実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/15 (金)
駅前劇場にて劇団トラッシュマスターズ『チョークで描く夢』を観劇。
前作『入管収容所』を拝見し、あまりの生々しい日本の実体に衝撃を受けたトラッシュマスターズさんの新作。今回は障がい者雇用をテーマとした物語でした。前作同様、3時間に迫る長編作品であるにも関わらず、その長さを感じさせず、むしろどんどんグイグイと作品の中に吸い込まれる感覚。個人的にはまだ2作品を観劇したに過ぎないので、あくまでも前作・今作を通しての感想に留まるのですが、まず内容云々以前に、このように作品の中に引っ張られるような感覚に陥るのは、トラッシュマスターズさんの特徴の一つなのかもしれません。それくらい目の前で起きていることが生々しく、一つ一つのシーンが心に突き刺さるのです。
今となっては、障がい者雇用をしている企業は珍しくなくなりましたが、この作品の1幕で描かれている1959年(昭和34年)当時は、いかにそれが特別なことだったのか、ハードルが高かったのか、障がい者の人権が崩壊していたのか。。そんなことがリアルに伝わって来ました。障がいを持った方の「働きたい」という気持ちを踏み滲み、「出来る訳がない」「足手まといで迷惑」といった偏見に溢れている社会。そのような状況においても、一生懸命に働こうとし、無事に仕事が終わり、褒められ笑顔を見せるといったシーンには思わず涙腺が緩みました。障がい者の特徴・特性を理解を示し、会社や同僚に訴えかけようとする岡野優介さん演じる佐野欣也役がやたらと輝いて見えましたし、養護学校生徒役の小向なるさん、小崎実希子さんの迫真の演技があったからこそより際立ち、印象的なシーンになっていたと感じます。「働けるだけで幸せです」と涙ながらに叫ぶシーンはインパクトが強すぎました。
2幕は一気に時代が飛び、令和の現代社会における知的障がい者の雇用を映し出した内容でしたが、障がい者の雇用自体は珍しくなくなっても、また違った問題があるのだな、、と溜め息が出てしまうほどの深くこれまた心に突き刺さるテーマに、どこまで凄い作品なんだと驚愕しました。トラッシュマスターズさんのテーマを徹底的に深掘りし、取材し、問題点を洗い出し、ギリギリまで攻めて演劇作品として仕立てる一連の流れというか、作風というか、社会に問い掛ける劇団の在り方は非常に好感が持てます。もちろん賛否はあると思いますが、観た者一人一人の心に何かが刺さるのは間違いないと思います。多くの人が観て、自分なりに考えるきっかけとすべき問題、テーマではないかと。1幕で障がい者に対し、当初特に偏見を持っていた立花役の荻野貴継さんが、2幕では知的障がい者役を演じられていたのは驚きましたし、そのクオリティの高さはお見事でした。その他キャストさんも全員が主要な役割で、最高のパフォーマンスをされていたと感じました。
健常者も障がい者も同じ一人の人間。問題は山積しているのかもしれませんが、皆が傷つくことなく共存出来る世の中になることを強く望みたいものです。