夢の泪 公演情報 こまつ座「夢の泪」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    井上ひさしの「東京裁判三部作」の二作目、2003年初演。音楽は宇野誠一郎(&クルト・ヴァイル=ドイツの『三文オペラ』の作曲家)だが、かなり狙ったマニアックな曲調。歌い辛そう。あえてそれをやっている感覚がある。今作では朴勝哲(パク・スンチョル)氏が独り軽快にピアノを奏でてくれる。

    瀬戸さおりさんはここ数年、井上ひさし作品のヒロインを背負って立つ貫禄。彼女が象徴する気高き精神性が井上ひさし作品を別格とする拠り所となる。今作も最高だった。
    MVPは秋山菜津子さんだろう。何でも出来るんだなあ。歌もずば抜けていた。本物。
    藤谷理子さん(28歳)と張り合う、板垣桃子さん(50歳)、いや全く気付かなかった。この配役がズバリ。才能のある連中を集めた上で更に捻りを入れている。贅沢に面白いことやってんな。

    戦後すぐの昭和21年(1946年)、新橋駅近くに法律事務所を持つラサール石井氏と秋山菜津子さん弁護士夫妻。秋山菜津子さんの連れ子で8歳の時に義理の娘となった瀬戸さおりさん。だがラサール石井氏の女癖が悪く夫婦は崩壊寸前に。
    GHQの将校クラブで歌う歌手、藤谷理子さんと板垣桃子さんはそれぞれの夫が自分の為に作ってくれたオリジナル曲を巡って大喧嘩。音楽出版権を争う事に。
    秋山菜津子さんには東京裁判にて、A級戦犯・松岡洋右元外務大臣の補佐弁護人の依頼が。占領国であるアメリカが裁く日本という国の罪、一体敗戦国にどんな弁護が可能なのか?

    テーマは『戦争(歴史)を誰がどう裁くべきか?』。
    演出家の栗山民也氏が稽古中、「今、こんな戯曲は何処にもないよ。」とポツリ。確かにもう誰も書かないし、書けもしない。
    けれど本当の日本の歴史を誰かが紡いでいかないと。嘘ではなく、“本当”の歴史を。
    かなり面白い、是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    劇団チョコレートケーキの『帰還不能点』を観ていると、非常に判り易い。それは日本が何処で道を間違えたのか、そのギリギリのポイントを探る話だった。
    1931年の満州事変(どさくさに紛れて満州を占領)を国際連盟に非難されたことを受け、1933年国際連盟を脱退。1940年日独伊三国軍事同盟、1941年日ソ中立条約を締結。(欧州へのアメリカの介入を阻止する為)。その中心人物となったのが松岡洋右。1929年に批准したパリ不戦条約(国際紛争解決の為の戦争放棄)が一つの論点に。

    秋山菜津子さんは日本を弁護する為に、世界に通用する論理を模索する。それには交わされた法律(契約書)だけが頼り。今後の国際秩序の礎として、「平和に対する罪」「人道に対する罪」が戦争の抑止力と成り得るのか?

    GHQの日系二世、土屋佑壱氏が自身の半生を語る。移民としてカリフォルニアで必死に暮らしてきた日本人、日系人は太平洋戦争開戦により敵性外国人として強制収容所に送られた。腕一本で築き上げた財産を全て没収された父親は夜毎うなされて泪を流す。青年だった土屋佑壱氏達は合衆国憲法を楯に取り、所長に抗議を繰り返し続ける。ならばと、文句を言った日系人達は軍隊に入隊させられて一番危険な戦場に送り込まれた。

    在日朝鮮人の前田旺志郎氏はこの世界の仕組みについて気付いてしまう。「単純なことだった。世界に見捨てられただけなんだ。」見捨てられた者達にも人生は続く。さあ、見捨てられた自分はこれからどう生きてやるものか。

    瀬戸さおりさんは土屋佑壱氏の話を聞いてショックを受ける。何も持たない弱者が国家の横暴と渡り合う最後の命綱が法律であることを知る。この契約書だけが生きていく為の頼り。法律を学び、世界と向き合う覚悟を決める。

    作品はまあいつも通り何か中途半端な構成にも感じるが、このアイディアは凄い。これを語ろうとしただけで評価する。普通はそもそも語ろうとはしない。

    「丘の桜(丘の上の桜の木)」の歌、この歌詞が物語に密接に絡まっていれば最高だった。

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    2024/04/14 10:17

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