クラカチット 公演情報 東京演劇アンサンブル「クラカチット」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★

    役者さんをはじめとする沢山の方々がこの舞台を作り上げているわけで、何か面白いところがあるのだろうと3時間観続けたが何も見出すことはできなかった。もちろん作られた時代に戻れば興奮する物語であることは想像できる。王女様の話は当時そのような出来事があったのではないのだろうか。そうでないとあまりに単純だ。

    ネタバレBOX

    クラカチットは原子爆弾か?についての個人的メモ(2019/4/30改訂)

    本作「クラカチット」では少量のクラカチットが大きな爆発力を発揮する。
    これが原子爆弾を予想したということについて舞台を観ただけでは懐疑的であったが、書籍を読んでみて高性能爆弾を予想していることを確認した。ただしその予想したものが我々の知っている原子爆弾と同じだと言うのは間違いである。以下そのことの考察。

    もちろん、チャペックが書いていることは当時の科学者が試行錯誤していたことの紹介である。

    原子核の一部が崩れて高速な粒子(放射線)が飛び出てくる。これを原子核の「崩壊」という。原子核の「分裂」は1938年になって初めて発見されたことで少なくとも1924年の時点では最先端の科学者でもそんなことが起こるとはこれっぽっちも考えていなかった。

    『ウィキペディア:放射性崩壊:原子核変換』より引用
    *** ここから ***
    これは古典物理学と化学反応では放射性崩壊には関与できず、放射性物質の半減期を短くしたり、分解する事が一切不可能であるためであり、もし触媒などを用いて放射性崩壊を加速させられるならば、より短期間に放射線のエネルギーが取り出せると期待され、核分裂反応が発見される前の原子力はこの方向で開発が進められたが、このような試みは全て頓挫した。
    *** ここまで ***

    チャペックも化学的な手法で崩壊を加速することができるのではないかという当時の最先端のアイディアを紹介しているのである。つまりは「頓挫した」試みを紹介しているだけで実現された原子爆弾とはまるで違うものである。錬金術師が「化学的に鉛を金に変える」ことを試みていたことをもって「原子物理的に鉛を金に変える」ことができると予言していたと言うのは無理である。

    考察以上。以下資料


    カレル・チャペック、田才益夫訳「クラカチット」青土社、2008年刊 より引用する。
    ***ここから***
    P14 「---物質の中には力がある。物質はものすごい力の塊だ。ぼくは…物質の中で力がどんなふうにひしめきあっているかを感じることができる。それらは途方もない苦労をしながら結合しているんだ。そいつの内部を激しく揺さぶってみたまえ。そいつはばらばらになる。そしてドカンだ!---」
    「---物質は、元来、どれもこれも爆薬だ。例えば水…水だって爆薬だ。---もちろん今のところは、単なる理論上の発見に過ぎないがね。それにぼくは原子の爆発についても発見した。ぼ、ぼくはアルファ粒子放射による爆発に成功した。その破壊は陽子に基づいて起こった。こいつはもはや熱化学なんてもんじゃない。破-壊。そうだ破壊化学だ。---」
    P17 「すべての物は崩壊します。でしょう?物質は壊れれやすいものです。でも、私のやったのは、それを一挙に破壊させることです。バンと!爆発です。おわかりですか。粉々にです。分子にまで。それどころか、原子にまでも。ところが私はその原子すら破壊したのです」
    P18 「---ど、どこからこのエネルギーは生じるのでしょう。---さあ、言ってください」
    「うむ、もしかしたら、アトムの中にあるのかな」
    「やはー、これはご名答。単純明快。アトムの中です。それはつまり…アトムがアトムを突き刺す。ベータの囲いを突き破って…その結果、原子核は破壊されるのです。これがアルファ崩壊です。私が何をなしえたかおわかりですか。私はこれまでの反発係数を遥かに飛び越えました。核爆発を発見したのです。---」
    ***ここまで***

    注:「物質は、元来、どれもこれも爆薬だ」というのはアインシュタインの E=mc^2 の帰
    結を語っているだけで「今のところは、単なる理論上の発見に過ぎない」とすぐに話を終了させている。
    注:「核爆発を発見したのです」というのは完全な飛躍。化学的な手法では結局「爆発」は起こせなかったのである。普通に崩壊するだけでは「燃焼」とは言えても「爆発」とは言えない。

    用語:
    ・ラジウムなどの放射性物質が自然に粒子などを放出して別の物質になることを放射性崩壊という。半減期が何年とかいうのはこのこと。
    ・アルファ崩壊 アルファ粒子(陽子2、中性子2)を放出する。
    ・ベータ-崩壊 中性子が陽子に変化しベータ線(電子)を放出する。原子番号は上がる。
    ・ベータ+崩壊 陽子が中性子に変化し陽電子を放出する。原子番号は下がる。
    ・ガンマ崩壊 ガンマ線を放出する。陽子、中性子の個数は不変。

    崩壊の例:
    ラジウム(原子番号88)はアルファ崩壊してラドン(原子番号86)になる。ラジウム226は半減期1600年でラドン222になる。ラドン222はアルファ線を3本とベータ線2本を出して鉛210になる。鉛210はベータ崩壊でBi210に変化し、さらに崩壊を続けて行く。

    ・ウランの核分裂の例『ウィキペディア:核分裂反応』より引用
    *** ここから ***
    天然ウランには、核分裂を簡単に起こすウラン235と起こさないウラン234、ウラン238が含まれている。ウラン235に中性子を一つ吸収させると、ウラン原子は大変不安定になり、二つの原子核と幾つかの高速中性子に分裂する。代表的な核分裂反応としては下記のようなものがある。なお核分裂反応は確率的に起こるため、他の核種を生成することもあり、下記の反応はあくまで一例にすぎない。
    ウラン235 + 1個の中性子 → イットリウム95 + ヨウ素139 + 2個の中性子
    *** ここまで ***

    年表
    1846 ニトログリセリンの発見
    1866 ダイナマイトの発明
    1896-98 放射線の発見 ベクレル、キュリー夫妻→1903年ノーベル物理学賞
    1899 アルファ粒子の発見 ラザフォード
    1905 特殊相対性理論:E=mc^2 アインシュタイン
    1911 原子≒原子核+電子の発見 ラザフォード
    1916 一般相対性理論
    1924 本作「クラカチット」
    1930 原子核≒陽子+中性子の発見
    1933 原子爆弾の原理の発見
    1938 核分裂の発見
    1945 原子爆弾の実現

    実際の原子爆弾ではウラン235に中性子を当てると二つの原子と中性子に分裂することを利用する。この核分裂反応の前後で陽子と中性子の個数は変わらない。陽子、中性子の結合エネルギーが外部に放出され、その分だけ質量が減るのである。なお、この反応で発生した中性子が他のウラン235に当たるので次々にこの反応が連鎖する。連鎖を急速に行うと原子爆弾、ゆっくり行うと原子力発電になる。

    天然のウラン中にはウラン238 が99.3%、ウラン235 が0.7%含まれている。ウラン238は連鎖反応を妨害するのでこれを取り除かなければならない(ウランの濃縮)。

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    2019/03/30 00:13

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