ふしぎな木の実の料理法~こそあどの森の物語~
劇団銅鑼
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2024/02/21 (水) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/02/23 (金)
シアターグリーンにて劇団銅鑼『ふしぎな木の実の料理法』を観劇。
まるで絵本の中に入り込んだかのようなファンタジックな世界観。幼稚園児や小学生はもちろん、精神的にちょっと背伸びしたくなる中学生や高校生、さらには、働き盛りの20代30代40代50代、そして、60代70代80代のベテラン世代まで、まさにどの世代にも届き、誰もが純粋に楽しめる演劇というのはこういう作品を指すのだなと強く感じた時間となりました。いや、参りました。素晴らしい。童心に帰って夢中になって楽しませていただきました。
創立50周年を迎えられた老舗の劇団とのことでしたが、個人的には今回が初見でした。こんな素敵な劇団が存在していたとは。新たな良質な劇団と出会えた喜びと同時に、自分自身の視野の狭さを痛感しました。まだ発掘出来ていないだけで、今回のような優良劇団はまだまだ多くありそうです。
さて、今回のストーリーはふしぎな木の実を手にした主人公が、その料理法を教えてもらうべく、森の中に住む様々な人々と交流してコミュニティを築いていく物語。児童文芸賞などを受賞されたことがある児童文学が原作となっているだけあり、終始心が穏やかになるような好奇心にかられる内容でした。分かりやすく比較的シンプルなストーリーながらも、客席の大人たちが皆揃って舞台に引き込まれているように感じたのは、原作の秀逸さ、優れた舞台空間の創り方、キャストの皆様の技量の高さなどが相まって、各々がそれぞれ本の中に入り込んでいたからではないかと感じています。最後どのような展開が待っているのだろうかと、自然と前のめりになって楽しんでいる自分がいました。やはり原作が魅力的なのは間違いないです。また、台詞の一つ一つが非常に聞き取りやすいと感じたのも、評価を高めたポイントの一つです。声のボリューム、速さ、トーン、どれをとっても満点の出来。観劇した回ではちょうど手話によるサービスも実施されており、万人が楽しめる工夫が施されていた点も好印象でした。
掟
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2024/02/15 (木) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/02/19 (月)
駅前劇場にて劇団トラッシュマスターズ『掟』を観劇。
障がい者雇用の実態を描いた前作の『チョークで描く夢』の上演からまだ半年も経っていない中で、今回も3時間に迫る新作を上演。それも見事なまでのハイクオリティー。それだけでも単純に凄いと感じてしまうのですが、この国で実際に起きている様々な問題を、演劇を通して人々に伝え、考えさせるという一貫性のあるコンセプトが素晴らしいのです。個人的に、トラッシュマスターズさんは1年前の『入管収容所』を拝見して以降、すっかりお気に入り劇団の一つとなっており、出来る限り優先して観劇スケジュールを立てるようにしています。それくらい観る価値のある劇団という位置付けになっています。
今回は地方政治をテーマとした内容でした。あくまでも舞台作品ということで、100%を鵜呑みにすることは出来ないものの、過去に拝見した2作品がいずれも実際に起きたことがそのまま描かれていましたので、恐らく今回も実話そのものなのでしょう。観劇後にざっと調べてみたら、「首長と議会の対立がSNSで大きな話題となっている」「議員数は16人だが、一般質問では半分程度しか質問しない」「市の人口はここ10年で約5千人減った」など、まさに今回の舞台で描かれていたままの情報がありましたので、今、色々な感情が湧き出ているところです。ベテラン議員達への憤り、若手市長へのエール、市民への政治参加の訴えなど。。
劇団トラッシュマスターズさんの作品が凄いところは、観劇後にそのテーマについて深掘りしてみたくなる気持ちが芽生えるところかと思います。学校の授業で学ぶより、はるかに勉強になるような気がします。他人事ではなく、一人一人が問題意識を持ち、自分なりに考えるきっかけにする。その動きこそが、日本社会を変える第一歩になるのではないかと感じます。今回はとある一つの市の物語でしたが、同じような問題に直面している地方自治体は多くあると思います。そして、正直なところ、職務を果たしていない議員もそれなりに存在するのではないかと感じています。世の中色々な考えを持った人がいるのは当然ですが、その考えを相手に伝えることが出来なければ、誰もが納得する良い方向に向かっていくことはまず無理でしょうし、進化・発展は難しいと思います。「掟」は大事かもしれませんが、やはりきちんと話し合いが行われ、本気で意見をぶつけ合ってからでないと「掟」の立ち位置すら見失うのではないかと思います。
非常に重みのある深いテーマながら、色々と考えさせられた3時間でした。演劇で3時間となると若干長い感覚もありますが、トラッシュマスターズさんの作品はその長さを感じさせず、惹き付けられる作風なので、気付いたら3時間が過ぎているという感覚です。核となる人物こそいるものの、登場人物全員が印象に残るというのもなかなか稀な感覚です。重いテーマながらも随所に笑いを誘うシーンが盛り込まれており、映像を使ったシーンも良かったです。
舞台版『舌切雀』
舞台「日本昔ばなし」製作実行委員会
ヒューリックホール東京(東京都)
2024/02/09 (金) ~ 2024/02/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2024/02/12 (月)
ヒューリックホール東京にて舞台「日本の昔ばなし」製作実行委員会『舞台版 舌切雀』を観劇。
古くから伝わる「むかしむかしあるところに心優しいおじいさんと欲張りなおばあさんがいました」という日本昔話をベースとした作品であることには変わりないと思いますが、プロジェクションマッピングのようなカッコいい照明演出や歌なども盛り込まれ、懐かしくもあり、新しくもあり、不思議な感覚が楽しめた印象です。
今回の舌切雀に限らず、桃太郎の話だったり、花咲かじいさんの話だったり、浦島太郎の話だったりと、いわゆる昔話については幼少期の頃の断片的な記憶しか残っておらず、こうして改めて触れてみると、当時の感覚との違いや発見があって面白いと感じます。というより、今回の『舞台版 舌切雀』はオリジナルのストーリーにアレンジを加え、新たな世界観が創られていた印象を受けました。いや、むしろ別モノに近い設定?それとも太宰治が推察したという設定だからでしょうか。
ただ、良いストーリーだなという結論は変わらず、こういう昔話が生きるうえでの教訓になったり、学びになったりしているのではないかと思っています。だからこそ、令和の時代になった今でも、古来から伝わる昔話が語り継がれているのだろうなと感じます。公演概要に書かれていた「“昔ばなし”ならではの日本人の心の原風景、親から子へ、子から孫へ受け継がれ伝えられ続ける人々の絆の大切さ」という部分に共感を覚えました。また、作品全体の印象として、島津亜矢さんが歌うテーマソングを含め、エンターテイメント性の高い作品に仕上がっていたと思いました。
主演の内博貴さん。舞台で拝見したのは初めてでしたが、遠目からでもカッコ良さが伝わってきましたし、素敵な雰囲気があるなと感じました。特別出演の片岡鶴太郎さん、萬田久子さんの老夫婦役もさすがの存在感があり、作品全体の価値を高めていた印象です。但馬俊役の辻本祐樹さん、みやび役の菅原りこさんらも印象に残りました。
時代絵巻AsH 其ノ拾七『暁月〜あかつき〜』
時代絵巻 AsH
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2024/02/01 (木) ~ 2024/02/05 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/02/04 (日)
シアターグリーンにて時代絵巻AsH『暁月〜あかつき〜』を観劇。
江戸時代末期の土佐藩郷士・岡田以蔵に纏わる物語。時代絵巻という名がしっくりと来るコンセプト特化型のカンパニーだけあり、作品の創り込み方が凄い。男性キャストのみで構成されているという部分もこのカンパニーの特徴らしく、非常にこだわりのある素敵な組織だと感じました。今回初めて拝見させていただいたカンパニーでしたが、作品云々の前に、コンセプトだったり、様々なこだわりだったりと、そういったベースの部分に感心してしまいました。ホームページの作り込み具合も素晴らしいですし、当日パンフレットや袴姿で登場する会場スタッフなども一貫性があって好印象でした。
さて、肝心の作品内容についてですが、これまた立派で驚きました。岡田以蔵という人物像がこれまで自分自身の中に抱いていたものとは若干異なる、、いや、だいぶ異なるような印象は受けたものの、100%忠実に再現した時代劇ではないわけで、これはこれで面白いですし、ありだなと感じました。幕末四大人斬りといわれていますが、我々と同じように一人の人間であることには変わりなく、人間味のある部分は持ち合わせていたと思います。人斬りに至った経緯、背景などを考えると、今も岡田以蔵の墓を訪れる人が絶えないといった事実や、聖地巡礼をされている方がいるのも納得出来る気がしました。幕末の出来事を新たな別の視点で感じることが出来た点は良かったです。
岡田以蔵役を演じられた黒崎翔晴さんをはじめ、一人一人の熱量の高い演技がお見事でした。芝居であるということを忘れてしまうほど、実際に幕末にタイムスリップしたかのような空間になっていて圧巻でした。
モンテンルパ
トム・プロジェクト
カメリアホール(東京都)
2024/02/02 (金) ~ 2024/02/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/02/03 (土)
カメリアホールにてトム・プロジェクト『モンテンルパ』を観劇。
終戦後、フィリピン・モンテンルパの刑務所で起きた実話に基づいた物語。実話とはいえ、なかなか重いテーマを扱った作品だけに、全体的に暗く静かな印象を受けましたが、個人的に殆ど知識を持ち合わせていなかった話でしたので、歴史を学びながら拝見させていただきました。
今作に限らず、トム・プロジェクトさんの作品には実話ベースのものが多くあり、毎回勉強になります。役者が目の前で演じるエネルギッシュなステージを観ることが出来るのは演劇の醍醐味の一つかと思いますが、そこに歴史を学べる要素まで加わってくるとなると、一石二鳥というべきなのか、とてもお得な感覚になれるのです。そして、観劇をきっかけに興味を持ち、さらに自分なりに深掘りしていくといった流れまで確立してきています。何かと大きな影響を与えてくれる好きなカンパニーの一つです。
物語の序盤から登場する「ちょうど一年前、一晩で14人もの死刑が執行されました。しかもそのうちの6人は確実に無実なんです」と訴えかけるシーンをはじめ、随所に特に印象深いシーンがありますが、そうさせているのは役者さん一人一人の好演があってこそかと感じます。非常に完成度の高いお芝居であると思います。出演者5人と少なめな作品ながらも、各々の存在感が大きく、見応えのある内容でした。
終盤の「1999年、20世紀最後の年。どんな年になるでしょうか。21世紀。この世から戦争はなくなるでしょうか」の問いかけは特に刺さる台詞でした。今の世界情勢を見ると落胆しかありませんが、どの時代であっても人々の心に一瞬の希望を与えてくれる存在はあると思いますし、それがやはり歌やスポーツなどではないかと感じます。21世紀はまだまだ続くので、何とかこの世から戦争がなくなって欲しいと切に願いたいです。
野に咲く花なら
株式会社ファーストピック
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/01/28 (日)
シアターグリーンにてファーストピック『野に咲く花なら』を観劇。
「1日はあなたにも24時間、私にも24時間。同じ24時間をどう生かすかに人としての価値がある」。フライヤーに載っていたこのメッセージだけでなく、本編の中には心に刺さる台詞が数多く登場し、終始様々な感情に揺さぶられる見応えのある作品であったと感じました。人としての大事なことに気付かされる内容。これは多くの人が観るべき作品かと。
指定難病・筋ジストロフィーの患者達が集まる病棟を舞台とした実話に基づいた作品というだけあり、とてもデリケートな内容でありながらも、現場の様子を忠実に、且つ、絶妙なバランスで描いた優良作品。個人的にこういう“学べる演劇”は大好きなのです。
人間誰もが色々な問題と直面しながら生きているわけですが、時には逃げ出したくなる気持ちも生まれるもの。生き方や人生観は人それぞれですし、逃げたり辞めたり放り出すことで解決する可能性もある以上、逃げる選択肢も決して間違っているとは言えないのでしょうが、劇中に出てくる患者の「あたし達はどこに行ったって筋ジスから逃げられやしない」という台詞にはハッとさせられました。確かに、逃げるという選択肢すらない場合もあるわけで、逃げる選択肢があるだけ幸せなのことなのかもしれないな、、と感じてしまいました。ただ、だからといって安易に逃げる選択をするのでなく、筋ジス患者のように、逃げられないからこそ、今ある現実を受け入れ、その中でどう生きるかを考える。まさに「24時間をどう生かすかに人としての価値がある」という核となる部分かと感じました。こういう作品を観ると、嫌という感情や悩みは生きているからこそ生まれるものであって、それを含め、平凡で変わらない日々こそが幸せであるということに気付かされます。
前日に拝見したALL GREENさんの作品からも「1日1日を大事に生きよう」というメッセージが伝わってきましたが、今回のファーストピックさんの作品を観終えた後も同じような感情になりました。ただ、似たようなテーマであっても、方や完全に空想の世界で描かれた創作モノ、方や実際のモデルが存在するドキュメンタリーものと、全く異なる手法で描かれた作品であるのが面白いところです。どちらとも強いメッセージ性が秘められているのは間違いなく、両者とも秀逸で価値ある作品かと感じます。今回の『野に咲く花なら』という作品に限ったことで言えば、実際に筋ジストロフィー病棟の日常を覗いているかのような人と人との繋がり、苦悩や葛藤、喜びなどが感じられ、とてもリアリティ溢れる一本であったということかと思います。一方で、なかなか重いテーマであるにも関わらず、随所にほっこりする笑い要素やポップなBGMが散りばめられており、バランスの良い素晴らしい作品であると感じました。病棟のシーンだけでなく、主人公の家庭の中での日常シーンも良いアクセントになっていたような気がします。やはり人間は色々な人に支えられながら生きているものだなと。
大変失礼ながら、カンパニーだけでなく、キャストの皆様もほとんど全員が初見(ザ・ギースのお二人のみテレビで拝見して知っている程度)でしたが、プロフェッショナルな素敵な役者さんたちが揃っており、非常にクオリティーの高い作品だと感じました。中でも山下聖良さん、乙木勇人さん、兵頭有紀さん、板橋廉平さんの役に成り切った自然体の演技はお見事。山下さんのシーンによってメリハリをつけた(心情を上手く表現した)演技が全体の印象をより高めていたような気がします。また、岡まゆみさんのナレーション調の丁寧な解説はとても聴きやすかったですし、圧倒的な存在感がありました。この他、森奈々香さんの熱演ぶりも印象に残りました。パンフレットを見ると、今回が初の商業舞台出演とのこと。非常に楽しみな役者さんかと思います。相澤瑠香さん演じる強気で繊細なキャラ、将平さん演じるユニークで癒やれるキャラほか、挙げればキリがないほどの一人ひとりの好演が素晴らしかったです。機会があれば、他の作品で他の役を演じられているお姿も拝見してみたいところです。
当日パンフレットには「決してお涙頂戴の内容ではありません」とも書かれていましたが、客席のあちらこちらから鼻水を啜る音が聞こえてくるほど涙腺が緩む大きな感動や活力を与えてくれた作品だと思いました。本作のモデルとなった長谷川幸夫さんの詩集の配布も非常に嬉しいサービス。じっくり読ませていただきたいと思います。
予約の取れないゴーストホテル
株式会社ALL GREEN
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/01/27 (土)
シアターグリーンにてALL GREEN『予約の取れないゴーストホテル』を観劇。
どんなに健康や事故などに気を付けて生きていても、明日どころか1時間後、いや、1分後すらどのような事態が起こるかわからない毎日。2024年は特にそのような出来事が連続してスタートしたためか、今回の作品は“ハートフルコメディー”と謳われてはいたものの、随所に今の日本・世界で起きていることと重ね合わせられるような気がして、色々と考えさせられる内容であったと感じました。
というのも、今回の作品の舞台は、現世に未練を残したまま成仏出来ず幽界を彷徨っているゴーストたちの物語。死後の世界を描いた作品は多くありますが、実際にその世界に行ってから再び現実の世界に舞い戻り、実体験を伝授しているような人間はこの世には存在せず、どれも架空や想像の世界に過ぎません。でも何となく、色々とやりたいことを残したまま突然命を失ってしまうことになったら、今回の作品に登場するゴーストたちのように、幽界を彷徨っているシチュエーションはあるのではないかと感じてしまうのがまた不思議で妙なところです。いや、ある意味、こんな世界があって欲しいという希望的観測なのかもしれません。それくらい、人間は未練の塊というか、完全に全てが満たされることなど無いのだろうなと感じますし、だからこそ、一日一日が大事で、少しでも未練を残さずにすんなりと仏に成れるような日々を過ごしていかねばと思ってしまいます。とてもユニークな世界観で面白い作品だと感じました。
ALL GREENさんは初見のカンパニーでしたが、パンフレットに載っていた今年11月上演予定の作品もなかなか興味深い内容です。機会があれば拝見させていただきたいと思っています。また、主演の米米CLUB・石井美奈子さんはもちろん存在感がありましたが、瀬野和紀さん、葉山昴さん、丹治陽佑さんら男性キャスト陣の好演が光っていたような気がします。この他、長身の上下碧さんの存在感や、声が特徴的な?藤澤友千菜さん、実際に不動産屋さんにいそうな?ハマり役の轡田拓也さんらも印象に残りました。15分近いカーテンコールも見応え十分。フルカラーでキャスト一人一人のコメントが掲載された当日パンフレット配布も嬉しいサービスでした。
沼の中の淑女たち
トム・プロジェクト
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/09/27 (水) ~ 2023/10/03 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/27 (水)
赤坂RED/THEATERにてトム・プロジェクト『沼の中の淑女たち』を観劇。
K-POPアイドル「RION」の推し活という“沼”にどっぷりとハマった淑女たちのお話。芸能人、スポーツ選手、アニメキャラなど、いつの時代であっても何か特定の人や物を熱烈に応援するような、いわゆる“推し活”といわれる文化は存在しているのだと思いますが、今回はその対象がK-POPアイドルという、まさに現代の時代にマッチしたような内容でした。個人的には身の周りにK-POPアイドルの推し活をしている人はいないものの、韓流ブームが一種の社会現象のようになった時代は知っているので、今回の設定は妙にリアリティがあり、最初から最後まで面白おかしく拝見させていただきました。まぁ細かく見ていくと、色々と突っ込みどころ満載の内容や設定ではあるのですが、推し活をテーマとした作品なので、多少無理があってもそれを含めて面白い。オタク、マニアックといったカテゴリー?をとことん追求したような最高傑作であったと感じました。
そもそも推し活と聞くと、お金がかかる、他の何かを犠牲にするなど、マイナスのイメージを持つ場合や状況もあると思いますが、今回の作品を観て改めて感じたのは、推し活こそ人生を豊かにしたり、生活に張り合いが出たり、元気になれる要素なのではないかということ。当然、バランスや加減は必要だと思いますが、人間やはり何かしらの推し活はした方が良いと思います。それが活力になるのは間違いないはず。・・と考えると、自分自身は何の推し活をしているのだろう、、とも思ってしまうのですが、トム・プロジェクトさんの公演に定期的に足を運んでいるように、少なくともトム・プロジェクトさんは推しているカンパニーの一つだと思いますし、そもそも演劇自体が人生を豊かにし、活力を与えてくれているものの一つではあるので、演劇というカテゴリー全体を推しているような気がします。
今回は女性キャスト5人のみによる公演でしたが、登場人物一人一人のキャラが濃く、そのキャラを演じているキャストさんの演じ方というか、雰囲気が上手くマッチングしており、フィクションなのにまるで現実にありそうな光景にも見えてしまう不思議な感覚でした。5人全員が見事なハマり役に感じました。今年3月に拝見した『ソングマン』に続き、コメディ要素が多くありながらも、観終わった後にただ面白いだけでない、何かに気付かされるような満足感のある作品。今回も安定の良作だと感じました。
あんた、滅茶苦茶だよ!!
劇団えのぐ
萬劇場(東京都)
2023/09/20 (水) ~ 2023/09/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2023/09/21 (木)
萬劇場にて劇団えのぐ『あんた、滅茶苦茶だよ!!』を観劇。
公演タイトルに必ず“色”に関する漢字が入っているという劇団えのぐさん。以前から気になっていた劇団の一つでしたが、これまでなかなかタイミングが合わず、今回初めて拝見させていただきました。
劇団のプロフィールを見ると、男女の2人の脚本・演出家がおり、奇数公演と偶数公演でそれぞれ分けて公演を打っているとのこと。第12回公演となった今回の偶数公演回は松下勇さんの作品でした。このローテーションというか、一つの法則のようなルールは面白いと思いますし、劇団の特徴・個性としてありだと思います。定時開演に拘っているという部分も概ね共感出来ます。
劇場に入ると、ステージ上に今回の使用劇場でもある“YOROZU”のロゴが刻まれた木材が露出。また、脚立なども剥き出しで置かれており、まるでセットを組み立てている途中、或いは解体している途中かのような空間が広がっており、ある意味斬新で不思議な感覚に陥りました。それもそのはずで、今回の作品は旗揚げ30周年を迎えるとある劇団の1週間前に起こる悲劇を描いたバックステージ物。スポットライトを浴びる役者さんだけでなく、原作者、脚本家、演出家、舞台監督、照明、音響、美術、衣装など、様々な裏方の役が登場し、非常に賑やかで、興味深い作品であったと感じました。恐らく今回の公演においても、多くの裏方さんがそれぞれの仕事を全うしているからこそ成り立っているものだと思います。
ただ、今回の作品はそのような各々の仕事を紹介しているものではなく、公演直前で台本を全部変えることになった。それも何回も。。。という、まさに誰もが「滅茶苦茶だよ!!」と叫びたくなるようなストーリー。ステージ上で繰り広げられるドタバタ劇はユニークで面白かったですし、どのような結末が待っているのだろうと楽しみもありました。
一方で、あまりにも声を張り上げているシーンが多いというか、大声で演じている役者さんが多く(ほぼ全員?)、観ていて若干ストレスを感じてしまったのも事実です。。声を張り上げたり大声を出すようなシーンは、場合によっては非常に重要な役目を果たすポイントになり得ると思うのですが、今回のように終始大声で演じている作品になると、ストーリー展開上、肝となるポイントが掴みにくく、耳が休まることもなく、途中から内容云々よりも耳障りの方が先行してしまったような印象を受けました。良くいえばエネルギッシュでパワフルなのかもしれませんが、シーンによる強弱もなくやや単調。今回が初見でしたので他作品も気になるところですが、これが劇団えのぐさんの作風や特徴であるとしたら、次の観劇は控えようかなとも思ってしまいました。終演後足早に劇場を後にしていた夫婦が「うるさかった」と感想を話していたように、好みが分かれる部分かもしれません。また、テンポが良く、よく稽古されている印象を受けましたが、シーンによってはもう少し間(流れに変化)があっても良いかと感じました。役に成り切っているというよりは、演じているという印象が残り、やや感情移入がし難い気もしました。途中であっと思わせる工夫・仕掛けが施されていた点は良かったです。
チョークで描く夢
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2023/09/07 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/15 (金)
駅前劇場にて劇団トラッシュマスターズ『チョークで描く夢』を観劇。
前作『入管収容所』を拝見し、あまりの生々しい日本の実体に衝撃を受けたトラッシュマスターズさんの新作。今回は障がい者雇用をテーマとした物語でした。前作同様、3時間に迫る長編作品であるにも関わらず、その長さを感じさせず、むしろどんどんグイグイと作品の中に吸い込まれる感覚。個人的にはまだ2作品を観劇したに過ぎないので、あくまでも前作・今作を通しての感想に留まるのですが、まず内容云々以前に、このように作品の中に引っ張られるような感覚に陥るのは、トラッシュマスターズさんの特徴の一つなのかもしれません。それくらい目の前で起きていることが生々しく、一つ一つのシーンが心に突き刺さるのです。
今となっては、障がい者雇用をしている企業は珍しくなくなりましたが、この作品の1幕で描かれている1959年(昭和34年)当時は、いかにそれが特別なことだったのか、ハードルが高かったのか、障がい者の人権が崩壊していたのか。。そんなことがリアルに伝わって来ました。障がいを持った方の「働きたい」という気持ちを踏み滲み、「出来る訳がない」「足手まといで迷惑」といった偏見に溢れている社会。そのような状況においても、一生懸命に働こうとし、無事に仕事が終わり、褒められ笑顔を見せるといったシーンには思わず涙腺が緩みました。障がい者の特徴・特性を理解を示し、会社や同僚に訴えかけようとする岡野優介さん演じる佐野欣也役がやたらと輝いて見えましたし、養護学校生徒役の小向なるさん、小崎実希子さんの迫真の演技があったからこそより際立ち、印象的なシーンになっていたと感じます。「働けるだけで幸せです」と涙ながらに叫ぶシーンはインパクトが強すぎました。
2幕は一気に時代が飛び、令和の現代社会における知的障がい者の雇用を映し出した内容でしたが、障がい者の雇用自体は珍しくなくなっても、また違った問題があるのだな、、と溜め息が出てしまうほどの深くこれまた心に突き刺さるテーマに、どこまで凄い作品なんだと驚愕しました。トラッシュマスターズさんのテーマを徹底的に深掘りし、取材し、問題点を洗い出し、ギリギリまで攻めて演劇作品として仕立てる一連の流れというか、作風というか、社会に問い掛ける劇団の在り方は非常に好感が持てます。もちろん賛否はあると思いますが、観た者一人一人の心に何かが刺さるのは間違いないと思います。多くの人が観て、自分なりに考えるきっかけとすべき問題、テーマではないかと。1幕で障がい者に対し、当初特に偏見を持っていた立花役の荻野貴継さんが、2幕では知的障がい者役を演じられていたのは驚きましたし、そのクオリティの高さはお見事でした。その他キャストさんも全員が主要な役割で、最高のパフォーマンスをされていたと感じました。
健常者も障がい者も同じ一人の人間。問題は山積しているのかもしれませんが、皆が傷つくことなく共存出来る世の中になることを強く望みたいものです。
ミュージカル『スクールオブロック』
ホリプロ
東京建物 Brillia HALL(東京都)
2023/08/17 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/03 (日)
東京建物Brilla HALLにて ホリプロ『スクールオブロック』を観劇。
売れないロックバンドのギタリストが名門進学校の臨時教師になりすまし、生徒たちにバンドを組ませるストーリー。ここまでロックな楽曲で構成されたミュージカルを観たのは初めてかもしれない…。ストーリーの面白さに加え、惚れ惚れするカッコ良さ。実にエネルギッシュで見応え満点の作品でした。
2003年に公開されたという映画版の『スクールオブロック』は観たことがなかったので、今回の舞台版で初めてストーリーを知ったのですが、破天荒な生きざまの主人公が教師となり、国語、英語、数学などの“学問”とは異なり、通常の学校・教師では教えないような“大事なこと”を生徒達に伝えていくストーリーは、今年3月に観て心を揺さぶられたトム・プロジェクトさんの舞台『ソングマン』にも似た部分があり、今回も非常にメッセージ性が強い作品だと感じました。
いつの時代であっても、秀才、エリートといわれる人生を送る人は一定数いますし、そうなるための努力は凄まじく、当然敬意に値すると思いますが、様々な学問・知識を身に着けることが第一なのかと考えると、決してそうではないと思います。今回のような作品を観ると特にそう感じます。脚本家ジュリアン・フェリウズ氏のコメントにあるように、「私たちが生まれながらに持つ、純粋でアナーキーで恍惚した炎。社会的圧力を感じても、それを育てていくことが大事」というメッセージにはとても共感を覚えました。年齢に関係なく、自身の可能性を信じ、自身の"好き"を追求し、型にハマらず挑戦し続けることは人生の永遠のテーマであるような気がします。でも何事も一人の力だけではどうにもならず、やはり協力し合って助け合って生きていくことも大事であるともつくづく感じました。今回の作品が、一人一人が重要なパーツとなり、一つの音楽を創っていくというロックバンドを映し出した作品であったから尚更そう感じたのかもしれません。
今回はチームコード班の公演を拝見させていただいたので、デューイ役は柿澤勇人さんでしたが、一見すると脱力系のようにも見えつつも、実は熱い魂の持ち主であるという人物像に映りました。独特の雰囲気があり、非常にカッコ良かったです。濱田めぐみさんが演じた完璧な校長先生からの人間らしい一面を見せる後半にかけての流れも良かったです。子供キャスト達の好演も印象的でした。これはエネルギーチャージにはピッタリの素晴らしい作品。やはりロックって良いなぁ、、バンドも良いなぁ、、。興奮・感動が連続するミュージカル作品でした。お見事!
土がくれたほほえみ
劇団東俳
あうるすぽっと(東京都)
2023/09/02 (土) ~ 2023/09/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/09/10 (日)
あうるすぽっとにて劇団東俳『土がくれたほほえみ』を観劇。
毎回、子役からベテラン俳優まで幅広い年齢層の役者さんが出演し、本格的且つ王道の演劇作品を制作されている印象が強い劇団東俳さん。たまたま拝見した2016年公演の『まなざし』が好印象だったこともあり、以降も定期的に拝見させていただいています。昨年の『激流ノ果テ』に続き、今回で通算5作品目の観劇となりました。
今回は老舗芸能事務所のマネージャー、スキャンダル騒動を起こした売れっ子俳優、自然農園の辛口園長、訳ありの元カリスマシェフ、母親の愛情に飢えた小学生など、個性的なキャラが多く登場する人間再生をテーマとしたような作品。登場する人物それぞれに様々なエピソードがあり、特定の誰かだけにスポットが当たる訳でもなく、程好いバランス感で物語が進んでいく展開は見応えがありました。その中でも2幕が始まって割とすぐの芸能マネージャーと自然農園の園長による2人の会話は印象に残ったシーンの一つです。園長の「怒りで解決することは少ないけど、笑顔で解決出来ることはたくさんあるのでは」や「心が死んだら体も死んじゃう」という言葉はなかなか重みがあると感じました。
“笑いは良薬”という言葉があるように、人間やはり笑うことは大切なのだと思いますが、かといって、自分の想いを内に秘め、偽物の自分を演じるのではなく、ありのままを吐き出し、本当の自分でいられることが大事。世の中一人一人がおおらかな心を持ち、互いを理解し合って、リスペクトし合って生きていくこと、助け合って生きていくこと、人と人の繋がりを大事にしていかねばならないことなど、当たり前であってもなかなか難しい大切なことに気付かされるような内容であったと思いました。欲を言えば、それぞれのエピソードにもう一捻りというか、あと少しだけ複雑な絡み合いがあると尚良かったかなと感じました。また、東俳さんは自社で所有されている劇場も素敵な空間だと思いますが、今回はあうるすぽっとでの公演ということもあり、よりスケールの大きな、良質な作品に仕上がっていたと感じました。ダンスシーンも迫力がありました。
キャストでは、ゲストの藤田弓子さん、永井大さんはやはり存在感がありました。藤田さんは劇団でん組、永井さんは東京セレソンDXの作品で拝見して以来かな。相変わらずオーラがあります。マネージャー役・倉持聖菜さんは、序盤の“仕事が出来るマネージャー感”からの、人間誰もが持っているであろう“弱い部分”の見せ方というか、表情というか感情表現が上手いと感じましたし、少しハスキーな声も個性的でインパクトがありました。売れっ子俳優役の関修人さんはどんな役を演じられてもビシッとハマる印象。小学生役の村山輝星さんはテレビで見たトライアスロンのイメージが強かったですが、ダンスも演技もレベルが高く素晴らしい。三浦修さん、植野瑚子さん、三谷貫太さん、三小田芳樹さんらも印象に残りました。江畑達也さん、深沢優希さん、菊川陽子さんによるアフタートークも10分では足りないほど充実しており、最後まで楽しませていただきました。60周年おめでとうございます。
SHINE SHOW!
東宝
シアタークリエ(東京都)
2023/08/18 (金) ~ 2023/09/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/03 (日)
日比谷シアタークリエにて東宝『SHINE SHOW!』を観劇。
会社対抗のど自慢大会の舞台裏を描いたシチュエーションコメディ。その設定自体が面白いうえ、登場人物のキャラが濃すぎる。これまで観てきたシチュエーションコメディの中でもトップクラスの強いインパクトを与えてくれた作品でした。これは面白過ぎる。文句なしの★5つ評価です。
東宝さんの作品であることや、宝塚歌劇団やミュージカル出身者が多くキャスティングされていること、また、山田和也氏の演出ということで、何となくミュージカル作品を想像していましたが、実際はストレート・プレイに近く、その中に上手く楽曲が盛り込まれているような感覚でした。そしてその楽曲の一つ一つが実に良いアクセントになっているというか、見事なまでに計算されて披露される内容。冒頭のワンフレーズだけで終わるシーンもあれば、ほぼ1曲をじっくり聴かせるシーンもあれば、BGMだけで終わるシーンもあり、単にカラオケ楽曲が流れるだけでなく、その展開方法の引き出しの多さに驚きました。次はどんな曲がどのような形で登場するのだろうと、最後までワクワクが止まりませんでした。
登場人物のキャラ設定も実にお見事。メディア取材まで訪れる華やかで伝統のあるカラオケ大会という設定ながらも、登場する人物は芸能関係者ではなく、あくまでも一般の会社員という設定。それぞれに自分の仕事を抱えながらも、カラオケ大会に挑むというリアルの世界に近い設定のためか、思わず「仕事頑張れ」「カラオケ大会も頑張れ」と両方を応援したくなる感覚がありました。ただ、全員がカラオケ大会に前向きとなっている状況でもないというのがこれまた面白い。様々なパターンのアクシデントやトラブルに見舞われながらも、一つのイベントが進行していく様子はとても見応えがありましたし、とにかく面白かったです。よくぞここまでクセの強いキャラ達を登場させたなと、脚本の秀逸さに感服しました。アガリスクエンターテイメントさんの代表作『ナイゲン』も大好きなのですが、この『SHINE SHOW!』も大好きな作品になりそうです。
そして、そのクセの強いキャラを演じるキャストの皆さんも素晴らしいの一言。朝夏まなとさんは"出来る上司""頼もしいイベンター"をイメージしたためなのか、早口の台詞が印象的でしたが、早口なのに聴き易かったのが衝撃。西村直人さん、鹿島ゆきこさんのMC役もハマっていると感じましたし、花乃まりあさんと栗原沙也加さんが演じた"女同士の戦い"?のようなシーンも愉快でした。逆に中川晃教さん、斉藤コータさんが演じた"男同士の戦い"?も最高でした。他キャストさんも一人一人が完璧なまでにキャラに成り切っていて素晴らしかったです。もちろん劇中で披露された楽曲の数々にも拍手。
オミソ(2023)
日穏-bion-
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/08/25 (金) ~ 2023/09/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/08/29 (火)
赤坂RED/THEATERにて 日穏-bion-『オミソ(2023)』を観劇。
老舗味噌屋が舞台の家族ドラマ。劇場に一歩足を踏み入れた瞬間から広がる安定の日穏クオリティ。何もかもが非常に丁寧に創られていて、見事な1時間50分でした。
とはいえ、何事においても好みや価値観は人それぞれで、それは演劇の世界においても同じだと思います。Aさんは好きだけど、Bさんにとってはそうでもない。また、Bさんには響いたけど、Aさんにはあまり響かなかったなど。それは極自然なことであり、むしろそれで良いと思います。なので、自分自身の好みをあまり他人に強要するようなことは極力控えるべきかなとも思いますし、基本的には自分は自分、人は人の考え方でいることが大事だと思っているのですが、この日穏-bion-さんに関しては、日本人として、いや、人として、ぜひとも観るべきカンパニーではないかと感じてしまいます。それくらい心が清らかになるというか、心が豊かになるというか、とにかく大切な何かに気付かされることが多いカンパニーだと思うのです。今回も大満足の内容でした。
日穏-bion-さんはたまたま拝見した2014年公演の『Gift ~星空の向こうから~』で一気にハマり、そこからコンスタントに観劇させていただいています。個人的に好きな劇団・カンパニーをランキング形式に並べたら、間違いなくトップレベルに君臨しているのではないかと勝手に思っているのですが、それは、登場する人物それぞれに感情移入してしまいそうな絶妙な設定・背景・エピソードに加え、心が穏やかになるストーリー展開、さらに、思わずクスッと笑ってしまう優しい笑い、細部までよく作り込まれた舞台セット、物語の時代背景に合わせたBGM演出など、挙げたらキリがないくらいの好要素があり、非常に丁寧な作品創りをされているからだと思っています。
コロナ禍の影響もあり、日穏-bion-さんの作品を観るのは2020年の『初恋』以来3年ぶりでしたが、終始感じた懐かしい雰囲気、安定の見応え、そして感動。これぞ日穏-bion-さんの作品だと強く思いましたし、改めてこのカンパニー好きだなと認識させられました。様々な展開が繰り広げられながらも、誰も傷付けないほっこりとする結末に持っていくのはさすがです。
演者さん一人一人も個性的で、とにかく演技が素晴らしい。芝居であることを忘れてしまいそうな、とても自然体な会話劇が印象的でした。中でも内浦純一さん、岩瀬顕子さん、剣持直明さん、伊原農さん、鈴木朝代さんらが印象に残りました。特に栃木弁全開の剣持さんの存在感は圧巻。台詞を言わなくても舞台上にいるだけで見せ場を作れる素敵な存在だと思います。大好きな役者さんの一人です。種村愛さんも難しい年頃の心情を上手く演じられていたと思いました。
アニー
日本テレビ
愛知県芸術劇場 大ホール(愛知県)
2023/08/18 (金) ~ 2023/08/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/08/19 (土)
愛知県芸術劇場にて2023年版のミュージカル『アニー』を観劇。
コロナ禍の影響で2021~22年は1幕短縮版での上演となっていた歴史あるミュージカル作品が、ようやく4年ぶりに本来の2幕構成のフルバージョンに。個人的には例年東京公演を拝見していましたが、今年は上手くタイミングが合わず、初めて夏のツアー公演を観劇させていただきました。愛知県芸術劇場を訪れたのも今回が初めてでした。
気付けば『アニー』の観劇は今回で7回目となるのですが、この作品を観て1年のエネルギーをチャージしているといっても過言ではないほど、アニーというキャラクターの前向きな姿勢、アニーを通して変化していく大人たちの姿、そして不況や困難に立ち向かって皆で頑張っていこうというストーリーには、自然と大きなエネルギーを貰っている気がします。
人間生きていれば困難にぶち当たるのは当然であり、大事なのは、その困難にどう立ち向かっていくかだと思います。アニーを見ていると、常に明るくポジティブで、周りの人々に良い影響を与えている。この明るくポジティブに生きている姿こそが偉大であり、アニーを見習って諦めずに頑張っていこう、という気持ちになれるのです。とてもメッセージ性のある作品だと思います。何度観ても飽きないのは、先ほど書いた“エネルギーチャージ”のほか、そもそも子供キャストが多い作品ながら、これだけ素晴らしい作品を創っているという事実と、子供キャスト一人一人の頑張り。さらに、「♪Tomorrow」をはじめ、「♪ここが好きかもね」「♪N.Y.C.」「♪二人でいればいい」など名曲ナンバーの数々。挙げればキリがないくらい中毒性のある要素が多くあるからだと思います。
90分1幕の短縮版もそれはそれで良かったのですが、今回改めて2幕版を観てみると、やはり深いなぁと再認識しました。中でもホワイトハウスのシーンは今の日本政府にも学ぶ部分があるのではないかと。アニーが孤児院を抜け出してサンディと出会うシーンも、1933年当時の荒れているアメリカの状況を映し出していて、より情景が深まります。人気ラジオ番組の収録シーンや、クライマックスの「♪ニューディール フォークリスマス」が流れるシーンも圧巻です。
今回は西光里咲さんがアニー役を務めたチーム・モップの公演を拝見させていただきましたが、西光さんは声量があり、元気なアニー役を好演されていたと思います。ハニガン役のマルシアさんは悪役ぶりが見事。そして、ウォーバックス役の藤本隆宏さんもさすがの存在感。お金持ちで貫禄が伝わってくる部分と随所に見られる弱々しい部分が絶妙に感じられ、非常にハマり役だと感じているので、2年ぶりの復活は嬉しく思いました。その他キャストも全員が良い。今年も大満足です。
ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)
劇団チョコレートケーキ
まつもと市民芸術館 小ホール(長野県)
2023/08/05 (土) ~ 2023/08/05 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/08/05 (土)
まつもと市民芸術館にて劇団チョコレートケーキ『ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-』を観劇。
2017年に拝見した『60'sエレジー』の印象が良く、他の作品も観てみたいと思っていた劇団チョコレートケーキさんですが、その後なかなか観劇の機会に恵まれず、今回が6年ぶり2回目の観劇となりました。
前回は1960年代、今回は1990年代を舞台とした、やはりどこかノスタルジックな世界観を味わえる作品。脚本家の古川健さんの挨拶文冒頭に「この物語はあくまでもフィクション」「現実に存在する何かを連想することもあるかもしれませんが、全て創造の産物です」と繰り返し忠告?されているように、全てがフィクションであることには間違いないのですが、特撮作品の撮影現場という好奇心を掻き立てられる場所で展開される様々なシーン、会話の数々を見ていると、まるで実話に基づいたメイキングではないかと感じてしまうほど生々しく、すーっと物語の中に入り込めるような感覚がありました。思わずクスッと笑ってしまうコミカルに描いたシーンもあれば、「差別」をメインテーマとした作品だけあり、メッセージ性の強いシリアスなシーンもあったりと、濃い2時間10分でした。
伝えたいメッセージがあり、それを題材にした物語を描きたい制作者サイドと、視聴者からの論争を懸念し、本を書き直すようにと圧力をかけるテレビ局サイドのやり取り。果たしてどのように決着するのだろうと、興味深く拝見させていただきました。結果として制作サイドの強行策という方向になり、それなりのペナルティも受ける展開となりましたが、個人的にはこの展開で良かったと感じましたし、試練を乗り越え、また新たなストーリーを築こうと奮闘している様子を描いたエンディングも比較的すっきりするものでした。「差別」はいつの時代も存在し、どの時代であっても、誰もが差別する側にもなり、差別される側にもなりうる。身近な問題でありながら、あまり深く考える機会もなかったテーマでもあるため、今回の観劇は良い機会になったかもしれません。特撮モノが始まるようなBGM、作品の中を映し出したような照明、放送を見ている脚本家の顔に映るテレビ照明など、細かな仕掛けも見応えがありました。
監督役の岡本篤さん。久しぶりに拝見しましたが、若干訛りが入った味のあるお芝居はやはり良いなぁと感じました。浅井伸治さん演じる特撮ヒーロー俳優役も熱く、カーテンコールでの地元凱旋トークも面白かったです。足立英さんの爽やかで表情豊かな新人俳優役も存在感がありましたし、脚本家役の伊藤白馬さんの自然体な演技も印象的でした。東京公演に伺えず、松本公演での観劇となりましたが、気になっていた作品でしたので観ることが出来て良かったです。
ピーター・パン
ホリプロ
東京国際フォーラム ホールC(東京都)
2023/07/25 (火) ~ 2023/08/02 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/07/30 (日)
東京国際フォーラムにてホリプロ『ピーター・パン』を観劇。
永遠に大人にならない少年ピーター・パンの物語。毎年夏休みの時期に上演されている印象があるうえ、ネバーランドやフック船長などが登場するファンタジーな世界観は、子供向けミュージカルの色が濃い作品だと想像していましたが、実際に観劇してみると、そのイメージは若干変化したような気がします。客層を見ると、もちろん子供たちも多くいるのですが、大人たちだけで観劇している方も多くいらっしゃる。また、客層だけではなく、作品そのものの演出や音楽も本格的で、思っていたよりも総合的なクオリティーが高い作品であると感じました。さすが今年で日本上演43年目を迎えた歴史あるミュージカル作品だと思います。これだけ長く愛されていることに納得です。
また、個人的には今回が初めての『ピーター・パン』観劇であったため、旧演出との違いは分かりませんでしたが、今年の演出家・長谷川寧さんのパンフレットコメントを読んだり、アフタートークを聴かせていただくと、非常に緻密に計算されているというか、細かな部分までこだわって作品を作られている様子が伝わってきて、単純に凄いなと感心しました。「子供向けミュージカルだから・・」といって侮ってはいけないです。プロフェッショナルな演出家、キャストさんたちが繰り広げるステージはとても見応えがあり、濃密な時間を過ごせた印象です。
11代目ピーター・パン役の山崎玲奈さんは、以前『アニー』で拝見した際も印象的な表情・表現がありましたが、今回は男の子役ということで、アニーとはまた違った役作りに徹しており、それはそれでお見事でした。アフタートークの際も、足を広げ?自然と男の子っぽい座り方になっていたように感じました。フライングシーンもカッコ良かったです。フック船長役の小野田龍之介さんは『マチルダ』の校長先生役に続き、悪役?を好演されていたように思います。存在感十分で、個人的には今回もなかなかのハマり役だと感じました。キャストたちが客席に降りて、会場全体で盛り上がる歌唱シーンや、子供たちの笑い声、叫び声などもあり、コロナ禍からの脱却も感じられて良かったです。
MIND MIRROR MUSICAL『IBUKI』
東のボルゾイ
中目黒キンケロ・シアター(東京都)
2023/05/24 (水) ~ 2023/05/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/05/24 (水)
中目黒キンケロ・シアターにて東のボルゾイ『IBUKI』を観劇。
初見のカンパニーで、ミュージカル作品であるということ以外は特に何の予備知識も入れずに拝見させていただきましたが、まず頭に浮かんだのは「斬新」というキーワードでした。
そもそも東のボルゾイというカンパニー名からして、個性的でインパクトがあるのですが’(命名の由来、経緯も気になるところ)、良くも悪くも現代社会においてよく耳にする"多様性"というなかなか攻め込んだ&メッセージ性のあるテーマに加え、その描き方、ステージの見せ方、ミュージカルナンバーの曲調、雰囲気など、様々な面において「斬新さ」を感じる作品だと思いました。これまでに観てきたミュージカル作品とは一線を画すような独特な世界観、表現手法が含まれていたような気がします。そして、その感覚は最初から最後まで続きました。
社会的なテーマを扱っていることもあり、リアルさを感じる面もありつつも、漫画の世界ともいえるようなユーモア溢れるぶっ飛んだ描き方(Dr.先生、セカン田オピ吾郎先生が登場するシーン然り、オノノハハ、アネゴ、イモコらが登場するシーン然り...)もあったりと、全く先の読めない独特の"ワールド"に迷い込んだような不思議な感覚に陥りました。
公演パンフレットには、脚本家の方が自ら経験した海外暮らしにおける実体験(差別扱い)の話や、脚本構想、制作の歩みなどの裏側の様子が掲載されており、一つ一つを組み立てながら考えていくと、なるほどなぁと納得出来る部分が出てきたり、考えさせられるような部分も出てきたりして、なかなか奥が深いと感じました。同じ人間であっても、考え方や価値観は様々。本来その一つ一つに存在意義があると思いますが、実際は些細なことだったり、漠然とした固定概念、偏見などが差別や揉め事に繋がっているのが現実かと思います。クライマックスのシーンで出てくる「差別するなら知り尽くしてからにして」といった台詞は重みがあると感じました。
役どころもあると思いますが、オノ役の東間一貴さん、ノコギリ役の仲井真徹さん、キリ役の飯塚萌木さんの好演はインパクトがありましたし、他キャストさんのエネルギッシュなお芝居も印象的でした。一捻りも二捻りもある挑戦的な作品で、観終わった後には何となく日常に「IBUKI」が吹き込まれたような感覚に浸れました。
神様お願い
タクラボ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/05/09 (火) ~ 2023/05/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/09 (火)
赤坂RED/THEATERにてタクラボ『神様お願い』を観劇。
“ラボ”という名に相応しく、業界初採用となるNFTチケットでの入場や、本来であれば終演後に開催されるようなアフタートークを前座に組み込むなど、まさに実験的な取り組みが多く盛り込まれ、終始ワクワクが止まらない観劇となりました。また、主宰の宅間孝行さんのお芝居をキャパ200弱程度の小劇場で観ることが出来たのも久し振りのような気がします。開演前の客席とのコミュニケーション、カーテンコールでの今日の一言、宅間さんの挨拶などを含め、前身の東京セレソンDXの頃に新宿シアターサンモールなどに足を運んでいた当時の懐かしい感覚も蘇り、何となく嬉しく感じました。今回の”原点回帰”の試みは非常に好感が持てました。
そして、相変わらず作品の内容が素晴らしいのです。今回の作品は新興宗教、カルトに関するお話でしたが、テーマ自体が斬新であるうえ、その切り口というか、表現方法など全てが面白かったです。公演パンフレットの宅間さんのコメントに「昨年起きたあの歴史に残る大事件が発端です」とあるように、あの衝撃的な事件から着想を得た作品なのだと思いますが、だからなのか、妙に現実とリンクする部分があったり、一方で、コメディータッチで描かれている部分もあったりと、なかなか奥が深い構成であったように感じました。リアルとバーチャルという表現が適切なのかは分かりませんが、そのバランス感が絶妙であると感じました。”宗教”と聞くと、「自分には関係ない」「聞きたくない」などと拒否反応を示す人々も多くいると思いますが、作品にも描かれているように、人々が神様に何かを願掛けしたりするようなシーンは割と多くありますし、案外身近な問題だと気付かされます。"洗脳"と"マインドコントロール"のくだりを含め、何か面白いなと思いました。また、随所にあったアドリブのシーンも過剰に狙い過ぎず、自然な笑いを生み出しており、とても心地好かったです。
東京セレソンDXのお芝居を拝見していた頃からの印象になりますが、宅間孝行さんの演出・脚本・企画などはどれも常に期待の上を行っており、個人的には人間国宝に相応しい方と思っています(人間国宝の定義を全く理解していませんが…!)。既にタクラボの第2弾やタクフェスの第11弾公演が決まっているようで、今後も楽しみです。
宅間さんはもちろん、ハマカーンの浜谷健司さん、阿部力さんも存在感がありましたし、初見の井上新渚さん、守屋慎之介さんらも印象に残りました。蓮役の矢野ななかさんも初見の役者さんでしたが、代役とは思えない圧巻の演技力で驚きました。短期間であれだけの表現が出来るのは素晴らしいの一言です。
ミュージカル「マチルダ」【4月18日18時の回、19日公演中止】
ホリプロ/日本テレビ/博報堂DYメディアパートナーズ/WOWOW
東急シアターオーブ(東京都)
2023/03/22 (水) ~ 2023/05/06 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
東急シアターオーブにてミュージカル『マチルダ』を観劇。
2010年に英国で上演されて以来、世界91都市で1100万人以上の観客が魅了されたという作品の日本人キャスト版。それを聞いただけで勝手に期待値が爆上がり。舞台以外にも、テレビやラジオで本作に関連する番組や楽曲、宣伝に触れる機会があり、観劇を心待ちにしていました。
マチルダ役はオーディションで1000人以上の中から選ばれた4人の子供たち。今回拝見した回のマチルダ役は嘉村咲良さんでした。シアターオーブという大きなステージで、小さなマチルダが1人でスポットライトを浴びて歌を披露しているという事実。しかも公演パンフレットを見ると、嘉村さんは今回が初舞台だそう。とても初舞台には思えない堂々とした歌唱、そして細かな感情表現に、驚きと感動の連続でした。さすが1000人以上の中から選ばれた人材だけあります。とにかく圧巻のお芝居でした。
さらにそのマチルダは、読書好きで頭が良く、正義感が強いという人物像。次々に登場する意地悪で頭の固い大人たちに「そんなの正しくない!」と毅然に立ち向かう姿ときたら、、、。もう”カッコイイ”という一言だけでは表現し切れないです。2018年の新語・流行語大賞のトップ10に、サッカー日本代表の大迫選手の活躍ぶりを指す「(大迫)半端ないって」という言葉が入りましたが、思わず「マチルダ半端ないって」と言ってしまいそうなくらいの圧倒的なインパクトがありました。
もちろんマチルダ役以外のキャストも充実。大貫勇輔さん、斉藤司さん、霧矢大夢さんらが演じる悪役たちや、昆夏美さん演じるミス・ハニーの優しさなども絶妙なバランスで嚙み合っており、様々な感情を掻き立てられる名作であったと感じました。楽曲も照明も舞台セットもお見事で、まさにエンタメの最高峰に位置する作品だと思います。同じ作品、同じ役でも演じ手が変わるだけでガラリと印象が変わるだけに、また機会があれば他公演も拝見してみたいところです。