う刑事ニュートンと刑事アインシュタインの構図。「万有引力の法則」と「相対性理論」というこの世の掟から福田和子はあの手この手で逃げ続ける。ドアには鍵、最早天井から逃げるしかない!福田和子達はそれぞれ協力し合って天井によじ登る。ブルーシートにくるまれた死体、それすらも8人目の福田和子と化していく。(主催の下島礼紗さん)。キョンシーっぽい遣り取り。
アインシュタイン役の伊藤勇太氏の身体能力はジャッキー・チェンやバスター・キートンを彷彿とさせる。
ニュートン役の鹿野祥平氏は飯伏幸太ばりの鍛え抜かれた肉体美。

うんていに懸垂、鉄棒競技のキツさ。自衛隊のレンジャー部隊の合宿のような地獄絵図。それをうら若き女性達が必死にこなしている。観ているだけでへとへとだ。全身の筋肉が悲鳴を上げる。「THE ガンバルマン」を見ているよう。スカートの見せパンから伸びた痣だらけの二本の脚。工夫を凝らしたアクロバティックな運動。助けを借りて何とか天井裏に這い上がる。ポールダンスやエアリアルダンス風味もあり。

林あさ美の『ジパング』が印象的に歌われる。矢鱈巧い。
「すみ焼き木こりの勘太郎が庄屋の娘に恋をした
 生まれて初めて恋をした 悲しい恋とは知らないで」

途中、水中で重力を失くしたりする描写も。時折鏡に浮かぶ福田和子の顔。バンバンの「『いちご白書』をもう一度」が感傷的に流れる。
木頃あかねさんや浅川奏瑛さんが印象的。まあ全員にリスペクトだろう。
刑事と福田和子、よじ登って落ちて、またよじ登って落ちる。ちょっとネタ切れの停滞もあるがそれもよし。

前作の『セウォル』を予約していたのに諸事情で観られなかった。こうなってみると滅茶苦茶観たかった。

「ケダゴロ」という泥くさい響きを持つ言葉は鹿児島弁で、土に転がった、いずれ肥やしとなる獣の糞を意味する。(「創造都市横浜」の記事から引用)。

because cuz cause(原因があるから)。because kazcause(和子達だから)。

まだ見ぬ未知に好奇心が疼くならば絶対に観ておいた方が良い。観客の期待値は高く、熱気に充ちていた。

炎の人

炎の人

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2023/01/11 (水) ~ 2023/01/18 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

三好十郎の1951年の作品。タイトルだけは知っていた。思えばゴッホ自体、知った気になっていただけでよくは知らない。有名な人が誉めるので偉い人なんだろう的な位置。ちょこちょこエピソードは聞いているし、絵のド迫力は黒澤明調(展覧会を観に行ったこともあった)。アレクサンドル・ドヴジェンコの映画の冒頭、大写しの向日葵が爆撃で吹っ飛ぶ。この判り易さがゴッホ=黒澤明だな、と思ったことがある。黒澤明は『少年ジャンプ』的な大衆を熱狂させる“表現”で天下を取った男。伝えたいものをどこまで判り易く伝えられるか?ゴッホも太陽のような情熱で身を滅ぼしてまで絵の具を塗りたくった。

陰鬱な話の中、アルルの娼婦ラシェル役の原田琴音さん(佐々木愛さんの孫娘!)が明るく踊り出すシーンが美しい。ゴーガン(白幡大介氏)はジョニー・デップ調でカッコイイ。ゴッホ(藤原章寛氏)と同棲する子持ちの娼婦で絵のモデル・シィヌ(小川沙織さん)も印象的。

ネタバレBOX

ある意味壮大なコントのようにも見えた作品。大真面目に狂った言動行動を繰り返すヴィンセント・ヴァン・ゴッホ役の藤原章寛氏はインパルスの板倉俊之のようにも見えた。(逆にこの系の作品を元にして出来たコントもあるだろう)。彼の度の超えた狂いっぷりは泣き上戸の酔っ払いにひたすらしつこく絡まれてうんざりする気分に観客をさせてくれる。しかもこれを観て、ゴッホに憧れる人もいないだろう。

そう思うと不思議な作品だ。日本人の国民性として芸術家が発狂、もしくは自殺すると敬う流れがある。島田清次郎や太宰治、ニーチェに大江慎也。何か突き抜けて向こうの世界にまで辿り着いた天才職人として。
但し、ゴッホを評価されなかった者として観ると、地獄のような話。劇団やバンド、お笑いや自主映画、高等(?)遊民として日々を送る多数の者達は皆背中合わせの暗欝を抱え込んでいる。

三好十郎自身が本気で画家を目指していたこともあり、ラストはゴッホに花束を捧げて終わる。不思議な構成。

第一場、ベルギーの炭鉱地帯、ボリナージュ地方プティ=ヴァムの村。伝道師として働くヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。貧しい人達への共感からキリスト教に否定的になり共産主義的な方向へシフト。伝道委員会から解雇される。このプロレタリア文学のような描写が素晴らしい。ゴッホはキリストのように生きようと努めている。

第二場、オランダの首都ハーグにて子持ちの娼婦と同棲しているゴッホ。彼女をモデルに絵を描いている。弟からの仕送りに頼った貧しく惨めな暮らし。娼婦は「集団便所」となじられる自身を卑下する。

第三場、パリの画材屋タンギーの店。写実主義を否定した印象派絵画、更にその先を目指したポスト印象派の画家達の溜り場。明るい鮮やかな原色の色使い(暗示的色彩)を始めるゴッホ。

第四場、フランスの南、地中海に面したアルル。絵を描きながら意識を失うゴッホ。

第五場、アルルの黄色い家でゴーガンと共同生活を送る。二ヶ月しか持たなかった。水色のアブサンを二人でガブ飲みするのだが、本当にガブガブ飲んでいる。水にしてもかなりの量。ゴッホにひたすら絡まれるゴーガンが実に気の毒。

このページのQRコードです。

拡大