latticeの観てきた!クチコミ一覧

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銀幕の果てに

銀幕の果てに

RUP

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/04/24 (水) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

つかこうへい(1948/4/24-2010/7/10)が1994年に発表した長編小説を岡村俊一が今回初めて舞台化したもの。ストーリーはCoRichの説明にあるように荒唐無稽なものであり、どこまで本気か分からない女優論もあれば2011年を予見していたような原発論もあって一度観たくらいでは頭の整理が追いつかない。

恐ろしいほどのスピードで突進するグルーブ感は先週観た「熱海殺人事件」以上だと感じた。あちらは味方伝兵衛一人のパワーが頼みだが、こちらは主要人物に負荷が分散されているので全力を出し切ったところで交代して常に元気な役者が舞台上で飛ばしまくることになる。

今回の大注目は、アイドルグループ、℃-ute(キュート)のリーダーであった矢島舞美さんである。すでに舞台で主役をいくつも経験しているのだが、この作品は異次元の困難があっただろう。オープニングの紹介はチラ見せで、その後の登場シーンでもやや控え目であったが、尻上がりに調子を上げ、後半は力強いセリフをガンガン飛ばす完全な舞台女優であった。元より美しさは抜群であって本当に「華のある」女優さんだと感じた。初日に力を出し切った安堵のためか、カーテンコールではすっかり普通の若い女性に戻っていて、「つかこうへいさんの誕生日にこの舞台に立たせていただいて……」と言うときには感極まって言葉を詰まらせていた。

と書いたけれどその素晴らしい矢島さんが目立っていたなんてことは全然なくて、先週に続いての出演の味方良介、石田明、久保田創の皆さんも、木﨑ゆりあ(元AKB48)、佐久本宝、松本利夫(Exile)の皆さんも絶好調であった。これは絶対のお勧め。私も帰宅すると残り少ないチケットを一枚買ったのだった(その後数時間で全公演完売!)。

*「小説熱海殺人事件」(角川文庫)はこの会場でも引き続き売っていた。

ネタバレBOX

二回観てようやく沢山の伏線が回収されていることが理解できた。分かってしまうと、何で一回目は分からなかったのだということになるが、それはいつものこと。
配役表を作っておく。ただし、細かく正確に書くとネタバレになるのと記憶が怪しい部分もあるので、間違いも入っていることをお断りしておく。

矢島舞美 = 野火止玲子:大女優
味方良介 = 村雨大吾:内閣官房長官
木﨑ゆりあ= 吉川涼子:大部屋女優
石田 明 = 立花 明:脚本家
松本利夫 = 牛沢利夫:映画監督
佐久本宝 = 山崎 宝:照明係
久保田創 = 叶 大作:刑事
磨世   = 川瀬美智子:玲子の娘
黒川恭佑 = 反町博之:副社長
岡田帆乃佳= 岡田千晴:大部屋女優
大石敦士 = 大道寺虎蔵:ヤクザ、父親がヤクザで映画監督
鈴木万里絵= 鈴木万里絵:大部屋女優

あらすじ:
15年前に撮影中の事故で妹を失った立花は玲子が仕組んだ殺人だと思い、同じ現場を再現して真相を探ろうとする。大道寺は父親が玲子との心中で死んだことを玲子の仕組んだ罠だと思い、撮影所に仇を打ちに来る。川瀬は父親の自殺の真相を知ろうと立花と組んで主役としてやってくる。玲子は稀代の悪女なのかその真相は…。

という話が半分で、あと半分は隣に建っている原発の話なのだがそこは三回目があれば書けるかも。しかし、ストーリーがどうこうよりも途中で展開される「女優論」を聞いてグハハハと笑うのが正しい観方のような気がする。「女優は神を信じてはいけない。神に頼るような貧乏くさい女優を観客は喜ばない」とかね。

矢島さんの、℃-ute時代に鍛えたはずのダンスがちょっと凡庸だった気がした。
良い子はみんなご褒美がもらえる

良い子はみんなご褒美がもらえる

パルコ・プロデュース

赤坂ACTシアター(東京都)

2019/04/20 (土) ~ 2019/05/07 (火)公演終了

私のアンテナにトム・ストッパードが続けて飛び込んで来たので、何かの縁と観ることにした。最初はチケットが完売だったのだが、タイミング良く関係者席開放分が買えて、会場の前後左右ほぼ中央の席に座ることができた。

舞台の前方中央は階段状になっていて、左右に2階建ての細い監視塔のようなものがある。奥には薄暗い照明の中に35人のオーケストラが鎮座している。この階段状の場所で主に二人の男が寝起きし、語り合い、診察され、小突かれる。他に4人の俳優と7人のアンサンブルが出演する(7人はドレミファソラシの7音に対応するのかも)。

場所は1970年代のソ連の精神病院。男の一人アレクサンドル(・イワノフ)は反政府運動をするのは気が狂っているからだとして収容(収監)された。現在はハンスト中である。もう一人の男(アレクサンドル・)イワノフは頭の中にオーケストラを所有していてそれが頻繁に演奏しているという。その頭の中として舞台上に本物のオーケストラを用意するという贅沢な演出になっている。1970年にはソルジェニーツィンが「収容所群島」などでノーベル文学賞をとっている。そしてこの作品の初演は1977年のロンドンである。ちなみにソ連の崩壊は1991年の12月であった。

さて、アレクサンドルが収監されている理由はそのままの意味であろう。対してイワノフの病気は観客の頭というフィルターを通すことで本当の姿が現れてくる。そこで私はいくつかの問を立ててみた。

問題 この舞台を観て以下の問に簡潔に答えよ。
問1 二人の名前が同じ(アレクサンドル・イワノフ)、さらにアレクサンドルの娘も同じ名前を名乗ることの意味は?
問2 楽器を弾くということの意味は?
問3 オーケストラ、指揮者は何の象徴なのか?
問4 担当医がオーケストラの一員であることの意味は?
問5 大佐はなぜ二人を放免したのか?
問6 アレクサンドルの最後の行動の意味は?

私の解答(解釈、こじつけ)はネタバレに。

上演時間75分料金10,000円は80分8,000円の「出口なし」よりも単純なコスパは更に悪い(笑)。もちろん人件費を含む経費がまるで違うから当然ではある。

中身がチンプンカンプンであるおそれがあったので、開演前にパンフレット(B5変形版、モノクロ、64ページ+ハードカバー、2,000円)を買った。ちょっと散財感がするが内容豊富で読みごたえがある。

題名の「every good boy deserves favor」は、HPにもあるように、頭文字EGBDFが5線譜の各線上の音名を表していて、それを覚えるための慣用句だという。また The Moody Blues の1971年のアルバムのタイトルでもある。そして普通の言葉としての意味は本作の内容の一面を表している。

ネタバレBOX

私の答案
解釈1 アレクサンドルは他人に支配されることを拒否する心、イワノフは他人を支配したい心。一人の人間に属する二つの心理を分離して二つの人格にした。子供はその中間の揺れ動く心である。

解釈2 国家の指示に従って従順に仕事をすること。

解釈3 楽団員は従順な国民、オーケストラは国家を表し、指揮者はその支配層、特に独裁者を象徴している。
*指揮者が軍服を着ているのはその意味としか考えられない。一方でアンドレ・プレヴィンに協力を仰ぎながらオーケストラを否定的に描くとは思えないのだが…。

解釈4 メタな融合の面白味のためで特に意味はない。

解釈5 北風対応で追い込み、揺れ動く心を確認して、太陽対応に変更して取り込もうとした。

解釈6 指揮者になったということは支配される側から支配する側に転じたことを表す。
さようなら

さようなら

オパンポン創造社

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2019/04/18 (木) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★

繰り返される退屈な日常、
見つけた小さな綻び、
犯罪、
裏切り、
破滅
というのが元々のプロットなのだろう。松本清張的な昭和の社会派ミステリーを思い出す。

本作では、シリアスさは残しつつもコメディ仕立てにすることによって90分の舞台にまとめている。コメディという煙幕で数々のありえない設定をうまく隠しているのである。私は腹を立てるほどではないが、「それはないよ」「まあ良いか」の連続であった。

最初の「繰り返される日常」に変化が起きるところの表現は素晴らしかった。しかし、伏線回収を含む全体は少し作りすぎているという印象である。そして犯罪が発覚するとか捕まるとかでもっとハラハラドキドキさせてもらいたかった。

熱海殺人事件 LAST GENERATION 46

熱海殺人事件 LAST GENERATION 46

RUP

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★

元欅坂46今泉佑唯さんの新しい仕事を観てきた。欅坂以前からアイドル活動をやってきただけあって度胸は十分でこの状況を楽しんでいるように見えた。舞台俳優としてはもう少し声が出ればとは思ったが第一弾としては満点以上だろう。歌のシーンでは念願かなってセンターである。週刊誌を賑わせているようなことがあってもなくても欅坂46を脱退することに変わりはなかっただろうし正解だった。

さて、今まで私は「熱海殺人事件」とその派生を小劇場でしか観たことがなかったので「熱海は小劇場に限る」と思っていたのだが本家はこの紀伊国屋ホールだという。この大きな空間に負けずに早口のセリフを長時間強く発し続けていることに感心した。本家だけあって、新しい話題をぶち込むことに躊躇がない。たとえば、木村つながりなのか木村拓哉一家を話題にするネット民のことを延々とぼやくのは小劇場なら浮いてしまうところだ。

木村伝兵衛役の味方良介さんはあの細身の体のどこにそんなエネルギーがあるのか不思議なくらい最後までテンションが下がることなくマシンガンを打ち続けていた。3/28の大阪公演から数えて20公演目である。今日4/21が千秋楽なので終わったらゆっくり休養していただきたい…と思ったら4/24からの「銀幕の果てに」にも出演するのだという。どうなっているんだ!?

ダンス&ヴォーカルグループ lol の佐藤友祐さんには驚いた。掛け合いのときは微妙に遠慮があるようだが終盤の一人語りでは完全に自分の世界を作っていた。

NON STYLE の石田明さんは2年目である。味方さんとしっかり張り合っていた。

*「小説熱海殺人事件」(角川文庫)は昨年11月に改版初版が出ているが現在はネットでも全て売り切れである。しかし会場の物販では何冊も置いてあった。税別定価600円である。

脚光を浴びない女

脚光を浴びない女

プレオム劇

ザ・スズナリ(東京都)

2019/04/17 (水) ~ 2019/04/24 (水)公演終了

満足度★★★★

中堅からベテランの女優さんを中心とする手慣れたお笑い団地物語 with ライブ

築50年4階建てエレベータなしの市営団地の3階に住み、近所のスーパーでバイトをする石川さんは近くの工場に勤める旦那さんとアメフト部の息子との3人暮らし。そこで巻き起こる「団地あるある」のてんこ盛りのお話。団地の建て替え、田舎の母親の上京、個性的すぎる団地の住人とか。

まとまったお金が入った石川さんは昔芸能活動で持っていただけのギターを実際に演奏したくなりエレキギターとアンプをアマゾンから買う。問題山積の中、ギターを買って練習するところは強引であるが、その後の曲作りと演奏がだんだん様になって行くところを演技だと感じさせないのはさすがだ。

全体として既視感あるあるで斬新なところはないが、進行のテンポが良く次々に起こる出来事にうまく乗せられて、気が付けばフィナーレのライブ演奏に手拍子までしていた。

まほろば

まほろば

梅田芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★

久々に本家に集合した4世代5人+1人の、妊娠をテーマにしたガールズトーク。妊娠適齢期である3人の深刻な事情を軽やかに、ええ?それで済ませちゃうの?というくらい軽やかに描いている。2009年に第53回岸田國士戯曲賞を受賞した作品だと構えて観ると肩透かしを食らう。普通に観ていれば十分楽しめる演劇らしい演劇だと思う。高橋惠子さんの堂々として、しなやかな演技が圧巻だった。

登場人物と推定設定年齢
祖母(三田和代)84才
母(高橋惠子)64才
長女(早霧せいな)40才
次女(中村ゆり)38才
次女の娘(生越千晴)20才
次女の現在の彼の子(安生悠璃菜/八代田悠花)10才

実年齢の近い俳優さんを配役していると思われるが、早霧さんも中村さんもアラサーにしか見えない。閉経とか言われても全く頭に入ってこない。まあ基本は喜劇なのでそこはOK。次女と次女の娘が姉妹にしか見えないが現実としてそういう母娘が多いのでリアルといえばリアル。しかしやはり演劇としては無理がある。

かもめ

かもめ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

私にとっては初めての「かもめ」である。モスクワに住む貴族とその仲間が領地に遊びに行く話というと「ワーニャ伯父さん」と同じで、退屈でどこが面白いのか分からなかった記憶が蘇る。しかし、今作では「男女の愛、親子の愛、夫婦の愛がずれまくる悲喜劇」であることは分かり、その展開を楽しむこともできた。

私が退屈しなく済んだのは「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」の作者であり、映画「恋におちたシェイクスピア」の脚本を書いたトム・ストッパードの英語上演台本を基にしていることも大きいのだろう。他の「かもめ」を知らない私は想像するだけだが「かもめ」通の皆さんはそこも楽しむことができるのではないか。

俳優の皆さんの演技は、個々のキャラが立っているのに嫌味がなく、自分を出しつつも他は邪魔しない。どこか上手くできすぎている感じがしたので終演後にパンフレット(B5版モノクロ44頁800円)を買って読むと、キャストはフルオーディションで決めたのだという(先に調べろよ→自分)。「今回のオーディションでは6週間をかけ、応募総数は3000人超、直接会った方だけでも860人の中から、…」なのだそうだ。すり合わせながらの人選であればこうなるのも当然だ。

108分+15分休憩+47分 = 2時間50分 の長丁場であるが、原作の1,2,3幕を前半とし2年後の4幕を後半としている。二つに分ければ自然にこうなるが、この配分はなかなか良い。ちょうど気力がなくなるころに休憩になり、半分回復したところに短い後半で余力を残して帰宅できる。

チェーホフが面白いと私に教えてくれたことを考慮すれば満足度は星5つだ。

1つの部屋のいくつかの生活

1つの部屋のいくつかの生活

オフィス上の空

吉祥寺シアター(東京都)

2019/04/06 (土) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

公開情報から出演者名簿と一部の配役表を作ってみました。
情報公開(=宣伝)の仕方も団体ごとにいろいろですね。
ネタバレになるので有料のパンフレットにも配役が載っていない団体もあります。

mizhen『小町花伝』
https://blog.goo.ne.jp/hawaiian_aki/e/be0720fa6ddec2ae46ec852a08ef3d86
パンフレットより詳細な配役表あり。ここでは出演者名だけを転載。
脚本・演出 藤原佳奈
藤原佳奈
佐藤幸子
佐藤蕗子(以上、mizhen)
百花亜希(DULL-COLORED POP)
鈴木しゆう
アフリカン寺越

シンクロ少女『メグ The Monster』
http://syncroshoujo.strikingly.com/
作・演出 名嘉友美
泉政宏
横手慎太郎
中田麦平(以上、シンクロ少女)
加藤美佐江
伊達香苗(MCR)
宮本奈津美(味わい堂々)

鵺的『修羅』
https://ameblo.jp/nueteki-info/
演出 高木登
赤猫座ちこ(牡丹茶房)
今里真
奥野亮子(鵺的)
川添美和(Voyantroupe/(株)ワーサル)
小崎愛美理(フロアトポロジー)
小西耕一(Straw&Berry)
杉木隆幸(ECHOES)
堤千穂
ハマカワフミエ
宮原奨伍(大人の麦茶)

かわいいコンビニ店員飯田さん『我がために夜は明けぬ』
https://twitter.com/k_c_iidasan
作・演出 池内風
岡野桃子 サーチャ・ユウリン
小寺悠介(青年団) 山内ゲルト
櫻井みず穂(劇団あばば) バレリアーノ雛菜
杉浦一輝(ぽこぽこクラブ) ハク
袖山駿 アム・ミキヒサ
廣川千紘(演劇やろう会) 山内アルタンツェツグ
藤村聖子(劇団藤村聖子) 楊三月
三木万侑加 マリー・レヴァンドフスキ
三澤久美 田中良子
辻響平(かわいいコンビニ店員飯田さん) 沢村パトリック
鈴木タケシ(かわいいコンビニ店員飯田さん) ジョージ
都倉有加 リンダ(声の出演)

アガリスクエンターテイメント『エクストリーム・シチュエーションコメディ(kcal)』
http://www.agarisk.com/kcal/
パンフレットより詳細な説明+写真あり。ここでは出演者名だけを転載
「演目変更についてのご挨拶」というものもある。
脚本・演出 冨坂友
榎並夕起
鹿島ゆきこ
矢吹ジャンプ
前田友里子
熊谷有芳
伊藤圭太
淺越岳人(以上、アガリスクエンターテイメント)
さいとう篤史(ジョナサンズ)
如月せいいちろー(ウラダイコク)

Straw&Berry『サイケデリック』
https://strawandberryxxx.wixsite.com/home/information
脚本・演出 河西裕介
佐賀モトキ
上田祐揮 (以上、Straw&Berry)
平田耕太郎(農耕楽団)
木村梨恵子(ECHOES)
織詠
大中喜裕
竹内蓮(劇団スポーツ)
波多野伶奈
山本陽子

音楽劇『ライムライト』

音楽劇『ライムライト』

東宝

シアタークリエ(東京都)

2019/04/09 (火) ~ 2019/04/24 (水)公演終了

満足度★★★★★

チャップリン晩年の傑作映画「ライムライト」(1952)の舞台化です。パンフレット(A4版カラー48頁1600円)によるとチャップリン家から日本に限って舞台化を許可されたとのことです。今回はその4年ぶりの再演です。

あらすじは公演詳細の説明が的確です。一言でいえば「老芸人カルヴェロと駆け出しバレリーナ、テリーの支え合う愛の行方」というところでしょうか。

自殺しようとしたテリー(実咲凜音)にカルヴェロ(石丸幹二)がかける言葉は名言の連続です。改めて文字で読んでみると気恥ずかしいものがありますが芝居の中ではずっとうなずいていました。石丸さんの説得力のお蔭でしょう。

「音楽劇」とあるのはミュージカルとストレートプレイの中間を意味しています。これだけ歌の実力者を揃えながらもったいないことではありますが歌は少なく、そして地味です。基本この劇では拍手はカーテンコールまで必要ありません。歌の少なさがミュージカルファンには物足りないかもしれません。逆にアンチの方にはこれくらいが心地良いと受け入れられる気もします。私は先日の「笑う男」が歌いすぎでお腹が一杯だったのでバランスが取れたかなというところです。

最初の歌は保坂知寿さんによる短いものですが、ああこれこれ、安心して聴いていられる!と、この先の展開に期待を膨らませてくれます。そして保坂さんは演技でも軽妙で素晴らしいコメディエンヌでした。

最後は納得のスタンディングオベーション。

エラリー・クイーン 

エラリー・クイーン 

PureMarry

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★

短い話の中にきちんと伏線が張られていて感心しました。こういうのが一番難しいと思います。

ただし、二つ目の冒頭で暗い中での芝居が長い時間続くのは止めて欲しい。何とか見ようとすると目が疲れるし、聞いているだけだと眠くなるし。あとあの社交ダンス(?)は苦手です。ここはGREAT CHIBAさんと好みが分かれるところ(笑)

この種のイベントで困るのが司会者に回答を求められることです。ヘタレな私は無想転生で気配を消しているのですが何とも落ち着きません。ここはスマホで集計をすることを提案します。ホームページにアクセスして投票する、または専用アプリを事前にインストールしておく、あるいは「多数決.com」などを利用するとか。リアルタイムに結果を正面に映し出せば盛り上がると思うのですが。今どきは学校でやっているので主催者は見学してきましょう。スマホを持っていない人をどうするかとか課題はありますが。

まあそれは良いとして、一番謎だったのは観客の属性です。
皆さんどうも知り合いのようであちこちで歓談が始まっています。役者さんと馴染みの方も結構います。常連さんがそんなにいるものなのでしょうか。
それに、近くの会話を聞いているとリピーターが多いようで、まだあと2回来る、私もそう、とか言っています。これ推理劇なんですよ。2回も3回も観てどうするのよ(笑+驚)。司会も回答者を探すのに「初めて来た人は挙手してください」などと不思議な発言をするし。
そして、幕間にプログラムを売る少女の皆さん、上演時は後ろ寄り中央の普通の客席に座っているのです。「プログラムいかがですか」の声も張りがあり、笑顔も慣れているし、演劇でもやっているのかな。
小劇場でも大劇場の定番公演でもないのにどうなっているのでしょう??

笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-

笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-

東宝

日生劇場(東京都)

2019/04/09 (火) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★

デア=衛藤美彩の回を観劇。子供時代のグウィンプレンの子役の名前はメモするのを忘れた。

あらすじ 「笑う男」とは人買いにさらわれ、見世物とするために口を左右に大きく切り裂かれた主人公グウィンプレン(子役/浦井健治)のこと。彼は人身売買団の船が難破して自由の身となる。盲目の赤ん坊デア(衛藤美彩)を拾って彷徨ううち興行師ウルシュス(山口祐一郎)に保護される。ウルシュスの作ったグウィンプレンを主人公とする芝居「笑う男」は大評判になる。そしていつしかグウィンプレンとデアは愛し合うように。そんなとき、亡くなった貴族が残した文書によりグウィンプレンは貴族の子供であることがわかり、貴族院議員となり、アン女王の異母妹のジョシアナ(朝夏まなと)の結婚相手になることを女王から言い渡される。貧乏仲間、特にデアをとるか貴族の暮らしをとるか悩むグウィンプレンの運命やいかに…。
注意:小さな誤りはご容赦ください。

舞台セットが美しい。デザインも色も洗練されている。冒頭の船の難破のシーンも短い時間なのにお金も手間も掛けている。衣装も豪華。生演奏のバンドも良い。
だがしかし、まだ2or4ステージ目で歌いなれていないのか肝心の歌がなんとも雑に感じた。
浦井さんは出番が多いせいもあるが、一杯一杯で無駄に力が入っていて聞きにくい。
山口さんはいつもの調子で力でねじ伏せていて細かい味わいに欠ける。
衛藤さんは乃木坂46を卒業したばかりで期待されるところであるが、音程が不安定で、強弱のコントロールができていない。またビブラートもかからない。難しい歌が多いことには同情するのだがまだまだの印象だ。
唯一、朝夏さんだけは伸びやかな歌声にやや嫌味な味付けをして、高飛車なジョシアナを十分に表現していた。

4月も下旬になれば調子が出てくるのではないでしょうか。

幻想寓意劇 チェンチ一族

幻想寓意劇 チェンチ一族

演劇実験室◎万有引力

ザ・スズナリ(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

あらすじ 16世紀のイタリアの実話(*)に基づいたお話。チェンチ伯爵が妻や子供に虐待の限りを尽くし、彼らによって殺される。裁判で彼らは最初は父親殺しを否認するが拷問によって認めてしまう。次女ベアトリーチェだけは最後まで抵抗する…。
(*) ウィキペディアの「ベアトリーチェ・チェンチ」の項を参照のこと。

昔の小劇場はこんなにエネルギーに満ちていたのかと驚愕する舞台です。
過剰な演技、過剰な化粧、過剰な音響、過剰な装置の動き…とにかく過剰な演劇です。
圧倒的なイメージの洪水に五感が麻痺してしまいます。

舞台の前方(通路?)に何かがあってそこで何かをしているのですが後方からは全然見えません。

ホームページには「肉体による”暴力とエロス”の饗宴!」などという惹句もありますが、それは天井桟敷の公演のもので、この舞台では何もありません。お父さんたち、そこはお間違え無く。

しかし「スズナリ」の座席は小劇場界でも最低のレベルです。前後の間隔が狭いので一旦落ち着いたら体をほとんど動かせません。この舞台は観ているときは集中していたので苦になりませんでしたが終わったとたん一気に腰に来ました(泣)。

1つの部屋のいくつかの生活

1つの部屋のいくつかの生活

オフィス上の空

吉祥寺シアター(東京都)

2019/04/06 (土) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★

このようなイベントで6つも集中的に観ると自分の好みが分かってくる。私的には「鵺的」が大収穫だった。以下では各演目について簡単に感想を述べるがネタバレを最小限にしたため意味不明なところがあるのはご容赦。全体の満足度は星4つ

満足度ランキング
1. 鵺的『修羅』
実家に集まった4人姉妹とその夫たち、そして彼らの浮気相手。離婚を迫る姉妹に夫たちの勝手な言い分が振り切っていて素晴らしい。姉妹も冷徹で容赦ない長女をはじめ一歩も引かない。4組の夫婦の中に2人も売れない役者がいるという設定で、2倍の自虐で笑わせてくれる。

2. アガリスクエンターテイメント『エクストリーム・シチュエーションコメディ(kcal)』
某作家の某作品「20代の娘の結婚相手が70歳の老人で、いろいろ皆が勘違いするコメディー」を演じながら、役者が消費カロリーを競うゲームというメタな仕立てになっている、実際に観て楽しんでいただくしかないが、色々と面白い試みはあるものだねえと感心した。

3. mizhen『小町花伝』
「小町」と呼ばれる美少女が歌手になるが売れずにホームレスになって最後は…というお話。それを演出の力や役者の力など劇団の持てる力を総動員して変化にとんだ演劇に仕立てている。

4. シンクロ少女『メグ The Monster』
若く輝いて愛し合っていた二人が時が経って外見もすっかり変わり離婚してしまうというお話。そんな単純な話を演出の力で味わいあるものにしている。変わりっぷりのえげつなさが見もの。秋本さんがもっと若く見えれば良かったのだが。

5. Straw&Berry『サイケデリック』
仲間が集まるオープニング、妙に生々しい生活感のあるゆったりとした演技。年齢を重ねて変わって行く彼らの姿を特にストーリーもなく何枚かの絵のように描いて行く。こういう「静かな演劇」は残念ながら私の好みではない。ただし、波多野伶奈さんの純情可憐さにはやられた。あのじりじりとした時間は瞬間冷凍して保存しておきたいくらいだ。

6. かわいいコンビニ店員飯田さん『我がために夜は明けぬ』
畳敷きの和室を宇宙船の内部と見立てたために脳内変換が大変であった。お話自身も何だかよく分からないままに終わってしまった。

1つの部屋のいくつかの生活

1つの部屋のいくつかの生活

オフィス上の空

吉祥寺シアター(東京都)

2019/04/06 (土) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

「オフィス上の空」の中島庸介が好きな劇場で好きな団体の公演をプロデュースしたもの。6団体が同じ舞台セットを用いて60分の芝居を行う。そのセットは「和風の居間、下手には押し入れがあり、その奥は玄関に続き、上手は台所に続く。中央向こう側はガラス戸で外に出ることができ、板張りの塀が見え桜が咲いている。下手中央寄りには二階に続く階段もある…」という感じである。

赤チームを観たが感想は全チーム観てから書くことにして、ここでは
A5版フルカラー厚手用紙22ページのパンフレット(1,000円)を紹介して雰囲気に少し触れていただこう。なお、チラシ裏に書かれた題名と違いがある。mizhenは少し、アガリスクエンターテイメントは完全に違っている。

1 はじめに 中島庸介
2 mizhen『小町花伝』紹介 藤原佳奈
3 出演者一覧写真6名、『mizhen』とは
4 シンクロ少女『メグ The Monster』紹介 名嘉友美
5 出演者一覧写真6名、『シンクロ少女』とは
6 鵺的『修羅』紹介 高木登
7 出演者一覧写真10名、『鵺的』とは
8 かわいいコンビニ店員飯田さん『我がために夜は明けぬ』紹介 池内風
9 出演者一覧写真12名、『かわいいコンビニ店員飯田さん』とは
10 アガリスクエンターテイメント『エクストリーム・シチュエーションコメディ(kcal)』紹介 冨坂友
11 出演者一覧写真10名、『アガリスクエンターテイメント』とは
12 Straw&Berry『サイケデリック』紹介 河西裕介
13 出演者一覧写真9名、『Straw&Berry』とは
14-17 「6団体プロデュース 脚本・演出家対談」中島、池内、高木、河西、冨坂、藤原、名嘉:内容(脚本をどこでどの時間帯にどういう環境で書くか。作品作りで重要視していること。今作の見どころ)

極彩アンダーグラウンド

極彩アンダーグラウンド

劇団テアトルジュンヌ

立教大学 池袋キャンパス・ウィリアムズホール(東京都)

2019/04/04 (木) ~ 2019/04/08 (月)公演終了

満足度★★★★★

ハンダラさんの華5つを信じて立教大学へ。たしかに「中々グー」でハンダラさんに感謝。

折しも大学は入学式の喧噪の中。別れと出会いの季節、それにふさわしく内容は過去、現在、未来を真摯に見つめるものだった。ただし何でこの題名なのかはまったく分からず。

ステージは池袋の立教大学奥のウィリアムズホールの4階にある。料金はカンパ制。時間は70分

ネタバレBOX

演出の面白さはハンダラさんにお任せして、私は配役の設定と演技の感想を書くことにする。
役者さんは6人で、いくつもの役を兼任するので私の覚えている役名で記す。

・あかりちゃん:依拠してきた過去が崩れ去って自分を見失っている高校卒業後で大学入学前の女子。
白っとしたというか突き放したというかクールな演技が私のツボだった。関西風のお笑いが合っているような気もした。

・レモン:現在を司どる妖精(?)、現在至上主義で「今を楽しもう」と煽るが皆の受けはよろしくないようだ。
この人、イベントのMCでもしているのでは?と思うくらい演技が慣れていた。私的には「芝居がかった」硬さがある方が演劇に合うのではないかと思った。

・演劇部長=青木さん:子供の頃から未来を見据えて努力をしてきたが、具体性のない未来像を指摘され途方に暮れる大学既卒業のフリーター。
この人、本当に学生さんなの?というくらい硬いスーツ姿がドンピシャだった。大きな動きも細かな身のこなしも最高に良い味を出していたし、ダンスも決まっていた。あとは滑舌さえ良くなれば言うことなし。

・ロミオ:演劇部員。部長の去ったあと自力でロミオ役を完成させる。部長に引導を渡す面接官役でもある。
従順でおとなしい演劇部員ときっぱりと言い切る面接官をしっかりと演じ分ける。

・ジュリエット:演劇部員。部長の去ったあと自力でジュリエット役を完成させる。あかりちゃんに今が人生の分岐点であることを教える友人役でもある。
演劇部員のときは素直な良い人だったが、友人役で冷静にあかりちゃんの欠点を指摘するときは結構怖くて記憶に残る。

・レイ:あかりちゃんの幼馴染(?)。たどたどしいがはっきりわかる日本語でファンタジーの雰囲気を盛り上げる。
BLUE/ORANGE

BLUE/ORANGE

シーエイティプロデュース

DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)

2019/03/29 (金) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★★

2000年にジョー・ペンホール(Joe Penhall)の脚本でイギリスで上演されたものを2010年に日本語化した。その再演である。二つの日本版のキャストを下にまとめておく。

28日間の入院治療を経て明日は退院予定の精神病患者と治療は終わっていないという研修医、そして患者は治っていると退院を促す上司の3人による会話劇である。

舞台は、要領を得ない回答を繰り返す黒人の患者クリスと、苛立ちつつも言葉で納得させようとする白人の研修医ブルースの会話から始まる。最初からなめられているブルースは言葉が多すぎてしばしば失言する。何も考えていないような態度から一転して相手の言葉のスキを鋭く突いてくるクリスにはハッとさせられる。

このような揚げ足取りとか騙し合い、本音と建前の暴露合戦、主導権の奪い合いなどに私は面白さを感じた。何気ない会話が後でTPOを無視されて再現されたときの怖さ、は私も経験することであるし、TV・新聞・雑誌はそういうことのオンパレードである。

私は3人が実は皆、精神科の患者だったというオチなのかもとずっと思っていた。まあそれではアマチュア演劇なのだろう。前に何かで見たような気もするし。

それにしても、これはイギリスで上演されたロンドンの精神病施設の話であることに驚く。何も言われなければアメリカの話かと思ってしまうだろう。現在はイギリスもBREXITで大混乱の最中で政治的にもすっかり我々のレベル(以下?)にまで落ちてきてしまった。グローバリゼーションが世界をフラット化することの一連の途中経過なのだろうか。

二つの日本版のキャストは以下の通りである。中嶋しゅうさんが2017年に亡くなられた関係で配役がシフトしている。
コンサルタント(主治医?):ロバート、患者:クリス、研修医:ブルース
2010年 中嶋しゅう、 成河(当時はチョウ・ソンハ)、 千葉哲也
2019年 千葉哲也、 章平、 成河
演出はどちらも千葉哲也、翻訳は鴇澤麻由子から小川絵梨子に変わっている。
2010年の公演で成河は第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞している。

十二番目の天使

十二番目の天使

東宝

シアタークリエ(東京都)

2019/03/16 (土) ~ 2019/04/04 (木)公演終了

満足度★★★★

生きがいを失った主人公ジョンを少年ティモシーの野球へのひたむきな姿が救う、しかし実はティモシーは…というベタなお話です。場所がアメリカなので過度に感情移入せず落ち着いて観ていられます。私は(誰でも?)最後にジョンとティモシーの母が結ばれることを想像したのですが、さすがにそこまでベタではありませんでした(笑)

ベテラン5人と少年2人の7人しかいなかったとはとても思えないほどイメージは広がりました。ティモシー役の溝口元太さんは子役特有の発声のくどさが少なく、明るくひたむきな様子が鼻につきません。六角精児さんは軽妙でしかも適度の重みを持った声で雰囲気を作ります。木野花さんは出番は少ないものの落ち込んだジョンに一歩下がりながらも重い決断を迫るという彼女らしい説得力のある役でした。栗山千明さんは愛らしい妻とティモシーの母の二役ですが試合実況のナレーションも見事でした。

リトルリーグの野球の試合の場面が何度かありますが野球少年はたったの二人で、チームメイトの応援の声、観客の歓声は録音で流し、ナレーションがうまくつなぎます。私が昭和の野球世代であるせいかもしれませんが、声だけで試合の様子が見えてきます。

主演が井上芳雄さんなのに歌は無しかと思っていたらフィナーレに一曲ありました。歌わずに済ませてはご本人もストレスでしょうし、ファンが許しません。

ちょっと説教臭いのはまあこの題材だから仕方がないでしょう。年に一度くらいはそれを受け入れるのも良いかもしれません。

クラカチット

クラカチット

東京演劇アンサンブル

ブレヒトの芝居小屋(東京都)

2019/03/20 (水) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★

役者さんをはじめとする沢山の方々がこの舞台を作り上げているわけで、何か面白いところがあるのだろうと3時間観続けたが何も見出すことはできなかった。もちろん作られた時代に戻れば興奮する物語であることは想像できる。王女様の話は当時そのような出来事があったのではないのだろうか。そうでないとあまりに単純だ。

ネタバレBOX

クラカチットは原子爆弾か?についての個人的メモ(2019/4/30改訂)

本作「クラカチット」では少量のクラカチットが大きな爆発力を発揮する。
これが原子爆弾を予想したということについて舞台を観ただけでは懐疑的であったが、書籍を読んでみて高性能爆弾を予想していることを確認した。ただしその予想したものが我々の知っている原子爆弾と同じだと言うのは間違いである。以下そのことの考察。

もちろん、チャペックが書いていることは当時の科学者が試行錯誤していたことの紹介である。

原子核の一部が崩れて高速な粒子(放射線)が飛び出てくる。これを原子核の「崩壊」という。原子核の「分裂」は1938年になって初めて発見されたことで少なくとも1924年の時点では最先端の科学者でもそんなことが起こるとはこれっぽっちも考えていなかった。

『ウィキペディア:放射性崩壊:原子核変換』より引用
*** ここから ***
これは古典物理学と化学反応では放射性崩壊には関与できず、放射性物質の半減期を短くしたり、分解する事が一切不可能であるためであり、もし触媒などを用いて放射性崩壊を加速させられるならば、より短期間に放射線のエネルギーが取り出せると期待され、核分裂反応が発見される前の原子力はこの方向で開発が進められたが、このような試みは全て頓挫した。
*** ここまで ***

チャペックも化学的な手法で崩壊を加速することができるのではないかという当時の最先端のアイディアを紹介しているのである。つまりは「頓挫した」試みを紹介しているだけで実現された原子爆弾とはまるで違うものである。錬金術師が「化学的に鉛を金に変える」ことを試みていたことをもって「原子物理的に鉛を金に変える」ことができると予言していたと言うのは無理である。

考察以上。以下資料


カレル・チャペック、田才益夫訳「クラカチット」青土社、2008年刊 より引用する。
***ここから***
P14 「---物質の中には力がある。物質はものすごい力の塊だ。ぼくは…物質の中で力がどんなふうにひしめきあっているかを感じることができる。それらは途方もない苦労をしながら結合しているんだ。そいつの内部を激しく揺さぶってみたまえ。そいつはばらばらになる。そしてドカンだ!---」
「---物質は、元来、どれもこれも爆薬だ。例えば水…水だって爆薬だ。---もちろん今のところは、単なる理論上の発見に過ぎないがね。それにぼくは原子の爆発についても発見した。ぼ、ぼくはアルファ粒子放射による爆発に成功した。その破壊は陽子に基づいて起こった。こいつはもはや熱化学なんてもんじゃない。破-壊。そうだ破壊化学だ。---」
P17 「すべての物は崩壊します。でしょう?物質は壊れれやすいものです。でも、私のやったのは、それを一挙に破壊させることです。バンと!爆発です。おわかりですか。粉々にです。分子にまで。それどころか、原子にまでも。ところが私はその原子すら破壊したのです」
P18 「---ど、どこからこのエネルギーは生じるのでしょう。---さあ、言ってください」
「うむ、もしかしたら、アトムの中にあるのかな」
「やはー、これはご名答。単純明快。アトムの中です。それはつまり…アトムがアトムを突き刺す。ベータの囲いを突き破って…その結果、原子核は破壊されるのです。これがアルファ崩壊です。私が何をなしえたかおわかりですか。私はこれまでの反発係数を遥かに飛び越えました。核爆発を発見したのです。---」
***ここまで***

注:「物質は、元来、どれもこれも爆薬だ」というのはアインシュタインの E=mc^2 の帰
結を語っているだけで「今のところは、単なる理論上の発見に過ぎない」とすぐに話を終了させている。
注:「核爆発を発見したのです」というのは完全な飛躍。化学的な手法では結局「爆発」は起こせなかったのである。普通に崩壊するだけでは「燃焼」とは言えても「爆発」とは言えない。

用語:
・ラジウムなどの放射性物質が自然に粒子などを放出して別の物質になることを放射性崩壊という。半減期が何年とかいうのはこのこと。
・アルファ崩壊 アルファ粒子(陽子2、中性子2)を放出する。
・ベータ-崩壊 中性子が陽子に変化しベータ線(電子)を放出する。原子番号は上がる。
・ベータ+崩壊 陽子が中性子に変化し陽電子を放出する。原子番号は下がる。
・ガンマ崩壊 ガンマ線を放出する。陽子、中性子の個数は不変。

崩壊の例:
ラジウム(原子番号88)はアルファ崩壊してラドン(原子番号86)になる。ラジウム226は半減期1600年でラドン222になる。ラドン222はアルファ線を3本とベータ線2本を出して鉛210になる。鉛210はベータ崩壊でBi210に変化し、さらに崩壊を続けて行く。

・ウランの核分裂の例『ウィキペディア:核分裂反応』より引用
*** ここから ***
天然ウランには、核分裂を簡単に起こすウラン235と起こさないウラン234、ウラン238が含まれている。ウラン235に中性子を一つ吸収させると、ウラン原子は大変不安定になり、二つの原子核と幾つかの高速中性子に分裂する。代表的な核分裂反応としては下記のようなものがある。なお核分裂反応は確率的に起こるため、他の核種を生成することもあり、下記の反応はあくまで一例にすぎない。
ウラン235 + 1個の中性子 → イットリウム95 + ヨウ素139 + 2個の中性子
*** ここまで ***

年表
1846 ニトログリセリンの発見
1866 ダイナマイトの発明
1896-98 放射線の発見 ベクレル、キュリー夫妻→1903年ノーベル物理学賞
1899 アルファ粒子の発見 ラザフォード
1905 特殊相対性理論:E=mc^2 アインシュタイン
1911 原子≒原子核+電子の発見 ラザフォード
1916 一般相対性理論
1924 本作「クラカチット」
1930 原子核≒陽子+中性子の発見
1933 原子爆弾の原理の発見
1938 核分裂の発見
1945 原子爆弾の実現

実際の原子爆弾ではウラン235に中性子を当てると二つの原子と中性子に分裂することを利用する。この核分裂反応の前後で陽子と中性子の個数は変わらない。陽子、中性子の結合エネルギーが外部に放出され、その分だけ質量が減るのである。なお、この反応で発生した中性子が他のウラン235に当たるので次々にこの反応が連鎖する。連鎖を急速に行うと原子爆弾、ゆっくり行うと原子力発電になる。

天然のウラン中にはウラン238 が99.3%、ウラン235 が0.7%含まれている。ウラン238は連鎖反応を妨害するのでこれを取り除かなければならない(ウランの濃縮)。
美女と多重

美女と多重

カラスカ

ブディストホール(東京都)

2019/03/28 (木) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

「美女と多重」という題名に釣られてブディストホールへ。

ノンストップ・ドタバタ・コメディーwithダンス、とでも呼んでおきましょう。
中村裕香里さん演じる夢川苺がニゴ、サンゴ、シゴ、ゴゴの5重人格で、そのうちニゴは国際スパイで某国の国王交代を左右する秘密をつかんですぐに人格が入れ替わってしまい秘密の行方が分からなくなったという想定です。怪しい人物、おかしな人物がどんどん登場して大騒ぎを展開します。主人公の人格交代の周期がだんだん短くなってアホ全開になりますが中村さんは何のためらいもなくはちきれていました(当たり前か)。

私の好きなジャンルではないですが、前説の準劇団員がダメダメで私も会場も大笑いとなりすっかり乗せられてしまいました。その流れで本編も最初から笑いに包まれました。狙ったやったのならあの準劇団員は天才です。私は30分くらいでエネルギー切れでダウンしましたが会場はずっとノリノリでした。当然ながら教訓も豆知識も得るものは何もありません。馬鹿になって笑って来ようという方にのみお勧めします。

私の満足度は星3つですが、主人公の両親が事故死した真相がツボだったので星1つ増やします。

桜の森の満開のあとで

桜の森の満開のあとで

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2019/03/21 (木) ~ 2019/03/27 (水)公演終了

満足度★★★

始まってすぐ、「議会」と「勧進帳」が大声で怒鳴っているが何を言っているのか分からない。オープニングのアクセントかと思ったが本編に入っても相変わらずだ。肝心の会話にも論理の冴えがまるで見られない。大体「憲法違反」が出た時点で終わる話を何故か引っ張っている。ここに至って、これは何かを真剣に議論する劇でないことを悟った。さらに、補助金の存在などの裏事情が明かされて、これはむしろ「現実の会議なんてこんなものよ、真面目にやる意味なんてないよ」と主張する「反会議劇」あるいは「現実会議劇」とでもいうべきものだと結論した。feblaboは「ナイゲン」も上演しているのでその真逆の(屁)理屈の全く通らない会議を描いたのだ。

もっとも「会議劇」の部分はこの弁当の一番大きなおかずではあるが、他にも青春劇、政治劇などといった小さなおかずも乗っている。しかしここで出てくる日本の困った事情は誰でも切実に考えているもので改めて言われても困惑を繰り返すだけだ。

さて、しばらく時間をおいて、あの無意味な怒鳴り合いを考えてみると、芝居においても現実においてもそれは虚しいものだと言いたいのではないかと思うようになった。そうでなくても何か意味はあるよね。

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