夜会行 公演情報 動物自殺倶楽部「夜会行」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    今作は2021年7月、サンモールスタジオにて鵺的が公演。その時の演出家は寺十吾氏。まさに天才の仕事、メチャクチャ衝撃を受けた。ここまで練らないと成立しないのか、舞台芸術の奥深さに打ちのめされた。(未だにあれを、可能ならば観劇初心者に体験して貰いたいと思う程)。
    今作は『動物自殺倶楽部』の赤猫座ちこさんが活動休止する為、同時にユニットも一旦打ち止めとなる節目的作品。だが赤猫座ちこさんが心因性の体調不良にて降板。代役はアンダースタディの太田ナツキさんに。

    あるマンションの一室。お洒落な室内には鉢植えとプランターがお店のようにズラリと並び観葉植物が飾られている。中央のベランダのガラス戸を左右に開ける。そこだけ外からオレンジ色のライトが当たる。

    太田ナツキさんの家で同棲している木下愛華(まなか)さん。今夜は木下さんの誕生日パーティーが開かれる。太田さんは料理中。木下さんは物憂げな表情で理由なき不安感と焦燥感に気持ちを尖らせている。
    銀行員の日野あかりさんが到着。神経質な程、コロナ対策に拘っている。
    続いてやって来た保険外交員の輝蕗さんは区役所の生活福祉課で働いている寺田結美さんを紹介する。

    とある夜、東京の一室でほんのひととき営まれる夜会。太田さんの用意したドリアのようなボルシチのような料理が美味しそう。
    木下愛華さんは肩幅がガッチリしていて女子プロレスラーのHikaruみたいでカッコイイ。
    日野あかりさんの役の作り込みには狂気すら感じた。強迫神経症のような書き込み。ベロンベロンのワイン。素晴らしい。
    寺田結美さんの電話のシーンでは泣いた。

    ネタバレBOX

    木下愛華さん←福永マリカさん
    太田ナツキさん←笠島智さん
    日野あかりさん←奥野亮子さん
    輝蕗さん←ハマカワフミエさん
    寺田結美さん←青山祥子さん

    同性愛者として生きていく“覚悟”に対して、日野さんが寺田さんを問い詰める。“気分”のような不確かなもので一生を賭けたアイデンティティを弄ばないでくれ。その執拗さに我慢ならず、輝蕗さんは切れて怒鳴りつける。
    そんな中、寺田さんの元彼はよりを戻そうと電話を掛けまくってくる。実は妊娠3ヶ月、元彼の子供を孕んでいる寺田さんは黙って独りで出産し育てようと決めている。涙ながらに訴えるも無神経な元彼は寺田さんの“本気”を全く意に介さない。耐えられなくなった輝蕗さんは「今は自分が恋人です」と電話口で宣言する。元彼は大受けして、「他に男ができたのかと嫉妬していたら、レズの恋人かよ」と笑い飛ばす。「なんだ、それならじゃあもういいや」と。その遣り取りを黙って聴いていた部屋の女達の気持ち、観客の気持ち。痛みと悔しさと情けなさ、踏み躙られた尊厳。自分達マイノリティは言葉通りにいつだって少数派だった。何処にいたって差別されてきた。いつも笑われ馬鹿にされてきた。はみだし者の出来損ないだと。そして沢山の人間が長い年月をかけ、闘い勝ち取ってきた“権利”。そんなものですら大多数の人間にとっては何の価値も持たない事実。

    小崎愛美理さんの演出では、木下愛華さんの不安を視覚化したように天井から物が音を立てて降ってくる。輝蕗さんは大量の風船を部屋中に転がす。寺田さんの元彼の電話口からの言葉に怒り傷つく度、皆がその風船をバンバン割っていく。いろんな工夫、オリジナルに対しての戦意表明は支持するのだが、脚本の良さを肯定していないのでは?とも思う。一番重要な太田ナツキさんと木下愛華さんの物語が中途半端に投げ出されてしまっている。(前半の遣り取りが全体的に退屈に感じたのも、会話に潜む個々のキャラの掴み取り方が弱かったせいでは。後半の怒りの場面までの伏線が弱い。前半に緻密で繊細な関係性を構築させていないと暴力的な崩壊による効果が小さい)。

    この芝居は別れの岐路に立つこの二人の一夜の出来事であり、観客が観ているのもその一点。そこを放り出して「はい、終わり」は酷い。現実と地続きの物語にしたかったんだろうけれど、全く乗れない。初見の観客からすれば「酷い男がいるねえ」でオシマイ。何じゃこりゃあ。こういうのを観る度にヌーヴェル・ヴァーグなんてものは、ごく一部を除いて『百害あって一利なし』と思う。

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    2024/04/25 17:33

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