
真珠の首飾り
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/09/11 (金) ~ 2015/09/20 (日)公演終了
満足度★★★
憲法に込めた、情熱を知る
日本国憲法の草案を作ったGHQ民政局のベアテ・シロタのことはよく知られている。草案を作ったメンバーらがいかに情熱を傾けて作業をしたかを、ベアテを主人公に描いている。
青年劇場は1998年の初演後も、何度も上演してきた。今回は、国会で安全保障関連法案が審議されているというタイミング。場合によっては自衛隊員が外国で戦争に加わるかもしれないという法案だけに、演劇界でも力が入っているのだ。
語り手として、89歳となり今に生きるベアテ・シロタ・ゴードンを置き、45年当時のベアテに今回が初舞台の新人、高木アヤ乃を抜擢。彼女の堂々たる舞台は、注目に値すると思う。特に、第一幕の最後のシーンには、思わずもらい泣きしてしまう迫力があった。
国家として戦争を放棄するという宣言をしたインパクトは大きかった。また、ベアテが日本在住での経験を基にして作り上げた「女性の人権」に関する条項は、画期的だった。憲法に込めた、メンバーたちの情熱を舞台は余すところなく伝えている。
それで十分であるのだが、今回は締めくくりに、この70年間日本が戦争に参加せず、一人も殺さず、一人も殺されなかったのはこの憲法があったからだと現在のベアテがとうとうと語る。人によっては、この部分で舞台観劇の熱が冷めてしまったかもしれない。上演する側としては、今なぜこれをやるのかとアピールしたかったかもしれないが、ある意味、言わずもがなである。個人的には、なくてもよかったような気がする。
後日談をやるのであれば、朝鮮戦争が起きる中で、米国が日本に対して、憲法の条文に手をつけずに警察予備隊(自衛隊)を作らせたことも含めた方がよかったのではないか。事実上の軍隊を「自衛隊」として軍隊ではないから憲法9条に違反しない、という論理は、「軍事を使ってでも積極的に守る」のが「平和」だと言い張っている今の政権のやり口とまったく同じなのだから。
それでも、憲法の成り立ちに疎い、特に若い人にはお勧めしたい。「平和」は努力しないと守られないということを知るためにも。

ミュージカル李香蘭
劇団四季
四季劇場 [秋](東京都)
2013/09/08 (日) ~ 2013/09/29 (日)公演終了
満足度★★★
もっと李香蘭を見たい!
2015年版を拝見。最後は度重なるカーテンコール、スタンディングオベーション。歌も踊りも完成度の高い舞台だけに、むべなるかな、である。
日中戦争で人生を引き裂かれ、数奇な運命をたどった李香蘭。その人生を描いてはいるのだが、満州国の樹立から終戦まで歴史を丁寧になぞるような舞台は、主役の李香蘭をかすませてしまっていると言えるかもしれない。ある程度は仕方のない説明なのかもしれないが、李香蘭が出演した映画の中身をもう少し再現したり、波乱の人生をもう少し見たいという気もした。
さらに、「月月火水木金金」など、当時の軍歌などをふんだんに舞台で使うなど、音楽で世相や当時の空気、歴史的な事実などをミュージカルらしく解説しているが、軍歌よりも、戦後70年たって、知る人が少なくなってきているだろう李香蘭の歌を、もっと聞きたかった。もちろん、蘇州夜曲や夜来香は披露してもらったのだが。
とは言え、日中関係が冷え込んでいる今、これを世代を超えて受け継いで鑑賞することは、とても大切だ。お客さんは比較的高齢の方が多かったのが少し残念。「ライオンキング」「リトル・マーメイド」もいいが、このミュージカルも一度は見ておきたい。

ホーボーズ・ソング HOBO'S SONG〜スナフキンの手紙Neo〜
虚構の劇団
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2015/08/25 (火) ~ 2015/09/06 (日)公演終了
満足度★★★★
快感にくるまれた冷や汗
冒頭のビーチのシーンに、まずは引き込まれる。これから何が展開するかという派手なワクワク感だが、終わってみると、ある意味、これが今のところ「平和」な現在だと引き戻されるという感じか。
日本を2分する内戦が起きて恋人が引き裂かれるという深刻な物語。記者会見で軍の高官が「それは秘密保護法に抵触するので申し上げられない」と答えたり、「悠久の大河に生きる」という趣旨の、先の戦争で国に殉じた人たちの言葉が真顔で語られたり、今の時代では相当現実感をもって迫ってくる場面が次々に登場する。これが現実になるかも、近い将来なるだろう、という冷や汗を舞台は否応なく突きつける。
だが、その冷や汗は軽妙なタッチと「快感」によってパクッと包まれる。冒頭のビーチが今のところはちゃんと現実なんだ、と冷や汗が遠のいていくのだ。
鴻上尚史さんの3年ぶりの新作。さすがだな、と感じ入る。
余計なことですが。
佃井皆美だけでない、若手女優さんたちの手足の長さに目を見張る舞台でもあった。

転校生
パルコ・プロデュース
Zeppブルーシアター六本木(東京都)
2015/08/22 (土) ~ 2015/09/06 (日)公演終了
満足度★★★
新感覚の舞台
女子高校生たちの他愛ない会話が同時進行で繰り広げられる。さらに、その舞台をリアルタイムに撮影した映像が効果的に使用される。舞台の楽屋を思わせるセットを背面に置き、女優たちが舞台と「楽屋」を往復する様子も観客に見せる。舞台で進む複数の会話を同時に見せるのは平田オリザの「技術」である。それを本広克行のテイストで味付けられた舞台は、これまでの演劇とは違う、新感覚の戯曲と言える。
会話劇なのだが、丁寧に会話を追っているとたぶん、相当疲れる。台本が背後に投影されるという、これもかなり新しいテイストだが、おそらく作・演出側は台本を目で追わせるということは狙っていないだろう。高校生たちの学校生活の一場面をリアルに見せる、仕掛けであると思う。
これらを受け入れて楽しめるか、どうか。もう一つ、ももクロファンであるかどうか。これが、「転校生」を心から楽しめるかどうかの一つの鍵になるかも。
ここに登場した女優たちが、次世代の演劇文化を楽しく支えていってほしいと、おじさんは思うのだ。
ただ一つ、言っておかねばならないと思う。(おじさんの繰り言)
女優は、観客より先に感極まって泣いてはいけないよ。あ、でも、これも舞台や女優に感情移入できるお客さんであれば、たまらないポイントにもなる。
ともあれ、演劇にタブーはあってはならない。「転校生」をいろんな角度から楽しみたい。

滝沢家の内乱
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2015/08/26 (水) ~ 2015/08/30 (日)公演終了
満足度★★★
加藤忍さんの妖艶さ
ご存知、南総里見八犬伝の滝沢馬琴の物語。馬琴の息子の嫁役、加藤忍さんがいい味を出している。若き後家さんの色気というか、その妖艶さがいい。カトケン事務所らしい爆笑シーンは少ないが、しっとりと味わえる舞台。
加藤忍さんは、近く下北沢で一人芝居の舞台に臨むとか。楽しみだ。

バートルビーズ
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2015/08/24 (月) ~ 2015/09/09 (水)公演終了
満足度★★★★
フクシマを投影する衝撃
坂手洋二さんのことだから、NYウオール街の代書人の話をどう今の日本に引っ張ってくるか、その驚きを味わおうとスズナリへ行った。劇場を出たときの衝撃度は、想像を超えていた。バートルビー的人間はあちこちにいるんだろうが、福島第一原発事故の被災地でこれを目撃するなんて。
I would prefer not to. できれば私、そうしないほうがいいのですが。
この言葉が矢のように飛び交い、残像を残して重なっていく。ラストシーンの衝撃度もかなりのものだ。特に、原発事故後にフクシマに行き、被災地の現状を見た人には、特に胸に突き刺さるだろう。

人民の敵
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2015/08/21 (金) ~ 2015/09/02 (水)公演終了
満足度★★★★
思考停止する怖さ
イプセンがこれを書いた時代と現代日本は、恐ろしいほど共通点がある。だから、この戯曲は今見るととても怖い。「世論」は流され、作られ、道を誤ることがある。そんな世の中で強く生きていくとはどういうことなのか。この舞台では、最後のセリフにそれが象徴されるのだが、3時間の上演の間、お客さんはプロレスリングのような正方形のステージで繰り広げられる物語のこの問題を考えることになる。
問題をなかったことにして隠し、平穏な毎日を続ける。それは原発政策であり、安全保障の問題にも通じるかもしれない。問題を公表すれば職を失う、仲間はずれにされる。。。「まあ、そう事を荒立てずに」という会話は、日常生活でもよくある。思考停止する怖さを、吉祥寺へ感じに行こう。

気づかいルーシー
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2015/08/22 (土) ~ 2015/08/31 (月)公演終了
満足度★★★★
チャーミングなルーシー
ちょっとネタバレですが。
皮をはいじゃったりしてちょっと怖いんだけど、ルーシーはとてもチャーミング。深夜番組で活躍中の岸井ゆきのちゃんだからだ。ショートカットのかわいい髪型と水玉の衣装。くるくる回る大きな瞳、無駄のない軽快な動作……。彼女の魅力が全開の舞台で、注目女優のはつらつとした息遣いに幸せな気分になる。そういう楽しみ方もあります。
演出はノゾエ征爾さんだけあって、ジェンガあり影絵ありで飽きさせない。演奏は生で進行。音楽の人もしっかり舞台の一員となっている。
1時間半とコンパクトな構成なので、子ども連れでも楽しめます。最後にみんなで踊れます。開幕前に練習タイムもあるからご安心を。

マクベス - Paint it, Black!
流山児★事務所
座・高円寺1(東京都)
2015/08/14 (金) ~ 2015/08/23 (日)公演終了
満足度★★★
ライブ感が楽しめます
シェークスピアの四大悲劇の一つ「マクベス」は、日本でもさまざまな形で上演されてきた。流山児★事務所では、初めての海外公演を成し遂げた記念碑的代表作という。
今回の「流山児マクベス」、音楽を「見せるライブ」で行い、歌や踊りも見せ場の一つ。現代社会に物を申しながら、暴君が滅びていくさまを派手なパフォーマンスを交えて群像劇ふうに描いてみせている。
引き込まれる舞台ではあるが、若干、難解な部分もある。

ライオンキング【東京】【2023年1月22日昼公演中止】
劇団四季
四季劇場 [春](東京都)
2000/01/01 (土) ~ 2016/05/28 (土)公演終了
満足度★★★★
動物の動きがすばらしい
国内上演10000回のこの名作。お客を楽しませることに力点を置いた俳優の歌やパフォーマンス以外で注目すべき点は、動物たちの動きでしょうか。キリンやシマウマなど、動物たちの豊かな表情、動きを研究し尽くした舞台美術。そして、それを実現する舞台俳優たち。鍛え抜かれた演出はこういうところも取りこぼしがない。

サウンド・オブ・ミュージック
劇団四季
四季劇場 [秋](東京都)
2013/01/16 (水) ~ 2013/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★
子どもたちがすごい!
この名作を映画でなく舞台で見るなら、注目はやはり、7人の子どもたちの歌や演技だ。歌や踊りが素人の目から見ると、もう、この子たちは天才ではないか、特に末娘役はまだ7歳!なのだが、そこはやはり、劇団四季の舞台。完成度の高さは期待を外さない。
四季劇場「秋」で今日が初日。2010年が四季の初演で、東京では今回が2年ぶり。

おどるマンガ『鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが) 』
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2015/08/05 (水) ~ 2015/08/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
絶対楽しめます
片桐はいりが、小学校の先生役で登場。鳥や動物が歌い、踊り、子どもの頃に夢に見たような世界に連れて行く。客席の子どもも巻き込んで作り上げる仕掛け。CGを効果的に使って見せる軽妙な舞台装置がいい。
大人も子どもも一緒に笑える、楽しめる。スッキリ笑える、損しない舞台です。

時をかける少女
演劇集団キャラメルボックス
サンシャイン劇場(東京都)
2015/07/28 (火) ~ 2015/08/09 (日)公演終了
満足度★★★★
高い完成度、親しみやすい舞台
昭和に青春を送った世代には、「時をかける少女」と言えば、大林宣彦監督、原田知世主演の映画である。キャラメルボックスは動員力のある劇団だけあって、原田知世の名作を知る人も知らない人も、十分楽しめる舞台だ。劇団最年少?で主演を射止めた木村玲衣は原田知世よりずっとかわいいし、映像なら迫力を持って表現できるであろうタイムリープを、生の舞台で非常にうまく俳優たちがこなしている。32年後の話として過去と現在がうまく交錯しているところは脚本の魅力で、完成度は高いと思う。
笑いのツボを押さえ、軽快なテンポ。客席が親しみを持てる演技はこの劇団のいいところ。木村玲衣は長大なセリフに果敢に挑戦していたが、迫力という点ではまだまだこれからだろうか。

外交官〈前売券完売/当日券若干枚あり〉
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2015/07/31 (金) ~ 2015/08/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
この「昭和史」はすごい!
終戦直後、東京裁判の対策と称して、広田弘毅、松岡洋右ら名だたる外交官らがホテルに集まる。自分が下した政策決定を振り返り、国を導いた自分を反省する。日本が国際連盟を脱退したときの決議案を始め、劇中で使われる英語に通訳も翻訳もない。歴史的な背景や経緯の説明もなく、昭和史をある程度知っていないと、よく分からない舞台だ。だが、これぞ本物だ。客席に堂々とこれを提示した青年座には拍手を送りたい。実際に、観劇後の拍手の強さはかなりのものだった。
もう一つ、これを書いた野木萌葱さんという若い劇作家はすごい。「パラドックス定数」を主宰し、既に人気だというが、実在した人物にこれだけの仮想現実を語らせるとは、ものすごい昭和史だ。

竹林の人々【本日16日大千穐楽!!14時開演、見切れ席解放により当日券ございます!!】
OFFICE SHIKA
座・高円寺1(東京都)
2015/07/30 (木) ~ 2015/08/09 (日)公演終了
満足度★★★
テンポはよいのだが
劇団鹿殺しの丸尾丸一郎氏の自伝的小説がベースとか。
グッズ販売なども盛況の人気の舞台。テンポ良く舞台が進むが、笑いを取り切れていないところもあった。
圧倒的に若いお客さんに支持をされているのがとても印象的。

壊れた風景
名取事務所
小劇場B1(東京都)
2015/07/29 (水) ~ 2015/08/02 (日)公演終了
満足度★★★★
引き返せない怖さ
別役実フェスティバル参加作品。別役さんらしい不条理劇だ。
「ちょっとくらいなら」「みんなでやれば」。こうしたどこにでもあるような感覚が、ナイフのように厳しい切り口となって迫ってくる。みんな悪いことと分かっている。引き返すポイントはいくらでもあった。だが、結局誰も引き返すことはできず、集団心理の中で破滅へと突っ走ってしまう。
かつての歴史もそうだったし、今の日本も同じ空気ではないのか。
引き返す勇気といわれる。集団の中で考えなければならないのは、思考停止しないことだ。
名取事務所主催。見て損はありません。

彼らの敵
ミナモザ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2015/07/25 (土) ~ 2015/08/04 (火)公演終了
満足度★★★★
見失った何かを見つけたい
何かを見失ってどうしていいのか、黙ってしまうような世の中で、瀬戸山さんの戯曲は、その何かを探すヒントをくれるようだ。
今回の舞台は、週刊誌メディアの「売らんかな」取材をテーマにしているが、少しの想像力を働かせれば、どんな仕事、生活でも人を傷つけなくてすむというささやかな「教訓」をさりげなく指し示してくれている。
そう、少しの想像力。それが僕たちが今、失っている何かなのではないか。

トロイラスとクレシダ
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2015/07/15 (水) ~ 2015/08/02 (日)公演終了

障子の国のティンカーベル
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2015/07/12 (日) ~ 2015/07/20 (月)公演終了
満足度★★★★
小悪魔ティンカーベル
毬谷友子の一人舞台。野田秀樹の若きころの作品といい、おとぎ話が現実感を持って描かれる。一人で何役もこなす毬谷の熱演、元タカラジェンヌの歌のうまさ。障子をうまく使った演出。とてもよかったが、スタンディングオベーションというのはどうかな。

イヌジニ
雀組ホエールズ
OFF OFFシアター(東京都)
2015/07/15 (水) ~ 2015/07/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
おもしろい!
動物殺処分というテーマ設定に目新しさはないが、面白いし、泣ける。隣の女の子たちもハンカチ握りしめてました。舞台に引き込まれる、これが基本です。犬猫たちのキャラクター設定もとてもユニーク。それによる笑いも十分に取れている。
小中学校で公演したらどうだろうか。教育効果抜群だと思うけど。